みつどもえ

全身に揺さぶりを感じて、目を覚ます。
すでに日は昇っていた。
視界に入る少女は確か――柊麗華。
そして、どぎついピンク――ピンク?

「そう睨むな、睨むな。妾の名は卑弥呼。お主……えんま、じゃったか?お主の師匠探しを妾も手伝ってやるぞ」

そう言って、ピンク色の髪の少女は微笑んだ。

「安心せえ。妾はお主らのような可愛い女の子の味方じゃ」

えへへ、と麗華は照れたように頭を掻いた。
エンマはそんな二人を無表情に見つめる。

「協力してくれるの?」
「うむ。妾にどーんと任せい」

薄い胸をどんと叩く。
エンマはこの卑弥呼と名乗る少女をチームにいれたメリット、そしてデメリットを考える。
が、今まで損得についても深く考えなかった少女にとって、これは中々難しい仕事だった。
数秒ほど、眉を歪めて額に手を当てた後、エンマは卑弥呼に結論を言った。

「二人かついで逃げると、両手使えなくて困るから」
そこで一度、言葉を切る。
卑弥呼の目を見つめ、続ける。
「もしもの時は、お前は、追いて逃げるから」

卑弥呼は可笑しそうに笑った。
「かまわんよ、妾はジープを持っとる」

こうして、チームは三人になった。


時は数分ほど遡る。
未だ早乙女エンマが眠りについている時。
吸血鬼、柊麗華は昇る太陽の光を体に浴びながら、エンマの寝顔を見つめていた。
(可愛いなあ)
それは肉体の強度的な意味でも、顔かたちのことでも、両方の意味でである。
柊麗華は自分の外見を気に入っている。
気に入ったからこそ、彼は「柊麗華」を皮にして、彼女になったのだ。
しかし、気に入っているといっても、毎日見ていればさすがに飽きる。
この体で小学校に通っている彼女にとって同年代の女子は珍しいものではないが、それでも早乙女エンマは十分に上玉だった。

そして、ジルに追いかけられた恐怖やエンマの持つ暴力に対する畏怖も、数時間経ったことで、収まっている。
(ちょっとならイタズラしても、バレないよね)

思えば、こういう油断や甘さが彼を一度人生からドロップアウトさせた要因なのだが、残念ながらこれは人外になっても治らなかった。

頬に手を触れる。ぷにぷにとして柔らかい。
髪に手を伸ばす。砂で多少汚れているが、それでも口にいれたいほどきめ細かい。

未だエンマが目覚める気配はない。
そっと、麗華は自分の顔をエンマに近づける。

(さすがに唇同士はまずいよね)
でも頬を舐めるくらいなら大丈夫、とエンマは心の中で呟く。

「おお、何と何と!ロリっ子同士の百合じゃと!いいのう、いいのう。妾はそういうのも大好物じゃ!」

突如聞こえた邪悪な声に、麗華ははっと顔を上げた。
自分の目の前にいるのは、一匹の烏。

まさか烏も参加者なのか、と麗華はこの殺し合いの底知れなさを感じ恐怖した。

「うむ、どうしたのじゃ。妾のことは気にするな、邪魔はせんぞ。ただこの式神で記録して動画サイトに上げるだけじゃ」
烏はそんな迷惑なことを言いながら、こちらをじっと見つめる。

(式神……)
と麗華は脳内で検索する。
高位の吸血鬼は使い魔として、蝙蝠などを使役できる。
この烏も似たようなものか、と麗華は推理した。
とりあえず、エンマを起こそうとその矮躯に手を伸ばす。

「しっかし世の中何が起きるかわからんもんじゃのう。怪獣の次は『人外同士』の百合とは!いいのう、いいのう、AKANEもわかっとるのう!」

手が止まった。
(見抜かれてる……!?)

それは柊麗華がエンマに明かしていない真実。
それを、正体不明の式神使いに見抜かれたのだ。
「ん、どうした?起こさんのか?もしやお主、自分が人間じゃないことをその赤いロリに隠しとるのか?ううむ、お主も大変じゃのう」

「あ……」

そして、そのことさえも見抜かれる。
完全に役者が違う、と麗華は痛感する。
後はまだ、この式神使いの良心にかけるだけだが。

「そうじゃのう、お主。妾に協力してきれたら、このことをそこの赤いロリに黙っておいてやるぞ」
「な、何をすればいいんですか?」

哀れな殺人鬼は、邪馬台国を治める女王に縋る。

「うむ、妾はこの殺し合いをもっと面白くする!お主は、その手伝いをしてくれ!」

――――邪悪。

ある意味、ジルやAKANEよりタチが悪い卑弥呼の言葉に、麗華は空を仰いだ。


「怪獣ティアマト」
エンマは静かに呟く。
「うむ、妾も二人、同行者をそやつに殺された。今でこそ縮んで怪人と呼べるほどの大きさになっておるが、それでも参加者にとっては十分な脅威じゃな」
「そ、そんなのまでいるんだ……」
と、怯えた声を出して麗華はエンマを見た。
「でも、エンマちゃんなら、勝てるんじゃない。さっきもあんなでっかい虎を簡単に倒しちゃったし」
「ほう、虎をか。そいつはすごいのう。三国志でも虎に勝てそうな奴はそういないというのに」
「……怪獣はわかんないけど、それくらいの大きさの怪人なら、師匠と一緒に倒したことある。だから、たぶん勝てる」
「ならば、討伐に向かうか。妾も微力ながら協力するぞ。かたき討ちじゃ」
じろり、とエンマは卑弥呼を睨んだ。
「まずは、師匠を探したい。方針は、その後考える」

「うむ、ロリは父親と一緒にいるのが一番じゃ。背徳的なロリも好きじゃが、無邪気に父親と戯れるロリも好きじゃよ、妾は」
「じゃあ、とりあえず北上しませんか。人を探すんでしたら、端より中央のほうがいいと思いますし」
「しかしティアマトに出会ったらどうする?」
「なんとかジープで逃げ切りましょう。卑弥呼さんもさっきそれで逃げ切れたんですし、私達が二人増えても問題ないはずです」
なるほど、と卑弥呼は腕を組んだ。
「それでいいよね、エンマちゃん」
と麗華はエンマを見て、あれっと首を傾げた。
どうにも機嫌が悪そうな表情だった。
「別に、出会って、襲い掛かられたら、倒すけど」
どうやら、麗華の言葉でエンマはヒーローとしてのプライドを傷つけられたようだ。
ごめんごめん、と麗華は大仰に頭を下げる。
そういう顔も可愛いいのう、と卑弥呼はよだれを垂らす。
殺し合いの最中とは思えない、どこかふわふわとした空気が流れた。


エンマは考える。
新しい同行者、卑弥呼。
正直口調は麗華より不愉快だし、髪の色も不自然で好きになれないし、で印象は良くは無い。
しかし、使える。
先程、式神と称してどこからともなく、烏を取り出して見せた。
この烏は卑弥呼と感覚を共有し、索敵に非常に向いている。
制限と、卑弥呼の運動不足からの体力の無さから、一度に2~3羽しか使えないらしいが、それでも師匠探しには便利な能力だ。
(師匠、今何してるんだろう)
赤い少女は、灰色の男へ思いを馳せる。

面白い奴らじゃのう、と卑弥呼は心中で呟いた。
柊麗華。外見は可愛らしい少女だが、その中身は。
(小物じゃな)
と卑弥呼は断じた。
邪馬台国、そして敵国のクナ国には、こういう輩が大勢いた。
ここまで可愛らしい外見をした者はそういなかったが。

(そして、早乙女エンマか)
もう一人の少女は、レアだ。
二度目の人生で、似たような存在を見たような気がするが、中々思い出せない。
麗華の話しを聞く限りでは、身体能力に優れているらしい。
そして強い躰に見合わぬ、未熟な心。

(ああは言っておったが、ティアマトには勝てんじゃろうな。戦士としての格が違う)

だが、卑弥呼はそこは重要視していなかった。
今、彼女が注目するべきところは外見よりももう2~3歳遅れているその精神性。
おそらく、「師匠」とエンマが読んでいる男は、中々歪んだ感情を彼女にぶつけていたようだ。

(妾色に染めてから師匠に遭遇というのも面白そうじゃのう。NTRものも妾も好きじゃ)

まあ、とにかく、面白く、面白く。

古き女王は、その邪悪さを胸に秘め、少女達に笑いかける。


柊麗華は高位の吸血鬼ではない。
エクソシストや退魔師、陰陽師と戦闘になれば、なすすべなく退治されてしまう存在である。
柊麗華は天才ではない。
人間であったころは典型的なダメ人間だった。吸血鬼になってからも抵抗の少ない女子供ばかりを襲った(性癖の関係もあったが)

では、柊麗華は同行者二人、二人の少女に対して、何のアドバンテージもないのか。

否、麗華には、二人に対抗する一つの武器があった。

それは。
(限界を知ること)

柊麗華は知っている。
ヒーローや怪人が入り混じるアースHを生きる早乙女エンマよりも。
同じアース出身で、しかし化物としての格で圧倒的に負けている卑弥呼よりも。

彼女は、自分の強さの限界を知っている。
そして、自分より強い者の存在を知っている。

(確かに二人と直接やりあったら勝てない。でも、状況を見極める力なら、この中で私が、いや、『俺』が一番だ)

柊麗華は知っている。
自分を吸血鬼にした真祖の吸血鬼、そのでたらめぶりを知っている。
自分が格下の人外であることを知っている。

だから強者に助けを求める。
だから無力な少女のフリをする。
だから強者の服従を誓う。

だから彼女は、今も生き続けている。

(今に見てなよ、最後に笑うのはこの『柊麗華』だ!)


「ところで、ジープは誰が運転するのじゃ」
「さっきまでは卑弥呼さんが運転してたんですよね」
「じゃが妾も疲れたしのう、麗華、任せる」
「え、あの、私、免許持ってないんですけど」
「妾もじゃ」
「私もだ」
こうして、少女が三人乗ったジープが町を走ることとなった。

【B-6/町をジープで安全運転/1日目/早朝】
【卑弥呼@アースP】
[状態]:健康、興奮
[服装]:巫女服
[装備]:無
[道具]:基本支給品一式、蛇腹剣@アースF、生体反応機
[思考]
基本:「楽しさ」を求める
1:ロリはいいのう!
2:このまま北上
 3:早乙女エンマを染める?
[備考]
※怪獣が実在することを知りました。
※麗華やエンマが人間ではないことを知りました
※エンマの能力をある程度把握しました
※式神(黒い烏)を召喚できます。詳細な能力や制限は他の書き手さんにお任せします


【柊麗香@アースP(パラレル)】
[状態]:健康 精神的疲労(小)ジープ運転中
[服装]:多少汚れた可愛い服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:生き残る
1:早乙女エンマと卑弥呼を利用する。
2:このまま北上する
3:早くジープの運転に慣れる
※吸血鬼としての弱点、能力については後続の書き手さんにお任せします


【早乙女エンマ@アースH(ヒーロー)】
[状態]:健康
[服装]:血で汚れている
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:師匠と合流して、指示を仰ぐ
1:このまま北上する
2:自分から戦うつもりはないが、襲われたら容赦はしない
3:このまま北上
※卑弥呼からティアマトの情報(多少の嘘が混じった)を聞きました。情報がどれだけ正確に伝わったかは他の書き手さんにお任せします
※柊麗華、卑弥呼の名前を知りました


048.CORE PRIDE 投下順で読む 049.SS名?
048.CORE PRIDE 時系列順で読む 0XX.SS名?
楽しさと狂気と 卑弥呼 次の登場話?
楽しさと狂気と 早乙女エンマ 次の登場話?
楽しさと狂気と 柊麗香 次の登場話?

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2017年05月24日 15:57