その信愛は盲目

とにかく遠くへと逃げたくて、麻生嘘子がたどり着いたのは駅だった。


 だが≪公園前≫の駅名が見えたところで気が抜けたのか、動かし続けていた足がもつれてしまって、
 麻生嘘子は走り幅跳びを失敗した時のような勢いで、思い切り前のめりに倒れ込んでしまった。
 膝。肘。おでこ。
 三点同時着地からの、がりがりと肌が削れるスライディングの音を全身で彼女は感じた。

「痛っ……いた……い……」

 起き上がってふらふらと駅構内に入った時には、
 ゴシック調の服に守られていなかった膝に、赤いバーコードができてしまっていた。
 おでこや肘は幸い皮がむけた程度で済んだが、こちらもひりひりと痛い。
 早めの処置が必要だが嘘子はやり方を知らなかった。ケガの処置は常にお母さんか兄さんにやってもらっていたからだ。

「う……うう……嘘……こんなの、嘘よっ……!」

 出来ないことは後回しにして、傷についてはとりあえず服に入ってたハンカチで拭きながら、
 歩いて時刻表の所まで来たのだが、それがまた嘘子に絶望を刻んだ。

 出発時刻
 0:00
 4:00
 8:00
 ・
 ・
 ・
 ・

 思わずデイパックを取り落す。
 がしゃん! と大きな音がする。

 備え付けの時計が指すのは2時過ぎという時刻。
 時刻表は、この駅からすでに電車が出てしまっていることと、
 次の電車が二時間後であることを無慈悲に示していた。

 麻生嘘子は逃げられない。
 いまにあの車いすのこわいおじさんがやって来て麻生嘘子の身体に白銀の剣を突き刺す。
 山村幸太のように。あっけなく殺されてしまう。
 あっけなく。

 嘘でなく。

 あまりに簡単に。
 最低最悪の真実が、麻生嘘子を貫き殺す。

「どうしてよ……い、いつもはこうじゃないじゃない……助けに……来てくれるじゃない……」

 痛み、恐怖、黎明時間の肌寒さに、足が身体が震えだす。
 いつもはこんなことはない。
 こんな時間には嘘子は布団でぬくぬくと眠っているし、隣には兄さんがいる。

 ケガをしたら嘘子の兄さんはすぐに飛んできてマキロンを塗ってくれるし、
 例えばいじめっこにケンカを売ったとするならば、
 そのいじめっこは兄さんの手によって次の日には完膚なきまでに成敗されているため、
 嘘子は今までの人生でケガを負わされることさえほとんど無かった。

 盲目的に麻生嘘子を何故か守り続ける兄さんのことを、麻生嘘子は盲目的に信頼していた。
 だから目を開くことができなかった。現実に目を向けることをしなかった。
 また兄さんがなんとかしてくれると思っていた。
 自分に振りかかる恐怖も災厄も痛みも全部兄さんが肩代わりしてくれると信じていた。
 いたのに。

 なのに兄さんは、
 麻生叫は未だ、嘘子の前に現れない。
 嘘子がケガをしたというのに、現れる気配もないのだった。

「……兄さん……生きてる、よね……っ……あたしを守って……くれるよ、ねぇっ…………?」


 ――がしゃん。


「えひっ!?」


 がしゃん、がしゃん。がしゃんがしゃんがしゃん!!!! 「ひゅあ!!??」

 がしゃん、がしゃん、がしゃんがしゃんがしゃんがしゃん!!!! 「や、あっ!?」

 がしゃんがしゃんがしゃんがしゃんがしゃんがしゃんがしゃしゃん!!!! 「な、」


「な、な、な何ッ!!??」 

 そのときだった。
 突然嘘子の近くから、がしゃんという金属がこすれ合う音が聞こえたかと思えば、
 鎧が近づいてくるような、あるいは金属の箱を爪で引っ掻いて暴れているかのような、甲高い異音の連鎖が始まったのだ。

 駅の待合室という狭い空間に音が反響する。
 嘘子の他には誰も居ないのに、音が部屋を埋め尽くす。
 なにこれこわい。すでに竦んでいた足が突然の異音に逆に冷静になる、
 コントロールを取り戻して動く、何だかわからないけど逃げ、
 なきゃ、と思った麻生嘘子はそこで、不可思議な音が出ている場所に気付いた。


「……デイパック?」


 ――デイパックが動いていた。


 灯台下暗しと言うべきか。
 つい先ほど取り落したデイパックが、そのはずみで口を少しだけ空けていて。
 その中でなにかが、がしゃがしゃと動いているのが見えた。

 どうしてだろう、嘘子はすでにデイパックを確認したが、こんなものは入っていなかったはずだ。
 いや、そういえば嘘子は。
 “荷物を山村幸太にすべて持たせていた”。
 そして襲撃されて逃げる時には、幸太が刺されたときに落としたデイパックを持って――。

 あのとき取り違えたのだとすれば、つじつまが合う。

「こーた……」

 まるで幸太からのプレゼントのようなそのデイパックを、嘘子は開ける。
 中に入っていたのは横円筒式のポストに似た無機質な銀色のペット用籠であった。
 取り落とすまではこの籠の中で寝ていたため、暴れなかったし幸太も気づかなかったのだろう。

「……」

 鬼が出るか蛇が出るか、意を決して嘘子は籠の鍵を、開けた。






「たのもーーーーーーーーーーッ!!!!!」


 同時に、待合室の扉も開いた。

 待合室に入ってきたのは白の長髪の先をリボンで結び、フリフリの服を着て、
 ただし美しい顔を修羅みたいな形相にした、
 チェーンソーを持った少女、明智光秀であった。

「わうわうー」


 そしてペット用籠から出てきたのは、
 鬼でも蛇でもなく、なんとなく眉毛が太く見える、犬であった。


「    」


 一気に場の空気が変わりすぎて脳の処理に遅延が発生した麻生嘘子は、
 ただ驚いた表情のまま、しばらくその場で固まった。

「……の……のぶのぶ?」

 また、待合室に乗り込んできた明智光秀も、
 チェーンソーを稼働させたままその場で止まった。

 主君である織田信長のために他のチームの参加者を殲滅すると決めた彼女は、
 今しがた駅へ辿り着き、人の声がした部屋に討ち入りしたのだったが、
 まさかそこに探していたペットがいるとは思っていなかったのだ。

 互いにフリーズした少女二人。
 そういうわけでチェーンソーのぎゅいぎゅい音が鳴り響く中、
 最初に動いたのは、犬だった。

「わう」

 太眉の犬は、すりすりと。
 麻生嘘子の方へと歩くと、膝に顔を擦りつけたのである。



♂ ♀ ♂ ♀



「きゃあ!?」
「……のぶ、のぶ……?? のぶのぶなのか……?」
「わうー」
「ちょ、やめ! ……舐め……くすぐった」
「あの眉……のぶのぶ!?」
「わうぺろー」
「くすぐったいわよ、やめなさいってば、やめ」
「莫迦な……のぶのぶが私以外の人間にああもすり寄るなど……??」
「わうわう」

 殺し合いの場、刃音が鳴り響く緊迫事態において、
 犬と少女がきゃっきゃと触れ合うという異常な光景が駅の待合室で発生していた。

「どうなっているんだ……」

 この光景に何より驚いたのは明智光秀だった。

 なぜなら彼の愛犬のぶのぶは、とても気難しく、その上主人にしか懐かなかった犬なのである。
 同じくアイドル活動をしていた柳生宗矩にすら良く吠えて、身体を預けることはなかった。
 それが光秀の知らぬ金髪ポニテロリ少女の足を、恭順の姿勢で舐めているのだから、驚く以外に無い。

「のぶのぶ! のぶのぶ! こっちに! 私のほうへ来るのだ!」
「わうー」
「や、やめっ……ひゃう、そこ敏感になってるのっ、舐め、ないでよっ、バカ犬っ」
「聞いているのかのぶのぶ~ッ!! 私の言葉が聞こえないのか!
 この明智光秀の方に!! こちらへ戻ってくるんだ!!!!」
「わーん……わうー」

 ぷいっ。
 ――ぺろぺろ。

「ひゃん、や、あ! 
 っ、ぞくって来た、なにこの犬、舐めるの、上手すぎっ、よぉ……!」
「な……のぶのぶ……」

光秀が呼びかけると、のぶのぶらしき犬は一度舐めるのをやめて光秀の方を見た。
 しかし、すぐに少女の方へ向き直ると、彼女の膝の傷を舐めはじめる。
 それはまるで、光秀よりも少女のほうが重要であると言っているかのような動き。
 仕えるべき主君はこちらであると言ったかのような、そっけない態度……。

 いや、むしろ、光秀よりも金髪少女のほうが、“立場が上”だと暗に言っているかのような……。
 光秀より、立場が上……。

「莫迦な……いや、しかしそんな……!」 

 ここで光秀に天啓が降りた。
 慌てて目の前の少女の首輪を見やる。「R」だ。光秀の「P」とは違う。
 そうだありえない、
 いやしかし、
 “知り合いが同じチームだ”というのは光秀が一人で考えた推論であり証拠などはない。




「まさか……“信長様”……????」




 目の前の少女は金髪で、ゴスロリで、美少女である。
 生前の信長様は金髪でもゴスロリでも美少女でもなかったが、
 そもそも光秀もアルビノじゃなかったし、アイドルでもなかったし、美少女でもなかった。

 容姿が違うからと言ってそれが信長様で無いという保障はどこにもないのだ。

 そう、光秀は信長様がどこかで生きているか、同じように蘇ったのだと信じていたが、
 もし仮にどこかで信長様もまた蘇ったのだとすれば、
 それが“光秀と同じように少女である可能性”を考慮すべきではなかったか。

(わ、私は……冷静さを欠いていた!
 危うく……信長様の可能性がある人間を殺すところだった!)

 光秀は反省した。
 そして、光秀に冷静になる機会を与えてくれたのぶのぶに感謝した。
 うるさいのでチェーンソーのスイッチをオフにする。
 唾を呑み、意を決し、大きく息を吸って部屋中に響く声で明智光秀は問うた。

「そこな少女!!」

「……?」

「お前は――いや、あなた様は……まさかその……の、信長様なのでしょ、うか……?
 み、光秀です……私は明智光秀……! 信長様の、忠臣……犬に御座います……ッ!」

 精いっぱい武士らしく声を張り上げようとした光秀だったが、
 最後の方は尻すぼみになってしまった。
 明智光秀は信長様を全力で信頼し、前世レベルの盲目的な恋をしている。
 もしかしたら目の前に愛する人がいるかもしれないという考えが言葉を発しながら肥大化し、
 光秀は恋する乙女のような顔になって、もじもじとしてしまったのだった。



♂ ♀ ♂ ♀

(あたしが信長……? この人何言ってるの……ばかなの?)
 一方、その問いを聞いた麻生嘘子は、光秀の突然の質問にドン引きしていた。
 当たり前だ。
 明智光秀……は確か武将で、織田信長を裏切った?
 ことくらいしか知らないが、小学四年生の嘘子でも織田信長についてはよく知っている。

 嘘子の知っている織田信長は男だし、ヒゲとか生えてるし、ちょんまげだし、そもそも死んでる。
 間違っても嘘子とは似通っていない。

(殺し合いで気が狂ってしまったのかしら……かわいそうな人だわ……)

 パラレルな世界では偉人が美少女になって甦っていることなど嘘子が知る由もない。
 嘘子から見たら、明智光秀は、なぜか武将の名を名乗り、
 そのうえいるわけもない信長を崇拝し、さらには信長と嘘子を間違えている狂人であった。
 だが。

(でも、この人、チェーンソー持ってるし……慎重に答える必要がありそう……よね。
 「あたしが信長なわけないじゃない! ばかねえ」
 って……、ちょっと前のあたしなら言ったんだろうけど)

 いまだに膝をぺろついてくる犬にこそばゆさを感じつつも、嘘子は思考する。
 思考しなければならない。
 嘘子は先ほど、ルーズベルト(この名前もどこかで聞いたような気はするが、どこだろう)に対して、
 考えなしに正直な返答をした結果ひどい目に合わされたばかり。

 相手のふざけた質問にも、必ず意図が存在することを嘘子は学んだ。
 だから思考しなければならない。
 この場で辿り着くべき真実を。やらなければいけないことを。

 想像力を、はたらかせて。
 そうしなければ、嘘子に待ち受ける運命はチェーンソーによるまっぷたつ死だ。

(ああもう……こういうのは、ひなの奴の得意分野だってのに……)

 想像力といえば。
 嘘子は『参加者候補リスト』に載っていたもう一人の知り合い、クラスメイトの雨宮ひなのことを思い出す。
 いつもいつも自分の妄想の世界に入り込んでまともに授業も聞いてない、メルヘン少女。
 むかつく奴だったが、その存在は嘘子にとって一つのヒントになった。

 雨宮ひなはよく、物語の登場人物に自分を重ねることがあった。
 普段は居もしない空想上の友達と話している彼女だったが、
 例えば嘘子が朝読書で図書室から借りてきていた『ハイルドラン・クエスト』を読ませてみたときは、
 主人公である銀色大剣の少女に感情移入しすぎて、その少女になりきっていた。

 言動も普段のふわふわっぷりから考えられないくらいきちんとしたかと思えば、
 三角定規を彼女のメイン武器である『生体魔剣』に見立てて先生に切りかかるような真似までした。
 あのときの雨宮ひなは完全に物語の主人公と同化していて、雨宮ひなではなくなっていたように思う。

(この人が、ひなと同等かそれ以上の、“なりきり病”だとしたら……)

 殺し合いによる現実逃避か、あるいは本当にキチガイなのかはともかく、
 目の前の白髪赤目のフリフリ服の女の人もまた、自分を“明智光秀”、
 それも信長に忠誠を誓っていたころの光秀だと思いこんでいるのだとすれば。

(あたしに向かって、信長かどうか聞いてきたのは……“信長役が欲しい”ってことかしら……?
 どうやらこの犬はこの女の人の犬みたいだし。犬が懐いてくれたから、
 あたしはそんなに悪い人じゃないと判断されて、……あたしを妄想に巻き込もうとしてる……??)

 精いっぱいつじつまを合わせようとすると、そういう解釈になる。
 つまり、明智光秀のロールをするには信長が必要不可欠だから、善良そうな人に信長役をやらせようとしている、という解釈。
 オレ勇者やるからお前モンスターな! と男子がよくやっている感じのアレだ。
 なまじ明智光秀になりきりしている関係上、その旨を説明して興醒めになりたくないということだろう。

(ということは、あたしが答えるべきは……!)

 そこまでたどり着くと、嘘子の脳細胞は活性化した。
 どちらにせよ間違えたら死ぬかもしれないのだ。失敗するかもしれないが、やってみる価値はある。


 麻生嘘子は――嘘をつくことに決めた。

「――いかにも」


 TVでやってる時代物っぽい口調を真似し、嘘子は“信長”を、演じる。


「よく見抜いたのう……さすが余の忠臣じゃ。
 まさにその通り。余こそは織田信長よ。くく、光秀よ……再び余の下で働いてくれるな?」

「……は、ふぁ、……ふぁいいっ!! 一生御供させていただきましゅ!!」


 そして光秀は神を見るかのような崇拝表情になりながら膝まづき、
 犬と同じ目線から、信長様の足へと口づけしたのだった。


 麻生嘘子は思った。


(え、口づけとかするんだ……)



♂ ♀ ♂ ♀



「信長様と私を別チームにするとは言語道断にもほどがありますが、もはや取るべき手は決まっております。
 全員殺すのみです。信長様と私以外を全員鏖殺し、最後に私を信長様が屠って頂く、それ以外にありますまい」

 待合室にて電車を待ちながら、
 椅子に座る信長(嘘)とその膝で寝ているのぶのぶ(犬)を前に、光秀(女)は決断的に講釈した。
 ちなみに信長様がカワイイ女の子になったという事実を遅ればせながら噛みしめた光秀は鼻血を吹いてしまい、
 今は支給されていたティッシュを持って鼻に詰め物をしている。

「そんな……もうちょっと平和的な解決はないわけ? じゃなくて、えーと、ないのか?」
「????(゜Д゜)????」
「ひっなにその急に怖い顔」
「平和ボケしているのですか信長様?
 かつてのあなた様なら、こんなところで足踏みすらせずに嬉々として殺しに行っていましたよ」
「ほ、ほう、そうか……な、なにせ余も“蘇って”からは平和な生活を送っていたからな、
 確かに言われてみれば余も殺したい気分になってきおったわ、さすがだ光秀!」
「……の、信長様が私を褒めてくれた……ありがとうございますぅ……」

 うっとりとした表情で頬に手を当てる光秀。
 嘘子(信長ロール中)が上手いこと聞き出したところによると、どうやら彼女の中では、
 彼女は卑弥呼によって少女として蘇った戦国時代の武将明智光秀で、
 信長もまた本能寺で一度死に、現代には少女として蘇ったという設定らしい。

 なんだそれ……。

 小学生の妄想でももうちょっとマシなの考えるわよ、とツッコみたくなった嘘子だったが、
 あまりにも真剣に話された上、ちょっとでも彼女の考える信長から外れた言動をすると
 奈落の底から出てきた鬼のような恐ろしい表情で睨まれるのでツッコめないのだった。

「で、でも……いやしかし、余とおぬしの二人でどれだけ殺せる? そもそも何人おるかも分からぬのだぞ?」
「桶狭間を忘れたのですか。寡兵であろうと方法次第で勝利できると示したのは信長様、あなたではありませんか!」
「あ……そ、そうじゃったな……しかしもう少し仲間が欲しいのではないか?
 余には少し心当たりがあるのだが……」
「いりませぬな」

 そっと兄である麻生叫の名を出して仲間に入れることを提案しようとした嘘子だったが、
 光秀はばっさりと、仲間を増やすこと自体を切り捨ててきた。

「仲間を増やせば、裏切られます。私はあの反逆の本能寺を忘れておりませぬ」
「むう……(いや本能寺で裏切ったのあんたじゃなかったっけ……?)」
「私が十人、二十人分働けば、凡夫二百人までなら殺し得ます。
 それにそこの犬、のぶのぶもただの犬ではありませぬ。戦闘訓練を受けさせております故、
 実質的に飢えた狼のようなものであるとお考えください」
「……まじか……」

 ぺろぺろと嘘子の手を舐めてぽけーっとしてる犬すら光秀は戦力として扱っているらしい。
 というか、考えてみれば嘘子は信長なのだから信長も戦力。
 三人分なら確かに、そこまで悪くはないと考えられるだろう。

 実際のところ嘘子は嘘子だし、
 犬もただの犬にしか見えないし、
 光秀も鬼気迫るものを持ってるとはいえ少女にしか見えないが。


「信長様」


 光秀は完全に信長しか見えていないような目で嘘子に向き直った。


「私ものぶのぶも同じです。私たちは信長様の犬。
 信長様の為に生き、信長様の為に死ぬためだけに、爪と牙を研いで参りました。
 ですから、不安もありましょうが――しかと前を向いて。
 自信を持って天下を進んだあのお顔を持って。我々をどうか、傲慢なままに使ってください」


 それが私の望みです、と言う光秀。
 嘘子から見てもちょっとかっこいい口上ではあったが、嘘子の脳内は不安でいっぱいだった。

(どうしよう、兄さん……もしこの嘘がばれたら……これあたし、殺される)
(ううん、それだけじゃないわ、もし……)
(もしこのまま兄さんに会ってしまったら――兄さんがこの人に、殺されちゃう……!!
 でもそれを止めたら、あたしが疑われて……あたしが今度は、殺される……!!)

 光秀が自らの布を裂いて作った簡易包帯に巻かれた膝はまだ、じんじんと痛む。
 しかしそれ以上に嘘子にとってそれは、頭が痛くなるような話だった。
 本来ならば考えなくてもいいはずだった問いかけ。

 兄さんを殺さなければ、自分が生き残れなくなったとき。
 麻生嘘子は、どうすればいいのか……?



 ――かくして、信愛なる嘘にまみれた盲目的な戦は続く。



【B-2/駅・待合室/1日目/黎明】


【麻生嘘子@アースR】
[状態]:不安、膝にけが
[服装]:ゴシック調の服
[装備]:のぶのぶ@アースP
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考]
基本:他人の力を借りて生き残りたい。兄と合流したい。
1:兄さんに会いたい。でも今のままだと…
2:この人なんなの…とりあえず信長のフリしなきゃ
3:ひながいることに驚き
4:こーた…犬とかいってごめんなさい…なんかもっと犬な人が来た…
[備考]
※明智光秀を「変な設定の明智光秀を演じてる狂った人」だと思っています。
※支給品は山村幸太のものと入れ替わっていました。


【明智光秀@アースP(パラレル)】
[状態]:健康
[服装]:アイドル衣装
[装備]:マキタのチェーンソー@アースF
[道具]:基本支給品一式、ポケットティッシュ、ランダムアイテム0~1
[思考]
基本:信長様の軍を勝利へ導く
1:信長様の牙として信長様に仕える
2:信長様とチームが違うなんて考えもしていなかった
3:信長様はしかしどうやら平和ボケしておられるようだ
4:信長様を励ましながら他の参加者を殺戮する
5:信長様と私だけになったところで信長様に殺してもらう
6:そうして信長様を生かすしかもはや道はないというのに…
7:ああでも信長様めっちゃ可愛いなあ金髪ロリとかさあ
8:正直いって超タイプだし愛し合いたいラブしたい
9:でもまずは戦、戦だぞ光秀
10:戦でいいところを見せて、信長様に明智光秀が必要だと思われないと!
[備考]
※麻生嘘子のことを織田信長だと思いこんでいます


【のぶのぶ@アースP】
アースPの明智光秀が飼っていた犬。基本的に光秀にのみ懐く
光秀の手によって戦闘訓練がされ、戦えるように仕込まれているらしい

【マキタのチェーンソー@アースF】
闇の武器商人マキタの手によって造られた闇のチェーンソー
アーゴイルの店に置いてあり、その攻撃力と貴重な闇属性のマナ印加により
連日仕入れ中の人気商品であった

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最終更新:2015年07月01日 20:33