2章

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主「それじゃ、いってきます」 いつものように挨拶をして、いつもより少し早い時間に家を出た。 昨日のこともあるし、今日は白雪と一緒に登校する約束をしておいたのだ。 主「っと、やべ、ちょっと遅れそう…」 携帯に表示された時間を確認すると、昨日約束した時間まであと5分しかない。 一緒に登校といっても、わざわざ家まで迎えに行くわけではなく、丁度二人の通学路の途中にある公園で待ち合わせしているのだ。 軽く駆け足をしながら約束の公園へと向かった。 ------ 公園が見えてきたと同時に、入り口の前で佇む一人の少女が目に入った。 白雪だ。 こちらに気付いたようで軽く手を振っている。 俺も答えて手を振り返す。 その頃にはもう軽い駆け足ではなく、本気の走りに変っていた。 主「っご、ごめん、待った?」 走ってきた所為だ、息が乱れている。 我ながら少し情けないとは思う。 白「大丈夫ですよぉ、白雪も今来たところです」 主「そ、か…、なら、良かったん、だけど…」 白「くすっ、○○くんこそ大丈夫ですかぁ?」 主「え、あ、お、俺?あ…ああ、全然!この通り!」 白「えへへ、そんなに急いで来てくれたなんて、白雪感激です!」 ふと、ふんわりとした雰囲気で笑う彼女の頬が目に入った。 白「…○○くん、どうしたですかぁ?」 主「うん、ちょっと。でも良かったな、ほっぺた腫れなかったみたいで」 白「あ、昨日のことですね?へへ、大丈夫ですよぉ…いつもの、ことですし」 主「え?」 白「さ、早く学校行きましょうです!遅刻しちゃいますよぉ?」 主「や、ちょっと待てよ、いつものことって…」 白「なんでもないですよ!早く早くですー!」 主「あ………」 そう言うと彼女は、まるで追いかけっこでもしているかのようなしぐさで足を進めだした。 となれば、俺は鬼のように彼女を追いかけるしかない。 丁度今持った疑問は答えを貰えずうやむやなままだ。 軽い足取りで俺の前を行く彼女は、屈託ない笑顔を浮かべている。 俺よりもずっと低い身長、細い身体。 俺が守ってやらなきゃ、心からそう思った。 -------------------- 白「あの、○○くん」 主「白雪…」 昼休み、騒がしくなった教室内で白雪が声をかけてきた。 手には弁当の包みが握られている。 白「お昼、一緒に食べません?」 主「ああ、もちろん。どこで食う?」 白「そう、ですね…裏庭、裏庭に行きましょう」 主「了解」 俺も弁当を鞄の中から取り出し、二人で教室を後にした。 ---------- 白「良い天気ですー」 主「そうだなー」 空は雲一つない快晴。 もう冬が近い季節だというのに、太陽の光の所為か寒さはあまり感じない。 一番日当たりの良いベンチを選ぶと腰を下ろした。 白「いただきますですー」 女の子らしいピンク色で小さめの弁当箱に詰められたカラフルな品々。 それを一口頬張ると、幸せそうに口元を緩める。 その姿が微笑ましい。 あ、そういえば…。 ふとある考えが頭を過ぎった。 裏庭。 そう、ついこの前だ。 白雪と垂髪が…。 主「………」 白「…?○○くん、食べないですか…?」 主「え…ああ、いや、そうじゃなくて…」 言葉を濁す俺をきょとんとした瞳で見つめてくる。 多分、このことは聞いておかないとずっと何かもやもやしたものが心に残るだろうな…。 俺は一呼吸おくと思い口を開いた。 主「その、こないだ、ここで…」 白「こないだ、ですか?」 主「放課後…」 白「あ…」 そこまで言ったところで、彼女も俺が何を言おうとしたのか気付いたらしい。 一瞬眉を顰めると、伏せ目がちに俯く。 主「いつものことって言ってたけど…」 白「………」 主「俺、垂髪とかと仲良くなったもんだとばっかり思っててさ…でも、ホントは…」 白「…○○くん、」 彼女は俯いたまま俺の名前を呼んだ。 俺は喋ることをやめ、次に続く彼女の言葉を待つ。 白「その…」 主「うん」 白「白雪も、仲良くなれたって思って…たんです…」 主「うん」 白「でも、なんか、だんだん、おかしく、なってきて…」 主「うん」 途切れ途切れに話す彼女に迷惑にならないように、それでいて喋りやすいようにと相槌を打つ。 白「やっぱり…、こう言うのって、友達じゃ…ないん、です、よ…ね…」 主「白雪…」 俯いたままで表情は分からないが、声色と少しだけ聞こえる鼻を啜る音から白雪が泣いているのは容易に想像できた。 白「白雪、一人ぼっち…なん、ですよね…友達、いなくて…ッ」 主「………」 白「ッく…暁子、ちゃん…ッ、暁子、ちゃん…」 どこか胸が締め付けられる気がした。 それは白雪の一人ぼっちと言う発言に対してなのか、それともこんなに近くにいる俺以外の名前を彼女が呼ぶからなのか。 どちらにしても、白雪の中での俺の存在はその程度ものなのだと思い知らされた気がした。 白「…ッ!?○○、くん…?」 主「白雪…」 そう思うと勝手に身体が動いた。 もっと俺に頼って欲しくて、もっと俺という存在を彼女の中に認めてほしくて。 気が付くと白雪を抱きしめていた。 主「俺がいるから…ッ」 白「………」 主「俺が白雪を守ってやるし、暁子ちゃんともまた仲良くなれるようにしてやるから…ッ」 白「………」 主「だから…ッ」 白「○○くん…」 どこか懇願にも似たそれを口に出す。 もっと、もっと俺を、と。 これじゃあどちらが慰められるべき立場か分からないじゃないかと、言い終わった後で自嘲ぎみな考えが浮かぶ。 白雪はそんな俺を、全てを見透かし、それでいてそれを受け止めてくれるかのように優しく抱きしめ返してくれた。 それはこの日差しよりもずっとずっと暖かかった。 ---------------------- 主「はあ…」 今日は一日中ずっと上の空だったよう気がする。 ほとんど何をしたのか覚えていない。 もちろん、いつもなら一緒にふざけあったりするはずの垂髪とは一言も口を聞いてないし、目も合わせてすらいない。 (なんか、凄く疲れた気がする…) 多分、精神的にきているのだろう。 (…早く帰りたい) 今はただそう思うので精一杯だった。 玄関で靴を履き替え外に出る。 主「!?」 いきなり、誰かに腕を掴まれた。 驚いて振り向く。 主「あ…」 ち「あ、あの、○○…」 主「離せよ」 ち「…じゃあ、話、聞いて…」 ぎゅ、と掴んだ腕に力が込められる。 人気のない玄関に、垂髪の静かな声が嫌に響いた。 主「手、痛いんだけど…」 ち「あ、ごめ…!」 力は弱まったものの、まだ彼女の手は俺の腕を掴んだままだ。 主「…俺は何も話すことないんだけど」 ち「だって○○怒ってる…」 主「怒ってない」 ち「怒ってる!」 (…別に、怒ってない。怒る理由がない) それでも今は垂髪を見ているだけで苛立ちが治まらない。 ち「ねえ、ごめん…」 主「……………」 ち「許して…」 主「許すも何も…怒ってないって言ってるだろ!?…それに怒ったからって言って、」 (そうだ、何も、変らない…) 主「っ…」 ち「あっ」 俺は垂髪の手を振り払い駆け出した。 ち「あたし、○○と一緒にいられなきゃ、学校に来る意味ない…!」 後ろで彼女が何か言うのが聞こえる。 それでも見向きもせずにただ走る。 早く彼女の声が耳に入らないように、雑踏の中に紛れ込んでしまえるようにと。 ------------- 礼「はーい、席についてー!」 先生が教室内に入ってくると、それまで騒がしかった教室内は一気に静かになる。 礼「それでは出席をとります」 毎朝の恒例だ。 出席番号順に、次々と生徒達が呼ばれ、返事をしていく。 礼「○○くん」 主「あ、はい」 俺も例に倣って返事を返す。 礼「…以上。欠席は垂髪さんだけですね」 え…? 返事がなかったからてっきりいつもの遅刻だと思ってたけど、休み…か ふと、昨日のやりとりを思い出す。 いや…でも、体調不良だよな…きっと。 ------------ 何となく重い気持ちで、もう何回通ったか分からない道を歩く。 手にはプリントの束。 垂髪が学校を休み出してから、こうやって届け物をするのがいつの間にか俺の役目となっていた。 それもこれも、担任が言うには彼女のご指名らしい。 主「はあ…」 ため息をつく。 (いつからだっけなあ…) 初めの方は毎日のように届けに行っていたそれも、今では週一。 休日にまとめて行くようになった。 日が立つごとに、どんどんそれが憂鬱に、重荷になっていく。 数ヶ月前までは、よく一緒に遊んだりもした。 この道を歩くのも、さほど憂鬱ではなかった。 それどころか、楽しんでいた。 (いつから、こんなことに…) いつからか、そう考えたところで辿りつく答えはいつも1つ。 あの日からだと分かりきっているはずなのに。 もしもあの日に、俺が裏庭にさえ行かなかったら、何かが変っていただろうか。 あのことを知らなければ、今も変らず幸せに過ごせていたのか。 分からない。 それに今更そんなことを思っても仕方がない。 ぐちゃぐちゃになった脳中から、全てを追い出すように頭を振ると、また彼女の家までの残りを歩いた。 ------------------------------- 垂髪のアパートの部屋の前、静かにチャイムを押す。 ドア越しに小さな呼び出し音が聞こえ、それを合図にバタバタと足音が聞こえる。 ―ガチャ 開けられたドアから垂髪が顔を出した。 前、見たときよりも少しやつれたような気がする。 そして俺を見た瞬間、満面に笑顔を浮かべる。 ち「●●、待ってたよ」 主「あ…これ…」 その表情に、今まで思っていたこと全てを後ろめたい気持ちになる。 思わず目を逸らし、手に持ったプリントを押し付けるように差し出す。 ち「ありがと…」 彼女はそれを受け取ると、まるで何か大切な宝物かのように抱きしめる。 何となくそれを見ているのが辛くなり、足早に立ち去ろうとする。 主「それじゃ、俺はこれで…」 ち「待って…!!!」 突如大声を出し、手ぶらになった俺の腕を引っ張る。 縋りつくように力の込められた手、眼差し。 ち「その、上がってって!お茶、入れるから!」 主「でも…」 ち「ね、お願い…!」 今にでも零れ落ちそうなほどに涙を溜めた瞳。 泣かせてしまう、そう思った時、 主「…分かった」 思わず頷いてしまう。 どこか常に良い人でいたいというエゴがそうさせる。 そしてその分、何かが俺の中でスーッと引いていく。 それはまるで諦めにも似ていて。 案内されるままに部屋へと足を踏み入れた。 -------------------------------------------- 今日の垂髪は良く喋る。 まるで昔のように。 まるで何もなかったかのように。 本当に何もなかったのだと錯覚を起しそうになるほど。 いや、もうすでに起していたのかもしれない。 ち「ちょっと、●●!聞いてんの?」 主「え、ああ、悪い」 少しだけ、どこか懐かしい気分に浸っていた。 用意されたお茶を一口含み、喉を潤す。 ~~~♪(着信音) その時、ポケットの中で着信音が鳴った。 ふ、と我に返る。 黙る垂髪。 俺は携帯を取り出し通話ボタンを押した。 主「もしもし?」 白「あ・・・主人公くん・・・」 主「白雪?」 その名前を口にした瞬間、垂髪の顔色が変わる。 白「急に、ごめんなさい。あの、実は、またいつもみたいに気分悪くなって、でも、今誰もいなくて、不安で・・・」 電話口からでも分かる、弱々しい声が聞こえてくる。 そうだ、俺はここへはただプリントを渡しに来ただけで、長居するつもりはなかったのだ。 俺はチラリと横目で垂髪を見た。 主「分った、すぐ行く」 ピッ そう一言返すと、すぐさま電源を切った。 ち「あ、あの、主人公…」 主「…それじゃ、俺、もう行くから」 ち「で、でもでも…」 主「用あるならさ、代わりに羽生治でも呼んどけよ、仲良いだろお前ら」 ち「だからって!なんで、上城さんなんかのところに…」 主「………垂髪」 ち「……………」 主「お前は、自分のしたこと分ってんの?」 ち「それは…!それ、は…」 主「……………」 ち「……………」 何も言わなくなる。 主「それじゃ、俺はもう行くから」 ち「あ…!」 垂髪が何か言いかけた気がするけど、もうそれには構わなかった。 ---------------- あ………。 昼休み。 そろそろ半分が過ぎ、昼食も食べ終えみんなが思い思いの行動をとる。 校庭や他のクラスに遊びに行ったのだろうか、現在教室内には極めて人が少ない。 白雪も先ほど青木先生に呼ばれたとかで美術室へ行ってしまった。 そんな中、一人自分の席に座っている暁子ちゃんが目に入る。 多分、白雪のことを話すなら今のうちだろう。 主「暁子ちゃん」 暁「あれ、○○くん?どうしたの?」 彼女は何か本を読んでいたようで、俺が声をかけると本を閉じこちらを振り向いた。 主「その…ちょっと相談したいことがあるんだけど…」 暁「ふふ、なあに?改まっちゃって」 主「いや、迷惑だったらいいんだけどさ…」 暁「ううん、私で力になれることがあれば協力するよ!」 にこにことした笑顔と優しい声で答えてくれる。 その声にほっとして話を続けた。 主「白雪のことなんだけど…」 暁「え?」 一瞬、彼女が眉を顰めるたが分かった。 主「あ…えっと…」 暁「どうしたの?続けて?」 がらりと変わった雰囲気に言いよどむ。 しかし暁子ちゃんが、まるでぺったりと張り付いたような笑顔と起伏のない声で話の続きを催促する。 主「その…」 暁「もしかして、青木先生との話?」 主「え?」 思いもよらない言葉。 主「いや…」 暁「○○くん知ってるよね、私が先生のこと好きだって」 主「え、ああ…」 暁「○○くん、ちょっと無神経だよ」 主「………」 暁「誰も私の気持ちなんて考えてくれないの…もっと、考えてよ…ッ」 主「だから…」 暁「もう、聞きたくないの…上城さんのことなんて…!」 主「違うって!」 白「○○くん?」 主「!?」 突如その場で聞こえるはずのない言葉が聞こえた。 主「白雪…?」 もしかして、今の会話、聞かれてた…? 主「あ…戻ってきたのか?」 白「はいです!ただいま戻りました!」 いつものように元気良く返事を返す白雪。 その態度に安心する。 良かった、そう多くは聞かれてなかったみたいだ。 多分、少なからず白雪が傷つくような内容だったから。 白「暁子ちゃん…?」 暁「○○くん、ごめんね?私、ちょっと用事あるから…」 主「え!?あ、ああ…こっちこそ、なんか、ごめん…」 暁「ふふ、、○○くんが謝ることないよ」 そういい残すと暁子ちゃんは教室から出て行った。 白「……………」 -------------------
主「それじゃ、いってきます」 いつものように挨拶をして、いつもより少し早い時間に家を出た。 昨日のこともあるし、今日は白雪と一緒に登校する約束をしておいたのだ。 主「っと、やべ、ちょっと遅れそう…」 携帯に表示された時間を確認すると、昨日約束した時間まであと5分しかない。 一緒に登校といっても、わざわざ家まで迎えに行くわけではなく、丁度二人の通学路の途中にある公園で待ち合わせしているのだ。 軽く駆け足をしながら約束の公園へと向かった。 ------ 公園が見えてきたと同時に、入り口の前で佇む一人の少女が目に入った。 白雪だ。 こちらに気付いたようで軽く手を振っている。 俺も答えて手を振り返す。 その頃にはもう軽い駆け足ではなく、本気の走りに変っていた。 主「っご、ごめん、待った?」 走ってきた所為だ、息が乱れている。 我ながら少し情けないとは思う。 白「大丈夫ですよぉ、白雪も今来たところです」 主「そ、か…、なら、良かったん、だけど…」 白「くすっ、○○くんこそ大丈夫ですかぁ?」 主「え、あ、お、俺?あ…ああ、全然!この通り!」 白「えへへ、そんなに急いで来てくれたなんて、白雪感激です!」 ふと、ふんわりとした雰囲気で笑う彼女の頬が目に入った。 白「…○○くん、どうしたですかぁ?」 主「うん、ちょっと。でも良かったな、ほっぺた腫れなかったみたいで」 白「あ、昨日のことですね?へへ、大丈夫ですよぉ…いつもの、ことですし」 主「え?」 白「さ、早く学校行きましょうです!遅刻しちゃいますよぉ?」 主「や、ちょっと待てよ、いつものことって…」 白「なんでもないですよ!早く早くですー!」 主「あ………」 そう言うと彼女は、まるで追いかけっこでもしているかのようなしぐさで足を進めだした。 となれば、俺は鬼のように彼女を追いかけるしかない。 丁度今持った疑問は答えを貰えずうやむやなままだ。 軽い足取りで俺の前を行く彼女は、屈託ない笑顔を浮かべている。 俺よりもずっと低い身長、細い身体。 俺が守ってやらなきゃ、心からそう思った。 -------------------- 白雪姫side ○○くんがあの現場を見てしまった日から、私へのイジメとも呼べる行為はぴたりとなくなった。 多分、垂髪さんは○○くんが好きだったんだろうな。 だって彼女が一番私を目の敵のようにしていた。 それと彼の前での態度を見れば一目瞭然だ。 白「……………」 でも、ごめんなさい。 私も彼のことが好きなんです。 だって、もしかしたら、彼は私の王子様なのかもしれないから……… 私を幸せにしてくれる…願いをかなえてくれる王子様。 -------------- 主人公side 白「あの、○○くん」 主「白雪…」 昼休み、騒がしくなった教室内で白雪が声をかけてきた。 手には弁当の包みが握られている。 白「お昼、一緒に食べません?」 主「ああ、もちろん。どこで食う?」 白「そう、ですね…裏庭、裏庭に行きましょう」 主「了解」 俺も弁当を鞄の中から取り出し、二人で教室を後にした。 ---------- 白「良い天気ですー」 主「そうだなー」 空は雲一つない快晴。 もう冬が近い季節だというのに、太陽の光の所為か寒さはあまり感じない。 一番日当たりの良いベンチを選ぶと腰を下ろした。 白「いただきますですー」 女の子らしいピンク色で小さめの弁当箱に詰められたカラフルな品々。 それを一口頬張ると、幸せそうに口元を緩める。 その姿が微笑ましい。 あ、そういえば…。 ふとある考えが頭を過ぎった。 裏庭。 そう、ついこの前だ。 白雪と垂髪が…。 主「………」 白「…?○○くん、食べないですか…?」 主「え…ああ、いや、そうじゃなくて…」 言葉を濁す俺をきょとんとした瞳で見つめてくる。 多分、このことは聞いておかないとずっと何かもやもやしたものが心に残るだろうな…。 俺は一呼吸おくと思い口を開いた。 主「その、こないだ、ここで…」 白「こないだ、ですか?」 主「放課後…」 白「あ…」 そこまで言ったところで、彼女も俺が何を言おうとしたのか気付いたらしい。 一瞬眉を顰めると、伏せ目がちに俯く。 主「いつものことって言ってたけど…」 白「………」 主「俺、垂髪とかと仲良くなったもんだとばっかり思っててさ…でも、ホントは…」 白「…○○くん、」 彼女は俯いたまま俺の名前を呼んだ。 俺は喋ることをやめ、次に続く彼女の言葉を待つ。 白「その…」 主「うん」 白「白雪も、仲良くなれたって思って…たんです…」 主「うん」 白「でも、なんか、だんだん、おかしく、なってきて…」 主「うん」 途切れ途切れに話す彼女に迷惑にならないように、それでいて喋りやすいようにと相槌を打つ。 白「やっぱり…、こう言うのって、友達じゃ…ないん、です、よ…ね…」 主「白雪…」 俯いたままで表情は分からないが、声色と少しだけ聞こえる鼻を啜る音から白雪が泣いているのは容易に想像できた。 白「白雪、一人ぼっち…なん、ですよね…友達、いなくて…ッ」 主「………」 白「ッく…暁子、ちゃん…ッ、暁子、ちゃん…」 どこか胸が締め付けられる気がした。 それは白雪の一人ぼっちと言う発言に対してなのか、それともこんなに近くにいる俺以外の名前を彼女が呼ぶからなのか。 どちらにしても、白雪の中での俺の存在はその程度ものなのだと思い知らされた気がした。 白「…ッ!?○○、くん…?」 主「白雪…」 そう思うと勝手に身体が動いた。 もっと俺に頼って欲しくて、もっと俺という存在を彼女の中に認めてほしくて。 気が付くと白雪を抱きしめていた。 主「俺がいるから…ッ」 白「………」 主「俺が白雪を守ってやるし、暁子ちゃんともまた仲良くなれるようにしてやるから…ッ」 白「………」 主「だから…ッ」 白「○○くん…」 どこか懇願にも似たそれを口に出す。 もっと、もっと俺を、と。 これじゃあどちらが慰められるべき立場か分からないじゃないかと、言い終わった後で自嘲ぎみな考えが浮かぶ。 白雪はそんな俺を、全てを見透かし、それでいてそれを受け止めてくれるかのように優しく抱きしめ返してくれた。 それはこの日差しよりもずっとずっと暖かかった。 ---------------------- 放課後、玄関で靴を履き替え外に出る。 主「!?」 突然、誰かに腕を掴まれた。 驚いて振り向く。 主「あ…」 そこには、今一番見たくない顔があった。 ち「あ、あの、○○…」 主「離せよ」 ち「…じゃあ、話、聞いて…」 ぎゅ、と掴んだ腕に力が込められる。 人気のない玄関に、垂髪の静かな声が嫌に響いた。 主「手、痛いんだけど…」 ち「あ、ごめ…!」 力は弱まったものの、まだ彼女の手は俺の腕を掴んだままだ。 主「…俺は何も話すことないんだけど」 ち「だって○○怒ってる…」 主「怒ってない」 ち「怒ってる!」 それでも今は垂髪を見ているだけで苛立ちが治まらない。 ち「ねえ、ごめん…」 主「……………」 ち「許して…」 主「許すも何も…怒ってないって言ってるだろ!?…それに怒ったからって言って、」 (そうだ、何も、変らない…) 主「っ…」 ち「あっ」 俺は垂髪の手を振り払い駆け出した。 ち「あたし、○○と一緒にいられなきゃ、学校に来る意味ない…!」 後ろで彼女が何か言うのが聞こえる。 それでも見向きもせずにただ走る。 早く彼女の声が耳に入らないように、雑踏の中に紛れ込んでしまえるようにと。 ------------- 礼「はーい、席についてー!」 先生が教室内に入ってくると、それまで騒がしかった教室内は一気に静かになる。 礼「それでは出席をとります」 毎朝の恒例だ。 出席番号順に、次々と生徒達が呼ばれ、返事をしていく。 礼「○○くん」 主「あ、はい」 俺も例に倣って返事を返す。 礼「…以上。欠席は垂髪さんだけですね」 え…? 返事がなかったからてっきりいつもの遅刻だと思ってたけど、休み…か ふと、昨日のやりとりを思い出す。 いや…でも、体調不良だよな…きっと。 ------------ 重く沈んだ気持ちで、道を歩く。 手にはプリントの束。 どういう訳か、俺が垂髪に学校からの届け物をする羽目になってしまった。 それもこれも、担任が言うには彼女のご指名らしい。 主「はあ…」 ため息をつく。 (どうして俺がこんなこと…) 垂髪とは数ヶ月前までは、よく一緒に遊んだりもした。 この道を歩くのも、さほど憂鬱ではなかった。 それどころか、楽しんでさえいた。 (いつから、こんなことに…) いつからか、そう考えたところで辿りつく答えはいつも1つ。 あの日からだと分かりきっているはずなのに。 もしもあの日に、俺が裏庭にさえ行かなかったら、何かが変っていただろうか。 あのことを知らなければ、今も変らず垂髪と楽しくふざけあえていたのか。 分からない。 でもあのまま何も知らないことが良いはずない。 それに今更そんなことを思っても仕方がない。 ぐちゃぐちゃになった脳中から、全てを追い出すように頭を振ると、また彼女の家までの残りを歩いた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~ 垂髪のアパートの部屋の前、静かにチャイムを押す。 ドア越しに小さな呼び出し音が聞こえ、それを合図にバタバタと足音が聞こえる。 ―ガチャ 開けられたドアから垂髪が顔を出した。 前、見たときよりも少しやつれたような気がする。 そして俺を見た瞬間、満面に笑顔を浮かべる。 ち「●●、待ってたよ」 主「あ…これ…」 思わず目を逸らし、手に持ったプリントを押し付けるように差し出す。 ち「ありがと…」 彼女はそれを受け取ると、まるで何か大切な宝物かのように抱きしめる。 何となくそれを見ているのが辛くなり、足早に立ち去ろうとする。 主「それじゃ、俺はこれで…」 ち「待って…!!!」 突如大声を出し、手ぶらになった俺の腕を引っ張る。 縋りつくように力の込められた手、眼差し。 ち「その、上がってって!お茶、入れるから!」 主「でも…」 ち「ね、お願い…!」 今にでも零れ落ちそうなほどに涙を溜めた瞳。 泣かせてしまう、そう思った時、 主「…分かった」 思わず頷いてしまう。 どこか常に良い人でいたいというエゴがそうさせる。 そしてその分、何かが俺の中でスーッと引いていく。 それはまるで諦めにも似ていて。 案内されるままに部屋へと足を踏み入れた。 ~~~~~~~~~~~~~~ 久しぶりに会った垂髪は良く喋る。 まるで何もなかったかのように。 本当に何もなかったのだと錯覚を起しそうになるほど。 いや、もうすでに起していたのかもしれない。 ち「ちょっと、●●!聞いてんの?」 主「え、ああ、悪い」 少しだけ、どこか懐かしい気分に浸っていた。 用意されたお茶を一口含み、喉を潤す。 ~~~♪(着信音) その時、ポケットの中で着信音が鳴った。 ふ、と我に返る。 黙る垂髪。 俺は携帯を取り出し通話ボタンを押した。 主「もしもし?」 白「あ・・・主人公くん・・・」 主「白雪?」 その名前を口にした瞬間、垂髪の顔色が変わる。 白「急に、ごめんなさい。あの、実は、またいつもみたいに気分悪くなって、でも、今誰もいなくて、不安で・・・」 電話口からでも分かる、弱々しい声が聞こえてくる。 そうだ、俺はここへはただプリントを渡しに来ただけ。 少し、様子を見るだけ。 長居するつもりはなかったのだ。 錯覚なんか起しちゃいけない。 俺はチラリと横目で垂髪を見た。 主「分った、すぐ行く」 ピッ そう一言返すと、すぐさま通話ボタンを切った。 ち「あ、あの、主人公…」 主「…それじゃ、俺、もう行くから」 ち「なんで、あんな子なんか…!!」 その言葉を聞いた途端、俺の中であの時の嫌悪感が蘇った。 そうだ、こいつは所詮こんなやつなんだ。 主「…用あるならさ、代わりに羽生治でも呼んどけよ、仲良いだろお前ら」 ち「で、でもでも…だからって!なんで、………上城さんなんかのところに…」 主「………垂髪」 ち「……………」 主「お前は、自分のしたこと分ってんの?」 ち「それは…!それ、は…」 主「……………」 ち「……………」 何も言わなくなる。 主「それじゃ、俺はもう行くから」 ち「あ…!」 垂髪が何か言いかけた気がするけど、もうそれには構わなかった。 ---------------- 白雪姫side ピッ ニヤリと微笑んで電話を切った。 これで…良いんだ。 ○○くんは私の王子様だから。 私を助けてくれる存在だから。 垂髪さんになんて渡しちゃいけないんだ。 現に彼は彼女を差し置いて私のもとへときてくれる。 それが何よりの証拠だ。 ------------- あ………。 昼休み。 そろそろ半分が過ぎ、昼食も食べ終えみんなが思い思いの行動をとる。 校庭や他のクラスに遊びに行ったのだろうか、現在教室内には極めて人が少ない。 白雪も先ほど青木先生に呼ばれたとかで美術室へ行ってしまった。 そんな中、一人自分の席に座っている暁子ちゃんが目に入る。 多分、白雪のことを話すなら今のうちだろう。 主「暁子ちゃん」 暁「あれ、○○くん?どうしたの?」 彼女は何か本を読んでいたようで、俺が声をかけると本を閉じこちらを振り向いた。 主「その…ちょっと相談したいことがあるんだけど…」 暁「ふふ、なあに?改まっちゃって」 主「いや、迷惑だったらいいんだけどさ…」 暁「ううん、私で力になれることがあれば協力するよ!」 にこにことした笑顔と優しい声で答えてくれる。 その声にほっとして話を続けた。 主「白雪のことなんだけど…」 暁「え?」 一瞬、彼女が眉を顰めるたが分かった。 主「あ…えっと…」 暁「どうしたの?続けて?」 がらりと変わった雰囲気に言いよどむ。 しかし暁子ちゃんが、まるでぺったりと張り付いたような笑顔と起伏のない声で話の続きを催促する。 主「その…」 暁「もしかして、青木先生との話?」 主「え?」 思いもよらない言葉。 主「いや…」 暁「○○くん知ってるよね、私が先生のこと好きだって」 主「え、ああ…」 暁「○○くん、ちょっと無神経だよ」 主「………」 暁「誰も私の気持ちなんて考えてくれないの…もっと、考えてよ…ッ」 主「だから…」 暁「もう、聞きたくないの…上城さんのことなんて…!」 主「違うって!」 白「○○くん?」 主「!?」 突如その場で聞こえるはずのない言葉が聞こえた。 主「白雪…?」 もしかして、今の会話、聞かれてた…? 主「あ…戻ってきたのか?」 白「はいです!ただいま戻りました!」 いつものように元気良く返事を返す白雪。 その態度に安心する。 良かった、そう多くは聞かれてなかったみたいだ。 多分、少なからず白雪が傷つくような内容だったから。 白「暁子ちゃん…?」 暁「○○くん、ごめんね?私、ちょっと用事あるから…」 主「え!?あ、ああ…こっちこそ、なんか、ごめん…」 暁「ふふ、、○○くんが謝ることないよ」 そういい残すと暁子ちゃんは教室から出て行った。 白「……………」 -------------------

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