3章;


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最近、何故だかリヨさんが少し余所余所しく感じる。
初めはかすかに感じただけのそれも、一度思い込んでしまえば、日を追うごとに大きくなっていく。
そして気づく頃には不安と言う名を掲げ、心の中にどっかりと座り込む。

主「リヨさん!」

放課後の教室、声をかける。

主「一緒に帰…」
リ「すみませんが、」

被せるように口を開く。

主「え?」
リ「少し、用事がありますので…失礼します」

それだけ言うと荷物を持ち教室を出る。

(また、だ)

誘おうとすると、有無を言わさず拒否される。
今日ばかりではない、このところいつもなのだ。

主「ふう…」

ため息をつき、座りこむ。
人気のない教室、時計の秒針がやけに響く。

(俺、何か悪いことしたかな…)

悪い考えばかりが頭の中を巡る。

主「はあ…だめだ」

立ち上がり、窓際の自分の席まで行き座りなおす。
窓から校庭を見れば部活動に励む生徒達。
その姿はとても生き生きとしている。

(こっちの気も知らないで…)

心の中で、まったくお門違いの八つ当たり。

(どうしろって言うんだよ…)

今日、何度目か分からないため息を吐いた。



リヨside

あれから、○○さんの誘いは全て断っている。
○○さんのことが嫌いになったわけではない。
なるはずがない。
だからこそ、こうやって断っているのだ。

あのテストの一件で、両親からは執拗に叱られ、嫌味を言われ、姉からは嘲笑された。
所詮私には勉強ぐらいしか取得がないのに、だそうだ。
それ自体も姉には負けているのだけれども。
私から勉強以外のものを取り上げたのは自分達なのに………
そう反論してみるも、それは心の中だけで。
実際に面と向かってしたことなんて一度もない。
したところで私への見返りなんてなにもないことはよく分かっているから。
それに、本当に私の取得なんてそれ以外ないのだから。

その取得すらもなくした自分を彼に見られるのが辛い。
呆れられたくない。
嫌われたくない。
だから、そのために私はまた取り戻さなければならない。
○○さんが好きだと言ってくれた自分に戻らなくては。

今日も、一人図書室へと向かった。



主人公side

あのままずっと教室でいろいろと考えては見たものの、結局何にも解決策などは思いつかなかった。
そうして時間だけが刻々と過ぎてゆき、気が付けばもう外は真っ暗になっていた。
慌てて鞄を持ち、教室から出る。

(くそ…)

どうしたらいいか分からずに、ただただ苛立ちだけが募っていく。

~~~~~~~~~~~

校庭では数人の生徒達が部活動の後片付けをしていた。
たった今出てきた校舎を見上げれば、ところどころ明かりがついており、時々動く人影が見えた。

主「はあ…」

何度目か分からないため息を吐くと校舎へと背を向けた。

~~~~~~~~~~~~~~

図書室の前を通りかかると、そこはまだ赤々と明かりが灯っていた。
その光に思わず顔を上げる。

(あ…)

そこで目に入ったのは、灰塚リヨ、その人だった。
思わず足を止める。

(なんで…)

俺が居ることになど気付かず、平然と図書室から出てくる彼女。
恋人である俺の誘いを断ってまで何をしていたのか。
理由があればこちらも聞くのだが、彼女はそれすらも話してくれなかった。
訳が分からず動くことが出来ない。
ただ突っ立ったまま息を潜める。
そのまま帰っていく彼女をただ見つめることしか出来なかった。



今日も時間はいつものように過ぎていき、放課後がやってきた。
教室では俺とリヨさんの二人きり。
美化委員の仕事で残っている彼女に、俺も付き合って残っていた。
二人でいるのは久しぶりのことなのに、会話はほとんどない。
ただ、黙々と手を進める。

(………………)

避けられているのではないか、と言う苛立ちは何故か先日、図書室でリヨさんを見かけた日からから少し治まりだした。
もうそれは諦めに近いのかもしれない。
諦めてしまえれば楽なのに………
それでも、気持ちと言うものはすぐさま切り替えることは出来ないものだ。
やっぱり俺はまだリヨさんのことが好きだし、もしかすると何かの間違いではないのかと言う希望も微かに持っているのは事実だ。

(多分…聞くなら今しかないよな…)

少し緊張しつつも口を開いた。

主「あのさ…」

突然口を開いた俺に、少し驚いた様子のリヨさん。
じっとこちらを見つめている。

主「………リヨさん、さ」
リ「はい?」
主「最近、俺のこと避けてない…?」

その瞬間、彼女の顔が強張ったのが分かった。
それと同時に、俺の中で曖昧だったものが確信へと変わった。
やはり彼女は故意に俺を避けていたのだ。

リ「そんな、ことは…」

答えは明白なのに、彼女の口からは否定の言葉が出る。
泳いだ目。
治まっていたはずの苛立ちが再発する。
半分、心のどこかで諦めてはいたのだ。
なのに、彼女が嘘をつくから…………

主「そんなこと、あるよな?」
リ「……………」

自分で思っていたよりも低く冷たい声が出た。
その声にリヨさんは押し黙る。
何も言わない、そのことが更に俺の苛立ちに拍車をかけた。

主「…リヨさんさ、俺のこと嫌いになった?」
リ「そんなこと…!」
主「じゃあ何で避けるの」
リ「その…」
主「嫌いなんだろ?」
リ「違っ…」
主「はっきり言えよ」
リ「っ………」
主「…俺さ、リヨさんのそういうとこ嫌だったんだよね」
リ「……………」
主「なあ、なんとか言いなよ」
リ「…嫌じゃない、んです…」
主「じゃあ!」
リ「でもっ…」
主「なんだよ」
リ「…○○さんには、関係のないこと、ですから………」
主「っ………」

その言葉を聞いて、一気に頭の奥から冷めていくのが分った。
篭った声に湿った目の彼女。

(なんなんだよ…泣きたいのはこっちだっつーの…)

女が涙を見せるということは、男にとっては脅迫されているのも同じことだ。
まだまだ苛立ちは治まらないのだが、その潤んだ瞳がこれ以上彼女を攻めさせてくれない。

主「…なら、もういいから」
リ「…っ」

まだ作業の終わりきってない手を止め、鞄を持つと教室を出た。
今の俺にはそう告げてこの場を離れるのが精一杯だった。



リヨside

○○さんに、嫌われてしまった。

それは私が一番恐れていたこと。
そうならないために頑張っていたのに。
努力していたのに。

リ「……………っ」

自然と涙が溢れてくる。
どうしてこうなってしまったのか。
ふと頭に過ぎる、あの人の影。

私が、もしも茨さんのようならこんなことにはならなかったのかもしれない。
私が、もしも姉のようならこんなことにはならなかったのかもしれない。
あの人たちはとても要領の良い人たちだから、簡単に人からも好かれる。
私とは違う。
私なんかとは…………

………それでも、私は誰かを犠牲になんてしたことがないし、辛い思いもさせたことがないはずだ。
犠牲になることの辛さ、陰になることの辛さは、私自身よく知っているから。
それなのに、どうして人にそんな思いをさせるあいつらばかりが幸せになるのか。
どうして私がその分不幸にならなければいけないのか。

ペロ「ニャー…」
リ「っうるさい!」

バシッ

ペロ「フギャッ」

そうだ、あいつらが悪いんだ、何もかも………




真っ暗な校舎内、すぐに済むし電機のスイッチの位置を探すのも面倒くさいので、そのまま進む。
コツ、コツ、と自分の足音だけがやけ響く。
人の気配のない校舎内、きっと今この階に居るのは俺くらいだろう。
足早に教室へと向かう。

(……………?)

教室に近づくにつれ、何か音が聞こえてくるような気がした。
気のせいかとも思ったが、近づくにつれ大きくなるそれ。
確かにそれは教室の中から聞こえてくるのだ。
何の音かと聞かれれば、それは、分からない。
ただ、何か柔らかいものを殴るようなくぐもった衝撃音。
そして、喉から搾り出すような嗚咽とも呼吸音ともつかないほどの微かな息遣い。
そんな得体の知れない、聞きなれない音。
一体教室の中では何が起こっているのか。

(………………)

怖いのか不安なのか、それとも好奇心から来る期待なのか。
心臓が大きく鳴る。

教室の扉は閉ざされて入るものの、ほんの数センチ、隙間が開いている。
中を覗くには、十分すぎるほどの隙間。
そこから月明かりの光が細長く伸び、廊下を分断している。

ごくり。

緊張の所為か、いつの間にかカラカラに乾いた喉を、唾を飲み込み潤す。
足音が響かないようにと、ゆっくり、ゆっくり近づく。

(え………?)

その隙間から見えた光景に、思わず言葉を失った。
何も出てこず、ヒュ、と息を呑む。
一瞬、ここが何処だとか、今何をしているとか、何を見ているのとか、わけが、全てが分からなくなった。

その隙間から見えたもの、それは、
乱れた髪、汚れた制服、頭を庇うように抱え、這い蹲い、薄く笑みにも似た表情を浮かべた1人の少女と、
箒を握り、ただただそれを叩きつける、顰めた眉に、噛み締める唇、そして目には涙を浮かべたもう1人の少女。

(なん、で………)

そんな非日常的な光景に、悪い夢でも見ているのだ、と思い込もうとするも、その2人の少女の顔は、はっきりと現実で。
よく見知った顔。
そう、今日も、昨日も、一昨日も、ずっとずっとその前も見た、クラスメイトの茨暁子と灰塚リヨ。

(嘘…だろ…)

リヨさんの細い腕が綺麗な孤を描き振り下ろされるたび、暁子ちゃんの身体が鈍い音を立て小さく跳ねる。

(こ…んな…)

―カツッ

(…!)

思わず、まるで倒れこむように後ずさった瞬間、大きく足音が響いた。
その瞬間、リヨさんの視線がゆっくりとこちらへと向く。

目が、あった。

(ッ!!!!!!!!!!!!)

呆然と、まるで焦点が合っていないかのような瞳。
吸い込まれそうなほど真っ暗なその瞳が無性に怖かった。
頭から、離れない。

ふと我に返ると、校門に寄りかかっていた。
あの瞬間、どうやら俺は一目散に走り出したらしい。
どんな風にここへきたのか、あまり思い出せないが。
まだ、気が動転している。
心臓が鳴り止まない。
情けないことに、足も少し震えている。

(なんなんだよ…!)

わけが、分からない。
何とか身体を落ち着かせようと試みる。

(こんなことって…)

今見たことは、本当に現実だったのだろうか。
そうだったらいいのに、いや、絶対そうだ、きっと、疲れてたんだ、幻覚だ。
何とか思いつく限りの言い訳で自分に言い聞かせようとするも、納得のいく答えはそこにはない。

(くそっ…)

未だ、さっきの光景が目に焼きついて離れなかった。