桜の意図

魔法少女とヒーロー、どちらが強いかだって?

そりゃあお前、キャラによるだろ。
最弱の魔法少女と最強のヒーロが戦えばヒーローが勝つ。
最強の魔法少女と最弱のヒーローが戦えば魔法少女が勝つ。
最強の魔法少女と最強のヒーローが戦えば……。

ああ、だめだ。どのキャラが最強かだなんて、ファンそれぞれで違うからなあ。
やっぱあれだ、キャラクターで判断しようぜ。

じゃあとりあえず。異端対決ということで。

元ヒーロー、裏切りのクレア。混血の魔法少女、マイルドフラワー。

強いのは、どっち?


服従か、死か。
裏切りか、死か。
8歳の少女に突きつけられた厳しい選択。

マイルドフラワー、高村和花の瞳は絶望で揺らめいた。

「どうした、さっさと選ぶんだ。私はあまり気が長いほうじゃないよ」

両手を広げ、口を三日月に歪めるその女、裏切りのクレアはマイルドフラワーには悪魔にしか見えなかった。
正義の魔法少女はそこに、確かに悪が在ることを認識する。
だから。

「私は、裏ぎ――らない!」

その宣言と共に右手にステッキが現れる。
とほぼ同時にその先端から桃色の極太レーザーが悪へと襲い掛かった。


『サクライト』
それはマイルドフラワーが唯一覚えている攻撃魔法にして、日本の魔法少女が放つ呪文の中でも、トップ10に入る火力を誇る魔法である。

高村和花は正義の魔法少女である。
アースMGにおいて、魔法少女は平和を守る守護者としての役割を備えている。
彼女たちは迷子の保護、町内のゴミ拾い、企業のイメージガール、だけでなく。
凶悪な犯罪者の制圧、『魔』の討伐、悪の魔法少女との激闘。
これらも正義の魔法少女、それもベテランならば一通り経験していることである。
それでも魔法少女の死亡率はアースHにおけるヒーローのそれよりずっと少ない。
それはヒーローよりも魔法少女は助け合いに重きをおくこと。
世間が魔法少女に非常に好意的なこと。
この2点が大きい。

ならば、魔法少女から、そして心無い世間の大人達から。
嘲られ、苛められ、排除されたマイルドフラワーがそれでも今まで正義の魔法少女として活動できたのは、この呪文のおかげといっても過言ではないだろう。


突如目の前に広がった桜色の世界に、裏切りのクレアは驚愕で目を見開いた。
裏切りのクレアは、それこそ和花くらいの歳の頃から戦ってきたベテランである。
ゆえに、今、自分に迫りくるものがどれほどのものなのか、瞬時に悟る。

「これは、裏切られたな……!」

そう言って、クレアは腰を落とし、両腕を交差して、胸の前で構える。
避けるには、範囲が広すぎる。
マイルドフラワーが放ったサクライトは、東光一に見せたそれより数倍の火力、範囲だった。
故にクレアはかつて『表破り』と言われた時代のように、正面から迎え撃つ。

「しかし、たいした威力だ。ヒーローの放つ必殺技に勝るとも劣らない。だからこそ、私も正々堂々、油断せず。――6割で相手をしよう」

次の瞬間、質量を持ったレーザーがクレアを呑みこんだ。
例えるならそれは巨大なブルドーザー。
あるいは津波。
この呪文を放たれた者は、文字通り吹き飛ばされ、ノックアウト。
それがマイルドフラワーの経験則だったが。

「嘘……」

驚愕と絶望が混じった声が、その喉から洩れた。
裏切りのクレアは、動かない。
身長170、体重50といくつのその体は、しかしマイルドフラワーには大岩のように思えた。
こんなことは未だかつてなかった。マイルドフラワーが敵に本気でこの呪文をぶつけ、それが当たった時。それはマイルドフラワーの勝利とイコールしていた。
魔法が封じない状況に持ってかれた時はあった。
俊敏な相手に避けられたこともあった。
しかし、直撃してもなお拮抗するのは、本当にありえない。

「もしかして君は、私がこの魔法と拮抗していると、思っていないかい?」

クレアのその声は決して大きくはないが、確かにマイルドフラワーの耳に入った。

「ならば、その言葉。裏切らせてもらおう」

90%、とクレアは呟いた。
そして、彼女は左腕を前に出し、掌をマイルドフラワーへと向ける。
そして右腕は静かに後ろに引いた。
桜色の暴虐を、左手だけで防ぎながら、彼女は笑う。

「『表破り』、見せてあげよう」

引いた右腕で拳を固く握りしめ、捻りながら前へ打つ。
――正拳突き。
クレアは『サクライト』にひとつ、突きを放った。


「いやはや、たいしたものだよ」

ぱちぱち、とクレアは大仰に手を叩きながら、敗者、マイルドフラワーへと歩みよる。

「その歳で、その矮躯で、そのファンシーな格好で。まさか私に9割出させるとは」

マイルドフラワーは動かない。うつ伏せに倒れこみ、魔法少女としての変身も解除された高村和花は、すでに意識は無かった。

クレアは彼女の首根っこを掴むと片腕で持ち上げ、その胸に耳を当てる。

「ふむ、まだ息はある」

そう言って、クレアは和花を背負った。

「どうやら、思った以上に面白い子みたいだな、君は」

あの時。

クレアの正拳突きが『サクライト』を消し飛ばし、和花を蹂躙した時。
彼女は、恐怖と絶望に顔を歪ませながら。
それでも、確かに。

「笑っていた。安心したように君は笑ったんだ」

あの笑みの理由は何なのか。
クレアはその答えを知っている。

「君は悪に屈しなかった。決して挫けず、自分の最高の攻撃をぶつけ、それでも――届かなかった。だが、誰が君を責められよう。これ以上、君に何を望もう。ここまで頑張ったんだ、けどどうしようもなかったんだ」

高村和花は心のどこかで、負けることを望んでいた。

「だから、私は悪くない。だから、悪に屈しても。裏切ってもしょうがない。……ククク、安心するだろう。自分の非道に、悪行に、裏切りに、大義名分が生まれた時というのは。ああ、わかるぞ。私がそうだった。私も初めはそうだったんだ」

最初から、クレアは和花を殺すつもりだった。
抗うなら、殺し。
裏切るならば真白と光一の前に連れて行き、経緯を歪曲して伝えた後、二人の目の前で和花を殺す。

しかし、彼女は考えを変えた。
この少女に自分と近い何かを感じたのだ。

「ふむ、真白ちゃんがパートナーだとすれば、この子はさしずめ、私の弟子というところか。……そういえば、名簿にはあの馬鹿弟子がいたな」

彼女の脳裏に浮かぶのは、正義感に溢れ、弱きを助け、強きを挫く、そんなヒーローの理想のような青年。
かつてクレアが育て、クレアが裏切った、彼女に最も近付いた男。

クレアは自分の服装をまじまじと見つめた。
戦闘の余波ですでに黒スーツはずたぼろに破れている。

「この恰好であいつに出会うのは、ちょっと嫌だなあ」

【C-3/森/1日目/黎明】



【高村 和花@アースMG】
[状態]:変身解除、疲労(極大)
[服装]:桃色と緑色の魔法少女服
[装備]:ステッキ
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0~3
[思考]
基本:魔法少女は助けるのが仕事
1:???
[備考]
※夢野セレナや久澄アリアと面識があります。
※キツネ耳と尻尾は出し入れ自由です。


【裏切りのクレア@アースH】
[状態]:健康
[服装]:ボロボロのスーツ
[装備]:転晶石@アースF
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2、アイテム鑑定機@アースセントラル
[思考]
基本:優勝する
1:真白ちゃんを裏切らないとは言ってないよ(笑)
2:目の前の魔法少女を“育てる”?
3:服を探す
4:真白のところへ戻る
[備考]
※詳細な行動動機は他の書き手さんにお任せします
※高村和花と自分が似ていると考えました。彼女の推測が正しいかどうかは他の書き手さんにお任せします


049.みつどもえ 投下順で読む 051.SS名?
049.みつどもえ 時系列順で読む 0XX.SS名?
035.ダブルクロス 裏切りのクレア 次の登場話?
035.ダブルクロス 高村和花 次の登場話?

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最終更新:2017年05月24日 17:04