何の為にこの手は ◆NiwQmtZOLQ




─────痛かった。


その感覚を言葉で表すのならば、きっとそれが的確だった。


でもそれは、例えばトレーニングを終えた後の何処か清々しいとまで感じられる筋肉痛や、試合や練習で誰かの拳を受けた時のそれとは違って。
多分どうあっても消える事が無いのではないかと感じる程に、心をただ純粋に、かつ執拗に傷付け、痛めつける─────そんな、痛みだった。




─────第三回放送が、終わった。
時刻が午後六時を回り、既に陽は沈んで、市街地の電灯にはどこから電気を引いてきたのやら明かりがぽつぽつと点り始める。
どこか無機質な光がまだ少しだけ差している朱色と混ざり、通りはどこか違和感のある光に照らされていた。
その通りには、ほんの僅かながら残る血痕、煤けている壁や地面、そしてコンクリートには似合わぬ武骨な車輪の痕が残り、一層その風景を奇妙に彩っていて。

そして、そこにあるのは──────ラビットハウスという、珈琲屋。
尤も、既にそこを店と呼ぶには些か問題も多いのだが。
針目縫の襲撃と彼女によって操られた男たちにより破壊された内装は、ほぼ撤去され。
結果として、そこには既に開店と同時に歴史を刻んだ椅子も机も無いただの開けた空き家に等しい。

そして、その中に。
桂小太郎とコロナ・ティミルの両者は、静かに佇んでいた。


両者の間には、先程から──────放送が終わった時から、静寂が漂っている。
渦巻くものは多々あれど、事実だけを述べるなら──────確かに先の放送は、二人に大きく影響を及ぼすようなものだったといえるだろう。

まず、ここは禁止エリアとして指定された場所。
長く滞在できないことも去ることながら、チャットの内容からここで会えるかもしれなかった相手と出会える可能性が小さくなったのは痛い。
─────そのうち一人は、いや、二人には知る由もないが正確には二人は、永遠にまた笑い合えることもなくなったのだけれど。

東郷美森、東條希。
両者共に、二人の仲間だった少女たちが友達と称していた人間だ。
特に東郷美森に関しては純粋に戦闘力もそれなりに期待出来ただけに、─────チャットの件の真偽は今となっては闇の中だろうが────惜しく、そして悲しいと言えるだろう。

結城友奈と、犬吠埼風。
二人も見届けた、勇者たちの姿。
彼女たちの中では何らかの決着がついていたのだろうが─────それでも、それで終わってしまっていいわけがなかったのに。

そして。
神楽、坂田銀時、─────アインハルト・ストラトス。
コロナの友人にして、覇王の生まれ変わりである少女。
戦闘民族・夜兎でありながら、一応は人助けの稼業を営んでいた少女。
そして、その夜兎の少女の上司にして、桂との幼少からの付き合いである、この殺し合いでも二人と共に歩いた侍。

その三人の名前が、呼ばれていた。

そんな、事実は様々あれど。
二人が未だに、静寂を保っていたままだという事実も、また事実として変わりないものだった。

けれど、それも何時迄も続くものではなく。
静寂が途切れたきっかけは、コロナの一言。

「…行きましょう、桂さん。はやく、皐月さんたちや他の生きている人たちと合流しないと」

そんな、先程までの彼女とは別人のような声。
何処かまだ残っていたはずの明るささえ何処にやら、今はただ感情を押し殺さんとして絞り出たに等しい声音。
聞くに耐えない─────桂が真っ先に思ったのは、ある意味当然の心理だった。
仲間を失った少女の声そのものであると理解できるからこそ、その痛々しさはとても放置できるようなものではないのだから。

「コロナ殿」

ならばこそ。
どんな形であれ、それを如何なるものか見極めるのは、大人である己の仕事だと、そう桂は受け取った。
アインハルトや銀時の死で、彼女がその心に大きな傷を負った事は間違い無い。それは推理するまでもなく分かるし、分かるからこそそれがどうしようもないというのもまた然りだ。
けれど。

「逸る気持ちも分かるが、それでもだ。まだ此処を調べ終わってもいないし、

けれど、まず今此処でそれを理由に流されて終わる訳にはいかない。
ラビットハウスの探索はまだ事実上始まったばかり。これから上階に入ろうという時に放送が鳴りはじめたこともあり、今はまだそこで止まっている。
禁止エリアになろうとも、ここにいた誰かの情報が残っていることは十分に考えられる。その中に知り合いが含まれていれば僥倖、含まれておらずとも生き残っている誰かからの助言は役に立たないということはないだろう。

「でも、桂さん」

そんな桂に対し、コロナは振り向かずにゆっくりと答える。

「…私たちは、まだ、何も出来ていません」

コロナのその言葉に、桂は僅かに押し黙る。
確かに、この六時間で出来た事はそうは多くない。
勇者二人や長谷川泰三の埋葬、万事屋やゲームセンターの確認、スマートフォンのアプリの確認─────その何れも、決してとても芳しいといえるようなものではない。

「また誰かが死んじゃう前に、早く─────早く、いかなきゃ」

そう呟くコロナの目は、目に見えて分かるほどに陰りを宿し。
その目に、桂は危機感にも似た焦りを感じる。
コロナの目に宿るのは、おそらくはショックからくる焦燥に見える。

少なくとも。
今の彼女の焦りのままに行動させる事は、あまりにも危険だ。
そう判断した桂が、嗜めるように、せめてと何かを言おうとした─────瞬間。

「─────!」

コロナが、唐突にラビットハウスから飛び出した。
勇者に変身し何処かへと飛び去らんとする彼女を前に、桂は一瞬驚愕に動きを止め─────しかし、迷う事なくそれに追い縋らんと己も変身してそれを追う。
西の方向にひた走る姿をすぐに見つけ、桂も全力で走るが、勇者の力が同条件である以上ただ間を詰めるのには時間がかかる。

─────少々、手荒だが……!

瞬時に桂が取り出したのは、勇者の力によって生み出された短刀。
それを、仮に当たっても大した怪我にならぬよう細心の注意を払って投擲する。
迫るそれに気付いたコロナが、反射的に対応しようとスピードを落とし─────その一瞬を狙い澄まし、桂が一層強く地を蹴った。
短刀を弾いたコロナの前に、一気に桂が詰め寄り。

「…ッ!」

少々乱暴に、しかしそれでも出来る限り配慮を凝らして、桂はコロナのその身体を引き寄せる。
路傍で互いに息を荒げる二人だったが、しかし本来の体力の差か、桂はすぐにその息を整える。
─────だが、急にコロナが走り出したこと、そして桂自身が抱いていた精神の痛みのせいか。
その精神までは、如何に彼と言えどもまだ落ち着いておらず。

「落ち着け、コロナ殿!」

兎にも角にも、と。
咄嗟に桂の口から飛び出した、─────その、言葉で。





「─────落ち着いていられるわけ、無いじゃないですか!」

─────コロナ・ティミルは、爆発した。
静かな通りに響き渡ったその声は、想像以上に大きく。
桂は勿論、コロナ自身でさえも、その声に驚きを隠せなくて。

けれど、コロナの言葉は止まらない。

「こんなことをしている間に、今度は皐月さんやれんげちゃんが危ない目に遭って─────それで、また死んじゃったら、同じじゃないですか!」

─────そもそも、何故コロナ・ティミルが、ここまでずっと歩めてきたのか。
それはきっと、彼女の行動が何らかの結果を及ぼすに至っていたからだ。
本能字での戦いで、実際に誰かを守ることができて。

─────けれど。
以前の放送から今回の放送に至るまで、桂とコロナは何が出来たか。
何もしていない、と言えば語弊があるだろうが、ならば何かを為せたかという問いにも答えることが出来るかどうかは決して文句なしにイエスと言えるようなことはない。

彼女にとってきっと何よりも重たかったのは、そんな「なにかが出来たはずなのに届かなかった」ことだ。
もしも手が届く位置にいて、彼女が全力を振り絞ることが出来たなら。
どんな結果になろうとも、彼女がその後立ち上がるにはきっと十分だっただろう。
もしも手がどうあっても届かない場所にいて、そこに辿り着くまでには自分がまた別の何かを捨てなければならなかったとしたら。
その事実が無意識にでもストッパーになり、感情の触れ幅を少しは押さえられたはずだった。

けれど。
この六時間、二人はその多くの時間をほぼ二人のみで過ごして。
進む道の上に如何に誰もいなかったとはいえど、スマートフォンのチャットやメールなど、もっと出来ること自体はあったはずだ。
けれど、それは成されることなく、時間はただ六時間が無情に過ぎ去り。
今、誰もいない場所を必死に探し回っている間に、大切な人を喪うことになって。
それで、年端もいかぬ少女である彼女が仕方ないと納得することは、きっと不可能だった。

「銀さんも友奈さんも、私たちがどうにかしていれば助かっていたかもしれないのに、…私たちは、何も出来なかった」

それは、あり得るはずのないたらればだ。
けれど、今の彼女にとって、そのたらればは単なる空想ではない。
「きっとありえた、実現し得た」はずの世界だと、コロナにはそう思えていた。
それは、彼女が子供だから思えるだろう、甘い幻想であり。
そして何より、それに見合うだけのことを、彼等が達成できていないことからくる、焦り。
徒労に終わっていたその時間をその可能性に懸けて、何か行動を起こしていれば、彼等は死ななかったかもしれなくて。
それにも関わらず、その可能性を見捨ててなお何も出来ていない無力さが、今の彼女を責め立てる最大の要因だった。

「…コロナ、殿」

桂にて、それは脳裏にちらついていなかったといえば嘘になるのだから。
けれど、かといってこうして各所を回ることが完全に無駄であるかどうかでいうならば、それは先には分かりようもないこと。
「誰かに遭遇する可能性」も、「何かを発見できた可能性」も、「誰かを助けることが出来た可能性」も。
それを選択する前から分かっていれば、世の中はもっと楽に回っている。
多分、コロナ自身もきっとそれは分かっている。分かっていなければ、もっと無理にでも急いで先に進もうとするはずだ。
あくまで桂の返答も含め待っているという点を鑑みれば、そこに残った彼女なりの冷静さは感じ取れた。

(…だが、どう言葉をかければ良いのだろうな)

しかし、それ故に桂も迷う。
向こうが分かっているのならば、それを繰り返し言うことは
それに、
自らが戦地に身を置くからこそ、傷心の少女へとかける言葉には桂の言葉はどうあってもなり得ない。

(─────いや、違うな)

だから。
それまで巡らせていた思考を消し、一つの結論を打ち出して。
桂は、ゆっくりとコロナへと歩み寄った。
充血した目で、それでもこちらを見据え続けているコロナに対し、ただ純粋に歩み寄るだけ。

そして。
ぽすり、と。
コロナの頭が、桂の胸に収まった。

「これくらいしか、俺には出来ん。だが、これくらいはしてやれる」

ゆっくりと。
桂は、胸の暖かい感覚へと語りかける。
それは、ただ。
どんな都合があろうとも、それで彼女が心を痛ませているのならば、それはあってはならないことだろう、という。
単純な、心配というただそれだけの感情だった。

「我慢をするな。吐き出したい事は全て吐き出せばいい。それで、コロナ殿が最も楽になる手段を考えてくれれば良い」

それは、単純に。
コロナが抱えていた「それ」を呼び覚ますことには、十分に優しくて。

「─────」


─────それで。
コロナ・ティミルの、我慢していた最後の鍵が、外れた。





「…どう、」

─────きっとそれは、この場に招かれた多くの人間が思ったこと。

「どう、して」

そして、彼女も例外なく抱いた、それは。
その悔恨の、その無力さの根本にある、それは。

「─────どうして、私たちがこんな目に遭わなきゃいけないんですか!」

─────つまるところ、彼女が放ったその言葉に、集約されていたのだろう。
何故、殺し合わなければならないのか。
何故、戦わなければならないのか。
何故、─────失わなければならないのか。
ある意味では、本当にそれは当然の思考で。
桂たちはともかくとしても、何か罪を重ねた訳ではないコロナたちがこんな催しに招かれる理由など、本来は無いに等しいはずなのだ。
だから、やはりコロナの心の何処かにも、ずっとこの思考は隠れ潜んでいて。

「だって、まだ、まだアインハルトさんともヴィヴィオさんとも、話したいことはいっぱいあるのに」

コロナ自身、分かってはいるのだ。
それは、言ってもどうしようもないことだと。
たった今目の前にある現実は、そんな理由など意にも介さず過ぎ去っていくのだから。
彼女の中での時間軸では、まだヴィヴィオともアインハルトとも、「昨日」会ったばかりで。
友奈に関しては、別れたのはほんの四半日にも過ぎなくて。
それだけの間に、少し自分が目を離している間に、命が零れ落ちただなんて─────そんなことが、でも実際にはあり得ているのだから。
そして、その中で。
仮に、己がなにかをしていれば、取り零さずにいられたかもしれないようなことがあったから。

判断力とそのメンタリティに関して言うならば、確かにコロナは強い部類だったろう。
けれど、それでもそれは、あくまで同年代であるアインハルトやヴィヴィオと比べた時の評価に過ぎない。
それでもここまで、ずっと文句を言うことは無かった─────それだけで、きっと彼女は十分に強かった。
そして今、いつか来るはずだった限界を迎えた─────きっと、それだけだった。
とりわけ。
ゴーレムマイスターという特技を磨き始めたきっかけであり、本来あるべき将来ではマネージャーもつとめるようになっていたように。
「自分に出来ること」に対して強い感情を抱く彼女だったからこそ─────今この瞬間は、限界を踏み出すに値することだったのだろう。

何も出来なかった歯痒さが。
友を失ってしまった哀しみが。
そんなコロナの理性的な心情のヴェールを、奪い去っていった時。
あくまでただの少女に過ぎない彼女がうちひしがれるには、あまりにも─────ただそこにある現実そのものが、十分に重すぎた。

コロナが、ゆっくりとくず折れる。
桂がゆっくりと、彼女の小さな手が袴にしがみ付く。
震えるその手をゆっくりと握り締め、改めてその手の小ささを桂は実感する。

「嫌だ」

そう、小さな手だ。
いくらそれを成しうるとしても、本来化け物や生命を脅かす敵を殴るはずでは無い手。
きっとこの手は、もっと何も知らない純粋なままで大きくなるはずだったのに。

「桂、さん」

─────本当に。
どうして彼女が、巻き込まれねばならなかったのか。
その答えは繭しか知らないと分かってはいるけれど、それでも桂も思わずにはいられなくなって。

「お願いします─────そばにいて、ください」

すがるような声が紡ぐのは、そんな彼女のワガママ。
それをこれまで言ってこなかったことが、むしろおかしいともほどに、当たり前で純粋な。

「桂さんは、しなないで、ください」

そんな、少女の切なる願いを聞いて。
桂は、ただその小さな身体を自ずから抱き寄せることで、返した。
─────それしか、出来なくて。
─────それ以上に、彼自身の生の証を届ける方法も、無かった。




…陽の紅さは、もう沈みきっていた。
次の陽光が差し込むまでに、その実時間は、過ぎ去る日々よりは遥かに短いけれど。

それでも、彼女たちにとって─────きっとこの夜は、長い。

【G-7/ラビットハウス周辺/夜】

【桂小太郎@銀魂】
[状態]:胴体にダメージ(小) 、勇者に変身中
[服装]:いつも通りの袴姿
[装備]:風or樹のスマートフォン@結城友奈は勇者である
    晴嵐@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(17/20)、青カード(17/20)
    黒カード:鎖分銅@ラブライブ!、鎮痛剤(錠剤。残り10分の9)、抗生物質(軟膏。残り10分の9)
    長谷川泰三の白カード
[思考・行動]
基本方針:繭を倒し、殺し合いを終結させる
1:…コロナ、殿。
2:コロナと行動。
3:神威、並びに殺し合いに乗った参加者や危険人物へはその都度適切な対処をしていく。
  殺し合いの進行がなされないと判断できれば交渉も視野に入れる。用心はする。
4:スマホアプリWIXOSSのゲームをクリアできる人材、及びWIXOSSについての(主にクロ)情報を入手したい。
5:金髪の女(セイバー)に警戒
[備考]
※【キルラキル】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【のんのんびより】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※金髪の女(セイバー)とDIOが同盟を結んだ可能性について考察しました。
※勇者に変身した場合は風か樹の勇者服を模した羽織を着用します。他に外見に変化はありません。
 変身の際の花弁は不定形です。強化の度合いはコロナと比べ低めです。


【コロナ・ティミル@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:胴体にダメージ(小) 、勇者に変身中、悲しみ
[服装]:制服
[装備]:友奈のスマートフォン@結城友奈は勇者である
    ブランゼル@魔法少女リリカルなのはVivid 、
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(16/20)、青カード(17/20)
     黒カード:トランシーバー(B)@現実
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを終わらせたい。
1:─────……………
2:桂さんと行動。
3:桂さんのフォローをする
4:金髪の女の人(セイバー)へ警戒
[備考]
※参戦時期は少なくともアインハルト戦終了以後です。
※【キルラキル】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【のんのんびより】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※金髪の女(セイバー)とDIOが同盟を結んだ可能性について考察しました。
※勇者に変身した場合は友奈の勇者服が紺色に変化したものを着用します。
 髪の色と変身の際の桜の花弁が薄緑に変化します。魔力と魔法技術は強化されません


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178:ろうたけたるおもい 桂小太郎 197:Lostheart(hurt) distorted ROYAL
178:ろうたけたるおもい コロナ・ティミル 197:Lostheart(hurt) distorted ROYAL

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最終更新:2017年04月18日 06:57