秘密を持つ二人

「どういう事だよ、これ・・・」
東光一は、その手に持ったICレコーダーから再生された音声内容を聞いて絶句した。


人類の常識を遥かに逸脱した巨大特殊生物「怪獣」が存在する世界・アースM。
そんな世界で生まれ育った東光一は、「怪獣の撃退」並びに「人命及び財産の保護」を主目的として
発足された国際機関・・・「地球防衛軍」に所属している。
入隊以来、目覚ましい勢いで頭角を現していった光一は、今では防衛軍内の精鋭部隊・「MHC」
(モンスター・ハンティング・クルー)のメンバーとして、怪獣と最前線で戦っている。
しかし、彼には誰にも言えない秘密があったのだ。

(なぁコメット、お前はどう考える?)
光一は頭の中にいる『同居人』に問いかけた。
(・・・私にそんな重大な質問をして良いのか?)
『同居人』はやや訝しげに答えた。


ある日の対怪獣戦・・・光一は瀕死の重傷を負ってしまった。
しかし、謎の光が光一の身体に溶け込むかのように入り込んだおかげで、光一は命を取り留めた。
後日、謎の光は光一の頭の中に直接語りかけてきた。
曰く、「自分は惑星アルカディアから地球人を怪獣から救う為にやって来たのだが、肉体を持たない
精神だけの存在である為に地球上では能力を十全に発揮できない。なので、地球人には手におえないような
状況になった時だけで良いから、君の肉体を貸してほしい」
とのことだった。
以来光一は、MHCだけでは事態の鎮静化が不可能な状況に陥ると、その惑星アルカディアからの平和の使者
から渡された「コスモスティック」というアイテムを使って、オレンジ色の巨人・「コスモギャラクシアン」
に変身し、怪獣と戦うようになったのだ。

そして今、光一が頭の中で話しかけた相手こそ、惑星アルカディアからやって来た件の精神体・「コメット」である。
「コメット」というのはもちろん本名ではない。
本人曰く「私の名前は地球人には発音はおろか、認識もできないが・・・あえて地球の言語に翻訳すれば・・・
『彗星』という意味になる」
という事らしいので、そこから光一が付けた便宜上の名前である。

普段、光一とコメットの人格は別々に存在しており、このように光一から話しかけたり、コメットが助言をすることもできるのだ。
以上、閑話休題。

(君はどうなのだ光一?指示された通りに、自分や自分のチームのメンバー以外の参加者を殺害するのか?)
(・・・そりゃあ・・・俺だって死にたくはないけど・・・)
一度言葉を区切ると、光一は断言した。
(・・・俺はMHC隊員、人を守るのが仕事だ。だから、俺は絶対に人殺しなんかやらない。俺みたいに
巻き込まれた参加者を全員助ける。それが、ここでの俺の任務だよ)
そう語る光一の目は、晴天の空のように澄み切っていた。
怪獣を初めとする脅威から人々を守る。それが光一の根っこからの信念なのだから。
(それは良いが、どうやってだ?今君は、コスモスティックを持っていないんだぞ)
「う・・・」
コメットに指摘されて、光一はたじろぐ。
そう、先程の音声を聞く前に、光一は自身の持ち物の確認を行ったのだ。
いつものように隊員服を着ているが、腰にあるはずのMHCガンは無く、
懐に隠し持っているはずのコスモスティックも無い。
武器一つ持っていないような状況で、何をどうしろというのか・・・。
そこで光一に天啓が閃いた。
「そ、そうだ!確か、支給品があるって言ってたぞ!」
口に出して叫ぶと、光一は早速デイバッグを開けて支給品の確認を始めた。





「と、とりあえず・・・武器はあったな」
光一は使える支給品があって、ひとまず安心した。
デイバッグからは食料や地図の他に、
拳銃とその弾丸一セット、特撮ヒーローのDVDが一つ、単一電池のような物が2個入っていた。
DVDや電池はともかく、拳銃なら普段から実戦で使っているから何とか使えると思い、それは所持しておくことにした。
(それにしても・・・)
光一は改めて自分に支給された拳銃を見た。それは昔、学生時代に歴史の教科書で見かけたことがある物だったからだ。
十四年式拳銃。太平洋戦争の頃に旧日本軍で使用されていた自動拳銃。
光一にはそれが引っ掛かった。
(何でこんな骨董品なんか・・・?)
骨董品。
そう、十四年式拳銃が使われていたのは太平洋戦争の頃・・・今から70年近くも昔の話だ。
その当時は最新式だったかもしれないが、今では博物館で展示されていても可笑しくないような代物である。
むしろ、これよりもっと後代にできた性能の良い銃を支給した方が、殺し合いがスムーズに進むような気がするし、
コストもさほどかからないだろう。なのにどうして・・・?
光一の頭の中で、疑問符が渦を巻いたが・・・
(おい光一)
それはコメットの一言で遮られた。
(なんだよ。こっちは今考え事して・・・)
(君の背後の茂みに誰かいるぞ)
「・・・えっ?」
光一は後ろを振り返った。
同時に、小枝の折れるパキッ!という音が鳴った。
「誰かいるのか?」
光一が茂みの中を覗くと・・・
「あ・・・」
栗色の髪と翡翠色の瞳、狐のような耳と尻尾が印象的な小さな少女が尻餅をついていた。

「どういう事・・・?」
高村和花はICレコーダーからの音声を聞くと、頭の中を疑問符で満杯にした。

超常の力を揮い、悩みを抱えた人々を救う少女達「魔法少女」が存在する世界・アースMG。
そんな世界で生まれた高村和花は、そんな困った人々を助ける事を使命とする正義の魔法少女の一人だ。
同じく魔法少女だった母・高村このはから受け継いだ力を使って、悩みを持つ人々に手を差し伸べてきた。
しかし、彼女には他人に知られたくない秘密を持っていた。

「パパ・・・ママ・・・」
和花は、自分が人助けで息詰まった時にいつも助け舟を出してくれる大好きな両親の事を思った。


和花の父親は人間ではない。
和花の母・このはを魔法少女にしたキツネ型マスコット・レイン・サクライト。それが和花の父親だ。
魔法少女とマスコットという、云わば主従関係とも言える両者にあって、二人は互いに強く惹かれあい、
その末に生まれたのが和花だった。
母からは魔法少女の力を、父からはマスコットの力を受け継いだ和花は、世界でただ一人だけの
「魔法少女とマスコットの混血児」として生まれ落ちた。

「何で・・・どうして私ばっかり・・・」
同時に和花は、今まで受けてきた自分の不運を嘆いた。

魔法少女とマスコット・・・二つの力を合わせ、母のように人々を助けるようになったの彼女だが
      • 以外な強敵がいた。
他の魔法少女達である。
もちろん年の近い夢野セレナやベテランの久澄アリアのように、友好的な魔法少女もいる。
だが、一部の・・・「マスコットは魔法少女より下位の存在」だと考える魔法少女達は違う。
和花の父=レインを「淫獣」と蔑み、その血を引く和花を「淫獣の娘」と呼ぶ彼女達は、
事あるごとに和花に嫌がらせを行ってきた。
やれ「淫獣の娘」、やれ「穢れた魔法少女」、やれ「生まれてはいけない存在」・・・
和花はたった8歳の子供にはあまりにも辛い仕打ちを受けてきたのだ・・・。

「どうしよう・・・」
そんな中でも、和花は見知らぬ誰かを助けたいという気持ちを失わなかった。
だからこそ、和花は殺し合いに即座に是ということができなかった。
ともかく、ここから移動しようとした時、またしゃがみこんだ。

すぐそばに人がいたのだ。
黒い繋ぎのような服を着た男の人。
デイバッグを漁りながらぶつぶつ言っている。

このような状況でいきなり他の参加者と遭遇するとは・・・。
和花はどうしたら良いのか判らなかった。
とりあえず、こちらに気づく前に逃げた方が良い。
そう判断し、そっと立ち上がろうとした時・・・
「・・・えっ?」
相手はいきなりこちらの方に振り向き、その拍子に小枝を踏んで音を立ててしまった。
「!」
驚いた和花は尻餅を付き、同時に普段は隠してある父譲りのキツネ耳と尻尾が飛び出てしまった。
「誰かいるのか?」
相手は茂みの中を覗き込んだ・・・
「あ・・・」

そして、時間は元に戻る。



光一は隠れていたのが好戦的な相手では無かったことに安心したが、
同時に燃えるように怒りが湧いてきた。
こんな小さな女の子まで、こんなふざけた催しに参加させるなんて・・・
このゲームを企画した奴をぶん殴りたいと、心の底から思ったのだ。


(見つかっちゃった、見つかっちゃった、見つかっちゃった・・・)
一方の和花の心は、恐怖で満杯になっていた。
まだ相手が善人なのか悪人なのかわからないのに顔を合わせた・・・いや、
例え相手が善人だったとしても、キツネ耳と尻尾を見られた時点で和花にとって詰んでいたのだ。
キツネ型マスコットである父から譲り受けた耳と尻尾。両親は「チャームポイント」、
一部の学校の友達は「かわいい」と言っているが・・・他の大人は違う。
和花が驚いた拍子に耳と尻尾が飛び出るのを見た大人たちは口々に言う。
「何だこれは」、「気持ち悪い」、「バケモノかよ」・・・。
先程まで優しく接してくれていた担任の先生ですら、和花の尻尾を見ると、まるでパンダやイリオモテヤマネコ
などの珍獣を見るような目をする。
挙句、人身売買組織に誘拐され、危うく外国に売り飛ばされそうになったこともあった(危機一髪で両親に助けられたが)。
だからこそ、知らない人に耳と尻尾を見られるのは和花にとって最大の恐怖だったのだ。
溢れかえるように恐怖が湧き出て、和花の身体を支配していく。
逃げ出そうにも手足が動かない。まるで金縛りにあったかのようだ。

光一は和花に向けて手を伸ばす。
(いや・・・!パパ!ママ!)
和花は思わず目をつむった。そして・・・


ぽふっ


光一の手は和花の頭に置かれ、ワシワシと和花の頭を撫でた。
「え・・・?」
和花が恐る恐る目を開けると・・・
「怖かっただろ?もう大丈夫だからね」
光一は優しげな眼差しで和花の事を見つめていた。

「・・・どうして・・・?」
「えっ?」
和花には光一が何故自分に優しくするのか解らなかった。
「き・・・気持ち悪くないの?わ、私・・・尻尾が・・・」
「あぁ・・・そのこと?」
光一はバツが悪そうに頬を掻きながら、
「何ていうか・・・そういうの見慣れてるし、それに・・・」
光一ははっきりと告げた。
「泣きそうな女の子を慰めるのは、当たり前の事だろ?」
それは、嘘偽りのない光一の心からの言葉だった。


「う・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
「おわっ!?」
生まれて初めて両親以外の大人から優しくされた和花は、
心のタガが外れ、光一に抱き着いて赤ん坊のように泣きだした。
それに光一は少し驚いたが、すぐに平静を取り戻して、優しく和花の頭を撫で始めた。
その姿はまるで・・・



(・・・誘拐犯とその被害者のようだな)
ひと言多いぞコメット。

【C-1/森/1日目/深夜】



【東 光一@アースM】
[状態]:健康、少し困惑
[服装]:MHC隊員服
[装備]:十四年式拳銃(残り残弾数35/35)@アースA
[道具]:基本支給品一式、超刃セイバーZDVD一巻@アースR、
ディメンションセイバー予備エネルギータンク2個@アースセントラル
[思考]
基本:巻き込まれた参加者を助ける
1:目の前の女の子を慰める
2:コメットぉ・・・
3:何で十四年式拳銃なんか・・・?
[備考]
※コスモギャラクシアンへの変身に必要なコスモスティックを没収されています。
他の参加者に支給されているかもしれないし、会場内のどこかにあるかもしれません。
※十四年式拳銃のような古い銃が支給されていることに疑問を感じています。


【高村 和花@アースMG】
[状態]:嬉し泣き、キツネ耳と尻尾が出てる
[服装]:普段着
[装備]:無
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0~3
[思考]
基本:どうしたら良いの・・・ママ?
1:うわぁぁぁぁぁぁん!
2:パパとママに会いたい・・・
[備考]
※夢野セレナや久澄アリアと面識があります。
※キツネ耳と尻尾は出し入れ自由です。出しっ放しか隠すかは後の書き手さんに任せます。

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最終更新:2015年07月04日 21:45