追う兎 ◆WqZH3L6gH6


チャイナ服を着た少女が支給された2枚の黒カードを手に何かを念じると、内1枚のカードは馴染みのある番傘に変わった。

「おーすげー」

彼女は番傘を両手で握りしめる。
もう1枚の黒カードはカードの束に変わっていて、そのまま地面に水たまりに落ちた。
ぽちゃ……

「…………ん!?」

気づいた少女は慌ててカードデッキを拾い上げる。
ただの遊具にしか見えないそれは大部分が泥で汚れていた。微かだが風が吹いた気がした。

「……」

少女はデッキを黒カードに戻した。
黒カードは濡れておらず、新品そのものに見える。気味の悪さを感じつつ少女は黒カードを仕舞った。
そして何事もなかったかのようにゲームの主催に対し宣戦布告をした。

「あのモジャモジャ女ァ!!ふざんじゃないヨ!!私が夜兎族だからって殺し合いに乗ると思っ

それはD-4南方で起こった真夜中の出来事。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここはC-6 駅。
神威は電車から降りた後、駅構内のベンチに腰掛けていた。
手元には絢瀬絵里に渡された黒カードが数枚。
彼は黒カードを順に元の形に戻し、DIO討伐の前準備を進めていく。

1半日ほど前、セイバーからDIOは日没後にDIOの館と落ち合う約束をしていると聞いた
DIOとセイバーが約束を守るなら、セイバーは神威にとって邪魔者になる可能性が高い。
数刻前の彼ならセイバーと再会後すぐに必滅の黄薔薇を折って呪縛を解放していたに違いない。
DIOと彼女との2対1の戦闘に持ち込まれる可能性が見えたとしても。
だが、今の彼にとってDIO討伐は最優先事項であるからして、セイバーとの戦闘は今は望んでいない。
ゆえにどうやってセイバーに対処しようかと考えたが答えは出そうもなく、
黒カードに対多人数向けの武器が確認できたもあって、その時になってから考えようという
いつもの彼らしくもある結論を出し、その考えを打ち切った。

ある1枚の黒カードを戻すとそれは数冊の本に変わる。
本にはいずれもウィクロスカード大全と記されていた。全5冊。そのウィクロスという単語には見覚えがあった。
セイバーと取引した際に譲渡したカードの束、ウィクロス ルリグデッキ『レッドアンビジョン』。
神威は最初の支給品確認の際、ひと目見て己に有益とは思えなかったから詳しく確認せずにいた。
ウィクロスデッキの内1枚のカードの宿る 知的生命体ルリグ。
そういう存在がいるなら会話くらいしておくんだったなと彼は惜しんだ。

何気なく初巻を手に取り流し読みしていく。
ざっと内容をみるとカードのイラストと内容が書かれている簡素なものだった。
内容がただそれだけなら、神威は飽きて次の黒カードの点検に移っていただろう。
だが巻末に近いページでのある項目を見つけた時、それは彼の興味を引いた。


『参加者様に支給されたルリグカードについて その1』


それには4ページに渡り、『花代』というルリグの利用方法について書かれていた。
花代というルリグに関連するカードについては別の項目でも扱われていたが、
今読んでいるページはそれまでの遊戯のルールのとは違い、今ここで行われている殺し合いについてのもの。


「スペルは本ゲームでは扱えませんが、形だけならほぼ再現する事は可能です……か」


ルリグの必殺技扱いであるアーツと異なる補助カード スペル。
漠然としか把握していないものの、スペルはカードゲームの範疇にしかない記号と判断しそれ以上考えるのをやめる。
問題はアーツの方。他の巻も開き、読むと花代とは別の支給ルリグの説明があった。
彼女らのアーツは神威から見て、どれも参加者が殺し合いを勝ち抜くのに有益なものと判断できた。


「……って、あの時の友奈ちゃんのと同じ技なのかなぁ?」


本能字の乱戦時、押されていたのにも関わらずいきなり強くなって少なからず神威にダメージを与えた少女 結城友奈。
花代のアーツにはあの時の彼女の変容を髣髴とさせるような説明があった。
セイバーは殺し合いに乗った参加者。余程の事がなければ先程別れた絢瀬絵里らの脅威であり続ける。
意図せずとしてセイバーに切り札を与えてしまった神威はしばし考えこんだ。


「……」


先の事は解らない。情報も少ないこともあって切りがないと結論付け読書を再開する。
乗っていない参加者と会ったらセイバーの事伝えようかなと思いながら。


「……ルリグって沢山いるんだなあ」


その数は軽く50を超えていた。カードゲームの形式上プレイヤーの分身の役割を持つルリグは多種でない方が商品としてもゲームツールとしても扱い易い。
なのにその数は多く、専用カードのないルリグも珍しくなく、その全容はアンバランスそのものに思える。
ゲーム自体ほとんど興味のない神威から見てもそれは異常に見えた。
彼はある事に思い至り、ルリグ達の名称を確認しつつ腕輪を作動させる。
白カードに参加者名簿が映し出された。


「……紅林 遊月と浦添 伊緒奈(イオナ)かあ」


ルリグ一覧で確認できた名前2つ。そして参加者名簿にも確認できる名前2つ。
支給ルリグの中には確認できないが、もし他の参加者が大全を読めば主催絡みで2人に興味を抱く事はほぼ間違いないと思える。
神威は絵里から離れる前に黒カードを一通り確認すればよかったかなと思った。
聡明そうな彼女になら面白い感じに推理をしてくれそうと期待できたから。

彼は本を閉じ黒カードに戻し、次のカードを検分する。程なくして渡された黒カードは最後の1枚になった。


(これは)


絵里が強調しながら渡していたから覚えがある。
妹 神楽の支給品で遺品となった彼女自身の血痕が多く付着した黒カード。
空っぽに限りなく近いはずの自分に何かが流れるのを感じる。
彼は素早くその黒カードを元の形に戻した。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

駅から出て、すぐ近くにベンチがいくつかあった。
神威は真夜中にそこで眠り続ける栗色髪の短めのツインテールの少女がいたのを覚えている。
自分や纏流子といった危険人物が近くで戦っていたのに関わらず、動じなかった少女に神威は少なからず興味を抱いた。
彼は意識してそちらに足を運ぶ。あの少女の姿はなかった。
だが少女がどうなったかは両断された一つのベンチに残された大量の血痕が答えを出していた。


「あのまま殺されるとはね」


最後に見た時は路上で眠る姿。
血痕の位置から察するに一度目覚めて他のベンチに移動したか、あるいは他の参加者に気遣われて運ばれたかしたのだろう。
もう少し先の方にも大量の血痕が確認でき、壁に落書きのような跡もあった。
どちらにせよ眠り姫は抵抗すること無くあのまま殺されたのだろう事は見て取れる。
信じがたいが最初から生を放棄していたとも取れる有様であった。

「はぁ……」

神威の口からため息が漏れる。落胆からかそのまま去って目的地へ行こうと思った。
しかし先ほどの黒カードの検分の際、己と妹の不足を認識させられたこともありもう少し調べる事にする。



調べれば発見した大量の血痕の周囲には目立たないが、移動跡と見れる少量の血痕が見つかった。
それを辿ることにする。


「見つけた」


駅前の掲示板の影にそれらは隠されるように安置されていた。
眠り姫の両断死体とやや小柄な少女の首なし死体が一つ。
そしてそれぞれの遺体の脇に置かれた2枚の白カードと1枚の黒カード。
遺体を移動させた者の意図は人道的なものであるのは神威にも理解はできた。


「……」


次に彼が興味を持ったのは白カード。それぞれには死亡者の顔が映し出されている。
穏当な理由ではないにしろ一度は纏流子の魔の手から助けた少女。
眠り姫の無残な死体に対し哀れみや憤り、嘲りなど自分を揺るがすほどの情は湧かない。
ただどういう人物だったのかというちょっとした好奇心は湧いて来た。
最初から生を諦めていたという、彼にしてみれば下らない理由で落命したとは思いたくないから。
それは妹へのささやかでひねくれた対抗心から来たもの。


神威は番傘とは別の支給品を神楽が一度目に止めていたのは知っている。


軽く調べただけで遊具品と判断し、それ以降使おうとしなかったのも。
彼はそれを推測できたからこそ、そっち方面では一歩先を行ってやろうかとぼんやりとでも思った。
骨組みか、殻のみになったバカ兄貴の意地にかけて。


神威は白カードを2枚拾い上げ、黒カードにも手を伸ばす。
黒カードを元に戻すとそれは動物を模したポーチだった。彼はそれは置いていく事にした。
もう1枚はついでだが、眠り姫の白カードがあれば他の参加者から情報を聞き出すには充分かと思ったから。
知り合いが1人も参加していないわけではあるまい。


「そう言えば」


参加者の事を知っているのは何も他参加者や主催のみとは限らない。
人並みの知能を持った支給品なら知っていてもおかしくはないはず。
神威は遺体から離れると神楽の形見の黒カードを変化させる。
その黒カードにもう血は付いていなかった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「あっ待って。そこに誰かいるみたいだよ」

DIOの館へと走る神威は神楽の支給品であった青の髪とドレスを着た容姿のルリグ――ミルルンに呼び止められた。
彼は速度を落とすと、指さされた方向へと向かう。
横切る風景は超常の力を用いた戦闘痕が散見される。ミルルンは驚嘆の声を小さくあげた。


「墓標か……」




神威の目前には墓が2つあった。墓前には赤カードと青カードがそれぞれ1枚ずつ備えられている。


「藪蛇かなあ……」


ミルルンのバツの悪そうな声を聴きながら、彼は一方の墓が誰なのかを確かめる。
周囲の破壊のいくつかは半日以上前に戦った桃色髪の少女の力によるものと推測できるもだった。


「友奈ちゃんか」


ミルルンは、声のトーンをさっきと比べ落としたまま神威に告げる。


「さっきと比べて強い気配が3つある」


白カードの事かと神威は判断した。
ルリグには同属以外にも魂が封じられた白カードを朧気ながらも察知できる力がある。
先ほど回収した2枚のより強い力があるということなのだろう。


どうしたものか。白カードは地中に埋められた状態のようである。
それを掘り起こすのはマズいのではという迷いが少々ながらもあった。それはミルルンの表情にも表れている。
神威は素面で繭のゲーム開始前の説明を思い出していた。


(死んだ人の魂は白いカードに閉じ込められ、永久の孤独を強いられる、か……)


墓とは死んだ人を弔うのに必要なもの。
しかし真の安らぎとやらを与えるには白カードから魂を解放せねばならない。それはついさっきも思ったこと。
となると墓が本来の効用を発揮するには、魂の解放が不可欠となってくる。
ミルルンの方を向く、彼女はどちらの選択を強いることもなく神妙な顔で墓を見つめている。

神威は墓前の青と赤のカードを丁重に脇に退け、スコップを出して発掘を始めた。
ミルルンから驚きの声が上がるが、非難はない。


「……」


実の所を言うと今の神威に主催から死者を救いあげたいという明確な意思はない。
しかし支給品からの提案とはいえ、取るに足る行動理由を与えられれば何もしないと言う訳には行かなかった。
ルリグはそっぽを向いた。神威はあっという間に2人の少女の遺体と3枚の白カードを発掘する。


「おや?」


白カードの1枚。3人の中で一際幼い少女の顔写真にある異変を神威は発見する。
切れ込みが入ったままの白カードを。
彼は白カードを仕舞い、簡単に遺体の検死を済ませると再び遺体を素早く埋葬した。
ミルルンから感嘆の声が上がった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここはC-7 DIOの館玄関前。
神威は保登心愛の白カードを宙に浮かせると、その端を指で弾く。
カードの端が破れ散った。だが次の瞬間に破損した箇所が音もなく元に戻った。
彼はなおも2度指でカードを弾いた。またもカードを大きく破損させるがまた元に戻る。
神威が彼女のカードを選んだのは5枚の白カードの中で一番重要度が低かったから。他意はない。
彼は次にカードを片手に取り、中心部分を指で弾いた。
音を立ててカードに大穴が空いた。だがそれも同じように復元された。
彼はルリグカードに視線を移した、やろうとする事を察したミルルンはノーセンキューのゼスチャーをし拒否。
神威は手を止める。不死身ではないようだ。


「はー。どーいうことなんだろうね?」
「俺はDIOを倒せればそれでよかった筈なんだけどな」
「その割にはけっこう気回してるじゃない」
「ほんと、何やってるんだろうな俺は」


彼は笑えなかった。
黒カード確認からここまで神威がやった事と言えばアイテム集めとその考察。


柄にもないと彼は思った。現実から目を背き続け、迷いに迷ったあげく妹を殺してしまった男が。

「……」

ミルルンは言葉を続けない。今の神威の本質を理解し始めたからこそ。
地下闘技場での一戦が無ければウィクロスカード大全に対し、今と同じくらい注目はしなかっただろう。
もし坂田銀時らによってわずかでも自分を取り戻せなければ、神楽の支給品の価値に気づく事はなかっただろうし、
妹への細やかな対抗心からくる探究心も目覚めなかっただろう。
もし探究心が芽生えなえれば結城友奈ら勇者たちの白カードの異変を発見できなかっただろう。
かつて神威は最終的に主催を屠るつもりで行動していた。その為、参加者で唯一破壊された橋の修復現場にも立ち会えている。
客観的に見ずとも今の神威は対主催に関しかなりの有力者になっていると言える。しかし。


「ねー、だったら」
「先約があるんだ。まずはそっちを守らなきゃね」
「うーん。そこまでなら仕方ないかな」



それらの事実は空虚を埋めずに適わず、彼の長所を多く含める残った部分も絢瀬絵里ら対主催サイドとの共闘を拒んだ。

気が付けば日が暮れようとしている。セイバーやDIOがやって来る気配はない。
神威は玄関の方へ向くと館内部に入っていった。
休憩と情報整理がてらにミルルンにウィクロスカード大全を読ませる為に。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

神威は館の最深部、DIOの部屋にてミルルンと繭についての情報交換をしていた。


「灰色の服なんて着て、イメチェンしたのかなあ?」
「ひょっとして俺が見た彼女とは雰囲気が違うのかな?」
「幻想的で幼気なとっても大きいカリフラワーみたいな髪をした女の子でしょ。その辺は共通してるけど何か違うんだよねー」
「君はルリグになる前に繭ちゃんとあった事はあるのかな?」
「……遭ったことはないけど、その辺は聞かないでほしいな。言うなと言われたの」


「……それはこのゲームでの事かな」
「その前から」
「解ったもう詮索はしないよ。君の正体は俺が思っている通りで間違いは無さそうだし」
「……」


ミルルンは神妙に頷き、神威も納得したように話題を変える。
ウィクロス大全のルリグリストからして彼女も元人間なのだろうと神威は結論づけた。
ルリグ達の名前には和名をカタカナ読みに変えただけのものがいくつもある。
ミルルンの価値観からしても比較的平和な境遇で過ごしていたと推測できた。
こちらの問いや大全への反応からしてそういう事なんだろう。


「繭ちゃんの違うって言うのは姿じゃないんだろ」
「うん。前は詐欺同然なゲームで女の子を引っ掛けて、それを眺めて楽しんでるって感じだったけど、
 話聞く分だと他の人も加担して色々やっちゃってるって感じ。同じ子が1人で計画したとは思えないの」

「俺はウィクロスを作った組織が今回のゲームを始めたと思えてきたんだけど」
「それ私も考えた事があるけど違うと思う。セレクターバトルが始まる前からウィクロスはあったみたいだし。
 むしろ繭ぴーが会社を乗っ取ったってパターンが自然かなあ」
「セレクターバトルって麻雀も含まれるのかい?」
「へっ?」
「支給品に麻雀牌がこれだけあったんだ」

神威は黒カード2枚を戻す。そこには幾つもの麻雀牌があった。

「ウィクロスだけだよ」
「じゃあ、参加者のただの持ち物だったのかな」
「そうだと思うよ。ウィクロスは麻雀とのコラボはしてなかったはずだから」
「……」
「……」
「…………彼女の協力者については手がかりなしか。
 君が初めて繭ちゃんに出会った時と、最後に出会った時と違いは無かったかい?」
「う~ん。髪の色がちょっと濃くなったかもってくらい、かなあ?」
「元は何色だった?」
「白に近い緑だったよ」


別人という線は無さそうだねと神威は推測した。
神威が繭の容姿について尋ねたのはゲーム説明を受けた時は繭から大分離れた位置にいたから。
そのせいか、彼女の顔や髪の色にいたるまで光源の具合によって不鮮明だったからだ。
カードから出てきた竜についてもよく解らないでいた。



「次はこっちからいいかな?」
「……質問内容にもよるよ」
「私が指差している所に何があるか確かめてほしいの?」


部屋には照明などは機能しておらず。光源は腕輪から。
ミルルンが指差した先は神威が座っている寝台よりかなり高い位置にあった。
お安い御用とばかり神威は指の力だけで張り付いたように壁を登っていく。
指したその箇所には棒状の様なものの置き場所、更に上の方にもそれらは確認できた。
かつては棒状のような物を飾っていたように見える。


「既に持ち去られた後みたいだね」
「えー残念」
「……」



館の探索は神威と流子が半日前にすでに済ませてあった。
よってもし調達するに値する物品があればとうに回収しているはず。
だからミルルンが発見した置き場には元から何も置かれていない。それが事実。
神威とミルルンは興味をなくし、今後について話をしようとする。
どんな物が置かれていたとか、支給品になっている可能性とか、どこかにあるとかいう可能性は考えずに。


『今晩は。三回目の定時放送の時間よ』

「!」
「……!」


放送が始まった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

放送から30分を大きく過ぎた、館外には未だにDIOの姿もセイバーの姿も見えない。


「まいっちゃうね」
「ああ」


日は完全に落ちた。


「そろそろ俺は北に行こうと思うんだけど異論はないかい?」
「ここまで待たせる方が悪いと思うしぃ、いいんじゃない」


ミルルンは異論があっても変える気はないのに?っていうからかうような小言を発するが、
神威はごく自然にスルーすると黒カードの2枚を武器に変えた。
大きな鍵のような鈍器と、金色のローラーのような武器。


「DIOの館で待ち合わせって言ってたけど、外か館内かはまでは聞いてないんだよね」
「……待ち伏せしてそ」
「時間が経てばいるかもしれないけど、中にいられると面倒だよな」


神威は武器を手に館の方を差すと言った。


「この建物壊そうと思うんだけど、いいかな」
「さんせー」


両者の声には苛立ちがあった。
待たされた事もあるが、神威にとって一番腹立たしいのはそれではない。


――宇治松千夜。

先ほどの放送で呼ばれた黒髪ロングの和風色の強い少女。本部以蔵に保護されていた無力な参加者。
千夜の人物像に関して言えば、彼女は神威にとって心打つ存在では決してない。
恩人を救うべく助けを呼びに行く選択も、神威から見てそう珍しいものでもない。性格的にも相容れないだろう。
だが、彼女は神威が知るだけでも多くの人の命によって生かされ、生き続けなければならないはずの少女だった。

千夜が周辺に救助を呼びかけたのも、元はといえば彼女を助けた本部以蔵を助けるためであったし、
それらに応えた銀時、神楽、ファバロも自分という障害を廃除、あるいは無力化するために全身全霊で挑んでいた。
にも関わらず二時間も経たないうちに千夜は命を落とした。
あれだけの犠牲を出し、力も出しきった後がこれか?とやり場のない強い感情の波が神威の全身を駆け巡った。

神威は早足に館へ向かう。館を最後に一目見渡した。
DIOの威圧がなければ贔屓目に見てもリアルお化け屋敷。
悪く見れば猟奇要素のある娼館辺りにしか見えない。それは彼と彼女の共通認識。
半壊したDIOの館に神威の攻撃が繰り出される。
非力な少女でも持てば超人を殺し得る強力な武器を携えた神威に対し、館が長く持ちこたえられる道理は無く。
2分もしない内にDIOの館は倒壊した。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「アーツは使える、それで間違いはないね」
「だいじょうぶ」
「そう」
「……」

神威が向いた先にあるはB-7にあるホテル。
彼が日中推測した通りならあそこにDIOがいるはずだ。
遭遇できるかどうかは自信はない。時間を大幅にロスしてしまったから。


「……休んでいい?」
「……」


神威はミルルンの要求に黙って頷く。
彼女の表情は沈痛の色が見て取れた。
彼の手にはカードデッキ。一部分が神楽のミスで汚れたもの。

「カード大全続き読ませてね」

ミルルンの言葉とともに神威はルリグデッキを黒カードに戻す。

「ばいばいるーん」
「……」


うるさい子だと神威は思う。けれど嫌いにはなれない。
軽薄で煩わしく見えたがそれは演技ではなく素なのだろう。
彼に対し悪意のようなものも向けられなかったのも悪印象を抱かなかった一因。
彼は知る由もないが、地下闘技場での一戦で彼が変心しなければ友好関係は築けなかっただろう。
邪念がほぼ失せた現状で対面できたのもお互いにとって幸いだった。


「異能は事前に察知できるか……」


ミルルンはアーツ アンチスペルの能力の一部で発動直前の異能を一つのみ察知できるという。
それに加え アンチスペルは大全の説明通りならどんな異能も一度は無効化できるとの事。
DIOとの戦いの際、彼女のアーツは彼の異能に対するカウンターになり得る。
しかしもしその機会で撃ち漏らしてしまうと、今度はミルルンが標的になる可能性が高い。
なので自分ではなく違う複数人で行動する参加者に持たせるべきと思うが、あいにく他の参加者は見当たらない。
どこまでもままならないなと彼は思った。

「……」

放送後、神威はミルルンに参加者名簿を見せゲームについても教えた。
その結果、パートナーの死を知ってしまい少なからずショックを与えてしまったのだ。
参加者名簿を見せた際にはパートナーである蒼井晶に対して悪態をいくつか付いていたが、
嫌い抜いていた訳ではなかったようだ。


神威はさっきのカードデッキの形と元の所持者の事を思い出す。
ミルルンいわく一度元に戻された直後、水たまりに落とされ、即拾い上げられたもののすぐに黒カードに戻されたという。
神威によって戻されるまでそれっきりだった。

「……」

もし仮に神楽がルリグカードの効力に気づいていれば、もっと上手く事を運べただろうか?
自分が妹を殺す羽目にならなくてすんだだろうか?答えはない。
せめて妹と同じミスをしないと心がけようと思った。


「まったくしょうがない奴だなあ……」


汚れたカードデッキを思い浮かべ、神威は泣き笑いに似た笑顔でそう呟いた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【C-7/一日目・夜】

【神威@銀魂】
[状態]:全身にダメージ(小)、頭部にダメージ(小) 、宇治松千夜の死に対する苛立ち(小)
    よく分からない感情(微)
[服装]:普段通り
[装備]:王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)、ブルーデマンド(ミルルンのカードデッキ、半分以上泥で汚れている)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(24/30)、青カード(24/30)、電子辞書@現実
    黒カード:必滅の黄薔薇@Fate/Zero、不明支給品0~2枚(初期支給)、不明支給品1枚(回収品、雁夜)
    黒カード(絵里から渡されたもの) :麻雀牌セット(二セット分)、麻雀牌セット(ルールブック付き)、不明支給品(銀時に支給、武器)
                      ウィクロスカード大全5冊セット、アスティオン、シャベル、携帯ラジオ、乖離剣エア
    白カード:蒔菜、ココア、友奈、風、樹(切れ込みあり)
[思考・行動]
基本方針:俺の名前は――
0:DIO討伐の為、ホテルへ向かう。
1:見どころのある対主催に情報や一部支給品を渡したい。
2:眠り姫(入巣蒔菜)について素性を知りたい。ただしあまり執着はない。
[備考]
※DIOおよび各スタンド使いに関する最低限の情報を入手しました。
※「DIOとセイバーは日が暮れてからDIOの館で待ち合わせている」ことを知りました。
※DIOの館は完全に倒壊させました。
※ホテルにDIOは潜伏していると思っています。
※大まかですがウィクロスのルールを覚えました。
※ルリグは人間の成れの果てだと推測しました。入れ替わりやセレクターバトルの事はまだ知りません。
※樹の白カードに切れ込みがあるのを疑問に思っています。

※白カードは通常は損壊、破壊する事は不可能です。すぐ復元されます。
 (ジョジョ6部の各種DISCみたいな感じ)
※友奈、風、樹のカードは他参加の白カードより強い力を発しているようです。

  • 支給品説明
【ブルーデマンド(ミルルンのカードデッキ)@selector infected WIXOSS】
神楽に支給。
蒼井晶の二代目ルリグ、ミルルンが収納されたカードデッキ。
ロワに関する説明はあまり受けていないが、アーツについては聞かされている。
外見は黒猫と星を模した髪飾りを付けた団子状の髪型をした、ノースリーブの水色ドレスを着た青髪の少女。
性格は気ままで明るい性格でマイペース。物怖じしない。口癖は語尾にるん。
蒼井晶との関係は一見険悪だったが、実のところ悪態をつきつつもそれなりに気にかけていた。
参戦時期は2期でウリスがルリグに戻る前。


※アーツ『アンチ・スペル』について。
ゲームにおいてはコストを2払う事によって発動する。
スペルならどんなに強力でも効果を打ち消す事ができる。アーツに対しては無力。

当ロワに置いては最小コスト2払う事によってアーツ以外の異能を事前に打ち消すことができる。
ただし異能のレベルが高いと払うコストが増大していく(最大6)。
エナコストは一時間休憩すると1回復する。
コストが支払えないと消費はせずに住むが、効果も発揮しない。
完全に(累積6)消耗すると、以後六時間は使用できない。
エナが万全(6)ならどんな異能も一度は打ち消すことができる。
ミルルンは使用アーツの特性上、ある程度異能を事前に察知することができる。



【麻雀牌セット(ルールブック付き)@咲-Saki- 全国編】
カイザル・リドファルドに支給。
本部以蔵に支給された麻雀牌セットとは別物。
違いは麻雀について詳細かつ解りやすい良質のルールブックが付属されている。



【ウィクロスカード大全5冊@selector infected WIXOSS】
リタに支給。
初出はinfected3話より。書籍は実在しており旧シリーズ5巻まで発売されている。
ただしこれはアニメ世界でのカード大全で、しかも当ロワ仕様に変更されている。
内容はspread終盤でユキが登場する直前までのウィクロスのカードのデータが収録。
市販のカードのみならず人間が変じたルリグまで記録されている。
一冊ごとに当ロワで支給されたルリグ一体(?)の詳細(正体以外)が書かれてもおり、
アーツの効果やルリグを活用する上でのヒントが書かれている。
現在は花代、緑子、ピルルク、エルドラ、ミルルンの詳細が確認されている。
支給ルリグ タマヨリヒメやセレクターバトル、夢幻少女、原初ルリグに関する情報は記載されていない。


※レッドアンビジョン(花代のカードデッキ) アーツ『背炎の陣』について
ゲームにおいては手札を三枚捨てることにより、敵味方すべてのシグニを消し去ることができる。
使い方次第ではエナを貯める事ができる強力なアーツ。

当ロワにおいては花代がコストを3消費し、使用者が行動後に身体機能か感覚の一つを失う事により発動させることができる。
いわゆる勇者の満開を再現させるアーツ。効果の詳細は使用キャラによって異なる。
消費したコストは1時間休憩する事により1回復する。再使用には6時間経過が条件。


※エルドラのデッキ(ブルーリクエスト 補足)アーツ『ハンマー・チャンス』について
ゲームにおいてはライフクロスがゼロになった時のみ使用できるアーツ。
1レベルにグロウするだけで使用可、コストなしでライフクロスをに2回復させる効果がある。


エルドラが手にしたピコピコハンマーで叩けば発動。
当ロワにおいては致命傷以上のダメージを受けた存在に対してのみ効果を発揮する。
エナコストはなし。一度使用した対象には二度と使用できない。一度使用する12時間使用不可になる制限が課せられている。
回復はダメージ(大)までが限界だが、対象がどんな状態であろうと生きていれば確実に戦闘可能状態にまで救命・回復させる事ができる。
使用条件はルリグに解るようになっているので、エルドラはある程度生物のダメージの度合いが解るようになっている。


※支給ルリグ共通
花代、緑子、ピルルク、エルドラ、ミルルンには繭から新しい力を与えられている。
その為アーツ(最低一種使用可能)が単独で使用可能となっている。他にも未発動の力があり?


時系列順で読む


投下順で読む


177:サカサマオツキサマ 神威 199:黒き呪縛は灰色の祝福

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最終更新:2017年07月03日 14:39