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「 《Working girls》」(2007/01/07 (日) 19:50:55) の最新版変更点
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<p>《Working girls》<br>
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「どぉしたのぉ、真紅ぅ?」<br>
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これが全ての発端だった。<br>
年の瀬も押し迫って、冬休みを目前に控えた、最後のHRが行われている時のこと。<br>
通信簿が配られ、騒がしい教室で、机に頬杖をついてる暗い顔の真紅を見た私は、<br>
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「あらぁ、大して可愛くもない貴女の沈んだ顔って、見るに耐えないわねぇ。<br>
さては……散々な成績だったから、首を吊りたくなったとかぁ?」<br>
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例によって、幼なじみで小生意気な金髪の娘をからかう。<br>
普段の彼女ならば、すぐに噛み付いてくる筈だけれど――<br>
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真紅は、顔を向けるどころか、チラッと目を動かしもしなかった。<br>
拍子抜けというか、なんとなくシカトされたみたいで癪に障る。<br>
この水銀燈さんを小馬鹿にするなんて、いい度胸してるじゃないの。<br>
背後に回り込んで頸を絞めると、真紅は呻き声を放って、やっと反応を見せた。<br>
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「なにするのよ、水銀燈っ!」<br>
「だぁってぇ~、真紅が無視するんだものぉ」<br>
「……それは……ごめんなさい」<br>
「? 随分と、しおらしいじゃないの。な~んか気持ち悪いわねぇ。<br>
ははぁ~ん。さては、彼とケンカでもしたってワケぇ?」<br>
「……別に。ジュンは関係ないわ」<br>
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成績のことでも、彼氏のことでもない。と、すると――?<br>
いくら真紅が紅茶ジャンキーだからって、朝の紅茶を飲まなかった程度では、<br>
こうも落ち込まない筈だ。<br></p>
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気丈な彼女を、こうも失意の淵に追いやるほどだから、つまらない原因とも考え難い。<br>
もしかして、家庭の問題かしら? 私は腕組みして、頸をひねった。<br>
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すると、真紅は苛立たしげに私の肩を掴み、ぐいと引き寄せ、ひそひそと耳打ちしてきた。<br>
彼女の吐息が耳元の髪を揺らして、ちょっと……くすぐったい。<br>
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「……あぁん♪」<br>
「ちょっ! ヘンな声ださないでちょうだい。まじめに聞きなさいよ!」<br>
「だぁってぇ」<br>
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私の弁解など聞く耳持たずといった感じで、真紅は言葉を続けた。<br>
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「実は、私――――インターネットで、とんでもない失敗をしてしまったの」<br>
「ふぅん? あ……さては、ワンクリック詐欺に遭ったのね。<br>
真紅ってば、ホントにおばかさぁん♪」<br>
「違うわ。そんなんじゃないのよ」<br>
「ん? じゃあ、調子こいたコト書いたブログが、炎上したとか?」<br>
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真紅は唇を引き結んだまま、ただただ頸を横に振るばかり。<br>
じゃあ、一体なんだというのだろう。<br>
訝る私の前で、真紅はこめかみに指を当てて、悩ましげに眉を寄せた。<br>
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「水銀燈、貴女……煮chって知ってる?」<br>
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もちろん、知っている。私も、しょっちゅう利用しているもの。<br>
誰でも気軽に書き込めることが売りの、大規模なインターネット掲示板だ。<br>
名前の由来は、参加者の意見を鍋の具に例えて『ごった煮』にする場所ってコトだとか。<br>
話の流れからすると、どうやら、真紅は煮chで失敗したらしい。<br>
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<p>でも、どんな失敗をしたのかしらん?<br>
私は「常識でしょ」と頷き、顎をしゃくって続きを促した。<br>
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「……じゃあ、お金が掛かるってコトも?」<br>
「はぁあ? それ、本気で言ってるのぉ」<br>
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基本、煮chは無料。課金制度があるなんて、聞いたこともない。<br>
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「誰に吹き込まれたんだか知らないけど、そんなデマを信じるなんてね。<br>
貴女って、私が思ってた以上のおマヌケ――」<br>
「金糸雀に教えてもらったのよ。あの子、コンピュータ関連に詳しいでしょう。<br>
証拠も見せられたわ。だから、私も驚いたし、焦っているの。<br>
ウソだと思うなら、自宅のPCでこの操作をしてみなさい」<br>
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言って、真紅は私にメモ書きを突き出した。<br>
ざっと走り読んだ限り、大して難しい手順でもない。<br>
まあ、百聞は一見にしかずと言うし、試してみるのも一興かもね。<br>
どうにも釈然としないまま、私は紙片を受け取った。<br>
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HRが終わるや、脇目もふらず自宅に戻り、真紅に教えられたとおりの手順を踏んだ。<br>
その結果、煮chの名前欄に表示された数字は――<br>
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【586920円37銭】<br>
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私は両手で瞼をゴシゴシこすって、もう一度、まじまじとディスプレイを覗き込んだ。<br>
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<p> 「……ウソでしょぉ? なによ、これぇ」<br>
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いくら見直しても、結果は同じ。細かい金額が、リアルすぎて怖い。<br>
まさか、ホントに有料だったの? 信じられない。信じたくない。<br>
とにかく、真紅に電話しなきゃ。<br>
私は携帯電話で、彼女に連絡を入れた。<br>
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「あ、もしもし、真紅ぅ? 出た! 確かに金額が表示されたわよっ!」<br>
『言ったとおりでしょう。私の方でも、もう一度、金糸雀に問い合わせたの。<br>
そうしたら、スレ立てや書き込みをする毎に課金されてるんですって』<br>
「あわわわ……どうしよう。私、そんなこと知らなかったから――<br>
調子に乗って【ヤク中姉ちゃんが…】スレ立てて1000まで全レスしてたし、<br>
【H・O・T】スレ立てて、バシバシAA貼りまくってたわよ」<br>
『いやだわ。あのヤクルト中毒スレの>>1って、貴女だったのね。<br>
ところで【H・O・T】って、なんなの?』<br>
「えっと……HYPER OCHINCHIN TIMEの略なんだけどぉ」<br>
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電話の向こうで、ブフォーっ! と液体を噴き出す音が聞こえた。<br>
多分、食後の優雅なティータイム真っ最中だったのね。悪いコトしちゃった。<br>
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「もしもーし、真紅? 聞いてるぅ?」<br>
『あああ! ディスプレイとキーボードが紅茶まみれに……って、なんなの?』<br>
「貴女の方は、いくらって表示されたの」<br>
『……82633円よ。貴女は?』<br>
「586920円37銭ですって。あうぅ…………どうしたらいいの?<br>
こんなことが、お父様に知れたら叱られちゃうわ、私ぃ」<br>
『それは、私も同じよ。こうなったら、私たちが選ぶべき道は、ふたつ。<br>
両親に撲たれるのを覚悟で泣きつくか、請求がくるまでに、バイトで稼ぐしかないわ』<br>
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<p>確かに、真紅の言うとおりだ。<br>
でも、両親に泣きつくというのは、私のプライドが許さない。<br>
自分の不始末だもの。親に尻拭いをしてもらうほど、私は子供じゃないわ。<br>
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「いいわ、真紅。私と一緒に、バイトしましょう!」<br>
『簡単に言うわね。アテはあるのかしら?』<br>
「巴が働き手を探してたのよ。あの子の親戚って神社だから、初詣の時は毎年、<br>
巫女のバイトが必要なんですって。今から電話すれば、まだ間に合うかも」<br>
『本当? だったら、お願い。巴に連絡してみてちょうだい』<br>
「任せておいて。話が決まったら、また電話するから……ばいばぁい」<br>
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真紅との通話を切って、私は震える手を必死に抑えながら、友人の巴に電話をかけた。<br>
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――そして、私は真紅とともに、柏葉神社で巫女のバイトをすることになった。<br>
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~ ~ ~<br>
その夜のこと。<br>
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「もしもし、カナちゃん? ありがとう、まんまと人足をゲットできちゃった♪」<br>
『くっくっくぅ~。カナの知略を以てすれば、この程度のこと楽勝かしら。<br>
それでね、巴ちゃん……報酬の方だけど――』<br>
「用意してあるわ。ヨード卵『光』一年分でいいのよね」<br>
『モチロン♪ あんたのたーめでしょ、かしらー♪』<br>
「うふふふ。懐かしいね、そのコマーシャルソング」<br>
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二人の策略だったことを、真紅と水銀燈は知る由もない。</p>