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わたしの目はけだものの目 - (2007/07/09 (月) 21:52:49) のソース

<div>微グロ+鬱々なので苦手な方はスルーお願いします。</div>
<p> </p>
<div>わたしの目はけだものの目</div>
<p> </p>
<div>私は親に捨てられた。<br>
私は生みの親に恐れられた。<br>
私の親は私を気持ち悪いと言って何度も何度も私をぶった。<br>
私の体中にあざができた。<br>
結局、親は私を捨てた。<br>
きっと、私のことを愛そう、と努力したに違いない。<br>
それでも、私を愛せなかったのだろう。<br>
愛させようとして、ごめんなさい。<br>
生まれてきて、ごめんなさい。</div>
<p> </p>
<div>私の瞳はみんなのそれと違う。<br>
私の左目はくすんだ緑。<br>
私の右目は濁った赤。<br>
親はこの目を醜いといったけれど、きっと世の中にはこの目を綺麗だと言ってくれる人もいるはずだ。<br>
私はそう信じた。信じて歩き続けた。<br>
「私を見て頂戴。私の目、綺麗でしょ?」<br>
人は、私を見ては目を逸らした。<br>
まるで可哀想なものを見るように。<br>
そこに存在するのを許さないかのように。<br>
「私を見て頂戴。私の目、綺麗でしょ?」<br>
同じせりふを繰り返しながら歩き続ける。<br>
繰り返し続け、私は自分の言葉を信じられなくなっていた。</div>
<p> </p>
<div>一人の男に会った。<br>
私のところに来なさいと言ってくれた。<br>
私はうれしかった。<br>
居場所ができた、と思った。<br>
認めてもらえた、と思った。<br>
でも、その男は怖ろしい人間だった。<br>
男は私に芸をたたき込んだ。<br>
男は私に男の愉しませかたを教えた。<br>
彼の気に入らない事をすると、親とそっくりな形で、力いっぱい私を叩いた。<br>
「化物はこっちで飯を食え」と言い、残飯のようなご飯を私に食べさせた。<br>
男の所で、私は動物のような扱いを受けた。<br>
私は本当に嫌だった。悔しくて悔しくてたまらなかった。<br>
こんな男についていく事を選んだ、馬鹿な自分を憎んだ。</div>
<p> </p>
<div>男の所には他にも子どもがいっぱいいた。<br>
私は友達が欲しかった。<br>
友達ができるかも、と思った。<br>
だけどみんなは私を怖いと言った。<br>
人間の目ではないと言った。<br>
化物のような目だと言った。<br>
私は友達になりたいだけなのに、私に「近よるな、けだもの」と言った。<br>
それでも私は友達になりたい、と思った。<br>
そうしたら、みんなはよってたかって私を殴った。<br>
蹴られて蹴られて、ゲロを吐いた。唾を吐きかけられた。私はそれらを舐め取らされた。<br>
男の子に服を剥がされ、汚らわしいことをされた。何人も、かわるがわるに。<br>
「寄るな。キモい」「バケモノのくせに」「けだものめ」「お前は玩具なんだ」「慰み者の分際で」<br>
「このクズ」「のろまぁ~」「人外」「捨て子なんだって?」「見世物なんだよ」「くさいよ、お前」<br>
「お前にやる餌はねぇよ」「骨くわえて回ってワンって言ってみろよ」「お前はいなければいい」<br>
体が、心が、ずきずきと痛んだ。もう嫌だもう嫌だ。</div>
<p> </p>
<div>足がへし折れた。<br>
綱渡りの綱から落っこちた。<br>
お客さま達の前で落っこちてやった。<br>
ぼきり、と音がして、足が変なところから折れた。<br>
足はそのまま、ちぎれてとれた。<br>
私は芸も、男たちを愉しませることも、できなくなった。<br>
そしてまた私は捨てられた。<br>
用なし、役立たずと言われて捨てられた。<br>
これでいい。これならばここから逃げられる。<br>
誰も私を愛してくれない。どこも私の居場所にならない。<br>
それでいい。きっと誰も私なんて誰も愛せないに違いない。<br>
足は簡単に包帯を巻かれただけだった。<br>
その足で、私は夜の中を這い出す。<br>
一歩ごとにズキズキと足が痛む。<br>
這って這ってそのうち疲れて、どことも知れぬ場所で、眠りについた。</div>
<p> </p>
<div>肩をゆすられて目が覚める。<br>
朝日が昇り始めていた。<br>
「大丈夫? どうしたの? その足はどうしたの?」<br>
私を起こしたのは少年のようだ。<br>
私はまだ目を開けてはいない。<br>
少し深呼吸する。<br>
……大丈夫。もう期待はしていない。信用もしない。愛も求めない。<br>
どうせこいつも目を見たら私を化物呼ばわりして殴って蹴って非道いことをするのだろう。<br>
もう私は期待することに疲れた。なのにまた希望をちらつかせる奴がいる。<br>
私は目を開けた。<br>
眼鏡の少年が目前にいた。<br>
「よかった、気がついて。…あれ? その目はどうしたの? 目にもケガしてるのかい?」<br>
「こういう目なの。生まれつき。綺麗でしょ?」<br>
これが「自嘲気味」という言い方なのだろう。<br>
彼はきっと表情を一瞬歪めて、間をおいてから苦々しげに「綺麗だよ」とでも言うのだろうか。<br>
少年の反応を妄想し、私は愉しんでいた。でも。<br>
「素敵な目だよ」<br>
彼は間髪入れず、少し微笑んで言った。言ってくれた。<br>
「嘘…だって私の目は…」<br>
「左目は若葉の色で、右目は夕日の色だもの。とても素敵だよ。さ、病院行こう」<br>
彼は私に手を差し伸べてくれた。<br>
何だろう。しょっぱい味がする。<br>
きっと鼻水だ。一晩中外にいたのだもの。そうだ。そうに違いない。<br>
私は差し伸べられた彼の手を、離さないように、しっかりと掴んだ。<br>
今度こそ、今度こそ……。</div>