独自I=D 『白鷺号』



◎要求性能


●独自I=Dの設計
○要点・一般性能要求等
t:要点={
 一般性能要求
 藩国の事情や趣味で共通機ではなく、特殊な機体を開発したのがこのプランで、その多くは独自の運用思想で作り上げられたものだった。整備性はひどく悪く、棲み分けからか万能機はまずなく、量産数も少なかったが、反面、特定の局面では強く、活躍することもあった。


○元帥からのコメント
帝國軍の対レムーリアの要であり、必須の条件として人騎兵の開発を軸としてクエスカイゼス級もしくは詠唱が可能な機体が要求スペックになります。
#レムーリアで運用可能な飛び道具の装備はある方が望ましいです。


◎設計コンセプト


レムーリア戦に運用される、つまり「低物理域での活動に特化した機体」が要求仕様である。

現在、低物理域での主力はやはり暁の円卓の剣王部隊であろう。
彼らは立国時から白兵戦闘にのみ特化をし続け、
その結果レムーリアに代表される低物理域では他国に大きく差をつけている。

また、暁の円卓は帝國所属の国家であるから、
今回開発する機体は暁の円卓部隊が苦手とする部分を補填することを主眼とし、
レムーリアにおけるもう1つの主力となることを目標とする。

暁の円卓部隊の得意距離は白兵であり、逆に言えば白兵以外にはあまり向いていない。
また、いかに強力な評価値を持っているとはいえ歩兵であることに変わりはなく、
ARが10スタートであることも剣王部隊の弱点である。
特殊技能の「魚鱗陣」を使用すればそのARも15に増加し、AR不足は多少緩和されるものの、
直進しかできないという制限を受けるため、また別の弱点が出てきてしまうのが難点である。
さらに言えば、歩兵である以上どうあっても空は飛べないため、
今回の機体に飛翔能力を持たせれば、
敵も空をあまり飛ばない(戦闘機がない)低物理域ではかなり有利になると思われる。


よって今回開発する機体は

  • 詠唱戦特化
  • 高AR高機動仕様(つまり素早さ重視)
  • 飛行、あるいはそれに近い能力

を最重要項目とする。
また、レムーリアの神々は司る対象によっては対立していることも多いため、(太陽の神⇔大地女神など)
本案においては助力を願う対象は上記設計理念を考慮し

  • 「風の神・風の精霊」

に限定し、1つの機体の中で風も火も雷も利用する、ということは今回は避ける。


◎機体仕様


開発名称 白鷺号(はくろごう)
タイプ 兵員搭乗式魔導増幅器
運用法 通常詠唱戦闘、高高度詠唱戦闘、中遠距離戦闘支援、等
駆動エネルギー源 術者魔力
主動力 風力
通常移動 魔力転換後の風力による微噴射
緊急移動 風力集中・増幅式急噴射
操縦 主操縦者1名、攻撃用魔力増幅/制御者1名以上、移動用魔力制御者1名以上
全高 4,2m
全幅 5,1m(含両翼)
重量 0.2t
装甲 胸部純銀単装甲、回路反応式術結界
主兵装 詠唱魔法増幅回路『八音陣』
副兵装 圧縮型疑似真空刃砲


○外見/翼


詳細は名前の項目で説明するが、
白鷺号は白鷺(シラサギ)の持つ言霊を有効活用するよう命名されている。
そのため機体の外観も、翼を持つシラサギを模して設計されている。

形態としては人型をしており、地上では二足歩行をすることも可能である。
また、設計的には人騎兵の開発理論を大きく取り入れており、
パーツ同士の接続部分以外の関節は、薄青く光る磁力球が代わりを務めている。
この磁力球は両肩、両肘、股関節と両膝に左右対称に配置されており、
表面には祭礼用の杭で削ることで、複雑な文様が描かれている。
この文様と磁力球との相互作用により、各パーツへの魔力の流入を助ける役割が果たされているのである。

設計上の重要事項に空中起動をとれることがあるだけに、
やはり目を引くのは両肩部磁力球から延びるその大きな翼である。
両翼は5mを超える大きさで、しなりの良い古柳を削り、組み合わせ、
やはりシラサギの羽根を束ねて構成されている。

ただし、殺して材料を集めるのはその生き物の怨嗟による阻害反応を受けたり、
あるいは風の精霊の機嫌を損ねることが懸念されるため、
材料となる羽根を集めるためにシラサギを殺すのは固く禁じられている。
また、翼のフレームに使用される柳も同様の理由で無計画な伐採が禁じられ、
白鷺号に使用される全ての素材の採取が許されるのは予め決められた、
自然への感謝を込めて行われる儀礼法に則って行われる場合のみである。

翼は普段は折り畳まれているが、
搭乗者の魔力が柳部分と羽根に印された魔術的文様を通じて流入することにより展開される。
魔力が流れ込んで淡く光る両翼は燐白鷺と称され、見る者を惹きつけてやまない。

翼部分の文様は、発生した風を効率よく捉えて飛翔するよう工夫されており、
一度飛び上がれば、大気中の風力でも飛行を続け、空中機動を行うことが可能である。

○装甲/防御


装甲板は銀の持つ破邪的特性を活かすため、純銀である。
純銀の持つ魔力・魔力に対する防御力・魔力伝達力は、
合金とは比べ物にならないほど高い。
しかし、本I=Dの設計主眼は飛行能力の獲得にあり、
また主動力は増幅した魔力を転換した風力の噴射であることから、
機体重量は最小限に抑えなければならなかった。

そのため装甲も最小限に留められ、
操縦席のある胸部全面に配置された装甲板と、
兵装があるため強度がないといけない両腕部の他は、装甲らしい装甲は存在しない。
胸部・両腕部装甲以外のパーツは、複雑な文様の彫り込まれた白木の霊木同士を
生後1年以内の白馬のたてがみを紡いだ神経線で接続したもので構成されており、
防御時には魔力が前面各パーツの文様に反応し、風による障壁を発生させる手助けとなる。

もっとも、さらに強力な防御障壁を発生させるには
重量のある機関を用いなければならず、軽量重視の白鷺号では残念ながら採用されなかった。
よって、基本的には攻撃に当たったら大破する定めである。
また機体背面は移動用の魔術文様が刻まれているため、
防御障壁が発生するのは機体前面のみである。
高速高機動を活かして当たらないように避ける機体と言って間違いないだろう。
ただし、装甲は乏しいものの、軽量化努力の甲斐もあり機体重量は驚きの0.2tである。
ほぼ同サイズのI=Dの10分の1以下の重量だといえば、
この軽さが理解いただけることだろう。


○移動


前述の通り、平常時の移動は機体背面全体に刻まれた移動用魔術文様による推進力を利用する。
この文様は術者の魔力を推進風力に変換するというもので、
移動速度は術者の力量によるところが大きい。

また、文様は全て「魔力さえ流し込めば必ず一定の効果を得られる」というタイプではなく、
「大気中の風の精霊と対話し、力を貸してもらうための補助となる」文様であることを強く述べておく。
これは装甲項目で述べた防御障壁についても同様のことが言え、
あくまでも術者が風の精霊に語りかけ、助力を願うことで風を発生させられるのである。

また、術者が上手く精霊たちの助力を得られた場合は、
翼の項目で述べたとおりの反応がおこり、両翼が展開される。

風の精霊たちとの対話に長けた術者は高速で飛行する際にもその恩恵を受けられる。
つまり、白鷺号を包み込む精霊たちと通じ合うことができれば、
空気抵抗や高速移動による酸素の欠乏を気にすることなく空を舞うことができるのである。


○攻撃


主な攻撃は術者の詠唱による魔法である。
もっとも、ただそのまま詠唱戦を行うわけではなく、
術者の詠唱によって生まれた魔力は、白鷺号右腕内部の複層魔力回路を通して増幅される。
この回路『八音陣』はその名の通り右腕の根元から数えて8層に分かれ、
それぞれ異なる材質で魔法陣が編まれている。
八音陣とは楽器の材料の種別八音から名付けられた魔法陣の呼称であり、

第1音(木)では生み出された魔力の制御、
第2音(革)では不純物の除去、
第3音(土)では増幅用魔力の注入、
第4音(匏)では注入された魔力の元魔力との適応、
第5音(竹)では魔力増幅の開始、
第6音(糸)では最大まで増幅された魔力の臨界制御、
第7音(石)では敵に届き炸裂する際の信管の役割を果たす魔力の内部生成、
そして第8音(金)では発射時の推進力の付与が行われる。

以上の8層を通過した魔力は右掌中央部より撃ち出され敵に到達後、炸裂する。
魔法陣の名が八音であるのは、
術者の詠唱(声、あるいは歌)も1つの楽器であるという概念に基づいている。
よって、正確には術者の声が第0音として存在するため、九音陣とも呼ばれることがある。
術者の詠唱によって生まれた魔力は、
各回路を通過する際にその陣の材質に由来する音を奏でる。
八音陣の奏でる音色は聞いた者に正の感情を呼び起こす力があると伝えられており、
それは確かに詠唱攻撃魔法であることを一瞬忘れさせるかのような荘厳さを備えた術砲であるといえる。
その音色の美しさと神々しさから、儀礼用の祝砲としても利用が計画されている。

この攻撃用魔力増幅回路・八音陣は風の精霊の力は借りないものの、
非常に綿密な集中力を要するため、この右腕制御のみを担当する術者が最低1名は必要である。

副兵装として、左腕に刻まれた空気を圧縮する(ことを精霊たちに依頼する)文様によって
左腕内部を疑似的な真空状態とし、それを敵に発射する中・遠距離用の武装も搭載されている。
発射された疑似真空の刃は、敵に到達するまでは風の精霊たちによってその状態を保たれる。
そして敵に触れた途端、圧縮された空気が一気に解放され、カマイタチのように空気の刃が敵を襲うのである。

主武装の詠唱砲は高威力であるが連射はできず、
副武装の疑似真空砲は連射可能であるが威力はそれほど高くない。
どちらも空中でも発射可能であるため、使いどころが肝要となるだろう。


○魔力向上のための種々の魔術的工夫


白鷺号の開発に関しては、その他にも魔力を高めるためにいくつかの工夫かされている。
その代表的なものが、「魔術的な意味の重視」である。

名前の項目が重要視されているように、
魔導に関する兵器では、通常の機械兵器ではあまり重視されない部分が大事であることが多々ある。
例えば、月齢。
白鷺号の建造は新月の夜に開始される。
これは、これから月が満ちていくように、出来上がる白鷺号の運命も満ちてゆくよう祈願されてのことである。
新月は魔術的な「始まり」を意味するため、魔力を持たせるためには月は決して無視できないのである。

また、白鷺号の各部品は建造までの間に必ず浄化→聖別を受ける。
浄化には天然の水晶が用いられ、
建造前の各部品は巨大な水晶クラスターに数週間触れ、邪気を払われる。
その後今度は聖性を付加するために聖別がなされる。
ここでの聖別は大神官の特殊のことではなく、月光による魔力付与を意味する。
浄化された部品は冷暗所に保管され、満月の晩にのみ外に出され、月光を浴びる。
この満月光による聖別回数は多ければ多いほど良いとされるが、
建造を急ぐ場合は1度で終わる場合が多い。

建造が開始されると、建造予定の白鷺号1機につき2人の祈念者が付く。
この祈念者は、白鷺号が建造されるまで付きっきりで白鷺号のために祈る。
多くの場合祈念者には男女1名ずつが選ばれ、
完成した機体の真名も担当の祈念者がつける場合が多い。
祈念者は機体にとっての親である。
「子を思う親心」こそが魔術的にも最大の加護である、という意味合いを持つのだろう。

こうして様々な儀礼を通し、魔導I=D白鷺号は完成するのである。


○名前と言葉の持つ魔術的な力


「名は体を表す」。これは魔術的にも非常に重要な概念である。
名前の持つ役割は時として人や物にその名に応じた能力を付与するのである。
これは古来より「言霊」と称され、魔術において名前は非常に重要な位置を占めた。

具体的には、人々は物を名前で呼ぶとき自ずと頭の中でその物に対するイメージを抱いている。
魔力が大きな力を持つ世界においては、このイメージは時として大きな力を持つ。
人間1人だけが持つイメージの力は微々たるものであるが、
数が集まった時のイメージの力は計り知れない。

本案における独自I=D「白鷺」も、この言霊、イメージの力を大いに借りる目的で名付けられている。
「白鷺」という単語を見、あるいは言葉に出すときに人々がイメージするのは、
華麗に空を舞うシラサギ、あるいは優雅に佇む白き鳥であろう。
つまり、白鷺号と人々がその名を口にする時、
人々は自然とそれらのイメージと白鷺号を結び付けることになるのである。

これは白鷺号を運用する上で非常に都合がよい。
白鷺号に期待されている能力は、「大空を翔ける鳥となる」ことである。
つまり、人々はこのI=Dを「白鷺号」と呼ぶことで、
白鷺という言葉の持つ呪、優雅に空を舞うという言霊を白鷺号に投影しているのである。
この言霊の力によって、
低物理域における白鷺号は空を翔ける上で大きな魔術的支援を受けることになるのだ。

言霊による性能向上で問題となったのが、
「白鷺を知らない、見たことがない」人々からは言霊の力を受けられないことである。
特に、心根が素直で魔術的な素質を持ちやすい子供たちが
「白鷺」と聞いても何のことかわからないというのは非常な痛手であった。

これを克服し、子供たちの持つ純粋な想いの力を授かるための施策として、
白鷺号建造に先駆けてある「絵本」が各国の児童書コーナーに立ち並ぶこととなった。
内容はここでは割愛するが、矢のような速さで空を舞うシラサギが人々を助けるというお話である。
この絵本は子供にもわかりやすく、白鷺という単語を定着させるのに大いに役に立った。
こうして、白鷺という言葉の持つ言霊は白鷺号の飛翔性能を大いに向上させたのである。

ここで追記しておかなければならないことは、
名前はかくの如く力を持つ反面、悪用される危険を孕んでいるということである。
「魔法使いは軽々しく名前を口にしてはならない」という言葉が示すように、
自らの本当の名前、「真名」を他人に知られるというのは魔法使いにとって致命的である。
真名を知られるということは、その者の支配権が握られていると同義と言っても過言ではないのである。

白鷺号も、そうした危険を避けるために「白鷺号」とは別に真名が用意されている。
この真名は全ての機体ごとに異なり、命名者の他には機体の搭乗者にしか伝えられず、
機体の真名を漏らした者は軍により厳しく罰せられる。
搭乗者はこの真名を用いることにより、機体の掌握をより容易にするのである。


○言霊にまつわる開発秘話


絵本の出版に際して、
「兵器の性能を上げるために、子供たちを騙すのか」という声が開発陣の中で上がった。
シラサギの絵本の内容は決して白鷺号やその性能向上については触れておらず、
厳密にいえば絵本の白鷺は白鷺号ではないことから、
この問題は開発者たちの中で議論を呼んだ。
「それを言うなら世の軍隊の慰問活動などは全て子供騙しの茶番ではないか」などの声も上がり、
兵器開発という枠を超えた大がかりな話に発展しそうになったところで
絵本の試し刷りが仕上がり、とりあえず何人かの子供に絵本を見せてみることとなった。

この感想が報告された開発会議は当初、
機体開発についての是非が問われるということで非常に殺伐としたものであったが、
子供たちから寄せられる感想が
「はくろはがんばりやさん、やさしいとり」
「さいごにみんなしあわせになったのがよかった」などの、
「飛ぶ」「速い」といった開発陣が想定したものとは全く異なる、
白鷺の精神面・キャラクターの印象や物語本編についての他愛もないものばかりであったため、
会議参加者たちは盛大にずっこけた。
次々に読み上げられる純粋な感想を聞いて頬がゆるむ者たちも現れるほどであった。
報告の締めとして子供たちと手をつないで笑顔で空を飛ぶ白鷺の絵
(もちろん作者は絵本を読んだ子供たちである)が提示されたときには、
もう会議開始時の重苦しい空気はすっかり消え去り、大きな笑い声に場が包まれていたという。

この感想報告を受け、全員一致で絵本の出版が決定された。
子供たちの言霊が性能向上に繋がるかどうかについては、もうどちらとも言えなくなってしまったが、
開発陣にとってそんなことはもうどうでもよくなっていた。

その上、子供たちの感想は開発者たちが予期せぬ言霊を生むこととなった。
「子供たちの白鷺に対する夢を砕くわけにはいかない」ということで、
それまでは無機的な兵器として開発されていた白鷺号の開発理念が、
精霊たちとの調和を目指した、優しさも持つ機体へと変更されたのである。

また、兵装開発と並行して、「兵装を取り外した時には何を装備させるか」という案も募集された。
そして、最も多かった案が「絵本の白鷺のように人々を助ける機体にしよう」というものである。
白鷺に対する子供たちの言霊が、開発陣に逆作用したとも言えよう。

兵器の性能を上げるための施策の一環として生まれた絵本が、
逆に兵器の未来を変えてしまうとは何とも皮肉な話である。
しかし、これによって白鷺号が子供たちの読む絵本の通り、
優しく皆のために舞う機体へと変わったのなら、それはそれで素敵なことかもしれない。


◎総括


レムーリアで活躍する=魔力が強い意味合いを持つ、
ということもあり、他の機械兵器とはかなり異なるものが考案された。
また、設計においては「精霊の力を借りる(強制ではない)」ということを重視した。
先のか●●の事件の教訓として固定反応を見せる魔術回路の使用は控えようと考えての結果である。

また、A-DICターニの帰還に記載されている古レムーリアの神々についての記述も参考とした。
現在のレムーリアと状態は異なる部分もあるだろうが、
神々についての根本はそう変わらないだろうと判断してのことである。
助力を依頼する神・精霊を1つに絞った理由は設計コンセプトでも述べた通り、
神々の間での対立があることを考慮してのことである。浮気はいけない。

また、風に絞った理由としては飛行能力に関係していそうなものは風だろう、という理由のほかに
古レムーリアの神々の中の風神「エンプアーラ」の記述に
「光の女神の心に打たれて善神になり、地上のあしきもののことごとく、
邪悪なる企みのことごくと闘争をはじめました。」
「エンプは心の光に激しく反応し、子孫と認めて風が力を貸す時があるからです。」等、
「心に宿る正義」を重視する神であることが記されていたため、
これは帝國の思想とも合致するのではないか、ということで風の機体にすることが決まった。
搭乗者はレムーリアで「我はエンプの子孫だ」と宣言して正義を行うといいことがあるかもしれない。


以上、長々とした文章を読んで頂いてありがとうございました。
審査は大変かと思いますが、お体には気をつけてください。
文章:比野青狸@キノウツン藩国
最終更新:2008年06月01日 00:15