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あなたを感じていたい」(2020/10/07 (水) 20:43:25) の最新版変更点

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「とにかく、翠星石は僕がいない間に無茶苦茶するなよ。僕がいなくなったとたん<br> にせいせいして、いろいろやんちゃしだすからな……」<br>  ジュンはこれでもかというぐらいに私に釘を差す。<br> 「うるさすぎるです、チビ人間」<br>  本当にうるさい。<br>  そこまで言わなくても分かっているですよ。<br> <br>  ――そんなに……しゃべらなくも……。<br> <br> 「また雛苺にいらないちょっかい掛けるなよ。雛苺から泣きの電話が入るのはうん<br> ざりするのだからな」<br> 「いちいちうるせえですよ!翠星石はそこまでひでえ奴じゃねえです」<br>  ジュンのさらなる言葉に私は顔を膨らませた。<br> <br> 「ははは、本当に翠星石は可愛い奴だな」<br>  そんな私の反応を見て吹き出すジュン。<br> 「ジ、ジュンこそちょっかいかけてるじゃねえですか。だったらこうしてやるです」<br>  私はそう言ってジュンの首元をくすぐる。<br> <br> 「ち、ちょっとやめてくれよ、ははは」<br> 「もっとやってやるですぅ」<br>  ジュンが笑いながら、私のくすぐりの手から逃れようと体をよじらせる。<br>  それを見て笑ってしまう。<br> <br>  ――ジュンがそんなにしゃべらなくても……翠星石は笑っていられるですから。<br> <br>  いつも一緒にいるとよくやっていた光景。<br>  でも……この後は……。<br> <br>  やがて、そうだと思わせるように……遠くから駅に近づいてくる列車の音が聞こ<br> えてきた。<br>  私たち2人以外誰もいない、駅のホーム。<br> <br>  ジュンは今日、都会に帰る。そして忙しい日々に終われることになるのだろう。<br>  それまでのわずかな間……せめてジュンと一緒にいたい……。<br> <br>  ホームに冬の寒い風が吹き込んできた。肌寒い。<br> <br> 「じゃあ、翠星石も元気でな。体に気を付けろよ」<br> 「そんなことお前に言われなくても分かっている……」<br> <br>  私がそこまで言い返しかけたとき……ジュンは私の体をいきなり抱いた。<br>  そして、私の唇にそっと口づけをした。<br> <br>  ――!!<br>  私は何も言えず、ただ体を震わせる。<br>  寒さで震える私の唇に、ジュンのぬくもりが伝わってくる。<br> <br> <br>  このままずっといたいです――でも、それはできないです……。<br> <br>  今こそ、一緒にいるけどこの先どうなるか分からない。<br>  ひょっとしたら……もう会えないかもです。<br>  考えすぎとは思うですけど……でも!<br> <br>  せめて、せめて……。<br> <br>  私はここで言いたい事を口にしようとした……が。<br> <br>  列車がホームに滑り込んできて、ドアがゆっくりと開いた。<br> <br> 「じゃあ、帰って来れるのはいつになるか分からないけど……元気でな」<br>  ジュンは私の体から手を離すと、そのまま列車に乗り込む。<br>  笑顔で私に手を振りながら。<br> <br> 「あ、あばよです!ジュンこそ野たれ死ぬんじゃねえです。じゃあな、ですぅ」<br>  私はジュンにあかんべえをした。<br> 「ははは。そんな翠星石だったら大丈夫か。じゃあな」<br>  ジュンがそう言ったとき――列車のドアは閉まった。そしてゆっくりと列車は<br> 動き出してホームを去っていく。<br>  私はただ……手を振ってジュンの乗った列車を見送ることしか出来なかった。<br> <br>  やがて、列車は見えなくなり、ホームには私だけが取り残された。<br> <br>  ――行っちまったですか……。<br> <br>  私は何も言わず、駅を後にした。<br> <br>  街中はクリスマスが近いという事もあって、街路樹にイルミネーションやキャ<br> ンドルの飾り付けがされていた。<br>  夕方遅くともいうこともあり、周囲が暗くなりだすと同時に一斉に点灯する。<br> <br>  やわらかいキャンドルの光が周囲を包み込む。<br>  その中をいろいろな人がせわしそうに行き来する。<br> <br>  仕事や買い物を終えて家路につく者、これから一緒に食事に行こうとはしゃい<br> でいるカップル……。<br> <br>  そんな中私は一人ぼっちで、家へと力なく歩く。<br>  思わず……ため息をつく。<br>  かなりの寒さのせいで、その息が白くなっていた。<br> <br>  ジュンとは幼馴染みで、いつもからかっては楽しんでいた。<br>  その度にジュンはムキになって私をどやしたりもしていたが……。<br> <br>  好きだった。<br>  それはジュンも同じで……やがて付き合うようになった。<br>  といっても、好きだなんて口にしたことはなかったけど。<br> <br>  でも……ジュンのことが好き。一緒にいたい。<br>  そんな気持ちが私の心の中にはあった。<br> <br>  ジュンの仕事の都合で遠くはなれた都会に彼は引っ越してしまい、離れ離れに<br> なる生活が2年前から続いている。1週間前に休暇が取れたという事で、この街<br> に帰ってきて、そのときは嬉しかったのだけど。<br> <br>  だけど……やはり別れた後は……切なくて。<br> <br>  家に帰った。妹の蒼星石はまだ家には帰っていない。<br>  私は台所に行くと、コーヒーを淹れて、そのまま居間まで持っていく。<br>  暖房をつけて、そのまま暗くなった窓の外をぼんやりと眺めながら、コーヒー<br> をちびりちびりと啜る。<br> <br>  ジュンは多分、大丈夫だと思うけど……。<br>  この先、何があるかなんて想像が出来ない。<br> <br>  都会の中で流されて……このまま会えなくなってしまうのかもしれない。<br>  そんなのは、いやです!<br> <br>  できるのならすぐにでもジュンを追っていきたい。<br>  でも、私には妹もいるし……放っぽり出して行く訳にはいかない。<br> <br>  せめて……ジュンは元気でいて欲しい。<br>  忙しい都会の中でも、それに呑まれることなく力強くやって欲しい。<br> <br>  そして、再びあの顔を見せて……ずっと一緒にすごしたいです。<br> <br>  ふと窓を見ると……雪が降っていた。<br>  そして、私は飲みかけたコーヒーをテーブルに静かに置いて……思った。<br> <br>  どうして……さっき……素直に言えなかったですか……。<br> <br>  翠星石はずっとジュンを待っているですから……と。<br> <br>  素直になれない自分。不器用な自分。<br>  そんな自分が時々嫌になってくる。<br> <br>  でも、待つしかない。ジュンはきっと帰ってくるのだから。<br>  私はただ、それを信じてずっと待とう。<br> <br>  そして、今度こそ素直になって、好きだと言おう。<br>  <br>  雪は静かにただ……やさしく降り続いていた。<br> <br>
<p>「とにかく、翠星石は僕がいない間に無茶苦茶するなよ。僕がいなくなったとたん<br /> にせいせいして、いろいろやんちゃしだすからな……」<br />  ジュンはこれでもかというぐらいに私に釘を差す。<br /> 「うるさすぎるです、チビ人間」<br />  本当にうるさい。<br />  そこまで言わなくても分かっているですよ。<br /> <br />  ――そんなに……しゃべらなくも……。<br /> <br /> 「また雛苺にいらないちょっかい掛けるなよ。雛苺から泣きの電話が入るのはうん<br /> ざりするのだからな」<br /> 「いちいちうるせえですよ!翠星石はそこまでひでえ奴じゃねえです」<br />  ジュンのさらなる言葉に私は顔を膨らませた。<br /> <br /> 「ははは、本当に翠星石は可愛い奴だな」<br />  そんな私の反応を見て吹き出すジュン。<br /> 「ジ、ジュンこそちょっかいかけてるじゃねえですか。だったらこうしてやるです」<br />  私はそう言ってジュンの首元をくすぐる。<br /> <br /> 「ち、ちょっとやめてくれよ、ははは」<br /> 「もっとやってやるですぅ」<br />  ジュンが笑いながら、私のくすぐりの手から逃れようと体をよじらせる。<br />  それを見て笑ってしまう。<br /> <br />  ――ジュンがそんなにしゃべらなくても……翠星石は笑っていられるですから。<br /> <br />  いつも一緒にいるとよくやっていた光景。<br />  でも……この後は……。<br /> <br />  やがて、そうだと思わせるように……遠くから駅に近づいてくる列車の音が聞こ<br /> えてきた。<br />  私たち2人以外誰もいない、駅のホーム。<br /> <br />  ジュンは今日、都会に帰る。そして忙しい日々に終われることになるのだろう。<br />  それまでのわずかな間……せめてジュンと一緒にいたい……。<br /> <br />  ホームに冬の寒い風が吹き込んできた。肌寒い。<br /> <br /> 「じゃあ、翠星石も元気でな。体に気を付けろよ」<br /> 「そんなことお前に言われなくても分かっている……」<br /> <br />  私がそこまで言い返しかけたとき……ジュンは私の体をいきなり抱いた。<br />  そして、私の唇にそっと口づけをした。<br /> <br />  ――!!<br />  私は何も言えず、ただ体を震わせる。<br />  寒さで震える私の唇に、ジュンのぬくもりが伝わってくる。<br /> <br /> <br />  このままずっといたいです――でも、それはできないです……。<br /> <br />  今こそ、一緒にいるけどこの先どうなるか分からない。<br />  ひょっとしたら……もう会えないかもです。<br />  考えすぎとは思うですけど……でも!<br /> <br />  せめて、せめて……。<br /> <br />  私はここで言いたい事を口にしようとした……が。<br /> <br />  列車がホームに滑り込んできて、ドアがゆっくりと開いた。<br /> <br /> 「じゃあ、帰って来れるのはいつになるか分からないけど……元気でな」<br />  ジュンは私の体から手を離すと、そのまま列車に乗り込む。<br />  笑顔で私に手を振りながら。<br /> <br /> 「あ、あばよです!ジュンこそ野たれ死ぬんじゃねえです。じゃあな、ですぅ」<br />  私はジュンにあかんべえをした。<br /> 「ははは。そんな翠星石だったら大丈夫か。じゃあな」<br />  ジュンがそう言ったとき――列車のドアは閉まった。そしてゆっくりと列車は<br /> 動き出してホームを去っていく。<br />  私はただ……手を振ってジュンの乗った列車を見送ることしか出来なかった。<br /> <br />  やがて、列車は見えなくなり、ホームには私だけが取り残された。<br /> <br />  ――行っちまったですか……。<br /> <br />  私は何も言わず、駅を後にした。<br /> <br />  街中はクリスマスが近いという事もあって、街路樹にイルミネーションやキャ<br /> ンドルの飾り付けがされていた。<br />  夕方遅くともいうこともあり、周囲が暗くなりだすと同時に一斉に点灯する。<br /> <br />  やわらかいキャンドルの光が周囲を包み込む。<br />  その中をいろいろな人がせわしそうに行き来する。<br /> <br />  仕事や買い物を終えて家路につく者、これから一緒に食事に行こうとはしゃい<br /> でいるカップル……。<br /> <br />  そんな中私は一人ぼっちで、家へと力なく歩く。<br />  思わず……ため息をつく。<br />  かなりの寒さのせいで、その息が白くなっていた。<br /> <br />  ジュンとは幼馴染みで、いつもからかっては楽しんでいた。<br />  その度にジュンはムキになって私をどやしたりもしていたが……。<br /> <br />  好きだった。<br />  それはジュンも同じで……やがて付き合うようになった。<br />  といっても、好きだなんて口にしたことはなかったけど。<br /> <br />  でも……ジュンのことが好き。一緒にいたい。<br />  そんな気持ちが私の心の中にはあった。<br /> <br />  ジュンの仕事の都合で遠くはなれた都会に彼は引っ越してしまい、離れ離れに<br /> なる生活が2年前から続いている。1週間前に休暇が取れたという事で、この街<br /> に帰ってきて、そのときは嬉しかったのだけど。<br /> <br />  だけど……やはり別れた後は……切なくて。<br /> <br />  家に帰った。妹の蒼星石はまだ家には帰っていない。<br />  私は台所に行くと、コーヒーを淹れて、そのまま居間まで持っていく。<br />  暖房をつけて、そのまま暗くなった窓の外をぼんやりと眺めながら、コーヒー<br /> をちびりちびりと啜る。<br /> <br />  ジュンは多分、大丈夫だと思うけど……。<br />  この先、何があるかなんて想像が出来ない。<br /> <br />  都会の中で流されて……このまま会えなくなってしまうのかもしれない。<br />  そんなのは、いやです!<br /> <br />  できるのならすぐにでもジュンを追っていきたい。<br />  でも、私には妹もいるし……放っぽり出して行く訳にはいかない。<br /> <br />  せめて……ジュンは元気でいて欲しい。<br />  忙しい都会の中でも、それに呑まれることなく力強くやって欲しい。<br /> <br />  そして、再びあの顔を見せて……ずっと一緒にすごしたいです。<br /> <br />  ふと窓を見ると……雪が降っていた。<br />  そして、私は飲みかけたコーヒーをテーブルに静かに置いて……思った。<br /> <br />  どうして……さっき……素直に言えなかったですか……。<br /> <br />  翠星石はずっとジュンを待っているですから……と。<br /> <br />  素直になれない自分。不器用な自分。<br />  そんな自分が時々嫌になってくる。<br /> <br />  でも、待つしかない。ジュンはきっと帰ってくるのだから。<br />  私はただ、それを信じてずっと待とう。<br /> <br />  そして、今度こそ素直になって、好きだと言おう。<br />  <br />  雪は静かにただ……やさしく降り続いていた。<br />  </p>

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