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―皐月の頃 その2―」(2006/07/02 (日) 00:34:30) の最新版変更点

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<br>   翠×雛の『マターリ歳時記』<br> <br> ―皐月の頃 その2―  【5月5日  端午】<br> <br> <br> 蒼星石の留学先に来て早三日が過ぎ、明日には帰国の途に就かねばならないのに、<br> 翠星石は、依然として蒼星石に会えずにいた。<br> 日中は、みっちゃんの手伝いでキャンパスに詰めているから、<br> 昼食時や休み時間などに、ひょいと再会できるものと思っていたのだが……。<br> <br> 「……どうにも、私の考えが甘かったみてぇです」<br> <br> 雛苺、みっちゃんに挟まれ、食堂のテーブルに着いていた翠星石が、<br> 白いソーセージの付け合わせであるザワークラウトをフォークで突き突き、憮然と呟いた。<br> それを聞きつけて、みっちゃんがチラと視線を向ける。<br> <br> 「どうかしたの、翠星石ちゃん? もしかして、ザワークラウト嫌い?<br>  まさか、ヴァイスブルストが苦手ってワケないわよね」<br> 「好き嫌いは、良くないのよー。だから、翠ちゃんは頭に栄養が回らなくて、<br>  肝心なところで間が抜――痛ったぁ~い!」<br> <br> 暴言を吐く雛苺の脳天に手刀を叩き込んでから、<br> 翠星石は、みっちゃんの疑問に答えた。<br> <br> 「食事の好みとかの話じゃねぇです。みっちゃんの手伝いだと聞いてたから、<br>  もっと簡単な雑用で、それが終われば自由時間になると思ってたです」<br> 「あれぇ? ひょっとして、遊び感覚だったのかなあ、君は」<br> みっちゃんは、からかうように眼鏡の奥の目を細めて、翠星石の頬を指でつついた。<br> <br> 「いけませんなあ。これも講義の一環なんだってば」<br> 「あ痛たっ! みっちゃん、爪が刺さるですぅ!」<br> 「ええ~? そんなに尖らせてないわよお?」<br> <br> と戯けながらも、指を除けるみっちゃん。女の子の顔に傷を付ける様な真似はしない。<br> <br> 「まあ、冗談はさておいて……なにか、用事でも有るの?」<br> <br> さり気なく、翠星石の皿からソーセージを奪取して、みっちゃんは訊ねた。<br> その問に答えたのは、訊かれた本人ではなく、雛苺だった。<br> <br> 「実はね、翠ちゃんの妹の蒼星石って娘が、この大学に留学してるの」<br> 「私の、双子の妹ですぅ」<br> 「っ?! マジで? それなら、きっと良い被写……げふんげふん。<br>  あ~……つまり、その子に会いに行く時間が無い――と、こういうワケね」<br> 「流石は、みっちゃんなの。話が早いのよー」<br> 「んふふふ…………まぁねぇ」<br> <br> みっちゃんは、新しい玩具を見付けた子供みたいに、にへら……と笑った。<br> <br> 「そう言う大事なことは、予め報告しておくものよ。意志の疎通の為にもね」<br> 「は、はい……ですぅ」<br> 「まあ、話は解ったわ。今日の午後は、もういいから、会って来なさいな」<br> 「!! ほ、ホントです? ホントに良いですか?」<br> <br> 予期しない答えに、素っ頓狂な声を上げる翠星石。<br> みっちゃん、ウインクしてサムズアップ。「その代わり、今夜、妹さんを紹介してね♪」<br> <br> 思いがけず時間を得た翠星石は、雛苺に付き添って貰い、蒼星石を探した。<br> キャンパスは広く、何処が何処だか分かり難い。<br> 帰国子女にして語学に堪能な雛苺の協力なしに、探すことは困難だった。<br> <br> 「ねえ、蒼ちゃんって、どんな学科を専攻してるのー?」<br> <br> それを知らずして、探し当てる事など出来ない。<br> 翠星石は、訊ねる雛苺に答えた。<br> <br> 「私にも、詳しい名称は分からねぇですぅ。大まかに、植物学くらいしか」<br> 「それじゃ大まかすぎるの。まあ、学科棟は絞り込めると思うけど――」<br> 「そうそう、新種の植物の研究とか、栽培をしてるみたいですぅ。<br>  最近の地球環境の変化で、人知れず絶滅してゆく植物を保護するのが、<br>  蒼星石の夢なのです」<br> 「うよー……それって、凄くスケールの大きいお話なのよー」<br> 「でも、後世に知識を残すための、大切な仕事です。素晴らしい夢ですぅ」<br> <br> 私も、蒼星石の隣で手伝えたら……どんなに嬉しいだろう。<br> 蒼星石と、同じ夢を追い掛けられたら……どんなに幸せだろう。<br> <br> 翠星石は、そう思わずにいられなかった。<br> <br> (でも…………私まで家を出るワケには、いかねぇです。<br>  おじじも、おばばも、きっと寂しがるです。寿命が縮んじまうです)<br> <br> 今は、まだ……別々の道を歩み続けるしかない。<br> けれど、いつかは二つの道を一本に纏めて、二人並んで歩いていきたい。<br> そんな願望を胸にキャンパス内を見回っていた翠星石が、急に狼狽えて、<br> 雛苺の背後にこそこそと隠れた。<br> <br> 「うゆ? どうしたなの?」<br> 「しいっ! や、や、ヤツですっ」<br> 「ヤツ?」<br> 「オディールですぅ!」<br> <br> 翠星石は、雛苺の耳元で囁き、ある一方を指差した。<br> 雛苺が、視線で彼女の指先を辿っていくと、そこには可愛らしい金髪の娘が、<br> 友達と愉しげにお喋りしながら歩いていた。<br> <br> 「あの娘なのね。翠ちゃんが話してた、蒼ちゃんのルームメイトって」<br> 「そ、そうです。あの泥棒猫に間違いねぇですっ!」<br> 「泥棒って……証拠もないのに、人聞き悪いのよー。<br>  取り敢えず、ヒナがお話してくるの。あの娘に聞けば、蒼ちゃんの居場所が判るの」<br> <br> 雛苺は「ちょっと、待っててなの」と告げて、翠星石を残し、<br> オディールの元へ駆け寄って行った。なにやら外国語で話しかける雛苺。<br> どうやら言葉が通じたらしく、雛苺とオディールは、にこやかに談笑していた。<br> ……が、なかなか、本題に入っていない様子だ。<br> <br> 「ああ、もう。な~に雑談なんかしてるです!<br>  さっさと蒼星石の居場所を聞き出しやがれですっ」<br> <br> 翠星石は焦れったそうに、親指の爪を噛んだ。<br> すると、翠星石のフラストレーションが伝播したのか、不意に雛苺は振り返って、<br> 翠星石の居る方を指差した。オディールも、雛苺の示す方に顔を向ける。<br> 「あわわわわっ! な、なんで、こっちを指差すですっ?!」<br> <br> 慌てた翠星石は、手近な木の陰に飛び込み、隠れた。<br> いざとなると、どうしても人見知りしてしまう。<br> まして、オディールとは初対面。何から話して良いのか、ちっとも解らない。<br> キッチリと話を付けてやるつもりだったのに…………膝が震えていた。<br> <br> 「うぅ~。ここまで来ていながら、情けねぇです。<br>  こーなったら、話なんかせず、ひと思いに後頭部をガツンと――」<br> 「もー。なんで隠れてるのー」<br> 「ひうっ?!」<br> <br> いきなり声を掛けられて、翠星石は五センチほど飛び上がった。<br> よからぬ事を企んでいたのだから、無理もない。<br> <br> 「お、おバカ苺っ! 驚かすなで……ですうぅ?!?!」<br> <br> いきり立った翠星石が振り返った先には、不思議そうな面持ちの雛苺と、<br> 彼女の背後に佇むオディールの姿があった。<br> <br> 「こんにちは。貴女が、蒼星石のお姉さんね」<br> <br> いきなり蒼星石を呼び捨てにされて、ムッと眉を吊り上げる翠星石。<br> <br> (な、馴れ馴れしいヤツですぅ!<br>  なんです、その『蒼星石は俺の嫁』みたいな態度は。気に入らねぇですっ!<br>  この泥棒猫をヌッ殺して、私も死ぬですぅ!)<br> <br> 翠星石は、獲物を前にした豹のように、襲いかかるタイミングを計り始めた。<br> <br> 一方のオディールは、翠星石の殺気には全く気付かず、笑顔で話しかけてくる。<br> <br> 「初めまして。私はオディール=フォッセー。<br>  もう御存知でしょうけど、蒼星石のルームメイトよ」<br> 「……し、し、知ってるです。メールで、写真を見たですから」<br> 「私も、貴女のこと知ってるわ。貴女の姿は、毎日、目にしてきたのよ。<br>  蒼星石の机の写真立てに、貴女のブロマイドが飾られているんだもの」<br> 「そ、そうなの……ですか?」<br> 「ええ。蒼星石の、一番の宝物なんですって。とても大切にしているわ」<br> <br> そんな話をされては、翠星石も満更ではない。<br> 翠星石は単純にも、それまで抱いていた殺意を、すっかり忘れてしまった。<br> <br> (うんうん。やっぱり、蒼星石は私のことを一番に想ってくれてるですぅ)<br> <br> そうと解れば、あとは再会を楽しむのみだ。<br> 翠星石は上機嫌で、オディールに蒼星石の所在を訊ねた。<br> <br> ところが、オディールは「それがね――」と表情を曇らせ、言い辛そうに続けた。<br> <br> 「蒼星石は、今……この街に居ないのよ」<br> 「……えっ?」<br> <br> 翠星石の笑顔が凍り付いた。「どういう…………コト、です?」<br> <br> 「今月の初頭から、教授のお手伝いで採取チームに同行しているの」<br> 「そんなっ! いつです? 蒼星石は、いつ戻るです?」<br> 縋り付いてくる翠星石に、オディールは沈痛な面持ちで告げた。<br> <br> 「採取調査は、一週間の予定よ。多分……早くても七日の午後になるわね」<br> 「っ!!」<br> <br> 翠星石たちは、明日、この国を去らなければならない。<br> たった一日の差で、会えないだなんて――<br> <br> 「そんなのって…………ねぇです」<br> <br> へなへなと、力無く膝から崩れ落ちる翠星石を、雛苺とオディールが支える。<br> 翠星石の瞳から、ぽろ、ぽろ、と悲しみの雫が落ちて、アスファルトを濡らした。<br> <br> 「こんな酷ぇ話はねぇです! やっと、ここまで来たのに……何故なのですっ!」<br> 「本当に、急に決まった話なのよ。蒼星石も、貴女に再会するのを心待ちにしてた。<br>  でも、慌ただしく出発することになって……。<br>  蒼星石も、なんとか貴女に連絡しようと試みていたのよ」<br> 「でも……時差の関係で、間に合わなかったのね。翠ちゃん、可哀想なの」<br> <br> ――蒼星石も、再会を心待ちにしてくれていた。<br> <br> オディールの口から語られた、その事実だけが、翠星石にとって唯一の慰めだった。<br> 切望していただけに落胆も大きいけれど、これが今生の別れではない。<br> あと数ヶ月すれば、夏休みも有るし、蒼星石の留学期間も終わる。<br> 会おうと思えば、まだまだチャンスは作れるのだ。<br> お互いが、会いたいと願い続ける限り――<br> <br> 翠星石は、人差し指の背で涙を拭うと、自分の足で、気丈に立ち上がった。<br> けれど、未練を表す涙が、あとからあとから……翠星石の頬を濡らし続けた。<br> <br> <hr> <br> 『保守がわり番外編  ×××だよ人生は』<br> <br> 翠「お題が決まっちまったんじゃあ、しゃーねぇです。ハニワを創ってやるです!」<br> 雪「了解しましたわ。では、早速・・・」<br> 薔「粘土を配って、れっつごー!」<br> <br>  こねこねこね・・・・・・<br> <br> 翠「粘土をこねてると、みんな静かですね。な~んか退屈ですぅ」<br> 薔「・・・そういう時は、気晴らしに唄を歌うのがセオリー」<br> 雪「いいアイディアですわ。それじゃあ、薔薇しぃちゃん。いきますわよ」<br> 薔「おっけー。こほんこほん・・・では」<br> <br> 薔「飲めと言われて素直に(ry」<br> 雪「肩を抱かれてその気に(ry」<br> 翠「?!?! お、お前ら、どーして急に演歌を唄いだすですかっ!」<br> 薔「・・・知らないの? これは、ハニワ造りの唄だよ~」<br> 雪「ハニワ節だよ人生は・・・ですわ」<br> 翠「・・・・・・ふふん。バカばっかですぅ」<br> 雪「!!!」<br> 薔「!!!」<br> <br> 翠「? な、なんです? お前ら、なんか・・・眼が怖ぇですよ」<br> 雪「翠星石さん。貴女は禁句を口にしてしまったのですわ」<br> 薔「私たちに暴言を吐いた罰として、生きたままハニワにしてやる」<br> 翠「な、なななっ! 何しやがるですっ! は、放しやがれですぅ~っ!」<br> <br> ・・・続く<br>
<br>   翠×雛の『マターリ歳時記』<br> <br> ―皐月の頃 その2―  【5月5日  端午】前編<br> <br> <br> 蒼星石の留学先に来て早三日が過ぎ、明日には帰国の途に就かねばならないのに、<br> 翠星石は、依然として蒼星石に会えずにいた。<br> 日中は、みっちゃんの手伝いでキャンパスに詰めているから、<br> 昼食時や休み時間などに、ひょいと再会できるものと思っていたのだが……。<br> <br> 「……どうにも、私の考えが甘かったみてぇです」<br> <br> 雛苺、みっちゃんに挟まれ、食堂のテーブルに着いていた翠星石が、<br> 白いソーセージの付け合わせであるザワークラウトをフォークで突き突き、憮然と呟いた。<br> それを聞きつけて、みっちゃんがチラと視線を向ける。<br> <br> 「どうかしたの、翠星石ちゃん? もしかして、ザワークラウト嫌い?<br>  まさか、ヴァイスブルストが苦手ってワケないわよね」<br> 「好き嫌いは、良くないのよー。だから、翠ちゃんは頭に栄養が回らなくて、<br>  肝心なところで間が抜――痛ったぁ~い!」<br> <br> 暴言を吐く雛苺の脳天に手刀を叩き込んでから、<br> 翠星石は、みっちゃんの疑問に答えた。<br> <br> 「食事の好みとかの話じゃねぇです。みっちゃんの手伝いだと聞いてたから、<br>  もっと簡単な雑用で、それが終われば自由時間になると思ってたです」<br> 「あれぇ? ひょっとして、遊び感覚だったのかなあ、君は」<br> みっちゃんは、からかうように眼鏡の奥の目を細めて、翠星石の頬を指でつついた。<br> <br> 「いけませんなあ。これも講義の一環なんだってば」<br> 「あ痛たっ! みっちゃん、爪が刺さるですぅ!」<br> 「ええ~? そんなに尖らせてないわよお?」<br> <br> と戯けながらも、指を除けるみっちゃん。女の子の顔に傷を付ける様な真似はしない。<br> <br> 「まあ、冗談はさておいて……なにか、用事でも有るの?」<br> <br> さり気なく、翠星石の皿からソーセージを奪取して、みっちゃんは訊ねた。<br> その問に答えたのは、訊かれた本人ではなく、雛苺だった。<br> <br> 「実はね、翠ちゃんの妹の蒼星石って娘が、この大学に留学してるの」<br> 「私の、双子の妹ですぅ」<br> 「っ?! マジで? それなら、きっと良い被写……げふんげふん。<br>  あ~……つまり、その子に会いに行く時間が無い――と、こういうワケね」<br> 「流石は、みっちゃんなの。話が早いのよー」<br> 「んふふふ…………まぁねぇ」<br> <br> みっちゃんは、新しい玩具を見付けた子供みたいに、にへら……と笑った。<br> <br> 「そう言う大事なことは、予め報告しておくものよ。意志の疎通の為にもね」<br> 「は、はい……ですぅ」<br> 「まあ、話は解ったわ。今日の午後は、もういいから、会って来なさいな」<br> 「!! ほ、ホントです? ホントに良いですか?」<br> <br> 予期しない答えに、素っ頓狂な声を上げる翠星石。<br> みっちゃん、ウインクしてサムズアップ。「その代わり、今夜、妹さんを紹介してね♪」<br> <br> <br> 思いがけず時間を得た翠星石は、雛苺に付き添って貰い、蒼星石を探した。<br> キャンパスは広く、何処が何処だか分かり難い。<br> 帰国子女にして語学に堪能な雛苺の協力なしに、探すことは困難だった。<br> <br> 「ねえ、蒼ちゃんって、どんな学科を専攻してるのー?」<br> <br> それを知らずして、探し当てる事など出来ない。<br> 翠星石は、訊ねる雛苺に答えた。<br> <br> 「私にも、詳しい名称は分からねぇですぅ。大まかに、植物学くらいしか」<br> 「それじゃ大まかすぎるの。まあ、学科棟は絞り込めると思うけど――」<br> 「そうそう、新種の植物の研究とか、栽培をしてるみたいですぅ。<br>  最近の地球環境の変化で、人知れず絶滅してゆく植物を保護するのが、<br>  蒼星石の夢なのです」<br> 「うよー……それって、凄くスケールの大きいお話なのよー」<br> 「でも、後世に知識を残すための、大切な仕事です。素晴らしい夢ですぅ」<br> <br> 私も、蒼星石の隣で手伝えたら……どんなに嬉しいだろう。<br> 蒼星石と、同じ夢を追い掛けられたら……どんなに幸せだろう。<br> <br> 翠星石は、そう思わずにいられなかった。<br> <br> (でも…………私まで家を出るワケには、いかねぇです。<br>  おじじも、おばばも、きっと寂しがるです。寿命が縮んじまうです)<br> <br> 今は、まだ……別々の道を歩み続けるしかない。<br> けれど、いつかは二つの道を一本に纏めて、二人並んで歩いていきたい。<br> そんな願望を胸にキャンパス内を見回っていた翠星石が、急に狼狽えて、<br> 雛苺の背後にこそこそと隠れた。<br> <br> 「うゆ? どうしたなの?」<br> 「しいっ! や、や、ヤツですっ」<br> 「ヤツ?」<br> 「オディールですぅ!」<br> <br> 翠星石は、雛苺の耳元で囁き、ある一方を指差した。<br> 雛苺が、視線で彼女の指先を辿っていくと、そこには可愛らしい金髪の娘が、<br> 友達と愉しげにお喋りしながら歩いていた。<br> <br> 「あの娘なのね。翠ちゃんが話してた、蒼ちゃんのルームメイトって」<br> 「そ、そうです。あの泥棒猫に間違いねぇですっ!」<br> 「泥棒って……証拠もないのに、人聞き悪いのよー。<br>  取り敢えず、ヒナがお話してくるの。あの娘に聞けば、蒼ちゃんの居場所が判るの」<br> <br> 雛苺は「ちょっと、待っててなの」と告げて、翠星石を残し、<br> オディールの元へ駆け寄って行った。なにやら外国語で話しかける雛苺。<br> どうやら言葉が通じたらしく、雛苺とオディールは、にこやかに談笑していた。<br> ……が、なかなか、本題に入っていない様子だ。<br> <br> 「ああ、もう。な~に雑談なんかしてるです!<br>  さっさと蒼星石の居場所を聞き出しやがれですっ」<br> <br> 翠星石は焦れったそうに、親指の爪を噛んだ。<br> すると、翠星石のフラストレーションが伝播したのか、不意に雛苺は振り返って、<br> 翠星石の居る方を指差した。オディールも、雛苺の示す方に顔を向ける。<br> 「あわわわわっ! な、なんで、こっちを指差すですっ?!」<br> <br> 慌てた翠星石は、手近な木の陰に飛び込み、隠れた。<br> いざとなると、どうしても人見知りしてしまう。<br> まして、オディールとは初対面。何から話して良いのか、ちっとも解らない。<br> キッチリと話を付けてやるつもりだったのに…………膝が震えていた。<br> <br> 「うぅ~。ここまで来ていながら、情けねぇです。<br>  こーなったら、話なんかせず、ひと思いに後頭部をガツンと――」<br> 「もー。なんで隠れてるのー」<br> 「ひうっ?!」<br> <br> いきなり声を掛けられて、翠星石は五センチほど飛び上がった。<br> よからぬ事を企んでいたのだから、無理もない。<br> <br> 「お、おバカ苺っ! 驚かすなで……ですうぅ?!?!」<br> <br> いきり立った翠星石が振り返った先には、不思議そうな面持ちの雛苺と、<br> 彼女の背後に佇むオディールの姿があった。<br> <br> 「こんにちは。貴女が、蒼星石のお姉さんね」<br> <br> いきなり蒼星石を呼び捨てにされて、ムッと眉を吊り上げる翠星石。<br> <br> (な、馴れ馴れしいヤツですぅ!<br>  なんです、その『蒼星石は俺の嫁』みたいな態度は。気に入らねぇですっ!<br>  この泥棒猫をヌッ殺して、私も死ぬですぅ!)<br> <br> 翠星石は、獲物を前にした豹のように、襲いかかるタイミングを計り始めた。<br> <br> 一方のオディールは、翠星石の殺気には全く気付かず、笑顔で話しかけてくる。<br> <br> 「初めまして。私はオディール=フォッセー。<br>  もう御存知でしょうけど、蒼星石のルームメイトよ」<br> 「……し、し、知ってるです。メールで、写真を見たですから」<br> 「私も、貴女のこと知ってるわ。貴女の姿は、毎日、目にしてきたのよ。<br>  蒼星石の机の写真立てに、貴女のブロマイドが飾られているんだもの」<br> 「そ、そうなの……ですか?」<br> 「ええ。蒼星石の、一番の宝物なんですって。とても大切にしているわ」<br> <br> そんな話をされては、翠星石も満更ではない。<br> 翠星石は単純にも、それまで抱いていた殺意を、すっかり忘れてしまった。<br> <br> (うんうん。やっぱり、蒼星石は私のことを一番に想ってくれてるですぅ)<br> <br> そうと解れば、あとは再会を楽しむのみだ。<br> 翠星石は上機嫌で、オディールに蒼星石の所在を訊ねた。<br> <br> ところが、オディールは「それがね――」と表情を曇らせ、言い辛そうに続けた。<br> <br> 「蒼星石は、今……この街に居ないのよ」<br> 「……えっ?」<br> <br> 翠星石の笑顔が凍り付いた。「どういう…………コト、です?」<br> <br> 「今月の初頭から、教授のお手伝いで採取チームに同行しているの」<br> 「そんなっ! いつです? 蒼星石は、いつ戻るです?」<br> 縋り付いてくる翠星石に、オディールは沈痛な面持ちで告げた。<br> <br> 「採取調査は、一週間の予定よ。多分……早くても七日の午後になるわね」<br> 「っ!!」<br> <br> 翠星石たちは、明日、この国を去らなければならない。<br> たった一日の差で、会えないだなんて――<br> <br> 「そんなのって…………ねぇです」<br> <br> へなへなと、力無く膝から崩れ落ちる翠星石を、雛苺とオディールが支える。<br> 翠星石の瞳から、ぽろ、ぽろ、と悲しみの雫が落ちて、アスファルトを濡らした。<br> <br> 「こんな酷ぇ話はねぇです! やっと、ここまで来たのに……何故なのですっ!」<br> 「本当に、急に決まった話なのよ。蒼星石も、貴女に再会するのを心待ちにしてた。<br>  でも、慌ただしく出発することになって……。<br>  蒼星石も、なんとか貴女に連絡しようと試みていたのよ」<br> 「でも……時差の関係で、間に合わなかったのね。翠ちゃん、可哀想なの」<br> <br> ――蒼星石も、再会を心待ちにしてくれていた。<br> <br> オディールの口から語られた、その事実だけが、翠星石にとって唯一の慰めだった。<br> 切望していただけに落胆も大きいけれど、これが今生の別れではない。<br> あと数ヶ月すれば、夏休みも有るし、蒼星石の留学期間も終わる。<br> 会おうと思えば、まだまだチャンスは作れるのだ。<br> お互いが、会いたいと願い続ける限り――<br> <br> 翠星石は、人差し指の背で涙を拭うと、自分の足で、気丈に立ち上がった。<br> けれど、未練を表す涙が、あとからあとから……翠星石の頬を濡らし続けた。<br> <br> <hr> <br> 『保守がわり番外編  ×××だよ人生は』<br> <br> 翠「お題が決まっちまったんじゃあ、しゃーねぇです。ハニワを創ってやるです!」<br> 雪「了解しましたわ。では、早速・・・」<br> 薔「粘土を配って、れっつごー!」<br> <br>  こねこねこね・・・・・・<br> <br> 翠「粘土をこねてると、みんな静かですね。な~んか退屈ですぅ」<br> 薔「・・・そういう時は、気晴らしに唄を歌うのがセオリー」<br> 雪「いいアイディアですわ。それじゃあ、薔薇しぃちゃん。いきますわよ」<br> 薔「おっけー。こほんこほん・・・では」<br> <br> 薔「飲めと言われて素直に(ry」<br> 雪「肩を抱かれてその気に(ry」<br> 翠「?!?! お、お前ら、どーして急に演歌を唄いだすですかっ!」<br> 薔「・・・知らないの? これは、ハニワ造りの唄だよ~」<br> 雪「ハニワ節だよ人生は・・・ですわ」<br> 翠「・・・・・・ふふん。バカばっかですぅ」<br> 雪「!!!」<br> 薔「!!!」<br> <br> 翠「? な、なんです? お前ら、なんか・・・眼が怖ぇですよ」<br> 雪「翠星石さん。貴女は禁句を口にしてしまったのですわ」<br> 薔「私たちに暴言を吐いた罰として、生きたままハニワにしてやる」<br> 翠「な、なななっ! 何しやがるですっ! は、放しやがれですぅ~っ!」<br> <br> ・・・続く<br>

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