死線上のアリア

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死線上のアリア」(2015/07/04 (土) 21:44:24) の最新版変更点

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   月の綺麗な夜の森、 「けっ……気にくわねぇな」  と紫ツインテールの少女が言った。   『ではみなさま、また数時間後の放送でお会いできることがあれば――』と。  簡素な連絡事項を流し終えたICプレイヤーを見つめて、吐き捨てた少女の名は松永久秀という。 「誰の策謀だか知らねぇが……俺様にこんな世迷事を強制させるとは、全く気に食わねぇ」  パチパチと“たき火”の燃える森の中の開けた場所で、蜘蛛の巣柄の浴衣を火にあてつつ、  切り株に座りICプレイヤーを聞いた松永久秀は、自分がふざけた策謀に巻き込まれてしまったことを理解した。  理解すると同時に少女の心中に湧いてきたのは怒りである。  殺し合いをするような状況に対しての怒りではない。殺し合いを「させられる」ことに対しての怒りだ。  松永久秀はかつて男であり、そして武将であった。  織田とか豊臣とか徳川とかがいる、あの戦国時代の武将であった。  色んな濃いキャラがいる戦国時代の武将の中で松永久秀がどんなキャラだったかというと、  長らく仕えていた織田信長からこんな言われようをするようなキャラだった。 『――松永? あいつマジでヤバいよね。普通の奴なら一生かけてやるヤバい悪事、三つもやってるからね。  しかもワシ、二回も裏切られてっからね。一回許したのにもう一回裏切ったのって、アイツくらいのもんじゃないの?』  策謀が得意で、茶道や礼儀にも長け、めちゃくちゃ頭が良いにも関わらず、  自分勝手で強欲で、上を目指すためなら裏切りや虐殺などヒール行動にためらいのない超現実主義者(リアリスト)。  それが松永久秀という武将であり――そんな久秀は、誰かの思い通りに踊らされるのを何より嫌いとする。 「1人残るかチームで残るかするまで、ただただひたすらに殺し合い。  ひゃっはは、理由も意味も告げずにただそれだけを強制する豪胆さは嫌いじゃねぇがなァ……。  俺様が、死にたくないなら茶器譲れって言われて茶器と一緒に自爆して死んだくらい捻くれてるってこと、  “アカネ”とかいう女はちゃんと調べたのかァ? 調べた上でやったんなら――それこそムカつくぜ」  そんな松永久秀に首輪を付け、殺し合いを強制すると言うことは。  久秀からしてみれば、大々的な宣戦布告に等しかった。  つまるところ「松永久秀は“首輪を付けて飼える取るに足らない存在である”」というアピールをしてきたということなのだから。  怒ってもいいですよ、下手に刃向かえばもう一度「爆死」ですけどねという、挑発に相違ないのである。 「ああ、苛つく苛つく。そもそもだな、俺様が蘇らされたのも、  安倍晴明のやつのドジかなにかだって話だったしな……いやあの陰陽師も俺様ほどじゃねーが策謀家だ、  こういうときに俺様をここに送り込むために、わざわざ悪人であるはずの俺様を蘇らせておいた、と考えることもできるか。  だとしたら俺様は“アカネ”とかいう女だけじゃなくて、あの陰陽師にも踊らされてるってことになるなァ、おい」  久秀は、一度死んだ。  織田信長に謀反をとがめられ、許すから茶器を渡せと言われたのを拒否って茶器と共に爆死して、逝った。  自分勝手に気ままにやりたいことをやりきって死んだ。  だが、蘇らされた。  彼女が蘇った世界、「E」は江戸時代が終わらずずっと続いた日本。  江戸時代までは基本「R」と同じだが、そこからひどい分岐の結果、妖怪なんかも現れるいびつな歪みが発生していた。  そこへ安倍晴明というどえらい陰陽師が蘇って来ていて(幼女の姿で)、その陰陽師は妖怪に対抗するためか知らないが、  日本の歴史上の偉人を手当たり次第に蘇らせる術を使っていたのである(なぜかみんな少女で)。  松永久秀もその流れで蘇らされ、少女になった歴史人物の一人なのだ。   当然ながら安倍晴明の下にはつかず、久秀はアースEの現代でも少女の姿すら利用して悪の限りを尽くしていたが……。   「気に食わねぇ、気に食わねぇな。  俺様、こんな紫の流れるくらい美しいツインテールによぉ、ぱっちりした目につやつや肌の小顔、  少女じみたつんつるてん体型に驚きながらも、蜘蛛の浴衣一丁羽織りつつ、第二の人生エンジョイしてたのにさァ。  こんな催し、踊らされるままに殺されるのも、踊らされるままに乗るのも気にくわねぇよなァ……よし決めた」 うんうん頷きながら、腕を組んで、どうやらこれからの方針を決めたようだった。  久秀はにこりと笑って、  近くで燃えている“たき火”のほうに目を向けて、“たき火”に向かって間の抜けたような声を掛けた。 「悪いけど俺様、しばらく殺し合うの辞めるわァ」  “たき火”は、久秀を憎悪のまなざしで見つめ返しながら、その言葉に言葉を返そうと試みた。  しかしその首には強靭な紫の糸が深く食い込んでいて喉を締め上げており、“たき火”は発言することを許されなかった。  ただ喉の底から絞り出すかのようなうめき声を漏らすのみだった。 「……アアァ、ア……」 「だからお前も別に殺さなくても良くなったんだけど、  ま、そんな状態で生き延びても辛いだけだろうしそろそろトドメ刺してやるよ。ひゃはは、俺様、優しいよなァ!」  久秀は糸に吊るした着物が乾いたかどうかを確認しながら、上機嫌に高笑いする。  ――それもこれも開始直後、水を操る妖術使い? 魔法少女と名乗っていただろうか?  ともかく怪しげな術を使う蒼髪の女に「アナタの心から邪気を感じる」とかなんとか因縁つけられて絡まれたのが始まりだった。  否定する理由もなかったので殺し合うことになったが、水の術で服は濡れるわ、ICプレイヤーを聞く暇もないわ、  いろいろ散々な目にあった。久秀はまずそこで非常にムカついたのだった。 「……アァ、アグ……」  でもまあ蘇ってこっち、久秀は当然ながら安倍晴明を裏切って彼女が戦っていた妖怪側に付いたため、  妖術にも通じるようになっており、今では不老不死じみた再生能力に加え、色んな糸を吐く蜘蛛を操ることが出来るようになっている。  蜘蛛の糸で拘束してしまえば、水の妖術使いもただの“たき火”だ。  “たき火”は女の四肢を糸によって縛り付けて、その上からこれまた質の違う糸で作られた布を巻いて作った。  この布に使われている糸はよく燃える糸、四肢を拘束しているのは燃えにくい糸だ。  久秀は被せた布――蓑とでも呼ぶべきか、それに支給されたマッチで火を点けて“たき火”を作ったのだった。 「普通なら余裕で死んでるだろうに、可哀想だなあ、対抗する術があるってのはさァ。  お前はもはや水の力を自分の体表面に使って、火を中和し続けることしかできないんだもんな。  でもまあ、楽しませてもらったぜェ、ひゃはは……あ、最後になんか言うことあるかァ? 喉ゆるめてやるから言うなら言えよ」 「ガ……あ……うあ、あぁぁああッ! こ、殺す!」  すでに30分近く火だるまで踊り続けた女だが、  水の妖術で身体を護ったためか、髪がショートになったのと全身に軽度の火傷が始まってるくらいで元気なものだった。   「殺す……殺してあげる……あなたは私が……私たちが必ず殺す」 「物騒なこと言うなよなァ、殺し合いに反抗? するって意味じゃ俺様とお前、志は同じなんだぜ?」 「あなたのような邪悪な存在が……善良になんてなるわけない、わ……! 何をたくらんでいるの……!!」 「いや別に企んでもねぇよ。普通に乗るのも癪だから、ちょっと様子見ようかなって思っただけ。  チーム戦ってのも気になるしなァー。他のメンバーが嫌な名前の奴らばっかりだったらそいつらのために殺すのもバカらしいだろ?  なにより主催に今は一番ムカついてっからな……そいつ倒すって息巻いてるやつらには協力してもいいかもとすら思ってる」 「ふざ……け……」 「ふざけてねぇふざけてねぇ。俺様はいつだって真面目に俺様の欲望に忠実に生きてきたからな。  ただ、虐殺するのが俺の一番の欲望じゃないってだけだ。俺様の一番の欲望は、俺様より上の存在を全員俺様の下に置くこと」  一番になるためなら何だってする。  その序列には主催だって入ってる、それだけのことだ。と久秀は言った。 「下剋上も裏切りも略奪も虐殺も! 俺様が上だってことを教えてやるための行動だ!  俺様のスタンスは一つだって変わっちゃいねぇ! “俺様を下に見る奴に……どちらが上かを分からせる”!」  デイパックを開けて、久秀はもう一つ支給品を取り出す。  それは日本刀。  かの剣聖・柳生十兵衛も好んで使っていた刀匠、三池典太光世が作りし「天下五剣」の一つ――大典太光世であった。  かつて松永久秀が殺した足利将軍家に伝わるこの秘刀の特徴はその切れ味にある。  その切れ味たるや、積み重ねた死体2体の胴体を切断し、3体目の死体の背骨でようやく止まるほどだという……。 「お喋りは終わりだァ、女! お前の最期の仕事は――この名刀の試し切り要因よ!」 「……化けて、出てあげる……必ず! あなたの前に!」  横薙ぎ一閃。  最後まで恨み節を貫いた魔法少女・久澄アリアの首は一直線に斬れ、宙を舞った。  これにて大典太光世の切れ味は、確かに証明されたのだった。 【久澄アリア@アースMG 死亡】  そしてこれだけでは終わらない。 「さて」     もちろん久秀は予測済であったが、久澄アリアの「水を操る術」は自らの血すらも操る。  死してなおその首から噴きだす血は幾本もの血槍に“化け”、呪いじみて久秀へと襲い掛かった。  火だるまになりながら、水で火を中和しつつも、久澄アリアはこの一瞬のために魔力を練っていたのである。 「もう少しこれと遊んで……その後はどこに行こうかァ? あの城でも行ってみるか? ひゃはは!」  飛来する血の槍が、蜘蛛柄の着物を脱いで裸体となっている松永久秀の身体をえぐるように突き刺さる。  一本、そして二本!  三本目は周りに展開し始めた蜘蛛が糸で止める、  そして槍の刺さった久秀の裸体からはどくどく赤紫の血が流れる!  それでも久秀は狂ったように笑みを止めず、飛来する四~六本目の槍を刀で叩き折る。 「ひゃっはははははははは!!」  蜘蛛と血の槍と名刀が織りなす赤と紫のダンスは、死した魔法少女の身体から魔力が尽きるまで行われるだろう。  しかし久秀は槍に貫かれながらも、自分が死ぬということは計算には入れていない。  実際に、死なない。このような恨みに任せた場当たり的な攻撃では、すでに“妖怪化”している久秀を殺すことは不可能なのだ。  近くに城が見える月夜の森。  赤と紫の血にまみれる松永久秀を月が無慈悲に照らす。  かつて「乱世の梟雄」と呼ばれた強かなる悪人は、久方ぶりの血の味をしばし楽しむ。  ――楽しんでいたので、一つだけ、彼女は気付いていなかった。  最初に水の妖術使いから「いちゃもん」をつけられたとき、   女のそばに浮かんでいた“水球に入った透明な動物”が、その場から居なくなっていることには。   【E-4/森/1日目/深夜】 【松永久秀@アースE(エド)】 [状態]:重症(再生中) [服装]:全裸 着物は生乾き [装備]:天下五剣「大典太光世」@アースE [道具]:基本支給品一式、マッチ@アースR、ランダム支給品0~3(久澄アリアの分) [思考] 基本:俺様を下に見る奴に……どちらが上かを分からせる! 1:しばらく血の槍と遊んでその後は様子見。 2:近くの城に行ってみようかァ? =============  【魔法少女の掟】  魔法少女とマスコットは一心同体。魔法少女が死ねばマスコットは死に、マスコットが死ねば魔法少女は死ぬ。  一度契約した魔法少女は、契約を解除することは通常許されず、使命を果たし続ける必要がある。  ただし継続して3年戦い抜いた魔法少女は、契約を解除してもよい。その場合、マスコットは消滅する。  また、継続して10年戦い抜いた魔法少女に限り、“他者への契約の譲渡”が可能となる。  契約を譲渡された魔法少女は――通常、戦い続けるごとに強くなる魔力を、最初から高い状態で獲得する――。 =============  松永久秀が見据えた地図中央の城から、少々南下した位置にある住宅地。  地区にしてD-5エリアとなるその現代風の街並みの道を、一人の少女がふらふらと歩いていた。 「やっぱり、見えない……ひなのおともだち、みんな、見えなくなっちゃった……」  彼女の名前は雨宮ひな、首輪に描かれた文字は「R」。  しかしその精神はどちらかといえば、自分のいる世界ではなく、他の世界にあることが多かった。  ――世界座標における基本世界であるアースRからは他の世界を感じることが出来る。  空想や寓話や創作物という形で、特に感受性の高い者に対し、他の世界は影響を与え続けている。  そして、そこにおいてこの雨宮ひなの感受性と空想力は特筆すべきものがあった。  彼女はその高い空想力を持ってして、他の世界の様子を実際にその目で見るようなことさえ出来ていた。 「かえるさん……うさぎさん……ぶたさんも……見えない……ひなが、「きんし」されたから……?」  しかし今は彼女がいつも見ていたかえるさんやうさぎさんやぶたさん、  あるいは他のたくさんのおともだちの世界は見えなくなっている。  それは、ここがアースRでなくアースBRであると共に、主催によって他の世界への干渉が断たれているからだ。  不幸中の幸いはひな自身がそれに理由を付けられることであろうか。彼女はここに飛ばされてくる前、  あまりの空想っぷりに業を煮やした両親や担任の先生によって、「空想禁止令」を出されていたのだから。 「ころしあい……こわい……ひな、どうすればいいの……」    まだ小学四年生のひなは空想に逃げることさえ許されず街を歩く。目指すのはこの地区にある図書館だ。  自発的な空想トリップが出来なくなっても、物語を読んでその世界を感じることくらいなら出来るかもしれないと言う発想だ。  発想力。想像力。空想が奪われても、ひなにはまだ人よりすぐれたそれがある。  そしてその「創造力」は――魔法少女にとって、とても大切な要素でもある。 「……え?」  ふらふらと、歩きながら。  雨宮ひなは、クリオネを見つけた。  クリオネもまた、雨宮ひなを、見つける。  空中に浮かぶ水球の中――苦しそうにもがきながら、それはひなの脳内に話しかけてきた。 (アリアは……死にました。通常なら私も消える所ですが、十年働いていた彼女は“契約譲渡”が使えた) (だからアリアは私を逃がした。悪を討ち、この殺し合いを打破するため、アリアの力を――譲渡するため) (よろしければ、“契約”を) (魔法少女の――契約、を……!)  そしてひなは、理解した。  空想は、見えなくなったのではない。自分は、空想の中に来てしまったのだと。   【D-5/住宅街/1日目/深夜】 【雨宮ひな@アースR(リアル)】 [状態]:普通 [服装]:かわいい [装備]:なし [道具]:基本支給品、ランダム支給品0~3 [思考] 基本:ひな、どうすればいいの? 1:魔法少女って? 2:図書館で本を読んで心を落ち着けたい。 |004.[[柳生有情剣]]|投下順で読む|006.[[秘密を持つ二人]]| |003.[[信長様の為に]]|時系列順で読む|006.[[秘密を持つ二人]]| |&color(blue){GAME START}|[[松永久秀]]|| |&color(blue){GAME START}|[[久澄アリア]]|&color(red){GAME OVER}| |&color(blue){GAME START}|[[雨宮ひな]]||
   月の綺麗な夜の森、 「けっ……気にくわねぇな」  と紫ツインテールの少女が言った。   『ではみなさま、また数時間後の放送でお会いできることがあれば――』と。  簡素な連絡事項を流し終えたICプレイヤーを見つめて、吐き捨てた少女の名は松永久秀という。 「誰の策謀だか知らねぇが……俺様にこんな世迷事を強制させるとは、全く気に食わねぇ」  パチパチと“たき火”の燃える森の中の開けた場所で、蜘蛛の巣柄の浴衣を火にあてつつ、  切り株に座りICプレイヤーを聞いた松永久秀は、自分がふざけた策謀に巻き込まれてしまったことを理解した。  理解すると同時に少女の心中に湧いてきたのは怒りである。  殺し合いをするような状況に対しての怒りではない。殺し合いを「させられる」ことに対しての怒りだ。  松永久秀はかつて男であり、そして武将であった。  織田とか豊臣とか徳川とかがいる、あの戦国時代の武将であった。  色んな濃いキャラがいる戦国時代の武将の中で松永久秀がどんなキャラだったかというと、  長らく仕えていた織田信長からこんな言われようをするようなキャラだった。 『――松永? あいつマジでヤバいよね。普通の奴なら一生かけてやるヤバい悪事、三つもやってるからね。  しかもワシ、二回も裏切られてっからね。一回許したのにもう一回裏切ったのって、アイツくらいのもんじゃないの?』  策謀が得意で、茶道や礼儀にも長け、めちゃくちゃ頭が良いにも関わらず、  自分勝手で強欲で、上を目指すためなら裏切りや虐殺などヒール行動にためらいのない超現実主義者(リアリスト)。  それが松永久秀という武将であり――そんな久秀は、誰かの思い通りに踊らされるのを何より嫌いとする。 「1人残るかチームで残るかするまで、ただただひたすらに殺し合い。  ひゃっはは、理由も意味も告げずにただそれだけを強制する豪胆さは嫌いじゃねぇがなァ……。  俺様が、死にたくないなら茶器譲れって言われて茶器と一緒に自爆して死んだくらい捻くれてるってこと、  “アカネ”とかいう女はちゃんと調べたのかァ? 調べた上でやったんなら――それこそムカつくぜ」  そんな松永久秀に首輪を付け、殺し合いを強制すると言うことは。  久秀からしてみれば、大々的な宣戦布告に等しかった。  つまるところ「松永久秀は“首輪を付けて飼える取るに足らない存在である”」というアピールをしてきたということなのだから。  怒ってもいいですよ、下手に刃向かえばもう一度「爆死」ですけどねという、挑発に相違ないのである。 「ああ、苛つく苛つく。そもそもだな、俺様が蘇らされたのも、  安倍晴明のやつのドジかなにかだって話だったしな……いやあの陰陽師も俺様ほどじゃねーが策謀家だ、  こういうときに俺様をここに送り込むために、わざわざ悪人であるはずの俺様を蘇らせておいた、と考えることもできるか。  だとしたら俺様は“アカネ”とかいう女だけじゃなくて、あの陰陽師にも踊らされてるってことになるなァ、おい」  久秀は、一度死んだ。  織田信長に謀反をとがめられ、許すから茶器を渡せと言われたのを拒否って茶器と共に爆死して、逝った。  自分勝手に気ままにやりたいことをやりきって死んだ。  だが、蘇らされた。  彼女が蘇った世界、「E」は江戸時代が終わらずずっと続いた日本。  江戸時代までは基本「R」と同じだが、そこからひどい分岐の結果、妖怪なんかも現れるいびつな歪みが発生していた。  そこへ安倍晴明というどえらい陰陽師が蘇って来ていて(幼女の姿で)、その陰陽師は妖怪に対抗するためか知らないが、  日本の歴史上の偉人を手当たり次第に蘇らせる術を使っていたのである(なぜかみんな少女で)。  松永久秀もその流れで蘇らされ、少女になった歴史人物の一人なのだ。   当然ながら安倍晴明の下にはつかず、久秀はアースEの現代でも少女の姿すら利用して悪の限りを尽くしていたが……。   「気に食わねぇ、気に食わねぇな。  俺様、こんな紫の流れるくらい美しいツインテールによぉ、ぱっちりした目につやつや肌の小顔、  少女じみたつんつるてん体型に驚きながらも、蜘蛛の浴衣一丁羽織りつつ、第二の人生エンジョイしてたのにさァ。  こんな催し、踊らされるままに殺されるのも、踊らされるままに乗るのも気にくわねぇよなァ……よし決めた」 うんうん頷きながら、腕を組んで、どうやらこれからの方針を決めたようだった。  久秀はにこりと笑って、  近くで燃えている“たき火”のほうに目を向けて、“たき火”に向かって間の抜けたような声を掛けた。 「悪いけど俺様、しばらく殺し合うの辞めるわァ」  “たき火”は、久秀を憎悪のまなざしで見つめ返しながら、その言葉に言葉を返そうと試みた。  しかしその首には強靭な紫の糸が深く食い込んでいて喉を締め上げており、“たき火”は発言することを許されなかった。  ただ喉の底から絞り出すかのようなうめき声を漏らすのみだった。 「……アアァ、ア……」 「だからお前も別に殺さなくても良くなったんだけど、  ま、そんな状態で生き延びても辛いだけだろうしそろそろトドメ刺してやるよ。ひゃはは、俺様、優しいよなァ!」  久秀は糸に吊るした着物が乾いたかどうかを確認しながら、上機嫌に高笑いする。  ――それもこれも開始直後、水を操る妖術使い? 魔法少女と名乗っていただろうか?  ともかく怪しげな術を使う蒼髪の女に「アナタの心から邪気を感じる」とかなんとか因縁つけられて絡まれたのが始まりだった。  否定する理由もなかったので殺し合うことになったが、水の術で服は濡れるわ、ICプレイヤーを聞く暇もないわ、  いろいろ散々な目にあった。久秀はまずそこで非常にムカついたのだった。 「……アァ、アグ……」  でもまあ蘇ってこっち、久秀は当然ながら安倍晴明を裏切って彼女が戦っていた妖怪側に付いたため、  妖術にも通じるようになっており、今では不老不死じみた再生能力に加え、色んな糸を吐く蜘蛛を操ることが出来るようになっている。  蜘蛛の糸で拘束してしまえば、水の妖術使いもただの“たき火”だ。  “たき火”は女の四肢を糸によって縛り付けて、その上からこれまた質の違う糸で作られた布を巻いて作った。  この布に使われている糸はよく燃える糸、四肢を拘束しているのは燃えにくい糸だ。  久秀は被せた布――蓑とでも呼ぶべきか、それに支給されたマッチで火を点けて“たき火”を作ったのだった。 「普通なら余裕で死んでるだろうに、可哀想だなあ、対抗する術があるってのはさァ。  お前はもはや水の力を自分の体表面に使って、火を中和し続けることしかできないんだもんな。  でもまあ、楽しませてもらったぜェ、ひゃはは……あ、最後になんか言うことあるかァ? 喉ゆるめてやるから言うなら言えよ」 「ガ……あ……うあ、あぁぁああッ! こ、殺す!」  すでに30分近く火だるまで踊り続けた女だが、  水の妖術で身体を護ったためか、髪がショートになったのと全身に軽度の火傷が始まってるくらいで元気なものだった。   「殺す……殺してあげる……あなたは私が……私たちが必ず殺す」 「物騒なこと言うなよなァ、殺し合いに反抗? するって意味じゃ俺様とお前、志は同じなんだぜ?」 「あなたのような邪悪な存在が……善良になんてなるわけない、わ……! 何をたくらんでいるの……!!」 「いや別に企んでもねぇよ。普通に乗るのも癪だから、ちょっと様子見ようかなって思っただけ。  チーム戦ってのも気になるしなァー。他のメンバーが嫌な名前の奴らばっかりだったらそいつらのために殺すのもバカらしいだろ?  なにより主催に今は一番ムカついてっからな……そいつ倒すって息巻いてるやつらには協力してもいいかもとすら思ってる」 「ふざ……け……」 「ふざけてねぇふざけてねぇ。俺様はいつだって真面目に俺様の欲望に忠実に生きてきたからな。  ただ、虐殺するのが俺の一番の欲望じゃないってだけだ。俺様の一番の欲望は、俺様より上の存在を全員俺様の下に置くこと」  一番になるためなら何だってする。  その序列には主催だって入ってる、それだけのことだ。と久秀は言った。 「下剋上も裏切りも略奪も虐殺も! 俺様が上だってことを教えてやるための行動だ!  俺様のスタンスは一つだって変わっちゃいねぇ! “俺様を下に見る奴に……どちらが上かを分からせる”!」  デイパックを開けて、久秀はもう一つ支給品を取り出す。  それは日本刀。  かの剣聖・柳生十兵衛も好んで使っていた刀匠、三池典太光世が作りし「天下五剣」の一つ――大典太光世であった。  かつて松永久秀が殺した足利将軍家に伝わるこの秘刀の特徴はその切れ味にある。  その切れ味たるや、積み重ねた死体2体の胴体を切断し、3体目の死体の背骨でようやく止まるほどだという……。 「お喋りは終わりだァ、女! お前の最期の仕事は――この名刀の試し切り要因よ!」 「……化けて、出てあげる……必ず! あなたの前に!」  横薙ぎ一閃。  最後まで恨み節を貫いた魔法少女・久澄アリアの首は一直線に斬れ、宙を舞った。  これにて大典太光世の切れ味は、確かに証明されたのだった。 【久澄アリア@アースMG 死亡】  そしてこれだけでは終わらない。 「さて」     もちろん久秀は予測済であったが、久澄アリアの「水を操る術」は自らの血すらも操る。  死してなおその首から噴きだす血は幾本もの血槍に“化け”、呪いじみて久秀へと襲い掛かった。  火だるまになりながら、水で火を中和しつつも、久澄アリアはこの一瞬のために魔力を練っていたのである。 「もう少しこれと遊んで……その後はどこに行こうかァ? あの城でも行ってみるか? ひゃはは!」  飛来する血の槍が、蜘蛛柄の着物を脱いで裸体となっている松永久秀の身体をえぐるように突き刺さる。  一本、そして二本!  三本目は周りに展開し始めた蜘蛛が糸で止める、  そして槍の刺さった久秀の裸体からはどくどく赤紫の血が流れる!  それでも久秀は狂ったように笑みを止めず、飛来する四~六本目の槍を刀で叩き折る。 「ひゃっはははははははは!!」  蜘蛛と血の槍と名刀が織りなす赤と紫のダンスは、死した魔法少女の身体から魔力が尽きるまで行われるだろう。  しかし久秀は槍に貫かれながらも、自分が死ぬということは計算には入れていない。  実際に、死なない。このような恨みに任せた場当たり的な攻撃では、すでに“妖怪化”している久秀を殺すことは不可能なのだ。  近くに城が見える月夜の森。  赤と紫の血にまみれる松永久秀を月が無慈悲に照らす。  かつて「乱世の梟雄」と呼ばれた強かなる悪人は、久方ぶりの血の味をしばし楽しむ。  ――楽しんでいたので、一つだけ、彼女は気付いていなかった。  最初に水の妖術使いから「いちゃもん」をつけられたとき、   女のそばに浮かんでいた“水球に入った透明な動物”が、その場から居なくなっていることには。   【E-4/森/1日目/深夜】 【松永久秀@アースE(エド)】 [状態]:重症(再生中) [服装]:全裸 着物は生乾き [装備]:天下五剣「大典太光世」@アースE [道具]:基本支給品一式、マッチ@アースR、ランダム支給品0~3(久澄アリアの分) [思考] 基本:俺様を下に見る奴に……どちらが上かを分からせる! 1:しばらく血の槍と遊んでその後は様子見。 2:近くの城に行ってみようかァ? =============  【魔法少女の掟】  魔法少女とマスコットは一心同体。魔法少女が死ねばマスコットは死に、マスコットが死ねば魔法少女は死ぬ。  一度契約した魔法少女は、契約を解除することは通常許されず、使命を果たし続ける必要がある。  ただし継続して3年戦い抜いた魔法少女は、契約を解除してもよい。その場合、マスコットは消滅する。  また、継続して10年戦い抜いた魔法少女に限り、“他者への契約の譲渡”が可能となる。  契約を譲渡された魔法少女は――通常、戦い続けるごとに強くなる魔力を、最初から高い状態で獲得する――。 =============  松永久秀が見据えた地図中央の城から、少々南下した位置にある住宅地。  地区にしてD-5エリアとなるその現代風の街並みの道を、一人の少女がふらふらと歩いていた。 「やっぱり、見えない……ひなのおともだち、みんな、見えなくなっちゃった……」  彼女の名前は雨宮ひな、首輪に描かれた文字は「R」。  しかしその精神はどちらかといえば、自分のいる世界ではなく、他の世界にあることが多かった。  ――世界座標における基本世界であるアースRからは他の世界を感じることが出来る。  空想や寓話や創作物という形で、特に感受性の高い者に対し、他の世界は影響を与え続けている。  そして、そこにおいてこの雨宮ひなの感受性と空想力は特筆すべきものがあった。  彼女はその高い空想力を持ってして、他の世界の様子を実際にその目で見るようなことさえ出来ていた。 「かえるさん……うさぎさん……ぶたさんも……見えない……ひなが、「きんし」されたから……?」  しかし今は彼女がいつも見ていたかえるさんやうさぎさんやぶたさん、  あるいは他のたくさんのおともだちの世界は見えなくなっている。  それは、ここがアースRでなくアースBRであると共に、主催によって他の世界への干渉が断たれているからだ。  不幸中の幸いはひな自身がそれに理由を付けられることであろうか。彼女はここに飛ばされてくる前、  あまりの空想っぷりに業を煮やした両親や担任の先生によって、「空想禁止令」を出されていたのだから。 「ころしあい……こわい……ひな、どうすればいいの……」    まだ小学四年生のひなは空想に逃げることさえ許されず街を歩く。目指すのはこの地区にある図書館だ。  自発的な空想トリップが出来なくなっても、物語を読んでその世界を感じることくらいなら出来るかもしれないと言う発想だ。  発想力。想像力。空想が奪われても、ひなにはまだ人よりすぐれたそれがある。  そしてその「創造力」は――魔法少女にとって、とても大切な要素でもある。 「……え?」  ふらふらと、歩きながら。  雨宮ひなは、クリオネを見つけた。  クリオネもまた、雨宮ひなを、見つける。  空中に浮かぶ水球の中――苦しそうにもがきながら、それはひなの脳内に話しかけてきた。 (アリアは……死にました。通常なら私も消える所ですが、十年働いていた彼女は“契約譲渡”が使えた) (だからアリアは私を逃がした。悪を討ち、この殺し合いを打破するため、アリアの力を――譲渡するため) (よろしければ、“契約”を) (魔法少女の――契約、を……!)  そしてひなは、理解した。  空想は、見えなくなったのではない。自分は、空想の中に来てしまったのだと。   【D-5/住宅街/1日目/深夜】 【雨宮ひな@アースR(リアル)】 [状態]:普通 [服装]:かわいい [装備]:なし [道具]:基本支給品、ランダム支給品0~3 [思考] 基本:ひな、どうすればいいの? 1:魔法少女って? 2:図書館で本を読んで心を落ち着けたい。 |004.[[柳生有情剣]]|投下順で読む|006.[[秘密を持つ二人]]| |003.[[信長様の為に]]|時系列順で読む|006.[[秘密を持つ二人]]| |&color(blue){GAME START}|[[松永久秀]]|| |&color(blue){GAME START}|[[久澄アリア]]|&color(red){GAME OVER}| |&color(blue){GAME START}|[[雨宮ひな]]|026.[[現実という名の怪物と戦う者たち]]|

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