Lostorage/記憶の中の間違ってない景色 ◆7fqukHNUPM
『紅林遊月』は、とっくにその場を去っていた。
しかし。
――おねえちゃん、たすけて
『ココアおねえちゃん』は、助けにきた。
蛍の身体を押し倒したのは、銃弾では無かった。
チノのことを、思い出した直後。
蛍が静雄の真正面に回り込むことに間に合ったのと、ちょうど同時だった。
蛍の回り込みをちょうど真横から妨害するように、横合いの木陰から飛び出してきた人影に、突き飛ばされたのだ。
人影は、蛍にも見覚えのある――チノの部屋でベッドインする前に見せてもらった、ラビットハウスの制服を着ていて。
急激に傾いていく視界の中で、丈の長いスカートが衝撃で翻って。
そして、蛍の眼には。
飛び出した時にも持ち続けていた両手の灯りが、そのまま少女の背格好を照らしていて。
だから、本来はもっと暗い色をしていたのだろうその制服は、
真っ暗に近い森の中で、白カードの光と、それよりは明るい色をしたスマートフォンからのライトに、集中的に煌々と照らされて、蛍の眼には、もっと鮮やかな色に見えて。
――そう、『桜色の、ラビットハウスの制服を着た少女』が割り込んできたように、彼女の眼には見えた。
そして。
「オー――!」
少女が、どこか聞き覚えのある声で何かを叫ぼうとして。
蛍の見上げた少女の身体に、血しぶきが爆ぜた。
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最終更新:2018年05月27日 21:47