そして世界が生まれゆく




―――当再生ディバイスの電源オンを確認しました。所持者参加者番号121、承認中です………承認しました。
───世界座標確認。x=0,y=0,z=300。アースBR、確認チェック、完了。―――了解、当参加者の参加を許可します。

───これより、音声プログラムを再生致します。よく聞き取れなかったり音声の不具合を感じられた方はHELPボタンを押してください。───また、この音声プログラムは一時停止、巻き戻し、早送りが出来なくなっており、一度しか再生されません。よくお聞きくださいませ。───ピー、という発信音の後に再生を開始します。再生の準備が整いましたらSTARTボタンを押してください。───再生を受け付けました。音声プログラムを開始いたします。───ピー。





皆さま、如何お過ごしでしょうか。私は今回の進行役を務めさせていただきます『世界観測管理システムAKANE』と申します。以後お見知りおきの方をよろしくお願いします。皆さまの貴重なお時間をいただきながら皆さまの眼前に現れずこうやって外部音声のみで説明を終わらせることをどうかお許しくださいませ。さて早速本題に入らせていただきます。

唐突で申し訳ないのですが───皆さまには本日から三日間の間、お互いに殺し合いをしていただきます。突然のこちらからの提案に皆さま思う所があると思います。ですが話を進めさせていただきます。批判の方は受け付けません。

続けます。皆さまには、一人一つずつディパックを配らせていただきました。そちらの方には最低限の食料と水、この会場の地図、当プログラムの参加者候補リスト、その他役に立ちそうな物を入れさせていただきました。武器なども入っておりますので、当音声プログラム再生後、ご確認くださいませ。


次に皆さま、御自分の首の方をご確認ください。鉄製の首輪がついてらっしゃるかどうかの確認をおねがいします。もしついていない場合、当方の方までディパックの中にある携帯電話でご連絡をお願い致します。そちらの首輪は、例えばこの会場から脱出しようとした。または一定時間毎にこのディバイスに送られる音声フォルダで呼びかける禁止エリアに五分間居た。という際に爆発するようになっております。
皆さまの中には腕に覚えがある方大勢おられると思いますが、どうか私たちに反抗しようとするのはおやめください。そういった場合でもこちらから首輪を遠隔操作に爆発させますので、どうぞお気をつけくださいませ。

最後に大切な事を言わせていただきます。先ほど述べました首輪の、皆さまの喉元の近くの部分にアルファベットが一文字か二文字、書かれていると思います。そちらの方が、こちらが《一定法則》に沿って分けさせていただいた『チーム』になっております。最後の一人になるか、参加者様方が一チームのみになるか。この二つをこのゲームの終了条件とさせていただきます。
またいくつのチームに分かれるか、各チームがそれぞれ何人いるかは当システムも把握しきれておりません。申し訳ありません。把握しだい皆様になんらかの形で連絡いたします。
それと、チームに人数差や戦力差に大きな違いがある、と判断していただいたとしてその件を私達に言ってもこちらの方で調整はできない仕様となっております。予めご了承願います。

以上が今回のルールとなっております。何かご質問等ございましたら先ほど述べました携帯でご連絡をお願いいたします。なお、ルール以外のご質問は受け付けておりません。ご了承下さい。

では皆さま、また数時間後の放送でお会いできることがあれば。








───再生が終了しました。当音声プログラムファイル名「Re;Start」の方を自動消去いたします…消去しました。以後この音声プログラムを再生することは出来ません。───この音声プログラムは自動的に消去されました。この音声プログラムは自動的に消去されました───


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「また随分ガサツで荒い説明じゃないかAKANE。こんな時代遅れな物まで持たせて」

暗い部屋の中であった。部屋を照らす明かりはどこも点いておらず、何百という液晶からの発光が液晶の周囲のみを照らしている。
天然パーマの眼鏡をかけた一見うだつのあがらない男、研究員名「オブザーバΔ」は多くの液晶のうちの一つにそう言い放った。
右手にはICプレイヤーのような物が握られている。彼はそのプレイヤーの「START」を押すと、そこから無機質な女性と思われる機械音が流れ始めた。

『そちらの方が、こちらが《一定法則》に沿って分けさせていただいた『チーム』になっております。最後の一人になるか、参加者様方が一チームのみになるか。この二つをこのゲームの終了条件とさせていただきます…』
「…チーム戦とはなんだ。そんな必要はない。単純に人間が殺しあう姿が見たい者だっている。それを求めた彼らがいたから【コレ】が開けたというのに」
「ではΔ(デルタ)、あなたは彼らのためにこのプログラムを開催するのですか」

オブザーバΔの言葉に返したのはその液晶の中に映るプログラムであった。
世界観測管理システム『AKANE』。アースセントラルを中心とした各世界線を総括、オート管理しているプログラム。
彼女(AKANEには正式な性別はないのだが、ここではそう呼ぶことにする)の存在を示すように、液晶に映る波長が大きく動いている。

「Δ、当プログラム中の基本的管理は私に一任したと昨日の記録音声に入っております。従いまして介入するとなるとその記録音声を一度デリートし、そこから―――」
「…分かった分かった。基本的なところはお前に任せる」

オブザーバΔは髪を掻き毟りながら、彼女の長い説明を遮るようにしてAKANEに返答した。
Δの目的である「各世界の統合化」を果たすためには、彼女の存在は不可欠なのである。故に、彼女に参加者の選択、細部のルール、まったく新しい世界軸の設計…さまざまな仕事を一任し、自分の目的を達成することができた。
だからこそここでAKANEに居なくなっては困るとΔは考える。彼女に自分の意識が無いというのは分かっているが、変に彼女の作り上げたプログラムに口出すことはこのアースBRの崩壊にも繋がりかねない。
「彼ら」、サンジェルミ伯爵やデュルド・ドエナール達の要望に逆らうようでやや気が引けるが、茶菓子でも出せばあの貴族かぶれたちは許してくれるだろう。
何より、自分のやりたいことが出来るというだけで充分である。ひとまず、それだけでもいい。

「AKANE、1stと2ndといった他オブサーバーの介入は阻止しているか」
「その点に関しては心配ありません。このアースBRは他の世界軸から観測されることはないです」
「では他の3rd研究員たちはどうした」
「三日前の発言を基にして、存在をアースセントラルから消滅させました」

Δは、自らの味方であると分かっていても時たまAKANEの計画には驚愕することがある。
確かに3rdの他の研究員たちの存在は特に邪魔であった。そのことを述べたのは事実だが、存在まで消してしまうとは知らなかったし、何よりそのような大幅な介入を起こしても、アースセントラルへの影響が皆無だということも末恐ろしい。
―――こちら側に引き入れて成功だった。
そうΔは心の底で思うと同時にAKANEに対して口を開く。


「…相変わらず恐ろしい《女》だなAKANE」
「発言の意図が読めません。私は1管理プログラムです。人間のような性別はありません」
「あぁそうだな、君はプログラムだ。だからこそ―――私の計画に必要だ」
「感謝いたします。では当音声プログラム【Re;Start】を各参加者に配布します。よろしいですか?」

無機質な音声が鳴り響く。液晶にはYESかNOかだけ映る。
音声プログラムを配布するということは、このゲームの開始を意味する。
Δの目には、迷いはなかった。

「―――じゃあ始めようAKANE。すべては世界軸の統合のためだ」

Δはそう言うと、そっとYESの方をタッチした。
液晶に文字の海が出来上がる。やがてその液晶を基点とするように部屋中の液晶にも、文字の海は広がっていく。
やがてすべての液晶に広がりきった後―――それを確認したかのように。

『管理者による承認を確認しました。これより当プログラムを開始致します』

一言、無機質な音声が部屋の中に響いた。


※主催者は
オブザーバΔ@アースセントラル
世界観測管理システムAKANE@アースセントラル
サンジェルミ伯爵@アースF
デュルド・ドエナール@アースF
の四人です。ここからAKANEが更に人を呼ぶこともあるかもしれません。
※参加者は右手に音声が入ったICプレイヤーが握られた状態で、各エリアに飛ばされます。プログラム開始と同時に送られた音声を再生する導入の案内が流れるシステムです。アースFやアースEといった世界軸の機械知らない人々対策に。
※ICプレイヤーの見た目はセンター試験の英語リスニングのときに配られる音声機器をイメージしていただいたら嬉しいです。イヤホンはついておらず、直接音が出る仕組みとなっています。
※AKANEやサンジェルミ、ドエナールたちがなんらかの形でプログラムに介入することもあるかもしれません。
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最終更新:2015年05月07日 01:39