スマイル全開で明日を目指そうよ

御園生優芽はアイドルだ。
幼い頃からただひたすらにアイドルを夢見て突き進んできて――そうしてやっと最近になって夢を掴んだ。
ヤクザの組長というアイドルから程遠い地位にも就いてしまったが、それでも彼女は日々を楽しんでいた。
歌って踊って、人々を笑顔にする。そんなアイドルという職業を誇りに思い、全力で取り組んでいた。

だがしかし――――素晴らしき日々は最悪な形で崩れ去る。

『唐突で申し訳ないのですが───皆さまには本日から三日間の間、お互いに殺し合いをしていただきます』
「うぇ!? な、なんだってー!? ――て、のわ!?」

唐突に殺し合いを宣言された優芽は、大袈裟に驚き、石に躓いた。顔面から転んで涙目になるアイドル。
仕返しとばかりに石を蹴り飛ばすと彼女はICプレイヤーの言葉に耳を貸した。

『───再生が終了しました』

ICプレイヤーから流れ出る現実離れした数々の言葉。それらの説明はヤクザの世界を知っている彼女でも、信じられないと思うものだった。
それでも自分に嵌められた首輪やデイパックはあるわけで。どう考えていいか解らずに困り果てる。

「あっそうだ。試しにこの首輪でも外してみるか!」

とりあえず爆破が事実なら怖いので強引に首輪を引っ張てみるが――外れない。
当然だ。ちょっと体力に自信がある程度のアイドルが簡単に外せる首輪など、何の抑止力にならない。
今度は殴って強引に壊そうとするが――なんというか自分の理想とするアイドルと正反対だし、絵面的に酷いので寸止め。

「ぐぬぬ……。あたしの力じゃ外せねえか。ま――まあヤクザの世界に身をおいてる優芽様は、こんな首輪なんて怖くないけどよ。
 この震えだって立派な武者震いなんだ。もうこれから先を考えるだけでワクワクすっぞ!」

嘘だ。実際は争い事が苦手で、殺し合いなんて言葉は聞くだけでも吐き気がする。ICプレイヤーの言葉を聞いて、強い嫌悪を示したのも事実。
されど彼女は、アイドルという仕事を誇りに思っている少女だ。だからここで逃げ出せばアイドルの恥だ――そうやって自分に言い聞かせる。
こんな場所は怖い、出来れば今すぐ逃げ出したい――そんな気持ちを抑え込むように虚勢を張ったのだ。

(それにこれってドッキリ……だよな?
 さ――さすがに殺し合いを開いたり、首輪を爆発させたり出来る超人なんているわけないよな!?)

彼女が想像したものは、バラエティ番組でよくあるドッキリ企画。
これまで一度も受けたことがない仕事で、詳しい事情は不明だが、あまりにも現実離れした一連の出来事はそれ以外に有り得ないと決め付ける。
ICプレイヤーは首輪を遠隔操作で爆発させることも可能だと語っていたが、この平和な世の中にそんな物騒なものが存在してたまるか。殺し合いなんて自分の知る限りではヤクザでも開催していないのに、堅気らしき女が開けるハズがない。
だからこれは、間違いなくドッキリ企画だ。いきなり連れ去られて動揺はしているが、それだけは理解している。

「――――うつけがっ!」
「お――おう!?」

交差する少女たちの声。
振り向いてみれば――そこには奇抜な制服を着用した、凛とした雰囲気の漂う美少女が優芽を見下すように眺めていた。

「な、なんだよお前!? あたしに何か用があるのかぁ!?」
「そう喚くな、ホトトギス。あまり騒ぐと敵襲がくるぞ」
「はあ? もしかしてお前、今流行りの電波とかいうやつか? 電波女なのか?」
「ふん、聞いて驚くなよ? 余の名は第六天魔王――――織田信長なり」

ドヤァアアアアアアアアア!
自信に満ちた表情で名乗る美少女を見て、優芽はそんな幻聴が聞こえたとか、聞こえなかったとか。
そしてあまりにも意味不明なことが積み重なり、優芽のアホ毛は立派なクエッションマークを作り上げている。

「……」
「……何か言わぬか、莫迦者」

沈黙が恥ずかしいのか、ちょっとだけ顔が赤くなる美少女。
優芽は少しだけ考えて――――ピコーンとアホ毛が直立した。

「信長? はぁん、なるほど。お前は信長キャラのアイドルなんだな!
 つーかよォ、番組の撮影にこんなコト言う資格はねえけど、こんな場所でドッキリされても困るよなあ?
 そりゃあたしはアイドルが夢だったし、こうして仕事出来ることは嬉しいけどさ。事前に連絡してくれてもいいんじゃあ――っておい、何ピクピクしてンだ?」

信長を名乗る少女の容姿は、そこらの芸能人が霞んで見えるくらいに美しい。
凛と輝く金色の瞳は、この世で見たことがない程に自信に満ちていて。一目見ただけで、彼女が胸に秘めた意思の強さを感じさせられる。
ゆえに優芽は少女を見た瞬間に直感した。彼女は間違いなく、芸能人――というかアイドルだろう、と。
今まで一度も見たことのない少女ではあるが、それはきっとまだ彼女は駆け出しアイドルだからに違いない。彼女の着用している奇抜でありながら、凛とした雰囲気を一層引き立たせているあの衣装も、アイドル服だと思えば納得がいく。
そう思って、アイドル仲間として接したというのに――どうして信長はこんなにも見をプルプルと震わせているのだろうか?

「ちがぁぁぁあああううう!
 戦国†恋姫、桜花センゴク、三極姫、戦国コレクション、のぶながっ!、織田信奈の野望――現代の娯楽を見渡せば、どいつもこいつも余を勝手に女にしおって!
 余が男ってそれ一番言われているだろっ。小学生並の常識だろっ! 貴様ら余の許可も得ず、勝手に女にするでないわぁぁぁあああ!」

(へえ。すげェなこいつ、この状況でも揺らぐことなく信長系を貫いて撮影に望んでやがる。
 まったくこの優芽様ですら、柄にもなく驚いちまったっつーのに……肝が座ってるにも程があるだろ)

「余を見てニヤニヤするな、このうつけがっ!」
「あ――悪ィな、別に悪気はなかったんだ。単になんつーか――あんたをアイドルとしてちょっぴりだけ尊敬しちまった。そんだけさ」
「ほう? 余はアイドルではないが、敬うという行為自体は間違ってない。貴様、ホトトギスの分際で、なかなか見る目があるな」
「あたしはホトトギス系アイドルじゃねェよ! つーか信長系キャラをいいことにあたしに上から目線のてんこもりだなァ、おい!」
「信長系キャラではない、余は信長じゃ! なんていうかその、世の中に出回っている二次創作的な言い方はやめい!」
「はいはい。仰る通り、お前がナンバーワン信長だよ。そんで、お前はどんな曲を歌ってるんだ?」
「何度も言わせるな。余はアイドルではないっ!」

「いやアイドルや芸能人じゃなきゃドッキリなんて有り得ねェだろ。ま、お前が否定するなら別にそれでもいいけどさ。
 そんなことより、あたしの歌を聞いてくれよ。これでも歌と踊りにゃ自信あるんだぜ」
「歌、か。どこぞのキンカンも歌が大好きで――――はっきり言って、余はあまり好きじゃない。
 クラスメイトのスライムちゃんだけは別格だが、彼女の歌唱力は一線を画している。貴様のようなホトトギスとはワケがちふぁ――ふぁ、ふぁにをひゅる!?」

信長の云うキンカンとは過去に最も信頼しており、今では最も嫌う人物――明智光秀のことだ。
彼が謀反を起こした理由は今でも解明されていないし、信長にもその理由は解らない。彼の知っていることは、自分は信頼していたハズなのに――光秀は容赦なく裏切ったという事実だけなのだ。
そして光秀は和歌を愛していたゆえに、信長は歌を聞いてしまうと、つい光秀を思い浮かべてしまい、無性にイライラしてしまう。
しかしそんな彼にも例外は存在する。同じクラスに在籍するスライムちゃんの歌だけは、素晴らしい歌唱力。聞いている者を癒やす効果がある、と絶賛していた。

もっともこれは信長の事情で、そんなことを初対面の少女が知るはずもなくて。
優芽は信長をからかうように頬を引っ張ると、いつになく真剣な眼差しで彼女の瞳を見据えた。

「あんたの過去なんて知らねェけど、あたしは本気で。自分に出来る限りの全力で、歌に取り組んでるつもりだぜ?
 そりゃあプロに比べたら劣るだろうし、お前の言うキンカンやらスライムちゃんのことも知らねェけどさ――文句はあたしの曲を聞いてから言ってほしいんだ。
 なあ頼む! 同じアイドルとして。アイドル仲間としてあたしの曲を聴いてくれっ! 下手なら文句でもクレームでもなんでも聞くからさ、あたしはあんたに聴いてほしいと思ったんだ!」

「余はアイドルじゃないのに、理解力のないうつけだ。……仕方ない、一度だけじゃ。一度だけ、聞いてやってもいい。わ――わかったら早く鳴いてみせぬか、ホトトギス!」
「それじゃ、遠慮なく――」

そして少女は歌い始める。
どこまでも前向きで、笑ってしまうほどポジティブ精神に満ちた曲を唄った。
状況を理解出来ていないアイドルが奏でる音楽は、あまりにも殺し合いに不向きのもので――けれども、先の真剣な眼差しや精一杯に唱っている彼女の姿から迸る熱意は、紛れもなく本物。

(……なんだ、意外と良い曲ではないか)

ゆえに信長も内心では素直に優芽を賞賛する。彼女は態度こそ無礼極まりなくて、自分の置かれている立場すら理解出来ていない阿呆だが――それでもアイドルという職業に対する情熱だけは本物なのだろう。
スライムちゃんの曲が癒やしだとするならば、優芽の曲は希望や情熱――そんなものが込められているようだ、と信長は感じた。決して口にするつもりはないが、このうつけの曲を聴いて救われる者も存在するかもしれない。

「――とまァ、こんなもんだ。あたしの曲は、どうだった?」
「スライムちゃん程ではないが――まあ、悪くはない」
「え……? ほ――本当かっ!? 本気って書いてマジなのか!?」
「無論だ。こんなつまらぬコトで余が嘘をついて何のメリットがある? その程度も理解出来ぬのか、うつけが」
「実はこの曲、ガキの頃にあたしが考えたやつでさ。昔からずっと練習してたけど……ちょいと恥ずかしくて、誰かに聴かせるのはお前が初めてだったんだ。ありがとよ」
「べ――別に貴様の為に評価をしたワケではない! 聴け聴けとうるさいから聴いてやっただけに過ぎぬことを知れ、無礼者がっ!」
「いやどこが無礼者なんだよ。まだ知り合ったばかりだけど、お前って本当に素直じゃねェなァ」

そうして優芽は信長の反応を見て苦笑した後に――。

「と――自己紹介が遅れちまったな。あたしは御園生優芽だ。
 これがどんなドッキリ企画なのか知らねェけど――二人で一緒に撮影がんばろうぜ、信長。
 ほらよ。アイドル仲間として。そしてライバルとしての、握手だ!」

満面の笑みで手を差し伸べた。
未だにドッキリ企画だと勘違いしている点は――訂正しても、どうせ理解しないだろう。
あまりにも場違いなアイドルの態度に呆れつつ、信長も手を伸ばす。

「どうせ貴様は、莫迦でうつけのホトトギスだが、曲だけは認めてやらんでもない。そんな阿呆が状況も理解出来ぬまま無駄に命を散らせることは僅かに惜しいものだ。
 それに余は、あのうつけを斬るつもりはあっても、チーム戦の殺し合いなぞを興じるつもりは一切ないからな。――貴様の同行を許可する」
「何が言いたいのかよくわからねェけど……しゃーなしだな、ドッキリが終わるまでは部下にでも何にでもなってやるよ。断るとまた怒りそうだもんな」
「ふん。余はそんなことで怒らぬわ、うつけがっ!」
「あっ、また怒った!」

【F-7/平野/1日目/深夜】

【織田信長@アースC】
[状態]:健康
[服装]:ファンクラブに作らせた格好良い女子制服(一般人が見れば奇抜な格好)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1~3
[思考]
基本:殺し合いを開いたうつけを斬る!
1:御園生優芽と同行。出来れば現状を理解してほしい

【御園生優芽@アースR】
[状態]:健康
[服装]:アイドル服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:信長と一緒に撮影をがんばるぜ!
1:ドッキリが終わるまでは信長の部下になってやるか
[備考]
※殺し合いをドッキリ企画だと誤解しています。
※織田信長を信長系アイドルだと誤解しています。

007.私は貝になれない 投下順で読む 009.鏡面の憎悪
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最終更新:2015年07月04日 21:49