MONSTERS ◆gsq46R5/OE


  犬吠埼樹は勇者である。
  だから先の光景を見せられて、恐怖よりも激憤が先に出た。
  そこにどんな事情があるにせよ、人を殺すことは許されない罪だ。
  そんなこと、小学生だって知っている――なのに主催者の少女は、その禁忌を土足で冒したのだ。
  温厚で臆病な樹にしては珍しく、険しい表情で唇を噛み締めて。
  彼女は考えていた。どうすれば、この八方塞がりの状況を打破できるかを。

  一見すると、この殺し合いは認めたくないが完璧だ。
  こういったことに詳しくない樹でも分かるほどに、言ってしまえば隙がない。
  四方を海に囲まれた島に閉じ込め、主催に刃向かおうとすれば殺されるというから参る話だ。

  更に、繭は言った。生き残った最後の一人には、報酬としてどんな願いごとでも叶えてあげる――と。


 「……願いごと……」


  樹には、それを嘘八百と断言することは出来なかった。
  少し前の彼女ならそうしていたろうが、今の樹はそういう不思議な力がこの世に存在することを知っている。
  支給品の代わりに持たされていた、見慣れたスマートフォンをぎゅっと握り締め、樹は思う。
  繭はきっと、本当にそんな夢みたいな力を持っているのだろう。
  彼女の主催したゲームを制覇して繭を楽しませた『いい子』には、本当に報酬を与えるのだろう。

  樹は幸い、ごくごく平凡ながらも幸せな人生を送れている。
  頼れる姉の風もいるし、勇者部の賑やかな仲間にも囲まれている。
  だから、殺し合いをしてまで叶えたい願いは持っていない。
  しかし、皆が皆そうではない。これをチャンスとし、意地でも報酬を勝ち取りに来る輩が居るはずだ。

 「やっぱり、ダメなのかな……」

  思わず弱音が零れる。神樹に選ばれた勇者の一人だろうと、樹の心自体は普通の少女と変わらない。
  死ぬのは怖い。けれど自分のためだけに誰かを殺すなんて、考えただけで背筋が凍りつく。
  矛盾だと分かっていても、樹はそれを変えられない。
  怒りが落ち着き、心が冷静になるにつれて悲観的な考えばかりが浮かび上がってくる。

  こんな時は、どうすればいいんだったっけ。
  樹が思い出すのは、これまで何度も自分を助けてきた五つの掟。
  勇者部五箇条。彼女たち勇者部が守り、従うべき掟であって、部訓でもある。

  勇者部五箇条、その一。
  挨拶はきちんと。

  勇者部五箇条、その二。
  なるべく諦めない。

  勇者部五箇条、その三。
  よく寝て、よく食べる。

  勇者部五箇条、その四。
  悩んだら相談。

  勇者部五箇条、その五。
  なせば大抵なんとかなる。


 「……そっか。そうだよね」

  今、樹の周りには相談できる相手がいない。
  四人の仲間達も今頃は島の何処かで、殺し合いと向き合っているのだろう。
  しかし樹は気付いた。自分が無意識の内に、頼れる存在を姉を含めた彼女たち四人だけと定義していたことに。
  違う、そうではない。この島には、自分を除いて六十九人もの参加者がいるのだ。
  中には自分達と同じく、殺し合いを良しとしない参加者だっているに違いない。
  彼らの力や知恵を借りることができれば、樹では思いもつかない未来を切り開ける可能性はある。

 「ダメだよね。諦めたりしたら」

  だから今はまだ、諦めるべき時ではないと樹は思う。
  がむしゃらに足掻いて、やれることは全てやって、それで諦めるならまだしもだ。
  まだ自分は何もしちゃいない。――勝手に出来ないと思い込んで、視野を狭めていただけなんだから。


 「なせば大抵――なんとかなるっ。
  そうだよね、お姉ちゃん。それに、みんな」


  自分にできる精一杯をやろう。
  そしてみんなで、このゲームを終わらせるんだ。
  前向きに宣言する少女の瞳に、もう弱気の虫はいなかった。
  犬吠埼樹は勇者である。勇者は、決して恐怖に屈することはない。



 「うんうん、実に立派な決意だね。ボク、感動しちゃったよ」

 「え」

  気を抜いていたわけでは、断じてなかった。
  あれほど深く悩み込むくらいには、樹は殺し合いの危険性を承知している。
  考え事をしている間も、周囲には出来るだけ気を配っていたはずなのに――気付けば、自分の背後に少女がいた。

 「あれ~? どうしたの、そんな狐につままれたみたいな顔しちゃって」

  大きなリボンと変わったデザインの眼帯が目立つ少女だった。
  可憐な衣装を纏っているだけでなく、本人の出で立ちも日本人離れした可愛らしさがある。
  そんなだから、この少女からは現実感というものが欠如していた。
  樹の顔を無遠慮に覗き込み、心配するような口振りで喋る彼女の腕には、参加者に填められる腕輪が確認できる。

 「あ――あなたも。あなたも、参加者……なんですか?」
 「何かと思えばそんなこと? 当たり前じゃない。
  大体、偉いえら~いゲームマスター様がこんな序盤から出張ってくるわけないでしょ~?」

  どこか緊張感のない物言いが、何故にこんなにも不安感を駆り立てるのかが樹にはわからない。
  分からないが、彼女も参加者だというのならば情報の交換くらいはして然るべきだろう。
  樹は名乗ろうと、眼帯の少女へ向き直る。
  その時樹が咄嗟に反応できたのは、少女に対して抱いていた不安感のおかげだった。


 「わっ。君、見かけによらずどん臭くないんだね」


  少女の後ろ手に、無骨な長物が握られていると気付き。
  半ば反射的な動作で後ろへ退いたのとほぼ同時に、少女はそれを横薙ぎに振るったのだ。
  樹の左頬に、一筋の赤い線が走り――つぅ、と同じ色をした滴が溢れてくる。
  もしあとほんの一秒でも動くのが遅ければ、樹の頭は容易くスライスされていた。
  ニコニコ笑う少女に恐怖を覚える樹だが、すぐに自分のすべきことを思い出し――彼女は姿を変える。

  無力な少女から、戦う少女へ。
  人から勇者へと、犬吠埼樹は『変身』を遂げる。
  それに対し、襲撃者……針目縫は暫し驚いたような表情を浮かべていたが。
  それもやがて笑みになる。片割れの欠けた大バサミを片手に、勇者と真っ向相対す。

 「殺し合いに乗るというなら、あなたを止めます。
  勇者として――あなたを見過ごすことは、出来ませんっ!」

 「あはははっ、くっさーい。
  今時そんなセリフ言っちゃって、恥ずかしくないのー?
  ……なぁんて言うより、力づくで叩きのめしちゃった方が早いかぁ」

  夜の校舎を背後に、戦いの火蓋は切って落とされた。




 「チッ! 化物が、お構いなしかよッ!!」

  一方その頃。
  針目縫と犬吠埼樹の交戦を他所に、ここにも交戦している参加者たちの姿があった。
  もっとも此方の戦いは、既に一方的な様相となりつつあったのだが。

  逃げるのはホル・ホース。
  西部劇のガンマンを彷彿とさせる見た目に違わず、持っている得物は黒い拳銃だ。
  しかし、これは只の銃ではない。
  ホル・ホースと同じ力――『スタンド能力』を持つ者でなければ、そもそも視えすらしない異能の火器である。
  弾丸までもがスタンド能力によるものだから、その弾道も彼の思うがまま。
  つまり一般人にしてみれば、視えない銃より放たれた視えない弾丸が、常識では考えられない軌道を描いて迫ってくるのだ。これを脅威と言わずして何とする。
  ただ、今はその銃も弾丸も可視化されている。主催者による、ゲームバランスを保つための措置の一環だ。
  スタンド能力をスタンド使いでない人間にも見えるようにする――そんな芸当が人知れず行われた結果、ホル・ホースのスタンド『皇帝(エンペラー)』の殺し合いにおける強みは半減していると言ってもよかった。

  無論、それはあくまで一般人戦を前提とした話だ。
  スタンド使いとの戦いでも、彼はこれまで遺憾なく『皇帝』の強さを発揮してきた。
  だがしかし、今劣勢に立たされているのはホル・ホースの方であった。

 「(ちくしょう、やってられねえぜ! あの化け物、こっちの『弾丸(タマ)』が全然通らねえ!!)」

  ホル・ホースが押されている理由とはそれだった。
  見える見えない云々よりももっとずっと単純な話、彼の弾丸が一発たりとも有効打として機能していないのだ。
  原因は分かりきっている。敵が全身に纏っている、影のように黒いライダースーツだ。
  見てくれからでは分からないが、どうもあのスーツが相当の強度を有しているらしい。
  かれこれ二桁は打ち込んできたにも関わらず、奴が血の一滴さえ流していないのがその証拠だった。

  それならばライダースーツに守られていない場所を撃てばいいだろう、そういう話に当然なる。
  ホル・ホースとて馬鹿ではない。
  当然、そうやって対処出来るならそうした。
  彼が今こうして追い詰められているのは、それが出来なかった結果なのだ。
  ライダースーツの化け物には、首がない。信じられないことに、首から上がまるで存在していない。
  そも、ホル・ホースが攻撃を仕掛けたのもそれが理由だった。
  首のないライダースーツが悠々と殺し合いを闊歩しているのを見れば、誰だとて平常ではいられないだろう。

  ライダースーツの化け物は、いつしかその手に大きな鎌を握っていた。
  漆黒の処刑鎌だ。しかもそれも、まともな材質で出来ていないことが傍目からでも分かるから質が悪い。
  影のような何かで作り上げた長物を握り、化け物が哀れなスタンド使いとの距離を着々と詰めてくる。
  これにはさしものホル・ホースも参った。彼は迷わず両手を挙げ、首のないその体へと懇願する。

 「待て待て、ヘヘ……分かった、俺が悪かったよ。降参だ。だからもうやめにしてくれ」

  正直、これが通じる相手だとはこれっぽっちも思っていなかった。
  自棄になった行動だったといってもいい。しかし、事態は彼の予期しなかった方向へと転がり出す。
  首のない体は彼の言葉を聞くなり沈黙し――数秒の後に、出現させた影の処刑鎌を消したではないか。
  その後、何やら取り出した電子端末を操作し始めたのだが、彼にとってそんなことはどうでもよかった。
  重要なのは、自分では逆立ちしても勝てない相性の悪すぎる敵が、まんまと戦意を引っ込めてくれたことだ。


 「(……なァ~んつってなッ!)」


  ホル・ホースは化け物へ背中を向けると、全力で近くに見える分校へとダッシュし始めた。
  その潔さたるや、まさに脱兎の如し。
  後ろは振り返らない。振り返るのは、逃げ切ったと確信を持ててからだ。

 「(あんな化け物に関わってたら命がいくつあっても足りねー。おれはあくまでズルく賢く行かせてもらうぜ)」

  DIO然り、さっきの首なし然りだ。
  度が過ぎた化け物には関わらず、生き延びることを最優先して欲はかかない。
  願いを叶えるという響きには確かにそそられるものがあったが、一攫千金を狙うにもあんまり分が悪すぎる。
  決して無茶はせず、堅実に生き延びること。
  それが、このバトル・ロワイヤルでホル・ホースが掲げたスタンスだった。



 「(薄々予想はしていたが、やはり逃げられたか……)」

  彼を追う『化け物』――セルティ・ストゥルルソンは、首から上があればため息でもつきたい気分だった。
  主催者、繭の傍迷惑極まるゲームに巻き込まれた挙句、普段から被っているヘルメットが没収されていたのだ。
  ホル・ホースはそんな彼女を見て躊躇わずに発砲したが、セルティ自身無理もないことだと思う。
  セルティはデュラハンという妖精だ。尤も、今はもっぱら首無しライダーと呼ばれていたが。
  とにかくその名の通り、彼女には首から上が存在しない。
  ヘルメットもないのだから、それを隠すことさえ出来ない。
  大の男ですらああなのだ。早急に誤魔化す手段を考えなければ、この先何度誤解されるか分かったものじゃない。

 「(誤解は出来れば解いておきたいし、そうでなくともあの男――何か危ない感じがした。
   とりあえず追いかけて話を聞いてもらわなければな……幸い、PDAはちゃんとあるんだし)」

  セルティは首のないショッキングな外見とは裏腹に、穏やかで人のいい人物だ。
  そんな彼女が殺し合いを良しとする筈もなく、繭を止めて出来るだけ大勢でゲームを終わらせたいと思っている。
  その矢先にこれとは、まったく出鼻を挫かれた気分だった。
  しかし凹んでもいられない。今はとにかく、あの男を追いかけなくては。

  首無しのライダースーツが追いかける。
  スタンド使いのガンマンがひたすら逃げる。
  その追走劇に痺れを切らしたセルティが、『ある物』をカードから取り出そうとした――その時だった。

  ホル・ホースが、不意に足を止めた。




  ホル・ホースは、ひとまずこの旭丘分校へ逃げ込もうと考えた。
  室内ならば隠れる場所も逃げ場も豊富なはずだし、延々鬼ごっこを続けるよりも撒きやすいと考えたからだ。
  そうして彼は改めて分校に近付き――そこで、驚くべき光景を目にする。
  少女が、串刺しにされていた。串刺しにしているのも、可憐な見た目をした少女だった。
  その戯画的ですらある光景は、しかし突き刺した少女の手にある無骨なハサミが台無しにしている。


  ――犬吠埼樹と針目縫の戦闘は、針目縫が制した。


  針目は生命戦維の化物だ。
  三ツ星極制服を纏った敵が相手だろうと、一方的に戦えてしまう。つまり、彼女は強い。
  樹が勇者に変身して高い能力を得ていようが、培った経験とセンスで彼女は針目に劣っている。
  勇者という存在の秘中の秘、『満開』を使えば針目を撃退出来たかもしれないが――針目に遊びはない。
  正しくは、遊ぶには値しないと判断したのだ。
  樹が満開の使用に踏み切るよりも早く彼女の意識を奪い、そうして今に至る。

  樹は両手を重ねた状態で、掌の真ん中を貫かれ、壁に串刺しにされていた。
  意識は失ったままだ。体にも、裂傷がところどころに見受けられる。

  勇者、スタンド使い、首無しライダー、そして生命戦維の化物。
  四人の異常な者たちが、今ここに会する。


【F-4/旭丘分校前/一日目・深夜】

【セルティ・ストゥルルソン@デュラララ!!】
[状態]:胴体にダメージ(小)
[服装]:普段通り
[装備]:
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、
    黒カード:PDA@デュラララ!!、V-MAX@Fate/Zero、不明支給品0~1枚
[思考・行動]
基本方針:殺し合いからの脱出を狙う
1:……? この男(ホル・ホース)、どうして止まった?
2:首を隠す手段を探す。できればヘルメットがほしいところ
3:知り合いとの合流。臨也には一応注意しておく。
[備考]
※制限により、スーツの耐久力が微量ではありますが低下しています。
 少なくとも、弾丸程度では大きなダメージにはなりません。


【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(小)
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0~3
[思考・行動]
基本方針:生存優先。女は殺さない。
1:どうなってんだ、こりゃ……
2:ジョースター一行やDIOには絶対に会いたくない。出来れば会う前に野垂れ死んでいてほしい。
[備考]
※参戦時期は少なくともDIOの暗殺に失敗した以降です


【犬吠埼樹@結城友奈は勇者である】
[状態]:気絶、疲労(大)、胴体に裂傷多数、両掌に刺傷(貫通)
[服装]:普段通り
[装備]:樹のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らず、皆で帰りたい
1:………………。
[備考]
※少なくとも参戦時期は声を失う前からの参戦です。


【針目縫@キルラキル】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:片太刀バサミ@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:神羅纐纈を完成させるため、元の世界へ何としても帰還する
1:犬吠埼樹を殺す。男(ホル・ホース)達はその後。
2:流子ちゃんのことは残念だけど、神羅纐纈を完成させられるのはボクだけだもん。仕方ないよね♪
[備考]
※流子が純潔を着用してから、腕を切り落とされるまでの間からの参戦です。
※流子は鮮血ではなく純潔を着用していると思っています。


支給品説明
【PDA@デュラララ!!】
セルティ・ストゥルルソンに本人支給。
彼女が愛用しているPDA。基本、彼女はこれに文字を打って他人と会話する。

【V-MAX@Fate/Zero】
セルティ・ストゥルルソンに支給。
アインツベルンが第四次聖杯戦争にあたり用意した大型自動二輪のオートバイ。
セイバーをして驚愕させるほどのスペックを持つが、その分乗りこなすことは極めて困難。
セイバーさえ魔力放出の力業で押さえ付けるしか手段がなく。方向転換も魔力放出で強引にねじ伏せるしかなかった。
当ロワでは出せる限界速度に制限が掛かり、MAX400kmものスピードは出せないが、その分多少乗りやすくなっている。

【樹のスマートフォン@結城友奈は勇者である】
犬吠埼樹に本人支給。
勇者へと変身するためのアプリが入った携帯電話。精霊は木霊。

【片太刀バサミ@キルラキル】
針目縫に本人支給。
纏一身が開発した、生命戦維の生命そのものを断つとされる「断ち斬りバサミ」の片刃。
針目が持っているのはあくまで片割れなので、参加者の誰かにもう片方が支給される可能性もゼロではない。


時系列順で読む


投下順で読む


セルティ・ストゥルルソン 045:1+1+0+1−1=
ホル・ホース 045:1+1+0+1−1=
犬吠埼樹 045:1+1+0+1−1=
針目縫 045:1+1+0+1−1=