弱さ=強さ

「クソッ…!クソッ…!なんだよ、なんだよあれ!意味分かんねェ!くっそ、ふざけ…ふざけんじゃねェぞ…!」

夜の道を、一人、ふらふらと歩く姿があった。
細身の体に、赤縁のメガネ。金髪で眉毛は細い───いわば、「チンピラあがり」。
アースPにおけるガソリンスタンド店員、名前は谷口豪。
現在はバイト先を転々としながら、狭いアパートでタバコをふかしている日々を暮らしてきていた、ある意味最も狂った世界とも言われるアースPからは遠い存在の男だ。

「ンだよアレ…!炎出して!女が、ガキに、女が…焼かれて…首斬られてよォ…!三流の映画でもあんなん見たことねェよ…」

彼が目を覚ました場所は、森の茂みの中だった。
彼はレコーダーから流れてきた音声を聞き終わるとすぐに、支給されていたと思われるボウガンを手に持ち、震えながらも、生き残ろうと散策をしていた。
その時に、紫の着物を着た炎を扱う少女と、青色髪をした水を扱う女が闘っている場面に遭遇した。

一時期俳優を目指していたからそういったCGの映画の知識もあるが、どうもこれはにわかには信じ難いものだ。そもそも目の前でCGのような戦闘をされるとは思わなかった。
ボウガンをディパックにしまいこんでから、二人を見てみた。当初はなんらかの撮影かとも考えた。自分はエキストラで、彼女らは女優なのかと。だが、やがて紫の少女は青色の髪の女をどこからか出したかわからない糸で縛り上げると、彼女に火をつけた。

苦しみだす少女。
なるほど、あれも演技だと思うと中々のものだ。台詞回しも二人ともうまいし、女優とは流石なものだとも考えていた。

紫の着物の少女が、青色の髪の女の首を切り落とすまでは。


ころころころと擬音がつくようにサッカーボール大の大きさほどの女の頭が、豪の近くに転がってきた。
苦痛に歪んだ、しかし絶望すら、復讐心すらも感じられるような瞳と目が合った。

「─────っっ!!!」

口を両手で抑える。
あいにく、少女の方は全裸でなにか真っ赤な槍と闘っている。
逃げ出すなら、今しかない。

豪はその場から、口を抑えたまま逃げ出した。全力で。あの、フラウザリッパーから逃げた時と同じように、その異常さを受け入れないようにだ。


そして、今に至る。ふらふらと行くあてもなく歩くその姿は放浪しているかのようだった。
豪は大きくため息をつく。なぜ、なぜ自分がこんなところに連れてこられなくてはならないのか、そもそも最近運が悪すぎやしないか?とも考えていた。

変わらずにふらふらと森を行く豪。やがて、数十分後ほどだろうか。
目の前には、街が広がっていた。いや、集落と言う方がいいか。
まるで西洋の国を彷彿とさせるその集落はまるで映画のセットのようであり、ますますこの場が一体なんなのであるか疑問を持たずには居られなかった。

「クソ…頭いてェ…昨日ビール飲んだからか…」

一旦、頭を落ち着かせなくてはならない。
適当な民家で一休みしよう。そこで頭の整理をつけて、それからこの殺し合いを生き残る方法を考えよう。
ふらり、ふらりと、適当な、レンガでてきた簡素な家の前のドアを開けた。

だが、彼が一度見た非日常は終わりを告げなかったようで。

「…あらぁ?お兄様、だぁれ?」

目の前には、ピンクのワンピースに身を纏った茶髪の少女と、側には黄色の毒々しさを感じさせるような蛇が一匹。
机の上に紅茶を広げ、優雅に、きちんとした姿勢で座っていた。蛇も何故か向かい側の椅子の上にちょん、と乗っている。
つくづく、殺し合いとは無縁そうな存在。豪は一度困惑をしたが、目の前の少女に尋ねることにした。

「お、おい!餓鬼!ここは、ここはどこだァ!殺し合いって、なんだァ!」
『はぁ、やになるわぁマナーのない男は。ねっ、はららちゃん!』
「そうですわね。ゴルゴンゾーラ。私(わたくし)もそういったお兄様は嫌いですわぁ」
『もぉ!ちゃんとゾーラちゃんって呼んで!そんな強そうな名前ウチいやだぁ!』
「聞いてんのかァてめーらァ!」

豪は叫ぶ。
しかし、はららとゾーラはお構いなしに話をすすめる。

『にしても、さっきのミストちゃん?だったっけ!よかったわねぇ…すんごいよかった!ほんとに魔力マックス!って感じだった!』
「それはどうも、ですわぁ。お姉さまはまた次の機会が楽しみですわ…んふふ…」
『ね!ね!はららちゃん!次はどんな子を堕落させるの?』
「そうですわねぇ…もっと強い子がいいですわぁ…自分の強さを過信してるような、そんな子が…んふふ♪」
『…クソがッ!クソがッ!なんなんだよテメーらァ!言えって言ってんだよォ!』

豪の手に握られていたのは彼が支給された唯一の武器、ボウガン。
ボウガンの矢先は、はららへと向けられる。

はららに対しての殺意、というよりも、なぜこの少女はこんな異常事態に平然としているのか、そもそもなんで蛇が話しているのか。
という疑問と、威圧のためにボウガンを向けた。
それに気づいたはららは椅子に座ったまま、くすりと子供に向けるように笑うと、豪に口を開いた。

「…んふ、お兄様、人に殺意を向けたこと、ありますか?」
『どういう意味だァ!?』
「足、手、いや、全身が震えていますわ。かわいそうに…強がる必要はないですわぁ♪」
『!?』

豪はボウガンを持つ手に目を向けた。
小刻みに震えている。
足に目を向ける。
こちらも、震えている。


それに気がついた瞬間、息が荒くなり始める。
両手には汗が滲み、少女への焦点が合わなくなりはじめる。

『舐めんなよォ…!俺だって、俺だってやるんだ!やれるんだ…ッ!やれるんだぁァァァァッ!』

ボウガンを、少女へと向けた。
臆病な彼だが、向けざるを得なかった。
威嚇ではなく、完全に目の前の少女に豪は殺意を向けた。

すぐに引き金を引いた。
豪も思ったより以上に固かったその引き金に少し驚いていたが、いまさらそんなことはどうでもよかった。

『はららちゃん!』

だが、その弓は少女のそばに居た蛇が口から吐き出すようにして作り出した壁のような何かに阻まれ、弓は地面にぽとりと落ちた。
それを見た少女はゆっくりと立ち上がると───蛇ににこりと笑いかける。

「流石ですわゾーラ。防壁まで作り出すとは驚きですわぁ♪」
『はららちゃん!今ははららちゃんの【淫力】がMAXに近いから出来たんだからね!もうしないよ!』
「んふふ…♪お兄様、教えてあげますわ。私は強い方が大好きですわ。自分が強いと思っておられる方、自分が世界で頂点だと思っている方…私はそういった方々をたくさん見て、たくさん堕としてきましたの…ゾーラ、行きますわよ」
『モチ!』

やがて、紫色の煙が辺りから吹き始め───少女はその煙に包まれていった。

「クソッ!弓入らねェ!説明書、説明書は…ッ!」

豪は目の前で起きた、非日常的なことについていけず、弓を引こうとするが彼は使い方をまだ見ていなかった。
説明書を探そうとディパックを見る。あったはずだが、どこだ、どこだ、と焦るあまりに見つからずにただ時間を浪費していく。

豪をさしおいて、少女はその煙から姿を現す。
真っ黒なボンテージに真っ白なマント。ピンクの髪の毛の魔法少女、闇ツ葉はららか立っていた。
彼女は、にっこり、と子供に対して慈愛を見せるかのような微笑みを豪に一瞬見せたあとに、右手から一本の触手を出す。
それを豪の胸部へと、目掛けた。ボウガンに夢中で、ただの一般人である豪が避ける事もできずに、その攻撃を受け入れた。

豪に攻撃を加え、豪が叫び声をあげながら地面で転がるのを見ながら、はららはまた穏やかな顔で
豪に言い放つ。

「強がっているだけの臆病者はお引き取りをお願いしますわぁ♪無垢で、純粋で、汚れを知らないような方しか、私は基本相手にしませんのよ。その方が退屈ではないですもの♪
確かに誰とでも一夜を過ごしてきましたけど、それは私の軍団のため。かわいい我が子(部下)のために体を売るのならば気にはしないですわ」

闇ツ葉はららは、悪の魔法少女グループの最大勢力の一つ『堕華(ついか)』のトップであり、目的のためなら誰とでも寝れる少女であった。
だが、彼女はそこにおいても、夜においても決して他人に主導権は握らせない。自分を傘下に置こうとした大人たちを鍛え抜かれた指技とテクニックと、そして堕落させることでこちらの傘下にし続けた。
それも、自分を慕ってくれる我が子達のため。と思えば気にはしないのだが。

「ただ…この場では楽しみたいのですわぁ。もっと、もっと世間知らずの子を快楽へと落としたいのですわぁ…んふふふっ♪」

今宵のはららには『選択権』がある。
味方の為ではなく、自分の為に動くことができる。ああ、なんといいことか。
最も堕落させたい『自分は強い』と思っている者たちを快楽へと堕落させることができるのだから。

ならば、楽しむしかないだろう。自分の欲望の赴くままに。


「お兄様、あなた弱すぎますわ…あぁ、霧人お姉さまが恋しいですわぁ…♪」

豪の死体を飛び越えるように、はららは民家から出る。
夜が開けかかっていた。月の光を直に感じたのは久しぶりだった。

「…んふふ♪んふふふふ♪」

相変わらずはららは、淫らに笑う。高らかに。かつ冷静に。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「…!大丈夫!?」

はららが立ち去って数分後。
ラモサが見たのは、血だまりができた床にうつぶせで崩れ落ちている谷口豪の姿であった。
彼女自身も、なにか役に立つものは無いだろうかと町の家屋を調べていた最中であったが、扉が唯一開きっぱなしになっている家を見て、不思議に思い近寄ってきたのであった。

「待って!今なんとかしてあげ…っ!」

ラモサが豪の傷跡と思われる腹部の部分を見る。
だが、そこには数十センチほどの穴が貫通しており、おそらく専門知識もあまりないどころか、医療用具もないラモサにとって、この場における治療はほぼ不可能であった。

だが、彼女の目の前ではもう人は殺させない。
もしかしたら周囲に誰か医療に知識がある人がいるかもしれない。
淡い期待を抱きながら、外に出ようとした。

「ガキ、待てェ」

後ろからの声に、ラモサは足を止めた。
なぜ話せるのだろうか、普通は死ぬ直前というのは震え上がるものだが、なぜこの男はやけに馬鹿冷静なのだろうか。そう思って振り返った瞬間。
彼はわずかながら手足が震えていた。おそらく、彼は死ぬことに怯えている。
しかし、それでも声を抑え、自分を呼び止めた。

「分かんだろッ…俺、もうダメだわァ…クソッ…タレ」

彼の言葉は途切れてしまいそうに細い。気を抜いてしまえば、動悸に紛れてしまいそうだ。
普通、怖いのならば、震えるはず。なのにそこまでして彼が伝えたい言葉とはなんなのだろうか、とラモサは彼の言葉に耳を傾けた。

「…気をつけろよォ、この辺には、蛇を連れた女が、いる…強いからァ、会ったら逃げなァ…あと…『フラウザリッパー』は、神山学園の、制服の女だ…チビの、餓鬼だァ…気ィ…つけろや…」

あの時。目の前で殺された風俗嬢。
彼女は夢破れ地元に帰ってきた豪と同じように女優になろうとしたが騙され、風俗嬢になったという『花立 園未(はなたち そのみ)』であった。
ある日風俗に先輩に連れられ行った先で出会い、互いの境遇を慰めあうような仲であった。あの夜も、バイト先の店長がくれたシュークリームを持って会いに行こうとした時に、リッパーと出会った。
殺されていたのは、園未本人。しかし、豪は逃げ出した。自分を受け入れてくれた人物を助けることができず、一目散に逃げ出した。
フラウのことを警察に言えば自分はおそらく復讐されて死んでしまうだろう。しかし、園未のことを思うとそれでいいのかと考えてしまった。

おそらく自分は死ぬだろう。ならばせめて、あの犯人のことでも、目の前の少女に伝えなくては。
手足が震える。呼吸数も減っていく。
死ぬのは怖いが、言えてよかった。少しでも、臆病な自分を捨てれただろうか、と。

(…最後の敵討ちも、人頼みかァ…すまねぇな…園魅(そのみ)。オレ、やっぱあの餓鬼の通り、弱い奴だァ…)

谷口豪はゆっくりと目を瞑る。眠るように、死ぬ恐怖をどこかで感じながら、同時に謝罪心を持ちながら彼の意識は闇へと消えていくのであった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「普通、こんなことされたら痛みのあまり喋れないはずなのに…」

豪が言い終わり、事切れたあと、ラモサは豪を家のベッドに運び、横にさせると彼の顔を見ながらそう呟いた。
表情は悔しさと虚しさと恐怖が入り交じり、大きく歪んでいた。彼がここまてして伝えたかった先程の言葉は、きっとどうしても伝えたかったことなのだろう。
『触手』を使う者と、『フラウザリッパー』。
聞いたことはないが、ヴィランだろう。彼のようなおそらく肉体からして普通の一般人である者を殺すとは、なんという悪。
許すわけにはいかない。殺される人の無念さや悔しさは、よく知っている。そして残された人達の苦しみや悲しみも、よく知っているのだから。

「…強い人だな。この人。名前分からないけど、確かに受け取ったよ。言いたいことは…!」

ラモサは豪のディパックを、一度頭を下げてから持つと、家屋から出た。
ベッドの上には、死の恐怖と非日常と闘った、谷口豪が眠るように、体を横にしていた。

【F-2/町/1日目/黎明】

【闇ツ葉はらら@アースMG】
[状態]:快感、疲労(極少)
[服装]:ボンテージとマント
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1~3
[思考]
基本:《強い存在》を快楽や様々な方法を使い堕落させる
1:霧人お姉さまはまた次の機会ですわね♪
2:魔法少女達を狙う
3:
[備考]
※魔法の効果が大きくダウンしており、使用には体力をやや消耗します。
また触手の数は右手左手それぞれ五本ずつまでです。

【ラモサ@アースH】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1~3、ボウガン@アースF
[思考]
基本:AKANEや悪を断罪する
1:早乙女灰色、早乙女エンマを見つけたら処刑する
2:フラウザリッパー、触手使いに注意


040.欝くしき人々のうた 投下順で読む 042.偏愛の輪舞曲
039.憎しみと共起 時系列順で読む 042.偏愛の輪舞曲
021.現実の壁は破れない 闇ツ葉はらら 次の登場話?
GAME START 谷口豪 GAME OVER
010.私が戦士になった理由 ラモサ 次の登場話?

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最終更新:2017年05月24日 17:15