地獄が噴き出る時を待つ ◆eNKD8JkIOw


底は、地獄だった。

地の底、とでもいうべき世界だ。
天へと上ろうと羽ばたきながらも、白い少女の魔手により紙切れ一枚の中へと叩き落とされる『救われぬ魂』なき空間。
地上のそこかしこで頻発し、時には他者を巻き込み、時には周り一体を吹き飛ばすような『死』なる現象とは無縁の場所。
人の気配のない、自分を殺そうとする人殺しの気配のない、彼一人だけの世界だった。

だが、平和とは言い難い。
良い場所とは、とても言えない。

ヒトの血を求め人の嘆きを欲する鬼たちが闊歩するこの地は、この地下は、余人にはとても天国には見えまい。
怨嗟の声が木霊し、欺瞞の囁きが耳を腐し、狂信の贄を探す眼が光るこの地下通路は、誰が見ても楽園とは呼べまい。

だから。

地上と比較し死より遠く、危機より離れ、クリームのように甘っちょろい、殺し合いからもっとも程遠きこの隔地は。
しかして、地上でのうのうと生きる生者の足の下を這いずり、彼らを呑み込めぬことを歯ぎしりしながら耐えることしかできぬこの暗黒空間は。
言うならば。
地獄、と呼ぶべきだろう。


其処は、地獄だった。


「ド畜生がァッ!!!」


地獄で、鬼が、鳴いていた。
むんぎゅと握りしめ、思いっきり壁に叩きつける。

『これが若さか……』

それだけでは飽き足らず、踏みつける。蹴りつける。何度も、何度も。

『わしがあられもない姿に!?』

ふんッと気合を入れ、サッカーボールのように全力でシュート。
ひゅーんと飛んで行ったソレは地下通路の出口、登り階段の入り口にまでコロコロコロと転がっていった。

『こんな店二度と近づかん!』

「はぁ、はぁ、はぁ……」

そこでようやく一息を付き落ち着いたヴァニラ・アイスは、忌々し気に、自分が蹴り飛ばした『饅頭のようにまるっこいウサギ(?)のぬいぐるみ』を睨みつけた。
頭かどこやらかにスイッチがあったらしく、衝撃を与えるたびにわけのわからんセリフを並べ立てていたことさえも苛立たしい。
いや、そいつだけにではない。
彼はすべてに怒っていた。
彼はこの、およそ2エリア分の地下通路を渡って存在している『モンスター博物館』という見世物に激怒していた。

ああ、忌々しい。

忌々しい忌々しい忌々しい!

彼はこれまでの道程にて展示されていたモノたちを思い出し、ビキリと青筋を立てる。

喋る兎?
悪魔?
使役竜?
夜兎?
デュラハン?
海魔?
バーテックス?
バハムート?

なぜこんな下 等 生 物 どもと、我が主が。


DIO様がッ、同列にッ、扱われているッ!


数分、呼吸を落ち着かせる。
そこでようやく「はっ」と己の失態を自覚し、彼は慌てて佇まいを直した。
狂信者が目を向けるのは、一つの展示物。
先ほどまでの、獄炎が噴き出るのではないかと言わんばかりの赤黒い視線とは打って変わって、どこまでも、気持ちの悪いほど純粋な澄んだ瞳で。
ただ一つ信じるべき存在の生き写しを前にして。
『吸血鬼』
そう書かれた看板の後方にて自信満々に神々しい笑みを浮かべている『DIO様の等身大像』を崇めるように、膝をつく。

「大変、お見苦しいところをお見せいたしました……」

まるで本物に語りかけているようだった。
いや、彼にとっては、例え本物でなくとも、この像は尊ばれるべきものだった。
かつて、イギーとかいうクソ犬に「砂で作ったDIO様」を破壊させられたことを思い出す。
あの時の怒りは本物であり、すなわち例えDIO様ご本人にはあらずとも、この像は今ここに存在してるだけで、敬意を向けるべき存在。
例え、このヴァニラ・アイスを脳髄から蕩けさせるようなお言葉をかけてくださらなくとも。
例え、このヴァニラ・アイスの血と肉を沸き立たせる、素晴らしいご命令をしてくださらぬとも。
それでも、この世界に散らばっている恥知らずの虫どもよりも、いや、この自分よりも、当然のように『上』にあるものだった。
いわば、神を信じる者にとってのご神体のようなものだ。

だからこそ、許せない。
知性の欠片も感じさせない化け物どもと、DIO様が『まるで同列であるかのように飾られていること』が許せない。
いっそ、クリームでDIO様以外の全てを消滅させてやろうかとすら考えてしまう。
この通路にはモンスターを紹介するために手を変え品を変え色々なものが展示されていたが、DIO様に比べればゴミも同然だ。
ぬいぐるみも、写真も、絵も、落書きも、TVも、牙も、鱗も、爪も、棘も、首も、傘も、腕輪も、魔具も、剥製も、全てこの場には必要ない。

しかし、ヴァニラ・アイスは冷静だった。

我が愛しきDIO様のこととなれば一瞬でプッツンしてしまう性格ではあるが、それ以外に置いてこの男の冷静さ、冷徹さは、それこそ氷のごとしである。

「あまりやりすぎると、上に響く可能性がある」

流石に、今先ほどの『ちょっとした』制裁は大丈夫だろうが、これ以上の破壊は、それこそDIO様のためにはなるまい。
このヴァニラ・アイスがDIO様のために為せる最大の献身は、この地における他の参加者どもを駆逐しつくすこと。
そのためには、全てを捨てる。
己の怒りも、慢心も、全てこの胸の内に秘め、クレバーに動く必要がある。
クリームは強いが、無敵ではない。この地にはヴァニラ・アイスに土を付けられるやつらが何人もいるのだ。
そのためには、まず相手に存在を知られてはならぬ。
姿を隠し、最高の瞬間を見計らって一方的に相手を消滅させることこそが我が闘法。
考える時間は与えない。抵抗する時間など与えない。一切の慈悲なく暗黒空間に引きずり込む。

クリームの内部に入り、足音さえも立てずに空中を移動しながらそっと上階、映画館へと向かう。
地図に記載されているということは、それだけ参加者の目を引くということだ。
何者かがいる可能性は十分にある。
いや、それどころか、DIO様に逆らう愚か者どもの『拠点』となっている可能性さえあるのだ。
もしもそうなっていた場合、慎重にこの映画館の構造を把握し、万全の状態で殺し尽くす。
場合によっては地下に展示されていたものも使えるだろう。使えるものは何であろうと使う。

もしも、誰もいなかったら。
その時は、地下の滞在時間をリセットするために1時間の休憩をとった後、地下通路を使いホテルへと向かうことも検討にいれる。
この通路をまっすぐ歩き、施設→施設間を移動するのに必要な時間は凡そ2時間。
現在時刻は14時。1時間の休憩を取り、更に2時間歩き続ければ日が暮れる17時頃にはホテルに着ける計算だ。
映画館と同じく、ホテルも有象無象の雑魚どもが群れる可能性が十分にある建物である。
隠れる場所には事欠かぬだろうし、休憩に適したベッドやシャワールームもあるだろう。
また、こういったランドマークには人が集まりやすい。
殺し合いに乗らぬ者の人数が増えれば増えるほど、向こうが出来ることは増え、逆にこちらは手は出しにくくなる。
こういった施設を放置し、気付かぬうちに堅牢な『要塞』と化していた場合が一番厄介だ。
ヴァニラ・アイスの『クリーム』ならば、いかなる陣を敷いていても突破自体は出来るだろう。
しかし、広いということは、すなわち的が絞りづらいということ。
出来ればこちらの能力を知られる前に敵対者を一網打尽にしておきたい身としては、相手がどこにでも逃げられる大きな施設は、あまり好ましくはない。
2人の内1人を殺している間に、別方向に逃げた1人によってこちらの情報が他の参加者全員に伝わってしまっては、面倒なことになる。

それに、このゲームに反抗するものたちが『拠点』を作っている可能性を考えていくと、更に一つ、懸念事項が頭に浮かぶ。

「DIO様の館」

もしもかの地が、DIO様以外の何物かによって好き勝手に、我が物顔に『拠点』として弄繰り回されているとしたら。
断じて許せぬ。あれはDIO様の物。他の者が住み着くなど、吐き気がする。
だからこそホテルへ向かい、日が暮れたら近くにあるDIO様の館にも視察に赴き、出会った全ての参加者を殺し尽くす。
これが、ヴァニラ・アイスが地下通路を歩きながら建てた計画だった。

銀幕を身体に巻き、日が暮れる前に外に出ることも可能かもしれないが、この案は少しばかりリスクが大きい。
クリームの中に隠れ、外の様子を窺う際に銀幕で光を防ぐと、こちらの視界も制限されてしまうし。
もしも外に出て戦わざるを得なくなった場合には、銀幕を体に巻き付け戦うことはかなり動きが制限されてしまう。
更に、そんな恰好で戦っていては「銀幕を破られては困る事情がありますよ」と相手に教えてしまっているようなものだ。
吸血鬼であるという情報は、なるべく知られない方が都合がいい。
相手を知り、こちらを知らせず、一方的に殺すことを心掛ける必要がある。

だが、こちらが教えずとも、相手が既に自分のことを知っている可能性も考慮に入れて動く必要もある。

「先ほどの放送により、ポルナレフは間違いなく死んだ」

あの、DIO様へと叛意を向け自分を一度殺しさえした憎き男スタンド使いは、死んだ。
ざまあみろ、だ。花京院もこのヴァニラ・アイスの手で抹殺できたことだし、残るは空条承太郎のみ。
清々しい気分に浸っていた2時間前を思い出し、少し良い気分にもなる。

「が」

ポルナレフは第二回放送で死が伝えられた。
それは裏を返せば、こちらの情報をすべて持っているだろう憎き仇が、少なくとも「午前6時までは」間違いなく生き残っていたことを意味する。
その間に、ゴミどもとつるんでヴァニラ・アイスと『クリーム』の情報を拡散している可能性は高い。
また、放送局での戦いを生き延びたチャイナ服の女と爆発頭の男、このヴァニラ・アイスを虚仮にした白服の女も、既にこちらのスタンドの性能を知っている。
これまで以上に、万全を期して動く必要がある。

「……もしも映画館に誰もいない場合、休憩中に『クリーム』の制限を知っておくべきか」

虫どもを抹殺することは当然大切だが、こちらにかけられた枷を知ることも、DIO様のために動くためには必要だ。
いざという時に自分の思い通りに動けず、DIO様のお手を煩わせることになっては目も当てられぬ。


「さて……」


男は様々な思惑を抱えながら、上階へと向かっていく。
今は派手には動かない。殺せる時には殺すが、無理に地上を出歩くことはしない。

しかし。しかし、だ。
残り数時間で日は暮れ、夕焼けが光り、その後には闇が世界を覆うだろう。
太陽は去り、月明りがか細くヒトを見守るだろう。

そうして。


「ポルナレフよ、貴様は私が死ぬ直前に『地獄でやってろ』と抜かしたな」


夜が来る。


「ああ、やってやるとも」


吸血鬼たちの時間が来る。


「ただし、貴様ら全員、道連れだ」


地獄が噴き出る、時が迫る。


「DIO様のために尽く地獄へ落ちろ、塵芥共」



【G-6/映画館地下/一日目・日中】

【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:ダメージ(小) 、疲労(小)
[服装]:普段通り
[装備]:範馬勇次郎の右腕(腕輪付き)、ブローニングM2キャリバー(68/650)@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:双眼鏡@現実、不明支給品0~1(確認済、武器ではない)、範馬勇次郎の不明支給品0~1枚(確認済)、ブローニングM2キャリバー予備弾倉(650/650)
[思考・行動]
基本方針:DIO様以外の参加者を皆殺しにする
   1:映画館内部を探索。誰かいれば殺す。いなければ一時間の休憩と制限の確認。
   2:その後はホテルへ向かい、DIO様の館にも赴く。
3:日差しを避ける方法も出来れば探りたいが、日中に無理に外は出歩かない。
4:自分の能力を知っている可能性のある者を優先的に排除。
   5:承太郎は見つけ次第排除。
   6:白い服の餓鬼(纏流子)はいずれ必ず殺す
[備考]
※死亡後からの参戦です
※腕輪を暗黒空間に飲み込めないことに気付きました
※スタンドに制限がかけられていることに気付きました
※第一回放送を聞き流しました
 どの程度情報を得れたかは、後続の書き手さんにお任せします
※暗黒空間内に潜れる制限時間については後の書き手さんにお任せします。



【施設情報・地下通路】
「放送局」⇔「映画館」の間、「F-5」~「G-6」付近には『モンスター博物館』があります。
参戦作品における人外の様々な展示物が置かれています。


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146:退行/前進 ヴァニラ・アイス 172:Ice Ice Vampire