リヨside
ち「ね、ね!暁子!宿題忘れてきちゃったのー!お願いっ、見して…?」
暁「あはは、もう!ちさ菜ってば仕方ないなー」
ち「やった!恩に着ますー」
鳥「あー!ちさ菜ってばずるーい!ねえねえ暁子ちゃん、私もー!」
音「そう言えば私も分からない箇所がありましたわ。…私もよろしくて?」
暁「うん、いいよ!」
鳥「ありがとー!暁子ちゃん大好きー!」
音「さすがですわ」
暁「ふふっ」
日「姉さん、次の委員長会の…って、今は無理そうだね」
ち「よっ、日向!ごめんねー、暁子お借りしてまっす!」
暁「あ、ごめんね日向。それって急ぐ…?」
日「ふふ、大丈夫だよ。まだ期限はあるから」
暁「そっか、なら後でも良いかな?」
日「うん、待ってるよ」
鳥「ねえねえ暁子ちゃん、ここって…」
暁「ん?どれかな?」
リ「……………」
彼女は私の姉に似ている。
常に独り占めなところ。
誰もが羨むものを全部持っているところ。
私にないものだらけなところ。
多分…私とは人種からして違うんだろうなって思う。
私ならきっと・・・絶対に、できない。
そんなに、何もかも上手くできる自信がない。
前までは、そんな人たちが羨ましくて仕方がなかった。
妬ましくて…無意識のうちに避けて、できるだけ見ないようにして…それでも心のどこかで比べてしまう自分がいた。
彼女達に比べれば、私なんてまったくダメな人間だし…そんなことを思っている荒んだ自分は、他の誰と比べても良いところなんてと思う。
主「リヨさん!」
リ「あ…○○さん」
そんな私でも…○○さんは好きだと言ってくれた。
リ「……………」
主「…ん?どうかした?」
リ「………い、いいえ、何も…」
他の誰とも比べずに、私を見てくれる人がいる。
多くを望んじゃいけない。
それだけで、私は幸せだ。
主人公side
今日も無事に授業が全て終わり、早々と家路に着くことにした。
人の波に添い、校門の方へと歩いていく。
頭の中で、今日帰ったら何をしようかと、あれやこれやと簡単に予定を立てながら。
今日は特に宿題もないし、何処かに寄り道していくのも良いかもしれない。
リ「●●さん!」
ちょうど校門を出ようとしたとき、ふと名前を呼び止められた。
嗜好を中断させ振り返れば、見慣れた人物がいた。
主「リヨさん?」
走ってきたのか、肩で息をするその姿を見れば、さっさと教室を出ていった俺を一生懸命追いかけてきてくれたのだということが容易に分かった。
申し訳なさと共に嬉しさが沸き起こる。
リ「そ、その…今、帰りですよね?」
主「ああ、そうだけど…あ、リヨさんも、だよな?」
リ「あ、はい…その…偶然姿が見えたので声を…」
そんなバレバレの嘘をつく彼女がとても愛おしく感じられた。
少し顔を赤らめ俯いている。
それが妙に可愛くて、この場はその嘘に騙されてやることにした。
主「あ、そっか…それは偶然だな」
リ「は、はい…その…」
主「じゃあさ、偶然ついでに良かったら一緒に帰らない?」
リ「え…あ、わ、私と…ですか?」
俯いていた頭を勢い良く上げた彼女と目が合った。
その瞳には驚きと期待が見え隠れしている。
主「うん…どう?」
リ「あ…えと、その…是非…お願い、します…」
語尾に近づくにつれ小さくなるものの、しっかりと聞こえた。
主「それじゃ、帰るか」
リ「…はい!」
~~~~~~~~~~~~~
主「え、リヨさん家って、あそこの豪邸!?」
リ「そんな、豪邸だなんて…」
帰り道の他愛ない会話の中で、知った事実。
お互い家がどの方向だとか話していた最中、彼女がその口にしたそれは、俺が前々から気になっていた家だった。
周りの家よりも断然大きく、それで居て何処か品と雰囲気のある何かと目立つ和風家屋だ。
主「やー、でもさ、ああ言う家って憧れるんだよなー…」
素直に思っていたことを述べると、まるで以外だとでも言うかのようにこちらに視線を向けてくる彼女。
主「あ、あれ…?」
リ「あの、本当に…」
主「え?」
リ「本当にそう思いますか…?」
確認するように、おそるおそる聞いてくるリヨさん。
主「え…?ああ、もちろん」
リ「そうですか…」
頷き肯定した俺に一言だけ答えると、黙り込んでしまった。
しばしの沈黙が続く。
(何か、まずいことでも言ったか…?)
沈黙が続くにつれ、だんだんと不安になっていく。
頭にいろいろな考えを巡らせる。
よく分からないが、とりあえず謝ってしまおうか…。
そう思ったとき、リヨさんが口を開いた。
リ「その…●●さんは、今週の日曜日、お暇でしょうか…?」
主「え…あ、うん、暇だけど…」
ドキリと心臓が音を立てた。
(これは、もしかして…!)
その次の言葉に期待が膨らむ。
リ「よければ…家にいらっしゃいませんか…?」
(よしっ!!…って、え?)
その言葉に一瞬時が止まったように感じた。
一応俺とリヨさんは付き合っているワケだし、もしかするとデートに誘われるんじゃないかと思っていたのは事実だ。
もしそうなれば、記念すべき初デートとなるわけだ。
これは期待しないほうがおかしい。
(…でも、初デートで…いきなり家…?)
嬉しくないわけではない。
それどころか、本音を言ってしまえば凄く嬉しい。
しかし、それよりも緊張が勝っている。
家といえば、当然ご両親もいるだろうし………
リ「あ、あの…もしかして、ご迷惑ですか…?」
眉を下げ、不安そうな目を向ける彼女。
主「い、いや!全然そんなことはないけど…!」
リ「良かった…」
そう言って心底嬉しそうに微笑む。
(まいった…)
惚れた弱みだ。
そんな顔をされたら、選択肢は1つしかないだろう。
(まあ、何とかなる…よな、うん。…って言うか、何とかなれ…!)
なんとか落ち着けようと、頭の中で色々とシュミレートしてみたりしたが、どうも落ち着かない。
(…今週末か)
そのことを考えると、今から俺の心臓はどうにかなりそうだった。
あれから数日があっという間に経ち、待ちに待ったリヨさんとの約束の日曜日。
(あー、くそ、また緊張してきた…!)
夕べはその所為かあまり眠れなかった。
ただでさえ、仮にも恋人の家に行くのだ。
それに付け加えてあの豪邸。
緊張するなと言う方がおかしい。
(えーと、まずは家族の方にはきちんと挨拶してー…って、やっぱりリヨさんとお付き合いさせていただいてるとか何とか言うわけか!?うわ、どうする!?『お前にうちの大事なリヨはやらん!』とか言われたりしたら!…いや、待てまだそうと決まったわけじゃ…案外歓迎してくれるかも?いや、待て待て待てそんな上手くいくはず…あー、でもなぁ…)
そんなことを頭の中でグルグルと考えながら歩く。
少し早めに家を出て、出来るだけゆっくりと歩いてきたつもりだったが、気がつくと、もう目の前にリヨさんの家が迫ってきていた。
(に、してもやっぱり凄いよなぁ…)
目の前に広がるのは広々とした日本家屋。
まさに由緒正しきという言葉がぴったりと当てはまる豪邸だ。
さながら、ちょっとした旅館のようにも見える。
(うう………)
何処となく気後れがして、門の前で立ち往生してしまう。
間の前にあるチャイムを押すに押せない。
(あー…いきなりご両親とか出てきたら気まずいなあ…ああ、でももう約束の時間だし………よし、ちょっと一回深呼吸して…)
主「スー…ハー…よし!」
覚悟を決め、カチリとチャイムのボタンを押す。
(…しかし、待ってる間ってのが一番緊張するな…ま、最初から緊張してたんだけどね…。どうかリヨさんがでますように…!)
―ガラガラガラ
主「あ…」
少し重そうな引き戸を開く音がした。
主「リヨさん!」
そこには微かに笑顔のリヨさんが立っていた。
それを見て少しだけ緊張がほぐれる。
リ「○○さん…、ようこそいらっしゃいました」
~~~~~~~~~~~~~~~~
(それにしても…やっぱり中まで綺麗と言うか…)
玄関から入り、リヨさんに案内されるまま廊下を歩く。
決して新しくはないが、隅々まで手入れが行き届いていて、何処か威厳を感じさせる佇まい。
豪華絢爛と言うよりは、清楚で奥ゆかしい美しさが感じられる。
(広くて長い廊下…)
二人が歩くたびに、ギシギシと床が少し軋む。
主「あ、そうだリヨさん、やっぱりこう言う時ってご家族の方にも挨拶とかしといた方が…」
リ「あ…いえ、今日は私以外の者は留守ですので…」
主「…え?…あ、ああ、なんだ、そっか」
今まで緊張してきた分、リヨさんの答えに拍子抜けしてしまった。
(あ、でも…ってことは、二人っきりか。………なんか別の意味で緊張してきた…)
そんな俺の考えを余所に、彼女の足が止まる。
リ「○○さん?」
主「へっ!?あ、はい?」
リ「その…ここが、私の自室ですので…」
そう言いながらゆっくりと目の前の襖を開けた。
リ「少しここで待っていてください。飲み物などを用意してきますね」
主「あ、ああ、サンキュ…」
俺を中に入れると、彼女は恐らく台所がある方へ向かっていった。
足音と床が軋む音から、少し小走りなのが窺える。
(………座っとくか)
とりあえず目のついた、部屋の真ん中にある小さなテーブルの前にと座った。
(へぇ、やっぱりリヨさんらしい部屋だなあ…)
そのままぐるりと部屋の中を見渡す。
綺麗に片付けられた室内。
余計なものなど一つもないかと言うように、きっちりと整理整頓されている。
(うーん……なんだかあんまり生活臭がしないと言うか…まあ、でもリヨさんらしくて良いかな)
リ「…あの、○○さん」
主「はいっ!?」
突然声をかけられビクリと肩が震えた。
主「リ、リヨさん…」
リ「どうぞ」
主「あ、どうも」
リヨさんは丁度俺の向かいに腰を下ろす。
テーブルの上に二人分のお茶と品の良い器に盛られたお菓子が並べられた。
(おお、高そう…)
リ「…すみません、なんだかつまらない部屋で…」
主「へ?え、あ、いや、リヨさんらしくて良いと思うよ」
リ「私らしい、ですか…」
少し困ったような笑顔で笑う。
リ「…どうやら家は、他の家庭と比べると両親が少し厳しいらしく…昔からこのような感じなんです…」
主「そっかあ…あ、そう言えば確かリヨさん、お姉さんもいたよな?」
リ「はい…姉は…姉は、私なんかよりもずっと賢い人ですので…」
(な、なんだか話が思い方向へ…えーと、なんか他に話題、話題…)
主「…あ、そうだ!猫!」
リ「え?」
主「ほら、1学期にリヨさん拾ってっただろ?あいつ元気かなーって…」
リ「ああ、あの子なら………」
ニャー
トテトテトテ…………
リ「あ、来たようです」
襖の外で聞こえた鳴き声と、小さな足音。
リヨさんは立ち上がると襖を開けた。
猫「ニャー」
1匹の猫がするりとなめらかな動作で部屋へと入ってくる。
主「こいつがあの時の?」
リ「ええ、そうです」
再びリヨさんが座ると、猫は当然のように彼女の膝の上で丸まった。
主「随分でっかくなったなー」
リ「はい、この通り。…初めは、すごく弱ってたんですけどね、今ではもう元気で……」
主「へぇ、良かったな。名前とか付けた?」
リ「ええ、一応…」
主「何て言うの?」
リ「あ…ペロって言います…」
主「そっか…おーい、ペロー」
名前を聞いて呼びかけてみるが、当の本人はまったくこちらに関心を示さず、リヨさんに喉元を撫でられ、ゴロゴロと喉を鳴らし目を細めている。
リ「ふふ……」
(あ、笑った…)
そんな彼女の笑顔を見るのも、最近では珍しいことではない。
初めはまったくと言って良いほど笑わなかった彼女も、仲良くなるにつれてだんだんと笑顔を見せてくれるようになってきた。
リヨさんは微かに口角を上げ、とても優しい目元で笑う。
今もそんな表情を浮かべ、ゆっくりと流れるような動作でペロを撫でている。
(……………)
俺はそんな彼女の表情が好きだし、そんな風に俺の前で笑ってくれることが嬉しく思う。
彼女が俺以外の前で笑っているところなんて、今まで見たことがない。
それだけで軽い優越感に浸ることが出来る。
(………でも、なあ…)
先ほどからリヨさんはペロに構いっぱなしで、俺の方をまったく見ない。
俺の前での笑顔と言っても、今は俺ではなくペロに向けられているのが容易に分かる。
(………つまらん)
猫に嫉妬なんてかっこ悪いことはしたくないが、せっかく俺が来ているのだからもう少し構ってくれても良いように思う。
はっきり言って、今の状況は面白くない。
主「なあ、リヨさん…」
リ「はい?」
無意味に名前を呼んでみるも、彼女の意識はペロに行ったまま上の空な返事が返ってくるだけだ。
主「…はあ」
思わずため息も出る。
(…ま、仕方ないか)
確かにペロはずっと撫でていたくなるほど可愛いし、その懐いてる様子からリヨさんが凄く大事にしているのも窺える。
面白くはない状況だが、そのほのぼのとした光景を見ているとどこか和やかな気持ちに慣れるのも確かだ。
リ「………○○さん」
主「!?は、はい!」
もう大方諦めていたところで、突然に名前を呼ばれた。
もしかしたらさっきまでの不満が態度に出てしまっていたのかもしれない。
主「あ…えっと、どうかした?」
リ「その………」
主「ん?」
リ「……あの…そちらへ行っても良いでしょうか…?」
主「へ?」
一瞬惚けてしまった。
主「…あ!あ、うん。…どうぞ」
が、すぐに言葉の意味を理解し答える。
リヨさんは膝の上からペロを優しく下ろすと立ち上がった。
そうして俺の隣に再び腰を下ろす。
リ「すみません、…つまらなかった、ですよね…?」
主「い、いや!そんなこと全然…!」
リ「…そう、ですか」
主「う、うん……」
リ「………………」
主「…………ごめん、本当は少し…な」
リ「○○さん…」
主「ペロにリヨさん取られたような気がしてさ」
リ「……………」
主「…!」
ふと左肩に重みを感じだ。
隣で、俺の方にもたれかかるリヨさんがいた。
主「リヨさん…」
リ「その………この方が落ち着く気がして…。ダメ…ですか?」
主「や、全然大丈夫!」
リ「良かった…」
少し照れたように笑うリヨさん。
ほのかに感じる体温。
ぐんと近くなった彼女に、心臓がうるさいぐらいに鳴る。
ペロ「…にゃー」
すぐ傍ではペロが不貞腐れたように一人で丸くなっていた。
最終更新:2008年09月10日 02:13