11月.


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礼「はーい、席についてー!」

先生が教室内に入ってくると、それまで騒がしかった教室内は一気に静かになる。

礼「それでは出席をとります」

毎朝の恒例だ。
出席番号順に、次々と生徒達が呼ばれ、返事をしていく。

礼「○○くん」
主「あ、はい」

俺も例に倣って返事を返す。

礼「…以上。欠席は垂髪さんだけですね」

え…?
返事がなかったからてっきりいつもの遅刻だと思ってたけど、休み…か

ふと、昨日のやりとりを思い出す。

いや…でも、体調不良だよな…きっと。



主「はあ…」
羽「なんだよ、ため息なんかついて」
主「いや、別に…」
羽「あ、分かった、あれだろ、垂髪」
主「っ!!」

その名前に心臓がどきりと跳ねる。
この前のこと、その後のやりとり、誰にも話してないし、恐らく誰にも見られてもないはずだ。

羽「あーあー、彼女が休みってぐらいでさー」
主「え、あ、ああ、そうそう、休みだから寂しいなーって!ははは」

何とか心臓を落ち着かせる。
そうだ、多分あのことを知ってるのは俺だけだ。
気付いてる奴もいない…と思いたい。
俺も現場を見るまでは気付かなかったのだから。
いや、むしろそもそもイジメとかそういうのじゃなくて単なる友達同士の喧嘩だったのかもしれない。
気が動転していて垂髪には辛い態度をとってしまったけど…。
そう思いたい。
あんなに良い奴だった垂髪がイジメなんて思いたくない。

羽「それにしても垂髪が休んでもう3日かー…」
主「そう、だな…」
羽「あいつ毎年皆勤賞とってたのに珍しいこともあるもんだな…こりゃ明日は大雪かな」
主「はは、まさか」

曖昧な返事を返しつつも、心の中では様々な考えが浮かんでは消え浮かんでは消えていた。



何となく重い気持ちで、もう何回通ったか分からない道を歩く。
手にはプリントの束。
垂髪が学校を休み出してから、こうやって届け物をするのがいつの間にか俺の役目となっていた。
それもこれも、担任が言うには彼女のご指名らしい。

主「はあ…」

ため息をつく。

(いつからだっけなあ…)

初めの方は毎日のように届けに行っていたそれも、今では週一。
休日にまとめて行くようになった。
日が立つごとに、どんどんそれが憂鬱に、重荷になっていく。

数ヶ月前までは、よく一緒に遊んだりもした。
この道を歩くのも、さほど憂鬱ではなかった。
それどころか、楽しんでいた。

(いつから、こんなことに…)

いつからか、そう考えたところで辿りつく答えはいつも1つ。
あの日からだと分かりきっているはずなのに。
もしもあの日に、俺が裏庭にさえ行かなかったら、何かが変っていただろうか。
あのことを知らなければ、今も変らず幸せに過ごせていたのか。
分からない。
それに今更そんなことを思っても仕方がない。

ぐちゃぐちゃになった脳中から、全てを追い出すように頭を振ると、また彼女の家までの残りを歩いた。




垂髪が休み始めて4日目。
普通の体調不良ならとっくに回復しているはずだ。

…やっぱり、休んでいる理由には他の何かがあるのだろう。

鳥「それでさー、」
小「えぇー」

ふと鈴の音のような軽やかな笑い声が聞こえた。
鳥越と有栖川。
このところ垂髪や白雪と一緒に行動していた彼女たちなら何か知っているはずだ。

主「あのさ、ちょっと良いか?」
鳥「へ?どしたのー?」
小「なによ?」

声をかけると話を中断させ、きょとんとした顔をこちらへ向けた。

主「その、垂髪と…白雪のことなんだけど」

その名前を出した瞬間、あからさまに二人の態度が不機嫌なものへと変わる。

鳥「で…その二人がどうしたって言うの?」
小「何が言いたいわけ?」
主「えっと、いや…その…」

二人の態度に、じんわりとした重圧的な息苦しさを感じた。
思わず言葉に詰まる。
しかし二人はそれにお構いなしで言葉を続けた。

小「言っとくけどね、あたしたちは何の関係もないわよ!」
鳥「そうよ、なーんもやってないんだからね!」
小「まったく、良い迷惑よね、誰かさんの所為で!」
鳥「ホントよねー?」
主「それって…」
鳥「なーんか垂髪さん、前から上城さんのことが気に入らなかったみたいだし?」
小「別に私たちはどうでもよかったのよ!」
鳥「だーかーらっ!私たちはなーんにも悪くないんだってば!ね?」
小「そうよ!…で、話ってこれだけ?」
主「えっと…」

一気にまくし立てられるように言われ、返答に困る。
事実にショックを受けるも、薄々は感ずいていたことだ。

主「その…なんで、垂髪はこんなことを…?」

そんな中、思わず口にしたのはふと浮かんだ疑問だった。

鳥「…さあ、なんだっけー?」
小「自分の胸に聞いてみたら?」
鳥「ねー?後は知らないっ!」

自分の、胸に…?

主「…………」

原因は、俺、なのか…?
嫌な汗が背中を伝う。
もう一度さっきの話題に戻り話し出す二人の声が、やけに耳に痛く響いた。



自分の胸に聞け、
先ほどの言葉が頭の中で反復する。

一体俺が何をしたんだよ…
何が悪かったんだよ…!

俺は俺なりに、普通に過ごしてきたし、ちゃんと周りにも気を使うように努力した。
特に人の迷惑になるようなこともやってない…はずだ。
もし何かあっても言ってくれればその場で出来る限りの対処はするし、こんなことにはならなかったはずだ。

主「はあ…」

もはやため息しか出ない。

暁「○○くん、どうしたの?そんなに落ち込んじゃって…」
主「あ、暁子ちゃんか…」

一人、悶々と考えていると心配そうな顔をした暁子ちゃんが声をかけてきてくれた。

そう言えば夏休み前までは女子の中で垂髪と一番仲が良かったのは暁子ちゃんだったな。
多分、彼女なら相談に乗ってくれると思う。
一人で考え込むよりも、この優しい声に甘えてみるのも良いかもしれない。

主「その、さ…」
暁「ん?」
主「垂髪のことなんだけど…」
暁「ふふ、ちさ菜休みだして4日目だからねー。やっぱり彼女のことが心配?」
主「いや、そうじゃなくって…」
暁「あれ?違うの…?」
主「その、白雪のことも関係してるって言うか…」
暁「上城…さん…」

その瞬間、今までの和やかな雰囲気が消えた。
どこか神妙な表情の暁子ちゃんは何も言わない。
俺はそのまま垂髪と白雪のこと、今の現状を要点だけ簡潔に話した。

暁「そう…」
主「それで…」
暁「ごめんね、私、そんなことがあったなんて知らなくて…」
主「え、あ…そっか…」

続きを話そうとしたところ、やんわりと止められた。

暁「その、何にも分からないから、変にかかわると余計にややこしいことになっちゃうと思うの…」
主「…そっか…」
暁「ごめんね、力になってあげたいのは山々だけど…」
主「いや、全然大丈夫!こっちこそ、なんか…悪かったな」
暁「ううん、気にしないで」

困ったよう笑顔で答える彼女。
やっぱり、こんな風に頼ってしまうのは他願本力なんだろうか…

リ「…○○さん、」
主「え?」

突如声をかけられ振り向くと、そこにはリヨさんがいた。

主「あ…どうかした?」
リ「○○さん、数学のノートの提出がまだですよね?出していただけますか?」
主「あ、悪い!すっかり忘れてた…ちょっと取ってくるから」
リ「いいえ」

暁「…………」
リ「…………」
暁「…灰塚さん、どうかした?」
リ「…あなたは…ずるいです…」
暁「そう…そっか…」



垂髪のアパートの部屋の前、静かにチャイムを押す。
ドア越しに小さな呼び出し音が聞こえ、それを合図にバタバタと足音が聞こえる。

―ガチャ

開けられたドアから垂髪が顔を出した。
前、見たときよりも少しやつれたような気がする。
そして俺を見た瞬間、満面に笑顔を浮かべる。

ち「●●、待ってたよ」
主「あ…これ…」

その表情に、今まで思っていたこと全てを後ろめたい気持ちになる。
思わず目を逸らし、手に持ったプリントを押し付けるように差し出す。

ち「ありがと…」

彼女はそれを受け取ると、まるで何か大切な宝物かのように抱きしめる。
何となくそれを見ているのが辛くなり、足早に立ち去ろうとする。

主「それじゃ、俺はこれで…」
ち「待って…!!!」

突如大声を出し、手ぶらになった俺の腕を引っ張る。
縋りつくように力の込められた手、眼差し。

ち「その、上がってって!お茶、入れるから!」
主「でも…」
ち「ね、お願い…!」

今にでも零れ落ちそうなほどに涙を溜めた瞳。
泣かせてしまう、そう思った時、

主「…分かった」

思わず頷いてしまう。
どこか常に良い人でいたいというエゴがそうさせる。
そしてその分、何かが俺の中でスーッと引いていく。
それはまるで諦めにも似ていて。

案内されるままに部屋へと足を踏み入れた。



今日の垂髪は良く喋る。
まるで昔のように。
まるで何もなかったかのように。
本当に何もなかったのだと錯覚を起しそうになるほど。
いや、もうすでに起していたのかもしれない。

ち「ちょっと、●●!聞いてんの?」
主「え、ああ、悪い」

少しだけ、どこか懐かしい気分に浸っていた。
用意されたお茶を一口含み、喉を潤す。

~~~♪(着信音)

その時、ポケットの中で着信音が鳴った。
ふ、と我に返る。
黙る垂髪。
俺は携帯を取り出し通話ボタンを押した。

主「もしもし?」
白「あ・・・主人公くん・・・」
主「白雪?」

その名前を口にした瞬間、垂髪の顔色が変わる。

白「急に、ごめんなさい。あの、実は、またいつもみたいに気分悪くなって、でも、今誰もいなくて、不安で・・・」

電話口からでも分かる、弱々しい声が聞こえてくる。
そうだ、俺はここへはただプリントを渡しに来ただけで、長居するつもりはなかったのだ。
俺はチラリと横目で垂髪を見た。

主「分った、すぐ行く」
ピッ

そう一言返すと、すぐさま電源を切った。

ち「あ、あの、主人公…」
主「…それじゃ、俺、もう行くから」
ち「で、でもでも…」
主「用あるならさ、代わりに羽生治でも呼んどけよ、仲良いだろお前ら」
ち「だからって!なんで、上城さんなんかのところに…」
主「………垂髪」
ち「……………」
主「お前は、自分のしたこと分ってんの?」
ち「それは…!それ、は…」
主「……………」
ち「……………」

何も言わなくなる。

主「それじゃ、俺はもう行くから」
ち「あ…!」

垂髪が何か言いかけた気がするけど、もうそれには構わなかった。



【ちさ菜アパート前】

主「はあ…」

(結局、だよな…)

あれから、白雪の元へは行ったものの、やはり気になって戻ってきてしまった。
戻っては来たものの、あんな別れ方をしたのだ、なかなか垂髪の部屋には行きづらい。

(…自業自得ってやつか)

意を決すると重い一歩を踏み出した。

【階段上る】

(あれ…声が…)

垂髪の部屋の前、薄いドアの向こうから声が聞こえてくる。

(この声って…)

ち「羽生治…」
羽「何だよ」
ち「…………」
羽「結局、お前は俺じゃなくって…」
ち「今は…羽生治が良い…」
羽「はぁ!?お前、今更何言ってんだよ!!!」
ち「だって、●●は解ってくれない…から」
羽「っ俺だってなあ、解んねえよ、お前の事なんて…!」
ち「あ、羽生治…待ってっ…!」

(やばっ、どこかに隠れ…!)

―ガチャッ、バタン!

羽「…っ!!!」
主「は、羽生治…」
羽「……………」
主「あ、ちょ、ちょっと待てよ…!」

【階段下りる】

主「羽生治!」
羽「っ、何だよ、放っとけよ…!」
主「は………」

【羽生治走り去る】

徐々に遠ざかる背中。
言葉が喉に張り付いたようでうまく声が出ない。

(羽生治…)



羽「○○」
主「あ、羽生治…」
羽「ちょっと話があんだけど」
主「…ああ」

いつもとは違う、少し冷たく鋭い真面目な声。
すぐに、昨日のことだと理解した。


羽「ここでいいか、人あんまり来ないし」

ついた先は屋上。
確かにこの時間帯、人は滅多に来ない。

主「で、何だ?」
羽「あのさ、お前…もう、嫌なんだったら、見舞いとか…行くのとかやめろよ」
主「え…?」
羽「……………」
主「あ、いや…別に嫌ってワケじゃ………」
羽「ははっ、隠すなって。俺相手にそんな偽善的な嘘つく必要もないだろ」

乾いた笑い声。

主「……………」
羽「ほらな…無言は肯定、ってか?」

(何か、言わないと…)

頭の中で無理やり言葉を探す。

主「で…でもさ、あいつ…」
羽「何だよ」
主「その、学校来なくなった、原因とかって…そもそも、俺なワケじゃん…」
羽「で?」
主「だから…その…俺には責任とかがあって…」
羽「責任、ねえ…」
主「……………」
羽「そうだよな、結局はさ、お前の所為なんだよ」
主「……………」

自分では思っていたものの、改めて他人からそう言われると、一気に罪悪感が湧いた。
でもそれと同時に、何故俺がこんな目に会わなければいけないのかと、少しだけ苛立ちを感じた。

羽「でさ、お前は垂髪と上城さん…どっちのが大切なんだ?」
主「ど、どっちがって………そりゃあ、垂髪は俺の彼女、だし…」
羽「彼女、ねぇ…」
主「……………」
羽「ホントにそう思ってんの?」
主「そりゃあ、…もちろん」
羽「じゃあ、何で昨日上城さんとこ行ったんだよ」
主「それは…」
羽「それは?」
主「……………」

言葉が続かなかった。
頭の中では分っているはずなのに。
垂髪は白雪に酷いことをした。
きっとこのことが広まれば、垂髪は何らかの形で処分を受けるだろう。
でも、白雪はそれを誰にも言わなかった。
言わないでいてくれた。
だから、その分そのことを知ってる俺が力にならなくては。
そう、これは垂髪のためでもあるのだ。

(でも………)

そこまで考えていつも思う。
どうして、俺がそこまでやる必要があるのだろうと。
でもそれは、してはいけない考えのような気がして、またいつものように頭から追い出す。

羽「…お前は、何で垂髪と付き合ってんの?」
主「え?」

何も言わない俺に痺れを切らしたのか、別の質問を投げかけてきた。

主「何でって…それは、好きだからに決まって…」
羽「じゃあなんでだよ!」

言葉を言い終わらないうちに遮られる。

羽「なんで、昨日一緒にいてやらなかった…?」
主「……………」
羽「お前はさ…どうしたいの?」
主「……………」
羽「なあ…」
主「…垂髪、変ったよな…前は明るくて、元気で、学校休んだりする方が珍しかったのに…」
羽「……………」
主「俺は、ただ、前みたいに…」
羽「…前みたいに、みんなで馬鹿やって楽しくやりたいって?」
主「……………」
羽「ははっ…お前さ、バカだろ」
主「な…」
羽「あいつは何も変わってねーよ。…お前が知らなかっただけだ」

その言葉に、俺が全否定されたような気がした。

主「………じゃあ、」
羽「なんだよ」
主「お前は知ってんのかよ」
羽「お前よりは」
主「うるさい!何でもかんでも知った風な口聞きやがって…俺と、垂髪のことなんて何にも知らないくせに…知った風な口を利くな!!!」

(そうだ、俺は羽生治みたいなただの幼馴染じゃなくて、恋人で、もっともっと近い存在なんだ…!)

―キーンコーンカーン

その瞬間、まるでタイミングを見計らったかのようにチャイムが鳴った。

羽「……………」
主「……………」
羽「…ほら、教室もどれよ。HR始まるぞ」
主「…ああ、そうする」

チャイムが鳴ったにも係わらず、そのまま動こうとしない羽生治を背に、振り向きもせずに一気に教室へと戻った。
その日、これ以降羽生治の姿は見なかった。