彼らは幾ら叫べども、灰色世界に抗えない

「ふん、怪獣か」
「……」

 空の頂点から無機質な声が発された。
 B-7、灰色に錆びた廃工場の頂点に、二人の男が並んで座っていた。
 もう煙を噴き上げることもない、ただ巨大さだけが残った煙突機構の頂上足場に座るのは、
 灰色の男――早乙女灰色と、口縫いの少年――麻生叫だった。

 彼らはお互いに何をするでもなく、ただ高層の風に髪を揺らしながら、正面を見据えていた。
 二人の正面遠方に広がるのは地図上では飛行場となっている場所であったが、
 今はその場所はただの火の海と施設の残骸となっていた。
 その中心には50m級の巨大怪獣が現れており、なにかの八つ当たりのように火の海を作りながら暴れている。

「見たこと、あるのか?」
「オレの世界にはあんなデカいのは流石にいなかった。だが、ああいう怪物はよく作られる。
 元は動物だったり人間だったりだ。たまに天然ものもどっかから発掘されてくるがな。
 ――だいたいは本人の意思を無視して化けさせられた上、暴れ“させられてる”哀れな生き物だ。
 あいつもそのクチだろうな。その上こんな世界に連れてこられて、可哀想なことだ」
「……あんた、誰かを可哀想だとか、思うのか。驚きだ」
「よく勘違いされるが、オレは感情を消したわけじゃない。
 むしろ、感情的な方だよ、プライベートでは。スポーツ・ゲームの勝敗に一喜一憂したりもする」

 怪獣を前にしつつも、全くトーンを替えずにクレバーに。
 灰色は隣に座る少年に顔を向けて無表情で言った。

「ただ、安全とか、現金とか、地位だとか。そういったものを守るためには、非情になるってだけだ」
「そうか。……無理してるんだな」
「生きたくもない世界で生き続けるには、そのくらいしないとダメなんだよ。……お前もそのクチだろ」
「……」
「見た瞬間に分かったぞ。お前はオレと同じだ、麻生叫。
 生きる意思がないのに、義務感と惰性で生き続けてる。オレと同じ、“灰色の生き物”なんだろう」
「……そう、かもな」
「せっかくだから、酒でも交わそうか」

 灰色が取り出したのは支給品のワインだった。
 グリ・ワイン。白ワインと赤ワインの中間にあるロゼワインよりさらに白ワインに寄った通称:灰色のワインは、
 色の無くなった世界で生き続けていた二人にはお似合いのワインだった。

「……俺、まだ未成年……」
「そんな法律なんかないだろ、この世界には」
「……なら、頂く」

 グラスのようなものはないので、コルクごと瓶の口を灰色が手刀で切断したあと、回し飲みする形になる。
 口が切れるかも知れないから注意しろと灰色がどやした、麻生叫は「もう切れてる」と返した。
 二人は無言でワインを飲んだ。
 リアル怪獣映画のワンシーンのような光景を見ながら、空に取り残された場所で呑むワインは、破滅的な味がした。

「……大切な奴がいたんだ」
「そうか。オレもだ」

 そして、どちらともなくぼろぼろと、煙突の中にこぼすようにして。
 鮮やかな世界を灰色へと替えてしまったその理由を、懺悔のトーンで話しはじめる。
 まずは、麻生叫から。


 【麻生叫の場合】


 “――俺の口がこうなったのは、五年前のことだ。五年前、俺はバトルロワイアルに巻き込まれた。
  平和だった俺の世界は、悪魔によって地獄に変えられた。
  林間学校に向かうはずのバスが付いたのは、安全が約束された森の中の体験施設なんかじゃなく、
  廃村を改造して作られた、バトルロワイアルをするための世界だった。”

「五年前というと、お前、まだガキだろう」

 “ああ、小学5年だった。――引率の先生が殺されて、バスガイドが悪魔の本性を現した。
  ガスで眠らされて、起きてみれば俺はひとりきりで、首には首輪が嵌ってて。
  お菓子と宿泊道具と夢が詰まってたはずのバッグは、銃とナイフが詰まった殺戮道具に変わってた。
  俺は、殺すことにした。俺には、生き残って欲しい人がいたから。”

「恋人でもいたのか? ガキのくせに?」

 “そんなんじゃない。ただの幼なじみだ。でも、聡明で大人びてて、すごいやつだった。
  ピアノが上手くて、コンクールでも賞を貰えるくらいだった。
  林間学校の後、ちょうどその年のコンクールがある予定で。あいつはそれに向けて頑張ってた。
  俺も死にたくなかったけど……生き残るならあいつだ、と俺は即座に思って、行動に移した。”

「殺したんだな、クラスメイトを」

 “ああ。
  仲良く休み時間に遊んでたやつも、特に親しくなかった女子も、平等に殺した。
  小学生の殺し合いに、本人のスペックでの絶対優位なんて存在しない。
  誰だって誰でも殺せる。
  強いて言えば俺は他の奴らより体格が少し良かったし、陸上クラブでスタミナもあった。あといい武器も貰ってた。
  素人だらけの殺し合いなら、当たらない銃より一撃で致命傷を与えられる手斧の方が絶対強いだろ。”

「まあ、そうだな。――それで、お前はなんで生き残ったんだ?
 お前が生き残らせたかったその幼なじみが、知らんところで殺されてたか?」

 “そうじゃない。幼なじみも――あいつも、俺が殺したんだ。”

「何?」

 “あいつと俺が出会った時、
  あいつは気が狂ったクラスメイトに、めちゃくちゃに犯された後だった。”

「……。なるほどな。
 極限状態なら、そして小学校だろうと高学年なら――そういう展開も、在りうるか」

 “俺は気の狂ったクラスメイトのほうに、とりあえず襲いかかった。口を大きく切られたけど、どうにか殺せた。
  そのあとあいつに、手を差し伸べようとした。あいつは首を振った。
  あいつは俺の手を握り返せなかったんだ。
  犯すときに反抗されないように、両腕を、復元できないくらいぐちゃぐちゃにされていたから。”

「……」

 “それでも。あいつは俺の知る、聡明なあいつのままでいてくれた。俺に向かって、あいつは言った。
  【私はもういい。殺してくれ、そして生き延びてくれ。嘘子ちゃんを守ってやれ――】って。”

「嘘子?」

 “妹だ。……だから俺は、あいつを殺した。
  それがあいつの望みなら、叶えなきゃいけないと思ったからだ。
  最終的にクラスの30人のうち16人殺して、俺はその殺し合いを生き残った。
  そして言われた通り、妹のために生きることにした。”

 “……急に転校せざるを得なくなったから、妹には嫌われた。 
  いまも嫌われてるし、利用すらされてる。俺もそんな妹のことはあまり好きじゃない。
  でも、それでいい。たくさんの大事なものを殺した俺が、妹に感謝されるなんて、おかしいから。
  だからこれでいいんだ。……あんまり俺に設定を盛りすぎられるのは、困るけどな。
  もし過去を調べられたりしたら、普通に生きるのが難しくなる。”

「ともかく――それで、灰色のまま生きることになった、か」
「……」
「好きでもない妹のためにでも、生きるしかない人生か……ふん、考えるだけで寒気がするな」

 だが羨ましいな、と灰色は言った。
 そしてぐび、とワインをあおった。

「だが、お前は。大切な人を自分の手で殺せたんだろう。オレは、お前が羨ましい」
「……それは、どういう意味だ?」
「言葉通りの意味だ」
 灰色は空になったワインの瓶を煙突の中に捨てた。

「オレはそれができなかったし、それをしてもらうことも出来なくなった。だから惰性で生きている」

 そして早乙女灰色は、
 彼がこの世に縛られることになった事件について、話しはじめた。


 【早乙女灰色の場合】


 “オレの姉さんは、早乙女鉛麻という。ヒーロー、だった。 
  日常的に悪がはびこるオレの世界にあって、いたって真っ当なヒーロー、だった。
  姉さんを尊敬していたオレが、姉さんの後を追ってヒーロー養成学校に入ったのも、自然な流れだ。
  強くて綺麗で真っ直ぐで……姉さんはオレの理想の人。だった。”

「……だった、ってことは……」

 “ああ。そうだ。姉さんは、もう死んでいる。十七年前の、雨が降る夜だった。
  ヒーロー養成学校の研修として、ヒーローのサイドキック――姉さんのお供になっていたオレは、
  姉さんと一緒にヴィランと戦っていた。”

 “強い敵ではなかったが、妙にしつこいヴィランだった。
  それに何故か、姉さんを狙うそぶりを見せていた。
  怪しいと思ったオレはそいつをふんじばろうとしたが、ミスをして、そいつを姉さんの方に逃がしてしまった。
  姉さんのほうにももう一人ヴィランが押してきていて、いくら姉さんでも限界だったのに。”

 “……オレが辿り着いたときにはもう、姉さんは瀕死だった。
  今にも死にそうな姉さんは、オレを見て悲しそうに言った。
  【ああ、残念だ――殺されるならお前に殺されたかったのに】とな。”

「……?」

 “その言葉の真意を測ることは、その当時のオレにはできなかったが、
  姉を失った悲しみが、オレを自暴自棄にした。
  オレだって、殺されるなら姉さんに殺されたいと思うくらいには、姉さんを愛していたんだ。
  オレは失意のままに、それでも成績だけは優秀に、
  アカデミーを卒業し……給料が良いという理由だけで、日本政府直属のヒーローになった。”

 “いや、まだこのころは。姉さんと同じ職業を選んだという時点では。
  まだオレの世界には、僅かな色が残っていたのかもしれないが……。
  オレはここで、姉さんの言葉の真意を知ってしまった。”

「どういう……?」

 “簡単な話だ。ちょっと考えれば分かることだ。最初に言った通り、
  オレの世界には周期的に、そして恒常的に悪が現れている。
  だがこれは普通に考えたらおかしい。お前もおかしいとは思うだろう?”

「……まぁ」

 “悪は滅びぬ、何度でも蘇る。
  もはやオレの世界の常識であり、
  ヒーロー志望も一般人も、誰も疑問を持たない、無論オレも疑問を持っていなかった事柄だが、
  普通に考えてそんなことが何十年も続くはずがない。”

 “これにはからくりが存在していたんだ。
  簡単に言ってしまえば、すべては日本政府のマッチポンプだ。”

 “オレの世界の日本政府は、ヒーローを擁して悪を討つ裏で、
  ――政府にとって都合の悪い存在を、悪に仕立て上げていたのさ。”

“もちろん政府と関係のない悪の組織や、単発のヴィランも多くある。
  だが、いくつかの悪の組織は、政府の子会社のようなものだ。
  貧民が沢山いる町を扇動して悪の組織化させ、その町ごと潰すこともあれば、
  開発計画の立ち退き命令を拒否する家の両親を怪人化させたりなんかも、日常茶飯事だった。”

「……!」 

 “悪は民衆の意思が作るものだ。そしてその民衆を従える政府は、悪を作ることが出来る。
  さらに人体改造や怪人化、洗脳の技術もある以上、やりたい放題ってわけだ。 
  本人の意思を無視して化けさせられた上、暴れさせられてる哀れな生き物。
  オレがこれを可哀想だと感じる意味も、少しは分かっただろう。”

「……ああ。でもそうなると、あんたの姉さんは……」

 “十中八九、オレと同じようにこのからくりに気付いていただろうな。
  そして姉さんは、気付いたことを感づかれて、消された。
  あの夜のヴィランの不可解なそぶりと合わせて、こうとしか考えられない。”

 “姉さんの言葉の意味も、ここまで知れば簡単だ。
  オレが姉さんに憧れてヒーローを目指したから。姉さんがオレをヒーローにしたから。
  ヒーローの裏を知ってしまった姉さんは、罪悪感を感じていて。殺されるならオレにと言ったんだ。”

「……それなら」

 “復讐しないのか、だろ?”

「……」

 “無理だな。
  一人で国に刃向かうことなど出来はしない。
  それに、日本政府をぶち壊したところで、政府に関わりのない悪の組織が国を支配するだけだ。
  どのみちオレの世界には、悪が生まれる土壌が整ってしまっている。
  もっというなら、ヒーローに希望を抱き、悪を憎むことで、世界が上手く回ってしまっている。”

 “その風潮こそが悪だとオレには思えたが――もはやどうしようもない。
  オレ一人の復讐心だけでそれを全て白紙にして、それで何になるのか――何にもならない。
  オレは政府に屈することにした。知ったことを明かした上で、歯車になることを申し出た。”

「そして……灰色に」

 “ああ。自分で死のうかとも思ったこともあったがが、
  姉を殺してあげられなかったオレに、自分で死ぬような資格はない。
  それに政府に関係のない多数の悪の組織がこのサイクルを壊さぬよう、政府のヒーローは必要だ。
  オレはヒーローをただの仕事として、やることにした。灰色の生活の始まりというわけだ。”

「……」
「ハッ、話してみればこんなものだ。オレもお前も。死者と世界に呪われて今を生きてる。
 自分より大きなものに刃向かうことができずに、クソみたいな結果と理由だけを胸に、歩き続けてるんだ。
 いやそれも、もう過去形か。オレもお前も、この世界に呼ばれちまったんだからな……」
「……」
「それよりほら、見ろよ。お前が言ったとおり、
 あの怪獣もこの世界に“馴染まされて”きてるみたいだぞ」
「……あー……すごいな。ああなるのか」

 話を終えた灰色が、こちらへゆっくりと歩いてきている怪獣を指差して、自嘲気味に笑った。
 麻生叫と早乙女灰色が、
 怪獣の姿を確認しながらもその場から逃げずに会話や酒盛りを続けた理由がそこにはあった。

 50mはある怪獣の身体は、こちらへ進んできてるにも関わらずその見かけの大きさが変わっていない。
 つまり怪獣の身体は、縮んできていた。
 それと同時に怪獣の身体は、怪獣とはかけ離れたものへと変わってきていた。


 さらに言うならば――“ヒト化”してきていた。

 【ティアマトの場合】


 平沢茜という悪魔は、バトルロワイアルが好きだ。
 怪獣映画でもパニックホラーでもない、バトルロワイアルが好きなのだ。
 バトルロワイアルを構成するにあたって大事なのは、
 知人がいることと、極限状態であることと、そして何より誰が勝つのか読めないということ。
 そして前提条件として、“人間”が争わなければ何の意味もない。

 だから、バトルロワイアルのために造られたこの世界では、怪獣は“人間の枠”へと押し込められる。
 人間が勝てるレベルへと。首輪の力によって、強制的に姿を“替えられる”。

 麻生叫にはそれが分かっていた。
 彼は優勝者として、平沢茜のことをよく知っていたし、
 どうやらこの殺し合いが平沢茜よりさらに力をもった“平沢茜ではない平沢茜”
 によって開かれたであろうことも、当の本人から聞いていたからだ。

 怒りとヒトへの憎しみに囚われたティアマトの身体が、首輪の力で変化していく。
 原初の怪獣としてティアマトが首輪の力に抗えたのも、最初の一時間が限度だった。
 ティアマトはその50mの身体を徐々に縮めはじめ――それとともに外見も、
 ティアマトが最も憎むそれへと、変化させられていく。

 後頭部のヤギ角はそのままに、
 血の赤と本来の体色である黒が混じった長髪が頭部からバサバサと生える。
 身体を覆う体皮装甲は……胸部と股部そして腕・足の先の爪部のみを残して後退し、
 その他は褐色の人間の肌へと変わった。
 唯一立派な尻尾だけが、アースBRへの最適化前とほぼ同じ状態で残る。

 縮尺は10分の1。怪獣はいまや体長5mの“怪人”へと変貌した。
 ――無論脅威であることに変わりはないだろう。
 50mだったときのパワーがおそらくそのまま、あの小さな体に凝縮されたのだから。

 それでも、差し当たってすぐ逃げるというほどの話ではなくなった。
 突然縮小した身体に怪獣は気付くことなく、今までと同じペースで地面を踏みしめながら歩いている。
 あれではこの廃工場エリアにたどり着くのでさえ、もう数十分はかかってしまうだろう。

「さてどうする、少年。オレと一緒に、あいつを討伐するヒーローごっこでもしてみるか」
「……そもそも自分ですらする気がないものに、俺を誘わないでくれ」
「ハッ、ジョークだよジョーク」

 二人はティアマトが小さくされたのを確認し、ひとまず満足した。
 ゆるやかに立ち上がると、怪獣に背を向けて歩き出した。
 煙突を下りるための鉄製の階段を、カンカンと小気味よく降りていく。

「にしても……やれやれだ。まったくやれやれだ。
 エンマはまだ教育が完全ではない。本来ならもっと悪を断罪するだけの存在へと昇華させたのち、
 オレが悪と認められることで、オレを殺してもらうつもりだったんだが……計画を早めなければいけないとはな」
「首尾よくいけば……その辺は俺が説得する」
「ああ、頼んだぞ、少年。お互い乗った者同士、恨みっこなしで頑張ろうか」

 そもそも。
 見晴らしがよい場所から全体を俯瞰する、と言う目的でこの煙突の上で出会った二人は、
 すぐにお互いが“殺しに乗った者”であると見抜き、意気投合して雑談と呑みを交わしていたのだった。

 かたや、妹を死ぬまで守ると言う、自らに課した呪いを実行するために。
 かたや、姉の名を冠した弟子に殺されるまで死なないという、自らに課した呪いを実行するために。

 麻生叫は妹のために殺すことをすでに決意しており。
 早乙女灰色は弟子に悪と判断されるだけの所業を行うことを決意していた。
 幸いにもこの場合最後に生き残るのは麻生妹一人だけでいいため、同盟を組むに問題は無かったのだ。

 参加者名簿はあくまで候補のようだが、仮に彼らの求める二人がこの場に居なかったとしても関係はない。
 どのみち麻生叫は妹を守るために他全員を殺さなければいけないし、
 早乙女灰色もまたエンマに殺されるために他全員に殺されない――つまり他全員を殺すしかない。
 せいぜい二人が最後に殺し合わなければいけなくなるくらいだ。そして参加者が不明瞭な限りそれはあり得ない。

「……俺は北に行くよ。
 エンマちゃんって子に会ったら上手く誘導しておく。妹に会ったら、頼む」
「ならオレは東だ。
 お前の妹の特徴は聞いたし、おそらく保護は出来るだろう。もしエンマを見つけたら、“使って”いいぞ」

 別々の方向に行くことも、示し合わせたわけでもないのに確定していた。
 あの怪獣はともかくとして――麻生叫も灰色も、おそらくこの殺し合いに呼ばれた中ではそう強い方ではない。
 ならば無駄に固まるより、手分けして強者である早乙女エンマや保護目的である麻生妹を探した方が、
 双方の目的にとって有益だということが試算できたからだ。

 なにより、もとより自らの死すら試算に入れた二人である。
 一か所に固まって強者に襲撃されて全滅という流れよりは、別れたほうがなにかと都合がいい。

「それじゃあな。互いに目的が叶うといいな」
「……ああ」

 こうして灰色の男たちは、自らの呪いを終わらせるための殺し合いを開始した。
 彼らは世界に抗わない。あくまで世界の枠内で、自らのためだけに動く。
 そう、それは、世界に抗うだけの意思を、この世界に来る前から捨てていたがゆえに。


【B-7/廃工場/1日目/黎明】

【麻生叫@アースR(リアル)】
[状態]:ほろ酔い
[服装]:学生服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:妹を守るために殺す
1:早乙女エンマに会ったら“利用”した上で、早乙女灰色を殺させるよう仕向ける
2:死んだらそれはそのときだ。
3:廃工場から「北」へ。

【早乙女灰色@アースH(ヒーロー)】
[状態]:灰色
[服装]:ヒーロースーツ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2
[思考]
基本:エンマに殺されるため、悪を行う
1:麻生嘘子だけは保護しておく
2:死んだらそれはそのときだ。
3:廃工場から「東」へ。

夜の草原を空に向かって叫びながら。
 怪人と化した怪獣は、未だその事実を知らぬことなく、怒りに任せて歩き続ける。
 もし仮に自らが憎むヒトになってしまったことに気付くときがあったとすれば、怪獣はより怒るであろう。

 ただ、ヒト化したことによってひとつ、明らかになったことがあった。
 ――胸部装甲、そして長い髪。
 なによりヒト化した際のシルエットは、どちらかといえばそれを外から見れば、巨大な“女性”に見える。
 そう、ティアマトは、メスだったのである。
 そもそもティアマトは女神の名前だし、メスのほうが違和感はない。
 しかしこうなると、彼女がアメリカの原水爆実験によって、
 静かに眠っていた自身を叩き起こされたことで怒っているという説に、新たな仮説を加えることが出来よう。

「グルウル……グルウル……!!」

 彼女は深海で、果たして“一人”だったのだろうか?
 彼女が怒っているのは、果たして自らに対する仕打ちだけに対する怒りなのだろうか?
 ……怪獣の言葉を理解できぬ我々に、この疑問を解決するだけの技術はまだない。
 しかしもしかしたら、彼女もまた灰色の二人と同様に。
 大切なものを世界に奪われた、犠牲者なのかもしれないことだけは、ここに記しておこう。


【A-7/草原/1日目/黎明】

【ティアマト@アースM】
[状態]:無傷、怒り心頭
[服装]:裸
[装備]:無
[道具]:無
[思考]
基本:人間が憎い
1:邪魔な物は壊す
2:攻撃する奴は潰す
3:廃工場の方へ向かって破壊する
[備考]
※メスでした。
※首輪の制限によってヒトに近い姿になりました。
 身長およそ5m、ただしパワーと防御力は本来のものが凝縮された可能性があります。


※AKANE謹製首輪には、彼女の望むバトルロワイアルを成立させるための制限力が付加されています。
 人間が自らの意思で殺し合うのが見たいという平沢茜の嗜好の影響が強いようです。
 といってもよほどヒトから逸脱しない限りは発動しないし、もちろん精神に干渉することもありません。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2015年07月01日 20:25