―ガラッ
犬「おっはよう!」
驢「おはようなんだな~」
主「はよー」
始業10分前、教室内にはもうすでに半分以上の生徒が登校してきていた。
ガヤガヤと騒がしい室内を横切って自分の席につくとどっかりと鞄を下ろす。
主「ふう…」
白「○○くん、おはようです!」
主「あ、おはよう」
一息ついたところで白雪に声をかけられた。
主「もう平気なの?」
白「はいです、おかげ様で!」
主「そっか」
そういう彼女は確かに顔色も良い。
やはりもう全開したのだろう。
白「その、メールありがとでした」
主「あ…ああ、メール、な…」
白「えっと、暁子ちゃんも…」
主「え…あ、そうそう!暁子ちゃん!うん、暁子ちゃんも心配してたからさ…」
白「ホントですか!?」
主「う、うん、もちろん!」
ぱっと輝いた白雪の顔に罪悪感が募る。
本当は暁子ちゃんは何にも言ってない。
ただ、白雪が喜んでくれるかと思って、さも二人で心配してますといった風に俺が勝手に写メを添付しただけなんだから。
白「へへー、嬉しいですー」
主「ああ…良かった、な」
それでも俺は、また彼女が元気に学校へきてくれたことが嬉しかったし、何よりこの嬉しそうな彼女の表情を見ていると何も言えなかった。
送信者:上城白雪姫
件名:
内容:見せたいものがあるので、美術室まできてください
パチリと携帯をとじてポケットの中へとしまった。
美術室の扉の前、一呼吸置いてから手をかけ開く。
―ガラッ
白「あ、●●くん!待ってました!」
少し重い扉を開くと、白雪が笑顔で出迎えてくれた。
招き入れられるままに中へと入る。
主「で、見せたいものって?」
白「ふふふー、何だと思いますかぁ?」
やけにニコニコと上機嫌の白雪。
まるでなぞなぞを出す子供の様な、少し得意げな口調で尋ねてくる。
主「んー…わざわざ美術室に呼び出したわけだしなー…あ、新しい絵が出来た、とか?」
とりあえず思いついたものを口にする。
白「ぶー!ハズレ、です!正解は、ですねぇ…」
してやったりと言った顔で、机の下から何か塊を取り出し見せる白雪。
(これは…)
主「彫刻…?」
白「はいです!正解ですう!」
パチパチと心底嬉しそうに拍手を送る彼女。
机の上に置かれた、その気で出来た造形物は人をかたどっている。
所謂胸像と言うものだろうか。
そして、その形には見覚えがある。
主「…暁子、ちゃん?」
白「わあ、またまた正解です!」
おそらく、彼女を知っている人物なら誰しもが分かるだろう。
本当に器用なものだと、つくづく感心してしまう。
主「やっぱり…白雪は才能あるな」
白「えへへ、です…何だか、そんなに褒められると照れちゃいます。…でも、嬉しいです」
少しだけ頬を赤く染める。
白「でも、彫刻って凄いですよね…」
主「ん?」
白「初めはただの木の塊だったのに、自分で手を加えればその通りに形になって…」
主「……………」
白「頑張れば頑張るほど、思いどおりの形になっていく…みんな、全部が全部、そんな風だと、良いのに…」
ポツリと、まるで独り言のように呟く。
その瞳は寂しさを称えている。
白「もし、そうなら…白雪が頑張れば頑張っただけ、また、暁子ちゃんと仲良くなれるのに…」
主「白雪………」
白「………なんてね、です。ちょっと、おセンチさんになっちゃいましたね、ごめんなさいです…」
主「あ、いや…」
眉を八の字に下げ、少し困ったように笑う白雪。
本当に暁子ちゃんのことを思っているんだな、とつくづく感じ、少し切なくなる。
願わくば、この白雪の気持ちが暁子ちゃんに届きますように。
そう心の中で祈る。
この二人が、もう一度昔みたいに仲良く居られるようにと。
ただただそれだけを思った。
最終更新:2008年08月02日 12:18