こんどの敵は、デカスゴだ。

「なんなのあのでっかいモノ…」

片桐花子は酷く混乱していた。
目が覚めたら見知らぬ場所に連れてこられ、首輪を嵌められて殺しあえと言われた―。
これだけでも十二分に現実離れした突拍子もない出来事ではある。しかして、その現実離れした舞台で花子が最初に見た物は吐き気を催す凄惨な殺戮の現場―――

などではなく、×××の生えた同い歳の女の子が女性の形をした不定形のスライム…スライムか?本当に?とにかくそういったものに×××を×××されて×××しそうになっている光景であった。
意味が分からない。
まるで意味が分からない。
何故、殺し合いの場に連れてこられて盛り合いを見せられるのか。何故、女の子に×××が生えているのか。何故、×××を×××するのか。
全てが片桐花子の今までの人生で培われてきた理解の範疇を大幅に超えていた。
例えば、だ。この事を彼女の友人・花巻咲に伝えてみたとしよう。

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「咲!私ふたなりがスライムにシゴかれてアヘってるとこ見ちゃった!」
「花子ちゃん、明日から学校で話しかけないでくれる?」

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なんと想像に難くない光景なのだろう。例え立場が逆だったとしても自分も同じ対応をするだろう。
うん、アウトだこれ。常日頃からフラウ・ザ・リッパーを自称して周りから冷笑を買っている自分でも自覚できるレベルでアウト。

そして彼女は逃げ出した。
だが、離れない。
頭にこびりついて離れない。
あの雄々しく聳え立ったビッグナイフが頭から離れない。
男の象徴が、自身にはない物が、命の源が忘れられない。
















そう!チンk












「そこの君!止まって!」

だからだろう。男の声が聞こえた瞬間、自分でもびっくりする程間抜けな声を挙げてしまったのは。
文にすれば「ひへふぇあ!?」とか。そんな感じ。


東雲駆にはその少女が酷く怯えているように見えた。無理もあるまい。
今まで普通の生活を送ってきた人間が、突然殺し合いの場に放り込まれれば混乱するのも無理はないだろう。
しかも、彼女は何かから逃げてきたように見えた。考えたくはなかったが、やはりこの催しに乗った人間がいたという事なのだろうか。

「落ち着いてくれ、俺は東雲駆。この殺し合いには乗ってない」

見れば自分の通う学校指定の制服を着ている。面識はないが同じ学校に通う女子生徒という事か。
ひとまず混乱状態の彼女を冷静にさせることが先決だと、以前の殺し合いの経験から駆は判断した。

「話してくれないか。何かから逃げてきたように見えるけど、向こうで一体何があったんだ?」
「えっ…な、ナニって…」

何があったって、そりゃあナニである。ナニをナニしてた、としか言い表しようがない。
しかし花子とて花も恥じらう16歳である。そうした事を口に出す事に対する羞恥の念から思わず言い淀んでしまい、顔を背けてしまう。

(口に出すのも憚られるって事か…余程酷い物を見たんだな)

だが、その対応は少し拙かった。駆の眼にその反応は恐怖から来るものとして映る。
以前の殺し合いでもこんな反応は見た。駆は己の経験を信じる。

「お…女の子が…」
「うん」
「お、おっきい…を…」
(大きい?凶器か?いや、大きい「人」か?)

無論、ナニである。だが、そんな発想は駆にはない。

「その…刃渡りで言えば30cmサイズというかランボーナイフというか…」
(30cm!やはり凶器だったか。平沢茜め、そんな物まで用意しやがったか。まさか刀嫌いの俺に対する当てつけなのか?)

無論、例えである。だが、そんな発想は駆にはない。

「ぶよぶよしたスライムみたいなのの上で寝転がってて…」
(ぶよぶよした…まさか臓物か!?いや、この殺し合いではそう珍しくもないか…!)

無論、スライムちゃんの事である。だが、そんな発想は駆にはない。

「お、お、お…」
「お?」
「お…っぱいを顔に乗せてて!」
「なに?」

ここで駆も流石に違和感を覚える。「おっぱい」…無論その単語そのものの意味が分からない駆ではない。彼自身そうしたものに興味が無いと言えば嘘になる。
しかしここはバトルロワイアル、狂った倫理が支配するこの世の地獄だ。そこでこのような単語を耳にする、というのは何かがおかしい。
もしかすると自分は何か思い違いをしているのではないだろうか。それとも目の前のこの子こそが何かを間違えている?
ここで間違えてはいけない、誤解は悲劇を生む。以前の殺し合いで自分はそれを学んだはずだ。そう考えた時の駆は少し焦っていたのかもしれない。

「本当に何があったんだ!?話してくれ、頼む!」

やや強引だったかもしれないが、駆は花子の肩を掴んで言った。この時の行動こそが自身の明暗を分ける…根拠はない、だが自身の第六感がそう告げている。
ここで彼女の話を聞き逃すのは恐らく得策ではない。もしかすると危険なマーダーがすぐ近くにいるのかもしれないのだ。







残念ながら片桐花子にはその真意が伝わる事は無かったのだが。




(ちょちょちょっと待ってよ!何でこの人おっぱいの話した途端こんな喰いついてくるのぉ!?
 変態なの!?この人変態なの!?あるいは常識がずれちゃった変態の世界ではまともな人なの!?リッパー様案件なタイプなの!?ああ立派ー様ってそういう)

今の彼女の頭の中は先ほど目撃した×××が強烈に焼きついており、絶賛脳内ピンク色状態であった。
まさに大混乱。そんな状態の彼女に正常な判断などできようか。もう構うものか、言ってしまえ。私は言ってやるぞ!そう思った時には彼女はもう言ってしまっていた。

「だから!女の人の形したスライムにおっぱい顔に押し付けられて×××掴まれてイキそうになってる女の子がいたのぉ!!!」

嗚呼、言ってしまった。なんという意味不明。なんという支離滅裂。
日頃から周りから浮いた存在であることは自覚していたがとうとうドロップアウトか。さらば青春、花子はお嫁に行けませぬ。
そう自暴自棄になる花子と対照的な反応を駆はしていた。




「な、何だって…!!」


まさに戦慄。まさに驚愕!
殺し合いの場における思考に則って…灰色の楽園を壊そうと考えている駆には、花子の言葉はまるで違った意味に聞こえていたのだ。

(刃渡り30cmのナイフで人を肉塊に変え、乳房や陰茎を切り取って絶頂する女だと!?)

狂っている。以前の殺し合いですらそんな狂った奴はいなかった。
平沢茜が既に殺し合いを経験し優勝した――つまりはアドバンテージを持った自分を再びこの場に送った事にはいささかの疑問を覚えていたが、初めから狂いきったサイコパスも投入する事でバランスを取る、という事か。

(ゆ、許さん…許さんぞ平沢茜!!!)

平沢茜は今度こそ殺しに来ている。自分や知人たち、それだけではない。後輩にあたる目の前の少女や顔も知らない人々…それら皆が狂人たちによって弄ばれ、壊され、狂い、そして死んでいくのをあの女は笑いながら見ているのだ。




…灰色の楽園を壊そうと足掻く少年には、桃色の楽園がすぐそばにあったなど、とてもではないが想像できなかった。


「ありがとう。よく話してくれた。それにしてもよく逃げ切ってこられたな」
「え?は、はい」

てっきりドン引きされるか、それとも物凄く食らいついてくるか。そのどちらかの反応を予期していた花子にとってそんな答えは予想外だった。
フラウ・ザ・リッパー・肩斬華のキャラ付けも忘れて素で返してしまう。

「その女の子について何か分かる事はある?外見とか、付けてるものとか…」
「た、確か『キョーコ』って言ってたような…」
「『キョーコ』…」

それを聞くや否や駆は参加者候補リストを広げ、『キョーコ』という名の参加者を探す。

(恭子…杏子…いた!こいつか!『谷山京子』!)

そのサイコパスの名を見つけた駆は思わず候補者リストを強く握った。これに自分はいずれは対峙しなければならないのか。そう考えると身が震える。

「まだ名前を聞いてなかったな。俺と同じ高校の生徒だろ?」
「わ…私はフラウ・ザ・リッパー!肩斬…」

そこまで言いかけて、花子は自分を真剣に見つめる駆の視線に対して何故か怯んでしまった。

「花子…です」

なんだか、酷く疲れた気がする。考えてみたらなんで切り裂きジャックの子孫がおっぱいだの×××だの言って恥ずかしがるんだ。

(帰りたい…)


【D-3/草原/1日目/黎明】

【東雲駆@アースR】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:変幻自在@アースD
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考]
基本:平沢茜が作り出した灰色の楽園を壊す
1:首輪を解除出来る参加者を探す
2:出来る限り早く知人と合流したい
3:山村幸太、花巻咲、麻生叫を警戒
4:谷山京子は特に警戒。見つけ次第殺す
5:片桐花子と共に行動する。
[備考]
※世界観測管理システムAKANEと平沢茜を同一人物だと思っています。
※谷山京子を危険人物だと認識しました。

【片桐花子@アースR(リアル)】
[状態]:健康
[服装]:学生服
[装備]:???
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:帰りたい…
1:なんか…疲れた…



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灰色の楽園を壊したくて 東雲駆
谷山京子の差異難 片桐花子

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最終更新:2015年07月01日 01:49