線型代数


線型空間(ベクトル空間)

線型空間の概要

線型演算の定義できる集合Vを線型空間と呼ぶ.より正確には,空でない集合Vに下記の定義を満たす写像(線型演算)が定義されていて,なおかつ次節にある線型空間の公理がみたされているとき,集合(代数系)VK-ベクトル空間と呼ぶ.(ちなみに四則演算が自由にできる集合Kのことを体と呼ぶ.)
線型演算(括弧内は数学的に適切な記述ではない.)
 和    :V \times V \rightarrow V   (V+V \rightarrow V)
 スカラー積:K \times V \rightarrow V  (K V \rightarrow V)
上記の線型演算が直積集合V \times VまたはK \times VからV自身への写像となっていること,つまりK-ベクトル空間が線型演算に関して閉じていることに注目せよ.
※ベクトルとはK-ベクトル空間Vの元\bf{v} \in Vのことであり,Kの元c \in Kはスカラーと呼ばれる.

線型空間の公理(ペアノ)

和に関する結合法則
任意の\bf{u,v,w} \in Vに対して,\bf{(u+v)+w = u+(v+w)}
和に関する交換法則
任意の\bf{u,v} \in Vに対して,\bf{u+v = v+u}
和に関する恒等式
Vには特殊な元\bf{z}で,任意の\bf{v} \in Vに対して,次の等式をみたすものがある.
\bf{v+z=v=z+v}
和に体する逆演算
任意の\bf{v} \in Vに対して,\bf{v'} \in Vで,次の等式をみたすものがある.
\bf{v+v'=z=v'+v}
スカラー積に関する恒等式
任意の\bf{v} \in Vに対して,1 \cdot \bf{v}=v
スカラー積に関する結合法則
任意のa,b \in K\bf{v} \in Vに対して,(ab) \cdot \bf{v} = a \cdot (b \cdot \bf{v})
和とスカラー積に関する分配法則
任意のa,b \in K\bf{u,v} \in Vに対して,
a \cdot (\bf{u + v}) = a \cdot \bf{u} + a \cdot \bf{v}, (a+b) \cdot \bf{v} = a \cdot \bf{v} + b \cdot \bf{v}

用語の定義

部分空間
K-ベクトル空間Vの空でない部分集合Wが線型演算に関して閉じているとき,WV部分空間であるという.
線型結合と生成系
\bf{v}_1, \cdots, \bf{v}_n \in V\forall i (a_i \in K)から作られたベクトルa_1 \bf{v}_1 + \cdots + a_n \bf{v}_nを,\bf{v}_1, \cdots, \bf{v}_n線型結合と呼ぶ.線型結合がつくる集合は,<\bf{v}_1, \cdots, \bf{v}_n> = \{ a_1 \bf{v}_1 + \cdots + a_n \bf{v}_n | \forall i(a_i \in K) \}と表現する.<\bf{v}_1, \cdots, \bf{v}_n>Vの部分空間である.特に,V = <\bf{v}_1, \cdots, \bf{v}_n>となるとき,すなわち,Vのすべてのベクトルが\bf{v}_1, \cdots, \bf{v}_nの線形結合で表せるとき,ベクトルの集合\{\bf{v}_1, \cdots, \bf{v}_n\}V生成系であるという.
線形独立と線型従属
K-ベクトル空間Vのベクトル\bf{v}_1, \cdots, \bf{v}_n \in Vにおいて,\sum a_i\bf{v}_i = \bf{0}を満たすa_i\forall i(a_i = 0)のみであるとき,\bf{v}_1, \cdots, \bf{v}_n \in V線型独立であるといわれ,線型独立でないときは線型従属であるといわれる.
線型空間の次元
n個の線型独立なベクトルが存在するが,(n+1)個以上のどんなベクトルも線型従属になるとき,V次元(dimension)nであるといい,Vの次元を\dim \ Vで表す.このとき,Vは有限次元ベクトル空間と呼ばれる.一方,いくらでも多くの個数のベクトルが線型独立になるとき,そのベクトル空間は無限次元ベクトル空間と呼ばれる.
ベクトル空間の基底
ベクトル\bf{v}_1, \cdots, \bf{v}_n \in Vがすべて線型独立である場合,\{\bf{v}_1, \cdots, \bf{v}_n\}V基底であるという.

ベクトルの座標表現

ベクトル空間Vの基底\phi = \{\bf{v}_1, \cdots, \bf{v}_n\}を用いると,ベクトル空間中の任意の元\bf{v}は,座標[a_1 a_2 \cdots a_n]_{\phi}によって表現できる.
∵ \bf{v} = [a_1 a_2 \cdots a_n]_{\phi}\left[\begin{array}{c} \bf{v1}_1\\ \bf{v}_2\\ \cdot\\ \cdot\\ \cdot\\ \bf{v}_n \end{array}\right]
ただし,ここで言う座標はベクトル空間における座標であり,一般の座標とは区別しなければならない.

幾何ベクトル

有向線分によって定義された"大きさと方向をもつベクトル"を幾何ベクトルという.
中でも,原点の定義された空間において,原点から引かれた有向線分を位置ベクトルという.
位置ベクトルを用いることで幾何学における直線や平面の方程式を定義することが可能である.
k \in Kとし,\bf{a,a',x} \in Vが位置ベクトルであるとすると,
 直線の方程式:\bf{a'} - \bf{a} = k(\bf{x} - \bf{a})
 平面の方程式:(\bf{a'} - \bf{a})\cdot(\bf{x} - \bf{a}) = 0
が成立する.ただし,\bf{x}が変数である.
直線の方程式における\bf{a'} - \bf{a}は方向比,平面の方程式における\bf{a'} - \bf{a}は法線ベクトルとそれぞれ呼ばれる.

線型写像

線型写像の概念

二つの線型空間V, Wに対して,写像f:V \rightarrow Wが,
f(\bf{x+y}) = f(\bf{x}) + f(\bf{y})
f(c\bf{x}) = cf(\bf{x})
を満たすとき,写像f線形写像と呼ぶ.ここで,\bf{x,y} \in Vである.

線型写像の行列表現

二つの線型空間V, Wの基底をそれぞれ\phi = \{\bf{v}_1, \bf{v}_2, \cdots, \bf{v}_n\}, \psiとする.また,線型写像f:V \rightarrow W
f(\bf{v}_1) = (w_{1,1}, w_{1,2}, \cdots, w_{1,m})_{\psi}
f(\bf{v}_2) = (w_{2,1}, w_{2,2}, \cdots, w_{2,m})_{\psi}
  ・ ・ ・ ・ ・ ・
  ・ ・ ・ ・ ・ ・
  ・ ・ ・ ・ ・ ・
f(\bf{v}_n) = (w_{n,1}, w_{n,2}, \cdots, w_{n,m})_{\psi}
という性質を持っているとする.このとき,線型写像f:V \rightarrow Wは,
\left[\begin{array}{c}(w_{1,1}, w_{1,2}, \cdots, w_{1,m})_{\psi}\\ (w_{2,1}, w_{2,2}, \cdots, w_{2,m})_{\psi}\\ \cdot \\ \cdot \\ \cdot \\ (w_{n,1}, w_{n,2}, \cdots, w_{n,m})_{\psi}\end{array}\right]
と行列で表現することができる.これをfの表現行列と呼ぶ.表現行列を用いると,Vの元\bf{x} = [x_1 x_2 \cdots x_n]_{\phi}の写像は,
f(\bf{x}) = [x_1 x_2 \cdots x_n]_{\phi} \left[\begin{array}{c}(w_{1,1}, w_{1,2}, \cdots, w_{1,m})_{\psi}\\ (w_{2,1}, w_{2,2}, \cdots, w_{2,m})_{\psi}\\ \cdot \\ \cdot \\ \cdot \\ (w_{n,1}, w_{n,2}, \cdots, w_{n,m})_{\psi}\end{array}\right]
と記述できる.

ベクトルの計量

内積

VK-ベクトル空間とするとき,以下の性質を満たす,Vからスカラーへの写像<\cdot,\cdot>:V \times V \rightarrow Kを内積という.
正定値性
任意のベクトル\bf{v} \in Vに対して,<\bf{v, v}>は非負の実数で、<\bf{v,v}> = 0 \leftrightarrow \bf{v} = 0
線型性
任意のスカラーa,b \in Kと任意のベクトル\bf{u,v,w} \in Vに対して、<a\bf{u}+b\bf{v}, \bf{w}> = a<\bf{u,v}> + b<\bf{v,w}>
対称性
任意のベクトル\bf{v,w} \in Vに対して、<\bf{v,w}> = <\bf{w,v}>

内積の具体的な計算方法はK-ベクトル空間により異なり,また一つであるとも限らない.
  1. 数ベクトルの場合
    二つのベクトルを\bf{u,v}とすると,内積<\bf{u,v}>は次式によって定義される.
    <\bf{u,v}> = \sum_k u_k v_k
  2. 関数ベクトルの場合
    二つのベクトルをf(t),g(t)とすると,内積<f(t),g(t)>は次式によって定義される.
    <f(t), g(t)> = \int f(t)g(t)dt

ノルム

ノルムは内積<\cdot,\cdot>を用いて定義される量で,K-ベクトル空間Vから体Kへの写像である.
||\bf{v}||:=\sqrt{<\bf{v,v}>}
ノルムとは与えられた内積で測った "ベクトルの大きさ" であり,この意味で内積はベクトル空間に計量 (metric) を定めるという.
幾何ベクトルの場合,ノルムは有向線分の長さを表すことになる.

相関係数

相関係数もまた内積を用いて定義される量で,二つのベクトルの"近さ"を表す量である.
二つのベクトルを\bf{u,v} \in Vとすると,相関係数cos \thetaは次式によって定義される.
cos \theta = \frac{<\bf{u,v}>}{||\bf{u}||\cdot||\bf{v}||}

成分分解

任意のベクトル\bf{x}を基底(単位ベクトル)\bf{u}_kに射影した結果は
x_k = <\bf{x,u}_k>
によって計算される.

行列

正則行列

逆行列の存在する行列は正則であるという.
n \times nの行列Aが正則であるためには,Aの逆行列を計算できなければならないので
\mbox{rank}(A) = n
という条件を満たす必要がある.

固有ベクトル・固有値

線形変換Aに対して A\bf{x}=\lambda\bf{x}\lambdaは実数)なる\bf{x}\lambdaが存在する場合,\bf{x}, \lambdaをそれぞれ固有ベクトル,固有値と呼ぶ.
線形変換によってほとんどのベクトルが大きさと方向の両方を変化させるのに対し,固有ベクトルはその大きさのみを変化させる.
線形変換Aの固有ベクトルを求める問題を固有値問題という.

正定値行列

全ての固有値が正の値をとる行列を指す.
そのため,固有ベクトルを正定値行列によって線形変換した場合,向きが逆になることはない.


最終更新:2009年05月09日 11:55
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