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機巧励起ローゼンメイデン 第10話『DEFEAT』」(2006/09/21 (木) 15:26:25) の最新版変更点

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いったい、アイツは何をしてるんだ?真紅が消え早20分ほど、<br> 授業は始まり、目の前では担任が黒板にチョークで<br> 白い文字をつらつらと書いている。<br> 昨日、あんな大事件があったというのに学校は通常営業。<br> まったく持って図太い神経してる。<br> 止まらない雑談、注意する担任。<br> あくび、そして突っ伏す生徒。<br> いつもの光景。<br> 右斜め前方では薔薇水晶が真面目にノートを写している。<br> 左斜め後方、その逆で笹塚は爆酔。<br> 対照的な二人に挟まれ僕は意識をあらぬ方向へ向ける。<br> 真紅のことを考える。<br> はめられた指輪、想像外に誰も気にはしなかったのだが、<br> それを見ながら思案する。<br> いったい何をするというのか?おそらく真紅の事だ、<br> ヒトを人とも思わないような事してるんじゃないんだろうか。<br> 底知れぬ不安が僕の心のずっしり圧し掛かる。<br> <br> <br> <br> 大丈夫だ、きっと大丈夫だ!そう、まさかこんな校内で目立つことは<br> しまい。そう、僕をいきなり殴ったりのりを即座に奴隷のごとき<br> にこき使いはしようとも…………<br> <br> ―――やっぱり不安だ<br> <br> はあ、とため息が出る。重たいため息だ。きっと吐いた瞬間<br> 床に落ちたに違いない、そんな不安いっぱいのため息。<br> 突っ伏す、机の上に顔面をベチャァとくっつけて。<br> ひんやりとした感触が気持ちが良い。<br> このまま寝てしまおうか、ノートなら後で薔薇水晶に<br> 見せてもらえば良いし。<br> 腕を枕代わりに睡眠体勢に入る。<br> それではおやすみ、頭を腕に沈め――<br> <br> <br> <br> <br> どくん<br> <br> <br> 突然、いやな胸騒ぎが胸を締め付けた。顔を上げあたりを見回す。<br> なんだ?急に襲う不安感、焦燥感。教卓で話す教師の声が遠い。<br> まるで流し込まれたかのような"僕のものではない"誰かの感覚。<br> <br> どくん<br> <br> 霞む視界、瞬間、目の前の光景が後ろ方向へフェードアウトした。<br> 代わりに現れたのは自分ではない誰かの見ている光景。<br> 斬、斬、斬。<br> 剛、轟、豪。<br> 繰り広げられる剣撃と拳撃。残像を残す一撃一撃の刹那。<br> 戦っている、誰かが誰かと戦っている。<br> 妙な既視感。何が?いったい何にそんな感覚を?<br> 動き回る視界、ふと、見覚えのある建築物。<br> ここは、まさか。ピタリとひとつの結論が導き出される。<br> <br> <br> <br> <br> <br> ガタン。<br> <br> 「さっ、桜田くん?いきなりどうしたの?」<br> 担任の女教師が驚いて僕に声をかける。ほかのクラスメイトも<br> 不思議そうな顔で僕を見ている。<br> 「あっと…すいません。ちょっと、トイレに……」<br> 「あ、はい。分かりました…」<br> 担任のその言葉が発せられるとほぼ同時、僕は静かに教室を飛び出す。<br> キョトンとした面々が視界の端に視認するがすぐに脳内から消し去る。<br> まさか<br> まさか<br> まさか<br> 走る、脱兎のごとく。<br> 疾走る、全力をだして。<br> 駆けながら僕は真紅の言ったことを思い出していた。<br> 『ジュンと私は意識の海で繋がっているのだわ』<br> そう、僕と真紅は精神が時々繋がりお互いの思念が聞こえてしまう。<br> まだ出会って1日しか経っていないが既に真紅には幾度も心を読まれている、<br> おかげでその結論はすぐさま導き出された。<br> 今、真紅は危険な目にあっている。<br> <br> 予想するに、おそらくあの風景は学校の校舎裏だ。<br> ダッシュで校舎内、しかも普通教室のない場所を一気に駆け去る。<br> まったく僕もお人よしだ。人のことを下僕よばわりするような奴を<br> 助けように必死になっている。<br> だけど放ってはおけない。<br> そう僕の心の中の何かが命ずる。<br> ザザ、ノイズが僕の視界に生じる。僕の視界と真紅の視界が<br> 重なり合う。<br> 竹刀と思われる斬撃が真紅を捕らえようとしてる。<br> それに負けじと反撃する真紅、そしてその負けたくないという思いが<br> 同時に僕に流れ込む。<br> と、真紅の攻撃が目の前の少女に入ったかに見えた。<br> 僕の視界も真紅のいる校舎裏へとあと一息へと近づいている。<br> <br> <br> 「「甘いッッ!!!」」<br> <br> <br> 真紅の聴覚と僕の聴覚が完全に重なり合った。校舎裏へと到達し<br> 少女と真紅を見とめる僕の視界、少女の斬撃を今まさに受けようと<br> している真紅の視界。<br> <br> ―――間に合わない<br> <br> そう真紅の声が聞こえた気がした。瞬時、僕の身体が思いもよらない<br> 爆発的な推進力を得た。<br> <br> 疾風の如き跳躍、おおよそ5メートル以上はある距離がゼロになり、<br> 真紅とその斬撃の間に僕の身体が挟まれた。<br> 斬撃が僕の肩に袈裟切りで抉りこまれる。<br> 「ッッ!!!!」<br> 「あ……」<br> 衝撃、鈍い衝撃、体内を走る、肉体を真っ二つにするような電撃。<br> 内臓が破裂したかのような感覚が全身を駆け巡る。<br> 制服が爆ぜたように切裂かれる。<br> 膝を突き、その場に突っ伏す。<br> 痛い、洒落にならないくらい痛い。<br> 息ができない、苦しすぎる。<br> 「ジュン……な、何をしているの貴方!!??」<br> 真紅の声が後ろ方向から聞こえる。大丈夫、じゃないけど大声出すな。<br> 「何で……どうして………貴方はいったい……」<br> ショックだったのか前方向から驚きと動揺の入り混じった震えた声。<br> <br> 止まりかけた呼吸がようやく再開される。痛みをこらえゆっくり立ち上がる。<br> 目の前に最初に現れたのは少女の顔。<br> ビクリと震える、がすぐさま僕に向かい竹刀、何やら淡い光を帯びているが<br> それをビシっと構える。<br> 「い、いきなり邪魔をするなんて、貴方いったい何者ッッ!?」<br> 「お、落着けって……おい真紅……何がおきてるんだ?」<br> 僕は少女を手で制し後ろを向く。<br> 「……どうもこうもないのだわ。」<br> こちらもだが動揺したその顔をすぐさま引き締め怒ったような顔を<br> して僕に言う。<br> なんだよ、いったい。<br> 「貴方…彼女の仲間?だとすれば容赦はしない……」<br> 目の前の少女の目が鋭く細められた。<br> 痛みに悲鳴を上げる体、全身に響く苦痛が突然消える、瞬時襲う鬼気。<br> <br> 「話を……聞いてはくれないってか?」<br> 額に流れる冷や汗を拭う。この娘、とてつもなく強い。何故だか分からないが<br> そんな認識が僕の中で生まれる。<br> 「聞くわ、もちろん。ただ、彼女が拒否したから私は実力行使を使わせて<br>  もらってる。もし、おとなしく投降するなら私も剣を納めるわ。」<br> 「…なら話は早いな。僕は余り荒事は好きじゃない。」<br> 僕は少女が向けている視線の先、真紅を見据える。<br> 痛みがチクリと肩を刺す。<br> 「投降しよう、真紅。」<br> 「いやよ。彼女に投降することは私のプライドが許しはしない。」<br> 「はあっ!?」<br> あきれた、いったい何を考えてるんだ?<br> 「そう………ならば仕方ないわね。怪我をさせてしまった事は詫びるわ。<br>  でも、ごめんなさい。もっと大怪我をさせてしまう事も詫びさせて…」<br> ゾワッ、背中が粟立つ殺気を捉える。<br> 「ジュンッッ退きなさい!!!!!」<br> <br> <br> 「うおわあぁ!!??」<br> 咄嗟に頭を下げる、瞬間<br> <br> ビュンッッ<br> <br> 見えない太刀筋が僕の頭上を越えて消えた。<br> 大気を切り裂くような瞬風、それが肌で感じ取れる。<br> 「ジュンッッ!!………きゃぁぁぁぁぁ!!」<br> 真紅の身体が吹ッ飛んだ。少女の竹刀が真紅を捉え、斬った。<br> 少女は僕をおとりにしたのだ。<br> 真紅もそれに気づき咄嗟に両腕でガードをしたようだが、竹刀は<br> 真紅の両腕の上からそのまま攻撃をねじ込み服を引き裂き肌をも<br> 引き裂いた。<br> 「あ……うぅ……くっ。」<br> 真紅の苦しそうな声が漏れる、ぽたぽたと落ちる血。人ではない<br> 真紅の身体から流れたのは僕と同じ赤い血。<br> 「真紅ッ!!」<br> 僕は駆け寄り真紅のそばに膝をつき方を支える。<br> 「真紅、と言ったわね。さあ、これで決着はついた筈よ。おとなしく<br>  私について来て全てを話してもらうわ。」<br> 少女の冷たい声が僕の背中から響く。<br> <br> 「いやよ……誰が貴女なぞに……」<br> 「さっき言った事を怒ってるの?貴女が姉妹をほふ――」<br> 「黙りなさいッッ!!!」<br> ほふ?少女の言葉は最後まで発せられることはなく、僕にはまったく<br> 意味が分からない。いったいなにが起きたと言うんだ?2人を交互に見る。<br> 「関係ないわ……『それ』は関係ない。私は……ローゼンメイデン…<br>  誇り高き乙女…貴女のような者に…膝を、折るのが性に合わないだけ……」<br> 真紅が強い意志を秘めた瞳で、しかし息も絶え絶えに少女を見据える。<br> 少女も負けじと真紅を見据える。が、どうしてだかそこで攻撃を止め<br> きびすを返しこの場を去ろうと歩を進め始めた。<br> 「あ……おい。」<br> 「この戦い、今は幕を引かせてもらうわ。さっきは不意打ちをして申し訳<br>  なかったわね。今度は正々堂々、貴女を倒す。だから、今この場は去るわ。」<br> 少女はスタスタと校舎裏を立ち去ろうとしている。<br> 「ま……待ちなさい……!」<br> 真紅が僕の肩を払いのけて立ち上がる。<br> 「逃げるの?貴女……この戦いを放棄して逃げるつもり!?」<br> 「違うわ。貴女を倒して全部話を聞かせてもらう事に変わりはない。<br>  だけど、貴女の全てが悪とは思えなくなってね。彼が貴女を守ろうとした、<br>  それも悪意のない瞳と精神でね。驚いたわ、貴女はそのような人と言う事に<br>  なるから。感謝してね、あなたを守ってくれた彼に。」<br> <br> 少女が僕を見つめ微かな微笑みを向ける、僕の胸がドキリとなる。<br> そして少女はその場を去る。<br> 真紅はただその場に立ち、彼女の背中を見送る。<br> 最後、少女は僕らにこう言い残した。<br> 『入学の手続きなら私が考えておいてあげる。貴女の分と私の分ね。<br>  貴女の真実を見極めた上で決めさせてもらうわ。ローゼンメイデンたる<br>  貴女が本当に私の聞いた話と一致するかどうかを、ね。<br>  勝負は今日の夜、同じ場所、ここで。』<br> ローゼンメイデン…あの少女はいったい何を知っているというのだろうか。<br> 僕は真紅を見上げる。歯を食いしばり、悔しさに顔を苦くしている。<br> 声をかけることはできなかった。ただ、僕は真紅の傍らに立っているだけ。<br> 教室を出てから5分以上経っているが気にはならなかった。<br> ソレくらいに真紅の様子は酷く儚げで弱々しかった。<br> 「……やしい……」<br> 「え?」<br> 「くやしい……のだわ。」<br> 「何が?」<br> 「あの娘に遅れをとった自分が……悔しい。」<br> 「………」<br> <br> 僕らはそれ以上何も言わずその場を後にした。<br> 真紅が途中、昇降口のあたりで僕の肩に手をあてた。<br> 「ッッ!!」<br> 走る激痛に僕は倒れそうになる。そういえば、あの娘に思い切り<br> 竹刀を打ち込まれてたんだった。今頃になって忘れていた痛みがやってくる。<br> 「悪かったのだわ……」<br> ボソリ、真紅が何かを言った気がした。<br> 「え?今、なんて――」<br> 「何も言ってないのだわ。愚かにも私を助けようなんて見当違いも甚だしい<br>  暴挙にでた下僕を治療してあげるだけよ、そのままでいなさい。」<br> ふざけるな、と言いたいところだったが真紅の言葉におとなしく従い<br> 僕はその場で待つ。<br> 「るぐら・でる・ぬあ・どるぐん。あすら・しゃくん・ぷらーな。」<br> 紡がれる呪文、置かれた手から僕の中へ暖かいものが流れ込む。<br> 同時に全身を覆っていた痛みが静かに引いていく。<br> 「あ………」<br> 「回復呪法の一つよ。説明は長くなるから省くわね。」<br> 真紅は僕の肩から手を離すとどこかへ行こうと勝手に歩き出す。<br> <br> 「おい、これからどうするんだ?」<br> 僕は一応聞いておく。さっきあの少女が言っていたことから推測するに<br> おそらくコイツは自分をこの学校にいれようとたくらんだのだろう。<br> それが失敗した今、コイツには何もすることはない。<br> 「……帰るわ。」<br> 「僕の家に、か?お前、一人で帰れるか?」<br> 「ええ、道ならもう覚えたから。」<br> 明らかに朝とは違い覇気がない声で答える真紅。<br> だが、僕はそれを深く追求しない。<br> 「そうか、気をつけてな。あ、服、どうする?破れてるけど…」<br> 「これくらいなら、魔術を使えば直るわ。貴方の制服も直ってるでしょ?」<br> 「みたいだけど……いや、ちょっと待ってろ。」<br> 僕はポケットに手を突っ込みアレを捜す。<br> 「??ジュン、何をしてるの?」<br> 「いや、だからちょい待ち。」<br> <br> あった。僕はそれを取り出す。金属製、名刺サイズのケース。<br> 「何、それは?」<br> 「ソーイングセットだよ。」<br> 僕はケースのふたを開けて中身を見せてやる。簡易のものなのだが<br> 針と糸、それを切る小さいハサミも揃ったちゃんとしたものだ。<br> 「直してやるから動くなよ。」<br> 「え、ちょっと…!」<br> 僕は真紅のそばに寄り、スッパリと切れた肩口と腕部分を手早く<br> 軽く縫い合わせてやる。うん、これなら大丈夫だ。<br> 「……」<br> 「昔から裁縫だけは得意でな。まざ、これ位のだったら3分ありゃ直せるよ。」<br> 「すごい……」<br> ただ、率直な感想だった。呆けた様な顔がほころび笑顔が漏れた。<br> 「ジュン……貴方はすごいわ。魔法を使わずとも魔法のように、こんな……<br>  美しく布を縫いあわせる事ができるなんて……素晴らしいわ。」<br> 「へ?あ~……そうか?正直、別に特別なことはしてないんだけど。」<br> 「いいえ、貴方の腕はまるで旋律を奏でているようよ、ジュン。<br>  誇りを持っていいことだわ。」<br> 「あ~、ども。」<br> 照れくさくて、背中がむず痒い。うぅむ。<br> <br> 「それでは、貴方の家に帰らせていただくとするのだわ。」<br> そう言うと真紅は僕に背を向けて歩き出す。さっきのような物悲しい<br> 雰囲気は漂わせていない。<br> 「ジュン………」<br> 真紅が僕に顔を向けずに声をかける。<br> 「何だ?」<br> 「ありがとう。」<br> 「ああ、どういたしまして。」<br> 「それと。」<br> 「ん?」<br> 「貴方には隠していた事もあるのだわ。それも全部、話す。」<br> 「ああ。」<br> 「家に帰ってきたら話すのだわ。」<br> 「分かった。」<br> 真紅が歩き出す。そして僕も。<br> 僕らは別れ、別々の方角へ向かった。<br> <br>

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