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「変らない笑顔(翠)」(2006/02/28 (火) 19:42:12) の最新版変更点
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<p>変らない笑顔(翠)</p>
<p>
放課後の教室。既にほとんどの生徒が帰宅した中、独り帰り支度するJUM。<br>
そんなJUMを少し遠巻きに見つめる視線があった。</p>
<p>J「……まだ残ってたのか」<br>
翠「悪いですか」<br>
教室の出口から見つめる翠星石。<br>
その視線の意味を考えることもなく、足早に立ち去ろうとする。<br>
J「別に。それじゃあ僕は帰るから」<br>
翠「ま、待つですぅ!!」<br>
J「なんだよ。用でもあるのか?」<br>
翠「そ……その。ジュンは今……付き合っている人とかいるですか?」</p>
<p>J「いや。別にそういのはいないよ」<br>
言ってすぐ、翠星石の表情が明るくなる。<br>
翠「そ、そうですかそうですかぁ。それじゃあ……」<br>
J「それだけなら帰るよ。またな」<br>
最後まで聞かずに、鞄を持って教室を出ようとする。<br>
翠「え……あ、ちょ」<br>
出ようとしたところで、そこから歩けなくなる。<br>
引きずられる感覚。弱々しい力で、翠星石が制服の裾を握っていた。</p>
<p>J「何だよ。まだ何かあ」<br>
翠「……好きです」<br>
J「……何?」<br>
翠「……ジュンのことが、好きです」<br>
……予想外、というほどでもなかった。仲は良かったほうだと自分でも思う。<br>
翠「前から、ずっとずっと好きだったです。でもジュンは人気もあったし」<br>
わざと僕につっかかってきていたのは、彼女なりの照れ隠しだったんだ。<br>
翠「真紅や水銀燈と楽しそうにしてるの見て……もう、我慢できなかったです」<br>
少なからず気付いていた。なのに、こんなことを言わせてしまった。<br>
表情は見えないけど、制服を持つ翠星石の手が震えているのがわかる。<br>
翠「翠星石は、ジュンのことが……」<br>
すっと、一歩前に離れる。ひどく心が痛んだ。<br>
J「……ごめん、翠星石」</p>
<p>本当に、付き合っている人間はいない。<br>
だから断った理由は、単純に翠星石が好きな人じゃないからだ。<br>
J「僕は、翠星石とは、付き合えない。だから、ごめん」<br>
拒絶を口にする。でも、断ったからってこのまま帰れはしない。<br>
翠「……ふ、ふん。翠星石みたいな可愛い子を振るなんて」<br>
翠「こんな機会二度となかったですよ。後で、せいぜい後悔する……です」<br>
いつもより少し高い声で、いつもみたいな不遜な笑顔で。<br>
でも、やっぱりいつもと違う、何処か無理したような表情で言いながら。<br>
翠星石が僕の後ろから駆け足で教室を出て行こうとする。<br>
J「……翠星石」<br>
ひどい偽善だと自分で思いながら、後ろから翠星石を抱きしめてしまう。<br>
翠「なにしやがるですか!!もう用はないからさっさと帰るです!!」<br>
叫ぶ声にも、引き離そうと暴れる身体にも力がない。声はかすれてさえいた。<br>
J「……ごめん」<br>
気付いていたのに、こんなことを言わせて苦しませてしまった。<br>
翠「……ぅ……もういいから離すですぅ……そうしないと……ひっく」<br>
翠星石が、泣いている。ぽろぽろと涙が制服の袖にこぼれおちる。</p>
<p>翠「……ぅ……うぅ……好き……です……ジュン」<br>
J「うん。ごめん。……ありがとう」<br>
嗚咽しながらまだ、こんな情けない僕を好きだといってくれる。<br>
付き合いは出来ないけれど、苦しめてしまうだけかもしれないけれど。<br>
J「……ありがとう。本当に、今は全然そういうこと考えてなくて、ごめん」<br>
翠「チビ人間馬鹿ですぅ……ぅ……なんで謝るですかぁ」<br>
J「翠星石に嘘をつきたくないから。だから、ごめん」<br>
翠「ぅ……ワケわかんないです……やっぱり、ジュンは……」<br>
さっきから僕はずっと謝っている。今も、こうして彼女を傷つけているかもしれない。<br>
いっそこれで嫌いになってくれれば楽かもしれないと、少しだけ馬鹿なことを思いながら。<br>
泣きじゃくり続ける翠星石を、ごめんごめんと言いながらなだめ続けた。</p>
<p>
翠「……ふ、ふん。本当に後悔しても知らないですぅ」<br>
時間が経って少し落ち着いたのか、目元は腫れているが表情はいつも通り。<br>
J「そうかもな。まあお前が5年後も独り身だったら僕がもらってやるよ」<br>
翠「ありえないです。もう遅いですぅ。翠星石は引く手数多って知らないですか?」<br>
日が落ちかけた薄暗い教室で、そんな風に軽口を飛ばせるくらいには回復していた。<br>
J「お前顔はともかく性格悪いしなあ。すぐ男に逃げられるんじゃないか」<br>
翠「チビ人間こそ根暗で眼鏡だから一生彼女なんてできないです。惜しいことしたです」<br>
そんな風にくだらないおしゃべりをして、笑いあった。辛かったけれど、嫌ではなかった。<br>
J「……帰ろう。もういい加減遅いし」<br>
翠「そうですね。蒼星石がきっと待ってるです」<br>
教室を出て、靴を履き替えて、校門を出て。そして、分かれ道で手を振りながら別れた。<br>
後ろめたさを、寂寥感を感じながら、駆け足で帰っていく翠星石を見つめていた。<br>
彼女の姿が見えなくなるまで、ずっと。ずっと……</p>
<p>JUMと別れて、一人で帰り道を歩く翠星石。<br>
そんな帰り道には何故か、蒼星石が立っていた。<br>
蒼「……おかえり、翠星石」<br>
翠「あ……あは。ダメ……だったです」<br>
どう見ても空元気な表情、搾り出すような声。<br>
何があったのか、蒼星石はすぐに気付いていた。<br>
蒼「……うん。頑張ったね、翠星石」<br>
翠「……頑張ったけど、ダメだった……です……あ、あれ?」<br>
さっきあれだけ泣いたのに、自然と翠星石の目から涙がこぼれてきていた。<br>
翠「あ、あれ……おかし……なんで」<br>
蒼「……うん、帰ろう」<br>
翠「……ごめ……勝手に……あ、あははは。壊れてしまったみたいですぅ」<br>
笑いながら泣いている翠星石を、蒼星石は抱きしめたりはしなかった。<br>
それは自分の役目じゃあないし、それで翠星石は喜ばないと思った。<br>
蒼「帰って、あったかくして寝て。それでまた元気に学校に行こう」<br>
翠「何言ってる……ですかぁ。翠星石はいつも……元気ですぅ」<br>
蒼星石が優しく手を引きながら。翠星石が笑顔で涙を流しながら。<br>
二人は帰っていった。また、元気で学校に行けるように。<br>
また、変わらない笑顔で話ができるように。</p>
<p>完</p>