「タッグデュエル! ~HEROの脅威~ ①」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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ここは、デュエルアカデミア・サウス校。<br>
超一流の決闘者を養成する為に“あの”コーポレーションが設立したこの学園は、全国<br>
各地からデュエル・エリートが集まっている。<br>
皆、明日の決闘王を夢見て日々努力し、デュエルの腕を競っているのである。<br>
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そして、ここはデュエルアカデミアの職員室である。<br>
職員室の一角にある一般職員用デスクでは、一人の教師が先日行われた月一テスト<br>
の解答用紙を前にして唸っていた。<br>
彼の名は兄者。デュエルアカデミアの教員で、実技の教官を務めている。<br>
そして彼が前にしている解答用紙の氏名欄には、『真紅』と書かれていた。<br>
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「……う~む」<br>
「どうした兄者? 溜め息など吐いて」<br>
「ん? ああ、弟者か……」<br>
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兄者に声をかけてきたのは、兄者と瓜二つの男だった。<br>
彼は弟者。兄者とは双子の兄弟であり、彼も実技の教官だ。兄者と弟者は教師である<br>
と同時に、巷で『流石兄弟』と呼ばれて知られている、実力派の決闘者でもある。<br>
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「兄者らしくないな、何か悩みでも?」<br>
「いや、悩みというほどでもないんだがな」<br>
「その答案は……ああ、あのレッド寮のお嬢様か」<br>
「うむ。奴は筆記はいいのに実技が絶望的でな……俺の教え方が悪いんだろうか」<br>
「いや、そんな事はないと思うぞ。別に兄者の教え方が上手いと言う訳ではないが」<br>
「弟者……ちょっと表へ出ろ」<br>
「OK兄者、時に落ち着け。要するに、成績不振者の処遇について考えてたんだな?」<br>
「ああ。近々補習か追試でもやろうと思っていたところだ」<br>
「ま、無難な線だな」<br>
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この学園は決闘者養成の為の学園であり、成績不振者は寮の降格や退学という処罰も<br>
日常茶飯事として行われる。兄者も実技担当の教官として、何かしらの措置を取らねば、<br>
と考えていたのだ。<br>
特にオシリスレッドの生徒は、補習や追試を行う際、その人数割合がとても多い。折角<br>
決闘者の為の学園に進学したのだから、もう少ししっかりして欲しいというのが兄者の<br>
正直な感想だ。<br>
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「補習や追試と言っても、具体的には何をするんだ?」<br>
「ああ。詰めデュエルとか、テーマデュエルなんかをやろうと思っている」<br>
「そうか……だが、詰めデュエルやテーマデュエルでは本当の実力は計れないと思うぞ」<br>
「う~む……やっぱりそうかなぁ…………」<br>
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腕組みして考え込む兄者に、弟者は呆れたような顔をして言った。<br>
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「……ていうか兄者、何か忘れてないか?」<br>
「え? 何を」<br>
「俺達の絶対の得意分野だ。あれなら、デュエルの実力や人間性も見る事が出来る」<br>
「あれか……確かに、あれは俺達兄弟の最も得意とするところだな」<br>
「やっちゃうか、兄者?」<br>
「……やっちゃうか、弟者」<br>
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――こうして次の日、各寮の掲示板に連絡のプリントが貼り出された。<br>
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≪追試験のお知らせ≫<br>
先日行われた月一テストにおいて、実技科目で赤点を取った生徒は、<br>
○月☆日の追試験に参加する事。<br>
追試験の内容は、実技教官の流石・兄者と流石・弟者のタッグとの<br>
タッグデュエルとする。生徒のペアは後日抽選で決定し、連絡する。<br>
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各寮の成績不振者は必ず参加し、合格出来るよう最大限努力しよう。<br>
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無論、それはオシリスレッドの真紅も知るところとなった。<br>
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「……翠星石、これは何かしら」<br>
「読んで字の如く、追試のお知らせですぅ」<br>
「納得いかないのだわ」<br>
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真紅は、聞いていて清々しいほどにキッパリとそう言い切った。<br>
確かに自分はド素人で、実技は小学生以下のレベルかも知れないが、それを埋める為<br>
に筆記試験には人一倍力を入れたつもりだ。今までも、実技がいかにダメでも筆記で補う<br>
事が出来ていた為、補習や追試を受けさせられる事はなかった。<br>
だが、どうして今更追試なのか。真紅は正直、憤懣遣る方ない気分だった。<br>
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「兄者先生は何を考えているのかしら。実技科目なんて、デュエルアカデミアの沢山ある<br>
科目のうちの一科目にすぎないのに、わざわざ追試なんて」<br>
「真紅……このデュエルアカデミアがどういう学校なのか、ホントに分かってるんですぅ?<br>
ていうか何しにこの学校を受験したんですか? カードに関してはズブの素人なのに」<br>
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翠星石が、前々から聞きたいと思っていた最も根本的な疑問を投げかけると、真紅は<br>
見る見るうちに顔を真っ赤にして大声を張り上げた。<br>
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「あ、貴女には関係ない事なのだわ! 私は別に、ジュンが……」<br>
「ジュン? あのオベリスクブルーのヒキコモリの事ですぅ?」<br>
「な、何でもないのだわ! 今のは忘れなさい! いいわね?!」<br>
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……面白いくらい丸分かりだ。言わないでおいてあげるのが優しさという事だろうか。<br>
それはともかく、今は真紅が追試に受かる事を考えなければなるまい。真紅の実技の<br>
成績を鑑みれば、停学や退学すら十分に起こりうる事態なのだから。<br>
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「翠星石は赤点じゃないからいいですけど、真紅はどうするんですぅ? タッグデュエルも<br>
やった事ないんですよね?」<br>
「ええ、丸っきり初めてなのだわ」<br>
「授業じゃあんまりやんないですからね……それにまだタッグパートナーの顔も知らない<br>
ですし、戦略の立てようもないですぅ」<br>
「まあ、それはおいおいでいいのだわ。ところで翠星石、兄者先生と弟者先生はどんな<br>
デッキを使う決闘者なの? 教えなさい。そして対策を立てるのだわ」<br>
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どうしてこの素人決闘者は、他人に命令する時に限って堂に入っているように見える<br>
のだろう。無い胸を張って凛とした声を上げているその姿は、一端の決闘者と言っても<br>
いいくらい、不必要な貫禄を伴っている。<br>
さっさと部屋に戻っていく真紅を追いかけながら、翠星石は肩をすくめて一人ごちた。<br>
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「……ったく、やれやれですぅ」<br>