「『きみとぼくと、えがおのオレンジ』~第1話~」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
「なつかしいな…」<br>
「うん、懐かしいねぇ。」<br>
<br>
それはアルバム<br>
まだ真新しい革表紙<br>
人工革の匂い<br>
やわらかい手触り<br>
<br>
それは思い出<br>
出会いの記憶<br>
あの日の夕陽<br>
あの日の朝日<br>
あの日の笑顔<br>
二人過ごした時間<br>
<br>
それは薔薇水晶<br>
僕の彼女<br>
僕の大切な女性<br>
腕に抱きしめる暖かい感触<br>
柔らかい肌<br>
柔和な微笑<br>
<br>
<br>
「ねえ、ジュン?」<br>
振り向く、薔薇水晶。<br>
その瞳、不安で、儚げで。<br>
「なんだ?」<br>
「ジュンは本当にあたしでよかったの?」<br>
「変な事聞くなぁ。一体どうしたんだよ?」<br>
「んーん、ただ聞きたくなっただけ。あたしなんかで良かったのかなって。」<br>
「お前しかいないよ。僕には薔薇水晶しかいない。」<br>
僕は後ろから彼女を優しく壊れないように、だけど強く誰にも離されない様に<br>
抱きしめる。柔らかくて暖かい感触を感じ取る。<br>
薔薇水晶を感じる。<br>
「でも、まだあたし達大学生だよ?あたし達、きっと卒業の時には―――」<br>
「離さない、就職難でへーこら言おうが何だろうが僕はお前を離さない。」<br>
僕は彼女の言葉を切り、抑え込む。<br>
「僕は約束したんだから、薔薇水晶を離さないって。それにだ、まぁ……<br>
惚れた弱みというかなんというか………うむぅ……」<br>
恥ずかしいもんだ、こういう事言うのは。<br>
「あ……えへへ……うん……うん、そうだね。あはは、何だか思い出しちゃった。」<br>
「何をだよ?あ、恥ずかしいのは禁止な。って……ん。」<br>
首を振り僕の腕を解いた薔薇水晶。そして僕の首に腕を回し抱きついてくる。<br>
「恥ずかしくないよ、ジュンがあのとき言ってくれた事思い出したの。」<br>
「ああ………」<br>
僕も薔薇水晶の背中に腕を回し引き寄せるように抱く。<br>
脳裏に浮かぶあの日の情景。<br>
<br>
「もしジュンがいなかったらね、きっとあたしは昔のまんまだったよ……<br>
不思議だね、まるでギャルゲみたいだよね……」<br>
「んー、ムードぶち壊しだな、おい。」<br>
「えへへ♪でもね、本当なんだよ。あんな恥ずかしくてだけど嬉しい台詞<br>
なんてゲームのなかでしか聞いた事なかったんだもん。」<br>
首を少し傾け微笑む。だけどすぐに僕の胸に顔をうずめてしまう。<br>
「あたしはあれでジュンにべた惚れしました。ジュンが大好きで大好きで<br>
大好きで大好きになってしまいました。だからね、だからこそ不安に思うんだ。<br>
これがいつか壊れちゃうんじゃないのかなって。いつか、ううん、<br>
明日にでもジュンがいなくなるのかなって、不安になっちゃうんだ。」<br>
ぎゅうと、僕の服を握り締める手。僕はそれをなだめるように髪を撫でる。<br>
「…………ないって。」<br>
「あるよ……きっと。」<br>
「もしあるとしても、僕は、今はそんな事考えなくても良いと思うけどな。」<br>
口をついて出た。<br>
「…………」<br>
「未来の事なんて誰にもわからない、だから僕は現在(いま)を大事にしたい。<br>
僕が薔薇水晶に惚れて、薔薇水晶が僕を好きになってくれて、それで<br>
今はこうやってほとんど同棲状態。それが今のすべて。それでお腹いっぱい。」<br>
「ジュン………」<br>
薔薇水晶が瞳に涙を浮かべ僕を見上げる。<br>
<br>
「不安に思う事なんてない。まあ、そりゃ、別れる事もあるかもしれないけど<br>
今は知ったこっちゃない。僕は今、薔薇水晶といれて幸せだからさ。<br>
薔薇水晶はどうなんだ?」<br>
「あたしも……幸せ。」<br>
僕は薔薇水晶の涙を拭ってやる。<br>
「なら大丈夫。不安に思う事なんてない。」<br>
「うん、そう……だよね。でも……でも、もし不安にまた思ったら………?」<br>
まだ不安げな表情で僕を見上げる薔薇水晶。<br>
「なら、こうするだけだ。」<br>
「え?あ………ん……」<br>
口付け、キス。唇と唇を重ねあうだけの行為。<br>
少し驚いた薔薇水晶もその行為に浸る。<br>
はじめた僕もその行為に浸る。<br>
お互い目を瞑り、唇でお互いの温度を感じあう。<br>
長い時間そうしあって、名残惜しそうに離す。<br>
「………ん。ジュンはだいたん……」<br>
そう言いながらも嬉しそうに僕を見上げてくれる薔薇水晶。<br>
「でも、不安はなくなったろ?」<br>
「うん……でも、少し不安かな。」<br>
「そか。それなら、もう一回………」<br>
「ジュン………ん……」<br>
<br>
では御伽噺をしよう<br>
<br>
これは僕と薔薇水晶の出会いのお話<br>
<br>
まるで三文芝居の様な出来すぎたお話<br>
<br>
だけどこれは幸せな夢物語<br>
<br>
始まりは青とピンク<br>
<br>
閉ざした函<br>
<br>
終わりはオレンジ<br>
<br>
開かれた函<br>
<br>
<br>
『きみとぼくと、えがおのオレンジ』<br>