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予感 - (2009/04/19 (日) 22:37:46) のソース

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車は走る。<br /><br />
二人を乗せて。<br /><br />
今までの冬は遠ざかり、春の足音が近づいてくる。<br /><br /><br /><br />
ローゼンメイデンが<font color="#FF0000">普通</font>の女の子だったら<br /><br /><br /><br />
流されてゆく風景。<br /><br />
どこも見覚えがある。<br /><br />
風が車のウインドウを叩き、形を変えた。<br /><br /><br /><br /><br /><br />
第十二話 「予感」<br /><br /><br /><br /><br /><br />
時はきっと流れてゆくのだろう。<br /><br />
どんな世界であれ。<br /><br />
どんな未来であれ。<br /><br />
色は沈み、瞳が凍りついても。<br /><br />
人々の暮らしが2つに分けられても。<br /><br />
人々が運命に支配されても。<br /><br />
人々が空を忘れても。<br /><br /><br /><br /><br /><br />
D<font color="#0000FF">U</font>NE<br /><br /><br /><br /><br /><br />
――――――――――――――――――――<br />
――――――――――――――――――――<br /><br /><br />
地下の駐車場。<br />
拳銃を握り締めて。<br />
「―――――――――――――――!!」<br />
何かを叫んだ。<br />
目眩がする。これまでにないほど酷い。これで終わりと言えるほどに。<br />
これで、終わり。<br /><br />
そして、私は引き金を――――――。<br /><br /><br />
――――――――――――――――――――<br />
――――――――――――――――――――<br /><br /><br />
「どこかへ行きたい」<br />
どこでもいい。この世界がいまどう見えるのか、気になっていた。<br />
こんな私にとっても、今なら綺麗に見えるんじゃないか。<br /><br />
ドレスはもう脱いでいた。<br />
流石にずっと着ているわけにはいかない。<br /><br />
「どこかへって、どこに?」<br />
「どこでもいいの。本当にどこか遠くへ」<br />
「うーん。まぁ、明日は休日だからいいけどさ……」<br />
「やったー! じゃあ早く準備するの!」<br />
「分かった分かった。少し待ってろよ?」<br />
「はーい」<br /><br />
準備と言っても、そう大したものじゃなかったようだ。<br />
上着を着て、鞄を探し、財布の中にお金があるのを確認した程度だった。<br /><br /><br />
「じゃあ、出すか。リクエストはないのか?」<br />
「うーん。じゃあ、海に行きたいの!」<br />
「今は泳げないぞ」<br />
ジュンは冗談を飛ばす。<br />
「分かってるの!」<br />
「おいおい。本気に取るなよ」<br />
くすくすと私たちは笑いあった。<br /><br /><br />
車は高速道路に入り、さらに速度を増した。<br />
ここまで、数多くの会話を交わしてきた。<br />
笑い話、真面目な話、冗談、馬鹿な話、思い出話。<br />
本当に数多くの会話を。<br />
満ち足りていた。<br />
楽しかった。<br />
嬉しかった。<br />
幸せだった。<br /><br />
「けど、お前と会って、もうというべきか、まだというべきか……。2年なんだな」<br />
「そうね。2年ね」<br />
長かったのか短かったのか、分からない。<br />
けど、今まで生きてきた中で、もっとも濃い2年だった。<br />
それまでは殺ししかない中で命は希薄になり、生きるということも見いだせなかった。<br />
最悪から2番目の選択肢と言うのも、漫然と生きていくための処世術でしかなかったのかもしれない。<br />
「2年か……」<br />
「2年ね……」<br />
車の中は、2年と言う単語で溢れかえり、その足をも緩めさせていた気がする。<br />
「でも、僕にとっては悪いもんじゃなかったよ」<br />
「……。それって告白?」<br />
冗談のつもりだった。<br />
「かもね」<br />
そう返された時、私の頭は何も考えられなくなっていた。<br />
「えっ……」<br />
風がしずみ言葉は広がることなく口もとで止まる。<br />
「告白したんだけどなぁ……」<br />
彼は私から顔をそむけていたが、よくよく見ると耳元まで赤くなっている。<br />
それを見て、私は少しだけ落ち着いてきた。<br />
「ちゃんとした形でしてもらいたいなぁ」<br />
「う、うるさいな! いいだろう! 僕だって恥ずかしいんだからな!」<br />
「ふふふ。はっきりと言ってくれないと、ヒナも答えが出せないのよ」<br />
「この話はこれでおしまい!」<br />
そう言い、運転に集中してしまった。<br />
これからはどんな言葉を言っても、相手にしてくれなくて、少しだけ寂しさも感じたが、それ以上にうれしかった。<br />
ただ一抹の不安、憂鬱を残して。<br /><br />
「ここで下りなきゃいけないんだよな……」<br />
ぶつぶつと独り言を言うジュン。<br />
初めての道なのだろう。確信が持てないようだ。<br />
「そうなのよー。ここでいいのよー」<br />
無責任に煽る。<br />
もちろん、私もここのことは全く知らない。<br />
昨日の夜の戦闘はこことは正反対の方向だ。<br /><br />
車は高速道路を下り、一般道を走る。<br />
「途中で車から降りなきゃならないからな。まだ1時間と少しあるから寝ててもいいぞ」<br />
「ううん。起きてるの」<br />
正直なところ、眠いのは確かだった。だが、ここで寝るのはもったいない気がしていた。<br />
「ならいいけどな」<br /><br />
時刻は午前6時。<br />
太陽はその顔をはっきりとは見せていないが、光だけは届けていた。<br />
朝の光に萌える市街地。<br />
「きれいね……」<br />
「あぁ。きれいだな……」<br />
何でもないはずの風景に心、奪われた。<br />
あぁ。こんなにも世界は奇麗だったのか。<br />
望んでいた世界はこんなにも身近にあった。<br />
砂丘のような世界。<br />
何もかもが淘汰され、荒廃しきった中でも、全ての命は失われることのない、厳しいけど、優しい世界。<br />
そういう、ことだったのか。<br /><br /><br /><br />
駐車場に着いたようだ。今はもう、太陽が昇り、辺りを照らしている。<br />
「ここで降りるみたいだな」<br />
その言葉に従い、シートベルトを外し、車から降りた。<br />
両手を上に高く伸ばし、強張る体をほぐす。<br />
「ここから大体10分くらい歩くんだって」<br />
いつの間にかジュンは隣に立っていた。<br /><br />
海岸へ続く甃。<br />
車の通りはほとんどない。<br />
時が、止まっているようだった。<br />
時が止まっている中を、時の流れる二人が歩く。<br />
その不整合性がとてつもなく気持ちよかった。<br />
互いに言葉はない。<br />
疲れているのもあるが、今は必要なかった。<br /><br />
「わぁ」<br />
嘆声が上がる。<br />
どちらの物かは分からない。もしかすると二人同時だったのかもしれない。<br /><br />
白以外の存在しない焼けるような砂浜。<br />
打ち上げられた漂流物も、その海岸線を明確なものにしている。<br />
普通の海岸なら流れ着いているであろうゴミは、片付けられているのか一つとして見当たらない。<br />
眼下に広がるのはただただ広い海。<br />
青く澄んでいるが、波は陽の光にきらめき白のエンファシスがその青さを彩る。<br />
波以外に何も動いていないようにも見えるが、その薄い膜の下で魚の黒い影は脈動していた。<br />
水平線の遥か彼方には何も映し出されることはなく、ただ、あるばかりの水面を区切る。<br />
視線を上げれば、昇ったばかりの太陽。<br />
その炎は温度を上げ、燃え尽きることなく、光、輝く。<br />
全てを彩り、光を与えていた。<br /><br />
どれだけの時間、眺めていたのか分からない。<br />
「来て、よかったな」<br />
「うん」<br />
その一言だけを残し、私たちはこの海岸を去った。<br /><br /><br /><br />
喫茶店で朝食を摂ることにした。<br />
「痛……」<br />
「どうしたんだ?」<br />
「ちょっと口の中も切ってたみたい」<br />
「大丈夫か? ゆっくり食べろよ」<br />
「ん、平気。ありがとう」</p>
<p align="left">「結構、ここら辺雰囲気いいよな。いつか住んでみたい」<br />
「そうね。いいかも」<br />
「だな。まぁ、金はないんだけどな」<br />
二人で笑いあう。<br />
こんな会話が本当に楽しい。意味のあるようで、意味のない会話が。<br /><br /><br />
「あ。あれいいね」<br />
「ん? どれだ?」<br />
「あの椅子。いちばん右にあるの」<br />
「あぁ。あの白いやつ?」<br />
「うん。それなの」<br />
「うげ……」<br />
「ん? どうしたの?」<br />
「あ、いや。何でもないんだ」<br />
「?」<br /><br />
椅子についていた値札を見る。<br />
なるほど。そう言うことか。<br /><br />
「別に無理しなくていいのよ。ヒナが欲しいだけなの」<br />
「少しくらい甲斐性を見せるべきだよな……」<br />
「……。何ぶつぶつ言ってるの?」<br />
「よし! すみません! これ下さい!」<br />
「え!? いいのよ! ヒナが買うの!」<br />
「まぁいいからいいから」<br /><br />
普通の女の子らしく、ショッピングをしている。<br />
本当に欲しいのか?と問われれば、よく分からないと言うのが正しい。<br />
だが、こうなるべきだろう、こうするべきだろうというのは頭の中にある。<br /><br />
「結局買ってもらっちゃったの……」<br />
「いいんだよ。僕が買いたかったんだからさ」<br />
「でも!」<br />
「気にすんなよ。こんな時は笑ってくれればいいからさ」<br />
「うゆ。……。ありがとなの」<br />
「どういたしまして」<br /><br />
実のところ、私は結構な額を今持っている。<br />
あの襲撃者探しのために、口座から多くを引き出していたからだ。<br />
だから、あの椅子ぐらいなら余裕で買えた。<br /><br />
――まぁ、嬉しくないと言えば嘘になるのだが。<br /><br />
店を見て歩いて休憩。また出歩いて休憩を繰り返すうちに、すっかり日が沈んでしまった。<br />
「すっかり暗くなっちゃたな。ちょっと、行きたいところがあるんだ」<br />
「いいのよ。無理に誘ったのはヒナの方だし」<br />
「いいのか? 戻ることになるぞ。かなりな」<br />
「構わないの。だって、行きたいのでしょ?」<br />
「まぁなぁ。じゃあ、駐車場まで戻るとするか」<br /><br /><br />
そこから、車に乗って高速道路へ戻り、長い時間をかけて逆の道のりを辿った。<br />
高速道路を下りて、ジュンの家とは別の方向へと向かう。<br /><br />
確かこの辺りにあるのは――。<br /><br /><br />
「ここに止めるか」<br />
ジュンはそう呟いた。<br />
車は地下へと潜ってゆく。<br />
思ったより広い駐車場のようだ。<br />
他に車も数台止まってはいるが、人は一人もこのあたりにいない。<br />
開けた窓から体を乗り出し、機械から駐車券を抜き取る。<br />
適当なところで、車をバックで止めた。<br /><br />
「じゃあ、行こうか」<br />
どことなく緊張しているジュン。<br />
「そうね」<br />
どこに行くかは、察しがついていた。<br />
“共感性”が無くたって、簡単に分かるだろう。<br />
案外彼はロマンチストなのかもしれない。<br /><br /><br /><br />
その時。足元がふらついた。今までの疲れが出たのだろう。<br />
躓いてしまう。<br />
こけて、膝をつくことはなかったものの、持っていたハンドバッグを地面に落としてしまった。<br />
飛び散る中身。<br />
そこから覗いていたのは――。<br /><br /><br /><br />
急いで中のものを、ハンドバッグに詰めなおす。<br />
「どうしたんだ? ほんとに大丈夫かよ?」<br />
冷汗が出ていた。<br />
心臓がどくどくと音を立てている。<br />
唇が渇く。<br />
「おい? 雛苺?」<br /><br /><br />
――まずい。見られたのか?<br />
   確実に見られている。<br /><br />
「うん。大丈夫なのよ」<br />
ゆっくりと振り返る。<br /><br />
ジュンの目が泳いでいる気がする。<br /><br />
「大丈夫なのよ。ジュン」<br />
「そうか。それなら良かった」<br /><br />
目眩が。耳鳴りが。<br /><br />
頭が、ぼんやりする。<br /><br />
「でも、ジュンって案外ロマンチストなのね」<br /><br />
何も。考えられない。<br /><br />
「何のことだよ?」<br />
「これから行く場所のこと」<br />
「うわ。分かっちゃうかな? 言うなよ。わざわざ」<br />
「ふふふ。ごめんなさい」<br />
「あー! もう! 仕方ない!」<br />
ジュンは息を吸う。<br />
「最初に出会った公園に行ってさ、告白するつもりだったよ。でも、もういいな!」<br />
ジュンは息を吐き出し、再び深く吸う。<br />
「僕はお前が好きなんだ! どんなお前でも受け入れたい!」<br /><br />
視界が……、ぶれる。<br />
頭が……、痛い。<br /><br />
「どんな私でも?」<br />
「そう! どんなお前でもだ!」<br /><br /><br /><br />
「どんなお前でも受け入れてやるよ」<br />
耳元で、囁く声がした。<br /><br />
「私はあなたのこと全部知っているよ」<br />
「俺は君の事なら何でも言える」<br />
「僕なら……」「私なら……」<br />
そこには、影しかなかった。<br />
真っ黒でも、真っ白でもない、影。<br />
顔どころか、輪郭も何もない。<br />
そこにあるのは、影という存在の概念。<br />
それらの発する声は、ただの空気の振動。<br />
どれも聞いたことがあるし、聞いたことのないもの。<br />
しかし、懐かしいもの。<br /><br /><br /><br />
気がつけば――――。<br /><br />
「あなたに私の何が分かるの!」<br />
拳銃を握りしめ、その銃口を向けていた。<br />
誰に?<br /><br />
ジュンにだ。<br /><br />
「あなたに私の何が分かるの!」<br />
再び言う。<br />
「どうしたんだよ雛苺!」<br />
その声こそ強いものの瞳は怯えを見せていた。<br />
「受け入れるって言うけど、私のことなんかあなたには分かるはずない!<br />
 分かるはずなんてないの!」<br />
「いや! 分かるよ! お前の強さも! 弱さもさ!」<br />
「うるさい! そう言ってもただの他人じゃない!」<br />
「他人だからこそだ! 分かるものもあるだろ?」<br />
「そんな戯言信じない!  あなたよりか、みんなの方がまだ分かってくれる!」<br />
「なんだよ、それ? みんな?」<br />
「みんなよ! ここにいるみんな!」<br />
「ここには僕と雛苺しかいないぞ!」<br /><br />
――?雛苺って誰だ?<br />
私の。私の名前は――――。<br /><br />
「うるさい!」<br /><br />
そして、引き金を――――。<br /><br />
目眩が――。<br />
目眩がする。これまでにないほど酷い。これで終わりと思えるほどに。<br />
これで、終わり。<br />
この時なぜか精神科医の彼女を思い出した。<br /><br /><br />
乾いた音はしなかった。<br /><br />
目の前には腰を抜かしている彼。<br />
血の跡はない。<br />
「ごめんなさいなの」<br />
「いや、それよりも大丈夫なのか?」<br />
「うん。そうみたいなの」<br />
「ならよかった」<br />
彼は優しく微笑んでいる。<br />
弱々しいものではあるが。<br /><br />
その笑みに、私は救われている気がする。<br /><br /><br />
「まぁ、告白もおかしなことになっちゃったんだけど、返事を聞かせてくれないか?」<br />
視線を彼から外し、また再び戻す。<br />
「こんなヒナでよければ。お願いしますなの」<br /><br /><br />
「明日は、休みなのよね?」<br />
「あぁ。そうだぞ」<br />
「なら、ヒナに今度は運転させてほしいの」<br />
「おいおい。どこに行くつもりだ?」<br />
「どこか、遠くに」<br />
「ふぅ。いいけどさ」<br />
「ありがとうなの」<br /><br />
ドアを開け、車に乗り込み、シートベルトをする。<br />
そして、車を発進させ、この無音の駐車場を後にした。<br /><br /><br />
夜の完全な静寂を切り裂くヘッドライト。<br />
車のタイヤの音さえしない。<br />
二人静かに、切り裂かれた闇を見つめる。<br />
車は光溢れる繁華街を通り抜けていった。<br />
人々の姿は見当たらない。いや、私には興味がないだけなのか。<br />
ただ、この狭く広い世界には彼と私だけ。<br />
そう、二人だけしかいない気がしていた。<br />
光の点滅は尾を引いて、後ろに流れては消えてゆく。<br />
その光も数を減らし、いまや、ヘッドライトが照らすだけに近い道へと入っていた。<br />
しばらくすると、電車の踏切にたどりついた。<br />
運悪く、遮断機が下りてきて、道を遮ってしまう。<br />
だがそんなことで、気が滅入るわけではない。<br />
助手席に乗った、私の未来への希望。<br />
まだ見ぬ未来に、私の胸は生まれて初めてと言えるほどに高なっていた。<br />
そう私にはあなたがかげろうの中に見えていたのかもしれない。<br />
しかし、こうしていると、案外近くにあり、かげろうより遥かに確かな存在だったようだ。<br />
砂丘にみえる蜃気楼。それをずっと追い求めていた、そんな気がする。<br />
なかなか開かない踏切にだんだんとイライラしてくる。<br />
ここさえ超えてしまえば、求めていた世界に行ける。そうに違いない。<br /><br />
喜劇は、悲劇。<br />
誰も許さず、誰も許されない。<br />
自分の影さえ見えないこの世界で。<br />
だからどうしたというのだ。こんなにも、私は自由だ。<br />
家にはまず、あの椅子を置こう。大切にする。絶対に。<br /><br />
いつ来るかも分からない電車を、ランプの点滅を延々と長く繰り返す踏切の前で、ただ待ち続けた。<br /><br /><br /><br /><br /><br />
VIP in <font color="#FF0000">2</font>ch<br /><br />
ローゼンメイデンが<font color="#0000FF">普通</font>の女の子だったら<br /><br />
第十二話 「予感」了<br /><br /><br /><br /><br /><br />
D<font color="#FF0000">U</font>NE <font style="background-color:#000000;" color="#FFFFFF">幕</font></p>