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「―卯月の頃―」(2006/06/16 (金) 02:18:51) の最新版変更点
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翠×雛の『マターリ歳時記』<br>
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―卯月の頃― 【4月5日 清明】<br>
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四月に入り、長かった春休みも、残すところ数日となっていた。<br>
三月末まででバイトは終了しているので、今は、四年目の大学生活に向けて、<br>
あれこれと準備を進めているところだ。就職か、修士課程への進学か、迷ってもいた。<br>
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「早いもんですぅ。もう四年生になるですね」<br>
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翠星石は、自室の壁に掛けたカレンダーを眺めながら、しみじみと独りごちた。<br>
もう、四月。蒼星石が海外の大学の編入試験に合格して、この家を出てから、<br>
半年以上が過ぎたことになる。<br>
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留学というと、費用面など諸々の問題で、大概は半年間を選択する。<br>
しかし、蒼星石が選んだのは、一年間のコースだった。<br>
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『半年で学べる量なんて、高が知れてる。だから、ボクは一年間、勉強してくるよ。<br>
中途半端な留学なら、しない方がマシだと思うから』<br>
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そんな台詞を残して、彼女は海外へと飛び立って行った。<br>
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毎日、電子メールが送られてきて、時々、祖父母宛に絵葉書が届く。<br>
でも、蒼星石は帰って来ない。<br>
自分の信念を貫いて、一年間、一度も帰国しないつもりなのだろう。<br>
翠星石は、会えない寂しさを紛らすために、今日もノートパソコンに向かった。<br>
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「あ、新着メールが有るですぅ」<br>
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メールアドレスで、蒼星石からだと分かった。昨夜の内に、着いていたらしい。<br>
逸る気持ちを抑えようともせず、翠星石はメールを開いた。<br>
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内容は、いつも通りの近況報告である。今日も元気に、頑張っているらしい。<br>
短い文面には、異国の地での苦悩など、全く見て取れなかった。<br>
半年以上を過ごして、生活リズムが安定してきた証拠だろう。<br>
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本来なら、蒼星石の努力を賞賛すべきなのだが――<br>
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(また……ちょっとずつ遠ざかっていくです)<br>
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最愛の妹が、手の届かない遠くへと行ってしまうみたいに思えて、<br>
翠星石は、素直に喜ぶことが出来なかった。<br>
不謹慎だけれど、蒼星石の身に何かが起きて、緊急帰国する必要が生じたなら、<br>
翠星石は心の中で拍手喝采しただろう。<br>
つい、そう思ってしまうくらいに、彼女の寂寥感は募っていた。<br>
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「……会いたいですよ、蒼星石」<br>
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ポツリと呟きながら、ふと添付ファイル欄を確認すると、珍しく、<br>
画像ファイルが添付されていた。<br>
月が変わったから、四月の誕生花である藤の花を、添付してきたのかも知れない。<br>
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何気なく開いた翠星石は、思いがけない写真を眼にして、思わず息を呑んだ。<br>
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『姉さん。新しいルームメイトが出来たよ』<br>
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写真の添え書きには、そうあった。<br>
大学の構内で撮影されたのだろうか。花壇を背にして、穏やかに微笑む蒼星石。<br>
その隣には、鮮やかな金髪の娘が肩を寄せて並び、はにかんでいた。<br>
服装は清楚な感じで、可愛らしい。なかなかの美人だ。<br>
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「ルームメイトって……同居人ってコトじゃねぇですかっ!」<br>
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娘の名前は、書き忘れたらしくて、どこにも記載されていない。<br>
けれど、名前なんて、この際どうでも良い。<br>
一番の問題は、この娘が、蒼星石と同じ部屋に暮らしている……と言うこと。<br>
この娘が、蒼星石の隣で微笑み、寝食を共にして、一日の大半を共有している。<br>
そう考えるだけで、翠星石の心は千々に乱れた。<br>
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「こ、この娘が……蒼星石と…………買い物したり、食事したり?<br>
まさか、一緒にシャワー浴びたり、一緒のベッドで寝たり?<br>
き、きぃ――っ!! ゆゆゆ、許せねぇですぅ! 呪い殺してやるですっ!」<br>
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錯乱気味に、なにやら物騒なコトを翠星石が口走った直後、<br>
パソコンの脇に置いてあった携帯電話が鳴った。通常着信だ。<br>
翠星石はビクッ!? と肩を震わせて、電話に出た。<br>
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「も、もしもし、ですぅ」<br>
「翠ちゃん? おっはよーなのー」<br>
「うっ……朝からテンション高ぇですね。鼓膜が痺れたですぅ」<br>
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電話の相手は、雛苺だった。<br>
雛苺は、何やら興奮気味に声を弾ませて、話を続けた。<br>
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「ヒナね、今朝、すっごい発見をしちゃったのよー」<br>
「雛苺、『すっごい』と『発見』の間に『下らない』が抜けてるですよ」<br>
「ああっ! なんて酷いこと言うのー? 信じらんないのっ」<br>
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だって、いつものコトだから。<br>
心で思っても、無論、決して口にはしない。<br>
それが大人のレディの対応ですぅ、と胸裏で呟き、口では雛苺を宥めた。<br>
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「そう拗ねるなです。話くらい聞いてやるから、とっとと話すです」<br>
「……なんで、そんなに偉そうなのか解らないけど……特別に教えてあげるから、<br>
耳の穴かっぽじって、よぉ~く聞きやがれ、なのー」<br>
「雛苺こそ、最近、妙に口が悪くなったですぅ」<br>
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その理由が自分に有るとは、夢にも思わない翠星石だった。<br>
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「今朝、目が覚めたときの事なの。<br>
実は、今日って陰陽師の、あべのせいめいの誕生日だったのよー!」<br>
「な、なんだってー!? です。でも、どうして解ったです?」<br>
「カレンダーを見ると、清明って書いてあるのっ」<br>
「…………おバカ」<br>
「うよ?」<br>
「清明って言うのは二十四節気のひとつで、春分から十五日目の事ですぅ。<br>
おまけに、字が違うです。安倍晴明は、晴れの字、清明は清いの字ですよ」<br>
「…………こ、これは……そう! こーめーの罠なのよー!」<br>
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見苦しい言い訳をする雛苺に、翠星石の声は自然と大きくなった。<br>
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「間違ったクセに開き直るなんて、言語相談ですぅ!」<br>
「それを言うなら、言語道断なの」<br>
「……と、とにかく、下らない電話して、私に迷惑かけた罪滅ぼしはするですっ」<br>
「うゅ~。解ったのよ。ヒナは、どうすれば良いの?」<br>
「取り敢えず、今日の遊行費は雛苺が持つですよ」<br>
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少しばかり悄気てしまった雛苺に、翠星石は遠慮会釈なく言い放った。<br>
だが勿論、半分は冗談である。自分が遊ぶ費用くらい、自分で出す。<br>
もう半分の本音とは、些か分かり難いが、これから一緒に、遊びに行こうとの誘いだった。<br>
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しかし、そこは付き合いの長い雛苺のこと。<br>
すぐに翠星石の真意を悟って、了承の返事を返してきた。<br>
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それから数時間後、翠星石と雛苺は、女性専用列車『百合かもめ』に乗って、<br>
新副都心の方を、ぶらぶらと散策した。<br>
これといった当てもなく、一日乗車券を使って散歩するのも、なかなか楽しい。<br>
けれども、翠星石の心は晴れない。<br>
蒼星石のメールで見たルームメイトの娘が、どうしても気になってしまった。<br>
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結局、丸一日を費やして、雛苺と遊び倒したのに、気分は重いままだった。<br>
翠星石は、自宅へ帰るなり、パソコンに向かってキーボードを叩いた。<br>
人の気も知らないで、なんてメールを寄越したんだろう。<br>
腹立たしさで、ついつい、タイピングが荒っぽくなる。<br>
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『蒼星石のバカ! ルームメイトの娘の名前が、書いてねぇです』<br>
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翠星石は「蒼星石のバカ」と呟いてから、メールを送信した。<br>
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『保守がわり番外編 季節はずれな・・・』<br>
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「ねえ、翠ちゃん。折角つくった藁人形、使わない手はないのよ?」<br>
「・・・いきなり、危ねぇコト言いやがるです。でも、誰を呪うつもりです?」<br>
「そんなの、無記名でいいのっ。さあ、今夜の為に、仮眠とっておくのよー」<br>
「ホントに丑の刻参りするですか・・・・・・って、早っ! もう寝入ってるですぅ」<br>
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「さあ、やって参りました、人里離れた真夜中の神社なのー」<br>
「よく平気な顔してられるですね。私は、こういう雰囲気は苦手ですぅ」<br>
「・・・怖いの?」<br>
「こ、怖くねぇですっ! 苦手だと言っただけですぅ」<br>
「似たようなモノなの・・・・・・って! 今、なにか物音がしたのっ!」<br>
「また、そうやっ・・・・・・?! し、し、したです。確かに、音がしたですっ!」<br>
「何かを打ち付ける様な音なの。もしかしたら、先客さんが居るかも知れないの」<br>
「わ、悪い冗談ですぅ。そんなヤツには遭いたくねぇですよ」<br>
「!? 翠ちゃん! あれ! あそこだけ妙に明るいのよ」<br>
「ひ、ひいぃ・・・見たくねぇです。もう帰るですぅ」<br>
「そう言わずに、もう少し近付いてみるの」<br>
「や、止めるですっ! 気付かれたら、どう言い訳するですか」<br>
「その時は、不運だったと諦めるのっ」<br>
「・・・・・・来なきゃ良かったです」<br>
「しっ! 見えてきたの。白装束に、襷がけの弾帯、はちまきで懐中電灯を頭の両脇に固定してるのよ」<br>
「まさか、去年のパリコレで話題騒然となった、八つ墓村モードです?!」<br>
「・・・みたいなの。意外と、デザイナー志望の人かも知れないのよ」<br>
「デザイナー志望? まさか・・・・・・ジュン・・・です?」<br>
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・・・続いてしまう<br>