同じ穴の狢 ◆X8NDX.mgrA


「小湊、俺とウィクロスで勝負してみろ」

 きっかけはその言葉だった。
 夏凜とラヴァレイ、それにセルティが放送局を出て数分後。
 何もしないまま過ごすのは無為に等しいからと、アザゼル自らが提案したのだ。

「え、でも、こんなときに……」

 るう子は困惑した様子で眉を曇らせた。
 セレクターバトルは繭と関係がある事柄とはいえ、することはカードゲームの延長。
 殺し合いの最中に、ゲームに興じるのは不謹慎ではないか、と目が訴えていた。
 その感情を察したアザゼルは、言葉を付け加えていく。

「なに、どうせ片手間だ。そう時間をかけるつもりもない。
 いずれ繭と戦うときのための、デモンストレーションだと思えばいい」
「デモンストレーション……」
「ハッ」

 同じ部屋にいたウリスから、小馬鹿にしたような笑いが飛ぶ。
 アザゼルはじろりと視線を向けた。
 ウリスは両手足をロープで縛られてソファに座らされた状態で、顔だけを動かして悪魔を睨んでいた。
 ちなみに、床からソファに待遇が変化したのは、るう子が配慮を求めたからだ。

「何か言いたそうだな」
「ええ。あなたたち、繭に逆らおうとしているんでしょう?
 くだらない。そんなことをしたって、繭が殺し合いを止める筈がないわ」

 殺気を放つ悪魔に全く臆することなく、ウリスはそう一蹴した。
 どこか真実味を帯びた、ある種の確信すら感じられる口調に、アザゼルは耳ざとく反応した。

「ほう?まるで繭の性格を知るかのような口ぶりだな」
「当然よ。私はルリグになったとき、アイツに会っているもの。
 それにウィクロスのシステムを知ったのなら、その製作者の性格は予想がつくでしょう?」
「ふん……」

 ウリスの問いかけに口角を上げるアザゼル。
 るう子がウィクロスに関することについての詳細を話したのは、セルティや夏凜が放送局を出る少し前。
 それにより、アザゼルはタマに聞いていた話の再確認ができた。

「夢限少女になるためのバトルに三度敗北すれば、願いが反転する。
 例え勝利しても、セレクターの願いを叶えるのは、入れ替わったルリグ……だったな」
「そうよ。よく勉強しているじゃない。
 そして、セレクター本人はルリグとして新たなセレクターの元へ訪れることになる」

 アザゼルは、目の前の少女は名簿上では「浦添伊緒奈」だが、実際は元ルリグの「ウリス」だということも、るう子から聞いていた。
 つまり、ウリスはカードの中と外を行き来した人間だということだ。
 基本的に人間を天高くから見下しており、好意的とは到底言えないアザゼルだが、それでも気まぐれを起こすことはある。
 銃を向けてきたウリスを殺さずに、空中から落とすだけに留めたのがいい例だ。

「貴様はルリグになりたがっていると聞いたが?」

 そんな気まぐれを、今アザゼルは質問という形で表出させた。
 もとより殺し合いの場でカードゲームに興じるほど、好奇心が強いアザゼルのこと。
 ルリグ――カードに閉じ込められた存在――を自ら願望する少女の存在は、悪魔の旺盛な好奇心をそそらせるには充分であった。
 そして、その高圧的な問いに、しかしウリスは心底愉快そうに笑みを浮かべた。

「ええ、その通りよ。
 自由に他人を傷つけて、踏みにじれる世界に私は居たい。
 人間の欲望や希望、そして憎悪が、混ざり合ってぐちゃぐちゃになる最高の舞台に居たいの」
「っ……」
「……」

 ソファに寝かされている状態で、淡々と語るウリス。
 その語調は静かだが、誰が聞いてもそれと分かる狂気を振りまいている。
 るう子は怯えたように声を漏らし、アザゼルはニヤついたままで腕を組んだ。

「似ていると思わない?このバトルロワイアルに。
 大人も法律も、世間一般の常識も関係のない世界。
 他人が死ぬ瞬間を見せつけられて、他人を殺すことを強制されて、実際に他人を殺して。
 どれだけの人の心が壊れたか。生憎と目の当たりにはできていないけど……想像しただけでも心が高ぶってくる!」

 沈黙をよそに語り続けるウリス。
 本当に想像を繰り広げているらしい、その声と身体を興奮に震わせながら、その饒舌な視線をるう子に向けた。
 るう子は身体を強張らせた。
 誰しも、狂人と知れた人間に見つめられれば、動揺を隠せないだろう。
 アザゼルは警戒をしながらも、ウリスの次の言葉を聞き逃すまいとしていた。

「るう、あなたも考えたんじゃない?
 繭はセレクターバトルじゃ飽き足らず、実際に命のやり取りをする光景を求めたって」

 アザゼルは、話しかけられたるう子をちらりと見た。
 硬く緊張した表情は、図星を指されたことを示していた。
 ウリスもまたそれを察してか、口の端を曲げて言葉を続けた。

「でしょう?それなら尚更のことよ。
 繭の元へ行けたとしても、心を変えることはできないわ。
 私が言えた話ではないかもしれないけど、あの子の心は相当に壊れている」

 これにはアザゼルも心中で頷いた。
 多くの人間を集めて問答無用で殺し合わせるというのは、まさしく『悪魔の所業』だ。
 それに加えて繭は、首輪やバハムートのように抗いようのない力を以て、殺し合いを強制している。
 るう子の言葉によれば、元は独りの少女だったというが――その少女がここまでの事態を引き起こしたのだとすれば。
 もし彼女にまだ人の心があるなら、それは壊れ物だろう。

「それにあの子は、ゲームが自分の思い通りに進まないと、癇癪を起すタイプよ。
 だから無駄よ、諦めたほうがいいわ。どんな抵抗をしようと、殺し合いは止まらない」

 繭と対面したことがあるウリスならではの挑発。
 それを簡単にスルーして、いずれ倒すべき敵の情報として処理するアザゼル。
 しかし、諦めろとまで言われたせいか、るう子は挑発を無視できなかったらしく、どこかムキになった様子で反駁した。

「で、でも!ウリスだって殺し合いを止めて、元の……」
「元の世界に戻りたいでしょう、とでも訊きたいのかしら?」

 るう子の言葉を途中で継いだウリスの口調には、軽蔑の色がにじみ出ていた。

「前に話さなかったかしら?現実の世界なんてクソッタレよ。
 こんなに愉しい場所から帰るために行動するなんて、考えられないわ」
「そんな……」

 真っ向から否定されて、それ以上反論ができないるう子。
 困り顔の少女を助けようともせず、アザゼルはウリスをじろじろと眺めた。
 少女の瞳には、邪悪な意志が見え隠れしていた。






 小湊るう子の様子がおかしい。
 多くの少女の心を破壊してきたウリスは、目の前にいる少女を観察して、そう感じた。
 殺す技術に長けた者が、同じ理由で殺さない技術にも長けているように。
 壊す技術に長けた者は、相手の心がどれほど壊れているかを見極めることも容易だ。
 より単純に言うならば、相手の心を推察することにウリスは長けていた。

(前に見たときよりも、眼から強い意志が感じられない)

 蒼井晶が植村一衣を誘拐し、るう子を学校に呼び出した際のことを思いだす。
 間抜けなことをしでかした晶には失望を禁じ得なかったが、それでもるう子とのバトルができたのは僥倖だった。
 あのときのるう子の眼を、ウリスは克明に覚えている。
 友達を助けたい一心で忌避していたバトルに挑む、強い意志を感じる瞳。
 それを見て、ウリスの壊したいという感情もこの上なく昂った。
 しかし、今のるう子の眼からは、そのような意志が感じられない。
 それは何故か?

(間違いないわ。精神がやられている)

 原因はバトルロワイアル。
 この異常な空間にいることで、精神が摩耗しているのだ。
 どこかで危険人物に襲われたか、惨たらしく放置された死体でも見つけたか。
 あるいは、目の前で殺された金髪の少女のことが、未だに尾を引いているのか。
 捕縛した際には気づかなかったが、これまでにも何かしらの兆候はあったのかもしれない。

 ――ウリスは知らないことだが、るう子はこの場所に来てから微熱を出している。

 セレクターとしては無類の強さを誇るが、その他は一介の少女に過ぎないるう子。
 死と退廃が充満する殺し合いに放り込まれて、心が傷つかないはずもない。
 そこに些かの落胆はあれども、裏を返せば、今のるう子は非常に「壊れやすい」ということでもある。

(これはチャンスかもしれない)

 壊れやすいものは、壊しやすいのは当然だ。
 自身と並ぶ強さのセレクターが壊れる瞬間を見たい、そんな衝動がウリスを襲う。
 ウリスは蛇が舌なめずりをするように、るう子の心を壊す準備にかかった。

「そうね……今までの放送で、知り合いは何人呼ばれたの?」
「えっ?」

 突然話を変えたことで、虚を突かれたるう子。
 反応が遅れた、その隙にウリスは新たな問いかけをする。

「あの金髪の子は、ここに来てから知り合った人かしら?それ以外にも呼ばれた人はいるの?」
「なんでそんなこと……!」

 スクーターで駆けていたるう子と金髪の少女が、友好的な間柄であったことは確実。
 少女の死をあえて思い出させる発言をすれば、激昂とまでは行かずとも、怒りが湧くのは間違いない。
 そう考えて発した問いで、狙い通りるう子は声を上げた。
 にやりと笑い、ウリスは更なる質問をする。

「そうね、なら聞きたいのだけど。
 金髪の子の死と、そうでない人の死。
 放送を聞いて、この二つを同等に悲しんだかしら?」

 訪れる沈黙。
 るう子はウリスの意図を理解するまでに少しの時間を要したらしい。
 問いに数拍遅れて答えようとするも、それは具体的な言葉にならないまま終わる。

「そんなのっ……」
「答えられないってことは、そういうことよ。
 いくら善人ぶったところで、無関係な人の死はどうでもいいと考えているの」

 ウリスは畳みかけるように喋り続けた。
 答えを深く考えさせる暇を、口を挟ませる余裕を、与えてはいけない。
 ウリスの言葉が詭弁であることを相手が理解するより早く、より深い傷を与えるのだ。

「でもそれは、人として当然の思考。誰も否定しないわ」

 話しながら、効果的と思われる言葉を選択していく。
 小湊るう子という少女は、どう責められればより傷つくのか。
 少なくとも、晶のように単純極まる相手ではないのは確実だ。



 だからこそ冷徹に。



「ただ、これだけは理解しておきなさい」



 ゆっくりと、決定的な言葉を紡ぐ。



「自分さえ助かればいい、その考えがある限り――」



 まるで罪に対する罰を宣告するかのように。



「――あなたも私も、同じ穴の狢。“最低の人間”よ」



 悪意の権化たる少女は、純真無垢な少女を傷つけた。



「そこまでにしておけ」

 るう子を言葉で責めていたウリスは、突如として強い圧迫感を覚えた。
 タオルのように柔らかい感触ではない。むしろ生きているかのように、脈動しているそれは、アザゼルの操る影に違いなかった。
 前にもされた拘束の仕方だ。
 置かれた状況を認識したところで、宙に浮く感覚を覚えた。

「俺は貴様のセレクターとしての能力の高さを利用するだけだ。
 そこに貴様の意志や欲求が介在することはない。意味は分かるな?」

 締め上げられた状態で耳に届いたのは、悪魔の冷徹な言葉。
 やりすぎた、と即座に思う。挑発のしすぎか、小湊るう子を責めすぎたか。
 どちらにしても、アザゼルがウリスの行動を目に余るものとして対処したのは確実。

「……力づくでも従わせる、ってことね」

 状況を理解すると共に態度を変えて、神妙な口調で呟いた。
 一度ならず二度までも数手で負けた相手に脅されては、いつまでも挑発的な態度を続けてはいられない。
 理解が早くて何よりだ、と嘲るように言いながら、アザゼルはウリスを落とした。
 床でなく、柔らかいソファに落とされたことを安堵する。

「小湊、この部屋から一旦出て、ノートパソコンを確認しておけ」

 完全に沈黙していたるう子に、アザゼルはそう命じた。
 るう子は俯いていたが、命令に対して咄嗟に顔を上げて返事をした。

「は、はい!……え、でも」
「案ずるな。こいつは必要になるまで、そこの小部屋に閉じ込める」

 アザゼルが顎で指したのは、この部屋の入口と正反対の場所にある扉。
 扉の脇に『倉庫』という表示が小さく掲げられている。

「鍵はついていないが、窓もない。出入りする場所は一か所だけだ。
 俺はこの部屋に居座り続ける。そうすればその扉からも無事に出ることはできん」

 淡々と話し続けるアザゼル。
 るう子に、というよりはウリスに対して、アザゼルは説明をしているようだった。
 どうあがいても逃げることは叶わないのだから、諦めて従順に閉じ込められていろ。
 そうした脅迫を言外に感じ取ったため、次の問いにも素直に頷いておいた。

「貴様も無駄なことは考えずに、大人しくしていろ」

 そう言いながら、もう一度、アザゼルは影でウリスを持ち上げた。
 同様に影を操り倉庫の扉を開けると、ウリスの身体を放り込んだ。

「痛っ……くっ」
「ではな。必要になるまでそこに居ろ」

 傲岸な態度で言うと、アザゼルは倉庫の扉に手をかけた。
 舌打ちの一つもしたい気持ちになりながら、これ以上不用意なことはしないほうがいいと思い、ウリスは黙り込んだ。
 やがて扉が閉じられ、静寂と暗闇が残された。
 ウリスは当然、ここで大人しくしているつもりはない。まだ、るう子の心も完全に壊していないのだ。
 すぐにでも、脱出するための手段を講じなければならない。
 ただ、何故か喜色満面なアザゼルの顔だけが、気にかかった。






 悪魔と二人きりで同じ部屋にいる少女。
 この状況、普通の少女なら恐怖に怯えているところだが、るう子はそうではなかった。
 つい先ほどの、ウリスの言葉が脳裏に響いていたからだ。

(最低の人間――そう、なのかな……?)

 答えの見つからない自問自答。
 パソコンを立ち上げたにも関わらず、ろくに操作をしないまま数分が経過。
 結果、スリープモードになり、再度ボタンを押す羽目になる。
 これを三度繰り返してから、るう子はあることを思いつく。

「あの、アザゼルさん」
「どうした」
「ウリスの……さっきの言葉、どう思いますか?」

 自分で答えが見つからないから、他人に尋ねる。
 単純で短絡的とも言える判断だが、るう子はこれ以外に手段が思いつかなかった。
 問いに対して、アザゼルは少しも考え込まずに言い放った。

「気にするな。戯言と思え」
「……え」
「なんだ、まだ言葉が足りないか?
 最低の人間がどうのと、言われたくらいで気にするな。
 自分だけ助かればいい、利己的な精神も大いに結構。当然のことだ」

 あまりに簡単に言い切ったアザゼル。
 そういえば、とるう子はセルティに言われたことを思い出す。
 曰く、『アザゼルは悪魔だから、必要以上に近づかないほうがいい』とのこと。
 どこか心中で納得する。
 悪魔ともなれば、人間が悩むようなことでは、もはや悩むことなどないのかもしれない。
 しかし、それはつまり、あまり参考にならないということだ。

「ちょっと、トイレに行ってきます」
「……まさか、逃げようとは考えていないな?」

 じろりと睨まれて、るう子は身を竦ませた。
 悪魔の視線に耐えられるほど、豪胆な少女ではない。るう子は即座に否定した。

「そ、そんなことしないです!」
「……そうか。PCは俺が確認しておく」

 そう言うと、アザゼルはるう子に代わってパソコンを操作し始めた。
 悪魔らしくないと思えるほど、その操作は慣れていた。
 ウィクロスのルールも覚えたと話していたし、かなり賢いのかもしれない。
 画面を見つめるアザゼルを眺めていると、呆れたような声が飛んだ。

「行かなくていいのか」
「あ、ありがとうございます……」

 緊張しながら部屋を出て、すぐ近くのトイレへと向かう。
 実際には、一人で落ち着ける場所ならどこでもよかった。
 しかし放送局は破壊の跡が凄まじく、また殺し合いの場ということもあり、あまり遠くへ離れるのは危険だ。
 そういう理由で、近場で個室があるトイレを選んだのだ。

 個室に入ると、念のため鍵をかけてから、扉にもたれる。
 そして、ポケットの黒カードから、慣れ親しんだデッキを取り出した。
 アザゼルの支給品だったというそれを、るう子はついさっき渡された。
 デッキ名・ホワイトホープ。兄からのプレゼントだ。
 その中の一枚、ルリグと呼ばれるウィクロスの核を手に取る。

「ねえ、タマ」
「るうー!」

 いつもと変わらない元気な声で、タマはるう子に笑顔を振りまいた。
 今までタマはしまわれていたので、ウリスとのやり取りを知らない。
 ただ、るう子の顔を見て心配そうな表情をした。

「どうしたの?」
「……うぅん。なんでもないよ。
 ただ、繭を説得できるのか、不安になっただけ」

 そんな顔を見て、本当のことを言えるはずがない。
 タマにはいつでも元気でいて欲しい。
 るう子が最低の人間かどうか、なんて質問をして、困らせるようなことはしたくない。

「るうなら、きっと、だいじょうぶ!!」

 手をぐっと握りしめて、タマは元気づける言葉をくれた。
 るう子はそんなタマの姿を見て、少しだけ、泣きそうになった。

「そうだ、定春に餌をあげないと」

 ただ、そんな姿を見せないようにと、るう子は急いで話を変えた。
 トイレを出て、廊下で別の黒いカードを取り出す。
 出てきたのは定春。アザゼルに躾をしておけと頼まれた、大きな宇宙犬だ。
 定春は、るう子がアザゼルから庇ったことを覚えているらしく、言うことを素直に聞いてくれた。

「なにこれー!?」
「あはは。タマ、これは定春っていうの。仲良くしてね」

 動物園で未知の動物を見た子供のように、定春を目にしたタマははしゃいでいた。
 その様子を見て、るう子は思わず微笑みを浮かべた。
 赤カードから適当なドッグフード、青カードからとりあえず水を出す。
 そうして定春の前に置くと、定春はそれらを大人しく食べ始めた。

「よしよし、良い子だね……」
「いい子だねーさだはる!」

 宇宙犬だから食べ物も違ったら困るな、などと考えたが、心配はなかったらしい。
 餌を食べる定春を、るう子は優しい手つきで撫でた。
 これからどうなるのだろうと、漠然と考えながら。






 ウリスが倉庫に閉じ込められ、るう子が犬に癒されていたころ。
 アザゼルはパソコンの前に座り、チャットを眺めながら考えていた。
 小湊るう子に浦添伊緒奈。二人のセレクターは、やはり普通の少女と一線を画す部分がある。
 特に、後者との会話はアザゼルにとっても興味深い点が多かった。

(クク、浦添伊緒奈……いや、ウリス。なんたる道化よ!)

 バトルロワイアルを心から愉しんでいるらしい少女。
 人の身でありながら、あれだけ悪意に満ちた表情ができるものかと、アザゼルは感心していた。
 同じ悪意を放つものだが、繭とは違い圧倒的な力がないぶん、可愛げがあるというもの。
 アザゼルも『暇潰しの戯れ』に人間を用いた経験がある。
 その愉快さは悪魔並みに理解しているつもりだ。

 面白いのは、人間が人間を傷つけ、愉しんでいるという事実。
 繭の知り合いでもあるウリスは、繭にそうした役割を期待されているのだろう。
 おそらくウリス自身も、そのことを理解しているはずだ。
 理解してなお、人を傷つける役割に甘んじている。
 それは素晴らしい道化ではないか。

(そして、小湊るう子……)

 もう一人の少女は、これまた異質だ。
 人間より優れた存在である悪魔のアザゼルでも、小湊の心情を推し量ることはできていない。
 元より上から目線の理解しかしていないアザゼルだが、それでも心が読めない相手は気になるというもの。

(よく分からない、その一言に尽きるな)

 一見すると幼気な少女のようで、しかし定春を助けた際のように、悪魔の行動を止めさせようとする強気な面もある。
 また、るう子自身は謙遜していたが、タマによればウィクロスの腕は随一らしい。
 ただ、ウィクロスの実力如何だけがるう子の要素とは考えにくい。
 セレクターになれた要因が、どこかにあるはずだ。
 ウリスが特別な性格を見込まれてセレクターに選ばれたのだとすれば、るう子にも同様の何かがあるのではないか。

 こうして、もはや邪推と呼べるまでの考察を、アザゼルはしていた。
 しかし、セレクターの情報が少ない以上、答えが出ないことも仕方ない。
 アザゼルは別のことについて考えを巡らせることにした。

「『ホル・ホースは犬吠埼樹を殺害した』か……」

 二時間ほど前にチャットに流された一文。
 これについて、アザゼルは既知の情報を元に判断していく。

 ホル・ホースは殺し合いの開始直後にセルティと遭遇したと話していた。
 また、犬吠埼樹は第一回放送で呼ばれている。
 チャットの情報が真だとすると、二人が出会う前にホル・ホースは樹を殺したことになり、時間的にかなり厳しい。
 二人がかりで樹を殺した可能性もあるが、魔物でありながら優しさを見せる、あのセルティが人を殺すとも考えにくい。
 もちろん可能性が消えたわけではない。しかし、手持ちの情報からすると、かなり疑わしい。

 つまり「この情報が正しい可能性は、限りなくゼロに近い」という判断だ。

「……となると、誤情報を流した者が気になるな」

 この発言が誰によるものか、それはこれまでのチャットを分析すれば自明だ。
 発言の前に表示されるアルファベット一文字。
 小湊るう子の発言はR、三好夏凜の発言がKということは、このアルファベットは名字ではなく名前のイニシャルだと分かる。
 そして、名前のイニシャルがDの参加者は一名だけ。

「DIO……か」

 DIOに関しての情報は、ホル・ホースから得ている。
 悪のカリスマと呼ぶべき存在で、ホル・ホースの『皇帝』のような、スタンドという能力を得ているらしい。
 スタンド能力を抜きにしても強く、かつ必ず殺し合いに乗る手合いなので、最優先で殺すべき。
 ホル・ホースは実に憎々しげにそう語っていた。

「搦め手も使える相手だったか」

 力で押すだけの相手であれば、悪魔の相手ではないと判断していた。
 しかし、こうしてホル・ホースの評判を下げる書き込みをしているあたり、頭も多少は回ることが分かる。
 対主催者や弱者は、まず安全策として徒党を組む。
 DIOはホル・ホースがそうした集団にいることを見越して、集団内での混乱を招くように仕向けたのだと予想できる。

「フフ、楽しみだ」

 参加者の数は減りつつある。
 DIOが強者で、殺し合いに乗っているというのなら、会いまみえるときも来るに違いない。
 そして、もし出会ったならば、激突は必至。
 それまでに、チャット上とはいえ接触をしておくのも悪くないか。

「チャットに反応するか否か……時間はまだあるな」

 アザゼルは、まだ見ぬ好敵手の姿を、チャットの文言の裏に想像した。
 そうして、何度目かになる愉悦の笑みを、その口に浮かべた。






 倉庫は窓がないためか、想像以上に暗い。
 これだけ暗ければ電灯は確実にあるだろうが、スイッチの場所も判然としない。
 そんな闇の中で、ウリスは身体をもぞもぞと動かしていた。

(それにしても、あの悪魔も詰めが甘いわね。
 支給品を全部没収されたらどうしようかと思っていたけれど、安心したわ)

 ウリスは、上着のポケットに入れていたカードを落とすことに成功した。
 それは、殺し合いの参加者に等しく配られた赤カード。
 縛られている後ろ手にカードを掴んだウリスは、脳内でステーキを思い浮かべた。
 出てきたのは鉄板に乗ったステーキと、食べるために必要なフォークとナイフ。
 熱された鉄板を触らないように気をつけながら、ナイフを手にする。

(さて、これでロープは切れるだろうけど……その後はどうしようかしら)

 支給品は戦闘には役に立たないものばかり、そもそもウリスではアザゼルに勝ち目はない。
 逆に考えれば、ここにいればアザゼルを倒せる敵でもいない限り安全だ。
 ゆっくりと逃げる算段を立てることができる。
 暗い倉庫の中、悪意は更に膨らんでいく。



【E-1/放送局/一日目・午後】

【アザゼル@神撃のバハムート GENESIS】
[状態]:ダメージ(中)、脇腹にダメージ(中)
[服装]:包帯ぐるぐる巻
[装備]:市販のカードデッキの片割れ@selector infected WIXOSS、ノートパソコン(セットアップ完了、バッテリー残量少し)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)
    黒カード:不明支給品0~1枚(確認済)、片太刀バサミ@キルラキル、弓矢(現地調達)
         市販のカードデッキ@selector infected WIXOSS、ナイフ(現地調達)、スタングローブ@デュラララ!!、スクーター@現実
[思考・行動]
基本方針:繭及びその背後にいるかもしれない者たちに借りを返す。
0:チャットのD(DIOと推測)に反応するか、否か。
1:三好…面白い奴だ。
2:借りを返すための準備をする。手段は選ばない
3:ファバロ、リタと今すぐ事を構える気はない。
4:繭らへ借りを返すために、邪魔となる殺し合いに乗った参加者を殺す。
5:繭の脅威を認識。
6:先の死体(新八、にこ)どもが撃ち落とされた可能性を考慮するならば、あまり上空への飛行は控えるべきか。
7:『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』……面白いことになりそうだ。
8:デュラハン(セルティ)への興味。
[備考]
※10話終了後。そのため、制限されているかは不明だが、元からの怪我や魔力の消費で現状本来よりは弱っている。
※繭の裏にベルゼビュート@神撃のバハムート GENESISがいると睨んでいますが、そうでない可能性も視野に入れました。
※繭とセレクターについて、タマとるう子から話を聞きました。
 何処まで聞いたかは後の話に準拠しますが、少なくとも夢限少女の真実については知っています。
※繭を倒す上で、ウィクロスによるバトルが重要なのではないか、との仮説を立てました。
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという情報(大嘘)を知りました。
※チャットの書き込みを(発言者:D)まで確認しました。


【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
[状態]:全身にダメージ(小)、左腕にヒビ、微熱(服薬済み)、魔力消費(微?)、体力消費(中)
[服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻 @キルラキル
[装備]:定春@銀魂、ホワイトホープ(タマのカードデッキ)@selector infected WIXOSS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(8/10)
    黒カード:黒のヘルメット、宮永咲の白カード、キャスターの白カード、花京院典明の白カード、ヴァローナの白カード
          風邪薬(2錠消費)@ご注文はうさぎですか?
[思考・行動]
基本方針:誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
0:この先、どうなるんだろう。
1:シャロさん、東郷さん………
2:夏凜さん、大丈夫かな……
3:遊月のことが気がかり。
4:魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
5:私は最低な人間……?
[備考]
※チャットの新たな書き込み(発言者:D)にはまだ気付いていません。


【浦添伊緒奈(ウリス)@selector infected WIXOSS】
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(中)、両手と両足を拘束中
[服装]:いつもの黒スーツ
[装備]:ナイフ@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(17/20)、青カード(17/20)、小湊るう子宛の手紙
    黒カード:うさぎになったバリスタ@ご注文はうさぎですか?、ボールペン@selector infected WIXOSS、レーザーポインター@現実
         宮永咲の不明支給品0~1(確認済、武器ではない)
[思考・行動]
基本方針:参加者たちの心を壊して勝ち残る。
0:今後の行動を考える。
1:使える手札を集める。様子を見て壊す。
2:"負の感情”を持った者は優先的に壊す。
3:使えないと判断した手札は殺すのも止む無し。
4:可能ならばスマホを奪い返し、力を使いこなせるようにしておきたい。
5:それまでは出来る限り、弱者相手の戦闘か狙撃による殺害を心がける
[備考]
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという嘘をチャットに流しました。
※変身した際はルリグの姿になります。その際、東郷のスマホに依存してカラーリングが青みがかっています。
※チャットの書き込み(3件目まで)を把握しました。


時系列順で読む


投下順で読む


166:飼い犬に手を噛まれる アザゼル 175:虚ろなる生者の嘆き:End in…?
166:飼い犬に手を噛まれる 小湊るう子 175:虚ろなる生者の嘆き:End in…?
166:飼い犬に手を噛まれる 浦添伊緒奈 175:虚ろなる生者の嘆き:End in…?