オリロワアース@ ウィキ
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オリロワアース@ ウィキ
ja
2019-12-16T21:55:58+09:00
1576500958
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現在位置
https://w.atwiki.jp/origin2015/pages/188.html
||A| B| C| D| E| F| G| H|
|1|採|森|森|温|町|町&br()&color(red){近畿純一、P仮面、ジェナス}&br()&color(red){ラインハルト、剣崎渡月、大空蓮}&br()巴竜人、道神朱雀|映&br()ライリー|駅&br()サラ、ブルックリン|
|2|森&br()ルーズベルト&br()&color(red){山村幸太}|駅&br()麻生嘘子、明智光秀&br()&color(red){金本優}|公&br()東光一、真白|草|町|町&br()闇ツ葉はらら&br()ラモサ、&color(red){谷口豪}|病&br()&color(red){鰺坂ひとみ、ラクシュミー}|森|
|3|森|森|森&br()裏切りのクレア、高村和花|草&br()東雲駆、片桐花子、谷山京子、スライムちゃん|多|平|森|泉|
|4|警&br()黒田翔琉|駅|森|城|森&br()&color(red){松永久秀}&br()&color(red){久澄アリア}|実|森|屋&br()柳生十兵衛&br()肩斬華&br()花巻咲&br()不死原霧人&br()&color(red){西崎詩織}|
|5|神|平|草|図&br()雨宮ひな&br()夢野綺羅星、石原莞爾|デ&br()ヘイス・アーゴイル|平|駅|港&br()平沢茜、レイ・ジョーンズ|
|6|平&br()&color(red){ナイトオウル}|タ&br()柊麗華&br()卑弥呼&br()早乙女エンマ|町&br()徳川家康、ムッソリーニ&br()早乙女灰色|町&br()ジル・ド・レェ&br()&color(red){アリシア}|平|道&br()織田信長、御園生優芽|平|坂|
|7|飛&br()&color(red){鬼小路君彦}|廃&br()平沢悠、ティアマト&br()麻生叫|平&br()雨谷いのり|学&br()愛島ツバキ、結城陽太|平|平|坂|崖|
053:[[片桐花子の災難]] 時点
2019-12-16T21:55:58+09:00
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【第一回放送までのSS】
https://w.atwiki.jp/origin2015/pages/179.html
**【オープニング】
|No|タイトル|登場人物|場所|時間帯|作者|
|000|[[イントロダクション]]|[[花巻咲]]、[[片桐花子]]、[[麻生叫]]、[[肩斬華]]、[[谷口豪]]、[[柳生宗矩]]、[[藤木健一]]、[[ブルックリン・トゥルージロ]]、[[早乙女灰色]]、[[早乙女エンマ]]、[[パーフェクト]]、[[柳生十兵衛]]、[[不死原霧人]]、[[デュルド・ドエナール]]、[[サン・ジェルミ伯爵]]、[[平沢茜]]、[[羽田神達生]]、[[西崎詩織]]、[[黒田翔琉]]、AKANE|それぞれの世界|?|[[◆5Nom8feq1g]]|
|001|[[そして世界が生まれゆく]]|[[オブザーバΔ]]、AKANE|アースBR|?|[[◆aKPs1fzI9A]]|
**【深夜】
|No|タイトル|登場人物|場所|時間帯|作者|
|002|[[我魂為麺]]|[[徳川家康]]、[[ベニート・ムッソリーニ]]|C-5/平野|深夜|[[◆laf9FMw4wE]]|
|003|[[信長様の為に]]|[[明智光秀]]|A-3/森|深夜|[[◆laf9FMw4wE]]|
|005|[[死線上のアリア]]|[[松永久秀]]、[[久澄アリア]]、[[雨宮ひな]]|E-4/森、D-5/住宅街|深夜|[[◆5Nom8feq1g]]|
|006|[[秘密を持つ二人]]|[[東光一]]、[[高村和花]]|C-1/森|深夜|[[◆pNmyKGcnVU]]|
|007|[[私は貝になれない]]|[[フランクリン・ルーズベルト]]、[[山村幸太]]、[[麻生嘘子]]|A-2/森/|深夜|[[◆aKPs1fzI9A]]|
|008|[[スマイル全開で明日を目指そうよ]]|[[織田信長]]、[[御園生優芽]]|F-7/平野|深夜|[[◆laf9FMw4wE]]|
|009|[[鏡面の憎悪]]|[[肩斬華]]、[[ヘイス・アーゴイル]]|F-5/平野|深夜|[[◆r.0t.MH/uw]]|
|010|[[私が戦士になった理由]]|[[ラモサ]]|F-3/平野|深夜|[[◆laf9FMw4wE]]|
|011|[[殺人鬼×少女×少女]]|[[ジル・ド・レェ]]、[[早乙女エンマ]]、[[柊麗香]]|B-6/町、C-6/町|深夜|[[◆8I7heVl7bs]]|
|012|[[探偵は警察署にいる]]|[[黒田翔琉]]|A-4/警察署|深夜|[[◆nQH5zEbNKA]]|
|013|[[瞳に炎を宿せ]]|[[夢野綺羅星]]、[[石原莞爾]]|D-5/図書館「歴史・文化」エリア|深夜|[[◆/MTtOoYAfo]]|
|015|[[灰色の楽園を壊したくて]]|[[東雲駆]]|C-3/森|深夜|[[◆laf9FMw4wE]]|
|016|[[ティアマトの逆襲、または如何にして私は淫乱ピンクと怪盗と共に怪獣を追っかけることになったか]]|[[ティアマト]]、[[鬼小路君彦]]、[[卑弥呼]]、[[ナイトオウル]]|A-7/飛行場跡、A-6/草原|深夜|[[◆pNmyKGcnVU]]|
|017|[[my world is not yours]]|[[平沢悠]]、[[雨谷いのり]]|B-7/廃工場|深夜|[[◆aKPs1fzI9A]]|
|018|[[天才と馬鹿はうんちゃらかんちゃら。]]|[[サラ・エドワーズ]]、[[ブルックリン・トゥルージロ]]|H-1/「映画館前」プラットフォーム|深夜|[[◆/MTtOoYAfo]]|
|020|[[裏切り同盟]]|[[真白]]、[[裏切りのクレア]]|A-1/採掘場|深夜|[[◆8I7heVl7bs]]|
|021|[[現実の壁は破れない]]|[[闇ツ葉はらら]]、[[不死原霧人]]、[[西崎詩織]]|F-2/町|深夜|[[◆nQH5zEbNKA]]|
|022|[[世界の座標軸からみえるのは]]|[[平沢茜]]、[[レイ・ジョーンズ]]|H-7/崖|深夜|[[◆8w1Dkva65Y]]|
|023|[[日輪纏いしヒーローと二人の元いじめられっ子]]|[[愛島ツバキ]]、[[結城陽太]]、[[ライリー]]|D-7/学校、H-2/森|深夜|[[◆laf9FMw4wE]]|
|025|[[変身VS変心]]|[[巴竜人]]、[[道神朱雀]]|H-3/泉|深夜|[[◆hRdS/lFjKw]]|
**【黎明】
|No|タイトル|登場人物|場所|時間帯|作者|
|004|[[柳生有情剣]]|[[柳生十兵衛]]、[[花巻咲]]|G-4とH-4の境/森|黎明|[[◆/MTtOoYAfo]]|
|014|[[谷山京子の差異難]]|[[谷山京子]]、[[スライムちゃん]]、[[片桐花子]]|D-2/草原、|黎明|[[◆5Nom8feq1g]]|
|019|[[彼らは幾ら叫べども、灰色世界に抗えない]]|[[ティアマト]]、[[麻生叫]]、[[早乙女灰色]]|B-7/廃工場|黎明|[[◆5Nom8feq1g]]|
|024|[[安土シンデレラ城現る]]|[[徳川家康]]、[[ベニート・ムッソリーニ]]|C-6/住宅街|黎明|[[◆5Nom8feq1g]]|
|026|[[現実という名の怪物と戦う者たち]]|[[夢野綺羅星]]、[[石原莞爾]]、[[雨宮ひな]]|D-5/図書館 入り口前 受付|黎明|[[◆aKPs1fzI9A]]|
|027|[[その信愛は盲目]]|[[明智光秀]]、[[麻生嘘子]]|B-2/駅・待合室|黎明|[[◆5Nom8feq1g]]|
|028|[[くろださん@うごかない]]|[[黒田翔琉]]|A-4/警察署|黎明|[[◆aKPs1fzI9A]]|
|029|[[星に届け]]|[[フランクリン・ルーズベルト]]|A-2/森|黎明|[[◆5Nom8feq1g]]|
|030|[[楽しさと狂気と]]|[[鬼小路君彦]]、[[ナイトオウル]]、[[卑弥呼]]、[[早乙女エンマ]]、[[柊麗香]]、[[ティアマト]]|A-7/草原、F-6/平原、B-6/町|黎明|[[◆/MTtOoYAfo]]|
|031|[[彼女は貫く胸の華]]|[[花巻咲]]、[[肩斬華]]、[[西崎詩織]]、[[柳生十兵衛]]、[[不死原霧人]]|H-4/森、屋敷|黎明|[[◆5Nom8feq1g]]|
|032|[[こんどの敵は、デカスゴだ。]]|[[東雲駆]]、[[片桐花子]]|D-3/草原|黎明|[[◆hRdS/lFjKw]]|
|033|[[泣け]]|[[アリシア]]、[[ジル・ド・レェ]]|D-6/町|黎明|[[◆5Nom8feq1g]]|
|034|[[旅客列車でGO!会場の電車は日本式]]|[[サラ・エドワーズ]]、[[ブルックリン・トゥルージロ]]|H-1/旅客列車キングトレーサー車内|黎明|[[◆aKPs1fzI9A]]|
|035|[[ダブルクロス]]|[[高村和花]]、[[裏切りのクレア]]、[[真白]]、[[東光一]]|C-3/森、C-2/公園|黎明|[[◆5Nom8feq1g]]|
|036|[[やつがれ、ヤクザの武器になります。]]|[[織田信長]]、[[御園生優芽]]|F-6/道場/1日目|黎明|[[◆aKPs1fzI9A]]|
|038|[[もんだいとこたえ]]|[[平沢茜]]、[[レイ・ジョーンズ]]|H-6/坂|黎明|[[◆aKPs1fzI9A]]|
|039|[[憎しみと共起]]|[[雨谷いのり]]、[[平沢悠]]、[[ティアマト]]|C-7/平原、B-7/廃工場|黎明|[[◆5Nom8feq1g]]|
|041|[[弱さ=強さ]]|[[谷口豪]]、[[ラモサ]]、[[闇ツ葉はらら]]|F-2/町|黎明|[[◆/MTtOoYAfo]]|
|042|[[偏愛の輪舞曲]]|[[明智光秀]]、[[麻生嘘子]]、[[金本優]]|B-2/駅・待合室|黎明|[[◆laf9FMw4wE]]|
**【早朝】
|037|[[それはそれとしてハンバーグが美味い]]|[[ヘイス・アーゴイル]]|E-5/デパート6F|早朝|[[◆5Nom8feq1g]]|
|040|[[欝くしき人々のうた]]|[[ライリー]]|G-1/映画館|早朝|[[◆aKPs1fzI9A]]|
|043|[[ドミノ†(始点)]]&br()[[ドミノ†(終点)]]|[[鰺坂ひとみ]]、[[ラクシュミー・バーイー]]、[[ジェナス=イヴァリン]]、[[大空蓮]]、[[プロデュース仮面]]、[[剣崎渡月]]、[[近畿純一]]、[[ラインハルト・ハイドリヒ]]、[[道神朱雀]]、[[巴竜人]]|F-1/ビル街|早朝|[[◆5Nom8feq1g]]|
|044|[[438年ぶり2回目]]|[[松永久秀]]|E-4/森|早朝|[[◆7yHhbHvsLY]]|
|045|[[似たもの同士が相性がいいとは限らない]]|[[早乙女灰色]]、[[雨谷いのり]]|C-6/町、C-7/平原|早朝|[[◆9KJ.d2Jgbs]]|
|046|[[D-MODE]]|[[黒田翔琉]]|A-4/警察署|早朝|[[◆5Nom8feq1g]]|
|047|[[CORE PRIDE]]|[[愛島ツバキ]]、[[結城陽太]]|D-7/学校|早朝|[[◆aKPs1fzI9A ]]|
|048|[[悪魔の中身]]|[[平沢茜]]、[[レイ・ジョーンズ]]|H-5/港|早朝|[[◆F3DFf2vBkU ]]|
|049|[[みつどもえ]]|[[卑弥呼]]、[[早乙女エンマ]]、[[柊麗香]]|B-6/町|早朝|[[◆F3DFf2vBkU ]]|
|050|[[桜の意図]]|[[高村和花]]、[[裏切りのクレア]]、|C-3/森|早朝|[[◆F3DFf2vBkU ]]|
|051|[[人でなし達の宴]]|[[巴竜人]]、[[道神朱雀]]、[[ライリー]]|F-1/町|早朝|[[◆aFyiCU5AH6 ]]|
|052|[[同盟破棄]]|[[真白]]、[[東光一]]|C-2/公園|早朝|[[◆MYPVpX9yeE ]]|
|053|[[片桐花子の災難]]|[[谷山京子]]、[[スライムちゃん]]、[[東雲駆]]、[[片桐花子]]|D-3/草原|早朝|[[◆MYPVpX9yeE ]]|
//|0XX|[[タイトル]]|[[登場人物]]|位置|時間帯|[[書き手]]|
2019-12-16T21:46:33+09:00
1576500393
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片桐花子の災難
https://w.atwiki.jp/origin2015/pages/265.html
「はぁ……はぁ……。ちょっと疲れてきたね……」
みなさんどうもこんにちは?こんばんわ?おはようございます?どの挨拶が正解なのかわからないけど、谷山京子です!
ボクは今、さっき立ち去った華ちゃんをスライムちゃんと一緒に追いかけてます!
と言ってもあの子意外と早くて、なかなか追いつけないけどね……。そもそもボクが傷心してちょっと遅かったのもあるけどあまりそこは責めないで(泣)
そりゃボクは男性器が付いてるけど、乙女心くらいあるから……あんなところを見られてどう声を掛けたらいいのかわからないというのが本音です。
でもスライムちゃんは持ち前のポジティブさで「とりあえず追いかけまショウ!」とボクの手を引っ張って走らせました。
だから今こうして華ちゃんを追いかけてるんだけど……本当にどうやって謝ればいいんだろうね!もう絶望しかない気がするんですけど!
「キョーコさんはさっきの人と知り合いなんデスカ?」
一方のスライムちゃんはさすがモンむすなだけあって、全く息切れもせずにそう質問してきた。
知り合いっていうか初恋の人なんですけどー!なんて言えないよね、うん。スライムちゃん罪悪感を覚えちゃうだろうし。
よし、ここは冷静に落ち着こう。華ちゃんにドン引きされたのはすっごく、すっごく!悲しいけどスライムちゃんは何も悪くないからね!
「うん、クラスメイトの子だよ」
「そうなんデスね。でもどうして逃げたんでショウ?」
うーん……。スライムちゃんってすごく純粋みたいで、さっきのボク達の行為が世間的にアレだっていうことを理解してないみたい。
たぶんあの行為もマナを補充して主催に反逆したいっていう純粋な気持ちからなんだろうなぁ……っていうのがわかるからほんとに責めらんない!
つい出来心で華ちゃんで――しちゃったからきっと罰が当たっただけなんだ。スライムちゃんは何も悪くないんだ。
それにしても今後もマナの補充でナニを刺激されるのは困るなぁ。
少しくらいそこらへんの常識を教えたほうがいいのかな? でもボク女子だからそういう話するのちょっと恥ずかしいっ!
いやそりゃ性欲が強いことは認めるよ? でもボクだって女子だからね? 性欲強い女子も普通にいるからね、男子諸君!
……うん、それにしてもこんなところで恥じらってる場合じゃないんだけど。
だってこれから似たようなことがあったらすごく困るからね。そりゃマナが補充されるのは頼もしいけど、ボク達が不審者扱いされて狙われるとかありそうで嫌だ。
というか何より恥ずかしいよね。普通にやってること露出プレイだもん、そりゃ逃げるよね、うん。
「スライムちゃん、ボクのナニを刺激するのは一般的には恥ずかしいことなんだよ」
「? ナニってなンデスか?」
「な、ナニはナニだよ!? なんだろうね!?」
あああっ、もう自分でも何を言ってるのかわからなくなってきた! ナニがなんだかわからないよぅ!
ナニは×××だよ、なんて言えることないじゃん! そんなのスライムちゃんに対するセクハラじゃん!
「? キョーコさん? どうシマしたか?」
スライムちゃんがボクの顔色を見ながらキョトンと首を傾げてる。
ていうか走りながら余裕で首を傾げれるってすごいねスライムちゃん!さすがモンむす!
ってそんなツッコミしてる場合じゃない、どうしようこの状況!
ナニはナニだよ、ボクの股間から生えてる×××だよなんて言えないし!スライムちゃんの純粋な心を汚したくない!
そもそも普通の女の子には生えてないのになんでスライムちゃんは何も疑問に思わなかったんだろうね?不思議なことだらけだなぁ!
もしかしてスライムちゃんも生えてる? モンむすだから生えてるの?
いやでもさっきの解説で“普通”、性別を両方持つ人間なんていないって言ってたから違うのか! いやでもスライムちゃんはモンむすだから人間じゃない=生えてる可能性もありえる?
え? ていうか何気にこれよく考えたら、ボクが普通の人間じゃないって言われてない? ちょっとナニが生えてるだけで普通扱いじゃないなんて酷いなぁ(泣)
「と、とりあえず走ろう!スライムちゃん!」
「わかりまシタ!」
あああっ、もうナニだとか×××だとかそういう説明をするのはやめた!
とりあえず走ろう、走ろう!走って気分爽快!ナニもかも忘れよう!HAHAHA!悲しいなぁ!
♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀
「フラウ・ザ・リッパー……? ああ。あの片桐花子か……」
片桐花子は学校でちょっとした有名人だ。
フラウ・ザ・リッパーという謎の二つ名を自称する痛々しい高校生は、学校でも少し浮いた存在である。
もっとも彼女が何も特異性がないことは、駆も理解しておりあまり警戒する必要はない。
そもそも本当にジャック・ザ・リッパーの子孫であるならもっとこう、オーラのようなものがあっていいはずだ。
何より持ってるナイフが金属製ではなくプラスチックのものだというのだから、彼女は厨二病を脱しきれなかったアレな人としか言いようがない。
「知ってるんですか?」
普段ならフラウ・ザ・リッパーとして年上にもタメ口を聞くことがある花子だが、どういうわけか駆には敬語になってしまう。
一度素で返事をしてしまったというのが大きいのだろうか?
「もちろんだ。意外とキミは有名だよ。……普段とキャラが違うようだが、殺し合いに対する疲れからか?」
「そうですね……。殺し合いっていう実感はないですけどある意味疲れました……」
「ん?」
殺し合いという実感はない?
死体や殺戮現場を見たであろう人物が言うには、程遠い言葉だ。
「……どういうことだ? サイコパスの谷山京子が誰かを殺戮した現場を、見たわけじゃないのか……!?」
「ち、違います!」
駆がこれまで考えていた誤解を、花子は明確に否定した。
彼女が見たのは謎のスライムが女の子のナニを刺激していた現場であり、別に殺戮現場だなんて大袈裟なものではない。
いやまあ乙女心は殺戮されたようなものだが、それはともかく物理的に誰かが殺されたわけじゃないのである。
「……なるほど。俺の誤解か」
そして駆はようやく自分の誤解に気が付いた。
しかし自分の考えが誤解だとするなら、花子は何を伝えたかったのだろうか?
スライムみたいなもの、だとか特に意味不明である。戦場でないなら、武器である可能性も低い。
(そういえば……)
参加者候補リストを広げ、そこに記載されている名前を一通り見てみる。
その中に一際目立つ謎の名前があった。その名も、スライムちゃん。
まるで芸名のような意味不明な名前だが、もしも花子の言っていたスライムのようなものの正体がこのスライムちゃんであるとしたら……。
「……その現場に案内してくれないか?」
「えっ。で、でも……」
「確認したいことがあるんだ、頼む!」
「そ、そんなこと言われても……」
「花子。君の安全は俺が保証する。だから、頼む」
「は、はい……」
そんなに真剣な視線を向けられると、なんだか恥ずかしくなってくる……と思いながらも花子は駆の希望も承認した。
♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀
ボクとスライムちゃんが走って暫くすると、向こうに人影が見えてきた。
小柄で色白なあの子は、間違いなく華ちゃんだ!やったー!と思う反面、どうしよう!感もすごい!
とにかく誤解をとかなきゃなんだけど、ナニをしていたことは事実だし……あれこれもしかして何も誤解じゃない?
いやでもボクから進んでやったわけじゃないし、スライムちゃんもマナの補充っていうちゃんとした目的もあったからやっぱりただのアレと違って誤解だよね!
うん、そうだ!そういうことにしよう!ていうか普通に誤解でいいよね!?
向こうからやってくる華ちゃんは、よく見たら少し身長の高い男の人と一緒にいる。
きっとボクとスライムちゃんから逃げ出した後に遭遇して、そのまま同行してるんだと思うけど……ボクやスライムちゃんの変な噂が伝わってないといいなぁ。
そりゃ噂が広まっても仕方ないことはしたよ? でもこれは事故であって、意図的なものじゃないから! 意図的なものじゃなければセーフにならないかなぁ!?
そんなことを考えてるうちに、距離は縮まっていって……気づけばもうすぐそこに二人は来ていた。
華ちゃん、ボクに近づくやいなやすぐに男の人の後ろに隠れちゃったけど……めちゃくちゃ気まずいよ、これ!
「あのー……華ちゃん、さっきはごめんね? スライムちゃんのマナを補充してただけなんだ……」
「ま、マナの補充でナニをナニしないでしょ!適当言わないで!それに華ちゃんって何?」
うわあああん、怒涛のナニなに攻撃だ!
でもがんばれボク、なんとか誤解をとかなきゃ……。
「ほら、華ちゃんの名前って肩斬華でしょ? だからそう呼んでたんだけど……」
アレ? よく考えたらこれってキモい?
勝手にあだ名つけてましたってよく考えたらドン引き案件かなこれ!?
「ふ、ふは……」
華ちゃんの様子がおかしい。どうしたんだろう?
「ふはははは!よくぞ言ってくれた!そう、私の名前はフラウ・ザ・リッパー!肩斬華!」
「え――――?」
今、華ちゃんはなんて言った?フラウ・ザ・リッパー?
え?え?嘘だよね?
ボクの聞き間違いだよね?
え?まさか華ちゃんがフラウ・ザ・リッパーだなんて、そんなわけないよね?
「……この子の悪い癖だ、気にしないでくれ」
「かっこいい名前デスね」
男の人とスライムちゃんは焦るボクとは対照的に呑気にしてる。
ああ、そうか。違う世界から来たなら、フラウ・ザ・リッパーのことを知らないんだ……!
「みんな、逃げて!」
スライムちゃんと男の人の手を取って、急いで走り出す。
でも男の人は予想外に力があって、なかなか引っ張れない。このままだと殺されるのに、どうして……!?
「フラウ・ザ・リッパーは殺人鬼の名前です!ボク達と一緒に逃げましょう!」
「……何?」
男の人がフラウ・ザ・リッパーをちらりと見た。
対するフラウ・ザ・リッパー「え?え?」と戸惑ってるように見えるけど、何かの演技?
それとも華ちゃんがフラウ・ザ・リッパーというのはただの冗談? でも殺し合いの場でそんな不謹慎な冗談を言うかな?
というよりもこの華ちゃん、ボクが知ってる華ちゃんとは何か違うように感じられる。ただのそっくりさん?
いやでもさっき肩斬華って名乗ってたし……うーん、よくわかんないけど逃げないと。それともデイパックから何かを出して戦う?銃もまともに使えないのに?
「ワタシが戦いマス、キョーコさん!」
「……待ってくれ、そもそも彼女の名前は片桐花子だ。肩斬華じゃない」
「え?」
どういうことなの?
やっぱりそっくりさん?
そういえば本当にフラウ・ザ・リッパーならこうやって揉めてるうちに攻撃したらいいのに、なかなかしてこないのもおかしいよね。
男の人やスライムちゃんはわからないけど、何も能力や技術を持ってないボクなら簡単に殺せるはずなのに。
「フラウ・ザ・リッパーは彼女が自称してるだけの名前だ。殺人鬼の名前として聞いたことは、一度もない」
え?どういうこと?
「信長さんと同じみたいデスね。たぶん花子さんは別の世界のフラウ・ザ・リッパーだと思いマス」
「「「別の世界?」」」
ボクと男の人と花子ちゃんの声が重なる。
確かに世界が複数あるとは聞いたけど、そういうことってあるのかなぁ。
「はい。たとえば織田信長さんは他の世界では男性って色々な人に聞きましたケド、ワタシの世界では女の子デス」
「うーん、世界毎にそっくりさんがいるっていうこと?」
「かもしれないデス。少なくともキョーコさんと男の人でフラウ・ザ・リッパーに対する印象が全然違ってマス」
「それもそうだねぇ……」
確かにスライムちゃんの言う通りかもしれない。
スライムちゃんが色々と情報を持っていてよかった、このままじゃ誤解したまま逃げ出すところだった……。
「なるほど。確かに参加者候補リストには花子とは別に肩斬華の名前があったな。
ところで他の世界、という言葉について詳しく聞きたいんだけど……」
「世界はいっぱいあるんデス。ワタシも一度他の世界に飛ばされたから、わかりマス」
「……信じ難いが、スライムの君が喋ったり動いてる時点で常識は超えてる。信じるしかないか」
「ありがとうございマス。確かに他の世界ではスライムが動くのはおかしいみたいデスね」
男の人は飲み込みが早いみたいで、あっさりと理解した。
花子ちゃんは疑問符を頭にいっぱい浮かべてるけど、これが普通だよねうん。というかこのリアクション的に殺人鬼には見えないかなぁ、やっぱり。
「俺は東雲駆。よろしく」
「ワタシはスライムちゃんです、よろしくお願いしマス」
「あ、ボクは谷山京子です。ちょっとナニが付いてるだけの女の子です、よろしく」
スライムちゃんが受け容れられるなら、ボクのナニも受け容れてもらえるよね、うん。
というかこういうことは事前に説明しておいたほうがいいような気もする。急にビックリさせるのもアレだし。
「花子ちゃん、さっきはごめんね。本当にアレはスライムちゃんのマナを補充してただけだから……」
「それより先に謝ることがあるんじゃないか?」
駆さんに言われて、ハッと気付く。
そういえばボク、花子ちゃんを殺人鬼だと誤解してたんだよね。まずはそっちを謝らなきゃじゃん!
「殺人鬼だって誤解してごめんなさい」
「……いいよ」
小さい声だけど、ポツリと呟いた言葉は確かにボクの耳に届いた。許してもらえて良かった……!けどこれからは世界の違いについてもよく考えなきゃね!
「花子。これでわかったと思うが、フラウ・ザ・リッパーごっこはもうやめた方がいいかな。ここでは余計な誤解を生むだけだよ」
「はい……」
少し寂しそうな花子ちゃんの声。
フラウ・ザ・リッパーごっこをしていた時の花子ちゃんは、すごく楽しそうだった。きっとそういうのが好きなんだろうなぁ……。
でもフラウ・ザ・リッパーはボク達の世界だと殺人鬼だから、気軽に名乗っていたら絶対に誤解される。だからそれを禁じるのは、仕方ないことなんだけど……ちょっと可哀想かなぁ。
「それにしてもフラウ・ザ・リッパーか……警戒する相手が増えたな」
「そうデスね。ワタシも注意しマス」
駆さんとスライムちゃんが気を引き締める。
スライムちゃんが戦えるのはわかるけど、駆さんも戦えるのかな? なんだかボクや花子ちゃんみたいな、ただの一般人とは違うような気がする。
「さて……それじゃあ情報交換をしてもいいかな。この殺し合い、色々と変則的すぎて出来る限り情報の共有はしておいた方が良さそうだ」
「ワタシはいいデスよ」
「ボクも賛成。このまま一緒に行動してもいいんじゃないかな? 花子ちゃんは?」
「私もいいよ……」
こうしてボク達の情報交換は、始まろうとしていた。
【D-3/草原/1日目/早朝】
【谷山京子@アースP(パラレル)】
[状態]:健康
[服装]:パジャマ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:主催絶対許さない絶対にだ
1:東雲駆、片桐花子と情報交換をする
2:東雲駆、片桐花子と一緒に行動する?
※肩斬華のことを意識していましたが…。
【スライムちゃん@アースC(カオス)】
[状態]:マナチャージ(1)
[服装]:とくになし
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:主催を倒しまショウ
1:東雲駆、片桐花子と情報交換をする
2:東雲駆、片桐花子と一緒に行動する?
※氷と癒しの魔法(低級)が使えるらしいです。
【東雲駆@アースR】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:変幻自在@アースD
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考]
基本:平沢茜が作り出した灰色の楽園を壊す
1:首輪を解除出来る参加者を探す
2:出来る限り早く知人と合流したい
3:山村幸太、花巻咲、麻生叫、フラウ・ザ・リッパーを警戒
4:谷山京子、スライムちゃんと情報交換をする
5:片桐花子と共に行動する。
[備考]
※世界観測管理システムAKANEと平沢茜を同一人物だと思っています。
【片桐花子@アースR(リアル)】
[状態]:健康
[服装]:学生服
[装備]:???
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:帰りたい…
1:谷山京子、スライムちゃんと情報交換をする
2:フラウ・ザ・リッパーが本物の殺人鬼……?
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2019-12-16T21:42:35+09:00
1576500155
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同盟破棄
https://w.atwiki.jp/origin2015/pages/264.html
「銃を使う気は、なさそうですね」
光一の一挙一動を観察していた真白は、彼が殺し合いの場に向かない人物であることを瞬時に悟った。
軍人空手の型を取りながら、「君を無力化する」と言いのけた光一。それは殺意がないという何よりの証拠だ。
対して自分は生き残る為ならば容赦なく目の前の男を斬り伏せる覚悟がある。これは圧倒的なアドバンテージだと言っても差し支えないだろう。
一つ懸念があるとするならば、先程見せ付けられた不思議な力だ。クレアが連れ去った少女といい、超常的な能力を有する参加者が多いということになる。
しかし真白自体はアースEZの世界でこれまで生き延びてきた実力者とはいえ、ただの無能力者。まともにやり合うにはあまりにも分が悪い。
(ゾンビ能力以外にも何か隠している可能性も考慮するべきでしょうか……?)
再び真白ソードを大振り。
またしても光一はなんとか躱した。とはいえそれが精一杯なのか、それとも本当に無力化しようとしているのか、反撃はしてこない。
本来ならば実力行使で無力化するのが当然であるが、相手は幼い少女。それが原因で光一もイマイチ攻勢に出ることを躊躇して、防戦一方になっている。
2回の攻撃で光一のそういう心情を読み取った真白は、彼のことを甘いと思った。同時に、格好の獲物だとも。
ある程度の実力者なら避けられる前提の動作―――大振りの一筋を光一は見事に躱してのけた。しかしただそれだけ。
どれほどの実力があろうと、その心に他人を殺す覚悟が、殺意がなければ殺し合いでは何の意味もなさない。実力者が自分より弱く、されど殺意が充満している者に呆気なく殺されるなんて、よくあることだ。
「俺の目的は、君を殺すことじゃないからね」
「……甘いですね。ゾンビだからって慢心しているのでしょうか」
再度真白ソードの大振り。
いい加減慣れてきたのか、光一の動作が先までよりもスムーズになっている。
「無理しなくてい―――ぐはっ!?」
光一が言葉を言い終えるより先に、鳩尾に鋭い蹴りが放たれた。
真白はソードがなければ本領発揮出来ないが、だからといって真白ソードに完全依存した戦法は行わない。
時にはこうして肉体を使った攻撃も織り交ぜるし、泥臭い戦い方にも嫌悪感は一切ない。全ては、生き延びるために。
あまりもの激痛に体勢を崩した光一の上空へ華奢な身体が舞ったかと思えば、直後に彼の頭を鷲掴みにして地面へ叩きつける。
それと同時に真白ソードを振り下ろせば、それは寸分の狂いもなく彼の心臓を射止める―――予定ではあるが、あえてそこは外す。左肩を刺し、引き抜く。華麗に地面へ着地。
(ここですぐに殺しても良かったのですが……やっぱりクレアさんのことが懸念ですね)
今回ダシにされただけなら、それでも良い。
だが相手は裏切りのクレア。警戒しておくに越したことはないし、何より自分が「クレアは裏切ったのではないか?」と疑問を感じた。そして真白の直感は割とよく当たる。
この幼い身で、裏切りや騙し討ちが当然の世界を生きてきたのだ。そういう本能には人一倍優れているという自負はある。
(今の私ではあの人に勝てません。きっとひとたまりもなく、殺されてしまうことでしょう)
彼我の戦力差は理解している。だからこそ今は頭を絞り、対抗策を練らなければならない。
予想以上に早い裏切りではあると思うが、それでも想定していなかったわけではない。いずれ裏切られるのは確実だとすら考えていた。
「そこで相談……いえ、交渉です。私と組みませんか?」
「こ、これだけの仕打ちをしてどういうことかな……」
「説明を求めるのはもっともですね。ただ私としてはあなたに殺し合いを実感してほしかったです」
「殺し合いを……?」
真白の言葉に驚愕を隠せない光一だが、彼女の瞳を見る限りそれが嘘だとも思えない。
「ここであなたを殺してすぐに逃げ出すことも考えました。ですが、万が一クレアさんと対峙する場面があった時、きっと私単独で対処することは出来ないじゃないですか。
残念なことに私にはあなたのような特別な力はありません。そしてクレアさんに勝てないことは、本能で察していました」
「なるほど。でも俺は殺し合いには賛同できない」
「それでも構いませんよ。ただし私を襲ってきた相手は容赦なく殺してくださいね、それが条件です」
「……呑めないな。さっきも言った通り、俺は君を無力化するつもりだった」
そこまで聞いても。真白の無表情は変わらない。普通何らかのリアクションをするべきなのだろうが、想定内の返答すぎて特にリアクションを取る必要性が感じられない。
「でもそうしなければ、私は殺されますよ。見た感じあなたは稀にいる正義感の強い方のようですが、それでもいいのでしょうか?幼い命が戦場で散らされることを、良しとするのでしょうか?」
「それは……っ!」
言葉に詰まる。
何か反論してやりたいところでもあるが、真白の言っていることは、この殺し合いにおいてはあまりにも筋が通っていた。
自分達を襲ってきた者を殺さなければ、逆に自分達が犠牲になる。当たり前の理論だ。
(光一よ、この少女の言う通りだ。怪獣から一人でも多くの人々を守るために、私達は生き延びなければならない)
(でも……っ!)
(その葛藤は私にも理解出来る。だがこうしている間にも、私達の世界は怪獣の危機に脅かされていることを忘れないことだ)
「……わかった。でも優勝狙いだけはさせないよ。それだけは認めるわけにはいかない」
「優勝狙いが一番合理的な脱出方法ですが……わかりました。あなたが生きている限り、優勝は狙いません」
真白としては、要は生きて脱出することが出来れば良いだけのことだ。
それにこの男はきっと長生きできない。殺し合いの場ではあまりにも脆すぎるタイプだ。……とはいえゾンビ能力がある以上、そうとも言い切れないかもしれないが。どちらにせよ、ラストまで生き残ったとしてもこの性格ならば自らの手で殺すのは容易いだろう。クレアと一騎打ちするよりはだいぶ気が楽である。
最終的に優勝して脱出するという方針は変えないが、今はひとまずこの男と同行してクレアから逃げるのが最も安全な策だと真白は踏んだ。
しかしこれだけではやはり心許ない。出来ればもっと戦力を増やしたい。そうしなければ、きっとクレアには勝てないし、生き残るのも困難だろうから。
ただし足手まといになるようならば容赦なく見捨てる。自分までこの光一のような正義に染まるつもりは、毛頭ない。
「私の名前は真白です。あなたはなんて呼べば良いのでしょうか」
「東光一。光一でいいよ」
よろしく――とは言いづらかった。
何故なら先程まで自分を殺しに掛かってきた相手だ。流石の光一もそう簡単に心を許せない。
しかし少女がこんな性格になってしまったのも、何らかの原因があるはずだ。性格を正す為にも、同行するのは悪くないかもしれない。
「わかりました。では今すぐここから逃げましょう、光一さん。きっともうすぐ、クレアさんが戻ってくるはずです」
「和花は……」
「多分もう殺されているか、最悪―――『裏切り』の犠牲になっています」
「裏切りの犠牲?どういうこ――――うぉ!?」
光一が疑問を口にし終える前に、そんなことを無視して真白は彼の裾を掴みながら強引に連れ去った。
裏切りの犠牲とは、ただの勘のようなものだが……裏切りのクレアなんて名乗る相手が、そう簡単に殺して終わり、とも考えづらい。
恐らく何らかの手を仕込んでいる。それが何かはわからないが、拷問とかならば良いが……例えば自分の支配下にならないか、だとか。アースEZにもその手の輩はよくいた。
だから今は潔く逃げる。同盟を破棄して、一目散に逃げる。あの魔法少女と組まれたら、自分達ではとてもではないが太刀打ちできないのだから。
【C-2/公園/1日目/早朝】
【真白@アースEZ】
[状態]:健康
[服装]:私服、汚れているが、それがそこはかとなくえろい
[装備]:真白ソード
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1~3
[思考]
基本:最終的には優勝する
1:クレアが戻ってくる前に逃げる
2:ひとまずは光一と組み、彼が死ぬまで優勝狙いはやめる。出来れば他にも戦力がほしい
3:ただし最終的にはやっぱり優勝狙い。もし他の脱出法が見つかれば……?
4:光一が足手まといになるようならば切り捨てる
5:クレアさんとは会いたくないですね……
※真白ソードによって戦闘力が上がっています。ソードには他にも効果があるかも
【東 光一@アースM】
[状態]:ダメージ(中)、左肩に刺し傷
[服装]:MHC隊員服
[装備]:十四年式拳銃(残り残弾数35/35)@アースA
[道具]:基本支給品一式、超刃セイバーZDVD一巻@アースR、
ディメンションセイバー予備エネルギータンク2個@アースセントラル
[思考]
基本:巻き込まれた参加者を助ける
1:和花ちゃんが心配。
2:真白と組む。出来れば更生してやりたい
3:何で十四年式拳銃なんか・・・?
[備考]
※コスモギャラクシアンへの変身に必要なコスモスティックを没収されています。
他の参加者に支給されているかもしれないし、会場内のどこかにあるかもしれません。
※十四年式拳銃のような古い銃が支給されていることに疑問を感じています。
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|035.[[ダブルクロス]]|[[真白]]|0XX.[[次のSS]]|
|035.[[ダブルクロス]]|[[東光一]]|0XX.[[次のSS]]|
2019-12-16T21:37:58+09:00
1576499878
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【000~100】
https://w.atwiki.jp/origin2015/pages/108.html
**【000 ~ 100】
|No|タイトル|登場人物|場所|時間帯|作者|
|000|[[イントロダクション]]|[[花巻咲]]、[[片桐花子]]、[[麻生叫]]、[[肩斬華]]、[[谷口豪]]、[[柳生宗矩]]、[[藤木健一]]、[[ブルックリン・トゥルージロ]]、[[早乙女灰色]]、[[早乙女エンマ]]、[[パーフェクト]]、[[柳生十兵衛]]、[[不死原霧人]]、[[デュルド・ドエナール]]、[[サン・ジェルミ伯爵]]、[[平沢茜]]、[[羽田神達生]]、[[西崎詩織]]、[[黒田翔琉]]、AKANE|それぞれの世界|?|[[◆5Nom8feq1g]]|
|001|[[そして世界が生まれゆく]]|[[オブザーバΔ]]、AKANE|アースBR|?|[[◆aKPs1fzI9A]]|
|002|[[我魂為麺]]|[[徳川家康]]、[[ベニート・ムッソリーニ]]|C-5/平野|深夜|[[◆laf9FMw4wE]]|
|003|[[信長様の為に]]|[[明智光秀]]|A-3/森|深夜|[[◆laf9FMw4wE]]|
|004|[[柳生有情剣]]|[[柳生十兵衛]]、[[花巻咲]]|G-4とH-4の境/森|黎明|[[◆/MTtOoYAfo]]|
|005|[[死線上のアリア]]|[[松永久秀]]、[[久澄アリア]]、[[雨宮ひな]]|E-4/森、D-5/住宅街|深夜|[[◆5Nom8feq1g]]|
|006|[[秘密を持つ二人]]|[[東光一]]、[[高村和花]]|C-1/森|深夜|[[◆pNmyKGcnVU]]|
|007|[[私は貝になれない]]|[[フランクリン・ルーズベルト]]、[[山村幸太]]、[[麻生嘘子]]|A-2/森/|深夜|[[◆aKPs1fzI9A]]|
|008|[[スマイル全開で明日を目指そうよ]]|[[織田信長]]、[[御園生優芽]]|F-7/平野|深夜|[[◆laf9FMw4wE]]|
|009|[[鏡面の憎悪]]|[[肩斬華]]、[[ヘイス・アーゴイル]]|F-5/平野|深夜|[[◆r.0t.MH/uw]]|
|010|[[私が戦士になった理由]]|[[ラモサ]]|F-3/平野|深夜|[[◆laf9FMw4wE]]|
|011|[[殺人鬼×少女×少女]]|[[ジル・ド・レェ]]、[[早乙女エンマ]]、[[柊麗香]]|B-6/町、C-6/町|深夜|[[◆8I7heVl7bs]]|
|012|[[探偵は警察署にいる]]|[[黒田翔琉]]|A-4/警察署|深夜|[[◆nQH5zEbNKA]]|
|013|[[瞳に炎を宿せ]]|[[夢野綺羅星]]、[[石原莞爾]]|D-5/図書館「歴史・文化」エリア|深夜|[[◆/MTtOoYAfo]]|
|014|[[谷山京子の差異難]]|[[谷山京子]]、[[スライムちゃん]]、[[片桐花子]]|D-2/草原、|黎明|[[◆5Nom8feq1g]]|
|015|[[灰色の楽園を壊したくて]]|[[東雲駆]]|C-3/森|深夜|[[◆laf9FMw4wE]]|
|016|[[ティアマトの逆襲、または如何にして私は淫乱ピンクと怪盗と共に怪獣を追っかけることになったか]]|[[ティアマト]]、[[鬼小路君彦]]、[[卑弥呼]]、[[ナイトオウル]]|A-7/飛行場跡、A-6/草原|深夜|[[◆pNmyKGcnVU]]|
|017|[[my world is not yours]]|[[平沢悠]]、[[雨谷いのり]]|B-7/廃工場|深夜|[[◆aKPs1fzI9A]]|
|018|[[天才と馬鹿はうんちゃらかんちゃら。]]|[[サラ・エドワーズ]]、[[ブルックリン・トゥルージロ]]|H-1/「映画館前」プラットフォーム|深夜|[[◆/MTtOoYAfo]]|
|019|[[彼らは幾ら叫べども、灰色世界に抗えない]]|[[ティアマト]]、[[麻生叫]]、[[早乙女灰色]]|B-7/廃工場|黎明|[[◆5Nom8feq1g]]|
|020|[[裏切り同盟]]|[[真白]]、[[裏切りのクレア]]|A-1/採掘場|深夜|[[◆8I7heVl7bs]]|
|021|[[現実の壁は破れない]]|[[闇ツ葉はらら]]、[[不死原霧人]]、[[西崎詩織]]|F-2/町|深夜|[[◆nQH5zEbNKA]]|
|022|[[世界の座標軸からみえるのは]]|[[平沢茜]]、[[レイ・ジョーンズ]]|H-7/崖|深夜|[[◆8w1Dkva65Y]]|
|023|[[日輪纏いしヒーローと二人の元いじめられっ子]]|[[愛島ツバキ]]、[[結城陽太]]、[[ライリー]]|D-7/学校、H-2/森|深夜|[[◆laf9FMw4wE]]|
|024|[[安土シンデレラ城現る]]|[[徳川家康]]、[[ベニート・ムッソリーニ]]|C-6/住宅街|黎明|[[◆5Nom8feq1g]]|
|025|[[変身VS変心]]|[[巴竜人]]、[[道神朱雀]]|H-3/泉|深夜|[[◆hRdS/lFjKw]]|
|026|[[現実という名の怪物と戦う者たち]]|[[夢野綺羅星]]、[[石原莞爾]]、[[雨宮ひな]]|D-5/図書館 入り口前 受付|黎明|[[◆aKPs1fzI9A]]|
|027|[[その信愛は盲目]]|[[明智光秀]]、[[麻生嘘子]]|B-2/駅・待合室|黎明|[[◆5Nom8feq1g]]|
|028|[[くろださん@うごかない]]|[[黒田翔琉]]|A-4/警察署|黎明|[[◆aKPs1fzI9A]]|
|029|[[星に届け]]|[[フランクリン・ルーズベルト]]|A-2/森|黎明|[[◆5Nom8feq1g]]|
|030|[[楽しさと狂気と]]|[[鬼小路君彦]]、[[ナイトオウル]]、[[卑弥呼]]、[[早乙女エンマ]]、[[柊麗香]]、[[ティアマト]]|A-7/草原、F-6/平原、B-6/町|黎明|[[◆/MTtOoYAfo]]|
|031|[[彼女は貫く胸の華]]|[[花巻咲]]、[[肩斬華]]、[[西崎詩織]]、[[柳生十兵衛]]、[[不死原霧人]]|H-4/森、屋敷|黎明|[[◆5Nom8feq1g]]|
|032|[[こんどの敵は、デカスゴだ。]]|[[東雲駆]]、[[片桐花子]]|D-3/草原|黎明|[[◆hRdS/lFjKw]]|
|033|[[泣け]]|[[アリシア]][[ジル・ド・レェ]]|D-6/町|黎明|[[◆5Nom8feq1g]]|
|034|[[旅客列車でGO!会場の電車は日本式]]|[[サラ・エドワーズ]]、[[ブルックリン・トゥルージロ]]|H-1/旅客列車キングトレーサー車内|黎明|[[◆aKPs1fzI9A]]|
|035|[[ダブルクロス]]|[[高村和花]]、[[裏切りのクレア]]、[[真白]]、[[東光一]]|C-3/森、C-2/公園|黎明|[[◆5Nom8feq1g]]|
|036|[[やつがれ、ヤクザの武器になります。]]|[[織田信長]]、[[御園生優芽]]|F-6/道場/1日目|黎明|[[◆aKPs1fzI9A]]|
|037|[[それはそれとしてハンバーグが美味い]]|[[ヘイス・アーゴイル]]|E-5/デパート6F|早朝|[[◆5Nom8feq1g]]|
|038|[[もんだいとこたえ]]|[[平沢茜]]、[[レイ・ジョーンズ]]|H-6/坂|黎明|[[◆aKPs1fzI9A]]|
|039|[[憎しみと共起]]|[[雨谷いのり]]、[[平沢悠]]、[[ティアマト]]|C-7/平原、B-7/廃工場|黎明|[[◆5Nom8feq1g]]|
|040|[[欝くしき人々のうた]]|[[ライリー]]|G-1/映画館|早朝|[[◆aKPs1fzI9A]]|
|041|[[弱さ=強さ]]|[[谷口豪]]、[[ラモサ]]、[[闇ツ葉はらら]]|F-2/町|黎明|[[◆/MTtOoYAfo]]|
|042|[[偏愛の輪舞曲]]|[[明智光秀]]、[[麻生嘘子]]、[[金本優]]|B-2/駅・待合室|黎明|[[◆laf9FMw4wE]]|
|043|[[ドミノ†(始点)]]&br()[[ドミノ†(終点)]]|[[鰺坂ひとみ]]、[[ラクシュミー・バーイー]]、[[ジェナス=イヴァリン]]、[[大空蓮]]、[[プロデュース仮面]]、[[剣崎渡月]]、[[近畿純一]]、[[ラインハルト・ハイドリヒ]]、[[道神朱雀]]、[[巴竜人]]|F-1/ビル街|早朝|[[◆5Nom8feq1g]]|
|044|[[438年ぶり2回目]]|[[松永久秀]]|E-4/森|早朝|[[◆7yHhbHvsLY]]|
|045|[[似たもの同士が相性がいいとは限らない]]|[[早乙女灰色]]、[[雨谷いのり]]|C-6/町、C-7/平原|早朝|[[◆9KJ.d2Jgbs]]|
|046|[[D-MODE]]|[[黒田翔琉]]|A-4/警察署|早朝|[[◆5Nom8feq1g]]|
|047|[[CORE PRIDE]]|[[愛島ツバキ]]、[[結城陽太]]|D-7/学校|早朝|[[◆aKPs1fzI9A ]]|
|048|[[悪魔の中身]]|[[平沢茜]]、[[レイ・ジョーンズ]]|H-5/港|早朝|[[◆F3DFf2vBkU ]]|
|049|[[みつどもえ]]|[[卑弥呼]]、[[早乙女エンマ]]、[[柊麗香]]|B-6/町|早朝|[[◆F3DFf2vBkU ]]|
|050|[[桜の意図]]|[[高村和花]]、[[裏切りのクレア]]、|C-3/森|早朝|[[◆F3DFf2vBkU ]]|
|051|[[人でなし達の宴]]|[[巴竜人]]、[[道神朱雀]]、[[ライリー]]|F-1/町|早朝|[[◆aFyiCU5AH6 ]]|
//|0XX|[[タイトル]]|[[登場人物]]|位置|時間帯|[[書き手]]|
2017-05-28T11:59:32+09:00
1495940372
-
人でなし達の宴
https://w.atwiki.jp/origin2015/pages/263.html
巴竜人と道神朱雀は他の参加者の捜索を続けていた。
朱雀の他人格を警戒しつつも、先のような惨劇は避けねばならない。
「やっぱりこの首輪がネックになるか…」
竜人は自身の能力を発揮するにおいての枷に対する苛立ちを漏らす。
「すまんね、巴やん。私の知識でもこれの構造は分からへんわ。せめてサンプルでもあればちゃうんやけど…」
「サンプル、か…」
生きている自分達の首輪が外せない以上、それはすなわち死体から得たものを指すという事になる。
考えたくはないが、そうした事をする必要もあるかもしれない、と竜人は考える。
だがそもそも、首輪を解析しようとする行為自体が主催に対する反逆行為とみなされる可能性もある。
首輪を得ようとしたら自分の首輪が爆破されるなんて笑い話にもならない。
ともかく今は不確定要素が多すぎるので、首輪に関しては今は保留にしようと二人は決めた。
◇
「そう警戒しないでくれよ竜人クン、僕は別に君と事を構えるつもりはないんだ」
「悪いがアンタに対していい話は聞いていないんだ。…青竜の事もあるしな」
「あの馬鹿と一緒くたにされちゃうのは心外だなぁ、戦ったってなんにもならない事くらい分かってるつもりだよ」
そう言って朱雀は…正確には朱雀の別人格の一人、"白虎"は竜人に見せるようにして首輪の「G」の文字の部分をトントンと叩いた。
「だってこれ、チーム戦でしょ?青竜は理解してなかっただろうけど、別に僕一人で勝つ必要なんてないさ」
それを聞き、竜人の目つきは険しくなる。
、、、
「冗談だよ、そういうのを止めたいってのが君の願いだろ。敵に回せばどんな痛い目にあうかって分かってるさ、危うく朱雀君も死にかけたしね。おっと、青竜だったか」
と、皮肉っぽく言う白虎に対し、竜人はバツの悪い表情を浮かべた。
「それにこの体質はどうしようもないしね、そういう動きをするには不利すぎるよ。いつ入れ替わるかは僕にだって分からない。朱雀君や玄武は止めるだろうし、青竜は何しでかすか分かったもんじゃない」
「まあな。分かってても慣れないな、その人格変化」
「精々気をつけてくれよ、僕が死ぬって事は朱雀君や玄武まで死ぬって事なんだからさ。そりゃ君だって避けたいだろ?…っと、誰か来たみたいだね」
二人の視界に入ったのは、金色の長髪が目を惹く少女の姿であった。
◆
「待ってくれ、俺たちは殺し合いには乗っていない」
竜人と白虎を前にし、明らかに警戒した様子の少女に諭すように竜人は声をかけた。
だが、少女はまるで一切の接触を拒絶するかのような強い口調で叫んだ。
「人間を信用など出来るか!帰れ!!!」
「…人間?」
その、自分は人間ではない、とでも断定するような口調に白虎はいささかの違和感を覚えた。
「さっさと帰れ!醜い人間と話す舌なんて無い!」
「話を聞いてくれ!俺は巴竜人。こっちは道神朱雀、…今は白虎か。話すと長くなるんだが…」
「ちょっと待って竜人君、うん、これはもしかして…」
竜人の発言を遮って白虎は前にズイと出る。そして少女に対しこう尋ねた。
「君の言う人間っていうのはさ…所謂他人を指す代名詞的な意味での"人間"かい?それとも種族そのものを指すって意味かい?」
「はぁ?何言ってんだ、人間は人間だろうが!」
「ふむ、やっぱりか…」
白虎は一人納得した様子で頷き、そしてこう言う。
、、、、、、、、、
「君…中身は人間じゃないだろう?」
それを聞いて少女―――ライリーは狼狽えた。
「なんでそれを…そんな事どうだっていいだろ!」 、、、、、、、、、
「いやいやどうでもよくない。何故なら僕も…僕達もこう見えて中身は人間じゃないからね」
「達?」
「分かっちゃうんだよね、やっぱり似た者同士、これだ!っていうものを感じるというか」
白虎は続けて自分の中には三体の神獣が宿っており、自分もその神獣の一体である、という事を説明した。
ライリーはにわかには信じられぬ、といった様子であったが―
(確かにこいつの身体からは人間とは違った魔力…いやそれに近い別の力の波動を感じる。あながち嘘じゃないのか…?)
「次にこちらの巴竜人君は人智を超越した能力を持った改造人間なのさ…これが証拠!」
言うや否や、白虎は右の掌を"加速"の能力を用いて超高速で振動させ、竜人の胸元へと突き立てた。
が、竜人はその一撃を一瞬でガイアライナーへと変身を完了し腕を掴んで止めた。
「おい白虎!!」
「ごめんごめん、でも寸止めにするつもりではあったよ?それに止められるって信じてたからね」
事の一部始終を見届けたライリーはポカンと口を開けていた。
「人間が魔物に…変化した?」
「これで分かったろ、僕らが人間じゃないって、じゃあ次は君について教えてもらおうかな
「…なぁ、お前ら本当に人間じゃないのか?」
「君だって似たようなものだろ?見た目だけならどこからどう見たって人間だよ」
「そりゃあ、そうだが…」
渋々、といったていではあるが一応の納得はしたライリーは自分も殺し合いには乗ってはいない事、自分は女勇者と入れ替わったオークである事、アリシアとボーンマンという参加者を探している事を二人へと告げた。
「…俺は一応、まだ人間のつもりなんだけどな。それに何だか騙してるみたいじゃないか」
「しょうがないじゃないか、こうでもしないと彼女は…いや、彼なのかな?どっちでもいいや、とにかくあの子はまともに話してくれなかったよ?」
「まあ、それについては礼を言う」
「どういたしまして」
竜人は礼を述べながらも警戒心は緩めずにいた。そしてそれは白虎だけでなくライリーに対してでもある。
(あの少女の口ぶりの節々に強い憎悪の念を感じる…なにかとても恐ろしい物が潜んでいるかのような…)
一方で白虎はライリーからもたらされた情報を整理していた。
(オークってだけあって頭の出来はそこまで良くはなさそうだな。だが、入れ替わりか…興味深いね。もしかして上手く利用すればこの体質を…)
そして、警戒心持つのは二人だけではなく、ライリーもまたそうであった。
(こいつら…本当の本当に人間じゃない?それとも…)
それぞれの思惑を他所に、時刻は早朝6時―まもなく第一回放送を迎えようとしていた。
【F-1/町/1日目/朝】
【巴竜人@アースH】
[状態]:健康
[服装]:グレーのジャケット
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:殺し合いを破綻させ、主催者を倒す。
1:次の現場を探す。
2:自身の身体の異変をなんとかしたい。
3:クレアに出会った場合には―
4:青龍、白虎、ライリーに警戒
[備考]
※首輪の制限により、長時間変身すると体が制御不能になります。
【道神朱雀@アースG】
[状態]:健康、白虎の人格
[服装]:学生服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:殺し合いを止めさせる。
1:竜人とともに付近を捜索する。
2:他人格に警戒、特に青竜。
(青竜)
基本:自分以外を皆殺しにし、殺し合いに優勝する
(玄武)
基本:若者の行く末を見守る
(白虎)
基本:一応、殺し合いには乗らない。今は
1:多人格体質をなんとかしたい
2:入れ替わりか…
[備考]
※人格が入れ替わるタイミング、他能力については後続の書き手さんにお任せします。
【ライリー@アースF】
[状態]:健康
[服装]:勇者服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:アリシアとボーンマンを探し、護る
1:AKANEと聖十字教会を殺す
2:上記以外であれば自分から襲うつもりはないが、襲ってくるなら容赦しない
3:人間は仲間にしない。信用ならない
4:竜人と白虎は人間…?それとも…?
[備考]
※竜人と白虎を完全には信用していないため、上記以外の事は話していません。
|050.[[桜の意図]]|投下順で読む|051.[[次のSS]]|
|050.[[桜の意図]]|時系列順で読む|0XX.[[次のSS]]|
|043.[[ドミノ†(終点)]]|[[巴竜人]]|[[次の登場話]]|
|043.[[ドミノ†(終点)]]|[[道神朱雀]]|[[次の登場話]]|
|040.[[欝くしき人々のうた]]|[[ライリー]]|[[次の登場話]]|
2017-05-28T11:57:06+09:00
1495940226
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欝くしき人々のうた
https://w.atwiki.jp/origin2015/pages/251.html
夜。
少女が目を覚ましたのは薄暗い森の中であった。
ゆっくりと立ち上がると、妙に風が心地よかった。
足がおぼつかない。自分の体にしては、やけに重い。頭も痛い。
ぐらぐらと頭の中が揺さぶられているようだった。視界もどこかぼんやりとしている。
辺りを見回す。彼女の仲間たちが見当たらない。
心優しい賢者も。
勝気な剣士も。
知的な魔法使いも。
どこに行ってしまったのだろうか。はっきりとしない脳内の中で、思い出そうとする。
(…そうだ、確か、ライリーを、あの化物を討伐しようとしたら、突然光に包まれて…)
辺境の村からの依頼で、ライリーと名乗るオークを討伐に行った。
そこまでは覚えているのだが、それ以降がはっきりしない。
心配だ。だがまだ意識も、視界もぼんやりとしている。
南の方角を見ると、光が見えた。
町だ。
真っ赤なレンガでできた大きな時計台が、光に照らされていた。
(これは僥倖…!あの依頼してきた村だ。一度あそこでお世話になるとしよう…)
仲間たちが不安だが、まずは体勢を立て直し、そこから行動を始めなくてはならない。
それに仲間たちもあの村に戻っているかもしれないし、何があったか知っている住民もいるかもしれない。
一抹の希望を胸に、ゆっくりと歩き出す。
体が重い。やけに遠くの景色まで見えるが、なぜだろう。
だが、そういった疑問は後回しだ。ますは進むことが最優先だった。
一刻後。
彼女は村の入り口である大きな門の前に立っていた。
度々侵略されていたこの村を心配した賢者が作らせた門。建設の最中で村人たちとも交流を深め、とてもお世話になった。
補給線において問題が起きたり、この建設のためだったりと、長期で滞在することになったために、その交流は深く。
剣士は村人たちに自衛のためと剣術を教え、魔法使いはこの地の武器職人と結婚をすることになっていた。
村人たちは暖かく迎え入れ、送り出してくれたために、こんな無様な状態で帰ってくるのは申し訳なかったが、今はその恥を受け入れよう。
ぼんやりとした意識で、周囲を囲んだ城壁の中において唯一の門に取付けた「呼び出し鈴」を引いた。
魔法技術で、誰が来たかを映像として夜営をする者に伝えられるようになっている仕組みだ。これならば敵か味方かを、姿を見て確認できる。
魔法使いと共同して作り上げたものであった。
やがて、数分後、扉が開き始めた。
その目の前には、見慣れた村と、時計台、そして、見慣れた村人たちがいるはずだった。
「…自分から死にに来たか、化物が」
自分たちを息子、娘のように可愛がってくれた村長が、憎悪の目をこちらに向けて。
住民たちが賢者が作り上げた武器を持って。
魔法使いの恋人であった職人は、その魔法使いと共同で作り上げた魔術砲を向けて。
剣士の一番弟子であった若い少年は、剣をこちらに向けて。
そして、それ以外の住民たちも、各々なにか武器を持って。
こちらを向いていた。
やがて、門が完全に開くと、彼らは一斉に、勇者に罵詈雑言を飛ばした。
「どの面下げてここまで来たんだ!」
「死ね!貴様の顔など見たくない!」
「お前には血も涙もねーのか!!」
突然のその言葉に、村人たちの行動に、後ずさりをしてしまった。
自分が気絶していた時に何かあったのだろうか。自分が原因のきっかけになってしまったのだろうか。
それは違う、と少女は叫ぶことにした。彼女を英雄として送り出した村人たちに対して。
なぜ、矢を向けるのか。
なぜ、剣を、槍を向けるのか。
なぜ、殺意を向けるのか。
その意義を問うために。
「すまないみんな!私が気絶している間になに…が…」
その時発せられた声に、違和感を覚えた。
自分は、こんなしゃがれた、低い声だったか?
この声に、どこか聞き覚えがある。この薄汚いような、汚らわしい声。
いや、まさか。
まさか、そんなはずはない。ありえない。ありえるはずがない。
ゆっくりと、手を見る。緑色の大きな手。大きな爪。
人間ではなく、モンスターの手。
「…私は…勇者、勇者では…」
「何を言うか化物!貴様は勇者様御一行を残虐に殺したあの憎きオーク、ライリーだろう!」
「……え?」
頭を触る。母にも褒められた長い金髪はそこには無く、坊主頭の、いぼがある地肌。
顔を触る。ぎょろぎょろとした目。牙。
腕を触る。丸太のように太い腕。
まさか───入れ替わってしまった?あのライリーの杖から発した光の影響か。
いや、それはいい。入れ替わってしまっても、仲間たちに聞けば、きっと大丈夫なはずだ。
「賢者は!魔法使いは!剣士たちはどこだ!!」
「貴様の悪趣味さには反吐が出る!結婚を控えていた魔法使い様も、この村を改築してくれた賢者様も!子供たちに剣術を教えていた剣士様も!そして、我々のような卑しい身分の者でも優しく受け入れた勇者様も、皆、皆貴様が殺したのだろうが!!」
「………嘘だ…」
「嘘ではない!!貴様が殺したのだ!!この化物!!!」
膝から崩れ落ちるオーク姿の勇者。
それを見た村長はゆっくりと手を挙げ、やがてそれを振りおろした。
村長の合図とともに、人々が武器を構える。すべて、自分たちが教えたものだ。
あの鍬は、効率的になるように工夫がされたもの。
あの剣は、振り下ろすとともに爆発魔法によって相手を一撃で葬ることができるもの。
あの弓は、同時に三本発射できるもの。
すべて、自分たちが教えたもの。
「容赦はするな!四肢をバラバラにして、勇者様達の墓前に供えるのだ!!」
「よくも亡骸を俺の元に届けてきたな!貴様!俺の…魔法使いを返せっっっ!!」
「勇者様をどこにやった!!美しく優しい、勇者様を!」
「剣士のお兄ちゃんの仇だ!化物!くたばれ!」
「村を守ってくれた賢者様への弔いとなればいいんだがなっ!!」
(あ、ああ…、みんな、みんなしんだのか…みんな…)
迫りながら、恨み節を聞きながら。
勇者は思う。仲間たちを殺され、自分たちがもっともお世話になったこの村の人々に殺される。
夢半ばで、自分の職務を果たせない。それどころか、自分は結局誰一人とも救えていないではないか。
何が勇者だ。何が勇者だ。何が勇者だ。
何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ。
じぶんは、なんのためにうまれてきたのだろう。
ぱん、となにかがあたまのなかではじけた。
「あはは、あははははははははははははははははははははははははは、あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
「ついに狂ったか!関係ない、やれーっ!」
村民たちは、その手中の中の武器で、勇者たちがさずけた知識によって作られた武器を真っ赤に染めていく。
かれらが考えられる残忍な方法で、これまでの恨みを晴らすかのように。
夜は更けていく。絶望の淵に、意識を放り投げていく勇者の気持ちを置いていくように。
夜は更けていく。
-FIN-
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「ざまぁみろ勇者っ!お前は俺様の仲間を殺した!たくさん、たくさんだ!俺様の体が殺される姿を見るのは気持ちいいもんじゃねえが───しょーじきせいぜいしたぜ」
映画館の『上映室』と書かれた部屋でライリーは先ほどの『映画』を見終わって椅子にもたれかかりながら言葉を吐き捨てた。
まさかここであの女勇者のあの後の様子を見ることになるとは、とも考えていたが。やはり人間たちは残虐な生き物だ。
普通はまず相手の話を聞くというのに、すぐに殺害をしようとする。
実際、女勇者だけ魔法使いによってワープさせられた為に、疑問に感じてはいたが。よもやここまで惨殺されていたとは。しかし、ライリー一族一番の知恵者に遺体の処理を任せたが、送り届けるとはまさか誰も思いつかない。相変わらず自分は仲間に恵まれている。 ライリーは再確認した。
しかしよもや自分が殺される映像をこんな大画面で見るとは、どういった魔法を使っているのだろうか。記憶投射かと思ったが、周囲から魔力を感じることはない。
なんにせよ不思議に思うが、今は置いておくとして。
「…うん。やっぱり俺様の味方は『人間以外』だ。人間は信用できない。まあ俺様も優しいから雑魚は見逃してやるけどさ!」
人間というのは残忍な生き物だ。
相手話に耳を貸さず、ただ恨みだけで行動する。
行動方針を決めておらず、漠然と主催を殺そうとしたが、それだけではダメだ。
どうやら見る前に閲覧した候補者リストとやらにも、人間らしい名前の者がいた。
無駄な戦闘は避けたいが、基本的には人間と手を組むことはしないようにしたいものだ。
「よし。この『えいがかん』ってのももう用はねーな。さっさとアリシアやボーンマンと合流しねえと!」
ディパックを担いで、椅子から立ち上がり、出口へと歩みを進める。
映像には、異国の文字と思われる文字列がしたから上へ流れ始めている。
呪文か何かだろうか。となるとこの映像はやはり他国の技術か。
(…やっぱこういうことできるやつだからな。少なくとも俺様の知ってる国の人間じゃなさそーだな…待ってろよ!アリシア!ボーンマン!みんな!今俺様が助けてやる。)
ライリーは仲間思いだ。
それでこそ、味方には優しいが、敵には、人間たちには容赦はない。
だが、『恨み』で行動をするという点では、人間たちも彼も、同じなのかもしれないが。
【G-1/映画館/1日目/早朝】
【ライリー@アースF】
[状態]:健康
[服装]:勇者服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:アリシアとボーンマンを探し、護る
1:AKANEと聖十字教会を殺す
2:上記以外であれば自分から襲うつもりはないが、襲ってくるなら容赦しない
3:人間は仲間にしない。信用ならない
|039.[[憎しみと共起]]|投下順で読む|041.[[弱さ=強さ]]|
|037.[[それはそれとしてハンバーグが美味い]]|時系列順で読む|043.[[ドミノ†(始点)]]|
|023.[[日輪纏いしヒーローと二人の元いじめられっ子]]|[[ライリー]]|051.[[人でなし達の宴]]|
2017-05-28T11:54:59+09:00
1495940099
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ドミノ†(終点)
https://w.atwiki.jp/origin2015/pages/255.html
____////|はじまり|
大空蓮(アースR、生徒会長)は、遊びに全力な、頼りになる兄ちゃんという言葉が似合う少年である。
過去に親友がいじめられていたのを諌めた経験から、彼は自分をヒーローの役に置くことを決めていた。
荒事が起きれば自作の仮面とベルトを装着して現場に向かい、
虐げられている者を救い、虐げていたものに制裁を加える。
体力テストで全て最高点を取れる持ち前の運動神経と身体能力は、彼の学園の平和のために存分に使われていた。
だからこの殺し合いに呼ばれたとき、彼は主催者に尋常ならざる怒りを覚えたし、
その次に考えたことはといえば、親しいものや弱きものがこの場でいたぶられ、殺されるのを止めることだった。
支給品は三つ。
身を軽くする魔法のマント(アースH)、屋台のヒーロー仮面(いつも使ってるのと同じもの)、
まさかの仮面の本人支給に嬉しがりながらまず二つを装着すると、本当に自分がヒーローになった気分になった。
(よし、沢山の人を救おう。きっとツバキも応援してくれる)
かけがえのない親友である愛島ツバキのことを思いながら、
大空蓮は最後の一つの支給品である、黒い柄をした銀色の剣に手を伸ばした。
どんなわるいやつでもやっつけるつもりで。
主催者が用意した中でも有数のハズレ支給品かつ最悪の支給品であるそれを、握って、しまったのだ。
____////|おわり|
「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!!!」
――加速。
「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!!!!」
――加速。
「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!!!!!」
――加速、加速、加速、加速。
呪いを鍋で煮詰めたかのようなおぞましい叫び声と共に戦場の速度は上がり続けていた。
剣が振るわれる速度が、刃が鳴り火花を散らす速度が、
地面を足で蹴る速度が汗を流す速度が傷を負う速度が思考速度が限界を超えてなお上がり続けていた。
速度。
それは意思なき呪いのみで動く魔剣が、思考することができる人間に勝利するための知恵。
シンプルな浅知恵にして、効果的な戦略。
ラインハルトも渡月も、気づいたときには遅かった。
魔剣のがむしゃらで隙だらけの太刀筋も、人の思考速度を無視して振るい、
その隙を突く暇を与えずに重ねて重ねて重ね続けることでガードを破り、肉を裂き、骨を割る。
一撃の重さもかなりある。速度の乗ったそれは、いずれ命すら穿つ。
「やりますね……!」
「殺人鬼が防戦一方とは、面白い光景だな」
「尋問官さまにだけは言われたくありませんけど!」
「全く、君は早く死んでくれないかね!」
こうなってしまえば人間は、人間である以上後手に回らざるを得ない。
幸運は接近戦に長けた者がこの場に二人おり、相手の手数を事実上半分ずつ引き受けられることだろうか。
早々に鰺坂ひとみを失ったラクシュミーもこの二人に劣らぬ剣術の心得はあったが、
ラクシュミーが五分と持たなかったのに対し、
ラインハルトと渡月がある程度魔剣の攻撃を捌けているのは、つまりは単純な手数の違いだった。
そしてそんな数の不利をあざ笑うかのように魔剣の速度はさらに上がっていく。
「あ、あんなの……宿主の身体が持たなくなるんじゃ……」
後方から時折闇属性の攻撃でサポートするジェナスがおどつきながら懸念するもその懸念はハズレだ。
ある程度の動体視力があれば見えることだが、
大空蓮に絡みつく魔剣の枝触手は、戦闘開始から今までその数と面積を増やし続けている。
生体魔剣セルクは宿主の戦闘欲や加虐欲に働きかけ、
それを増大させると共に、より自らとのシンクロ率を高める“浸蝕”も同時に行っている。
じきに人から魔剣へと、彼の身体の構成物は置き換わってしまうのだ。
そうなればもう最悪、魔剣は魔剣のまま人の身体を手に入れ、魔王へと昇華される。
さらにひどいことに、本来ならば年端のいかぬ少女でも抑えられるはずのその呪いじみた浸蝕力は、
主催側に居る老齢にして醜悪な錬金術師の魔術により、ブーストされてしまっている。
「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!」
泣き声にも似た叫び声は、浸蝕の痛みによってあえぐ大空蓮自身の声なのかもしれなかった。
“大空蓮”は消滅し、その身体が魔王セルクへと変貌するまでどれほどなのか。
少なくとももう、腕を通り越して肩まで、黒の枝は到達しようとしている。
一秒に六回繰り出される剣戟を捌きながら、ラインハルトがため息を吐くのも致し方ないことだった。
「……協力など、何十年ぶりか」
「?」
「後ろの黒の小娘。落ちながら己は見ていたぞ。お前は、瞬間移動じみた技を使えるだろう」
「え……は、はい……」
「今から口頭で作戦を伝える。全て覚えてその通りに動け。敵を無力化する」
「……は、はいっ」
「それと舌悪な殺人鬼」
「丁寧語を使っているのに舌悪って言われたのは初めてですよおじさま」
渡月は頬を膨らませる。
その仕草には年頃の少女のような可愛げがあったが、ラインハルトは無視して続けた。
「今から、己は最も得意とする剣術スタイルに戦闘方式を変える。
ゆえに〆はお前が担当しろ。お前は人間のクズどころの騒ぎではない汚物存在だが、その剣の腕だけは本物だ」
「その言い方で人が素直に言うことを聞くと思っているなら、なかなかあなたもクレイジーですね」
「せいぜい良い働きを見せろ」
「無視は悲しいですよ」
ラインハルトは構えを変えた。
腰を低く落とし、足を前後に開く。剣は地面に平衡に、突きの構えを取る。
金毛の尋問官が最も愛している剣術は――フェンシングだ。
「――Prêts?(準備はいいか?)」
作戦の説明は手短に済ませ、
ラインハルトはドイツ人らしからぬ流暢な仏語にて開始の合図を化け物に問うた。
化け物は意味のない叫びで返すのみだった。
ラインハルトは思う。
人間は無価値な憎むべき生き物だが……思考することすらできぬ化け物は、ただただ哀れだと。
ただただ、哀れでしかないと。そう思った。
「Allez!(始めるぞ!)」
合図と共に動く。
まず剣崎渡月が一旦魔剣から離れ、側部へ、そして後方へと移動を試みる。
魔剣は剣であるがゆえに、視覚情報などを人間部分に頼っている可能性があった。
挟み撃ちを強いることで人間部分の対応力を越えることができれば、さらなる隙へと繋げることが可能かもしれない。
「◆◆◆◆!!」
「お前の相手は、己だ」
魔剣は追って渡月へと斬りかかろうとしたが――そこへラインハルト。
空気を切り裂く鞭のような音。
踏み込むと同時に飛び離れるような高速の剣さばき、突きと返しの閃き、フェンシング。
ラインハルトはフェンシング仕込みの鋭い突きでヒット・アンド・アウェイを繰り返す。
ヒット時は極限まで迫っているのに、離れればそれはもう生体魔剣の間合いの外。おそるべき脚力だ。
つまり手数が何だ、当たらなければどうということはない、ということである。
牽制のフェンシングで与えられる傷はかすり傷にすぎないが、じわじわと削る上に、
いざとなれば心臓を突くことも可能なフランベルジュという武器選択。無視はできないいやらしい攻撃。
そしてラインハルトのほうにばかり気を取られれば、後ろに回った渡月の格好の的……。
「――――◆◆◆◆◆、◆◆◆◆◆……!」
魔剣は自分の今までのやり方に“対策”されたことを感じ取ったらしい。
動揺した……というよりは、ルーチンを組み直しているかのような、若干の挙動硬直がみられた。
シークエンス・プログラムされた機械のように、無感情にこちらの対応に対応を返そうとしている。
そしてこの隙はおそらく、剣で踏み込むべきではない。
機械的であるがゆえに人間の対応力よりはるかに早い切り替えの後に首を跳ね飛ばされるのがオチだ。
しかし銃弾ならば一手早い。
「やれ!」
「……当ったれぇえええええええええええッ!!!!!」
ビルの屋上から黒き小さな魔女の、喉全開の叫びが轟く。
彼女の魔法、3mのショートワープは横方向よりもむしろ縦方向でその真価を発揮する。
ラインハルトが近畿純一を殺し切るくらいの時間がかかってしまうはずのビル屋上への移動を圧倒的速度で成し遂げ、
ジェナス=イヴァリンはアースFにはあまりない狙撃手の忘れ形見を、即興の知識で仲間の仇へと撃ち放った。
彼女には実際、ラインハルトと渡月に割り込まれ命を拾った瞬間に逃げるという選択肢もあった、
でも引きこもりの彼女と少しの時間だったけれど一緒に過ごしてくれた仲間二人の仇を、取りたいというエゴくらいは持っていた。
瞬間的な思考硬直の隙を突いた完全な一撃。
銃弾は反射神経などでは避けられぬ速度で、魔剣の化け物へと迫る!
「◆◆◆、◆!!!」
魔剣は辛うじて、大剣の剣身を盾とし、その銃弾を弾くことに成功した。
それが詰めへの最終手順になっていると気付いていながらも、そうせざるを得ない。
完全に無防備になった背面へと迫るは日本刀、殺人鬼、剣崎渡月。
女学生は慣れた手付きで大空蓮の身体を切断しにかかった――その右腕を!!
「――――――◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆!!!!!」
「ああ……久しぶりの、感触です♪」
赤い靴を踊らされ続けた少女がその足を斬られてしまったように。
銀の剣で斬らされ続けた少年はその腕を斬られることで、正気に戻すことができる。
黒の右腕が宙を舞う。
魔剣と魔剣に浸蝕されていた腕はしばらくはびたびたと跳ねていたが、
エネルギー不足か、すぐに動かなくなった。
「これで終わり、ですね」
腕だけを斬るこの作戦に違和感を感じる人もいるかもしれない。
人間嫌いのラインハルトが、人間を魔剣から助けたという形になったこの結末――。
ただ感情論で言えばこれは慈悲にもなるが、実際はラインハルトの冷酷な判断によるものだ。
おそらくここで、完全な無防備の形からなら渡月には少年の殺害も可能だった。
それをしなかったのは、寄生されている以上宿主が死んでも動く可能性を考慮する必要があったからだ。
確実な“無力化”ならば必然的に腕を跳ね飛ばすのが一番合理的という結論になる。
それだけの、ことである。
「あ……」
だからラインハルトは、正気を取り戻して、
ヒーローの仮面を取り落した少年の、嬉しそうで、でもいまにも泣き出しそうな表情を見ても何も思わない。
何も感じない。
ただただ、職務をまっとうするためにフランベルジュを持って歩み寄るのみ。
ジェナスの様子を見ていれば分かる、魔剣に寄生されていたとはいえ、少年は殺人を犯した。
ラインハルト・ハイドリヒの倫理では――人を殺した者は、殺されなければならない。
「ありが、とう……ござい、ます……」
「感謝を述べるな、反吐が出る」
その感謝が嘘ではないことが分かってしまうラインハルトにとって、
少年の胸に突き立てようと振りかざすフランベルジュは、珍しく重みを感じるものだった。
「そうそう、ありがとうだなんて言わない方がいいですよ」
だからだろう。
ラインハルトは、少し遅れてしまった。
少年を一撃で逝かせる攻撃を執行したのは、ラインハルトではなく剣崎渡月であった。
少年の首が、跳んだ。
「だって私もそこの人も、“ヒーロー”なんかじゃない。自分のエゴを貫いただけですから」
ねぇ、そうでしょう、おじさま?
変わりない笑顔を向ける剣崎渡月は、大空蓮の首を刎ねたというのに顔色一つ変えていない。
驚くべきことかどうなのか、彼女は三日月宗近はもう持っていない。
剣崎渡月がその手に携えている業物は、先ほど自らが斬り飛ばした、生体魔剣セルクへと変わっていた。
生体魔剣は、殺人鬼の手に。
「え……あ、あの……何を、して……?」
「……やはりな」
スナイプの役割を果たしてラインハルトたちの元へと帰還したジェナスが口をあんぐりと空けて固まる。
一方でラインハルトは、この状況を予見していたようで、目を細めつつため息。
「最初からその魔剣狙いだったんだろう、殺人鬼。
先ほどまで殺し合っていた己に協力を持ちかけたのも、そこの小娘に優しく話しかけたのすら。
お前自身がその剣を手にし、己を殺すための布石。――知っていたのか? その剣のことを」
「ええ。私はこう見えても、大衆向け・マニア向けを気にしない乱読家ですので。
『ハイルドラン・クエスト』、けっこう面白いんですよ。地獄に売ってるかは分かりませんが、見かけたら読んでみてください。
ちなみに私の推しは城門飛ばしのアステル・ウォランス青年です、イケメンなんですよ彼」
「う、嘘……さ、さっきまで、仲間だったじゃ……」
「黒の小娘。邪魔だ、失せろ」
ラインハルトがうろたえるジェナスに厳しく言葉を刺した。
「結局、当初のこの殺人鬼との殺し合いが再開するだけの話だ。
所詮人間など、このような下賤な生き物であると……それだけの、話だ。
巻き込まれて死にたくはないだろう。自慢の逃げ技(ワープ)で逃げろ、この女もそのくらいは待つ」
「あは、信頼して頂けているみたいで」
「お前は一方的より拮抗した殺し合いを望むのだろう。見抜くまでもない」
「分かって頂けてるみたいで嬉しいです♪」
「……あ……え……」
「いいから、行け」
ふらふらとラインハルトの近くまで歩み寄って来ていたジェナスは、
そこでラインハルトの皮靴により、蹴り飛ばされる。
「任務ご苦労だった――――お前はもう必要ない」
「あ……う……うわあああああああん!!」
走り、ワープし、ジェナスはその場から去る。
改めてその場には、血に濡れた空気と二人の殺人者だけが残った。
「さて、空気が戻ったな」
「どうして私が正気を保っているか聞かないんですか?」
「大方、その剣の殺戮衝動と同調できる者なら意識を奪われないといった所だろう。聞くまでもない」
「あ、正解です。じゃあ始めましょう」
と、唐突に。
雑談を途中で切って、二人の刃が交わる音が再開する。
かと思いきや、ラインハルト・ハイドリヒと剣崎渡月は交戦しながら雑談を始めた。
達人レベルの剣の嵐の中で、言葉と言葉もまた交錯する。
「あは、楽しいですね、おじさま!」
「そうか」
「おじさまが楽しくなさそうなのが少し残念ですけどね。どうしてそんなしかめ面なんですかね?
人生、もっと楽しんだほうが得だと思うのですが、何に悩んでいるんですか?」
「そうだな、何だろうな」
「はぐらかさないでくださいよ、斬りますよ?」
「斬れるものならやってみろ」
「そう簡単にはいきませんね。まだまだ私は人間ですので」
剣崎渡月は魔剣の浸蝕を抑えることに成功している。
剣の寄生を拒むと言うことは人間の反応速度に収まるということで、
生体魔剣セルクというチート武器を手にした剣崎渡月ではあるが、危険度も練度もそう上昇したわけではなかった。
ではなぜ彼女が魔剣入手にこだわっていたかというと、これは単純に、エゴである。
「いい挑発ですね、乗りたくなってしまいます。でも本当、生きたいように生きればいいと思いますよ?
私なんてほら、ちょっとこの剣で人を斬ったら楽しそうだなー、
って思いつきだけでさっきの流れまで演じたんですし? いや本当に、美しい剣ですよね」
「……生きたいように生きる、か」
「あは、大人だからできないとかですか?」
「そうじゃない。そういう部分では悩んでさえいない」
ラインハルトの袈裟切りが首をこてりと傾けてカワイイポーズをとっていた渡月の服をかすめる。
服二枚を貫通して柔肌に赤い線。
意に介さず、渡月は魔剣を振るい、ラインハルトの胸先から憲章のようなバッジを弾き飛ばす。
雑談をしながらもその剣舞はメリーゴーランドではなくジェットコースターだった。
「己は」
ラインハルトがフェイントを交えた剣を繰り出しながら叫ぶ。
「己もまた、自らが憎む人間であり、殺人者であることに自己矛盾を抱えているだけにすぎない」
それは普段から冷酷無比鉄面皮の尋問官からは想像できない、感情の吐露だ。
「人間を無価値だとしか思えない己こそが無価値な人間なのではないのか?」
斬りかかる。
「本当に尋問され、死に至らしめられるべきは己ではないのか?」
斬りかかる。
「人の嘘が、心が分かってしまうようになってから、
醜さを把握できるようになってから、ずっとそう思っていたのだ」
斬りかかり、受けられる。
渡月の反応速が上がった。
生体魔剣セルクと殺人鬼との協力的な調和が、徐々に深まりつつある。
「お前は思わぬのか。自分の信念が抱える脆弱性を。
例えばそうだな、誰すらも越えて一番になりたいという話だったが、
自分より優れている部分がある者を越えぬうちに殺してしまったらどうなる。
越えていないのに殺してしまったら、もうその部分は越えられないのではないのかね」
「それは――」
問いかけは、相手と魔剣の調和を崩す意味でも放った言葉。
しかし返ってきたのは、ラインハルトのフランベルジュにひびが入る音だった。
セキュリティホールの穴を付くかのような、
動揺していてはとても不可能な、精密な攻撃。
手が痺れる。辛うじて取り落さずに持ち続ける。渡月はあっけらかんと言う。
「それはもちろん。死んだ方が悪いんですよ♪
私に殺された人は、どんなスキルとかどんな強さとか、
どんなカリスマとかどんな優しさとかどんな複雑な立場とかを持ってても、殺された時点で私より下で、決定なんです。
私に殺されてしまう時点で、私より劣っているんですよ、その人は」
剣崎渡月は、止まらない。
ラインハルトのいかなる言葉でも、彼女を揺らがせることはできない。
ラインハルトが嘘を見抜けてしまうがゆえに。
この少女は一点の曇りも負い目もないただの殺人鬼であるということがラインハルトには分かってしまう。
悩むことを忘れた殺人鬼。
ある意味ではそれは、ラインハルトにはまぶしく思えた。
「おじさまは、私に殺されたいんですよね?」
渡月もまた、ラインハルトの深くまで斬り込む。
「おじさまがその長い人生で終ぞ会えていなかった、
“人間なんて無価値である”と認めた上で好きなように生きている私が、
枯れかけのおじさんからすると少し羨ましいとかそんな感じですかね?」
「……何を」
「じゃなきゃ、不利になると分かっていながら私にやすやすと魔剣を渡さないのではないですか?
あは、……人間に絶望しながら人間として生きるのは、さぞお辛いでしょう。
安心してください、私の腕なら一瞬ですよ。抵抗せずに首でも差し出してくれれば、一瞬です」
さあ!
踏み込み、ヒビをさらに深めるように打ちあった渡月は、すべてを見透かしたかのような笑顔を見せた。
だがラインハルトは冷酷な無表情のままだった。
無感動の、ままだった。
「……生憎むざむざと死ぬつもりはないし、死にたいなどと言うのもお前の誤解だ」
「強がり?」
「強がりではない。己は本当に、強いからな」
理解、協調、速度の上昇――魔剣とのシンクロが深まるほどに精緻さと手数を増す剣崎渡月の斬撃は、
しかしラインハルトを決定的に傷つけることができない。
魔剣に操られるのではなく、渡月が操っているが故の弱体化?
それもあるが、先ほどの戦闘とは違い一対一だし、ラインハルトは事実上二倍の手数を捌かなければならないのに。
上がるギアに、上げるピッチに、ラインハルトはついてくる。
冷や汗かかずについてくる。
「……あは?」
剣崎渡月もさすがに口の端を釣り上げて苦笑だ。
馴れて、きている。
機械めいたシークエンスに人間が勝利する方法のもう一つ。それは学習。
慣れること。慣れてしまうこと。ラインハルト・ハイドリヒは、魔剣の速度に、慣れてきていた。
それだけではない。剣崎渡月の剣のクセも、すでにラインハルトの頭の中だ。
「残念だが殺人鬼……お前は己とダンスを踊りすぎた」
「……嘘ですよね? わ、私を泳がせたのが……単純にあとからでも、私に対応できるからだなんて……!」
「嘘かどうか、見抜ける目を持っていれば分かったろうにな」
斬りかかる。
その一撃で完全にガードを外し、
不可避の二の太刀を袈裟に叩き込む。
それはあまりにも綺麗な流れで。思わず渡月も、笑ってしまった。
「お前の論理に則れば。お前を殺す己は、お前より永遠に上と言うことだが、気分はどうだ」
「あは……あはははは……っ♪」
「悩むことのない、眩しいほどに阿呆な太刀だった。本能のみでお気楽に生きるのはさぞ楽だったろうが。
己が唾棄する“人”からすら外れてしまったお前は獣――ただ哀れみの対象でしかなかったよ、最初からな」
「あははっ、う、ううううふふふあはは……!」
涎を垂らしながら命の危機に興奮する渡月は、結局は狂ったシリアルキラーだった。
「ラインハルト・ハイドリヒ。――地獄でこの名を復唱し続けろ、殺人鬼」
「あは……あはははは……た、楽しかったです……!!」
フランベルジュが致命的に肉を裂く。
飛散する鮮血。
ぐるんと白目を向いた女学生が、その意識をこの世から手放した。
死んだ。
同時にフランベルジュは折れて役割を失った。
生体魔剣セルクが、死体を動かしてでも挑んでくるか、ラインハルトは残心しておいたが……それもなかった。
この魔剣はあくまで持ち手の生の感情に付け込んで悪魔にする剣のようだった。
誰かに使われないように自分で持とうかとも考えたが、やめた。
懐から支給品のマッチを取り出す。火をつけ、渡月に放り投げた。
助燃物はなかったが、どうもこのマッチはよく燃えるらしく、すぐに一人と一振りは炎に包まれた。
そう、魔剣ごと燃やして消してしまうのが、ここでは最もマシな解決策だろう。
燃え盛る殺人鬼に背を向けて、
尋問官はもう一本マッチを取り出すと、胸ポケットに入れておいた煙草に火を点けた。
「まだまだ」
紫煙くゆらせながら、目的なき断罪官は歩む。
「まだまだ――まだまだだ……己の死に場所は、ここじゃない……」
そしてアサルトライフルの乾いた発砲音が響き、人間嫌いの断罪官のこめかみを貫いた。
_______/|エピローグ|
「みんな、死んじゃった。ヒーローマスクの変な人も、殺人鬼のお姉さんも、金髪のおじさんも」
街は燃えていた。
ヒーローと神様がその街にたどり着いた時には、その区画は燃えていた。
ビル十棟ほどが並ぶ大通り、いったい何がどうなってここまで延焼したのか、
まるで殺戮が起きた場所の全てを覆い隠して炎上するかのように、そこにはもう誰も入れない。
救いの手さえオコトワリだ。
「おじさんは、わたしが……必要と、してくれなかったから、殺しちゃった」
炎のすぐそばで壊れたように笑っていた黒の少女を、
その場から引き離そうと駆け寄った巴竜人は、淡々とした少女の独白を聞く。
殺してしまったと言う。
汚れてしまったと言う。
その声は後悔に血塗られて、確かに濁っていた。
だが波長を解析すれば、もともとは小さくも澄んだ声だったと言うのが、竜人にはありありと分かった。
「助けてくれた人なのに……突き放されたのが、辛すぎて……へへ、えへへへ、や、やっちゃった」
「お、おい待て! 落ち着け! 待て!」
「もういいの」
ジェナス=イヴァリンは歩き出す。
竜人はそれを助けたい。
「わたしを助けないで、ヒーローさん」
炎に向かって、歩き出す。
竜人はそれを、止めたかった。
「わたし、もう……汚れちゃったから。生きてるの、つらいから。
多分わたしなんかより……ずっとあなたに助けてもらいたいって思ってる人が、いると思うから」
「待てよ馬鹿野郎! 早まるな!
汚れた? そんなもん洗えばいいんだ!
どれだけ汚れようが、人間はやりなおせるんだよ! 俺はなあ……俺だって!!」
「……馬鹿だって……わたしも、思うけど。
助けられといて、こんなのって、怒られると、思うけどさ……もう、無理だ……」
道神の玄武が見守る中で。
黒の少女を、巴竜人は無理にでも引き戻そうと、
即座にスピードに優れたガイアライナーに変形し、その機動力で追いすがる。
服の裾を、掴もうとした。
でもそれは、叶わなかった。
ジェナス=イヴァリンはショートワープを使い、巴竜人から3m遠ざかった。
「ごめんなさい」
「……」
「ありがとう、ヒーローさん。――さようなら」
力なく笑って、殺人者は炎の中へと消えた。
一度倒れてしまったドミノは全て倒れ終えるまで止まらない。
強く固く、死ぬと決めてしまった少女を、
ヒーローが救うことは、できない。
「……ちくしょう……」
ここには大きい水源もない。
いずれ鎮火はするだろうが、アクアガイナーで消火をするには火の手は強すぎた。
燃える町を悔しそうに見つめ、竜人は地面に拳を殴りつけようとする。
「ちく、しょ……う!?」
しかし玄武が重力を操って、竜人の拳をふわりと浮かした。
「ダメやで、それは」
驚いて振り返る。物悲しそうな顔で玄武は竜人を見て、首を振った。
辛い感情を地面に叩き付けるのはダメだ。それでは、逃げになってしまう。
ヒーローは。ヒーローだからこそ。
救えなかった者の思いも全て、背負わなければならない。
……巴竜人は三回深呼吸をして、立ち上がった。
「玄武さん」
「……なんだい、少年」
「俺たちがもっと早く着いていれば――誰か一人くらいは、救えたんじゃないか?
間違えていたかもしれない“ヒーロー”も、間違えてしまった今の女の子も、病院で死んでしまったやつらも。
こんなあっけなく死ぬべきやつらじゃなかっただろ。もっと、生きて、よかったはずだろ」
「……そうやもしれんね」
「過ぎたことをとやかく言うつもりはないし……俺たちの行動に問題があったとも思えない。
ただただ、タイミングだけが遅すぎて。それで死んでしまう。それで、最悪な方向に、転んでしまう。
こういうことが、今までにも無かった訳じゃないけど……そのたびに思うんだ」
「……」
「こんな機械の身体になっても、俺たちは無力なときは無力だって」
どれだけ個の力があろうと。
幾度の改造を受け、あるいは幾柱もの神がその中に入っていようと。
彼らは、ヒーローは、救えるものしか救えない。
救えない者は救えない。
「巴やん」
「でも俺は……僕はさ……死ぬのが救いになるだなんて、
“自分を無くす”のが救いだなんて、信じたくないんだ。こんな身体だからかもしれないけれど。
もちろん、誰もが強くはあれないし、逃げたい気持ちも分かるし、悩んだことだってある。
巴竜人の“ヒーロー”は悪への反抗でしかなくて、正義なんかじゃないのかも、とか、色々さ」
「……」
「でも……悩んだからって、立ち止まっちゃ、いけねえんだよな」
それでも巴竜人はヒーローで在り続ける。
危うく消えてしまう所だった自分と言う存在の意味を、証明し続けるため。
あるいは自分を救ってくれた、最高のヒーローの存在を、肯定し続けるために。
悪の改造を施された身体を、正義のために使い続ける。
「次の現場を探そう。……俺たちが。俺たちで、救える命を探そう」
涙を流す機能は、機械の身体にはついていなかったけれど。
巴竜人は手で眼を拭って歩き出した。
どれだけの命をその手から取りこぼしてしまおうとも、
どれだけその身の内に、危険を抱えていようとも。
ヒーローは、止まらない。
ヒーローは、続かなければならない。
ヒーローという名のドミノ倒しは、永遠に倒れ終わっては、いけないのだ。
&color(red){【鰺坂ひとみ@アースMG 死亡確認】}
&color(red){【プロデュース仮面@アースC 死亡確認】}
&color(red){【近畿純一@アースM 死亡確認】}
&color(red){【ラクシュミー・バーイー@アースE 死亡確認】}
&color(red){【大空蓮@アースR 死亡確認】 }
&color(red){【剣崎渡月@アースR 死亡確認】}
&color(red){【ラインハルト・ハイドリヒ@アースA 死亡確認】}
&color(red){【ジェナス=イヴァリン@アースF 死亡確認】}
________|end|
【F-1/ビル街/1日目/早朝】
【巴竜人@アースH】
[状態]:健康
[服装]:グレーのジャケット
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:殺し合いを破綻させ、主催者を倒す。
1:次の現場を探す。
2:自身の身体の異変をなんとかしたい。
3:クレアに出会った場合には―
[備考]
※首輪の制限により、長時間変身すると体が制御不能になります。
【道神朱雀@アースG】
[状態]:健康、玄武の人格
[服装]:学生服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:殺し合いを止めさせる。
1:竜人とともに付近を捜索する。
2:他人格に警戒、特に青竜。
(青竜)
基本:自分以外を皆殺しにし、殺し合いに優勝する
(玄武)
基本:若者の行く末を見守る
[備考]
※人格が入れ替わるタイミング、他能力については後続の書き手さんにお任せします。
※F-1の大通り付近のビル街で火事が発生しました。
辺りの死体や支給品などを焼きつくし、放送後には鎮火します。
※でも魔剣は消えないかもしれません。
【生体魔剣セルク@アースF】
参加者候補の一人リロゥ・ツツガに寄生している魔剣。製作にはヘイス・アーゴイルも関わった。
悪魔との戦争で瀕死で落ち延びた魔王の息子、セルクの無念と憎しみと怒りを込めた魂が宿っている。
正しい者が持てばその中に潜む闘争心を引き出して乗っ取り、暴れさせる。
正しくない者、特に戦闘する意思がある者と利害が一致した場合は、乗っ取らずに持ち手にある程度は任せる。
ロワに持ってこられるにあたりサン・ジェルミ伯爵の手によって強化されている。戦闘スタイルは単純で、手数で押し切るタイプ。
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|043.[[ドミノ†(始点)]]|投下順で読む|044.[[438年ぶり2回目]]|
|043.[[ドミノ†(始点)]]|時系列順で読む|044.[[438年ぶり2回目]]|
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|043.[[ドミノ†(始点)]]|[[巴竜人]]|051.[[人でなし達の宴]]|
2017-05-28T11:51:58+09:00
1495939918
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書き手紹介
https://w.atwiki.jp/origin2015/pages/214.html
&bold(){書き手一覧(敬称略)}
|投下SS数|名前(敬称略)|旧トリップ|代表的登場人物|作品リスト|
|14|[[◆5Nom8feq1g]]|||[[000>イントロダクション]]、[[005>死線上のアリア]]、[[014>谷山京子の差異難]]、[[019>彼らは幾ら叫べども、灰色世界に抗えない]]、[[024>安土シンデレラ城現る]]、[[027>その信愛は盲目]]、[[029>星に届け]]、[[031>彼女は貫く胸の華]]、[[033>泣け]]、[[035>ダブルクロス]]、[[037>それはそれとしてハンバーグが美味い]]、[[039>憎しみと共起]]、[[043>ドミノ†(始点)]]、[[046>D-MODE]]|
|10|[[◆aKPs1fzI9A]]|||[[001>そして世界が生まれゆく]]、[[007>私は貝になれない]]、[[017>my world is not yours]]、[[026>現実という名の怪物と戦う者たち]]、[[028>くろださん@うごかない]]、[[034>旅客列車でGO!会場の電車は日本式]]、[[036>やつがれ、ヤクザの武器になります。]]、[[038>もんだいとこたえ]]、[[040>欝くしき人々のうた]]、[[047>CORE PRIDE]]|
|7|[[◆laf9FMw4wE]]|||[[002>我魂為麺]]、[[003>信長様の為に]]、[[008>スマイル全開で明日を目指そうよ]]、[[010>私が戦士になった理由]]、[[015>灰色の楽園を壊したくて]]、[[023>日輪纏いしヒーローと二人の元いじめられっ子]]、[[042>偏愛の輪舞曲]]|
|5|[[◆/MTtOoYAfo]]|||[[004>柳生有情剣]]、[[013>瞳に炎を宿せ]]、[[018>天才と馬鹿はうんちゃらかんちゃら。]]、[[030>楽しさと狂気と]]、[[041>弱さ=強さ]]|
|3|[[◆F3DFf2vBkU]]|||[[048>悪魔の中身]]、[[049>みつどもえ]]、[[050>桜の意図]]|
|2|[[◆pNmyKGcnVU]]|||[[006>秘密を持つ二人]]、[[016>ティアマトの逆襲、または如何にして私は淫乱ピンクと怪盗と共に怪獣を追っかけることになったか]]|
||[[◆8I7heVl7bs]]|||[[011>殺人鬼×少女×少女]]、[[020>裏切り同盟]]|
||[[◆nQH5zEbNKA]]|||[[012>探偵は警察署にいる]]、[[021>現実の壁は破れない]]|
||[[◆hRdS/lFjKw]]|||[[025>変身VS変心]]、[[032>こんどの敵は、デカスゴだ。]]|
|1|[[◆r.0t.MH/uw]]|||[[009>鏡面の憎悪]]|
||[[◆8w1Dkva65Y]]|||[[022>世界の座標軸からみえるのは]]|
||[[◆9KJ.d2Jgbs]]|||[[045>似たもの同士が相性がいいとは限らない]]|
||[[◆7yHhbHvsLY]]|||[[044>438年ぶり2回目]]|
2017-05-24T17:44:19+09:00
1495615459
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ドミノ†(始点)
https://w.atwiki.jp/origin2015/pages/254.html
人は、とても簡単に死ぬ。
今これを読んでいるあなたの隣でも、毎秒数人の命が失われている。
おとぎ話。絵本。アニメ。漫画。小説。ドラマ。特撮。架空戦記。
誰かがどこかで描いたその空想がもし、他の世界での真実なのだとすれば、
あなたが絶対に知ることのできない場所で生きている沢山の命もまた、一秒でいくらでも死んでいる。
ひとつの世界でN人死んだら、億個の世界ではN億人死ぬ。
広げれば、広げれば、広げれば。一秒ごとに世界単位で命は死んでいるともいえるだろう。
これから描かれるのは、そんな世界を因り合わせて作られた世界での、死のおはなし。
ドミノ倒しみたいに、あっけなく死んでしまう人間たちの物語だ。
////////|病院|
「ただいまー」
「おかえりなさいです」
「おかえり……ど、どうだった?」
「あー、緊急救護室が荒らされてた。やっぱりさっきのは人だったんだねェ。
相当焦ってたんだろう、銃で扉を無理やり壊すなんてサ。救急箱も無くなってたし、こりゃあ大ごとだ」
「でしたら……」
「ここも安全じゃないかもねェ」
救急箱だけ取って逃げるなんて、追われてなきゃやらない動作だしねェ――と。
見回りをしてきた鰺坂ひとみ(アースMG、元魔法少女のOL)は、コールセンターの入口扉を閉めて同行者に状況を伝えた。
同行者、ラクシュミー・バーイー(アースE、インド料理店経営)と
ジェナス=イヴァリン(アースF、魔女見習い)は、伝えられた情報にごくりと唾を呑む。
起きている。
自分たちがのんびりしている間にも、殺し合いが起きていると、改めて知る。
「……隠れているのも、限界……?」
彼女たちが……いや、この“世界”に連れ去られてきた全ての参加者が、
イヤホンの説明によってバトルロワイアルを始めさせられてから、四時間が経とうとしていた。
そんな中でこの三人の女たちは、幸運なほうだったと言えるだろう。
表だって戦闘する気のない者たちで集まることも、協力関係を組むことも出来ていたし、
なによりここまで暴威にも脅威にも狂気にも晒されることがなかったのだから。
「ん。そゆことサ。ラクシュミーちゃんのナンカレーを食べるのももう限界だ。移動すんのが得策さね」
「悲しいです……」
「また安全なとこに移動できたら頼むよ。おいしかったし」
ナースコールセンター控室の机の上にはカレー皿とナンの切れ端が置かれている。
ラクシュミー・バーイーがありあわせで作ったもので、これを囲みながら和んだ時間もあった。
辛すぎて火を噴く鰺坂ひとみ、もう無理辛すぎると泣き喚くジェナス、
だんだんクセになってきた鰺坂ひとみ、無理無理言いながらも手が止まらないジェナス、
にっこり笑いながらそれを見るラクシュミーなどの光景が、確かに一時間前くらいまでは存在していた。
だがそれももう終わりだ。病院だからといって安全とは限らない。
いま鰺坂ひとみは一人で病院内を見回ってきたが、一人で広い施設を見回るなど気休めでしかない。
最初のほうに見回った場所に、最後のほうになって偶然殺人者がやって来ていたとしても、
それを検知できないということなのだから――悪ければすぐ、悪いことは起こりうる。
例えばナースコールセンターのドアが、突然がちゃりと音を立てたりもする。
「!」
「……!」
「ゼビー」『はいな』
扉外にはあからさまな人の気配。
三人は構える。
「はー……魔法少女なんてもうやだったんだけどねェ」
元魔法少女の現OLでありながら、未だ蝿型マスコット・ベルゼビューアとの契約を切っていなかった
鰺坂ひとみは、襟裏に隠していた彼に声を掛け、さび付いた魔法変身回路に魔力を流す。
「でもその衣装はカワイイと思いますです、ひとみさん」
転生したインドのジャンヌダルク、ラクシュミー・バーイーは、
生前に培って今でもキッチンで振るっている包丁(剣)の腕を存分に発揮する蝶の型を取る。
「わ、わたしも……」
病院のトイレに引きこもっていたところを発見されたほどのヒッキー魔女、ジェナスもまた、
コミュ症の自分を安心させてくれた二人を守るために脳内で呪文を詠唱し始めた。
「嬉しいこと言ってくれるじゃん。……と、来るよ」
そして扉がゆっくりと開かれる。
黒い影、比較的大柄、おそらく男――持っているのは剣?
一番最初にその陰を認めのは扉の一番近くにいた鰺坂ひとみだった。
十二年前は“最小のマスコットと最大の戦果の魔法少女”と呼ばれていた彼女は冷静に思考する。
扉の大きさから言って入ってくるのは一人。
こちらにはひとみとジェナス、2人の遠距離攻撃手がいるし、近距離に持ち込まれても剣術に長けたラクシュミーがいる。
有利は取れている、はずだ。相手がどんな規格外であろうと、フクロにすれば問題は無い――
「――ひとみさん!!!」
突然掛けられた声に気付かされる。
自分が見ていた黒い影が、ただの残像にすぎなかったことに気付かされる。
視界の端に、“侵入者”はいつのまにかもうひとみの隣にいて、
すでに魔法少女の腹部に向けて一太刀目を浴びせようとしているところだった。
おいおいちょっと早すぎんだろう。
せめて考える時間くらいはくれてもいいものを、躊躇もなしか。
「クソが……ァ」
蝿でもたかるくらいにクソな展開だ、
そう思いながらも鰺坂ひとみは自分の腹部が両断されていく感覚を味わっていた。
魔法少女であっても腹部を両断されれば死ぬ。
これは無理だ、自分はすぐに死んでしまうだろうと、ひとみは逆に冷静に痛みを受け入れた。
しかしそこは歴戦の魔法少女、
斬られながらも魔法≪蝿の目≫を展開し、せめてこんな屈辱を浴びせてくれた奴の顔を見てやろうとする。
だが、それは叶わなかった。
「――ああン?」
「――◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆」
その男の頭部は、仮面に覆われていたのだから。
_///////|ビル街|
「アイドルをやらないか?」
「あは。面白いジョークですね」
三階から四階建てほどのビルの立ち並ぶ北東の街の中心部。
本来ならば車が行き交うために造られたのだろう広い通りを歩く黒髪の乙女の前に、
すたすたと歩み寄っていきなり名刺を差し出したのはプロデュース仮面(アースC、プロデュース仮面)だった。
「ジョークではない、本気だ。
様々な世界を渡り歩いて何人ものアイドルをプロデュースしてきた私だからこそ分かるが、
君には天性の強運と人を引き付けるカリスマというものがある。きっと最高のアイドルになれる。
私の仮面の裏には君が武道館で一万人のファンを救済している姿がすでに見えているぞ」
「ここが殺し合いの場だってこと、分かっていますか?」
謎の仮面を被りつつ、深く礼をして頭を下げ、まるで首を自分から差し出すかのような格好の男。
これに対し黒髪乙女はデイパックから業物を取り出して、舌をちろりと舐めてくすくすと笑った。
委員長じみた口調の彼女は女学生にして殺人鬼、剣崎渡月(アースR、人殺し)である。
彼女はアイドルとしてちやほやされるのなんかより、人を斬ってほかほかの血を浴びる方が好きだった。
獲物を探して街を歩いていたところに思わぬ形でのナンパを受けたが、
日常的に殺し合いゲームに参加していた彼女にとって、ここでやることは変わらない。
「スカウトは嬉しいですが、返事はノーです。首を斬らせていただきますね」
「待て、剣戟もできるのか? 時代劇アイドル――そういう方向性もあったか、やはり逸材!!」
手に入れた業物「三日月宗近」を振るい、
いまだ状況が分かってないらしいプロデュース仮面のいけすかない仮面を叩き割ろうとする剣崎渡月は、
「ん?」
そこで空気を切り裂くように身近に迫っている“なにか”の音を聞き、肌を粟立たせる。
まずい。
即座にバックステップ。
ワンテンポ遅れて飛来した銃弾は、プロデュース仮面の肩を上から貫き、鮮血をまき散らした。
「む……!!?? なんだこれは……胸のドキドキが急に高鳴ったと思ったら止まった……!?」
「それは多分、スナイパーに心臓を打ちぬかれたんだと思いますよ」
「おお……スナイパーか。スナイパーアイドルも……いいな……」
最期までアイドルのことを考えながらばたりと倒れて動かなくなったプロデュース仮面を後目に、
渡月はさらにジグザグにバックステップを取りながら目線を上げて銃口を探す。
そう、スナイパーだ。
スナイパーがこちらを狙っている。おそらくは消音付きのライフルで。
これまで平沢茜という悪魔の下、様々な殺し合いゲームに参加した渡月ではあるが、
「スナイパーはさすがに……二度目くらいですかね? ――っと!!」
前方視界の右端がキラリと光ったと共に、肩を打ちぬかれていた。
距離50、四階建てのビルの上から。どうやらかなりの腕とみた。
「あは、惜しかったですね。スナイパーさんの位置は今ので割れてしまいました。
位置が割られたスナイパーは、狩る側から狩られる側に回る、というのがこの世の中の摂理です」
ぐいと引き気味だった体を前へ起こして女学生はスナイパーの元へダッシュする。
彼女は逃げ惑うエサではない。むしろ獰猛なライオンだ。
殺した数は34。まだ若いからもっと殺せる。
目指すはいつだったか朝読書の時間に読んだ、自分に似た殺人鬼のスコアである45。
「では、殺人をさせていただきますね」
東雲駆や麻生叫といった人物たちにはそれでも悲しい過去があったが、彼女には全くない。
職業学生兼人殺し。
剣崎渡月という少女は殺すために生まれ殺すために生きている、天性のシリアルキラーである。
__//////|ビル屋上|
(うっそやろ……あかんでしょう。
俺のスナイプ避けて、しかも位置押さえて、速攻潰しに来るて? 血の気しかないやんけ)
同時刻、ビルの屋上では近畿純一
(アースM、エセ関西弁の防衛狙撃手)が頭に手を当てて顔をしかめていた。
完全に仕留めてあげるつもりで撃ったアサルトライフルは女学生の肩口をかすめただけだった。
あの女学生、スナイパーからの避け方を知っている。
銃口を光らせた瞬間に反応速を上げてきたのが証拠だ。間違いなくカタギの人間ではない。
裏組織のエージェントか、雇われの傭兵か……
ただの女学生にしては目が据わっているとは感じていたが、厄介なものに手を出してしまった。
「んー、こりゃ辿り着かれんのも時間の問題やな。あー、欲ばるもんやなかったなぁ……」
むしろのん気に両手を挙げて欠伸すらしてしまうほどに残念な展開だ。
ああ、幸いにも使い慣れたものに似たライフル銃が支給されて調子に乗ってしまったか。
あるいは最近知り合いの恋人と遊んだバチでも当たったか。
こんな早くにピンチに追い込まれるとはなあ、と肩まで伸ばしている頭を掻く。
近畿純一は欲望のままに生きるタイプで、その点では殺人鬼・剣崎渡月に似ていた。
肉が食べたいと思えば肉を喰う。銃が撃ちたいと思えば撃てる職に就く。
眠りたいと思えば任務最中でも寝てしまうし、女を抱きたいと思えば抱く。
もちろん友人の彼女には手を出さないくらいの義理は持ち合わせているが、それも時と場合だ。
そういう男だから殺し合いに乗るのも躊躇しなかった。
候補名簿には光一やみゆきの名もあったが、同じチームでなければ殺すと決めた。
純一なら殺せる。目の良さとスナイプの腕には自信があった。
どんな敵だろうと遠目からチームを判断し、
別チームであれば即座に頭を吹っ飛ばしてあげることで、生き残るくらいはできるはずだった。
それがまさかこんなに早くスナイプに失敗して追われる側になろうとは。
「ま、計算が甘すぎたわな……しゃーない、返り血のひとつでも浴びますか」
やってしまったものは仕方がないので切り替えることにする。
純一はビル裏で拾っておいた鉄パイプと、支給された大ぶりのクナイをデイパックから取り出して、
これから屋上へ上って後ろのドアを開けてくるだろう女学生との戦いに備えて構えを取ろうと後ろを向いた。
「……あ?」
その首元に突き付けられたのは、変わった刃形状の剣である。
一般にフランベルジュと呼ばれるその剣波状の刃は、美麗な見た目に反し削り取られるような傷を人体に与える、
決闘よりは拷問道具に向いている武器であった。
「あー……どちらさま?」
屋上の扉はすでに開いていた。
スナイパーへの訪問客はひとりではなかった。
金毛の野獣が仁王立って、理性に研ぎ澄まされた瞳で純一を見下ろしていた。
「ラインハルト・ハイドリヒ。――地獄でこの名を復唱しろ、殺人者」
男はゆっくりと名乗った。それは無慈悲な宣告だった。口答えの時間は、近畿純一には残されていなかった。
___/////|もういちど、病院|
ラクシュミー・バーイーは動かなくなった鰺坂ひとみの口にナンの欠片を入れてあげた。
もう一度食べたいと言っていたからだ。
ただ、追加で作ることは出来そうになかった。ラクシュミー・バーイーもまた、片腕を失っていたからだ。
ついでに言えば片脚も喪っていたし、先ほどから頭の左後ろのほうの感覚もなかったが、
料理人のラクシュミーとしてはとにかく腕が片方なくなってしまったのがショックで、店じまいすら考えた。
扉が開く。
「オイオイ、この匂い成分は……」
「血……死体、ですね……」
二人の青年が中に入ってきたのを確認すると、ラクシュミーは力なく笑いかけた。
「あの……ラクシュミー・カレーハウス、にいらしゃい、ませ。
何も出せませんが、ごゆっくり……ど……ぞ……」
「!!」
「だ、大丈夫で――あ、頭が――!!」
泉で一戦交えたあと病院にたどり着いた青年二名、
巴竜人(アースH、三乗改造人間)と道神朱雀(アースG、四重人格神見習い)は、
営業スマイルをしてくれた褐色店員さんの後頭部が鋭利な刃物によって斬り削られ、
そこから薄血の桃色脳漿が漏れ出しているのを確認すると驚きに打ち震えた。
見れば、彼女が残ったほうの片膝でひざまくらをしているOLじみた風貌の女性も、半身しか存在していない。
もう半身は壁に叩き付けられてしまっている。部屋中に血が飛び散っていた。
部屋中には戦闘痕もあった。
ナースコールセンターは血の嵐が吹き荒れた戦場ヶ原へと変貌してしまっていた。
「誰がやった!!」
うつろな瞳で息をする褐色店員に駆け寄ると肩を揺さぶり、竜人が叫ぶ。
強く話しかけることで意識を保たせようとする。もうすぐ死んでしまうのは明らかだったからだ。
褐色店員のほうもそれに応えようと口を動かす。
か細い声で――紡がれたのはしかし、巴竜人の脳をさらに動揺させる言葉であった。
「ひーろー、でした」
「――なっ!?」
後ろで朱雀も目を見開く。
ヒーロー?
それは、巴竜人の職業にも通ずるはずの――。
「“仮面のヒーロー”と、“悪魔の剣”……ジェナスちゃんが……危ないです……」
そこまで絞り出すと褐色の少女、ラクシュミー・バーイーは不自然に前傾し、そのまま崩れ落ちた。
背中にも深い切り傷があり、そこから大量の血が流れ出ていたのが分かる。
素人でも分かる。これは剣の傷だ。それもとても大きな。
「巴さん……」
「悪魔の剣――ヒーロー……? どういう……」
「と、巴さん、あれを!」
唯一残った脳をフル回転させて思考をする竜人だったが、それは朱雀の発見に遮られる。
朱雀が指差していたのはテーブルだった。そこには三人分のカレー皿が残ったままになっていた。
すぐに竜人も察する。
ここに今つくられた死体は二つ。
襲撃者が去ったのだとしても、三つの皿が存在する以上、襲撃前には“三人”いたと考えるのが自然だ。
加えて最期にラクシュミーが喋った言葉――「ジェナスちゃんが危ない」。
「もう1人……居た? 逃げてるっていうのか?」
「た、助けにいかない――とッ!?」
「ああ! ん……道神くん、どうした?」
ヒーローとして意気よくナースコールセンターを後にし、救助者の下へ向かおうとした巴竜人は、
道神朱雀の様子が急におかしくなったのに気付く。
胸を抑え、苦しそうな表情。
……まさか。
「ごめん、巴さん――また人格が変わるみたいだ――!」
____////|ビル屋上|
「あは、先客がいたんですね。でも良かった。おじさま、刃ごたえのありそうなオーラが出てますね」
薄紫の空の下、女学生が日本刀を構える。
「――なぜ殺す?」
広い空を背に金毛の尋問官は無感情に問う。対峙する女学生はクールに返す。
「上に立ちたいからです」
「……」
「一番が好きでした、昔から。勉強も運動も、誰かに負けるのが嫌で嫌で。
人より上でありたい・人より下でありたくない・人を下していたい。人間の本質的な競争欲ですけれど。
私はそれを抑えなかった。抑えようとしなかった。でも、あるとき気付いてしまいました。
人を殺すということは、自分がその人より永遠に上であると示す行為であると言うことに」
仮に人生がリレーだとするならば。
殺した人からはもう抜かし返されることは絶対にありませんから。
淡々と女学生はそんなことを言った。
「なので――あなたも殺して、永遠の上位を手に入れるんですよ」
「そうか」
ラインハルトもまた淡々と頷き、再確認したとでもいう風に呟いて、フランベルジュを振るった。
「やはり、人間は無価値だ」
剣と刀の合わさる甲高い金属音は殺し合いの合図だった。
____////|数分後のビル下|
黒いドレスの少女が走っている。かと思えば消える。
一瞬後、3mほど先に現れ、また走る。
ジェナス=イヴァリンは魔法に関してはかなりの才能を持っていた。
人付き合いの才能と反比例するくらいそれは強い才能で、彼女は齢16にして特級魔法までマスターしていた。
ファンタジー世界でもなかなかお目にかかれない、ショートワープの魔法が使えるのも才能あってこそだ。
「……ッ! ……ぅぅううッ!!」
しかしジェナスの表情からは才能ある者特有の優雅な雰囲気など一ミリも感じられない。
なりふり構わず走るその顔は涙と汗と鼻水と涎で汚れていて、生きること以外のすべてを後回しにしている。
それほどに追いつめられていた。
追われていた。命を狙われていた。殺されかけていた。
「ぅ……え!?」
そんなジェナスの目の前に現れたのは死体である。
頭がトマトめいて潰れた落下死体。
顔が原型をとどめておらず、細身の男だということくらいしか分からなくなっているそれが、
奇跡的に地面に刺さったかのように逆直立した状態でぷらぷらと手足を揺らしながらジェナスを出迎えた。
ショックを受けざるを得ない光景に足がブレーキを勝手に掛ける、
「――◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆」
その瞬間、背後に近づいていた“ヒーロー”が、言語無き鋭角な叫びを伴いながら黒の魔少女に襲いかかった。
「邪魔だ!」「邪魔です!」
そこへ、流星が落ちてくる。
ジェナスがショートワープの術式を辛うじて脳内詠唱し、発動し終えたその瞬間、
それを間に合わせず彼女の首を跳ね飛ばす予定だった刃の上に男性の皮靴裏がストンピングされる。
次いで金属音、金属音、剣戟による火花音、火花音、火花音!
高速戦舞を踊りながら、はためかせたスカートを抑えつつ、
黒髪ロングの女がその手に携えた銀の日本刀の柄で“ヒーロー”の胸板を蹴った。
完全に虚を突かれた“ヒーロー”がバランスを崩した空隙を逃さず、金毛の尋問官が追いの拳を叩きこむ。
「――◆◆◆◆◆◆!!!」
たまらず吹き飛ばされる“ヒーロー”。
ようやく着地した二名の剣士が、本当に偶然だがジェナスを守るような位置で“ヒーロー”の方を向く。
ここでジェナス=イヴァリンが遅れて状況を把握した。
金髪と黒髪の、この二人……どこかのビルの屋上から、“落ちながら戦っていた”のだ!
「おい、誰だこの野蛮人は! 君の知り合いか?」
「こんな変なコスチュームで変な剣を持った変な人は知ら……いえ、どこかで見たような……?」
ともかく強い人たちであることには間違いなさそうなので、ジェナスは声を掛ける。
「……あ、あの! あ、あなたたち……!」
「む?」
「あは、もう1人いらしたんですね。可愛いお顔ですね、お名前は? どこ住み? LINEやってる? どうしてここに?」
「ジェナス=イヴァリンです……お、追われて……!
一緒に居た人、みんな殺されて……逃げろって言われて……えぐっ」
「泣くな小娘、そんな暇があるなら戦え」
「おじさま、レディーの扱いがなってないと思いますよ。そう、殺されたの。じゃああの人が殺したの?」
「う、うん……っ」
「そうなの。それは僥倖ね。
ああ、私は剣崎渡月。こっちのおじさまはLINEアプリさん、でしたっけ?」
「ラインハルト・ハイドリヒ(アースA、ドイツ国家保安部長官)だ、覚えろ」
「覚えました」
剣崎渡月はにこりと笑った。
ぎぎぎ、と音を立てて、剣を杖のようにして立ち上がろうとする“ヒーロー”を見ながら、楽しそうに笑った。
「それと、少し思い出しました。彼は私の住んでいる町のとなり町にある学校の生徒会長です。
有名人なんですよ彼。どうしてああなってしまっているかは――たぶんあの剣のせいでしょうか」
「セイトカイチョウ?」
「生徒会長とは何だ?」
「知らないんですか? ……ふうん、面白いですね」
世界観の違いからくる常識の祖語に三人は首を傾げる。
しかしその祖語についてを論じている暇はない。
“ヒーロー”が、立ち上がったからだ。
「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆……」
その“ヒーロー”は異形の仮面と白のマントを身に着けている。
仮面は今時の特撮ドラマに出てくる、昆虫にも似たフォルムの巨大な両目が印象的なヒーローのものだ。
ただ仮面と言っても丈夫さは皆無だ。夏祭りの屋台で売られているタイプのゴム耳止め紙マスクでしかない。
服装は白のマントに大部分が覆われているものの、見える部分は学生服のようだ。
ただこれも、マントには返り血がおびただしくこびりついているため、潔白さは失われてしまっている。
どこまでも作り物で、さらに汚れてしまっているヒーロー衣装。
物悲しくすらある。
最後に、何よりも目を惹くのが――彼が握っている、いや、“握らされている”獲物だ。
「あは……美しい剣、ですね」
それは美しい銀色の幅広剣であった。
魔の存在であることを示す蝙蝠翼の意匠があしらわれた鍔をはじめとし、
柄までが漆じみて艶のある深黒に染まっているが、それが剣身の銀色をむしろ引き立てている。
刃の中心線――樋が深く掘られた剣身はまるで血を吸いたいという意思が込められたかのように仄暗く輝いていて、
殺しに精通するものが思わず共感を覚えてしまうほどの殺戮力を備えていることが分かる。
その支給品は、実際に意思を持つ。
細かく見れば分かることだが、出来そこないのヒーロー衣装の少年の握り手が、
剣のグリップから伸び出た黒色の根のようなものに浸食されているのがその証拠だ。
生体魔剣セルク(アースF)。
落ち延びた魔族の皇子の魂が封じられた呪いの剣。
“ヒーロー”はその剣に、寄生されている。
「……あの剣……魔力……闇の魔力を感じるの。
つ、強い……間違いなく、普通じゃない力。しかも、二種類……」
「二種類?」
「うん……剣に本来宿っていた魔力と、それをブーストしてる魔力……。
頭がおかしくなりそうなの……魔法学校の先生にも、あんな化け物じみた魔力を扱ってる人、いなかった……!
とくにブーストしてる魔力、おかしい……ふざけてる……絶対、勝てないよっ……に、逃げないと……!!」
「――その魔力というのは、己には見えん」
ジェナスが引っ張った袖を振り切って、ラインハルトが前に進み出る。
「ただ、“お前が嘘をついていない”ということは己には分かる。
長年の勘でな。嘘をついている人間の目はだいたい見分けられる。全く煩わしいことだがな。
……なるほど目の前の彼は化け物だ。およそ人間では培えない、魔力とやらも持っているのであろう。
だがだからといって敵前逃亡の選択肢を取るのは、少し早いと己は思う。
見たところ彼は狂っている。剣がどれだけ強かろうと――使う頭がなければ無用の長物だ」
「それにこちらは3人ですしね、おじさま」
「お前は先まで己と殺し合ってたのを忘れたのか……仕方ない。今だけ共闘の許可を出す。
他人、しかも犯罪者と共闘など虫唾が走るが、責務遂行のためには時には信念を折ることも必要だ」
しかめ面のラインハルトの横にうきうきとした表情で渡月が並び立つ。
軍官の横に黒髪ロングのブレザー女学生が並び立つさまはまことに滑稽だ。
ついでに言えばその後ろには黒ドレスの魔少女すら控えているし、
対峙するのは凶刃に囚われた“ヒーロー”だと言うのだから混沌とした取り合わせに限りがない。
「◆◆◆◆◆◆◆◆!!」
それでも――キャストがいかな色物だろうと舞台は止まらず、参加者たちは踊らされ続ける。
「全く……アカネとやらは己たちに何をさせようとしているのだろうな!」
「殺し合いでしょう?」
「……もうやだぁ……」
魔剣と日本刀とフランベルジュの輪舞曲の開始だ!
____////|ビル街を飛びゆく影二つ|
「悪ぃねぇ、巴(とも)やん。主人格である朱雀くんならうちらの能力、わりと自由に使えるんやけど」
同時刻――ビルとビルの壁を垂直に蹴って、
空の改造人間スカイザルバーとなった巴竜人に追いすがる機動を見せる朱雀少年の姿があった。
その瞳は少々細められ、纏う雰囲気は知的で落ち着いたものになっている。
神様見習い、道神朱雀の中に入っている四つの人格――そのひとつ、玄武の人格だ。
「青竜の『炎』、白虎の『加速』に比べると、
うちの『重力操作』は使い勝手も悪いし、こんな時に出てきてしもうてホント申し訳ありまへんわあ。
あとほら四聖獣ものでも玄武ってかませなことが多いやん?
うち、ホンマは戦いたくないんやけどねえ……どうして出てくる羽目になったのやら。ああ、怖いこと、怖いこと」
「……とりあえず、道神くんの容姿で女言葉で話されるとこう、驚くよな」
「まあ。でも以外と女装似合うんよ? この子。次の戦場を無事に切り抜けられたら見せてあげましょか?」
「いや、別に見たくはないかな……」
確かに四つの人格が全部男であるとは言われていなかったが、
玄武が思い切り関西方面の言葉遣いのおなごであったので巴竜人は複雑な気分になっている。
それにこの知的でミステリアスな感じは、彼の師匠である女性にどことなく似ていたのだ。
(そういえば……『先生』も、相手によって態度と口調がわりと変わる、多重人格みたいな人ではあったな……)
回想に入ろうとして、しかしその思考を振り切る。
今は昔の思い出に浸る時ではない。現実問題として一人の命が危機なのだ、ヒーローとして助けにいかなくては。
朱雀の人格が変わってしまったときにはヒヤリとしたが、幸い戦火を交えた凶暴な青竜ではなかったので良かった。
間にあえば、巴竜人はヒーローを全うできる。間に合えば。
(いや、たらればじゃない。間に合わせる――!)
……ヒーローと言っていた。魔剣を振るい病院を血に染めたそいつは、ヒーローだったと。
ヒーローとして生きている竜人にとっては、ヒーローを貶めるような行為を取るそいつは許せなかった。
しかし、可能性は低いが、自分や朱雀のように“暴走”しているだけだったり、
操られてしまっているという場合も竜人は想定している。
その場合はかの襲撃者に追われているジェナスという子だけではなく――襲撃者自身も救う必要がある。
自身の状態にも嫌なフラグを抱えながら。
だれより多くの悲劇をくぐりぬけ、それでも人間で在り続けるヒーロー巴竜人は、悲劇の回避を切に願う。
聴覚を強化された彼の改造耳にはすでにただならぬ剣戟の音がかすかだが響いていた。
そう遠くない。
(頼む、待っててくれ……! 俺が、全員救う――!!)
ヒーローはスカイザルバーの翼により力を籠め、玄武と共に現場へ急行する。
そんなヒーローを横目に、玄武はぽつりとつぶやいた。
「……ヒーロー、なあ。その思想は、崇高やけど……使命に呑まれんように、ほどほどにするんやで、巴やん」
神見習いの亀の言葉が何を案じているのか、神ならばあるいは、知っているのだろうか。
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2017-05-24T17:30:26+09:00
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