似たもの同士が相性がいいとは限らない

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何かを志し、それに向かって努力し、そしてついにそれを成し遂げる。 古今東西あらゆるアースどこにでもありふれるこういう成功物語は、しかし、具体的な例となると極端に少なく、大抵の人間は、妥協し、享受し、静観して、挫折する。 が、この挫折者、転落者は記録や歴史に滅多に残らず、多くは塵となって消えてゆく。 今回は、同じ世界から呼ばれた二人の落伍者の遭遇を紹介しよう。 一人は正義の味方を志し、しかし姉の死をきっかけに堕落し、灰色の生き物になり。 一人は正義の味方を志し、しかし師匠の死をきっかけに転落し、真の正義/悪を殺す悪になり。 出発点は近く、身近な死をきっかけに変質し、そして二人は歪んだ道を歩き出す。 その道は、C―7、平原で交わることとなった。 ★ 歩みは依然、重い。 移動を開始して数分、歪んだ魔法少女、平沢悠との戦いによるダメージは今もなお、いのりの体を蝕んでいた。 それでもいのりが遅くながらも歩みをとめないのが、彼女のプライドとは別に、此処が広い平原だからというのもあるだろう。 ところどころに木陰が出来ているが、ほとんどは足首ほどしかない短い草ばかり。 これでは、すぐに危険な参加者に見つかってしまう。 (なんとか……学校まで……) そう思い、足に力を込め、一歩ずつ歩く。 あばらが折れ、内臓に傷がついてもここまで動けるのは、彼女がその短い人生のほとんどを修行に費やしたからか。あるいは、性格を豹変させるまでに至った負の心が為すものか。 とにかく、彼女は学校へ向かい、緩慢と前進していた。 が、呼吸をするたびに頭に霞がかかる。それを振り払うようにいのりは首を振る。 負傷はいのりの予想以上に集中力を奪っていた。 ――そう、接近する人間に気付かぬほどに。 「ふん、こんなところでお前に会うとはな」 その声に、いのりは慌てて振り向く。灰色の大男。政府直属ヒーロー、早乙女灰色がそこにはいた。 いのりは灰色に向かってナイフを構えた。頭の靄も瞬時に晴れ、全身の倦怠感も一時は忘れる。 敵に遭遇した際の即座の戦闘態勢。これも、いのりの師匠が遺した、死なないための技術だった。 「そう構えるな。首輪の色を見ろ。オレ達は同じ陣営だ」 「確かに同じ陣営。でも、お前は信用できない」 お互い、面識はなかった。ただ、どちらもその活躍や噂は聞いている。 いのりは、早乙女灰色という男が好きではなかった。 娘と一緒に活動し、ヒーロー協会ではなく、日本政府の依頼を受けて戦うヒーロー。 そして、この男は日本政府の命令で罪なき人間も殺しているという黒い噂が絶えない。 もしその噂が本当なら、灰色はいのりの敵だ。 「お前は罪のない人間を殺す。そんな奴を誰が信用できるか」 「ふん、嫌われたものだな。まあいい、オレもお前に好かれようとは思わん」 ただ、と灰色は続ける。 「情報くらいは交換しないか。何も一緒に行動しようというつもりはない。が、同じ陣営の相手とそう何度も会えるとは限らんのでな。お前も危険な人物の情報は知りたいだろう」 もっともな提案だった。いのりも頷き、言う。 「わかった。まずお前から話せ」 冷淡なないのりの態度にしかし灰色は何も言わず素直に口を開いた。 「まず、危険な怪物をが空港で暴れていた。今は怪人のようなものになっているが、それでも俺やお前が適う相手ではないだろう。発見したら逃げろ」 「怪物が……怪人……?」 「鱗のようなものがある、女性型の怪人だ。まあ、見ればわかる。どうやら理性はほとんどないようだから、逃げること自体は容易いだろう。他に出会った者は麻生叫という口縫いの高校生だ。外見は異形だが、無口なだけでさしたる害はない。会ったら保護してやれ」 その言い草にいのりは眉を顰める。 「なぜお前は保護していない。ヒーロー協会には属していないとはいえ、お前もヒーローだろう」 「生憎オレは足手まといを保護する気はない。それにあいつは妹を探すといったからな。それに付き合わされるのは面倒だ」 ヒーローとしてはあまりにも身勝手な灰色の言葉は、いのりの心に重い不快感を漂わせる。 思わず糾弾しようと口を開きそうになるが、すぐに自分も似たようなものだと気が付き、睨み付けるだけに留まった。 「とにかくオレが出会った参加者はこの2人だ。一人と一匹と言ってもいいのかもしれんがな。さあ、次はお前の番だ。……といっても、その有様を見れば、危険な参加者に出会ったことはわかるが」 「黒い大きな腕を使う、少女に出会った。悪人の空気を纏っている」 「悪人の空気とはまた曖昧だな」 と言いながらも灰色はその空気がどういったものかは容易に想像できた。 何度も悪と対峙と次第に分かってくるのだ。 一目見て、悪だと感じ取る。油断が死に繋がるヒーロー業界において、この力を持っているかいないかは、そのまま生死を分ける分水峰になることもある。 もっとも、このセンスを完全に信じ切り、それだけで悪人だと判断して襲い掛かるような者は、ヒーロー業界では狂人と扱われるが。 「ワタシが会ったのはそいつだけ」 「そうか。貴重な情報に感謝する。……ふむ、他に話すようなことも無い。別れるとするか」 「私は廃校へ向かっている。お前はどうする」 「ならばオレは北上しよう。これ以上お前と一緒に行動して刺されるのは御免だ」 そう言って、灰色はいのりに背を向け、どこまでも広がっていそうな平原を歩き出した。 背を向けてはいるが、いのりが後ろから襲い掛かってもすぐに対応できるように、常に気は張っている。 いのりは灰色の後ろ姿に興味は示さず、そのままさっきまでと同じように、廃校に向かって、足を進めだした。 灰色と出会った緊張、それに伴い分泌された脳内麻薬が切れる前に、彼女は少しでも距離を稼ぎたかった。 ヒーロー協会からのはみ出し者二人の情報交換は、こうして何事もなく終わった。 ★ (次は殺すか) いのりと別れて数分も経たないうちに灰色はそう考えていた。 彼の目的は、この殺し合いで悪を為し、自分の弟子に殺されることだ。 そして、その目標を達成するためには、雨谷いのりを殺すのが普通の考え方だろう。 しかし、灰色はそうしなかった。 いのりが負傷していても、敗ける可能性があったから。 それも確かにある。 が、灰色がいのりを襲わなかったのには、もっと明確な理由があった。 裏切りのクレア。 エンマに匹敵する身体能力と大人の狡猾さを備え、灰色の姉とは違い直接ヒーロー協会に反旗を翻した怪物。 そして、雨谷いのりの復讐対象。 クレアと遭遇することを灰色はそれ程恐れていない。 彼女はある程度は、それこそ怪人パーフェトのような狂人とは違い、話が分かる狂人だ。 情報や支給品の提供で見逃してもらえることも夢物語ではない。 それに、殺されるならばそれはそれで構わない。 頭を撃ち抜いたり、飛び降りる気は無いし、死なない努力はする。が、殺されることにそれほど恐怖感は無かった。 だが、エンマとクレアを会わせることは何としても避けたい。 幼いぶん思考が単純なエンマにとって、クレアは猛毒だ。 殺されるだけならいいが、変な思想を植え付けられたら最悪。 灰色は幻視する。 早乙女エンマがクレアの力で悪に堕とされ、自分の前に立ちはだかる未来を。 それはきっと、死より不快なことだ。 それはエンマ、灰色だけでなく、彼の姉、早乙女鉛麻も侮辱する行為だ。 彼女は絶望こそしていたが、決してヒーローであることはやめなかったのだから。 そして、裏切りのクレアはそれを容易く行いそうな不気味さがある。 が、灰色は積極的にクレアを討伐しようとする気はなかった。 それは自分ではクレアに勝つことは難しいという客観的事実や、たかが一参加者に構ってはいられないという冷静な判断によるものだ。 だから、雨谷いのりを襲わなかった。いや、殺さなかった。 クレアを憎み、復讐を誓う彼女は、あわよくばクレアに辿り着き、殺すまではいかないにしても腕の一本や二本は道連れにしてくれるかもしれない。 灰色はそれを期待し、雨谷いのりを見逃した。 だが、同時に灰色はいのりに失望をしていた。 この短時間で、あそこまで傷を負うことになった彼女は、灰色が思っている以上に、直情的で、不器用な生き方をしているらしい。 いのりの境遇が知っている。思う所がないわけではない。 が、いのりは灰色の生き物ではない。彼女は復讐者だ。 ならば踏み込んで語るつもりはない。彼は自分の同類にしか内面を明かさないし、過去を語らない男なのだ。 次に会った時、復讐を達成できていなければ、あるいは幸運にも達成していれば、その時は容赦せず殺そう。 灰色の男は、その時の殺害方法を考えながら、いつのまにか町へと入っていた。 【C-6/町/1日目/早朝】 【早乙女灰色@アースH(ヒーロー)】 [状態]:灰色 [服装]:ヒーロースーツ [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2 [思考] 基本:エンマに殺されるため、悪を行う 1:麻生嘘子だけは保護しておく 2:死んだらそれはそのときだ。 3:平原から北上。 4:雨谷いのりに今度出会ったら殺す ★ 「次は殺す」 ワタシはそう口にした。 決意を口に出すと、さらに強固になる。 これは師匠がワタシに教えてくれた考え。 師匠が死ぬ前は、独り言は恥ずかしいと嫌がっていたワタシだけど、今はそれが自然に実行できる。 きっと今のワタシの有様を見たら師匠は怒ると思うけど。 でも、悪は悪でしか殺せない。 ワタシは間違っているけど、でも、弱い私にはこれしか方法がないのだ。 早乙女灰色。あいつからも悪人の気配がした。 きっと噂通りの奴なんだろう。 自分の地位や金のために罪のない人間を殺すような、そんな最低の悪党なんだろう。 でも、ワタシはそんな悪党を殺せなかった。 自信がなかったから。 今のコンディションで早乙女灰色を殺せるとは思えなかった。 裏切る直前までヒーロー協会に属していた裏切りのクレアは、その戦闘方法が記録されているし、彼女の戦っている姿を見た者も多い。 けど、早乙女灰色は表立った戦闘のほとんどを娘に任せている。その戦闘能力の詳細を、ワタシはほとんど知らない。 今まで、然したる興味も無かったから、というのもあると思うけれど。 「ぐっ……」 あいつの姿が見えなくなった辺りで、ワタシのあばらは再び痛みだした。 緊張がとぎれてきたんだろう。 とにかく今は学校に行って休息と治療を。 それまでは、それこそクレア本人にでも出会わない限り、戦闘は避けるべきだ。 けど、もし、体力がある程度回復して、また灰色に会ったら、今度は悪としてあいつを殺す。 次は、殺す。 【C-7/平原/1日目/早朝】 【雨谷いのり@アースH】 [状態]あばら骨骨折  それに伴う疲労(小) [装備]:ナイフ×2@アース?? [道具]:基本支給品、不明支給品1~2 [思考] 基本:『悪』を倒す。特にクレア 1:学校で保健室を探し、休む 2:灰色は今度出会ったら殺す

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