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*真なるクー  ~黄衣の女王~  あれから、どのくらい時間が経ったのだろう。窓から、わずかに蒼い、月の光が射し込んでいる。  わたしは、洋館内のベッドで目を覚ました。ここにはいくつかの寝室がある。その内のひとつだ。ハスツゥンが私と共に空間を移動したのだ。正確には鏡の世界を通り抜けて、と言うべきだろう。  隣には、彼女がいる。ふたりとも全裸だった。 「んん……」  彼女が、寝返りを打つと、その成長途上の胸が、ちらりと見えた。  わたしは、微笑みながら、彼女から与えられた快感を反芻してしまう。 「はっ! いる!」  突然、ハスツゥンが起き上がった。 「な、なんだ、どうしたんだ」  彼女は、強い眼差しで、部屋の出入り口を射るように睨んだ。 「いるのよ! あいつが! クー・トゥルーがっ! まさかこんな近くにいるなんて」  殺気。  激しい憎悪と怒り。  先ほどの情事の時、わたしに向けた、あの愛情とも取れる優しさは、微塵もなかった。 「もしかして、そのクーというのはカエル頭たちの長なのか?」  彼女は、わたしを振り返って睨んだ。 「ええ、そうよ、我が主。あの醜く臭い生き物どもはあいつの奉仕種族。この前だって、縷々家(るるいえ)の近所を通りかかったらヤツらがコソコソ岩陰で、はすつんたんはぁはぁとか言ってて……んもお、キモイったらなかったわ!」  この前、と言うのがどのくらい前なのか、縷々家とはどういう場所なのか、まるで解らないがそれでも彼女の嫌悪は良く伝わった。鳥肌が立っていたからだ。しかし、一体どこでキモイなんて言葉を覚えたのか。謎だ。 「ここで会ったが千年目!」  彼女は裸のまま、わたしたちが通ってきた鏡に向かって、手を突っ込んだ。中から、なにやら杖を引き出した。先には羽根飾りをあしらった黄色いメガホンが付いている。 「いらっしゃい! 我が僕(しもべ)達よ!」  それを器用にバトントワリングのようにクルクル回し、びしっと、天に突きつけた。 「レリーズ!」  何故、英語なのか解らないが、ともかく“放つ”と言う意味の言葉を発した。  すると空中に三つの窓が浮かび、それぞれに景色が映った。  彼女は氷河が投影されている窓に呼びかけた。 「ァミ・ゴ!」  氷の山が弾け飛び、中から丸眼鏡の少女が現れた。中学生くらいに見える。  格好は雪ん子、としか言いようがない。独特の三角形の傘をまとっている。背中には甲羅がついている。全身は白いファーに覆われていた。  雪ん子は無言でこちらを見つめた。  ハスツゥンは、次に遺跡のような場所の映っている窓に呼びかける。 「ロリガー!」  突然、何か黒い不定形の物体が現れ、すぐさま人型になる。緑の目の少女。服も緑色のワンピース。髪も緑色で真ん中分けだ。いわゆるツインテール。こちらはランドセルを背負っているせいもあって、小学生低学年ほどに見える。 「御意」  それだけ言って、頷いた。  最後の窓には、草原と星空が映っている。 「バイヤヒートは、我が主が召還して」  そう言うと鏡から、小さいチョコと縦笛を取り出し、渡された。 「いい? まず、その黄金の蜂蜜酒を飲んで」  どう見ても、ウィスキーの瓶を模したチョコ菓子だが、とりあえず食べた。 「次に石笛で、この譜面通りに吹いて」  これもやはり、どう見ても小学生の縦笛だ。何年ぶりだろう、こんなものを吹くなんて。  譜面通りに吹くと、どこかで聞いた曲だった。 「はい、その曲をその下の歌詞通り歌って」  歌詞にはこうあった。 『いあ! いあ! ハスツゥン!  のま! のま! のま! いぇい!  バイヤヒー、バイヤフー、バイヤハッハー!』  わたしは、戸惑った。やはり良く聞いたことのあるものだ。 「インスパイア?」  わたしがつい、口を滑らすとハスツゥンは、わたしを睨んだ。 「ああああたしがオリジナルなんだからね!」  突然、草原と星空が映っている窓が赤く光る。  遠くからもの凄いスピードで、雄叫びを上げる鳥のようなものが接近してきた。 「うぉぉぉぉ――ッ!」  赤い髪の少女だ。全身が赤い羽で覆われている。まるで南国の鳥だ。  首に猫のような鈴を着け、腹は白く、半円状のポケットが付いている。  それぞれの窓が、呼応するように光り出した。  次の瞬間、風が部屋中に巻き起こる。  それが収まった時。  窓の中にいた少女達が全員、ハスツゥンの周りに跪いていた。  ハスツゥンは偉そうに、彼女たちに声を掛けた。 「ァミ・ゴ、黄衣」  雪ん子が無言で、傘から服を取り出し、ハスツゥンに着せた。黄色い地に黒い襟のついたローブ……と言うより、ハッピだ。 「ロリガー、仮面」 「御意」  女児がランドセルから、白と黒の縦縞の入った帽子をハスツゥンに献上する。  彼女はそれを被って、青白いサンバイザーを下ろした。 「バイヤヒート、パンツ」 「はいぃッ!」  鳥少女が無駄に元気な返事をして、腹のポケットに手を入れた。中から、黄色と黒の虎縞の下着を取り出し、ハスツゥンに履かせた。  彼女は頷いて、大きく息を吸って告げた。 「我が名はハスツゥン! 名、伏し難き者! 黄衣の女王!」  他の三体がうやうやしく頭を下げた。 「そこにおられるのは我が主なり! 名を淫乱たる艶女(アデージョ)!」  他の三体が私に向かって、さっきと同じようにうやうやしく頭を下げた。  わたしは、ハリ扇を手に取った。  シーツを身体に巻いて、ツカツカと近寄る。 「艶女(アデージョ)は、どこで覚えたのか知らないが、まあ、許してやろう。実際、そんな年齢だしな。だが、言うに事欠いて淫乱とは」  彼女は竦み上がった。 「だ、だって、我が主。貴女のベッドでの乱れっぷり、あれってば相当な……」  ハリ扇を高く掲げた。4匹とも恐れおののく。皆、ハスツゥンの眷属ゆえかハリ扇を怖がるようだ。 「あ、アカンて! やめてて! それ、ホンマに怖いんやもん!」  しゃがんで怯えるハスツゥンの口から、関西弁が飛び出した。彼女はハッとして口を押さえる。 「え……?」  わたしは一瞬、誰が喋ったのか理解できずポカンとした。  ハスツゥンは顔を真っ赤にして、わたしに食ってかかった。 「なんなんよ! 関西弁が嫌なん? 嫌なんやろ! 恥ずかしい子や思てんねやろ! もうええわ! どっか行き! 知らんわ! あほぉ!」  ぷいっと、きびすを返しドアのほうへ歩き出した。他の三匹も、戸惑いながら後に続く。  わたしは彼女の背中に走り寄って、抱きしめた。 「な、なんよ、なんなんよぉ……」  関西弁の発音でわたしに問う。頬は濡れていた。 「大丈夫だ。嫌じゃない。むしろ、可愛いと思うぞ」  彼女を抱く腕に力を込めた。柔らかい。 「ん……許したるわ。でも、ぎゅうってされたからやないで」  わたしはもう一度、彼女を抱きしめた。 ***written by coobard ◆69/69YEfXI *coobard ◆69/69YEfXI 氏の 素直クール小説掲載サイト [[クーのいる世界>http://coobard.fc2web.com/]] ---- *[[真なるクー 05]] | [[真なるクー 07]] ----
*真なるクー  ~黄衣の女王~   あれから、どのくらい時間が経ったのだろう。窓から、わずかに蒼い、月の光が射し込んでいる。   わたしは、洋館内のベッドで目を覚ました。ここにはいくつかの寝室がある。その内のひとつだ。ハスツゥンが私と共に空間を移動したのだ。正確には鏡の世界を通り抜けて、と言うべきだろう。   隣には、彼女がいる。ふたりとも全裸だった。 「んん……」   彼女が、寝返りを打つと、その成長途上の胸が、ちらりと見えた。   わたしは、微笑みながら、彼女から与えられた快感を反芻してしまう。 「はっ! いる!」   突然、ハスツゥンが起き上がった。 「な、なんだ、どうしたんだ」   彼女は、強い眼差しで、部屋の出入り口を射るように睨んだ。 「いるのよ! あいつが! クー・トゥルーがっ! まさかこんな近くにいるなんて」   殺気。   激しい憎悪と怒り。   先ほどの情事の時、わたしに向けた、あの愛情とも取れる優しさは、微塵もなかった。 「もしかして、そのクーというのはカエル頭たちの長なのか?」   彼女は、わたしを振り返って睨んだ。 「ええ、そうよ、我が主。あの醜く臭い生き物どもはあいつの奉仕種族。この前だって、縷々家(るるいえ)の近所を通りかかったらヤツらがコソコソ岩陰で、はすつんたんはぁはぁとか言ってて……んもお、キモイったらなかったわ!」   この前、と言うのがどのくらい前なのか、縷々家とはどういう場所なのか、まるで解らないがそれでも彼女の嫌悪は良く伝わった。鳥肌が立っていたからだ。しかし、一体どこでキモイなんて言葉を覚えたのか。謎だ。 「ここで会ったが千年目!」   彼女は裸のまま、わたしたちが通ってきた鏡に向かって、手を突っ込んだ。中から、なにやら杖を引き出した。先には羽根飾りをあしらった黄色いメガホンが付いている。 「いらっしゃい! 我が僕(しもべ)達よ!」   それを器用にバトントワリングのようにクルクル回し、びしっと、天に突きつけた。 「レリーズ!」   何故、英語なのか解らないが、ともかく"放つ"と言う意味の言葉を発した。   すると空中に三つの窓が浮かび、それぞれに景色が映った。   彼女は氷河が投影されている窓に呼びかけた。 「ァミ・ゴ!」   氷の山が弾け飛び、中から丸眼鏡の少女が現れた。中学生くらいに見える。   格好は雪ん子、としか言いようがない。独特の三角形の傘をまとっている。背中には甲羅がついている。全身は白いファーに覆われていた。   雪ん子は無言でこちらを見つめた。   ハスツゥンは、次に遺跡のような場所の映っている窓に呼びかける。 「ロリガー!」   突然、何か黒い不定形の物体が現れ、すぐさま人型になる。緑の目の少女。服も緑色のワンピース。髪も緑色で真ん中分けだ。いわゆるツインテール。こちらはランドセルを背負っているせいもあって、小学生低学年ほどに見える。 「御意」   それだけ言って、頷いた。   最後の窓には、草原と星空が映っている。 「バイヤヒートは、我が主が召還して」   そう言うと鏡から、小さいチョコと縦笛を取り出し、渡された。 「いい? まず、その黄金の蜂蜜酒を飲んで」   どう見ても、ウィスキーの瓶を模したチョコ菓子だが、とりあえず食べた。 「次に石笛で、この譜面通りに吹いて」   これもやはり、どう見ても小学生の縦笛だ。何年ぶりだろう、こんなものを吹くなんて。   譜面通りに吹くと、どこかで聞いた曲だった。 「はい、その曲をその下の歌詞通り歌って」   歌詞にはこうあった。 『いあ! いあ! ハスツゥン!   のま! のま! のま! いぇい!   バイヤヒー、バイヤフー、バイヤハッハー!』   わたしは、戸惑った。やはり良く聞いたことのあるものだ。 「インスパイア?」   わたしがつい、口を滑らすとハスツゥンは、わたしを睨んだ。 「ああああたしがオリジナルなんだからね!」   突然、草原と星空が映っている窓が赤く光る。   遠くからもの凄いスピードで、雄叫びを上げる鳥のようなものが接近してきた。 「うぉぉぉぉ――ッ!」   赤い髪の少女だ。全身が赤い羽で覆われている。まるで南国の鳥だ。   首に猫のような鈴を着け、腹は白く、半円状のポケットが付いている。   それぞれの窓が、呼応するように光り出した。   次の瞬間、風が部屋中に巻き起こる。   それが収まった時。   窓の中にいた少女達が全員、ハスツゥンの周りに跪いていた。   ハスツゥンは偉そうに、彼女たちに声を掛けた。 「ァミ・ゴ、黄衣」   雪ん子が無言で、傘から服を取り出し、ハスツゥンに着せた。黄色い地に黒い襟のついたローブ……と言うより、ハッピだ。 「ロリガー、仮面」 「御意」   女児がランドセルから、白と黒の縦縞の入った帽子をハスツゥンに献上する。   彼女はそれを被って、青白いサンバイザーを下ろした。 「バイヤヒート、パンツ」 「はいぃッ!」   鳥少女が無駄に元気な返事をして、腹のポケットに手を入れた。中から、黄色と黒の虎縞の下着を取り出し、ハスツゥンに履かせた。   彼女は頷いて、大きく息を吸って告げた。 「我が名はハスツゥン! 名、伏し難き者! 黄衣の女王!」   他の三体がうやうやしく頭を下げた。 「そこにおられるのは我が主なり! 名を淫乱たる艶女(アデージョ)!」   他の三体が私に向かって、さっきと同じようにうやうやしく頭を下げた。   わたしは、ハリ扇を手に取った。   シーツを身体に巻いて、ツカツカと近寄る。 「艶女(アデージョ)は、どこで覚えたのか知らないが、まあ、許してやろう。実際、そんな年齢だしな。だが、言うに事欠いて淫乱とは」   彼女は竦み上がった。 「だ、だって、我が主。貴女のベッドでの乱れっぷり、あれってば相当な……」   ハリ扇を高く掲げた。4匹とも恐れおののく。皆、ハスツゥンの眷属ゆえかハリ扇を怖がるようだ。 「あ、アカンて! やめてて! それ、ホンマに怖いんやもん!」   しゃがんで怯えるハスツゥンの口から、関西弁が飛び出した。彼女はハッとして口を押さえる。 「え……?」   わたしは一瞬、誰が喋ったのか理解できずポカンとした。   ハスツゥンは顔を真っ赤にして、わたしに食ってかかった。 「なんなんよ! 関西弁が嫌なん? 嫌なんやろ! 恥ずかしい子や思てんねやろ! もうええわ! どっか行き! 知らんわ! あほぉ!」   ぷいっと、きびすを返しドアのほうへ歩き出した。他の三匹も、戸惑いながら後に続く。   わたしは彼女の背中に走り寄って、抱きしめた。 「な、なんよ、なんなんよぉ……」   関西弁の発音でわたしに問う。頬は濡れていた。 「大丈夫だ。嫌じゃない。むしろ、可愛いと思うぞ」   彼女を抱く腕に力を込めた。柔らかい。 「ん……許したるわ。でも、ぎゅうってされたからやないで」   わたしはもう一度、彼女を抱きしめた。 ***written by coobard ◆69/69YEfXI *coobard ◆69/69YEfXI 氏の 素直クール小説掲載サイト [[クーのいる世界>http://coobard.fc2web.com/]] ---- *[[真なるクー 05]] | [[真なるクー 07]] ----  

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