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「第44話「カズキ」」(2006/07/18 (火) 22:09:35) の最新版変更点
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<p>此処は、日本の防衛支部</p>
<p>関東の西の端くれ。<br>
大体、大阪支部の隣ぐらいだ。<br>
其処に一人の男と、一人の御爺さんがいた。<br>
御爺さんは、椅子に座りながら、お茶を飲んでいる。<br>
一方男は、其れを椅子に座って傍観している。</p>
<br>
<p>男「貴方の息子は?どうなったんですか?」<br>
爺「それがな・・・少し前の戦争で、逝っちまったんだ・・・」<br>
男「!・・・其れは済まない事を・・・」</p>
<br>
<p>そう言うと御爺さんは、微笑みながらこう言った。</p>
<br>
<p>爺「良いんだよ、あの子はある人の中で生きてる。」<br>
男「?其れはどう言う・・・」<br>
爺「之から説明するよ・・・」</p>
<br>
<p>すると御爺さんは、お茶を全部飲み込んで。<br>
一息ついた後、重い口をあけて、喋り始めた。</p>
<br>
<p>
爺「その戦争の途中でな?桜田って奴が、爆弾で吹っ飛ばされたんだよ。」</p>
<br>
<p>すると男は、ごくりと生唾を飲み込む。<br>
其れを意に介さず、御爺さんは話を進める。</p>
<br>
<p>爺「腕は爛れて・・・いや、アレは千切れてたな。」<br>
爺「腹を右足の付け根から、股間の上、へその所、心臓、右腕の付け根にかけて。」<br>
爺「其処を線で縫ったように、飛ばされててな。」<br>
爺「生きてたのは、あいつが物の怪って呼ばれる。」<br>
爺「特殊な血を引いていた、だからしいが。」<br>
爺「もうそんな奴でも、死んでも可笑しくない状態だった。」<br>
爺「其処にな、俺の死んだ息子の死体が、運ばれたらしいんだ。」<br>
爺「俺はもうその子を、如何こうする気も無かったが。」<br>
爺「其処にとある、医者がやってきたんだ。」<br>
爺「奴は、桜田を生かす代わりに、この子を貰うと言って来たんだ。」<br>
爺「可笑しな話だろ?東南アジアにそいつは、居たのによ。」<br>
爺「するとな、俺が許可するとそいつは、有難うと言って行っちまったよ。」</p>
<br>
<p>
辻妻の合わない話だ、しかし、その子は今生きている。<br>
不思議な話も有る物だ、と訊いていると。<br>
御爺さんは、話を進め始めた。</p>
<br>
<p>爺「その翌日の話かな?、そうらしいんだが。」<br>
爺「その子が地下の実験室で、特殊な改造を受るって話なんだ。」<br>
爺「何でも知らない医者が来て、二人の体を余す所無く使い切って。」<br>
爺「一人の人間を、作り上げちまったそうだ。」<br>
爺「その子は昏睡状況だったらしいんだが。」<br>
爺「医者がその子を連れて、実験室に3ヶ月篭ったそうなんだ。」<br>
爺「始めの2ヶ月は失敗して、その子が変態を起こして。」<br>
爺「見るも絶えない姿や、精神異常者になっちまったそうだが。」<br>
爺「何ヶ月かして、一人の世界の安全の為の、人間兵器が出来た。」<br>
爺「その子の中で、わしの子は生きている。」<br>
爺「その後で、私はその子に会ったが。」<br>
爺「とても良い子だったよ、カズキもきっとあの世で・・・」<br>
爺「それで、わしに何のようじゃ?」<br>
男「その医者の名前、なんて言ったか知ってるか?」</p>
<br>
<p>御爺さんは、暫く考え込んで。<br>
こう言った。</p>
<br>
<p>爺「うーん・・・覚えてないのぉ・・・」<br>
男「・・・そうですか・・・」<br>
爺「スマンな、役に立てなくって。」<br>
男「良いんです、大体足跡が分かりましたから。」<br>
爺「そうか・・・お兄さんも頑張れよ?」<br>
男「では・・・」</p>
<br>
<p>男はそう言うと、部屋から出た。</p>
<br>
<p>男「・・・ローゼン公爵・・・」<br>
男「・・・残された民達は、彼方を探しています・・・」<br>
男「いるのなら・・・出てきてくださいよ?」</p>
<br>
<p>そう言うと、男はドアから出ると、消失した。<br>
その男が消えてから数分後、御爺さんは独り言を呟いていた。</p>
<br>
<p>爺「桜田君は、覚えてるかのぉ・・・」<br>
爺「最初に会ったとき、あの子はずっと泣いて、謝って来たな・・・」<br>
爺「わしが、理由を聞くと、あの子は。」<br>
爺「【僕のせいで、貴方の子供の亡骸を、全部使ってしまってゴメンなさい。】だったっけ?」<br>
爺「1時間位ずっと泣きっ放しで・・・疲れたろうに・・・」<br>
爺「その後だ・・・アレをくれたのは。」</p>
<br>
<p>そう言うと、部屋の隅から。<br>
白く、人の腕の程の太さの“杖”を取り出す。<br>
その杖は、まるで質量を感じさせないように、御爺さんが軽々持っていて。<br>
杖の所々に、色々な装飾が施されていた。</p>
<br>
<p>爺「之はな・・・あの子の骨なんじゃ。」<br>
爺「何でも【之は、カズキ君の骨の部分を使って、作った物です。】ってな。」<br>
爺「あの子は、そういう子なんじゃよ。」<br>
爺「・・・あの子。」<br>
爺「之をカズキの形見に、しろと言ったんじゃが。」<br>
爺「如何にも、あの子の中に居る様な気がしてな・・・」<br>
爺「全く使えんのじゃ、これ。」</p>
<br>
<p>そう言うと、その杖を机に置く。</p>
<br>
<p>爺「如何しようかのぉ・・・この杖・・・」<br>
爺「・・・置いておくかの・・・」</p>
<br>
<p>そう言うと、杖を元の所に仕舞った。<br>
・・・御爺さんは、気が付いていない。<br>
その杖が、年に数センチ変形しているのを。<br>
御爺さんは知らない。<br>
その杖で、ジュンのDNAが息衝いているのを。<br>
御爺さんは・・・<br>
何も知らない。</p>
<br>
<p>・・・ガタッ・・・</p>
<br>
<p>爺「?今何か動いたかの?」</p>
<br>
<p>そう言うと、杖のある部屋を覗く。<br>
その部屋には、一応作った息子の遺影と。<br>
ジュンの骨から作った杖を、仕舞った箱しかない。<br>
御爺さんは空耳だと思うと、その部屋から出て行く。</p>
<br>
<p>・・・ゴソッ・・・</p>
<br>
<p>・・・杖の成長は、今も続いていく。</p>
<br>
<p>それに気が付いているのは。<br>
誰も居ない、そして・・・<br>
その杖の表面に・・・<br>
ジュンを求めて蠢く・・・<br>
小さな小さな、細胞があるのも・・・<br>
誰も・・・<br>
知らない・・・</p>
<br>
<p>爺「ふむ・・・」<br>
爺「今度あの杖を、ジュン君に送るかの・・・」<br>
爺「もしかしたら、役に立つかもしれんし。」<br>
爺「役に立たないわけでも、恐らくなかろう。」<br>
爺「そうなったら、郵便手続きを踏まんとなぁ・・・」</p>
<br>
<p>・・・ピクン・・・</p>
<br>
<p>
爺「それにしても・・・あの部屋にカズキの亡霊でもおるのかの?」<br>
爺「良く空耳が聞こえるんじゃが・・・」</p>
<br>
<p>かくして運命は・・・<br>
少しづつ少しづつ・・・<br>
謎の方向に向かって・・・<br>
進んでいた・・・<br>
結末を知るのは・・・<br>
之を作ったはずの神でさえ・・・<br>
分からなくなるほど・・・<br>
何千年前から・・・<br>
蠢いていた・・・</p>
<br>
<p>それは、一つの些細な出来事だった。<br>
一人の男の撒いた、些細な種は。<br>
かくして実を為し。<br>
ストーリーとして。<br>
成熟しつつあった。</p>
<br>
<p>紅い、紅い、彼岸花となって。<br>
紅い、紅い、雨を降らせる為に。</p>
<br>
<p>ジュクッ・・・</p>
<br>
<p>骨は嬉々として、小さく音を立てた。</p>