<p> 僕は止まない雨の中を一人行くあてもなく歩いている。<br> 傷ついた心に雨が染みて、知らず知らずのうちに涙が溢れてくる…<br> 肌に絡みついてくる凍りのざわめきを殺し続けて、僕はいつまでもこの雨の中をさまよう。<br> <br> …君から貰った愛を忘れることができるまで…<br> <br> 眠りはまさに麻薬のよう。途方に暮れた心を静かに優しく溶かしてくれるから。<br> 捨てきれなかった彼への愛を空へ踊らせ、冷えて震える体を記憶の中の薔薇で包み、僕は眠りにつく…<br> 止まない雨よ…僕の心の傷に降り続いてくれないかい…?<br> それで悲しみを全て忘れさせてくれ…そうでもないと…僕は壊れてしまいそうだから。</p> <br> <p>「蒼…石…僕…は…君…愛して…」<br> 「ジ……く…」<br> <br> 君と過ごした楽しかった日々がゆっくり僕の記憶から消えていく…<br> ヤだ…やっぱり忘れたくないよ…<br> <br> 「…蒼星石」<br> 「ジュン君!?」<br> 僕の目の前には大好きだった君が笑顔で立っていた。<br> …たまらず君のもとへ走りより、抱きしめようとする。<br> <br> しかし…それは叶わなかった。<br> <br> 僕が君を抱きしめようとすると、君は僕の目の前で消えてしまった。<br> ……そうか…これは幻か…君はもういないんだ…もう僕を抱きしめてくれないんだ…<br> </p> <br> <p>「ん…夢か……」<br> イヤな夢だ…君のことを忘れようと昨日雨にあたったのに…思い出しちゃったじゃないか…<br> 「ぐすっ…ジュンくぅん…やっぱり…えぐっ…君がいないと…僕はダメだよ…帰ってきてよぉ…」<br> シーツを抱きしめ、声にならない言葉を繰り返してみても、もちろん君は帰って来ない。<br> そんなこと…そんなことわかってるハズなのに……<br> <br> ふと外を見る。<br> 昨日から降っていた雨はまだ止まない。<br> 普段なら雨なんて大嫌いなのに、今は何故か心地よく感じる。<br> </p> <br> <p> 「この雨と一緒に…思い出も流れてしまえばいいのに…」<br> もう戻ってこない君のことを思い出しても辛いだけ……<br> でも…完全に忘れてしまうのは…怖い。<br> 矛盾してるってのはわかってる。でも…やっぱりまだ僕は君のことが好きみたいだから…<br> <br> ジュン君…もう一度僕を君の傍にいさせてよ…もう一度君の優しい心に触れたいよ…<br> </p> <br> <p> 傷つけあった言葉も、重ねた涙も…いつかは思い出になる。<br> だから…僕は君と別れた日に途切れてしまったメロディを胸に抱きしめて、明日も生きる。<br> もう…君に会えなくても。<br> <br> 僕は歌う…君と二人でよく歌ったあの歌を…<br> 隣にはもう君はいないけど…僕は君のために歌うよ。<br> だって…まだ僕は君のことを愛しているから。<br> <br> 僕の思い出の中にはまだ君がいて…優しく僕を受け止めてくれている。<br> 傷つくだけかもしれかいけど、僕の心を君に伝えたいんだ。<br> <br> だから…一人にしないでよぉ…<br></p>