今日からまた新学期が始まった。
まだまだ残暑が厳しい…と言うか、全然まだ夏の気温だ。
歩いているだけで思わず汗が滲んでくる。
主「あー…暑ぃ…」
暁「おはよう○○くん!今日も暑いねー」
主「あ、暁子ちゃん!はよー」
暁「今日から二学期、また頑張っていかなきゃね!」
暁「今日のLHRは、今度の体育祭についてです」
日「各自、参加したい種目に挙手してください」
二人の言葉に教室内が盛り上がりだす。
羽「なーなー、お前何に出る?」
主「あー…うーん…どうするかなー…」
ち「うっふふ!まーた今年もちさ菜様の出番のようねぇっ!」
羽「あー、はいはい。まあせいぜい頑張って」
ち「何よぉ!もっと『さすがちさ菜様ー!』とか、『あなたはこのクラスの救世主だー!』とかあるでしょ!?」
主「ないない」
ち「きぃー!見てなさい!当日がきたらそんなこと言ってらんないんだからぁっ!!」
それぞれあれがやりたい、これがやりたいと言いながらも、何とかまとまったようだ。
垂髪なんかは一人で何種目も出るようだ。
予想通りと言うか、何と言うか…。
そして俺は借り物競争に出るとことになった。
この競技なら足の速さだけでは決まらないし、運が良かったら上位になれるだろう。
何はともあれ、頑張ろう!
空は雲一つない快晴。
そんな天気に恵まれた中、今日は体育祭が行われる。
(それにしても、暑いな…)
もう9月下旬だと言うのに、この天気の所為なのか8月と変わらないような暑さだ。
それが根こそぎやる気を奪っていくようで、少しうんざりする。
別に体育祭自体が嫌なわけではないのだが、この気候はいかがなものか。
周りを見てみれば、やる気のある者、ない者、それぞれいる。
(でも、まあ、楽しまないと損だよな!)
きっと、これも後から振り返れば良い思い出となるのだろう。
そんなこんなで体育祭は始まった。
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開会式も終わり、いよいよ競技が始まる。
出番が近くなった各クラスの選手たちが入場門へと集合しはじめた。
開会式での先生方の無駄に長い話でぐったりとしていた生徒達にも活気が戻る。
先ほどの開会式とは打って変わって、やる気が満ちていた。
面倒くさがっていた生徒達も、初めからやる気満々の生徒達も気が付けば一緒に熱中している。
もちろんこの俺も例外ではない。
やはりこういう対抗戦だと、勝ちたいと思ってしまう。
俺の出場する競技は午後からの借り物競争だ。
まだそれまで時間はたっぷりとある。
何となく少し緊張しつつ、今は応援へと熱を注いだ。
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暁「借り物競争に出場する人たちは入場門へ集合してくださーい!」
午前の部も終わり、午後の部が始まった。
それと同時にいよいよ呼び出しが掛かる。
主「あー…何か緊張するなー…」
暁「ふふ、頑張ってね!」
主「暁子ちゃん」
独り言のように呟いたそれに言葉が返ってきた。
主「よし、できるだけ頑張ってくるわ」
暁「期待してるね!いってらっしゃい!」
主「はい、いってきます!」
手を振り入場門へと向かう。
そこにはもうすでに、俺と同じく借り物競争に出るであろう他のクラスの生徒達が集まっていた。
(ふう、落ち着け…)
緊張で高鳴る胸を押さえる。
礼「はい、それでは入場!」
その先生の言葉を合図に、あらかじめ指示されていた場所へと向かった。
太陽に照らされ乾燥した校庭が砂埃を立てる。
進行のアナウンスが流れ、生徒達が再び沸き立った。
礼「それぞれ各レーンについてください」
そうしてクジによって決められたレーンへと移動する。
俺は第3レーンだ。
アナウンスで各クラスの選手達が紹介されていく。
『第3レーン、2年1組、○○●●くん』
それぞれのクラスのテントからは、口々に応援する声が聞こえる。
その声に反応したかのようにやる気が湧いてきた。
(よし、頑張るか…!)
礼「位置について」
クラウチングスタートの体制をとる。
礼「よーい…」
パァン!
一瞬の緊迫した空気の中、銃声がなる。
それと同時に一気に地面を蹴り上げた。
気を足に集中させ、思い切り走る。
恐らく速さはどのクラスも同じくらいだ。
やはりこの勝負の決め手となるのは、何を借りるのか、だろう。
紙が置かれている場所まで全速力で行き、おもむろに紙を手に取り開いた。
(えーと…何々…?)
“弁当箱”
そこにははっきりと書かれた“弁当箱”の文字。
俺は今日の昼食は学食で済ませたので、もちろん持っているわけがない。
(ついさっきの昼休み、弁当を食べてたのは…まあ、いいや)
とりあえず誰かは必ず持っているだろう。
思考を中断させ、自分のクラスのテントへと走り、大声で問いかける。
主「弁当箱!」
羽「弁当箱ぉ!?俺持ってねーよ」
ち「あたしも今日パンだったしー…」
口々に持ってないと言いだすクラスメイトたち。
(くそー、こんな時に限って…!)
主「あー、もー!誰か、弁当箱…」
暁「はい!」
もう一度問いかけようとした時、薄青色の巾着に入ったそれが目の前に差し出された。
暁「お弁当箱!ほら、急いで!」
主「あ、ああ。ありがとう!」
暁「頑張って!」
声援を受け、その弁当箱を受け取ると一目散に駆け出す。
(ん………?)
その手にした弁当箱に何だか違和感を覚えた。
が、それを頭から振り払い、今は走ることに集中する。
幸いなことに、まだ他のクラスはどこも目当てのものが見つかっていないようだ。
一体何が書かれていたんだか…
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主「これ…!」
礼「…はい。OKです」
先生のところまで見せに行き、確認してもらう。
後はゴールを目指すだけだ。
暁「●●くーん!頑張れー!」
俺への声援が聞こえる。
(あとちょっと…!)
こうして、俺は見事1位でゴールすることができた。
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暁「お疲れ様!」
俺がテントへと戻ると、暁子ちゃんが笑顔で駆け寄ってきた。
主「さっきは、サンキュ。暁子ちゃんのおかげで助かったー…」
暁「ううん、●●くんが頑張ったからだよー!」
主「あ、それでこれ…」
さっき借りた弁当箱を差し出す。
主「あのさ、これって…」
さっき感じた違和感。
昼休みはもうすでに終わっているのだ、でも…
暁「あ…分かっちゃった、かな?」
主「あ、ああ」
それはその一言で確信へと変った。
主「中身、入ってたんだよな…悪い、思いっきり走っちゃったから…」
暁「あ、いいの!全然気にしないで!」
主「でも…」
暁「それに、もう必要なくなったものだし…」
主「え…?」
聞き返せば、苦笑しつつ答える。
暁「その、何て言うか…先生に、と思って作ってきたんだけど…ね」
その表情を見ていると、胸が締め付けられるような気持ちになった。
暁「結局、渡せなくって…」
主「そっか…」
暁「だから…いいの」
何とか笑顔を作ってはいるものの、今にも泣き出しそうな彼女。
気が付けば、返した弁当箱を再びしまおうとする彼女の手を掴んでいた。
暁「●●…くん…?」
突然のことに目を丸くさせる暁子ちゃん。
主「あ、えっと…その…」
暁「何…かな?」
主「…俺に、くれない?」
暁「え、でも…」
主「その、走ったらさ、腹減っちゃって…」
冷静に考えれば、なんて間抜けな理由なんだと思うだろう。
もっと他に言いようもあったはずだ。
しかし、今はそんなことを考えている余裕などない。
主「良かったら、なんだけど…」
そこまで言ったところで彼女がくすりと微笑んだ。
暁「良いよ、どうぞ」
主「あ、ありがとう…!」
その答えにほっと安堵する。
暁「あ、でも中身ぐちゃぐちゃになっちゃってるかも…」
主「いや、気にしないって!て言うか、もしそうでも俺のせいだし」
暁「ふふ、ありがとう!食べるって言ってくれて…嬉しい」
(あ………………)
そう言って笑う彼女の顔に一瞬見惚れる。
多分、今まで気づかないふりをしていたんだと思う。
先生のことが好きだと聞かされたあの日から、ずっと。
でも、それを今になって気づいてしまった。
(俺…暁子ちゃんが好きなんだ)
それはどう足掻いても消すことのできない事実だ。
しかし彼女が先生のことを思っているのもまた事実で。
でも、今日俺は自分の気持ちに気づいた。
多分、それで1歩前進することが出来たんだと思う。
彼女が誰のことを好きでも良い、俺は彼女が好きなのだ。
できるだけ、彼女の傍にいて、彼女を支えてあげたい。
こんなに一生懸命な暁子ちゃんを。
今、心の底からそう思った。
最終更新:2008年09月02日 14:13