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翠星石が怒った日」(2006/10/01 (日) 23:44:23) の最新版変更点

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<p>翠星石が怒った日(翠星石が変わった日の続き)<br> <br> 「うわーい!海なのー早く泳ぐのー!!」<br> 「雛苺、走るのはやめなさい!…全くはしたないわ」<br> 「そう言いながら一緒に走ってるのはどこの誰ですぅ?」<br> <br> 日差しが痛く感じる今日、僕は走っていく三人を微笑ましく見る。<br> 発案者は誰だったか、気付けば真紅、雛苺、…それに翠星石と海に来ていた。<br> <br> 「チビ人間、何ボケッとしてるですか!早く来るですぅ!」<br> 「…だったら、少しは荷物を持ってくれませんか、お嬢さん方?」<br> <br> そう、お約束というか当たり前というか、僕は荷物持ちをさせられていた。<br> 全員分のかばんとシートやらで、かなりの重さとなっていた。<br> まぁ…、これがないとしても、彼女らに追いつける自信はないけど。<br> <br> 「ジュン、ありがとなのー!お礼にうにゅーあげるのー!」<br> 「貴方は私の下僕でしょう?荷物を持つのは当たり前なのだわ」<br> 「全く、こんぐらいの荷物で根を上げるなんて情けねーですぅ」<br> <br> やっとで追いついた僕に、三者三様の声がかけられる。<br> 唯一お礼を言った雛苺だけにどういたしまして、と言う。<br> …お礼はいいよ、うん。海に来てそれは食べたくない。<br> <br> ----------<br> <br> 海からそれなりに離れた場所にシートを広げ、四隅にかばんを置く。<br> そこに僕、真紅、翠星石が座る。雛苺は浮き輪をふくらませている。<br> 僕は泳ぐ気はないので横になろうとすると、目の前に水筒が現れた。<br> <br> 「ジュン、紅茶を淹れて頂戴」<br> <br> 下僕にそこまでさせますか。<br> 断っても無駄なので、素直に水筒の中身をふたでもあるコップに注ぐ。<br> 湯気が出ているから魔法瓶か、と思いながらそれを真紅に渡す。<br> <br> 「ありがとう。いい子ね、ジュン」<br> <br> そう言って僕に笑い、優雅に紅茶を飲み始める。<br> もしかしてそれを言うために?と自惚れてみようか。<br> <br> 「10℃温いわ!」<br> 「仕方ないだろ!?」<br> <br> やっぱりそんなことは無いな。<br> 漫才みたいな会話をしつつ、僕はそう思った。<br> <br> ----------<br> <br> そんな二人の様子をじーっと見ている一人の少女。<br> 実はさっきから気付いていたが、あえて無視していた。<br> しかし、我慢し切れなくなったのか、いきなり怒鳴ってきた。<br> <br> 「チビ人間!!」<br> 「っ!…そんな大声で呼ばなくても聞こえるよ。で、何?」<br> 「え、あー…そのぅ…」<br> <br> 呼んでおきながら、急に考え込む翠星石。<br> そのまま十秒ほど待つと、何かを思いついたのか顔を上げた。<br> <br> 「翠星石も紅茶が飲みたくなったです。淹れやがれですぅ」<br> 「…なんでまた急に。紅茶好きだったっけ?」<br> 「急に飲みたくなっただけです。つべこべ言わず淹れるですぅ!」<br> 「それはいいけど…、この紅茶は真紅のだし」<br> 「私は構わないわ」<br> <br> 間髪入れずに返ってきた回答。<br> 真紅が自分の紅茶をあげるなんて珍しい。<br> そんなことを思いつつ、紅茶を汲もうとしたところで気付く。<br> <br> 「…でも、コップはこれしか無いわよ?どうやって汲む気?」<br> 「ガーン!!ですぅ…」<br> <br> 結局、翠星石が紅茶を飲むことは出来なかった。<br> <br> ----------<br> <br> 「そろそろ私も泳ぎに行ってくるわ」<br> <br> そう言って海の方へ歩いていく真紅。<br> 既に雛苺も泳いでいるし、一緒に遊ぶんだろう。<br> 横にはまだ翠星石がいるが、僕はお構い無しに横になる。<br> <br> 「ジュンは泳がないのですか?」<br> <br> 翠星石が話しかけてくる。<br> 今日、初めて性悪じゃない話し方をされた気がする。<br> しかし、わかってて聞くあたり、やっぱり性悪なのだろう。<br> <br> 「僕が泳げないの知ってて聞いてるだろう?」<br> 「当たり前ですぅ。嫌味で言ってるですからね、ヒッヒッヒ…」<br> 「その魔女みたいな笑い方はやめてくれ、全く…。<br>  まぁ、荷物を見てないと駄目だし、一人は残ってた方がいいだろ?」<br> <br> そう言って、海に行けと手をシッシッと動かす。<br> しかし、翠星石はそれを無視し、僕と同じように横になる。<br> <br> 「一人だと死んじゃいそうですからね。一緒にいてやるです」<br> 「…はいはい、ありがとうごぜーます」<br> <br> 海に来てただ寝てるだけの二人。でも、悪くない。<br> <br> ----------<br> <br> 子供が騒ぐ声、男がナンパする声、様々な声が聞こえてくる。<br> そんな声の中、近くを通ったお年寄りの声が聞こえてきた。<br> <br> 「あらあら、お似合いのカップルねぇ…」<br> <br> 一瞬で顔が赤くなる。<br> 試しに横を向いてみると、それと同時に顔を背けられた。<br> また自惚れる気はないが、多分顔は同じ色をしてるのだろう。<br> <br> 「…カップルですかぁ」<br> 「…男女二人で並んで寝てるし、仕方ないよな」<br> <br> 苦笑をしつつ、適当な言葉でごまかす。<br> ちょっと前までの僕なら、ありえねぇとか言いそうだが、<br> つい最近の告白未遂?のせいで正直意識してしまった。<br> <br> 「全く、うちらがカップルなら真紅や雛苺はどうなるんですか…」<br> 「うーん…、雛苺は子供って感じかなぁ」<br> 「ぶっ!そういう意味じゃねえですよ!!<br>  …まぁ、チビ苺は子供って感じはするですけどぉ…」<br> 「じゃあ、真紅は?」<br> 「真紅?…真紅は姑ですかねぇ、ヒッヒッヒ!」<br> 「あはは…、そりゃいいな。ぴったりだ」<br> 「誰が姑ですって?」<br> 「「ひっ!!」」<br> <br> 二人して叫び、上半身を起こして後ろを振り向く。<br> しかし、眼に映ったのはすごい速度で迫る金色の鞭だった。<br> <br> ----------<br> <br> 「痛いですぅ…」<br> 「自業自得よ」<br> <br> 真紅に睨み付けられながら、頬を抑える僕と翠星石。<br> 確かに調子に乗ってた僕らが悪いが、この威力は反則だろう。<br> <br> 「泳ぐのも疲れたから、辺りを歩いていたのよ。<br>  でも何も無かったから帰ってきたら…、全く失礼なのだわ」<br> 「ごめん…。でも真紅、どこから聞いていたんだ?」<br> 「『真紅は姑ですかね』あたりからよ。それがどうかしたの?」<br> 「いや…」<br> <br> それはグッドタイミングだったのか、バッドタイミングだったのか。<br> とにかく、その前の会話が聞かれなかっただけ良しとしよう。<br> それより…、<br> <br> 「なぁ真紅。雛苺はどうしたんだ?一緒に泳いでたんじゃ…」<br> 「雛苺?それなら、まださっきの場所で泳いでいるわ。<br>  確か…、あっちの方の海にいるは…ず…?」<br> <br> 急に歯切れが悪くなる真紅。<br> その指が指す海を見る。<br> 確かに「あった」。<br> <br> 雛苺の浮き輪だけが。<br> <br> <br> 気付いたら、僕は海へ走り出していた。<br> <br> 浮き輪だけ置いてどこか歩いているのかもしれない。<br> あるいは雛苺の浮き輪に似た浮き輪なのかもしれない。<br> でも、今の僕にはそんな楽観的な思考は出来なかった。<br> <br> 海に潜ると目を開けて、必死で雛苺を探す。…いた。<br> 少し先に、まるで人形のように沈んでいく雛苺が。<br> 僕はがむしゃらに泳ぎ、なんとか雛苺の腕を掴む。<br> <br> あとは上にあがれば…、ここで僕の意識は途切れた。<br> <br> <br> <br> 「ジュンッ!!」<br> <br> 自分の名前を呼ぶ声に気付き、僕は目を開ける。<br> 目の前には、涙目で僕を見る翠星石がいた。<br> 痛む頭を押さえ、上半身を起こすと抱きついてきた。<br> <br> 「ジュン…、良かった…良かったですぅ…!」<br> 「翠星石…?あれ、なんで…僕は確か…」<br> <br> 確か雛苺を探しに行って、見つけて、掴まえて…<br> <br> 「あら、目覚めたのね。ジュン」<br> 「うぃー。良かったのー!」<br> <br> 横を見ると真紅と雛苺がいた。<br> <br> 「泳げないのに助けに行って…、逆に助けられてどうするのよ」<br> 「うー、ジュンを責めないでなのー!ジュンはヒナのせいで…」<br> <br> 雛苺の声が頭に響く。<br> でも、おかげで大体状況は掴めた。<br> 助けに行った僕も溺れて、ライフセーバーかなんかに救助された。<br> そして、先に雛苺が目を覚ましたが、僕はついさっきまで眠っていた。<br> そんな感じに状況分析をしていると、翠星石がうずめていた顔を上げた。<br> <br> 「真紅の言うとおりですぅ…。なんでこんな無茶したんですかぁ…」<br> 「翠星石…」<br> <br> 翠星石は、僕の顔を見ながら大粒の涙を流し続ける。<br> <br> 「…友達を、雛苺を失いたくなかったから。…それに」<br> 「…それに?」<br> 「雛苺が亡くなったら…、真紅やお前が泣いちゃうだろ…?」<br> 「…!!」<br> <br> 「あの時…、僕が馬鹿だったから翠星石を泣かした…。<br>  すごい後悔したんだ。だから、二度と泣かせるもんかって…」<br> 「ジュン…」<br> 「でも…、結局泣かしちゃったな…。ごめんな、翠星石」<br> 「うぅ…、やっぱりジュンは大馬鹿者ですぅ…。<br>  そんなこと言われたら、泣くに泣けなくなるじゃないですかぁ…」<br> <br> そう言って、頑張って笑おうとする翠星石。<br> その気持ちが嬉しくて、翠星石に微笑む僕。<br> まるでカップルが作る雰囲気にのまれたのか、翠星石が目を閉じて顔を近づける。<br> <br> そんな翠星石を、僕は肩を掴んで止めた。<br> <br> <br> 「もう意識はあるんだから、人工呼吸は必要ないぞ?」<br> <br> <br> ピシィッ!!<br> <br> 後ろめたさを感じて言った一言によって、雰囲気が音を立てて壊れた。<br> 翠星石は顔を離すと、すっと立ち上がって片足を高く上げて、<br> <br> 「こ、こ、この馬鹿アホチビ人間ッ!!!」<br> 「グフォッ!!!」<br> <br> 僕のお腹に振り下ろした。<br> まだ残っていたのか、口から水が溢れた。<br> <br> 「ちょ、ちょっと翠星石!さすがにやりすぎよっ!!」<br> 珍しく慌てている真紅。<br> 「そんなデリカシーのないチビはほっとけですぅ!!」<br> さっさと帰ろうとする翠星石。<br> 「うぃー!!まだ、ジュンにお礼言ってないのー!!」<br> その翠星石に引きずられる雛苺。<br> <br> <br> そんな三者三様の声を聞きながら、僕の意識は深い海へと沈んでいった。</p>
<p>翠星石が怒った日(翠星石が変わった日の続き)<br> <br> 「うわーい!海なのー早く泳ぐのー!!」<br> 「雛苺、走るのはやめなさい!…全くはしたないわ」<br> 「そう言いながら一緒に走ってるのはどこの誰ですぅ?」<br> <br> 日差しが痛く感じる今日、僕は走っていく三人を微笑ましく見る。<br> 発案者は誰だったか、気付けば真紅、雛苺、…それに翠星石と海に来ていた。<br> <br> 「チビ人間、何ボケッとしてるですか!早く来るですぅ!」<br> 「…だったら、少しは荷物を持ってくれませんか、お嬢さん方?」<br> <br> そう、お約束というか当たり前というか、僕は荷物持ちをさせられていた。<br> 全員分のかばんとシートやらで、かなりの重さとなっていた。<br> まぁ…、これがないとしても、彼女らに追いつける自信はないけど。<br> <br> 「ジュン、ありがとなのー!お礼にうにゅーあげるのー!」<br> 「貴方は私の下僕でしょう?荷物を持つのは当たり前なのだわ」<br> 「全く、こんぐらいの荷物で根を上げるなんて情けねーですぅ」<br> <br> やっとで追いついた僕に、三者三様の声がかけられる。<br> 唯一お礼を言った雛苺だけにどういたしまして、と言う。<br> …お礼はいいよ、うん。海に来てそれは食べたくない。<br> <br> ----------<br> <br> 海からそれなりに離れた場所にシートを広げ、四隅にかばんを置く。<br> そこに僕、真紅、翠星石が座る。雛苺は浮き輪をふくらませている。<br> 僕は泳ぐ気はないので横になろうとすると、目の前に水筒が現れた。<br> <br> 「ジュン、紅茶を淹れて頂戴」<br> <br> 下僕にそこまでさせますか。<br> 断っても無駄なので、素直に水筒の中身をふたでもあるコップに注ぐ。<br> 湯気が出ているから魔法瓶か、と思いながらそれを真紅に渡す。<br> <br> 「ありがとう。いい子ね、ジュン」<br> <br> そう言って僕に笑い、優雅に紅茶を飲み始める。<br> もしかしてそれを言うために?と自惚れてみようか。<br> <br> 「10℃温いわ!」<br> 「仕方ないだろ!?」<br> <br> やっぱりそんなことは無いな。<br> 漫才みたいな会話をしつつ、僕はそう思った。<br> <br> ----------<br> <br> そんな二人の様子をじーっと見ている一人の少女。<br> 実はさっきから気付いていたが、あえて無視していた。<br> しかし、我慢し切れなくなったのか、いきなり怒鳴ってきた。<br> <br> 「チビ人間!!」<br> 「っ!…そんな大声で呼ばなくても聞こえるよ。で、何?」<br> 「え、あー…そのぅ…」<br> <br> 呼んでおきながら、急に考え込む翠星石。<br> そのまま十秒ほど待つと、何かを思いついたのか顔を上げた。<br> <br> 「翠星石も紅茶が飲みたくなったです。淹れやがれですぅ」<br> 「…なんでまた急に。紅茶好きだったっけ?」<br> 「急に飲みたくなっただけです。つべこべ言わず淹れるですぅ!」<br> 「それはいいけど…、この紅茶は真紅のだし」<br> 「私は構わないわ」<br> <br> 間髪入れずに返ってきた回答。<br> 真紅が自分の紅茶をあげるなんて珍しい。<br> そんなことを思いつつ、紅茶を汲もうとしたところで気付く。<br> <br> 「…でも、コップはこれしか無いわよ?どうやって汲む気?」<br> 「ガーン!!ですぅ…」<br> <br> 結局、翠星石は紅茶を飲むことが出来なかった。<br> <br> ----------<br> <br> 「そろそろ私も泳ぎに行ってくるわ」<br> <br> そう言って海の方へ歩いていく真紅。<br> 既に雛苺も泳いでいるし、一緒に遊ぶんだろう。<br> 横にはまだ翠星石がいるが、僕はお構い無しに横になる。<br> <br> 「ジュンは泳がないのですか?」<br> <br> 翠星石が話しかけてくる。<br> 今日、初めて性悪じゃない話し方をされた気がする。<br> しかし、わかってて聞くあたり、やっぱり性悪なのだろう。<br> <br> 「僕が泳げないの知ってて聞いてるだろう?」<br> 「当たり前ですぅ。嫌味で言ってるですからね、ヒッヒッヒ…」<br> 「その魔女みたいな笑い方はやめてくれ、全く…。<br>  まぁ、荷物を見てないと駄目だし、一人は残ってた方がいいだろ?」<br> <br> そう言って、海に行けと手をシッシッと動かす。<br> しかし、翠星石はそれを無視し、僕と同じように横になる。<br> <br> 「一人だと死んじゃいそうですからね。一緒にいてやるです」<br> 「…はいはい、ありがとうごぜーます」<br> <br> 海に来てただ寝てるだけの二人。でも、悪くない。<br> <br> ----------<br> <br> 子供が騒ぐ声、男がナンパする声、様々な声が聞こえてくる。<br> そんな声の中、近くを通ったお年寄りの声が聞こえてきた。<br> <br> 「あらあら、お似合いのカップルねぇ…」<br> <br> 一瞬で顔が赤くなる。<br> 試しに横を向いてみると、それと同時に顔を背けられた。<br> また自惚れる気はないが、多分顔は同じ色をしてるのだろう。<br> <br> 「…カップルですかぁ」<br> 「…男女二人で並んで寝てるし、仕方ないよな」<br> <br> 苦笑をしつつ、適当な言葉でごまかす。<br> ちょっと前までの僕なら、ありえねぇとか言いそうだが、<br> つい最近の告白未遂?のせいで正直意識してしまった。<br> <br> 「全く、うちらがカップルなら真紅や雛苺はどうなるんですか…」<br> 「うーん…、雛苺は子供って感じかなぁ」<br> 「ぶっ!そういう意味じゃねえですよ!!<br>  …まぁ、チビ苺は子供って感じはするですけどぉ…」<br> 「じゃあ、真紅は?」<br> 「真紅?…真紅は姑ですかねぇ、ヒッヒッヒ!」<br> 「あはは…、そりゃいいな。ぴったりだ」<br> 「誰が姑ですって?」<br> 「「ひっ!!」」<br> <br> 二人して叫び、上半身を起こして後ろを振り向く。<br> しかし、眼に映ったのはすごい速度で迫る金色の鞭だった。<br> <br> ----------<br> <br> 「痛いですぅ…」<br> 「自業自得よ」<br> <br> 真紅に睨み付けられながら、頬を抑える僕と翠星石。<br> 確かに調子に乗ってた僕らが悪いが、この威力は反則だろう。<br> <br> 「泳ぐのも疲れたから、辺りを歩いていたのよ。<br>  でも何も無かったから帰ってきたら…、全く失礼なのだわ」<br> 「ごめん…。でも真紅、どこから聞いていたんだ?」<br> 「『真紅は姑ですかね』あたりからよ。それがどうかしたの?」<br> 「いや…」<br> <br> それはグッドタイミングだったのか、バッドタイミングだったのか。<br> とにかく、その前の会話が聞かれなかっただけ良しとしよう。<br> それより…、<br> <br> 「なぁ真紅。雛苺はどうしたんだ?一緒に泳いでたんじゃ…」<br> 「雛苺?それなら、まださっきの場所で泳いでいるわ。<br>  確か…、あっちの方の海にいるは…ず…?」<br> <br> 急に歯切れが悪くなる真紅。<br> その指が指す海を見る。<br> 確かに「あった」。<br> <br> 雛苺の浮き輪だけが。<br> <br> <br> 気付いたら、僕は海へ走り出していた。<br> <br> 浮き輪だけ置いてどこか歩いているのかもしれない。<br> あるいは雛苺の浮き輪に似た浮き輪なのかもしれない。<br> でも、今の僕にはそんな楽観的な思考は出来なかった。<br> <br> 海に潜ると目を開けて、必死で雛苺を探す。…いた。<br> 少し先に、まるで人形のように沈んでいく雛苺が。<br> 僕はがむしゃらに泳ぎ、なんとか雛苺の腕を掴む。<br> <br> あとは上にあがれば…、ここで僕の意識は途切れた。<br> <br> <br> <br> 「ジュンッ!!」<br> <br> 自分の名前を呼ぶ声に気付き、僕は目を開ける。<br> 目の前には、涙目で僕を見る翠星石がいた。<br> 痛む頭を押さえ、上半身を起こすと抱きついてきた。<br> <br> 「ジュン…、良かった…良かったですぅ…!」<br> 「翠星石…?あれ、なんで…僕は確か…」<br> <br> 確か雛苺を探しに行って、見つけて、掴まえて…<br> <br> 「あら、目覚めたのね。ジュン」<br> 「うぃー。良かったのー!」<br> <br> 横を見ると真紅と雛苺がいた。<br> <br> 「泳げないのに助けに行って…、逆に助けられてどうするのよ」<br> 「うー、ジュンを責めないでなのー!ジュンはヒナのせいで…」<br> <br> 雛苺の声が頭に響く。<br> でも、おかげで大体状況は掴めた。<br> 助けに行った僕も溺れて、ライフセーバーかなんかに救助された。<br> そして、先に雛苺が目を覚ましたが、僕はついさっきまで眠っていた。<br> そんな感じに状況分析をしていると、翠星石がうずめていた顔を上げた。<br> <br> 「真紅の言うとおりですぅ…。なんでこんな無茶したんですかぁ…」<br> 「翠星石…」<br> <br> 翠星石は、僕の顔を見ながら大粒の涙を流し続ける。<br> <br> 「…友達を、雛苺を失いたくなかったから。…それに」<br> 「…それに?」<br> 「雛苺が亡くなったら…、真紅やお前が泣いちゃうだろ…?」<br> 「…!!」<br> <br> 「あの時…、僕が馬鹿だったから翠星石を泣かした…。<br>  すごい後悔したんだ。だから、二度と泣かせるもんかって…」<br> 「ジュン…」<br> 「でも…、結局泣かしちゃったな…。ごめんな、翠星石」<br> 「うぅ…、やっぱりジュンは大馬鹿者ですぅ…。<br>  そんなこと言われたら、泣くに泣けなくなるじゃないですかぁ…」<br> <br> そう言って、頑張って笑おうとする翠星石。<br> その気持ちが嬉しくて、翠星石に微笑む僕。<br> まるでカップルが作る雰囲気にのまれたのか、翠星石が目を閉じて顔を近づける。<br> <br> そんな翠星石を、僕は肩を掴んで止めた。<br> <br> <br> 「もう意識はあるんだから、人工呼吸は必要ないぞ?」<br> <br> <br> ピシィッ!!<br> <br> 後ろめたさを感じて言った一言によって、雰囲気が音を立てて壊れた。<br> 翠星石は顔を離すと、すっと立ち上がって片足を高く上げて、<br> <br> 「こ、こ、この馬鹿アホチビ人間ッ!!!」<br> 「グフォッ!!!」<br> <br> 僕のお腹に振り下ろした。<br> まだ残っていたのか、口から水が溢れた。<br> <br> 「ちょ、ちょっと翠星石!さすがにやりすぎよっ!!」<br> 珍しく慌てている真紅。<br> 「そんなデリカシーのないチビはほっとけですぅ!!」<br> さっさと帰ろうとする翠星石。<br> 「うぃー!!まだ、ジュンにお礼言ってないのー!!」<br> その翠星石に引きずられる雛苺。<br> <br> <br> そんな三者三様の声を聞きながら、僕の意識は深い海へと沈んでいった。</p>

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