現実という名の怪物と戦う者たち

図書館1階の『読書コーナー』と書かれたスペース。
そこに私たちふたりは座っていた。
大きな机の上に私たちの支給されたと思われるものを広げて、それを挟む形で私と石原が座っている。
だが石原は支給されていたものには目をくれず、真っ先に『参加者候補リスト』に目を向けた。そしてリストを一瞥。やがて安堵に近いため息をついたあとに呟いた。

「東條のヤローはいねーのか」
「…東條英機のこと?

」石原莞爾の居た時代、1930年代において『東條』となると『東條英機』以外ありえない。
日本史の教師が言っていたことを思い出す。
東條英機と石原莞爾は犬猿の仲で、その喧嘩に負けて軍部を辞めるはめになったとかなんとか、私はノートにメモを取った記憶がある。

「腹立つヤローでな。俺はアイツのいけすかない感じが大嫌えなんだよ」

石原は右足を貧乏ゆすりしながら、眉間に皺を寄せる。
どうやらあの教師の話は本当だったらしい。
『喧嘩するほど仲がいい』ともいうが、石原の様子から鑑みるに本気で嫌っているようだ。石原のことを考えると東條英機が呼ばれていなくてよかったとも考えるが…ここで一度、しっかりと確認しておきたいことがあった。

「単刀直入に言う。石原莞爾、あなたはあの、本物の石原莞爾なのか?」
「本物もクソもねーだろ俺は俺だ」

石原は見ていたリストを机に戻し、支給されたと思われる日本刀を持ち、色々な角度から眺めながら私に返答した。
当たり前のように私に言葉を返した石原。
だが、その当たり前が私には疑問に感じた。なぜ過去の人間が私の目の前に居る?それが不思議だった。
そして、何故過去の人間を呼んで殺し合わせる必要があるのかも分からない。
…なんにせよ今必要なのは、私の考えていた『歴史』を、この男に言うのが必要だ。

「…落ち着いて聞いてほしい」

私は自分の授業の中で石原莞爾という人物を習ったこと、そしてそこから考えられることとして、私が石原にとって未来の人間だということを石原に伝えた。
ゆっくりと、私の拙い知識であるものだったが、思っていた疑問をひとつずつ、ゆっくりと伝えていった。

=================

「はー、なるほどキラキラ。てめーの考えはそーゆことか」

私がそのことを伝え終わったあとの石原の返事は思ったよりも普通だった。
私は、「驚かないのか?」と逆に驚かされたように石原に言う。
石原は配られていた名簿を私に見せつけるようにして、一つため息をついて、またその口を開く。

「ま、こんなことに驚いてたらキリがねーだろ。この名簿にはジャンヌ・ダルクだの松永久秀だの織田信長だのツタンカーメンだの居るじゃねえか。テメーが言う俺が歴史上の偉人になってたなら、こいつらも本物の偉人が来てる可能性がある」
「…ルーズベルト、ムッソリーニ、ヒトラーのことはどう説明する?貴方と同じ時代の人間だ」

それは私も疑問に思ったことであった。やれ織田信長だの徳川家康だの豊臣秀吉だの偉人たちが名を連ねていたからだ。
しかし私は単なる同姓同名かなにかだと考えていた。なにせ身近な存在として戦国武将と同姓同名の道雪ちゃんもいる。
さらに過去の偉人を蘇らせて殺し合いさせる必要性が感じられない。だが現に、石原莞爾が目の前にいる。
と、なると。
名簿の中にいるルーズベルト、ムッソリーニ、ヒトラーの三人は石原莞爾が本物だというのならおそらく、彼らも本物が連れてこられているはずだ。
だが彼らのことを私は知識として知っていても実際の姿は知らない。
故に石原に聞いておく必要があった。
石原はまた名簿を眺めるように見回しながら私の質問に言葉をかえした。

「ムッソリーニの奴はパスタしか食ってないらしいが、ヒトラーは気をつけた方がいいな。あいつは筋金入りの独裁者だ。この場でも何企んでるか分からん。あと、ルーズベルトも」
「その、ルーズベルトは敵国の人間だから、という理由か?」
「まあな、敵国『だった』んだが。未来だと、あいつはどうなったんだ?」
「…えーと…確か世界恐慌後に日本と戦争をして…そして『日本の敗戦』が決定的になったあとに」
「待ちやがれキラキラ。今なんて言った?」

石原が目を名簿から私の方に向ける。何かおそらく言いたいことがあるのだろうか。
ただ習った事として細かいところは違えども、大きな間違いはないはず…。疑問に思いながらも私は復唱をした。

「だから、『日本の敗戦』が決定的になったあと、ソ連やイギリスとヤルタ会談とかをして…」
「テメー、それは記憶間違いじゃないよな?」

「…まあ、大まかな流れに違いはないはずだ」と石原に私は返すと、石原は椅子から立ち上がって大きなため息をつきながら、私の方を向き教授するように口を開き始めた。

「いいか、はっきり言うぞ。日本は戦争に勝った。アメリカを倒して、今は枢軸国の時代になってるはずだ。テメーの学んだ『日本史』にはそういうことは書いてねえのか?」
まさか。
日本が戦争に勝った?そんなはずはない。
日本は天皇によって魔法少女の戦争使用は禁止されていたためにか他の国の魔法兵器などに対応が出来ずに敗戦したというのが常識のはず。
石原が戦時下の時からタイムスリップしたとしてもこう自信満々に返すことはない。
それに様子から見ても石原が来た時の日本はどうやら終戦後のようだ。これは一体?


「まさか、歴史が改変されたとか?」
「それはねえだろ。たかが数十年の歴史の改変は不可能だ。写真の媒体もあるし、経験ある奴もまだくたばっちゃいねえ」

…まあ確かにそうだ。
教科書というのは国によって好きなように作り替えられるものである。私はその可能性を示唆してみたが、確かに写真媒体もあるし当時の戦争を生き残った人も居て、敗戦のことを聞いている。
それに日本国内のことならまだしも世界を巻き込んだ大戦争。それを改変されたというのは言い難い。

「これは…どういうことだ?石原、あなたは───」
「…待てキラキラ。誰か来たぜ」

石原が何かに気づいたように、入口の方角を見た。
ここからは入口の様子を見ることは本棚があって見ることができないが、どうやって察したのだろう。
戦場に長い間いたから、そういう危機察知能力?に長けているのだろうか。
なんにせよ、信憑性は分からないが見に行く必要はあるだろう。

「行ってくる。待ってろ」

石原はそう言うと入口の方面へと歩みを進める。
右手には支給されたと思われる日本刀を持っているが、一人だと不安な面もある。
私も戦えないということはない。はずだ。
私は石原の「待て」と言う言葉を聞かないようにして、後ろから着いていこうとした。

「バカヤロー。テメー死ぬつもりか?」

石原からの冷たい言葉。
だが、彼なりの気配りなんだろう、とは思う。現に石原と私とは明らかな経験の差がある。
だけど、このまま待つのは単純に不安だというのもあるけど、この状況に指をくわえて見ているのも嫌だった。

「…頼む」

頭を下げる。深く深く。
足手まといになるかもしれないのは私が一番分かっている。だけど、行動に移したかった。
やがて、数秒後、石原は軽く息を吐くと、私にこう言った。

「…勝手にしろ、ただ迷惑はかけんじゃねーぞ」

=======================

「けいやく?けいやくってなに?くりおねさん」

ところ変わって同エリア。
雨宮ひなは困り、困惑していた。目の前に現れたもがき苦しむようにプカプカと浮いているクリオネが自分に話しかけてきたからだ。
ただ、ひなの年齢から考えて、クリオネの言葉は難しすぎた。
ひなとしても目の前のクリオネを助けてあげたいのはやまやまだが、そのクリオネの言う「契約」だの「魔法少女」だの、その意味がわからない。

『説明している暇はありません…!早く…早く!』
「ごめんねくりおねさん、たすけたいけど、ひなね、けいやく?のしかたがわかんない…ひな、おべんきょうできないから」

あたふたと、しかし泣きそうになりながらし、助けたいことをなんとか絞り出す。
ひなのお友だちにはクリオネは居なかったが、このクリオネのように浮かびながら難しい言葉使う動物たちは多くいた。
友だちの友だちは自分の友だち。
なんとかして救ってあげたい。
雨宮ひなはそういう少女だった。

『言葉に出せばいいのです!簡易的な契約になりますが、魔法少女になる、ということを口に出してください!』
「まほう…しょうじょ?くりおねさんはそれでたすかるの?」
『はい!…どうか!』

クリオネはもがきながらも、ひなの方を向きながら、途絶えそうになっている声色でなんとかして伝えようとした。
ひなはそれを聞くと不安そうな顔はそのままだが、少し希望を見出したような表情を見せて、クリオネをみつめた。
もはや時間はない。ひなに残されたものは、その「まほうしょうじょ」になり、クリオネを助けること。それしかなかった。

「くりおねさん…ひな、まほうしょうじょになるよ!」

一瞬の閃光。
やがてひなの体が青くキラキラと光り出す。それを見たクリオネがひなの胸元から体内に入っていき、しばらくするとひなの体は一、二回ほどびくん、と跳ねた。

やがてまた一瞬の閃光が起きた。
しかし、その閃光のあとに居たのは、普段通りの雨宮ひな。だが、先程と違うことがただ一つ。
ひなの周囲をくるくると、先ほどのクリオネが飛び回っていたことだ。

『…ありがとうございます。おかげで助かりました…
私は水を司るクリオネ型マスコットウンディーネと申します。以後よろしくお願いします』

クリオネ、いやウンディーネはひなの目の前に浮かびながら、先ほどの苦しんでいた様子とは打って変わって冷静な声色でひなに話しかけた。
一方のひなは突然落ち着きを取り戻したウンディーネに対し安堵しながらも、どこか不安げに首をかしげながらウンディーネに対し言った。

「うん、でぃー、ね?…わかんない。くりおねさんでいい?」
『はい。あなたのお名前は?』
「あまみやひな。よねんせい!」

ひなは目の前に来たウンディーネに対して右手を4の形にして突き出した。
ウンディーネは「ひな、ですか」と確認するように言葉を発するとひなの眼前へと姿を見せると、優しく、ひなの年齢でも分かるように、ゆっくりと話し始める。

『ひな、色々説明したいことはあるのですが、とりあえずここは危険です。早く離れた方がいい』
「あぶないの?」
『はい』
「…うん。わかった…あのね。くりおねさん、ひなね、としょかんに行きたい。えほんがよみたいの」

雨宮ひなに人間の友だちと言えるような友だちは居なかった。
彼女の事を同年代の子どもたちは揃いも揃って彼女の事を忌み嫌っていた。
彼女にとっての友だちは、空想の中に現れる動物たちだけ。
ゆえにこの場でもそういった動物たちに似ていたウンディーネのことを信用するのがいい、とひなは考えていた。

『確か図書館はあの女の反対方向でしたね…分かりました。急ぎましょう』

ウンディーネはそう言ったひなのことを確認すると、図書館の方へと向く。
向いた先には、大きな黒い建物がそびえ立っていた。おそらくあれが図書館であろう。
こうやって見るとなかなか殺風景なところにあるものだと考えてしまうが、ここでは気にしない。
運良く先ほどの松永久秀のいる方向とは別だ。あそこでひなを守れるような協力者を見つけるのも得策だ。

そう考えると、ウンディーネはひなを案内するようにして図書館へ向かい始めた。

=================

『ひな、気をつけてください。誰かが接近しています』

図書館の入口前まで来たひなとウンディーネ。
その時、ウンディーネがひなに向かって注意を促した。
ひなは突如言われた言葉にあたふたしながら、また不安そうに「わるいひと?」とウンディーネに訪ねた。

『分かりません。ですがいざという時は───私に従ってもらえませんか?』
「したがう?…おねがいのこと?」
『はい。お願いです』
「…わかった。くりおねさんに任せるね」

ウンディーネはそのひなの言葉を聞くとひなの背中からひなの体内へと消えていった。
魔法少女として闘う際に、マスコットは魔法少女本人と同体になる必要がある。
戦闘経験がないひなを闘わせてしまうかもしれないというのは酷であるが、いざという時なら逃げるほどのハッタリをかませるほどの魔力がひなにはどうやらあるようだ。

(…これは…アリアと同様、いやそれ以上かも…)

ウンディーネはそのことに疑問を覚えていた。
彼女、ひなの持ち合わせていた魔力は他の魔法少女たちと成分が違っていたからだ。
通常アースMGにおける魔法少女たちの成分というのは純粋に生まれ持った魔力から成り立っている。
故に全員が全員魔法少女になれるとは限らない。魔力が一定量ないと魔法少女の契約を交わしても実際のところ魔法少女らしい活躍はできないと言える。
平沢悠を初めとした生まれつき魔力が足りないような魔法少女たちはマスコットたちによって魔力の代わりとなるような感情などを代用としている場合もあるが、特例中の特例だ。

ウンディーネはひなの魔力をもう一度確認してみる。
魔力にしてはどこか不安定。しかしはっきりとした魔力の成分は感じられた。
こういった魔力の成分は、学校で習ったもので見たことがないもの。

(…成り行きでこうなってしまいましたが、これは…)

───もしかしたら彼女なら───
そう思えてしまうほどの強力さをウンディーネは感じていた。

その感情をひなが感じ取るわけもなく、ひなは図書館へとゆっくりと入っていく。
自動ドアの前に立つと、ゆっくりと自動ドアが空いた。受付のおばさんや地域のおじいさん。自分よりもちいさなこどもや受験生で賑わう図書館の姿はなく、ただ本が規則的に並べられているだけの空間。
不安になった。まさか自分一人になってしまったのではないか、と。
受付の壁にあっあ図書館の見取り図を確認する。
「絵本コーナー」はあるようだ。だが自分で行くには少し難しい。
どうやっていこうか。ひなは考えていた。
近寄る姿のことを、忘れるまで考えてしまった。
「おいおいマジか」

受付を眺めていたひなを見た瞬間石原はそう呆れるように、かつ驚きながらそう呟いた。
目の前に居たのは自分の娘よりも若い子どもだったからだ。いや、綺羅星も石原からしたら赤子のようなものであるが、まさか綺羅星よりも年下の参加者がいるとはとは思わなんだ。
石原の存在に気づいただろうひなが、受付から目を石原、そして後ろにいた綺羅星へと向ける。
あどけない顔。しかし油断はしない、するつもりもない。
石原は持っていた日本刀に手をかけながら、注意深く冷たい口調でひなへと言い放つ。

「とりあえず聞くぞ。テメーは俺らとチームが違うが、殺し合いに乗ってんのか餓鬼?」
「石原!この子は子どもだぞ!こんなに小さい子どもがそんな…」
「キラキラ、こいつよりも幼い餓鬼が満州では襲ってきた。幼いからって信用すんなよ」

綺羅星の静止を押さえつけるように、石原は口を開いた。
石原莞爾が居た満州国において反日感情を持ち合わせてた現地の住民が多く彼らの襲撃を受けた部下たちを多く知っていた。
その襲撃には老若男女関係がなく、皆が皆明確な殺意を持ち合わせ、殺しにかかっていた。
石原はそのことを知っている。ましてやこの場所に連れてこられたとなるとどんな力を持っているかは分からない。

油断は少しもできない。「しかし…」と呟く綺羅星を差し置いて、石原は少しもその表情を変わらせることはなかった。
一方のひなは、突如として向けられた『殺意』を察したのか、逃げ出そうになっている。

「石原…!この子はやはり───」
『夢野綺羅星…!あなた夢野綺羅星ではないですか?』

綺羅星が石原に何か言いかけた時、ひなの背後から、クリオネ型マスコットのウンディーネがふわふわと石原と綺羅星の前に現れた。
突如として現れた謎の生物。
石原は何のことか分からず、疑問そうな顔を向けるが、綺羅星はそのウンディーネのことを知っていた。
大きく目を見開き、驚きながら綺羅星はウンディーネに対し口を開いた。

「君は先輩の…!先輩は!アリア先輩はどうなった!?」

夢野綺羅星の高校の時のよくしてもらった先輩の久澄アリアの不思議なペット。
アリア曰くここまで不思議でありながら魔法少女のマスコットたちとは違うというから驚きだった。

(なお、アリアの言葉の意味は『他の魔法少女のマスコットたちとは格が違う』という意味だったのだが言葉足らずのために綺羅星に伝わることはなかったのだが)

そばをくるくると飛び回るクリオネ、ウンディーネというこの子はアリアと常に仲良くそばにいる存在。
何故、ここに───?

その時アリアが笑いながら言っていたことが頭をよぎった。

「私とウンディーネは一心同体なんだ。片方が居なくなっちゃったら死んじゃうかもね」

…まさか。
綺羅星の頭に一つの最悪のシナリオが浮かんだ。
離れることができない二人が、何故今離れている?
離れているということは、まさか。

「…アリアは、死にました」
「え………」
『守りきれなかった…アリアを守るのが、私の役目だったのに…!』

ウンディーネは悔しそうな声色で、そう言い放った。
自分が長年一緒に居た相棒を助けるどころか力にもなれず、命を賭して助けてくれた。
その恩と、力になれなかった悔しさがウンディーネを襲っていた。

「先輩が…?あの先輩だぞ…!私よりも強くて!優しくて…頼りがいのある人だ!
なぜあの人が死ななきゃ…まだ殺し合いが始まって数時間しか経ってないじゃないか。
…なのに。なのにこんなに、こんなに早く死ぬなんて…そんなの、そんなのってないだろっっ!!!」

綺羅星は叫ぶ。現実を受け入れれずに。
自分を幾度となく助けてくれた先輩が死んだという事実に負けそうになっていた。
やがていつの間にか綺羅星は崩れ落ちるように地べたに座り込み、下をうつむいてしまったまま動かなかった。

しばらくの沈黙のあと、石原が綺羅星のことを一瞥したあとに、頭を掻きながら、ゆっくりとひなのウンディーネに近寄っていた。
綺羅星の事は、今は触れない方がいいはずだ、と考えていたからだった。

「…おい待ちやがれ。なんだソイツ?なんだそのフヨフヨして浮いてるのは?」
『…あぁ紹介が遅れました。私はクリオネ型マスコットのウンディーネと言います。あなたは…』
「待ちやがれっつてんだ。テメーの名前よりも、なんだ。どういう仕組みだそれ?」

ウンディーネに向けて指を指しながら、疑問そうに石原は尋ねる。
ウンディーネはふわりふわりと浮きながらも驚きを伺わせるような声色で石原にその疑問の答えを返した。

『珍しい方ですね、今の御時世で魔法少女のマスコットを知らないのは』

石原の単純な質問に対し帰ってきたその答え。
驚いていたのは石原と綺羅星の二人だった。
石原は単純に聞いたことがない『魔法少女のマスコット』という存在と、またその事をあたかも当たり前のように言う目の前の非科学的なクリオネに対して。
綺羅星はあのアリアが魔法少女だったという事実と、魔法少女であるなら闘えたはずのアリアを倒せる程の強い人間がこの殺し合いに居るということに対して。

「…!クリオネちゃん!君は魔法少女のマスコットだったのか!」
『アリアから…伝えられてないのですか?』
「おい、おい待て。そのことはすまないが後にしてくれねえか。なんだその魔法少女ってのは」
「石原、貴方の時代にも居たはずだ。『魔法少女』という存在が。確か国際条約で魔法少女の戦争の使用は禁止されていたと私は習ったが…」
「国際条約?…そんなもん結ばれてねーぞ」

二人は驚きと矛盾と疑問を解決しようとウンディーネに詰め寄った。
二人と一匹はお互いの意見の答えを探しながら、質問しては答えるの繰り返しを続けていた。
三分ほどだろうか。
進展的な意見は出ないままであったが、残されたように見つめていたもう一人が、ゆっくりと口を開いた。

「おじさん、おねえさん。ふたりは、わるいひと?ひなのこと、どうするきなの?」

それを聞き言葉を止める一同。
敵意がないことを伝えるのを忘れていた。それに、ウンディーネと綺羅星は知人であるしこんな議論をしているならばひなも殺し合うことはないだろう。
それに殺し合いに乗ってるならばすでに攻撃をしてくるはずだ、と。

ゆっくりと、綺羅星がひなの元へ向かった。顔を見る。セレナと同い年くらいだろうか。まだ幼い。
こんな子を殺し合いに巻き込ませるなんて、と綺羅星は怒りを覚えたがそれを露にはせず、まずは穏やかな顔つきと口調で、ひなの視線に自らの視線をかがんで合わせながら言った。

「…えっと、ひなちゃん?でいいかな。君のお友だちのクリオネさんと私は知り合いなんだ。それに私たち二人はひなちゃんを傷つけることはしないよ」
「ほんと?くりおねさん、そうなの?」
『はい。少なくともその方は私の知り合いです。奥の男性は…』
「…石原莞爾だ。少なくともこの殺し合いには乗ってない…」

それを聞いたひなはほっと一息をついて胸を撫で下ろす。
そして受付の地図を指さしながら、綺羅星に尋ねた。

「…ひな、えほんよみたい。おねえちゃん、えほんコーナーってどういけばいい?」
俯くひな。
綺羅星は自らの妹の姿を重ねていた。こうやって落ち込んでいる時はいつも優しく励ましていたものだ。
困ったことがあるとすぐに助けを求めてきた妹。もしこの殺し合いに巻き込まれていたら…。
頼りになる先輩も死んでしまった今、本当に自分が妹を始めとする知人たちから助けを求められても助けることができるのか。
不安だった。
正直泣き出したい程だ。
だが、ここで泣くわけにはいかない。守る者がいる者として。
目の前のこの子を守らなければ。

「…分かった!お姉ちゃんが案内してあげよう!ほう…こっちみたいだな!おいで!」

綺羅星はにっこりと笑いながら、ひなのてを引いた。強引にではなく、ゆっくりと。優しく導くようにだった。
妹を引き連れる姉のように、ゆっくりとだった。

「ほんと?ありがとう!お姉ちゃん、おなまえなんていうの?」
「夢野綺羅星だ!ひなちゃんは絵本好き?」
「うん!だいすきだよ!」
「そうか!朝になるまで、お姉ちゃんがたくさん読んであげるぞ!」

まるで本当の姉妹のように、手を繋ぎながら『えほんコーナー』に向かう二人を、石原とウンディーネは見つめていた。
まだ聞きたいことはあったのだが、ひなと綺羅星が居なくなっては仕方ない。

二人が向かい始めて少ししてからウンディーネが呟くように石原に言った。

『…強い方ですね。綺羅星は。
自分の先輩が…殺されたというのに。自分の家族が巻き込まれているかもしれないのに』

悔しそうに、無念そうなウンディーネ。
ある意味同情の念にも近かったし、自分の親友のようだったアリアを守れなかった申し訳なさも、それに含まれていた。
それを聞くと、石原は一息深く息を吐きながら、受付の方へと向かった。
やがて受付の裏のところにあった『当図書館の配置図』と書いてある紙を見つけ出すと、ほかにも何かないか探し出していた。

「勘違いすんなよフヨフヨ。
あいつは強くなんかない。ただ現実を受け入れたら壊れそうになってるだけだ。
だからあの餓鬼に向けた笑顔も、どこかひきつってるふうに見えたね俺は」


フヨフヨとは、おそらくウンディーネのことだろうか。
石原は受付から頭だけだして、ウンディーネに言い放った。
この石原という男はおそらくただものじゃないだろうということだけは、ウンディーネは考えていた。
こうして受付をずかずかと調べる大胆さと先ほどの殺気のような冷たさ、冷静さを持ち合わせている。
この男のことについても聞いておく必要がある。
そのことがどうも気になるが、今は雨宮と綺羅星の元へ向かうのが先決だろう。

『…石原さん、でいいですか?
私のいた世界と貴方がいた世界とでは違いがあるようです。いえ、それだけではありません。ひなも私の事をマスコットだと知りませんでした。何かしら裏があると思いますが、ひなから離れるのは怖いのでまた後でお話しましょう』
「…あぁ、それでいい。今は考える時間よこせ。頭の整理がついてねえ」

それを聞くとウンディーネはふわふわと浮かびながら、綺羅星とひなが向かった先へと進んでいった。
それを確認すると、石原は受付にこれ以上必要なものがないと見切りをつけ、立ち上がり受付から出る。
相変わらずこの図書館は不思議だ。
こんな多くの電子機器がある図書館を石原は知らなかった。
おそらく綺羅星の言うとおり、自分は彼女から見たら過去の人間だろう。
だが、「魔法少女」?そんな存在は過去に存在していない。
条約がどうこうした記憶もない。となるとこれは単なるタイムスリップではない可能性も頭に入れる必要があるかもしれない。

そのことはまた落ち着いてから他の参加者と情報交換する中で考えるとして、今はこの面子でどう殺し合いを乗り越えるべきか、それが先決だ。

(魔法少女…ねぇ…あの雨宮って餓鬼見たところ戦闘経験もなさそうだし戦力に加えていいのか…)
ウンディーネが魔法少女のマスコットであるというなら、あのひなという少女が魔法少女である可能性が高い。
ならば彼女は一般人なのか戦闘員なのかどちらにカウントすべきなのか。
いや、彼女を抜きにしても中年でろくに戦場の前線に居ないオヤジと武道をかじった程度の女学生。
これは戦力に不安がある。
魔法少女だとか、知らない敵が出てきてくるかもしれない。
敵の情報があればそれに似合った作戦を考えれるのだが。臨機応変に対応するしかなさそうだ。

(ま、それをどうにかするのが参謀だろ)

昔を思い出す。

「石原ァァァァァァ!!オヤジの仇、取らせてもらうッッ!!!」

張学良。
一度死んだものの改造手術を受けて、自分の親の敵討ちといって戦争を仕掛けてきた男。
同じように改造された兵士20万を連れて、挑んできた。誰もが絶望した。
関東軍には1万とわずかの平凡な兵士のみ。皆撤退を叫んだ。
そこで開戦し、張学良を打ち破ったのは誰だったか。
いわずとしれた、石原莞爾本人の策略だった。

(戦争は量じゃねえよ、力でもねえ。どう使うかが大切なんだよ。いかにこっちの被害を少なくして強敵を打ち破る。それが楽しいとこだ…!)

石原は口角を吊り上げる。
なぜかはわからなかった。楽しんでるわけでもないのだが、なぜかそうしたのだ。
頭の中で様々な策略が思い浮かぶ。
活動停止していた脳細胞が久々に動き出しているのが分かった。

「帝国陸軍の異端児」。そう呼ばれた男石原莞爾は、二人と一匹の後ろを追いかけるように歩み出すのであった。
まだ見ぬ敵を倒す策を思い巡らしながら。

【D-5/図書館 入り口前 受付/1日目/黎明】

【夢野綺羅星@アースMG】
[状態]:精神的不安、落胆
[服装]:神王寺学園制服
[装備]:フランベルジェ@アースF
[道具]:基本支給品、BR映画館上映映画一覧@アースBR、南京錠@?
[思考]
基本:知人たちを助け、この殺し合いを終わらせる。
1:…先輩
2:セレナが不安
3:ひなを守る
[備考]

【石原莞爾@アースA】
[状態]:健康
[服装]:甚兵衛
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ナポレオン・ボナパルトの伝記@アースR、図書館の見取り図@現地調達、三日月宗近@アースE
[思考]
基本;とりあえずは主催に対抗してみるか
1:キラキラ(綺羅星)に付き合う
2:東條のヤローはいねえのか。クソが。
[備考]
※名簿を見ました。

【雨宮ひな@アースR(リアル)】
[状態]:普通
[服装]:かわいい、オーラまとっている
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~3
[思考]
基本:ひな、どうすればいいの?
1:魔法少女って?
2:図書館で本を読んで心を落ち着けたい。
3:きらぼしおねえちゃんに本を読んでもらう

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最終更新:2015年05月29日 19:58