10月:


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(ケンカ、ねえ…)

先日の日向の話しを聞いてから、余計に暁子ちゃんと白雪のことが気になりだした。
相変わらず暁子ちゃんは友達と楽しそうに喋っているし、白雪は休み時間だというのに一人で席に座っている。

(うーん…)

日「考え事?」
主「え?」

ふと声をかけられ振り向くと、そこには日向がいた。

日「ふふ、眉間に皺寄ってるよ」
主「あ、いやー…さ、考え事って言うかさー…」
日「ん?」
主「あの二人、仲直りした方が良くないかなって」

そう言って暁子ちゃん、白雪をそれぞれ見やる。

日「仲直り…」
主「ああ、何かこのままずっと気まずいってのも暁子ちゃんにとって良くないかなとーとも思うし、白雪もあんな風に一人でいるのはなんか可哀相だし…」
日「…今更そんなの無理だよ」
主「え?」

日向がいつもより数段低く小さな声で何か呟いたが、上手く聞き取れず教室内の騒音にかき消されていく。

主「今何て…」
日「そんな心配する必要ないんじゃないかなって…ほら」
主「うん?」

そう言って日向は白雪の方を示した。

女①「上城さーん!」
女②「こっちおいでよー!」
白「ふぇ?あ…は、はいです!」

白雪は先ほどまで甲高い声を上げて何やら楽しそうに喋っていた女子の集団に呼ばれたかと思うと、その輪の中に混じっていた。
暁子ちゃんのいる集団ではないものの、また楽しそうに話を続けている。

日「ね?」
主「あ…ああ」
日「彼女も彼女で最近は上手くやってるみたいだし、僕たちが下手にどうこうすることじゃないよ」
主「うーん…」
日「こう言うのは放っておいてあげるのが一番だって」
主「そういうもんかな…」
日「僕が間違ったこと言ったことある?」

その問いに、今までのことを思い起こす。
確かにいつも相談するたびに的確な答えをくれていた。

主「ない、な」
日「でしょ?だから、もうこのことには首を突っ込まない方がいいよ、ね?」
主「そうだな…そうするよ」

どことなくモヤモヤとした感じが残るものの、俺は納得することにした。



―ガラリ

勢いよく扉が開く。
その音に顔を上げると、先生がツカツカと教壇に上がっていくところだった。
朝のチャイムが鳴ったのはもう5分も前のことだ。
いつも時間厳守のはずの先生の遅い到着の所為か、教室内は騒がしい。

礼「静かに!」

少し大きめの声を出して生徒達を静める。
ぴたりと生徒達の声が止んだ。

礼「それでは出席…といきたいところですが、今日はその前に大事な話があります」
主「?」

突然の話に生徒達は疑問符を浮かべる。

礼「大変残念な話なのですが…どうやらクラス内でイジメが起こっているようです」

クラス中が一気にざわめきだった。
反応はといえば、どこか好奇心に目を輝かせる者、キョロキョロと辺りを見回す者、近くの生徒と喋り出す者とさまざまだ。

礼「静かに!!」

再び先生が声を張り上げ生徒達を静める。

礼「高校生にもなってこのようなことが起こるというのはとても残念です。と言うよりも、あってはいけないことです。今回のことで誰がどうだなどと問い詰めるようなことはしませんが、もし心当たりがある者がいればそのような行為は今後一切しないように。…それでは出席をとります」

それだけ言うと先生はいつもと同じように生徒達の名前を読み上げ出した。

それにしてもイジメ…か。
そんなもんがクラス内にあったんだなぁ…俺は気付かなかったけど。
でも普通、こんなことぐらいでなくなんないよなあ…。
もしかしたら逆上して酷くなるかもしれんのに。
ま、言われるまで気づかなかったし、俺には関係ないことなんだろうけど…。



日「○○くんてさ、よくお節介って言われるでしょ?」
主「え…?いや…」

何処となく棘のある言い方。
意地悪そうな三日月形の目をした表情に少しの違和感を覚える。
果たして彼の笑顔はこんな笑顔だったのだろうか。

日「いいよ、そんなに知りたいんだったら教えてあげるよ」
主「あ、ありがとう」
日「○○くんは、姉さんが好き…なんだよね?」
主「うん、そうだけど…」
日「でも…残念だね。それは叶わないよ」
主「それは………分ってる」

暁子ちゃんがどれだけ先生のことを想っているかは重々承知だ。
ただ俺は、彼女が好きで、彼女が幸せになれば言いと思っている。

(…いや、違う)

本当は分っている。
それは全て建前で、心の中ではまったく別のことを考えている。
早く彼女が振られれば、俺に目を向けてくれるかもしれない。
今のうちに彼女に協力できることはしておいて、好印象を与えておこう。

(嫌な人間だな、俺は…)

日向は言葉を続ける。

日「姉さんはね、一度失恋してるんだよ」

まるで俺の考えを見抜いたような答えにドキリとした。

日「ふふ、告白して振られたってわけじゃないけど、先生は上城さんのことが好きって言うことが分ったからね」
主「え?」
日「あ、○○くん知らなかったの?」

可笑しそうにカラカラと笑う。

日「えーと、それじゃあね、先生が家庭教師してたって言うのは?」
主「それなら、聞いたけど…」
日「そっか、ならいいや。それで、うちに来てもらってたんだけど、上城さんも一緒でね」
主「白雪も?」
日「あの頃は二人とも仲良かったからねえ」
主「そう言えば、中学校の頃からの付き合いだって聞いたけど…」
日「そうそう、それが一人の男の所為で今じゃ滅多に口も利かなくなったってワケ」
主「……………」
日「まあ大まかに言えばそんなとこだよ。…それじゃ、僕はもう良いかな?」
主「え、あ、ああ。ありがとう」

立ち上がり、軽く服についた汚れを手で払う日向。
俺も立ち上がろうかと思ったけれど、何となくそんな気になれなくてまだボーっと座っている。
そのまま去っていくかと思った彼が、また一言口を開いた。

日「姉さんはさ、」
主「うん?」
日「我侭なんだよ…欲しいものは全て手に入れないと気がすまない」
主「え…」
日「ん?」
主「そんなこと…」
日「ないかい?…ふふ、そうだね。…そうそれはね、君が姉さんにとって欲しいものだから、だよ」
主「え?」
日「結局のところ、姉さんは…欲しいものは、全部、自分の望む形で手に入れたいんだ」
主「あ…えっと、それって…」
日「それくらい、自分で考えなよ」
主「あ…」

そう突き放す様に言うと、1歩、2歩と進めた。
そして丁度5歩目を踏み出したところで、もう一度こちらを振り向いく。

日「そうそう、一つだけ言っておいてあげる。…姉さんはね、自分の望む形じゃないと、要らないんだよ」
主「え?」

理解できずにいる俺ににこりと微笑むと、もう今度は1度も振り向かずに屋上から出て行った。

(自分の…望む形?)



羽「ほら、次体育だぞ」
主「ああ」

休み時間の教室、それぞれ体操服の入った袋を持った生徒達が1人2人と出て行く。
それに習い、俺もロッカーの中から体操服の入った袋を取り出した。

主「そういや今日って何やるんだっけ?」
羽「えーと…確かサッカーだったような…」
主「あー、サッカーか」

窓から外を見やる。
空は眩しいほどに晴れている。
それと同時に、もう早くも誰か校庭に出て遊んでいるのだろうか、微かに声が聞こえた。

羽「ほら、早く行くぞ」
主「あ、おう」

もう既にドアのところに待機していた羽生治に急かされ、教室を出る。
休み時間と言うこともあり、廊下は生徒達で賑わっていた。
ざわざわと騒がしい話し声があちこちから聞こえてくる。
それらを特に気にも留めずに歩く。

「キャアッ!」

突然その中に、甲高い女性の悲鳴が木霊した。
一瞬、そこにいた全員が悲鳴の聞こえた方を向き、時が止まったかのように静かになった。
かと思えば、すぐにまた騒がしくなる。
先ほどよりも、より一層。

羽「今の…って、おい!」

好奇心からか、気が付くと俺は、まるで条件反射のように悲鳴が聞こえた方へと走り出していた。

(一体何だ…?)

そのまま廊下を直進する。
たった今俺たちが向かっていた先、1階へと降りる怪談のところに人ごみができていた。
一体何があったのか、僅かにできた隙間から覗き込んでみる。

(有栖川…)

階段の踊り場の少し下の段に座り込み、青い顔で呆然と下を見つめている。
その視線の先を辿っていく。
そして、行き着いたその先を見て息を呑んだ

(…暁子、ちゃん…?)

ちょうど階段を下りきった場所に横たわっていた。
その目は閉じられ、身体は動かない。
頭の下に少量の赤い液体が広がっている。

(階段から、落ちた…のか…?)

おそらくそれしか考えられないこの状況。
集まった野次馬達もどうしたらいいのか分からずオロオロと戸惑い、騒いでいる。

主「ちょっと、すいません…っ!」

何とか人を掻き分け、有栖川へと近寄った。

主「おい、どうした!」
小「………あ…違っ…その…」

酷く混乱しているようで、口をパクパクと動かしながら必死に何か言おうとはしているものの、言葉になっていない。
まるで何かに怯えているかのような表情。
身体も僅かに震えている。

主「くそッ…!」

有栖川から話を聞くには落ち着くまで待つしかないと悟り、階段を駆け下りると暁子ちゃんのもとへと向かった。

主「暁子ちゃん!おい!」

呼びかけてみるものの、何の反応もない。
せめて起そうと、手を伸ばす。

礼「待ちなさい!」

と、彼女の身体に手が触れる前に、突如抑制の声が振りかかる。
ビクリと止まる手。
見上げるとそこには担任の青木先生、そしてその後ろには羽生治がいた。

羽「先生呼んできた」
主「あ…」

軽く肩で息をしている羽生治。
いきなりのこの状況に、動転して先生を呼ぶということを忘れていた俺。
羽生治の行動は、常に落ち着いていて的を得ている。
感心すると共に、自分が恥ずかしくなった。

礼「頭を打っているんだったら、動かしてはいけない」
主「は、はい…」

いつもとは違い厳しい口調の先生。
そう言えば、だいぶ昔に本だかテレビだかで見たような気がする。
伸ばしかけていた手を下ろす。
それと同時に、自分は何をやっているのだと少しの自己嫌悪に陥った。

礼「とりあえずこのまま…」
暁「…ん………」
主「あ!」

そのとき、ピクリと彼女が動いた。
そして、ゆっくりと瞼が持ち上がる。

暁「あ、れ…私…………っ痛」

起き上がろうとしたものの、体中を強く打ったのだろう、痛みに顔を歪める。
額を切ったのか、血が重力に従い下へと落ちる。

礼「大丈夫ですか?」
暁「あ…先、生…?」
礼「血が、でてますね…」

そう言ってポケットから綺麗にアイロンのかけられたハンカチを取り出すと傷口に当てた。
意識を取り戻した彼女に、安堵のため息を漏らす。
おそらく、今この場にいる全員が安心しただろう。

―キーンコーンカーン

ここでチャイムが鳴る。

礼「さ、みんなは早く授業に行きなさい!」

そう言って先生が野次馬を散らす。

主「あの、先生…!」
礼「ほら、早く君たちも授業に向かいなさい」
主「でも…」
礼「茨さんは先生が保健室まで連れて行きますから。」
主「…………」

ぐいっ

渋っている俺の襟元が誰かに引っ張られ、立たされた。

羽「ほら、先生の言うとおりにしとけって!授業遅刻だぞ!」
主「あ…!」

そう言えば体育だというのにまだ着替えてすら居ない。

(でも、今はそんな気分じゃ…)

主「って、ちょっと!」
羽「ほら、早くしろ!!」

そのまま引きずるように俺を連れて行く羽生治。
遠ざかり、だんだんと小さくなる暁子ちゃん、先生、それから…

(有栖川?何で…)

そこには本来居るべき暁子ちゃんと先生、それに加え確かに有栖川が残っている姿が確認できた。



(あれ、まただ…)

休み時間、ふと目に付いたのは一人で席に座る暁子ちゃん。

(そういえば、今日、ずっと…だよな…)

朝から幾度か目に留まった暁子ちゃんは全てが今みたいに一人でいるところばかりだ。
いつもならみんなの輪の中心にいるはずなのに。
今日はその輪から外れ、ぼんやりと目を伏せている。

(声…かけてみるかな)

主「き…」
日「姉さん」

(あ………)

声を出しかけたが、それは日向の声によってかき消された。

(…ま、いいか)

特に明確な目的があったわけでもなく、何となく声をかけようと思ったまでだ。
何やら話を始めた二人を横目に、これ以上声をかけることは諦めた。