欝くしき人々のうた



夜。
少女が目を覚ましたのは薄暗い森の中であった。
ゆっくりと立ち上がると、妙に風が心地よかった。

足がおぼつかない。自分の体にしては、やけに重い。頭も痛い。
ぐらぐらと頭の中が揺さぶられているようだった。視界もどこかぼんやりとしている。

辺りを見回す。彼女の仲間たちが見当たらない。
心優しい賢者も。
勝気な剣士も。
知的な魔法使いも。
どこに行ってしまったのだろうか。はっきりとしない脳内の中で、思い出そうとする。

(…そうだ、確か、ライリーを、あの化物を討伐しようとしたら、突然光に包まれて…)

辺境の村からの依頼で、ライリーと名乗るオークを討伐に行った。
そこまでは覚えているのだが、それ以降がはっきりしない。

心配だ。だがまだ意識も、視界もぼんやりとしている。

南の方角を見ると、光が見えた。
町だ。
真っ赤なレンガでできた大きな時計台が、光に照らされていた。

(これは僥倖…!あの依頼してきた村だ。一度あそこでお世話になるとしよう…)

仲間たちが不安だが、まずは体勢を立て直し、そこから行動を始めなくてはならない。
それに仲間たちもあの村に戻っているかもしれないし、何があったか知っている住民もいるかもしれない。
一抹の希望を胸に、ゆっくりと歩き出す。

体が重い。やけに遠くの景色まで見えるが、なぜだろう。
だが、そういった疑問は後回しだ。ますは進むことが最優先だった。

一刻後。
彼女は村の入り口である大きな門の前に立っていた。
度々侵略されていたこの村を心配した賢者が作らせた門。建設の最中で村人たちとも交流を深め、とてもお世話になった。
補給線において問題が起きたり、この建設のためだったりと、長期で滞在することになったために、その交流は深く。
剣士は村人たちに自衛のためと剣術を教え、魔法使いはこの地の武器職人と結婚をすることになっていた。

村人たちは暖かく迎え入れ、送り出してくれたために、こんな無様な状態で帰ってくるのは申し訳なかったが、今はその恥を受け入れよう。

ぼんやりとした意識で、周囲を囲んだ城壁の中において唯一の門に取付けた「呼び出し鈴」を引いた。
魔法技術で、誰が来たかを映像として夜営をする者に伝えられるようになっている仕組みだ。これならば敵か味方かを、姿を見て確認できる。
魔法使いと共同して作り上げたものであった。


やがて、数分後、扉が開き始めた。
その目の前には、見慣れた村と、時計台、そして、見慣れた村人たちがいるはずだった。

「…自分から死にに来たか、化物が」

自分たちを息子、娘のように可愛がってくれた村長が、憎悪の目をこちらに向けて。
住民たちが賢者が作り上げた武器を持って。
魔法使いの恋人であった職人は、その魔法使いと共同で作り上げた魔術砲を向けて。
剣士の一番弟子であった若い少年は、剣をこちらに向けて。
そして、それ以外の住民たちも、各々なにか武器を持って。
こちらを向いていた。

やがて、門が完全に開くと、彼らは一斉に、勇者に罵詈雑言を飛ばした。

「どの面下げてここまで来たんだ!」
「死ね!貴様の顔など見たくない!」
「お前には血も涙もねーのか!!」

突然のその言葉に、村人たちの行動に、後ずさりをしてしまった。
自分が気絶していた時に何かあったのだろうか。自分が原因のきっかけになってしまったのだろうか。
それは違う、と少女は叫ぶことにした。彼女を英雄として送り出した村人たちに対して。
なぜ、矢を向けるのか。
なぜ、剣を、槍を向けるのか。
なぜ、殺意を向けるのか。
その意義を問うために。

「すまないみんな!私が気絶している間になに…が…」

その時発せられた声に、違和感を覚えた。
自分は、こんなしゃがれた、低い声だったか?
この声に、どこか聞き覚えがある。この薄汚いような、汚らわしい声。

いや、まさか。
まさか、そんなはずはない。ありえない。ありえるはずがない。
ゆっくりと、手を見る。緑色の大きな手。大きな爪。
人間ではなく、モンスターの手。

「…私は…勇者、勇者では…」
「何を言うか化物!貴様は勇者様御一行を残虐に殺したあの憎きオーク、ライリーだろう!」
「……え?」

頭を触る。母にも褒められた長い金髪はそこには無く、坊主頭の、いぼがある地肌。
顔を触る。ぎょろぎょろとした目。牙。
腕を触る。丸太のように太い腕。
まさか───入れ替わってしまった?あのライリーの杖から発した光の影響か。

いや、それはいい。入れ替わってしまっても、仲間たちに聞けば、きっと大丈夫なはずだ。

「賢者は!魔法使いは!剣士たちはどこだ!!」
「貴様の悪趣味さには反吐が出る!結婚を控えていた魔法使い様も、この村を改築してくれた賢者様も!子供たちに剣術を教えていた剣士様も!そして、我々のような卑しい身分の者でも優しく受け入れた勇者様も、皆、皆貴様が殺したのだろうが!!」
「………嘘だ…」
「嘘ではない!!貴様が殺したのだ!!この化物!!!」

膝から崩れ落ちるオーク姿の勇者。
それを見た村長はゆっくりと手を挙げ、やがてそれを振りおろした。
村長の合図とともに、人々が武器を構える。すべて、自分たちが教えたものだ。

あの鍬は、効率的になるように工夫がされたもの。
あの剣は、振り下ろすとともに爆発魔法によって相手を一撃で葬ることができるもの。
あの弓は、同時に三本発射できるもの。
すべて、自分たちが教えたもの。

「容赦はするな!四肢をバラバラにして、勇者様達の墓前に供えるのだ!!」
「よくも亡骸を俺の元に届けてきたな!貴様!俺の…魔法使いを返せっっっ!!」
「勇者様をどこにやった!!美しく優しい、勇者様を!」
「剣士のお兄ちゃんの仇だ!化物!くたばれ!」
「村を守ってくれた賢者様への弔いとなればいいんだがなっ!!」

(あ、ああ…、みんな、みんなしんだのか…みんな…)

迫りながら、恨み節を聞きながら。
勇者は思う。仲間たちを殺され、自分たちがもっともお世話になったこの村の人々に殺される。
夢半ばで、自分の職務を果たせない。それどころか、自分は結局誰一人とも救えていないではないか。
何が勇者だ。何が勇者だ。何が勇者だ。
何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ何が勇者だ。



じぶんは、なんのためにうまれてきたのだろう。
ぱん、となにかがあたまのなかではじけた。



「あはは、あははははははははははははははははははははははははは、あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
「ついに狂ったか!関係ない、やれーっ!」

村民たちは、その手中の中の武器で、勇者たちがさずけた知識によって作られた武器を真っ赤に染めていく。
かれらが考えられる残忍な方法で、これまでの恨みを晴らすかのように。
夜は更けていく。絶望の淵に、意識を放り投げていく勇者の気持ちを置いていくように。

夜は更けていく。
  • FIN-



「ざまぁみろ勇者っ!お前は俺様の仲間を殺した!たくさん、たくさんだ!俺様の体が殺される姿を見るのは気持ちいいもんじゃねえが───しょーじきせいぜいしたぜ」

映画館の『上映室』と書かれた部屋でライリーは先ほどの『映画』を見終わって椅子にもたれかかりながら言葉を吐き捨てた。
まさかここであの女勇者のあの後の様子を見ることになるとは、とも考えていたが。やはり人間たちは残虐な生き物だ。
普通はまず相手の話を聞くというのに、すぐに殺害をしようとする。

実際、女勇者だけ魔法使いによってワープさせられた為に、疑問に感じてはいたが。よもやここまで惨殺されていたとは。しかし、ライリー一族一番の知恵者に遺体の処理を任せたが、送り届けるとはまさか誰も思いつかない。相変わらず自分は仲間に恵まれている。 ライリーは再確認した。

しかしよもや自分が殺される映像をこんな大画面で見るとは、どういった魔法を使っているのだろうか。記憶投射かと思ったが、周囲から魔力を感じることはない。
なんにせよ不思議に思うが、今は置いておくとして。

「…うん。やっぱり俺様の味方は『人間以外』だ。人間は信用できない。まあ俺様も優しいから雑魚は見逃してやるけどさ!」

人間というのは残忍な生き物だ。
相手話に耳を貸さず、ただ恨みだけで行動する。
行動方針を決めておらず、漠然と主催を殺そうとしたが、それだけではダメだ。

どうやら見る前に閲覧した候補者リストとやらにも、人間らしい名前の者がいた。
無駄な戦闘は避けたいが、基本的には人間と手を組むことはしないようにしたいものだ。

「よし。この『えいがかん』ってのももう用はねーな。さっさとアリシアやボーンマンと合流しねえと!」

ディパックを担いで、椅子から立ち上がり、出口へと歩みを進める。
映像には、異国の文字と思われる文字列がしたから上へ流れ始めている。
呪文か何かだろうか。となるとこの映像はやはり他国の技術か。

(…やっぱこういうことできるやつだからな。少なくとも俺様の知ってる国の人間じゃなさそーだな…待ってろよ!アリシア!ボーンマン!みんな!今俺様が助けてやる。)

ライリーは仲間思いだ。
それでこそ、味方には優しいが、敵には、人間たちには容赦はない。

だが、『恨み』で行動をするという点では、人間たちも彼も、同じなのかもしれないが。


【G-1/映画館/1日目/早朝】

【ライリー@アースF】
[状態]:健康
[服装]:勇者服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:アリシアとボーンマンを探し、護る
1:AKANEと聖十字教会を殺す
2:上記以外であれば自分から襲うつもりはないが、襲ってくるなら容赦しない
3:人間は仲間にしない。信用ならない


039.憎しみと共起 投下順で読む 041.弱さ=強さ
037.それはそれとしてハンバーグが美味い 時系列順で読む 043.ドミノ†(始点)
023.日輪纏いしヒーローと二人の元いじめられっ子 ライリー 051.人でなし達の宴

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2017年05月28日 11:54