くろださん@うごかない

警察署内の『シャワールーム』と書いてある個室に、探偵黒田翔琉は居た。
彼が活動を開始する時に真っ先にする事がシャワーを浴びることだ。
温度は34℃のぬるめで、水圧は強すぎず弱すぎず浴びること。それが彼にとって最高のシャワーであった。
長く黒いトレンチコートを脱ぎ、ネクタイをほどく。フランスのブランド物だ。仕事するときはいつもこのネクタイを締めることにしている。
やがて下に着ていた白シャツをおもむろに脱ぎ捨てると、そのまま丈が長いズボンもベルトを外し、脱いだ。
次に黒色の靴下を脱ぐ。するり、と脱いで、また脱ぎ捨てたシャツの上に投げた。
最後。藍色のボクサーパンツ。彼は生まれ持ってからのボクサーパンツ派だ。ブリーフ、トランクスを履くような男は───男じゃない。
彼の持論であった。

風呂場への入口は引き戸であった。
ゆっくりと開くと、そこには本当に簡易的なシャワールームの個室があった。
温度調節は、悔しいが細かいところまでは出来はしなさそうだ。
しかしこの際浴びれるだけでもありがたい。

赤の蛇口を捻る。
シャワーから出るお湯の温度を手で確かめながら、そして青の蛇口も徐々に捻りながら───彼が納得できる温度にまで調節をする。
ミリ単位で動かしていく精神のすり減る作業だったが、彼にとっては必要なことだ。
そう。すべては彼の頭脳のためであった。

数分後、納得ができる温度になった。
水圧調整はこの際捨てて、温度に専念をした。その点については反省すべきであるがとりあえずいいだろう。
まず、彼は右肩から左脇腹にかけるかのようにシャワーを当てた。
次に左肩から右脇腹まで。最後は頭から全身に行き渡るように、丁寧にゆっくりと。
仕事はじめの時のシャワーは、黒田にとって入浴ではない。ゆえに頭や体を洗うことはしない。
あくまでも、自分の頭を覚まさせるためのこと。そのためだけに必要なこと以外はしない。

5分後。

蛇口を赤、次に青とひねり、シャワーを止めた。
5分の間、黒田は何か思考することはなかった。
シャワーを浴びる間に一旦頭の中をリセットし、完全にリセットしたあとに残された情報から真相を探るためだ。

外側に引き戸を押して、脱衣所へ入る。
脱ぎ捨てた服を手に取りながら、黒田は思考を再開することにした。
今回の事件───いや事件と言っていいかは疑問だが、不可解な点が多すぎる。
まず、参加者候補リストという与えられたディパックに入っていたリスト。
自分の名前がそこにあったのは勿論だし、西崎や、その西崎と旅行(黒田が懸賞でイギリス旅行を当て、行く相手が居らずに西崎を誘った)した先に出会ったサラというメイドの名前に留まらず、アイコレクターや自分が捕まえた御母衣朱音。さらには世を騒がす怪盗ナイトオウルと著名の犯罪者たちがおそらく『候補』となっているらしい。

いや、既に捕まった犯罪者がこの場に参加させられるのはまだ分かるとするが、彼には大きな疑問が生じていた。

(剣崎渡月、だと)

1800年代、日本のN県の小さな農村、「矢津間村」で起こした事件をきっかけに当時のの探偵や警察を騒がせた伝説的な殺人鬼で、殺した死体を持っていた鉈で残虐的に切り刻み村民45人を殺した事からついたあだ名は「矢津間45人殺し」。本名剣崎渡月。
歴史から名を葬りされ、今では矢津間村においてすら一部の人間しか知らない人物の名前。
その名前がそこにあった。

黒田は単なる同姓同名を疑った。
織田信長だの豊臣秀吉などもいたが、彼らの名前を借りた同姓同名の人物は多く存在する。
それに死体を生き返らせるなんて、非常識だ。ありえない。と。
ただ、もしそういった場合でないことを考えると一つ、黒田には考えがあった。

(…となると摸倣犯か)

殺人鬼に憧れて殺人鬼になる人間は多い。単なる摸倣犯であるとする可能性が高い。
しかし少なくともそんな摸倣犯は聞いたことない。
もし、自分の情報不足であることを考慮してもこの人物が摸倣犯という訳と断定するには早いだろう。
まさか本物の剣崎が連れてこられたという訳でもあるまい。

(なんにせよ、剣崎という人物には注意だな。こういった場所だ。ただの一般人を連れてくる筈がない)

旗のことに辿り着くにはまだ情報が足りない。黒田には目の前に現れた疑問について思慮するしかなかった。
それが今出来る最大限のことだ。
少し不甲斐ないとも思うが受け容れるしかない。
黒田は少し首の骨を鳴らすと、最後にトレンチコートを羽織った。
やがてシャワールームから出て行きドアをあけた。

最後になるが。
シャワーに入る前に見ておいた、主催から渡されたと思われる『武器』。
これも黒田にとっては不可解なことであった。
いや名簿以上にむしろ不可解なことであったかもしれない。
自分に渡されたのは、『御園生優芽』という少女のグラビアが載った漫画雑誌と、新型と思われるタブレット。
ここまではよかった。戦闘に使えるものではないが、タブレットとなるともしかしたらネット回線などを見つければ情報を得るカギにでもなるかもしれないと。そう黒田は好意的に考えた。
だが、最後の支給された『武器』。それは鉄製の缶の中に入ってあった───

「かけるくん!遅かったね!僕待ちぼうけしちゃったよー!」

来客用と思われるソファの上で跳ね回る、喋るピンクのカエルであった。

私立探偵黒田翔琉。
魔法少女のマスコットとの、はじめての出会いだった。

「…待たせた。話を聞かせてくれ、キュウジ」

黒田翔琉の頭脳は、ゆっくりと動き出す。

【A-4/警察署/1日目/黎明】

【黒田翔琉@アースD】
[状態]:健康
[服装]:トレンチコート
[装備]:キュウジ@アースMG
[道具]:基本支給品、週刊少年チャンプ@アースR、タブレット@アース???
[思考]
基本:この殺し合いと『旗』の関係性を探る
1:眠気は覚めた
2:早朝まではここに待機
3:剣崎渡月に注意
4:目の前のカエルの話を聞く
[備考]
※名簿見ました。

【キュウジ@アースMG】
魔法少女のマスコットの一匹。魔法少女マスコット学校では優秀な成績を修めたがなにせ見た目がピンクのカエルというキモさから誰も契約しようとしなかった。

【週間少年チャンプ@アースR】
御園生優芽のグラビアつき。人気雑誌。

【タブレット@アース?】
普通のタブレット端末。

027.その信愛は盲目 投下順で読む 029.星に届け
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012.探偵は警察署にいる 黒田翔琉 046.D-MODE

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最終更新:2017年05月24日 17:23