3章,

今日もいつものように学校が終わり帰り道。
日も沈み、僅かに残ったオレンジももうすぐ消える。
人通りの少ない藍色の道を有栖川と二人ぼんやりと歩く。

―カーン、カーン、カーン

突如大きな聞こえ、行き先をふさがれる。
踏み切りだ。
俺も有栖川も足を止める。

小「ねえ…」

ふと、踏み切りの音にかき消されそうになりながらも有栖川が口を開く。

主「んー?」
小「電車、どっちから来ると思う?」
主「あー…」

まだ電車の音は聞こえずどちらとも判断がつかない。

主「そうだな…」

①右
②左



主「じゃ、右」
小「それじゃあ、あたしは左ね」

ガタタン、ガタタン、ガタタン…

それからもう10秒ほど待つとようやく電車の走る音が聞こえた。
右から左へと白い光が照らし、そして風と共に遠ざかっていった。

主「右だったな」
小「…おめでと」

それだけ言うとまた足を進め出した。

主「それだけかよ!」

俺もすぐにそのあとを追い横に付く。

小「別に何か賭けるとも言ってないでしょ」
主「ま、まあ…そうだけど…」
小「ふん」

つい、と正面を向く。

主「ちぇ、つまんねえの」
小「あたしだってつまんないわよ」
主「何がだよ」
小「…はあ、あたしも…どこか行っちゃいたいな…」
主「有栖川…」

そうぽつりと言った横顔はとても切実そうに見えた。
まるで、今にも本当に何処かへ行ってしまいそうに。

主「……………今の時間帯なら、どこか行くってより帰る奴らが大半だろ」
小「…うるさいわね」
主「それにさ………いや、お前何処行きたいんだよ」
小「別に。冗談よ、ただの冗談」
主「……………」
小「………あたしさ、」
主「ん?」
小「明日、ちゃんと、話してみる。茨さんと…日向君」
主「…そっか」
小「うん」
主「…俺いなくても平気か?」
小「な、ば!馬鹿言わないでよ!平気に決まってるじゃない!」
主「はは、そっか」
小「そうよ!まったく…」
主「ま、頑張れよ」
小「あんたに言われなくてもちゃんとやるわよ!」
主「それだけ言えりゃあ十分だな」
小「あんたっていっつも一言多いわよね」
主「はいはい、悪かった悪かった」

いつものように振舞いながらも、少し緊張しているのが伝わってくる。

(明日、か…)

俺はただ有栖川が楽になればいいな、と思った。




主「じゃ、左」
小「それじゃあ、あたしは右ね」

ガタタン、ガタタン、ガタタン…

それからもう10秒ほど待つとようやく電車の走る音が聞こえた。
右から左へと白い光が照らし、そして風と共に遠ざかっていった。

主「くそ、右だったか…」
小「はい、負けたんだからこれ持つ!」
主「ぅわっ!」

ドサッ!
いきなり鞄を投げるように渡される。
そしてまた足を進め出した。

主「って、おい!」

俺もすぐにそのあとを追い横に付く。

小「負けたんだから当たり前!」
主「お前、別に何か賭けるとか言ってなかったじゃん!」
小「いいじゃないの、それくらい」

つい、と正面を向く。

主「ちぇ、つまんねえの」
小「あたしだってつまんないわよ」
主「人に荷物持たせといて何だよ」
小「…はあ、あたしも…どこか行っちゃいたいな…」
主「有栖川…」

そうぽつりと言った横顔はとても切実そうに見えた。
まるで、今にも本当に何処かへ行ってしまいそうに。

主「……………今の時間帯なら、どこか行くってより帰る奴らが大半だろ」
小「…うるさいわね」
主「それにさ………いや、お前何処行きたいんだよ」
小「別に。冗談よ、ただの冗談」
主「……………」
小「………あたしさ、」
主「ん?」
小「明日、ちゃんと、話してみる。茨さんと…日向君」
主「…そっか」
小「うん」
主「…俺いなくても平気か?」
小「な、ば!馬鹿言わないでよ!平気に決まってるじゃない!」
主「はは、そっか」
小「そうよ!まったく…」
主「ま、頑張れよ」
小「あんたに言われなくてもちゃんとやるわよ!」
主「それだけ言えりゃあ十分だな」
小「あんたっていっつも一言多いわよね」
主「はいはい、悪かった悪かった」

いつものように振舞いながらも、少し緊張しているのが伝わってくる。

(明日、か…)

俺はただ有栖川が楽になればいいな、と思った。



小兎side

これは賭けだ。
いや、ダメもとなのだから賭けにもなっていないんじゃないかな。
ただ、けじめをつけたかった。
それだけのこと。

私には○○がいてくれる。
これからはちゃんと現実を見よう。
逃げずに。



夕暮れ時の教室、1人で窓の外を見上げる有栖川。
制服の長袖、その隙間からちらちらと見える何本もの痛々しい赤い線。
どうして気付いてやれなかったのかと、今更になって後悔した。

主「有栖川…」

名前を呼ぶと、視線だけとこちらによこす。

主「その…悪い…」
小「何であんたが謝るのよ」

くすりと悪戯な笑みを浮かべると肩をすくめた。

小「相手にするのも、意識する自分にも、少し疲れちゃった」

儚い、その言葉が頭の中に浮かんだ。

主「もう、いいのか?…」
小「知らない」

“日向のこと”、その言葉を口にしようかどうしようかと悩んでいると、答えが出るより先に彼女が口を開いた。
少し、充血した目。
開け放たれた窓から入る緩やかな刺すように冷たい風。
その程度の風では、髪の毛を揺らすのがせいぜいで、目に少しにじんだ涙を乾かすことなど出来ない。

主「本当に?」
小「……………」

確認するようにもう一度問いかける。
今度は何も返ってこない。

主「有栖川…」
小「うん…良いの」

そうして返ってくる、多分俺が一番ほしいと思っていた言葉。
いつもいつも心配しいてるふりをしながらも、本当は心の底ですっと望んでいたこと。
それが、今ようやく実現されたというのに。
それなのにどうしようもない罪悪感に襲われるのは何故か。

(俺は…)

主「有栖川…」

まっすぐに見つめる。

主「好きだ」

今、言わなければいけないと思った。
こんなときに、なんてそんなことは俺自身が一番よく分かっている。
しかし今伝えなければ。
そうしないと、この先一生それを口にできる自信がなかった。
なんて弱いのだろうと、自分でも痛いほどに思う。
フ、と微笑み有栖川は答えた。

小「良いの、かしらね…」

その笑みは自嘲にも似ている。

小「あたし、ズルイわよ…ね」

一言一言を自分に言い聞かせるように喋る有栖川。

小「本当はね、あたし、あんたのことも、好きだった。
…でも、さ、良いのかな…それで…。…ううん、良い、よね…もう、楽になっても…」

今度は俺が有栖川のほしい言葉を送る番だ。

主「ああ、いいよ」

今にも泣き出しそうな表情の彼女に、一言、そう答えた。



小兎side

『ズルイ』

その一言でふとある考えが頭を掠めた。

『ズルイ』

何が?
自分に見限りをつけてしまうことが?
もう諦めてしまうことが?
楽になろうとするのが?

いや、違う。

○○を兄貴と重ねてしまうことが、だ。

気がついてしまった。
あたしは○○自身を見ようとしたことがない。
いつだって、兄貴と重ねてた。

ダメだ。
こんなのじゃ。
ダメなんだ。

小「あ、あ………」

一番見ていなかった現実。
それはあたし自身のことだった。

突如自分に吐き気がするほどの嫌悪感。

嫌だ。
こんな自分、見たくなかった。
知りたくなかった。

こんな自分、いなくなってしまえば良いのに…………

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最終更新:2008年09月10日 15:40