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「十話「薔薇水晶」」(2006/10/31 (火) 22:10:45) の最新版変更点
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短編「図書館」シリーズ十話「薔薇水晶」<br>
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突然だが、私、真紅は図書委員だ。<br>
元々本が好きで、中一のときに初めて図書委員になり…<br>
気が付けば図書室、そして図書委員の常連となり早3年。<br>
その間に図書室仲間ともいうべく、同じく本の好きな友達連も出来て、<br>
図書館をよく利用する人の顔もかなり覚えた。<br>
これは、そんな私の図書室でのある日の話。<br>
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夏休みも近いある日の放課後、一人の友人が貸し出しのカウンターに現れた。<br>
薄紫のロングヘアに、眼科でもらうような左眼を隠す白い眼帯。薔薇水晶だ。<br>
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薔「真紅……これ」<br>
紅「あら、珍しいわね。あなたが本を借りるなんて」<br>
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彼女は何時も図書室には来るものの、本を借りる事はめったに無い。<br>
なぜならば、彼女のお気に入りは写真集。大半が禁帯出になっている本なのだ。<br>
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薔「うん……お勧め、された」<br>
紅「へえ、そうなの」<br>
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渡された本を見てみれば、それは一冊の「絵本」。<br>
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紅「珍しいものを借りるわね。絵本なんて、図書室で簡単に読み終えてしまえるものでしょうに」<br>
薔「読んだ。けど、家でゆっくり眺めたい気分」<br>
紅「そう」<br>
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写真集をじっくりと「読むように眺める」のが好きな彼女であるからして。<br>
私は、その答えにあまり驚かなかった。<br>
受け取ったカードを見て台帳に記入するために、あらためてタイトルを見なおす。<br>
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紅「あら。「しろいうさぎとくろいうさぎ」……懐かしいわね」<br>
薔「読んだ?」<br>
紅「ええ、随分昔に。幼稚園の頃かしら。もう内容もほとんど覚えてないけれど」<br>
薔「そう」<br>
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そっけなくそう答えて、薔薇水晶はあらためて手にもった絵本を見下ろした。<br>
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次回「階段」<br>
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<おまけ><br>
翌日。<br>
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薔「真紅」<br>
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ぽふっ。頭の上に何かを載せられた気配。<br>
振り向くと、そこにはかすかに頬を赤らめた薔薇水晶と、その頭の上に…黒くてふわふわした何か。<br>
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紅「……薔薇水晶?」<br>
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一体何を、と、それは何、という二つの疑問をこめて私は彼女に問い掛ける。<br>
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薔「うん。真紅、かわいい」<br>
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しかし、その質問はあっけなくも無視されて。そのまま数十秒、無言の時が流れていく。<br>
その静寂を破ったのは<br>
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銀「あらぁ、二人してかわいいわねぇ。これなんてウサ耳天国ぅ?」<br>
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笑いをこらえるように私を見下ろす、いつも不真面目きわまりないこの先輩。<br>
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紅「先輩!これは薔薇水晶が……」<br>
思わず恥ずかしくなって反論しようとしたところで、先輩の視線が他所へと向かう。<br>
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銀「あらぁ。これって、「しろいうさぎとくろいうさぎ」ねえ。懐かしいわぁ」<br>
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言ったところでハッと何かに気づいた仕草。<br>
見下ろしていた水銀燈先輩の顔がギギギ、と上がって薔薇水晶と向き合った。<br>
互いにじいっと見つめあう。不敵な笑顔の先輩と、ポーカーフェイスの薔薇水晶。<br>
バチンと火花が散った気がする。<br>
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銀「……そういうこと、ねぇ?」<br>
薔「……負けない」<br>
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椅子に座った私の頭上でかわされた会話。一体何の話なのやら。<br>
ため息をついて、私はそっと頭上に手を伸ばす。外れたのは白いヘアバンド。<br>
ウサギの耳を模した飾りがついている。<br>
未だ動かぬ二人を他所に、私はそれを机に置いた。<br>
そして再び赤川次郎を読み始めたのである。<br>