憎みきれないろくでなし ◆oQGY08yizY


俺は生きているのか。
フードを深く被った男――間桐雁夜が意識の目覚めと共に己の掌を見つめる。
彼は聖杯戦争と呼ばれる殺し合いとも捉えられる一種の儀式に参加していた。
願いを叶えるために血で血を洗う悲しくて泥臭い人間の腐った信念を詰め込んだこの世の毒吐き世界。

ありとあらゆる手段を用いて他の参加者を殺す現代の裏社会にて彼は死んだ。
愛する者と守りたい者のために己を正当化して夢だけを視界に捉えていた男は死んだ。
其処は暗い暗い蟲の中で、守りたい者に手を伸ばすも何一つ、欠片さえ掴めずに男は死んだ。

そんな男が行き着いたのは天国でも地獄でも無ければ現代の理、つまり死んでおらず受肉している。
意識が在る。身体が在る。生命が在る。
黄泉の世界ではなく常世の世界に身を持った男を待ち受けていたのは一人の少女と殺し合い。

どんな方法や魔術を使用したかは不明だが、全てをカードに包む少女は殺し合いの開幕を告げた。
優勝――最後の一人になれば願いが叶う。まるで聖杯戦争のようだ。
使役するサーヴァントが存在しないため己の力一つで乗り越える、まさに実力主義の世界。

反逆すれば己はカードになると言われている。
一種の結界魔法によって戦わなくても生命が握られている。
戦わなければ生き残れない、ではなく、戦わなくても生命をが握られている状態に逃げ道など存在しない。

ならば間桐雁夜は他の参加者を殺すのか。

否。

もう懲り懲りである。
この手は汚れきっている。
大切な人達を抱きしめるにはあまりにも醜く、血に染まり過ぎた。
彼が夢見るのはもう一度、帰ること。

「葵さん……桜ちゃん……」

まだ彼女達が生きているのなら。
間桐雁夜は彼女達を守る修羅となって永遠に闇の中を彷徨うだろう。
彼女達と共に理想郷に住める未来は彼自身の手で閉ざしてしまっている。
顔向け出来ないならば、裏で彼女達を守る闇の住人になるしかないのだ。
この手で殺してしまった葵と残された桜。彼女達ではなく、桜を守るために。

そのためには帰らなければならない。
脱出の方法は不明だが、死者蘇生を行える少女のことだ。
何かしらの手段を用意しているはずだ。ならば接触を試みるべきである。
聖杯戦争における教会のように何かしらの施設があるかもしれない。
まずは情報収集に努めようとするが、始めの接触は思ったよりも早かった。








「突然で悪いが貴方は人間を殺して回る欲に塗れた弱者か?」


開口一番とは思えない言葉を発しながら黒髪の女性が間桐雁夜に接触する。
その長い黒髪と凛々しい眉毛、整った身体に黄金比とも読み取れる美しい身体を持った女性。
少々奇抜なセーラー服を着ていることだけが不思議ではあるが。

彼女の言葉に間桐雁夜は何を言われているか理解しているのに処理が追い付かない。
殺し合いに参加するなんてさらさらない。
故に他の参加者を殺すつもりも無ければ、欲に塗れている訳でも――どうだろうか。

ともあれ、間桐雁夜は自分はそんなんじゃない、と告げるために口を動かす。
しかし流石にフードを被ったままでは感じが悪く、年下の女性に対する態度ではないためフードを降ろす。

「俺はそんなんじゃない。誰かが不幸になっても自分に幸運なんて訪れるモンじゃないさ」

そう告げると踵を返しその場を去ろうとする間桐雁夜。
フードを降ろしたことによって露わになる魔術師突貫工事の代償。
日常世界に似合わない傷を少しでも目の前の女性に見せたのは失敗だったかもしれない。
だが、この女性が何を目指しているかは知らないが、彼が関わる理由は無い。

力強く言い放った女性。
その瞳は覚悟在る瞳で、聖杯戦争中の間桐雁夜も持ち合わせていた何かを成し遂げるための覚悟が宿った瞳。
一つの目標――夢のために己の全てを投げ出して泥塗れになっても走り続ける覚悟を持った瞳だった。

「ならば私と共に来て欲しい。
 この巫山戯た殺し合いを破壊する私の牙となってくれないか?」

「……は?」

この女性は何を言っているのか。
一緒に来て欲しい。こんな顔の男と関わりを持つ何てどうかしている。
巫山戯た殺し合いを破壊する。正義感溢れる魅力的な女性だ。
私の牙。まるでサーヴァントに対するマスターのようだ。

「私は鬼龍院皐月。本能寺学園生徒会長を務めている。
 もしこの殺し合いを破壊するつもりがあるなら私に力を貸してくれ」

「俺は間桐雁夜……殺し合い何て巫山戯てると思う。けど、皐月ちゃ……どうする気なんだい?」

「貴方の力を見込んで頼んでいる、間桐雁夜。
 感じる説明の出来ない力――私の知らない何だかよく解らない力を貴方は持っている」

鬼龍院皐月はこの殺し合いを破壊するつもりでいる。
どんな理由や思想があれど他人を殺していい理由にはならない。なってはいけない。
正当化してはいけない巫山戯た状況を破壊するために彼女は仲間を集めている。
この会場に居る仲間は蟇郡苛と満艦飾マコ、そして纒流子。
けれど彼らは諸事情により本来の力を発揮出来ない状況に陥っている。

蟇郡苛は己の誇りでもある極制服が度重なる激闘により砕け散ってしまった。
満艦飾マコはどんな状況でも己を貫き通す強い女だ。だが、戦闘能力が大きく欠けている。
妹である纒流子は神衣純血を身に纏い、悪の世界に身を落としている。

この状況で鬼龍院皐月が取る行動は仲間を集めること。
自分一人で羅暁に勝てないのと同じように、殺し合いを破壊するために仲間を集める。

「願いを叶える力がこの世に存在してなるものか。
 だが願いに釣られ己の欲を駆り立てられた人間は何処かで道を踏み外す。
 誰かが汚す必要の無い手を血で汚してしまう前に、私はこの殺し合いを破壊する」

力強く一歩踏み込みながら鬼龍院皐月は宣言する。
殺し合いを破壊する、と。
轟く言葉は辺りを震わせるようで自然と間桐雁夜の身体も震えていた。

強い信念を持っている鬼龍院皐月に対し自分はどうなんだ。
腐っても一度は誰かのためにその身を犠牲にする程の覚悟を持ち合わせていた筈だ。
もう彼女の前に現れないで裏から守る? そんな結末のために殺し合いを生き残ることなど出来るのか。
自分が生きてるなら、桜ちゃんが生きているなら。
もう一度凛ちゃんを交えて、笑って時を過ごしたい。
刹那でも構わない。その理想郷の一瞬を抱きしめ、永遠の刹那として一生手放さないで生きて行きたい。
そのためには元の世界に帰らなければならない。そのためには殺し合いから脱出しなければならない。

「強いね皐月ちゃんは……おっと馴れ馴れしくてごめんね。
 俺なんかでよければ力になってあげるって言いたいけど、実際どうなんだろう。
 正義の味方になるつもりはない。けど、もう一度逢いたい人達のために死ぬつもりはない……だからよろしく」

伸ばした腕は刻印蟲に蝕まれ弱々しく、脆い。
けれど彼の言葉どおりもう一度逢いたい人達のために死ぬつもりはない。

まるでヒーローのような言葉は自分でも臭いと間桐雁夜は思う。
もっと別の言葉があるだろうと自分を嘲笑いながら。

「他人の夢を笑う資格は誰も持っていない……よろしく頼む間桐さん」

掴まれた掌を繋ぐ一つの覚悟。
男と女は境遇や生き様は違えど、大切な人達が存在する世界のために己の牙を剥き運命を斬り裂く。

「流子……お前が皐月の手を握る日のために私も戦うぞ」

鬼龍院皐月でも間桐雁夜でもない声が響く。
謎の男の声に驚き間桐雁夜は辺りを見渡すが人影一つ見当たらない。

鬼龍院皐月は身動き一つ取らずに黙って己の胸を見つめている。
釣られて視線を落とす間桐雁夜だが中々に膨らんでいるモノ以外に何があると言うのか。
鬼龍院皐月は唾を一度飲み込み呼吸を整えてから言葉を発した。


「鮮血……今のはお前の声か?」

「――皐月!? 私の声が聞こえると言うのか!?」

「セーラー服が喋ってる……喋ってる……?」

「なに、たしか雁屋と言ったな。お前も聞こえているのか!?」


間桐雁夜は喋るセーラー服を初めて見た。当然である。
どうやら鬼龍院皐月と知り合いらしいが、そもそも服と知り合いとはどんな表現だ。

「これも腕輪の影響なのか?」

「解らない。だがこのチャンスを逃す訳にはいかない。
 皐月よ、私の声が聞こえる内に協力して流子を取り戻すぞ」

「当たり前だ鮮血。お前に言われなくても最初からそうするつもりだ」

流子。
そう呼ばれる存在を取り戻すことが鬼龍院皐月と鮮血の目的らしい。
殺し合いに参加している知り合いの名前だろうか。
気付けば間桐雁夜は誰が殺し合いに参加しているか把握していない。
鬼龍院皐月と鮮血の話が終わったら自分も確認しようと思い、今は黙って彼女達の会話を聞く。

「流子とは私の妹だ……そして鬼龍院羅暁に操られている」

「妹……その流子ちゃんを助けるのなら、俺も協力する」

「済まない間桐さん。今はどんな力でも欲しいのが現実だ。
 私と鮮血だけではもしかしたら流子に敵わないかもしれん――無論、全て正面から捩じ伏せるつもりでいるが」

己の拳を握りながら力強く宣言する鬼龍院皐月。
間桐雁夜には鬼龍院羅暁の名前に心当たりはないが、鬼龍院の姓から紐解くと皐月の親族だろう。
妹が操られている。部外者には踏み入ることの出来ない家庭内事情のようだ。

妹。
その言葉に間桐雁夜は勝手に共感を覚えていた。
例え求められていない救いの手だろうと、自分の視界に捉える不幸を取り除きたい。
もう一度桜ちゃんに笑ってもらいたい。

鬼龍院流子。
名前しか知らない皐月の妹だが愛する妹を救う彼女に間桐雁夜は己の力を貸すだろう。
これでも魔術師の端くれだ。力になれることは少なからず存在するはずだ。


「行くぞ鮮血、雁夜さん。
 絡まった糸を全て斬り裂いて、大元を断ち切ってこの世界を、人類に誇りを取り戻す!」


後光が見えると錯覚する程の威厳。

鬼龍院皐月の長くて短い戦争が幕を開けた。


【C-6/一日目 黎明】


【鬼龍院皐月@キルラキル】
[状態]:健康
[服装]:神衣鮮血@キルラキル
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、 黒カード:神衣鮮血@キルラキル
[思考・行動]
基本方針:纒流子を取り戻し殺し合いを破壊し、鬼龍院羅暁の元へ戻り殺す。
1:雁屋、鮮血と共に殺し合いを破壊する仲間を集める。
2:襲ってくる相手や殺し合いを加速させる人物は倒す。
3:纒流子を取り戻し、純血から開放させる。
4:刀剣類の確保。
[備考]
※纒流子裸の太陽丸襲撃直後から参加。
※そのため纒流子が神衣純潔を着ていると思い込んでいます。
※どうせ鬼龍院羅暁が関わっていると思い込んでいます。


【間桐雁夜@Fate/Zero】
[状態]:健康
[服装]:普段着
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品1~3枚
[思考・行動]
基本方針:殺し合いから脱出し、日常へ帰る。
1:鬼龍院皐月と一緒に行動する。
2:鬼龍院流子を羅暁(?)から開放する手伝いをする
3:主催者に接触し元の世界へ帰還する魔術を問いただす。
[備考]
※死亡後から参戦。
※魔術回路は理由が不明ですが生きています。
※名簿を確認していません。


【神衣鮮血@キルラキル】
喋る黒いセーラー服である。鬼龍院皐月に支給された。
その正体は纒流子が着るために創られた対生命繊維の兵器。
変身することにより露出度と戦闘能力が大幅に強化される。鮮血自身が武器として振る舞うことも出来る。
無論、赤手甲とセットで支給されているため、変身可能だ。
制限として、本来よりも疲れる仕様になっているが気合でカバーしよう。また、声は参加者全員に聞こえるようになっている。


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鬼龍院皐月 051:本能字の変(1) バクチ・ダンサー
間桐雁夜 051:本能字の変(1) バクチ・ダンサー