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【紡ぐ者】 ◆WqZH3L6gH6






――第四次聖杯戦争と繭のセレクターバトル
  どちらも各々の願いの為に行われた大規模かつ、それでいて世間からほぼ秘匿された闘争劇
  いずれも願いを叶える資格があるは参加者のみ
  その二つの要素を含めたゲームに置いてもそれは――




何年も前のある日。その日は晴れ。
ある広い古びた館に何人もの大人が慌ただしく作業をしていた。
そこは廃屋。大人達――白衣を着用し顔を隠した何人もの男女とは対象的に、
喧騒の中心にいる点滴を打っている灰色髪のパジャマ姿の少女は
落ち着いた様子で金髪の男と作業をしていない白衣の1人と対面している。
金髪の男が作業中の白衣の男を一瞥した。それに気づいた男は他の白衣達に声をかける。
短いやり取りの後、少しして彼を含めた男女は俊敏かつ丁寧に作業を中断し居た部屋を去っていった。

残されたのは灰色の少女と金髪の男と性別の解らぬ白衣ひとり。
退屈げな表情をしていた少女は辺りをきょときょとと見回し、眉をひそめる。
そして苦笑しつつも何かを肯定するような感想を漏らした。

金髪の男は満足気にそれに返答し、懐から冊子を取り出す。
少女は落ち着いた様子で冊子を受けとり読んだ。
金髪の男は期待混じりの声で少女に問いかける。
冊子に書かれていた事は実現できるのか?と。


少女は灰色の長髪を揺らしつつ顔を上げ思い巡らせる。
目の前の2人は自分の恩人の様なものだから、手伝ってやっても良いかも知れないと。
沈黙が訪れた。他2人も黙ったまま解答を待つ。その最中、電話が鳴った。
白衣の顔が金髪の男へ向く。金髪の男は自らの電話を取り、向こうの相手と会話しながら苦笑浮かべた。
彼は多少の未練を残しながら少女に挨拶をしその場を去った。


そして、金髪の男が去ってしばらくして少女の思考は纏まり、残ったひとりに告げる。
それを聞き白衣は初めて口を開く。喜びとそれが入り交じった問いが少女へと飛んだ。

少女は釣られたような病からの咳をしながらも、脇に置かれた遊具を手に取る。
白衣はそれに見覚えがあった。少女の異能の発生源でもあるカードゲーム ウィクロスのカードデッキ。
少女はそのデッキを手渡そうと寄って来た。
速やかな返答を期待していた白衣はその反応に当惑し、少女に疑問を投げかける。
少女は心外といった表情をし立ち止まり、挑発の混じった笑みを浮かべ言った。


「説明するより、手に取って考えた方が簡単よ」


白衣は口を噤み、多少迷いを見せつつも少女の手からカードデッキを受け取る。
ふと見ると少女の肩から小さな人の顔が見えた様な気がした。


――灰色の少女にとってもその無人だった館は薄気味悪い事この上なかった。
後で調べてみるとそこは有名な怪奇スポットだったという。
その所為かあの白衣達の何人かは後日病にかかったらしい。初めここに長く居たくはなかった。
でも白窓の部屋を彷彿とさせる神秘的な所でもあったので暫くここに居るのも悪くないと思った。



セイバーの胴がスタンド 星の白金の拳に貫かれる。
少しして空条承太郎は今倒したサーヴァントへ何かを言い捨て、この場を去った。


「……」

ヒース・オスロは相変わらず貼り付けた様な笑顔を崩さなかったが、両眉は困ったかの様に一瞬歪んだ。
繭はそれに気づいた様子だったがあえて何も言わなかった。

放送直前に行われたエリアH-5の大戦。
それは放送直後、風見雄二と纏流子の追走劇と、空条承太郎と言峰綺礼対セイバーの2つの戦に分かれた。
運営基地のある一室でそれらを観察するは繭とヒース・オスロとその従者 テュポーン。
三者の居る場はヒース・オスロの部屋。
遠坂時臣が一先ず去った後、繭はオスロからゲームの感想を求められ返答した直後にある懸念に気づき、
会話を延長して今度はそれについての対策を求めようとしていた。
だが、遠見の窓に承太郎らとセイバーの戦闘が白熱しつつあったのを認め、観戦に徹する事に決めて中断していた。


「……南ことりと満艦飾マコの白カードの事なのだけれど」


繭は他の生存者が映し出された窓を一通り見渡すと、オスロが言い出す前に新たな問題を伝えようとする。



「アザゼル達の様子からして彼女達の白カードには異変は無かったようだが?」


参加者の魂が封じられたカードについてはオスロも注意を払っている。


「白カードが剥がれた後と誤認したのでしょ解りにくいものね。
 本当は腕輪にくっついたままなのに」


その声にはさっきまでの会話で自分の要望がほぼ却下された不満の色が明らかに含まれていた。
オスロは顎を手に当てると低い声で呟く。


「しかし腕輪の破壊方法に気づき得る参加者は現時点では……」
「窓はすべてを把握できる訳じゃないわ。研究所の一部や、変な仕掛けをしている四つの施設の一部。
 地下道に至っては音声をほとんど拾えない上に映像も不鮮明な事が多いのよ。あの時注意を払えって言っていたのは貴方じゃない?」


繭の態度から来る不機嫌からかテュポーンの眉間に皺が寄る、オスロは苦笑しつつ片手で従者を宥めると真剣な面持ちになった。

「埋葬されているが、気づかれると拙いか……」
「私でも参加者と繋がっていない白カードはコントロールできないわ。
 それに腕輪の破壊は生存者のより簡単よ。早く何とかした方が良いと思うわ」
「……」
「禁止エリア侵入以外の理由で私が参加者を殺す訳にはいかないんでしょう?」

オスロの目つきが一瞬鋭くなるが、すぐ元に戻った。

繭は気づいてるのか気づいてないのか曖昧な様子で喋り続ける。

「私、ルール違反以外でお仕置きはしたくないのよ。何とかして」


すうっとオスロが深く息を吸った。


「次放送でE-1を禁止エリアにするよう向こうに伝えて置こう」
「あら?それだけで間に合うかしら」
「……」
「起こる筈の無い事は、ここでも何度か起こっているのに」
「……?」
「そう例えば、宮永咲っていう熟練のセレクターと良く似た雰囲気の麻雀使いたでしょ。
 このゲームに参加させたあの娘の知り合いって本当は違う子が選出される手筈だったんじゃない」
「……何故そう思うのかね?「早期の全滅はともかく、選出に不備はあったとは……」
「嘘。だって他のコミュニティと比べてあまりにも関係が希薄じゃない。ミスしたとしか思えないわ。
 私だってゲーム開始前に幾つかの世界は見てきてるのよ、あの娘の人間関係把握してるのよ」
「ぶっ?!」


オスロは思わず吹き出した。
窓の向こうに映るセイバーが後悔の念を顔に表しながら息を引き取り
腕輪からの青白い光が彼女の魂を絡め取りカードに封印したのはその時だった。




大きな窓と百近い小さな窓が果てしない高所にあり、人の手で容易に届く位置にある小窓が五十以上ある大部屋。
中心には針時計が備えられてる柱が一つ。
大窓から今しがた死んだ騎士王と呼ばれた英雄の魂が大部屋に入り込んだ。
その魂はこれまで小窓に封じられた他の魂の中でも大きい。
けれどこれまでのと同様に区別なく吸い寄せられるように抵抗なく小窓に引き寄せられ閉じ込められる。
閉じた窓の向こうから女の苦痛の呻きが漏れる。

それとほぼ同時に今度は生来の歪みを抱えた神父の魂が大部屋へと入り込んだ。
大きさは騎士王と比べ一回り小さい。だがその輝きは多少の凶々しさを放つものの騎士王のそれと比べ鮮やかだった。
そして彼の魂も小窓に封じられる。声はなかった。
今閉じた小窓は2つ。柱から微かに鈴の様な音が鳴る。
部屋の主たる繭は今ここにはいない。






繭には聖杯戦争関連を含め自分達に不都合な情報は伝えない様にしている。
宮永咲を含めた一部の参加者間の関係もその一部であった。
途中、言峰綺礼の今際の会話に気づいた繭は窓を見ている。
言峰の最期を確認し、オスロは繭との会話を再開した。

「知っていたのか……伝えてくれないとは人が悪い」
「伝える必要がある程の事かしら。白窓の部屋の性質の事、前に訊いてなかったの?」

繭が顔を向ける。

「聞いてはいたが、実感がね……」


オスロに白窓の部屋について教えてくれたのは彼にとっての主だったが、なるべく関わりたく無い類の人物だった。
それに加え教えられた時期が超常に慣れていなかった頃だったからか、頭に入り切らなかったようだ。
白窓の部屋は稀に時空を超えた映像や音声が発生すると伝えられている。
だからこそ時間が掛かったものの白窓の部屋と同様の機能を持ち、より強大な超常の力を持ったを運営基地を利用できているのだ。


「……さっき言った事、まともに聞いていないみたいだし。そんな運営で貴方達の目的が達成できるかしら?」
「悪い、解ったよ繭。今すぐには無理だが君もよく知るあの人と相談した上で放送前に対策を取ろう」
「……」


オスロは繭に気を使って接していた。だがそれは長く共にいた事と同様ではない。
テロリストという立場に加え、異世界に関わってからは強大な敵が増え、構ってやる事ができなくなっていたのだ。
加えて繭自身はオスロの嗜好から程遠い人物で、便利な道具としてしか見れなかった。
本来あるべき道を歩んだヒース・オスロ同様に参加者ではない方の風見雄二に傾倒していたのも大きい。
彼にしてみれば融和より、警戒の方へ舵切るのは仕方のない面があった。
かと言って繭を必要以上に軽く扱う事はできない。不用意に危害を加える事は自分の利益にも反し、他の協力者の反発も必至だから。


「あの人ねぇ」


微かな抵抗が感じられる繭の声。
オスロもあれを人と呼ぶのは抵抗があった。


「人手がいればすぐに対策はできるのだが」
「あの2人じゃいけないのね」


オスロは2人は正確では無いなと胸中で呟く。

主催には名目上は管理者である繭を除けば、いくつもの立場の者で分けられている。
オスロや『あの人』など身内で凌ぎを削って、願いを叶える手段を勝ち得た権利者。
運営内の人間関係は別にして、願いの権利を巡る権力闘争に関わらなかったが故に権利を得られず、中には権利そのものさえ知らぬ者さえいる遠坂時臣などの外様。
運営によって選ばれ拉致されてきたものの、ゲームに参加できなかった等の理由で幽閉されている捕虜。
そして一部運営に必要とされ選ばれたがゲームの性質上、最低限の役割と能力しか与えられていない制約の厳しい駒同様な裏方がいる。
いずれの立場の者は各数名しかいないがこれが運営の陣容である。


あの2人とはいわば裏方。
これまでは地下通路の更に隠された通路と繭のサポートで、橋の修復や地下通路の新たな出入り口の開通の作業をこなしていた。
しかし既に埋葬された腕輪の発掘回収やタマヨリヒメ回収になってくると無理があった。
裏方は参加者への攻撃はおろか直の接触さえも禁止されている。
仮に参加者ならばそこそこの力を持っていただけにあの2人を使えないのをオスロは惜しんだ。
挑発するかのように繭は甘い声で囁く。


「他に方法はなかったの?」
「……」

無い。

身内が繭を発見できなければ願いを叶える力なんて間違いなく発見できなかった。
白窓の部屋を別にすれば、代替になるものはこれまで発見した十を超える異世界を見渡しても聖杯しかない。
最低でも白窓の部屋に連なる力と聖杯システム両方がなければゲーム開催など不可能だ。


「!」
「……あらあら、また始まったわよ」


戦況の変化にいち早く気づいたはテュポーン。
少し遅れてほぼ同時にオスロと繭。
3人の上方の窓に映るは鬼龍院皐月と宮内れんげ、そして針目縫。
運営の3者は会話をまたも中断し、彼女達の戦いを観戦する。




「……っ」


針目縫脱落というの結末に、表情こそ変えなかったがテュポーンの声が漏れる。
繭は薄ら笑いをしつつ身をかがめてオスロを覗き込んだ。


「タマを支給品にしなければ私の協力が得られたのにね」
「……」
「……」


繭の嫌味にオスロと従者は表情を変えずただ沈黙を続ける。
その様子に繭は不満げに口を尖らせた。
この主従、表面こそ平静を保っているが心中は穏やかではない。

テュポーンは主を侮辱する繭に対し怒りを抱いていたし、
オスロは危機感を否応なしに自覚させられていた。
繭の怒りと不信は未だ治まっておらず、現状ままだとこちらへの協力が望めないという事実に。

彼が知る限り、ゲームに乗り気である参加者は現時点で多く見積もって残り5名程度。
その中の3名のDIO、ヴァニラ・アイス、ラヴァレイは窓からの様子からしてスタンスを変えた可能性が感じ取れる。
オスロして見ればラヴァレイと平常時のDIOは彼等の経歴を知っている事もあり最も油断ならない部類の参加者。
前者は立ち回りが非常に上手く、後者は行動が読みにくい。ヴァニラ・アイスは主に従うだろう。
よってその3名はそれぞれの敵対者以外の参加者減らしに期待できる人材と見れなくなった。
残る現・浦添伊緒奈ことウリスは参加者の中では非力で不用心な傾向が強くもっと当てにできない。
となると有望な参加者は纏流子のみとなるが、こちらは少なからず消耗し、いつ脱落しても不思議でない状態。
このまま行けばゲーム進行が停滞する可能性が高い。この状況で繭の協力が得られなくなるのはオスロにとって非常に拙かった。
白カードの問題もある。


「……」


繭は無表情で呆れたような視線を2人に向けた。
もしこの場にオスロの部下が多数いればこれ以上大人しくしようとは思わなかっただろう。
それだけにゲームの制限により部下の殆どを連れて来られない現状はむしろ幸いだとオスロは思った。
精神を乱される事無くオスロは現状の最適解を考え、顔を僅かに伏せ表情は少しばかり悲痛に歪ませ口を開く。



「タマヨリヒメを保護できれば、私を許してくれるか」
「!?」
「…………ええ、そうよ話が早いじゃない」


オスロの明らかに遜った態度にテュポーンは身を震わせ、繭は戸惑いつつも喜色を浮かべる。


「私はどうすればいい……」
「……」


繭は態度を変えたオスロを気味悪そうに見つめつつ問いた。


「何でタマを支給品の中に混ぜたの?」
「……」


その質問が来るのは予想していた。先程は適当に言葉を濁したが、次そんな態度を取ればもう協力は望めない。
セイバー、針目縫といった優秀な殺戮者が脱落した今、繭にも言っていない願いを叶える方法のノルマが達成できない可能性が高くなっていた。
繭いわく協力者であるあの人がまだここにいない以上、ゲームの盤面に介入できうる切り札はまだ切れない。
もし厳しいこの状況を打開できうる手段を繭が持っているなら、何としてもそれを使わせる。
よってあの人……いや『奴』との協力関係はこの際破棄する事をオスロは決めた。


「君も知るあの人から頼まれたのだよ」


「……っ」
「理由はタマヨリヒメを詳しく知らない私には大凡しか見当がつかないがね」


オスロがタマヨリヒメについて詳しく知らないのは事実である。
白窓は全てを見れるものではない。見れる情景には個人差と運が絡む。
オスロはセレクターやルリグの過去は見れず、逆に『奴』は多くを知れた。
違う時系列の原初のルリグを繭の元に連れてくる提案をしたのも『奴』だった。
それが大きな違い。


「何で断らなかったの?」
「断ったら、タマヨリヒメに直に危害を加える可能性があると思ったからだ
 君もあの人の経歴……危険性は知っているだろう?」
「……」


危害云々は嘘である。オスロがホワイトホープを支給品の山に加えたのは、仮に繭がこちらに刃を向けた場合、
有力な参加者にタマヨリヒメの力を抑止力して発揮させてもらう狙いがあったからだ。
そうした理由の一つとして繭の不安定さに危惧を抱いていたというのがある。
オスロは繭に対してゲーム開始前までは関係悪化をしないよう振る舞って来たが、安全に確証を持てる程の材料が無かった為、
ここにはいない『奴』と共同で防護策を練っていたのだ。繭を警戒している点では『奴』とオスロの思惑は一致していた。
繭は収まらぬ怒りを含めた眼差しで彼を睨み冷たく言い放つ。


「貴方怖いから、あの人に従ったんでしょ」
「……」
「……!」


真っ向からの侮辱に部屋に痛い程の沈黙が訪れる。
部屋にいる3人は能面のような表情で立ち尽くした。


「…………まぁ良いわ、タマのついてはあの人が悪かった事にしてあげる」
「……助かるよ」


繭は後ろを向き部屋から立ち去ろうとする。
テュポーンはその動作に微かに殺気を発するが、これもオスロが宥めた。
繭は振り向かない。


「タマを保護するわよ」
「自ら出向いて保護するのかね?さっきも言ったが、参加者の所持品を運営が没収するのはバランス的に良くないのではないか?」
「もしタマと接触できそうだったら別のルリグカードと交換するよう説得させるわ」


繭はどこからともなくカードの束を取り出した。
カードを持った手の甲には黒い塵のようなものがいくつか付着している。


「説得させる?君ではなく、裏方を使うのか?」


そう言うオスロを他所にカード束を2つに分け机に置く。
黒い塵は数を急激に増し手に持った束を包み込む。


「ええ。方法があるの」


掴んだ束は2枚の黒カードへと変わり、内1枚を机上のカード束に落とす。


「どういう……」
「見れば解るわ」


カード束は黒カードに吸い込まれるかのように消えた。


「それは君のデッキじゃないのか?」


机上の黒カードを見るオスロ。繭は机上のカードを摘む。


「……これでバトルする機会があると思ったけれど、しばらく無さそうだし違うカードを用意しようと思うの」


「レベル5が存在するルリグを」
「……説得できる目処はあるのかね?」
「使えないタマよりも、ここで与えられた能力を持つルリグの方が役に立つわ」
「利用できるできないで交換に応じる相手ではないと思うが」


繭は黒カードから元の形に戻したデッキをシャッフルしながら宙を仰ぎ見る。


「……難しいのはそこなのよね。知り合いなのは他の子だし。」
「?」
「まあ裏方さんと相談しながらやってみるわ」


そう言いつつ繭はカードデッキを黒カードに戻す。机の上にあるのは1枚の無地のカード。


「他の参加者は……」
「その辺も私が上手くコントロールしてみせるわ」
「――」


紙が破ける音がした。


「もう邪魔しないでよね」



繭のその一言にオスロは落胆した。繭への抑止力の一つを失ってしまう事に。
机の上の紙は破れ、黒い煙のようなものが微かに発生していた。繭は本気だとオスロは悟った。
彼はゲームでのタマヨリヒメの所持者であったアザゼルの顔を思い浮かべた。
繭とタマヨリヒメと小湊るう子の関係を自らの推理で言い当てた高位の悪魔。
彼と遭った対主催傾向の参加者はその高い頭脳と実力に彼に期待をしたが、オスロはそれに値する人物ではないと思った。
アザゼルの残忍な行動はるう子とタマヨリヒメを萎縮させ、三好夏凛に多大な負担を強いたからである。
肝心要のタマヨリヒメ――全ルリグもそうだが力を発揮させるためには精神的な成長が必要であると『奴』から聞いている。
進化がどうこう言ってた割に目立つ行動は自衛以外は基本他者への嫌がらせ。結局、何も成せなかったなとオスロは心中で悪魔を嘲った。
机の上の白カードを見た。


「アーミラのカードは?」
「しばらく様子を見るわ。吸血鬼コンビが拾いそうだし」
「……」


マイナス2か。オスロは沈痛さを表に出さずまたも落胆する。
バハムートへの抑止力が高い確率で此方に強い敵意を抱いているだろう凶暴な吸血鬼に渡るのだ。
施設で嫌がらせなどさせなければと彼は後悔する。気落ちしないほうが無理があった。
ファバロ・レオーネがアーミラの白カードを回収していたのは繭より先に知っていた。
オスロが知る限り、アーミラから神の鍵を分断させたとかいう話は聞かない。
これまでアーミラのカードを放置したのは白のルリグデッキと同様の理由だった。

「じゃ行くわね」
「何処へ?」
「大部屋に」
「……解った」


ゲームのシステムについて独自に調査するつもりなのだろう。
繭が暴走した場合取れる手段が更に限られるという意味ではこちらにとって不都合な流れだった。
だがゲームが破綻するよりはと自らを納得させそのまま見送ろうとする。


「ことりとマコが埋められたのは放送局の外だったわよね」


背を向け去っていく繭から声がかかる。


「安心して貴方の悪いようにはしないから」


遠ざかっていく繭を見送りつつ、オスロは安堵の溜息をついた。
繭が視界から消えるとオスロは従者に命令を下した。他の運営者の様子を見てきなさいと。
テュポーンは頷くと、そのまま主の元を離れる。

「……」

従者の姿が見えなくなるや、オスロは青カードを取り出しそれをワインへと変化させた。
彼はソファへ深く座り込み深く息を着いた。疲労が一気に押し寄せて来て思わず顔をしかめた。




「……」


遠坂時臣は運営基地の外にいた。
場所は海辺。時臣が基地に出向いた時は乗船員が乗る船があったはずだった。
待機を命じたにも関わらず、船と乗員は姿を消していたのだ。
時臣自身、目的を果たすまでは帰還するつもりはなく、一旦外出したのも船を帰す為であったが。
かといって無断でやられると面白くない。
渋面で慣れない手つきで通信機を操作し雇った乗員と連絡を取ろうとする。

連絡はすぐ取れた。勝手に出航した乗員へ叱責をする。
向こうは要領を得ない様子で気がついたら出航していたと言った。
まるで意思操作の魔術に掛かったかのようだ。
人払いは済ませてあるというのに、これは。
時臣は再度こちらに来るよう伝えようと考えたが、今度は行方不明になる可能性に気づき一旦帰還するよう向こうに伝えた。

時臣は船着き場に足を運び、魔術が使われた痕跡がないか調べる。
基地全体および島から妙な力が働いているのは確認できたが、魔力の残渣のようなものはなかった。
少なくともあの乗員は自分が知る魔の力によって惑わされたのでは無いという事か。


「……成る程、結界の破壊を危惧しなかったのはこれが理由か」


この島には結界とは別に、固有結界……あるいは空想具現化に似た力が働いている可能性があると時臣は推測する。
己の心象をそのまま異界として発現操作するという、どちらも人の範疇を大きく超えた高位の吸血鬼や英霊のような存在しか扱えないような力。
これだけの事ができるなら自動で人の認識を術者の望む方向で惑わさせる現象を作り出すのは容易だろうと時臣は納得し口を歪めた。
とは言え、人工衛星など超長距離からの監視には対応できるかは疑問である。



こちらに結界を張るのを依頼したのはカバーできない部分を補う為だと時臣は判断した。

関わった事態の大きさからの重圧から来る冷や汗が全身から滲み出るのを感じつつ、時臣は運営基地の門を見据える。


「……」


数時間前、白窓から観察したあの吸血鬼達が見たあの聖杯戦争の映像からして冬木の聖杯は使えない。
つまり遠坂家の悲願である根源への到達はこのままでは実質不可能という事だ。
あの映像が虚偽の可能性も浮かんだが、ゲーム内の間桐雁夜の様子からして恐らく真実だろう。
なら目的を成すには今行われているゲームに賭けるしかない。

「……」

時臣は基地に出る直前に観たある死闘を思い出し眼を瞑り、拳を強く握りしめた。
瞼に浮かぶは親交ある神父の息子で、本来なら聖杯戦争の共闘者になっていた筈の若き屈強なる神父の姿。
未来の自分を裏切り殺めた言峰綺礼。先程死んだ彼との親交はここの時臣にはない。
よって何もと言う程でもないが彼個人への感傷や憎悪の念はない。未来の己への間抜けさから来る自己嫌悪はあったが。
別個体とは言え、息子を喪い生来からの苦しみを理解してやれなかった父である言峰璃正の心境を思うと気の毒になってくる。
今はそれが一番の気がかりだった。

時臣は門へ向かった。
悲願を達成する第一歩として、言峰璃正と最近知り合ったここに来ているだろう運営の一人と会い、今後の為の作戦を練る為に。



大窓からついさっき死んだセレクターの魂が大部屋に入り込んだ。
その魂はジャケットを着たポニーテールの少女の形をしていた。
空いた窓の一つから発せられるは強力な引力。
魂はそれに抵抗を試みる。他の魂よりは粘れたが、すぐ疲労した。
もう逆らえそうもない。
封印を悟った魂は覚悟を決め自嘲の笑みを浮かべ顔を下げた。


「!?」


その時、視界に入ったのは勘違いではあるが少女の魂を驚かせるもので。



紅林遊月の脱落と封魂を確認した繭は大部屋をウロウロ歩きながら不思議に思った。
封印される直前何に驚いていたのだろうと、こちらを見た訳ではないのに。
繭は手にしたカードの絵を見た。疑問は程なくして解けた。
多分マフラーを巻いたあの娘にそっくりだったから勘違いしたのだろうと。
得心した繭はカードから目を離した。高所にある無数の窓を見上げる。

犬吠埼姉妹、南ことり、満艦飾マコ、キャスターの魂を封じた筈の窓。
今からこれらをじっくり調べ上げなければならない。
繭はカードを投げ、そちらに向かって何やら指示を出すと、
今度は竜の絵が描かれたカードを取り出す。
巨大な竜の身体が一瞬で現出し、繭の身体を天井近くまで押し上げた。




――彼の人生は最初から定められていた。
『あの方』の理想を粗方だが実現させるだけの能力と身分が生まれた時から彼に与えられていた。
その生き方に疑問を持っていたかどうかまではもう覚えていない。
彼はその理想に一定の共感を覚えながらも、『あの方』の理想の範疇を逸脱しない程度に好き勝手に悪どく生きている。
彼の名はヒース・オスロ。
一説によればそれは彼の所属する組織、ひいては彼を生み出した『あの方』の名前でもあったという――



オスロはスマホで地下通路にいる裏方達に指示を出すと、壁に立てかけてあった武器を手に取った
剃刀のような剣の手入れをしながら、彼はワインボトルを眺める。
青カードか変じたもの。赤カード同様に聖杯と同質の力によって生み出された奇跡の産物。
真価を発揮する前でこれだけの事ができるカードを何十枚も作れるのだ。

彼はスマホが振動しているのに気づき画面を見る。紅林遊月の脱落の情報が載っていた。


(思うように行かないものだ)


スマホアプリウィクロスは、原初のルリグたるユキを参加者に協力させる足がかりにさせるつもりで導入したツールだ。

紅林遊月がゲームに気づく前に退場しては、クリアできるものが誰もいなくなるではないかと肩を落とす。
ユキ(名前は植村一衣に仮に付けてもらったらしいが)には繭の異能に抗する力がある。
それはこのゲームにおいてもそれは健在で、黒カードの呪縛程度なら解呪できるくらいの力を持っていた


(また新しい策を考えなければならないのか)


「……」


(『あの方』の命で自分を繭と認識しているあの娘を救出をしてもう何年にもなる。
  あの館のある町で発生した怪奇現象の発生源でもあった彼女は救助されしばらくしてからお礼がしたいと言ってきた。
  それは白窓の部屋にあった未知なる力。彼女はそれを用いて礼をしたいと言ってきたのだ。
  セレクターバトルの実在を確認していたからか『あの方』を含め、その力には期待を持った者は多かった。
  我々はまず意識を別のものに移すシステムを望んだ。その願いはすぐさま叶えられ、我等は大いに喜んだ。
  欲に駆られた一部の連中は更なる願いを求めて彼女に頼み込んだ、だがそれは叶えられかった)


オスロはグラスにワインを注ぎ香りを嗅いだ。


(力を使い果たしたからだ。我々はその力に頼るのを止め。彼女の力と当初の研究に注力した)


グラスの柄を強く握った。まるで苛立ちを表すように。


(……我々は正確ではないな。私はあの日を境に彼女とは疎遠になっていったのだから)


ドンッとグラスの柄が強く机を叩く。

(思えばあの時からだった『奴』のような規格外といえる連中がどこからともなく集まってきたのは。
 セレクターバトルが拡大するにつれ彼女を取り巻く怪異も頻度を増していった。
 同時に白窓の部屋の未知の力が蓄え始められ、なぜかそれに比例するかのように彼女の容態は悪化していった)

オスロはワインを一口口に含んだ。美味いはずのワインは苦く感じた。

(我々と『奴』は彼女の延命を試みると同時に、蓄えられた未知の力を有効活用する術を考えた)

ワインを更に二口飲む。

(結果的に『あの方』のお陰もあってか彼女は死なずに済んだ。
 おそらくは二度目の願いを無理に叶えたのが原因で、叶える力は使えなくなってしまったが……)


オスロは空になったグラスを宙にかざす。


(我々は願いを叶える力を扱える代わりの技術を発見し、彼女にそれを実現させるように頼みこんだ)

グラスを指で弾いた綺麗な音がした。


(願望機 聖杯の再現)


グラスにまた液体が注がれる。今度は水だった。
オスロは苦々しい顔で過去を思い出す。


(聖杯は出現したものの我々の思っていたのと異なり、起動させるのが困難だった。
 なのにそれをあの連中が強く欲し、それがきっかけで内紛が始まった)



オスロは左足で右足を踏み、苛々するかのようにその動作を繰り返した。


(……危なかった。回復後の繭がバハムートのカードを得ていたのが幸いだった。
 ……まぁ『奴』が味方にいたのも大きかったがね)


今度は右足で左足を踏む。


(『奴』主導で異世界における白窓の部屋の増築と拡大が行われ。
  私は敵対勢力への繭の隠匿及び、聖堂教会や大赦といった異世界のも含めた有力組織との交渉を担当した)


オスロは2つの窓を見る。
地下道を行くDIOとヴァニラ・アイス、ラヴァレイと小湊るう子とウリスの姿が映し出された。


(結果。『あの方』や神樹の一部を取り込んだ『システム』のお陰で私はこうして生きている)


右足を左足から離す。
オスロの顔には歪んだ笑みが浮かんでいた。


(『奴』を含めた邪魔者の力と組織が制限されたお陰でな)


オスロは水を飲み干した。
彼の笑みは余裕のあるものに既に変わっている。


(とはいえ、このままでは私の組織も動けずいずれ朽ちてしまう。
 何としてもこのゲームは完遂させなければ)

オスロは2グループの様子を眺めた。
主従は急いだ様子もなく神妙な面持ちで何やら会話をし、もう一方ラヴァレイとるう子も真剣に会話をしている。
放送前とは明らかに様子が違う。


(セレクターは解らないが、他の3人は本来なら英雄クラスのポテンシャルの持ち主。
 こういう姿勢が自然だろう)



従来の聖杯は魔術師を呼び水に英霊を呼び込むものだ。
だが情念と因縁渦巻く白窓の部屋の力を無理やり聖杯の形にした『システム』は求めるものが違う。


『システム』が求める参加者という生贄を選出する方法は三種類ある。
一つ目は『システム』が身近にいるコミュニティを指定して選ぶ、オスロや『奴』のようなケース。
二つ目は繋がった世界の中から参加者となりうる人物を『システム』が探しそれに関わる者に知らせるケース。
三つ目は一つ目と二つ目での選出者がある程度増えた場合に可能となる方法で、既存の参加者と縁のある者を繋がった世界から無理やり召喚するケースである。


(三番目のシステムは実に奇妙だった。ない知識や力を持った者や不自然に弱くなった者がいたし、選出も一部異常だった。
 入巣蒔菜のようにどの時期に呼ばれたのか『システム』でも把握できない奴もいたくらいだ)


本来ならオスロを含めた権利者はゲームに参加しなければ願いを叶えることができない。
しかしオスロら権利者はその資格を持っている。
その理由は『システム』起動を軸に始まった内戦を生き残った彼らをが『システム』勝者と見なしたから。
しかしその時の『システム』は願望機として作動することはなかった。
理由は範囲と参加人数を設定せずに始めた為力を集めることができなかったからだ。


内戦が終わっても権利とそれに伴う呪いなような制限を失わなかった彼らは、今度は設定をきちんとした上でゲームを開催すると決めた。
四次聖杯戦争やDIOとジョースター家の争いの歴史も参考になった。

「……」

オスロはスマホを取り出し操作した。映った画面にオスロは安堵と苦悩の入り混じった妙な表情を形作る。


(蓄えられた力は予想より随分多い。しかし現状だと願望機能発動させる最低限の力が収集できるか不透明だ)


権利者が望む形で願望機を起動させる方法は2つ。願望機に力を充分蓄えさせた上で参加者が残り1人になる事。
その方法でゲームが終わった場合、権利者全員が願いを叶えることができる。
本当の勝者の数は優勝者と権利者の数。それは権利者にとってのベストケース。

もう1つは願望機を起動させるのに最低限の力を蓄えさせた上で、システムが設定した管理者を倒す事。
それによって叶えられる願いは2つ。これはオスロが許容できるベターパターン。


「……」


そろそろテュポーンが戻ってくるだろう。
腕輪の製作者である酒の神の元から。
仮に介入が実現できたとしても、展開次第では戦力的に不安が残る。
外様の中には戦闘に秀で状況次第では神威や皐月を倒しうる実力者がいる。
そして直接の戦闘では及ばずとも異能で強者相手に賢しく立ち回れる者もいる。
だが外様を全員投入できるほど札は多くない。


(選別は慎重にか)

オスロは顔を上げた。視線の先に映るは天々座理世の姿。
あるいはあえて非戦闘者を投入するのも効果的かもしれない。
非力さと無知さを抱えた一般人は下手な敵よりも危険だ。


その時、オスロのスマホが振動した。

「……」

オスロは応対すべくスマホを取った。



「……」

一通り小窓の点検を終えた繭の表情は若干険しかった。
南ことりと満艦飾マコの小窓に魂は入っていない。
犬吠埼風の魂は封印済。
キャスターの窓は何かが封印されているのは確認できたが正体不明。
窓から聞こえる声はなく、キャスターとしての自我は残っていないと推定できる。
そして犬吠埼樹の窓は壊されていた。

破壊された窓に手を触れるが亀裂の中に手を突っ込む事はできない。
これ以上調べるには白カードを調べる必要があった。


(魂のエネルギーは少しだけど感じ取れる。そうなると魂はカードの外側に居る?)


繭自身、結城友奈と犬吠埼風の戦闘後に犬吠埼樹の白カードは窓を通じて存在を確認していた。


生前の樹同様の姿が再現された一枚絵。
つまり樹の魂はカードから脱出できるにも関わらず留まっている事になる。

「……変なの」

繭はどうすることもできない状況とあってか、あえて放置する事にした。
島を包む力故に霊魂が島を脱出する事も成仏する事もない。
むしろカードにしがみついてるのなら好都合。いざという時探す手間が省ける。
リタのように霊との交信が可能な参加者がいれば協力は可能だっただろうが脱落済み。
当面は放置しても問題ないと繭は思った。


「一番の問題は2枚の白カードよね」


白カードは参加者と腕輪が揃って初めてその強制力を発揮できる。
白カードのみが参加者の手に渡るのは拙い。
白カードは白窓への大部屋へと通じる通路そのものでもある。
無論そのままでは入り込む事などできはしない。
だが白カードの原理とセキュリティは腕輪や黒カードと比べて単純で。
仮に魔術の知識を持つ者に渡れば短時間で解析されてしまう恐れがある。
桂小太郎やDIOといった柔軟な思考の持ち主に渡るのも危険だ。


「そういえばオスロって腕輪を欲しがっていたわよね
 埋められたあの二着を渡したら喜ぶかもしれないわよね」



淡々と繭はとぼけたような口調で呟きながら柱に右掌を当てた。
そして言峰綺礼の最期の戦いを思い浮かべる。
繭の右手が柱に吸い込まれていく。
腕に小さな痛みを幾つか感じるや、ゆっくりと繭は腕を引き抜いた。
腕には切り傷のような入れ墨が6つ刻まれていた。それは令呪だった。


「…………短い間だけど参加者と同じように動かせなくは無いわね」


腕にみなぎる力とその効果を理解した繭は不敵な笑みを浮かべる。
これなら例え裏方が参加者を殺害してしまっても、他参加者が斃したのと同一の結果を出せるだろうと確信する。
裏方の本来の力量を考慮すれば、腕輪の回収とタマの回収くらいなら十分やってのけるだろう。

繭は裏方が待機する場所をイメージした。彼女の身体から白と黒の幻想的な蝶が何羽も現れる。
そして一枚のカードを翳すと赤光で縁取られた次元の穴が開く。繭はカードを仕舞った。
それに伴い次元の穴はゆっくりと閉じ始める。無数の白と黒の蝶の中にいつしか真紅の蝶が現れ、舞う。
繭は眞紅の蝶の放つ高熱による大気の歪みを纏いながら次元の穴へ歩いた。



通話は終わった。
ヒース・オスロの側には腕輪を数着包んだ袋を持ったテュポーンがいる。
これまでの通話相手は『奴』の息がかかった運営者。
オスロはソファに腰掛け手を組んだまま考え込んでいた



あくまで介入の許可を取るに留める積もりだった。
繭への嫌がらせをネタに交渉を有利に進めようとした矢先、
『奴』は電話をかわり、はっきりとオスロに伝えた。


――第四回放送前に運営全員で基地に落ち合い、話し合おうと


(覚悟はしていた。だがいざ『奴』がここに来るとなると平静を保つことすら難しい)


オスロの自尊心は一度完膚無きまでに叩き潰されている。天導衆と鬼龍院財閥の抗争の中で。
『システム』によって能力に制限が掛けられていたのに『奴』は恐ろしすぎた。


「……」


オスロの手を組む力が自然と強くなる。彼は繭以外の警戒対象にも用心を重ね対策を取っている。
テュポーンに願いの権利を持たせているのもその一環だったし、例えば邪魔者に繭をぶつける作戦をも構想してある。

現ヒース・オスロはテロリストだ。ある程度の品位こそ持ち合わせているが、将としても、兵としての矜持も何もない悪趣味な犯罪者。
あの時、強さを示し続けられなければただの屑に過ぎないと抗争のさなかに彼は思い知った。だが


(いいだろう)


オスロは氷を数個口に運ぶ。冷たさを意に返さないように。


(決着を付けてやる)


氷を噛み砕く。痛いほどの冷たさを意に返さないように。


(来い)


『奴』の姿を思い浮かべながら、殺意をみなぎらせる。
今は亡き開祖の理想を自分なりに実現し続け、ヒース・オスロであり続けるが為に策を巡らせる。
ゲームを利用し人の形をした大敵を葬り去る為に。


(バケモノ……!)

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【追記】

※時間軸は1日目/夜中/191話:姉/姉妹と姉弟の後です

※地下には一部参加者が使用している地下通路とは別に、まだ発見されていない秘密通路があります。

※秘密通路には現在2名の裏方がいます。裏方は施設の修復作業や作動が主な仕事です。
 重制限により運営者から何らかのバックアップがなければ戦闘行為はできません。参加者との直の接触も禁止されています。
 内1名は地図の南西で待機しています。もう1名も南西に向かっております(位置不明)

※繭が南西で待機している裏方の元に向かいました。
 令呪を6画所持しております。1画使用する事により一定時間裏方の重制限の解除等が可能になります
 (効果の度合いは後続の書き手さんにお任せします)。
 ルリグデッキを所持しています。他にも所持品があります。

※繭の現時点の目的は放送局に埋められた南ことりと満艦飾マコの白カードと腕輪の回収と
 るう子が所持しているタマヨリヒメを交渉によって自分の所持ルリグと交換を裏方にさせることです。
 キャスターの白カードやクリス等をどうするかはまだ不明。


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182:Nothing But a Dreamer :[[]]
182:Nothing But a Dreamer ヒース・オスロ :[[]]
182:Nothing But a Dreamer テュポーン :[[]]
182:Nothing But a Dreamer 遠坂時臣 :[[]]