皇帝特権:Emperor Xenotranspranted ◆NiwQmtZOLQ


ホル・ホースという男の実態を詳しく語れるような者は、唯一彼自身を除いて存在しないだろう。
そもそも、彼という人物像は明らかになって然るべきものではない。
暗殺者である彼の身元など、知っていた人間の大部分は闇に葬られているだろうし、未だ生きているものも好んで語りたがるとは思えない。

そして、これからする話に於いて、重要なのもそこではない。
この話で重要なのは、それを通じて培われた彼の力と、何よりもその人生観。

『皇帝』というスタンド、そして「No. 1よりNo.2」という彼の信念とも呼べる精神だ。

事実として、彼の貫くその精神は間違ってはいないと言える。
彼の能力は、如何なるスタンド能力─────いや、如何なる力と組み合わせようと、そのサポートを完璧にこなして見せるだろう。

衛宮切嗣と組んだならば、彼の徹底的に合理的、そして非情なる策をも、眉一つ動かさず成し遂げるだろう。
坂田銀時と組んだならば、侍の強力な一撃と一撃の間に存在する間合いを読み切り、最高のタイミングで引き金を引くだろう。
空条承太郎と組んだならば、スタープラチナが唯一秀でない射程距離外での戦闘を敬遠し、最強のスタンドに最適の距離を提供するだろう。
ファバロ・レオーネと組んだならば、二人の抜け目ない頭脳を以てして非の打ち所がないような良策を導き出すだろう。
鬼龍院皐月と組んだならば、彼女の類稀なる的確なセンスで見抜かれた戦闘の間隙を、100%の精度で撃ち抜くだろう。
結城友奈と組んだならば、力こそあれど戦闘経験は豊富とは言い難い彼女が生んだ隙を埋めるように熟練の業を披露するだろう。
範馬刃牙と組んだならば、彼の格闘術に順応しつつ、拳では難しい銃弾という形のパワーとスピードを活かして立ち回るだろう。
高町ヴィヴィオと組んだならば、彼女のストライクアーツに順応しつつも銃弾という明確な武力でのサポートで殺し合いという環境の中での彼女を支えるだろう。
風見雄二と組んだならば、超高精度の狙撃と弾丸を自在に動かせる拳銃の二重奏で、生半可な相手には近寄る事を許さないだろう。

つまり、彼の『皇帝』という能力は、そしてそれを完璧に使いこなすホル・ホースという男は。
No.2に徹する事で、如何なる相手をもNo.1に仕立て上げる事が出来る─────そういう技能を、持っている。

そして、一方で。

ホル・ホースの持つ『皇帝』というスタンドは、個人ではどう足掻いても人外の域を突破し得ない。

戦闘民族・夜兎にかかれば、銃弾がその身を貫くより早く彼の身体が挽肉になるだけだろうし。
英霊の座から召喚されたサーヴァントになど、逆立ちしても勝てる訳が無く。
『世界』を統べる邪悪の化身などには、暗殺すらも及ばず力の差を見せつけられるだけ。
銃弾を見切る程の上位の悪魔には、事実せいぜいいいように弄ばれるだけだった。
生命繊維の化け物共には、ただただ純粋で圧倒的な力の差で蹂躙され。
修羅と化した勇者となれば、精霊の守護の突破も叶わず朽ち果てる筈。
地上最強を目指し、時に銃弾の痛みすら凌駕する『鬼(オーガ)』に及ぶべくもない。

彼一人だけでは、ヒトを超えた存在や他の超常に対抗し得る手段を持ちはしない。
だからこそ、彼は誰かと手を組む事を良しとする。

己の最大の弱点を露呈させるに等しいスタンドの公開をして、自らの相棒の能力も頭に叩き込んで、そんな相手に最大限の信頼を寄せて。

しかし、それでも敵に対しての警戒は怠らないし、裏切りによってヘタをうつようなマネをしない為に疑心は僅かに残しておく。

それがホル・ホースのやり方であり、彼の信条である「No.2」の概念だ。

それは、まさしく『皇帝』の在り方。

共に在る人間の真価を引き出し、己を守護らせて万全を築く。
しかし、その牙城が崩れ去り丸裸となれば、そこにいるのは哀れなただの人間。
臣下がいなくなった哀れな皇帝は、暴虐の戦士から身を守る術など持たない。
最期の最期まで足掻き通し、頭脳を回転させ、生き残る為のありとあらゆる手を尽くしたとしても。
彼の肉体は、人体が生命活動を不可能とするラインを超えたというたったのそれだけで音を上げる、脆弱な一般人のそれに過ぎないのだから。
彼の力は、無力な人間を葬るには容易く、しかし人間の限界を踏み超えた化け物に立ち向かうにはあまりにも弱過ぎるのだから。

ならば。
ならば、もし。
ホル・ホースという一個人が、その『力』を得るに足る条件を持ったとしたら。
彼一人でも化け物をどうにかできるような、そんな力を手に入れる条件が整ったとしたら。

彼は、その力をどのように活かすのだろうか─────


振り抜かれた紫閃が、悪魔の胸に真一文字を刻み込む。
化け物が浮かべるのは、獲物を捉えた肉食獣の笑み。

「─────舐めるなよ、小娘が…!」

しかし、悪魔─────アザゼルとて、そのままやすやすと殺されるほど生易しくはない。
跳ね上がった彼のハサミが、追撃を全て弾き返す。
更に返す刀で針目へと刺突を放ち、無理矢理に距離をこじ開けた。
数メートルの距離を開けて両者がにらみ合い、一度両者が停止した。

致命傷、ではない。
しかし、無視も出来ない重症。
それが、アザゼルが一瞬の内に下した自己判断だった。
斬られたのは、右の肩口から左腹部まで。
そこまで深くはないが、ほんの僅かに動かすだけで傷が開いていく。
痛みという神経信号が存在すること、そしてそれが脳が命じる無理な動作に対して自動的にストップをかけることは人間も悪魔も変わりない。

「ズイブンと顔色悪そうだけど、大丈夫~?」

そこで、眼前の少女がやたらと耳障りな声で話しかけてくる。
こちらに手傷を与えたことがそこまで嬉しいのか、或いは元々がそういう性質なのか─────にんまりと笑うその顔に、生理的に虫酸が走った。

「随分と、舐めた口を利いてくれるなっ!!」

その一声と同時に、両者が同時に床を蹴り。
第二ラウンドが、開始する。
しかし、その戦闘は開始からそう間を開けずして、大きく異なる戦局を見せ始めていた。

アザゼルが、押されている─────それどころではない。
行動に想像以上の支障が出ている。具体的には、相手の行動に反応、理解が追い付こうと、それに身体が着いていくのに一瞬のラグがあるのだ。
そして、弾丸をも容易く弾き飛ばす両者の戦いは、その一瞬のラグが一つ一つそのまま致命的な隙となりうる。

「あっれれー、どうしたの悪魔さん?随分と元気がないみたいだね?」
「っく─────ほざけ!」

あからさまな挑発には乗らず、冷静に迫る剣撃を捌く。
制限、そして針目の疲労により、速度は動体視力がいい一般人なら辛うじて軌跡を捉えられるかもしれないと言えるほどには速度が落ちている。
しかし、今のアザゼルにとっては、その程度の速度でも追い付くことが精一杯になりつつあった。
もはや慢心は捨て、来る斬撃一つ一つに細心の注意を払い、集中して叩き落とし続けていく。
絶対的なハンデでありながら、しかし他の化け物とは一線を画する悪魔の徹底防衛に、流石の針目も容易に攻め落とすことを諦める。
一層大きく振りかぶられた紫のハサミが、段違いの衝撃と速度でアザゼルに迫る。
体を捻って自らの持つ刃でそれを受け流し、隙ができたその一瞬を見計らってそのまま水平にハサミを走らせる。
しかし、赤光が閃くその軌跡の内には針目の姿はとうにない。
なに、と言葉を失ったアザゼルは、ほぼ直感で真下へと目を向け─────化け物の歪んだ笑顔を眼中に捉えた。
降り下ろすと同時にしゃがみこんでいた彼女の身体が、まるで縮んだバネがもとに戻るかのように飛び出した。
追撃とばかりに、狙われるのは先程刻まれた赤の一筋。
その狙いに気づき、アザゼルとてそのまま貫かれる弱者ではなく。
今度は剣身で受け止め、針目の身体が延びきる前にそのまま鍔迫り合いへと持ち込んだ。
更に翼を広げて宙に浮き、全体重を以て一気に押さえ込まんとハサミに力を込める。
マウントを取ったアザゼルは、ここぞとばかりに畳み掛けにかかる。
翼によるバランス調整を欠かさぬまま、舞うように連撃を降らせてくるアザゼルに─────しかし針目は、余裕な表情を崩しはしない。
さながら花畑で遊ぶ少女のように、されど一切の余念がない流麗な動きで回避と防御を繰り返し、まるでアザゼルを嘲笑うかのように悉く攻撃を無力化していく。
一つ一つは0.1秒にも満たぬ交錯が幾度となく繰り返され、数秒、数十秒、そして遂に数分すら突破した頃。

「あはっ、攻撃はもう終わり?」

上下の関係にあった二人は、今や完全に並び立って刃を交えていた。
それも、段々と針目が優勢になりつつある。
アザゼルは既にその軽口に答える余裕もなく、ただ一心にハサミでの攻撃と迎撃に終始していた。
当然だ。悪魔や化け物と言えど、生きとし生けるものである限りそのスタミナは無尽蔵とはなり得ない。
それでも人間と比較すれば桁違いの耐久力を持つ彼等だが、たとえば「もし体力がなにもしなくとも削られていくような状況下で、全力での運動を繰り返した」なら、如何に埒外な体力もいとも容易く底を見せる。
先程アザゼルが負った怪我が、ここにきて決定的な差を作り始めていた。
それでも、止まればそこでゲームセット。死神の鎌がこれでもかと振り回されている目の前で一瞬でも気を抜けば、たちまちその魂は刈り取られ永遠の牢獄に囚われるのだから。
故に、アザゼルは止まれない。
このままではやがて死に追い付かれると自覚しながらも、ゴールの見えぬ生のマラソンを全力疾走し続けることを強いられる。

「くっ……!」

受け止める。
傷が疼き、反射的に身体を引いてしまう。

「あはっ☆」

受け流す。
襲い来る刃を辛うじて面で受け、そのまま後方へと押しやらんとする。

「ざーんねん」
「っ………!!」

取り落とす。
うねる刃が絡み付くようにハサミに肉薄したかと思うと、鋭い音と共に手から弾き飛ばす。
飛んだハサミが、くるくると回転して宙を舞い。

「ばいば─────」
「舐めるなと言っているんだ、小娘ッッ!」

噴出する。
影から生まれた蛇のような魔物が、迫る刃をその持ち手ごと絡め取らんと空を駆ける。

「ざーんねん♪」

払われる。
あまりにも苦し紛れの一手だった漆黒の蛇は、全て一薙ぎで霧消していった。

─────そして。

「────これで、おーしまい」

これで、詰み。
悪魔の眼前へと、化け物が到達し。
細身の身体は無防備に晒されて、既に何一つ打てる手を持たず。
ハサミが床に落ちる音が、やけに甲高く響いたかと思うと。
風を切る音よりも早く、鈍い色の光が悪魔の首へと落とされた。



─────メギャンッッッッ!!!!



けれど。
それは、ギロチンの刃とはなり得ずに。
針目縫の腕に、一筋の銃創が走っていた。
掠り傷にすぎないそれは、針目に対して何ら致命的なダメージを与えるものではなかった。
というより、そもそもハサミの進路を遮るように放たれていたと感じられるような軌道とみることができる、そんな弾丸だった。

けれど。
それでも針目縫は、止めとなりかけたアザゼルから距離を取ることを選択した。
何故か。

それは。
「針目縫ともあろうものが、その弾丸を無様に受けてしまった」から。

本来の彼女ならば、銃撃の弾丸などそれこそ目を瞑っていても余裕で回避することができる。
今はセルティへと託されたマシンガンでさえ、制限がなければ彼女に傷を負わせることは不可能に近いだろう。

しかし、いや、そもそも。
針目縫の体には確かに疲労が溜まっているとはいえ、だ。

たかが。
たかが銃撃を、だ。
針目縫という、生命繊維の化け物が。
「全く認識できずにその腕に受ける」などと。
そんなことが、果たして現実に起こり得るのだろうか。

憤怒に染まった表情で、銃撃者へと向き直る縫。

「よお、縫い目の嬢ちゃん」

そこに、いたのは。
その右手に、一発のリボルバー銃を構え。
顔面には、うっすらとニヤケ笑いを浮かべ。
西部劇風のガンマン姿から、帽子だけを無くした。

「銃は剣よりも─────ハサミよりも強し。ンッン~……名言だな、こりゃ」

    エンペラー
名を、『皇帝』。






─────死ぬのか。



そんな諦念に、包まれていた。
職業柄、どうせろくな死に方をしないとは思っていたが、こうも呆気ないものなのか。
腹部から伝わる熱を奪われていく感覚は、初めて体感するにも関わらず刻々と生の終わりが迫っていると如実に実感させる。
どうしてこうなってしまったのか、なんて後悔も、こうなってくるとそう浮かばない。
それよりも、ただ、目の前に迫ってくる死という事実そのものが、墨汁のように意識を塗り潰していく。
漆黒に染まる自己の感覚が、全ての光を飲み込まんとする。

─────でも、よ。

けれど。
その中で燻る、炎があった。
小さく、今にも消えそうなその炎の存在を、しっかりと彼は自覚していた。

─────まだ、生きてえな。

気付いてみれば、単純だった。
たったそれだけの、単純で純粋で当然の感情が、ホル・ホースにもまだ残っていた。
アインハルトが身を呈して繋いでくれたこの命を、無駄に散らすのは、一人の女として敬愛した彼女に申し訳が立たないだとか。
思い当たれば、まだまだここで死ぬわけにはいかない理由が、湯水のように湧いて出てくる。

─────ああ、そうだ、まだ『生きてえ』。

そうだ、当たり前だ。
なら、足りない。
これっぽっちの思いでは、まだ足りない。
もっとだ。
もっと強く想え。
その精神を振り絞り、あらん限りの叫びを上げろ。
その魂そのものが、震えるように。

─────『生きて、やる』ッッ!!

そう、叫んだかと思えば。
その時にはもう、目の前には現実の森が広がっていた。

「……ッ!?」

目を開いたとき、その唐突な景色の変化にホル・ホースは驚愕した。
気付いたら、ここにいた。
前後の記憶が曖昧─────たしか、自分はアインハルトと共に戦ったあの場所で、あの縫い目の女に見つかって、それから。

「……チクショー、そこまで思い出せねえ」

頭を抱えつつ記憶を辿るが、意識が朦朧となっていた時にあったことはほぼ思い出せない。
うっすらと覚えているのは、抱えられて移動させられたこと、そこであの縫い目と何やら男が会話していたこと、そして─────

「………とりあえず、元の場所に戻らねーとなあ………」

そう呟いて地図を開き、方角を確認してふと気付く。
目の前に広がる破壊痕─────開けた道のように続くそれと、同じ方向のようであることに。
もしやと思い辿ってみると、すぐに先程の場所には辿り着いた。
アインハルトの遺体を車に載せ─────流石にジャックは彼一人では限界があった─────一息をつき、すぐに運転席へと乗り込む。
これで、いつでも発車できる。
あとは向かう先さえ決めれば、この車はすぐに動いてくれるだろう。
それだけを確認し、ホル・ホースは一つため息を吐く。

逃げることは、できる。
向かう先を先程までと同じように東に向ければ、少なくとも今すぐに死地に赴くようなことはない。
しかし、だ。

「あの男の話じゃあ、もうセレクターは揃ってるらしいじゃねーか………ったくよォ~」

アザゼルを見捨て、針目とあの男に脱出の鍵であるセレクターを奪われる。
それは、生還を志す彼にとっては大きな痛手。
少なくとも、あの縫い目がセレクター二人を手中に収めれば、彼女が脱出した後の二人の身分など保証できたものではない。
かといって、DIOや承太郎がいる現状で優勝を狙うなどほぼ不可能に近い。
ならば、どうするか。

「『虎穴に入らずんば虎児を得ず』ったあ、よく言ったモンだぜッッ………!」

─────危険は重々承知している。
それでも、行くしかないだろう。
ここで逃せば、生還が果てしなく遠退くことは間違いないのだから。
それに、だ。
今なら、あそこには最高の『No.1』─────アザゼルがいる。
ある意味では、これはあの縫い目の少女を殺すチャンスでもある。
それをみすみす逃すのは、彼の殺し屋としての本能も否定していた。

正直に言えば、逃げたい。
ここから逃げれば、少なくとも今は生還出来る。
しかし、彼は懸命だ。
その先に生き残れるかどうか、を考えれば─────今薄氷を踏まなければ、自分がいずれ血の湖に沈むことも、分かる。
だから、彼は戦う。
感情的ではなくあくまで打算的に、自らの生をほんの少しでも長く続ける為に、戦う覚悟を持っている。
そんな『皇帝』だからこそ、彼は─────

「─────そんじゃ、まあ行ってみるとすっかッ!」


「………あはっ、生きてたんだ」

貼り付けたような笑いが、針目の顔面に浮かび上がった。

肉食獣の威嚇のようにも見えるその表情は、明確な殺意を視線の先─────ホル・ホースへと向ける。
何故かと言われれば、簡単だ。
己が身体─────生命繊維によって織り成された完璧な身体を、たかが弾丸如きがいとも容易く傷付けたという事実。
しかもそれを放ったのは、自分に蹂躙されるしかなかった卑小でちっぽけな、路傍の石のような存在であるという事実。
その二つの事実が、実力によって裏打ちされた針目縫のプライドをいたく傷付けたという、ただそれだけ。

「てっきりあの女の子に殺されちゃったかと思ったよ☆」

煽るように言葉を投げかけながら、軽快にガンマンへと歩み寄る。
もちろん、背後にいるアザゼルへの警戒も怠っていない。
片断ちバサミは、制限を加えられたこの身体には流石に痛手になり得る。
背後からの不意打ちなんてものは流石に遠慮したいところだ

─────まあ、そんなバカな「余所見」はしないけどね。

心の中で皮肉を呟きながら、尚も針目とホル・ホースの距離は詰まっていく。
しかし、それでもガンマンの気取った笑いは崩れない。
まるで己の勝利を確信しているかのような、余裕綽々、といった表情を見て。

「それじゃ、じゃあね☆」

針目縫は、内心のイライラのままにハサミを振るった。

狙いは正確、速さも十分。
男の首筋を狙い放たれた神速の死神の鎌が、0.1秒も経たず振り抜かれた。




「そりゃあないぜ、嬢ちゃん」

しかし。

死神の鎌は、獲り損なう。

「まだまだ、テメーと話したいことはあるんだからよ」

ボールのように転がる筈だった頭部は、尚も彼の身体の上にある。
それが何故かと言えば、針目縫の振るった刃が彼の首を捉えなかったから。
しかし、ホル・ホースが高速で移動した訳ではない。それどころか、彼自身は全く動いてはいない。

即ち。
針目のハサミが、異なる場所を狙って振るわれたということ。
では、何を狙ったのか─────その、答えは。
その答えに辿り着く前に発砲音が響き、一瞬ながらガンマンに背を向けた針目へと迫る。
気を取られていた針目の脳は防衛本能に従って後退を命じ、再び両者の間にかなりの距離が空いた。
僅かに互いが押し黙る時間が続き、その中で針目は自分が見たものを思い出す。

後方からやって来た、先程と同一の弾丸だった。
舞い戻った小さな流線型が、応対しなければ彼女の後頭部を貫くであろう軌道を描いて迫っていた。
もしもホル・ホースを殺すことのみに気を取られていたなら、首が宙を舞うよりも早く脳漿が床を覆っていただろう。
そして、その出所は。
最初に見たときは何かと思ったが─────よくよく考えれば、答えは自ずから導かれるものだった。

ホル・ホースのスタンド能力、『皇帝』。
その真骨頂は、弾丸も含めてスタンドであることによる弾丸の軌道の操作。
しかし、と、彼女はこの殺し合いでの初戦を思い出す。
本来ならば先に撃った弾丸がここまで持続することは無いはずだった。
持続力をランク付けするならばC─────あくまで「普通」の域を出ない筈の彼のスタンド能力による弾丸ならば、もっと早くに消えていて然るべきだ。
しかし、事実としてその弾丸はこうして残り、彼のスタンド能力によって後方からの奇襲と化した。
パワー、スピードと同時に、その持続力すらも上昇した『皇帝』のスタンド。

それは、一体何故なのか。

(どうなってんだ、こりゃあよお~~ッッ!?)

─────しかしそれは、ホル・ホース当人にも、まるで理解できていなかった。
確かに、身体に溢れんばかりのパワーが漲っているのは、彼とて自覚していた。
しかし、ここまでスタンドパワーが上昇しているとは嬉しい誤算。
あの縫い目でさえ防御が間に合わぬほどの弾丸─────これは、これまでの『皇帝』からすれば異常なまでの強化だった。
そして、その出所はといえば。

(思い当たるフシ…っつったら、『コレ』しかねーけどよ……)

自分の背中、己の傷跡と癒着した、今は服の裏に隠した極制服の裏地。
それも、どうやらただの癒着ではなく、まるで同化するように身体に馴染もうとしている。
何処か薄気味悪いものを感じつつも、表面上の余裕そうな表情は崩さない。
アザゼルがほぼやられかけていた事から考えて、今針目を牽制出来るのは自分でもよく分かっていない強化を施された『皇帝』だけだ。
どうやら、ここは─────どちらにしろ、修羅場だったらしい。

(………けど、まあ…今更、逃げられねえよなァ~)

それくらいの覚悟は、とうに済ませてある。
となれば、考えるべきことは一つだけだ。
何としても、この場から生還する。
ホル・ホースが貫くべきそのスタンスを、貫き通す。
今出来るのは、それだけだった。


「あは、そんなにボクとお話がしたかったの?」

軽い挑発代わりの言葉で言い放った言葉に、針目が意外にも食らいつく。
しかし、ホル・ホースの脳内のアラートは、それに含まれた決して小さくない怒りの感情に警鐘を喧しく響かせている。

「でも、ボクから話したいことは特にないんだ。だから─────」

その言葉が終わった刹那、警鐘が音量を最大まで跳ね上がらせる。
それだけではない、ホル・ホースの全身に走った鳥肌も何もかもが、危険域への侵入を告知していた。
思わず唾を呑もうとしてそれを止め、代わりとばかりに残った右の目をこれでもかと見開いて。

「死んでいいよ☆」

瞬時に、両者が動いた。
一瞬にして弾丸を三発放ち、そのまま後方へと駆け出すホル・ホース。
先陣を切るは一直線の弾、これは引き金を引くとほぼ同時に動いていた針目によって弾かれる。
その弾いた隙を縫うように迫るのは第二の弾丸。頭を撃ち抜くコースを寸分の狂いなくなぞり穴を穿たんとするも、今度はハサミの面を盾にすることで対応される。
ならばとそれを迂回するコースを命じると共に、その正反対の方向から第三の弾丸がキラリと光る。
どう足掻いても回避不可能─────普通ならそう認識されるような状況だが、残念ながらここは普通の戦場ではない。
バレエを踊るように滑らかかつ繊細な動きで、それを全て紙一重で回避した彼女は、今度は一切の余念がないトップスピードの踏み込みで刃を閃かせる。
彼が逃げ込んだ廊下へと顔を見せた彼女の眼前には、再び三方向から迫る弾丸。
ワンパターンだと言いたげに再びハサミを振るいながら直進し、しかしその後ろから迫る第四の弾がその足を止める。
一瞬の判断でそれを潜り抜け、しかし今度は先程回避した三発が再び舞い戻り牙を剥く。
苛立たしげにハサミを振り抜き、軽快なステップと共に四つの弾丸と踊ることを余儀なくされる。
それを通路の奥から眺めながら、ホル・ホースもまた、一切の油断なく弾丸を操作し続けていた。

この戦いに於いて、ホル・ホースが勝利する条件。
それは「針目縫を封殺し切る」という、たった一つの条件だけだった。
しかし、反対にそれが出来なくなれば─────「肉体的にはただの人間である」ホル・ホースが化け物に勝利する可能性はほぼゼロに等しくなる。
いわば、自陣の王の直線上に飛車が配置され、盾に出来る駒もない、そんな状況での詰将棋。常に王手をかけていなければ、死という名の敗北が事実上決する、そんな場面。
だからこそ、慎重に。
針の穴に糸を通すような心持ちで、ホル・ホースは尚も右手を下ろさぬまま銃弾の軌道を操作する。
今や完全にその心は静に保たれ、額に汗一つ浮かんではいない。
暗殺者としてのホル・ホースとして、持てる限りのポテンシャルを尽くしている証左。

弾丸が、ハサミを握る右手を抉った。
僅かに握りが緩んだその瞬間を見計らって襲い掛かった残りの弾丸に、彼女の右腕が連続して貫かれる。
それでも辛うじて、致命傷となりうる顔面狙いの一撃を防ぎきったのは流石の化け物。
まだ、足りないか。
しかし、次ならば
瞬時に『皇帝』を連発し、針目を貫いた分の弾丸を補充する。
暇を与える事なく、再び彼女を取り囲むように銃弾が展開し─────

「─────な」

しかし。

「あっはは、おっそーい♪」

ホル・ホースの眼前に、その時既に
何故、こんなに早い─────ホル・ホースの思考は、追いつかない。
タネを明かせば、簡単なこと。
針目は、ホル・ホースの弾丸が未だ軌道変化の影響を受ける前に、最低限の損傷で済む場所を見計らって突っ込んで来たに過ぎない。
ダメージ覚悟の荒技─────しかし、彼女にとってはそこまで苦になる事でもない。
自身の生命繊維の身体に絶対の自信を持っているからこその、荒技。
その結果として─────この戦いは、針目縫の勝利に終わり。
ホル・ホースは、結局無残にも敗者となって、この戦いは幕を下ろす。

そう。
元より、ホル・ホースのみでの勝利など出来る訳がない。
幾ら能力が強化されたと言えど、逆に言えばそれだけなのだ。
この殺し合いの中でも屈指の実力者に対して、付け焼き刃の特化能力が通用するには限度がある。
そして、何より、彼の能力の性質が問題だったろう。
一番手になるには、あと一歩及びようがない能力なのだから。


改めて、言おう。

ホル・ホースは、事実、二番手として優れた男である。

だから。



「余所見とは、随分と余裕ではないか」


だから。
もしもホル・ホースという男が、悪魔・アザゼルと手を組んだならば。


「此方を見ていなければ、痛い目に遭うぞ─────なあ、小娘?」


きっと、相手が勝利の確信を得たその瞬間に、それこそ悪魔の如く地獄へと引き摺り込まんとするだろう。


針目のハサミがホル・ホースを捉えるより、機を伺っていたアザゼルの方が一手早く。
瞬時に防御に回った彼女が何とかその一撃を防いだ瞬間には、彼女の後頭部にはひやりとした感覚があった。
突きつけられたのは、勿論のこと『皇帝』の発射口。
的確に脳幹を狙っているその拳銃の引き金に、既に指は掛けられており─────


「あっはは、ビックリした?」

けれど、銃声が鳴ることはなく。
その代わりとばかりに、風を切る音だけが空気を揺らしていた。
辛うじてアザゼルが気付き身体を引き寄せなければ、ホル・ホースの身体はその音と同時に泣き別れになっていただろう。

そこにいたのは、「もう一人の針目縫」。

「本当はこれを見せるつもりは無かったんだけど、いい加減しつこいから─────」

そして、その数が─────増える。
とっておきのダメ押しとでも言うかのように、その数は増えていく。
10人程になったところで、ようやくその増殖を止めたが─────アザゼルはともかくとしても、ホル・ホースの心中に浮かぶのは、絶望と呼んで差し支えのないだろう感情。

(………こいつぁー、もう駄目かもな)

規格外の化け物が、増えた。
一人でも自分には抑え込む事が精一杯だというのに、この数。
冷静に分析すれば、どうあっても生きてこの

それでも。
それでも、何か無いか。
折角ここまで来たのに、諦めていいのか。
ホル・ホースの内側から溢れてくるその生への渇望に、彼自身少し驚く。
自分がここまで生き汚かったとは思わなんだが─────しかし、流石にこれは無理というものだろう。
この状況を打開出来る材料など、何処にある。
そんな諦念が広がる中で、それでもと叫ぶ声に最後の最後にもう一度顔を上げて。

「…………あ?」

そして。
それを、見た。
パラリと、目の前に落ちてきた小さな砂利。
そして、その背景となる、弧を描く無数の傷痕が軋む音。
それが、ホル・ホースの中で瞬時にひとつのパズルを象った。

かなり滅茶苦茶で、危険な手。
だが、試してみる価値は少なくない。
少なくとも、生き残る為に今取れる行動としては、悪くない選択肢の筈だ。

「…旦那」

すぐさま、横に立つ悪魔へと声を掛ける。
こちらの反応を楽しんでいる針目がまだ襲ってこない内に、要点を伝えなければならない。
目を向けるという形で反応を返したアザゼルに、要点と幾つかの質問をする。
ほんの僅かな言葉だが策の内容は伝わったらしく、すぐさま答え、そしてそれに必要な行動を伝えてくる。

「─────ああ」

頷く。
内容に同意し、改めて前を見る。
正直、分が悪い賭けではある。一発でおじゃんになる不確定要素もあれば、結果として成功するかも分からない。
だが─────賭ける以外に、道も無かった。



「うんうん、無駄な作戦会議も終わったみたいだね?」

決然とした表情に切り替わったホル・ホース。
そして、その隣でなお表情を崩さないアザゼル。
何やら話し合いをしていたようだが、もはや構うことはないだろう。
制限させられているとはいえ、分身も決して弱くはない上に数も多い。
弱った人間と悪魔を仕留めるには、十分だろう。

だから、針目縫もまた、あっさりと。
面倒事の最後の後処理を、開始する。

「それじゃ─────さようなら☆」

それと同時に、全ての分身が地を蹴った。
勿論、相対する二人とて止まってはいない。
倉庫がある廊下へと駆けながら、分身達へとそれぞれの手を翳す。

廊下の入り口から、取り囲むように分身が配備される。
だが、それを読んでいたかのようにアザゼルが両手から光を放つ。
接近戦主体だった為にこの戦いで見せることのなかった攻撃に、不意を突かれた分身が呑み込まれた。
更に、ホル・ホースの連射によってその周辺の個体が糸に還り、包囲網に僅かに穴が出来る。
ここぞとばかりに飛び込み、しかし針目も止まらない。
三人の姿は、薄暗い廊下へと消えていった。

そこからは、僅か一分程度の、しかし濃密な追いかけっこだった。
迫る複数の縫と、それを敬遠し只管前へと進むアザゼルとホル・ホース。
高速での移動が出来ないホル・ホースに対しての苛烈な攻撃を、二人が何とかやり過ごし。
トラップのように弾丸と光線を張り巡らせる二人を嘲笑うかのように、その悉くをすり抜けて追随する縫。
三人の決死の交錯が、狭い廊下に響き渡り続け。

そうして、走り続けて。
彼等の目に、光が見えた。

比喩ではない。
暗い廊下を走っていた彼等にとっての、文字通りの光源。

─────あの倉庫があった場所から、戦闘が行われていた正面玄関が無かったとした時の唯一の出口。
その扉は、開いていた。
誰が出ていったか─────決まっている、先程ここから逃げ出したウリス、そしてそれを追った小湊るう子。
先程の通路から隠れるのに適したような場所もなく、二人があそこから移動したとするならばここから外へ逃げ出すはずだ。
それは裏を返せば、ここに二人がいないという証明となる。

つまり。
現在この放送局にいるのは、今まさにここにいる三人だけ。
それが確認出来た時点で、アザゼルとホル・ホースは向き直る。
不確定要素は、確認出来た。
となれば、残るはたった一つだけ。

「とっととやれ、ホル・ホースッ!」
「言われなくても…やってやるぜッッッッ!」

「『皇帝』ッッ!!!!」

咆哮と共に、六発もの弾丸が飛び立った。
それが向かうのは、自分たちに迫る分身─────だけでは、ない。
向かうのは、天井や柱。
それも、放送局の間取りを知ったアザゼルが推定した、放送局を支える支柱へと、だ。

─────ヴァニラ・アイスの『クリーム』によって散々削り取られ、更に纏流子が蹂躙し、そして今回のアザゼルと針目の戦いの衝撃波、ホル・ホースのパワーアップした『皇帝』の流れ弾に晒された放送局。
無論、それでも何もしなければ、きっとその建物は無事を保てた筈。
しかし、ここまでの逃走の道中において、アザゼルが多用した光線とホル・ホースの弾丸が。
単に分身を削る為ではなく、「支柱となっているだろう柱や、各所の天井など」を破壊し、放送局の老朽を加速させていたのならば。
崩落するまでの時間は、健在である建物よりは、格段に短い。
だからこそ、ここまで全力で駆けた。
アザゼルが先程見た、逃げ出した二人のセレクター─────彼女達が外へ向かったかどうか、確認する為に。


「─────ブッ潰れ、やがれェーーーーッッ!」

バキリ。
建造物として致命的な、あまりにも巨大な音が、放送局内に響き渡った。
それと同時に、通路の奥から聞こえてくる凄まじい音量の崩落音。
どうやら、奥一帯は一瞬にしてまるまる潰れたらしい。
その後もかなりの勢いで響き続ける音が、どんどんこちら側へと迫ってくる。
無論、それは想定済み。
既に背を向け、二人は出口へと駆け出している。
もう外はすぐそこに見える位置にあるのだ、迷う道理も遅れる道理もない。

だが。
そんな二人の足を、何かがガチリと掴み取る。
いや、何かというのは正しくない表現だ。
こんな状況で自分たちを逃がさんとするのは、あの化け物しかいないのだから。

「言ったでしょ、逃がさないって☆」

浮かべる笑顔、そしてその所業─────まさしく、死神。
生ける者を死に送らんとする、化け物。

「う、オオオオオオオーーーッッッッ!」

『皇帝』を乱射し、撃ち抜かれた分身が今度こそ赤い糸に戻り消滅する。
瞬時に背後を向き、全力で地面を蹴る。
しかし、既に肩にかかる瓦礫のサイズはかなり大きい。
バキリ、という音が頭上から響き、最早一刻の猶予も無いことを知らせていた。

「う、おおおおおおおおおおーーーーーッッッッッッッッッッ!!!」

走る。
走る。
ただ一心不乱に、すぐそこに見える生への光へと。
その直後に、頭上の死の音もタイムリミットを迎えたことを知らせ。


そして。
轟音と共に、放送局が崩落した。




「ってて…旦那、生きてるか?」
「誰に口を利いている。俺に言わせれば、ただの人間である貴様が良く生きていたと聞きたいところだ」

相変わらず一言多いのは変わらないな、と苦笑し、ホル・ホースは辺りを見回す。
二人がいるのは、放送局だった瓦礫の山の中─────正確には、その山の裾野。
崩落にギリギリのところで捉えられた二人が一か八かと選択した、頭上の瓦礫を破壊しながらの逃走。
アザゼルの地力とホル・ホースの進化した『皇帝』によって、本来なら潰されていた筈の二人は何とかコンクリートの破片等が少なくなる辺りまで逃走を成功させていた。
まさに九死に一生。
対応が遅れていれば、きっと命は無かった。
しかし、結局は『生き残れた』。
死の運命から、逃げ切ったのだ。
それだけが、ホル・ホースにとっては何よりの事実だった。

「………御託は良い。とっとと此処から出るぞ」
「アイ・アイ・サー」

どこまでも飄々とした調子のそんなホル・ホースに、アザゼルは溜め息をついた。
こんな男に自分は助けられたのか─────改めて思い返すと、その事実に少なからず腹が立った。
そもそもを言えば自分のミスが原因で逆転されたのは事実だし、それを助けてもらったというのも否定しようがないこと。
しかし、悪魔としてのプライドは、ホル・ホースへの感謝よりも「そもそもそんな状況を作り出してしまった自分」への苛立ちに終始していた。
しかし、それも過信という訳ではない。
事実、伊緒奈が逃げ出すことさえなければ、多少時間がかかっても針目を倒すことは達成できた可能性が大きい。



だから。

「おい、どうした。上がってこないのか?」

ホル・ホースが、自分に続いて瓦礫から出てこようとしないことに気付いた時も、彼の身を案じてはいなかったし。
何かあったのか、と思った時も、何らかの異常か危険が存在しているかどうかを確認したいというたったそれだけの理由からだったし。

そして、そこで─────最後の石に手を掛けて、それを最後に動かなくなったホル・ホースの姿を見ても。
彼は、ああ、少しは戦力の足しになるかもしれなかったのだがな─────としか思わず。
そのまま、彼の遺体からカードだけを剥ぎ取って、目障りだからついでにと足元の瓦礫で乱雑に埋めて。
そして、最早何もなかったかのように、いまだ近場にいるだろう二人の少女の姿を探し始めた。


そもそも。
人間に寄生する形で生きる生命繊維が、何故服として着られるようになったのか。
何故、より安全性が高いであろう体内ではなく、体外に接するだけという形で人間との共生を図っているのか。

簡単だ。
人間の体内に入った生命繊維は、その力故に宿主の神経を焼き切ってしまうからである。

そして。
ホル・ホースは、それを体内へと吸収させられたのだ。
その時点で、既に逃れられない運命は牙を剥いていたのだろう。

けれど、ホル・ホースという男は。
それでも、生を掴まんとした。
その為の、力。
持ち得たのは、スタンド。
それ即ち、精神の有り様。
それが、生命繊維の宿主の危機に活発化するという特性を呼び起こし。
一時的に、奇跡的にも適合を果たした─────それが、進化した『皇帝』の真実。

だが。
スタンドという魂、すなわち精神、そしてそれを繋ぐ神経電流。
その神経電流をオーバーロードさせた代用が、スタンドの超強化だというならば。

その後に待っているものは、当然ズタズタになった神経だけ。

だから。
最初から、決まっていたのだ。
ホル・ホースの命運が、今この時尽きる事は。

けれど。
それでも。
生きる為に戦った、孤高にして「二番目」である男が戦った事で、守れた命も確かにあった。
彼に言わせれば、「てめーの命があってナンボだっつーのに、俺が死んじまったら意味ねーだろーが!」と、苦言の一つでも呈するのだろう。
けれど。
歴史に語られる皇帝など、結局はそんなもの。
当人が何を考えていようと、後世に語り継がれるのはその所業のみ。

だからこそ。

彼こそは、『皇帝』の名に恥じぬ男。
己の信条を貫き、あくまでその結果として何かを遺せしもの。

決して諦めず、忌の際まで生きようとした。
その魂を、最期まで貫き通し。
偉大なる『皇帝』は、その生涯を閉じた。


【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース 死亡】


時系列順で読む


投下順で読む


175:虚ろなる生者の嘆き:End in…? 針目縫 175:戦のあとには悪魔が嗤う
175:虚ろなる生者の嘆き:End in…? アザゼル 175:戦のあとには悪魔が嗤う
175:虚ろなる生者の嘆き:End in…? ホル・ホース GAME OVER