足りない箇所をただ埋め合うように ◆Oe2sr89X.U


 午後のラビットハウスに、ある放送が響いた。
 今度は危険人物ではなく、三好夏凛という"乗っていない"参加者によるものだった。
 目的は人探しと、特定人物への警告。
 特に前者は、紅林遊月の名も挙げられており、一行にとって無関係とはとても言いがたい内容であった。
 時が止まったように安穏とした時間が流れるこの場所を置いて、殺し合いは徐々に加速しつつあると、そう感じずにはいられない――そのことに歯噛みしたのは、一人や二人ではなかった。



    ◆    ◆    ◇    ◇    ◇    ◇



 ――二階より所変わって、ラビットハウス、一階。

「安全地帯だな、まるで」

 各々が恐怖と不安の中で迎えた殺し合いの始まりから、既に半日以上の時間が経過していた。
 先行きの暗さを暗示するような夜闇はとうに晴れ、今や時計の針は二時の時字を指している。
 針目縫の襲撃以来ラビットハウスの扉は他の誰にも開かれることなく、珈琲の香りがする店内では、殺し合いの舞台の一箇所であるなどと到底信じられないような安穏とした時間が流れている。
 木組みの家が立ち並ぶ街から抜き出された喫茶店なだけはあり、人の心を安らげることについてで言えば、このラビットハウスに優る建物は会場に存在しないだろう。
 多くの参加者が目指しては夢半ばに力尽きた兎の巣を拠点とした六人の平和が脅かされる気配は、未だない。
 数分前に午後二時を告げる時計の音色を聞いた風見雄二など、思わずこのようにこぼしてしまった程だ。

「……今のところは、だがな。針目の野郎にはこの場所は割れているだろうし、他の危ねえ奴らが此処を目指さないとも限らねえ。何せご丁寧に、地図には『ラビットハウス』とキッチリ書いてあるんだからよ」
「そうだな。それに安全だってことは、裏を返せば進みも戻りもしていないってことだ」

 不良らしく足を組んで椅子へ豪快に凭れた承太郎は、その体格と強面のお陰でちっとも若気の至りを感じさせない。
 まるで同じ机を囲って向き合っている雄二が恐喝を受けているような、そういう風にも受け取れる絵面であった。
 彼らから少し離れた場所では僧衣の偉丈夫、言峰綺礼が佇んでいた。承太郎達は各々青カードから取り出した飲み物を呑んでいたが、言峰は何も飲食していない。
 不幸な遭遇が重なり、自覚させられるに至った自身の"性(サガ)"。
 敬虔な聖職者のつもりだったろう彼にしてみれば、それは大きな衝撃だったことだろう。言うべきことは既に言ってあるから、二人共今の言峰に要らない声をかけるような真似はせずにいた。
 雄二はそれから目線を動かし、今度は向い合って談笑している少女達の方を見る。その時彼の表情がやや翳りを帯びたのは、気のせいではない。

 香風智乃と向き合って談笑している紅林遊月は、"ココアさん"と呼ばれていた。
 くればやし、という苗字も、ゆづき、という名前も、どこをどう捻っても"ココア"にならないのは明白だ。
 最初に事態に気付いた雄二は既にこの状況に順応していたが、予想外なのは当の遊月がいつの間にか乗り気になってしまっていることだった。
 雄二が智乃を任せた時、明らかに遊月は難色を示していた。智乃へ苦手意識を持ってすらいた筈だ。
 だが今はどうだ。遊月は智乃に話を合わせてやるどころか、自分から話題を振って『保登心愛』の人となりを出来る限り理解しようとしているようにさえ見える。

「……風見」
「すまない。それについて触れるのは、まだ控えてやってくれ」
「…………」

 これは雄二にしても全く不明な事態だった。こう言っては失礼だが、遊月は智乃を突き放すかもしれないとすら、雄二は先程まで思っていたのだ。
 言峰と同じように一人で居る理世も、見れば明らかに動揺を示している。
 幸いなのは、最もこの手の事態に年頃らしい反応を返してしまうであろう遊月が今回は当の本人であることだろうか――それでも、良い兆候とは決して言えないだろうことは確かだ。
 強いショックが人の精神を破壊し、重篤な精神異常を引き起こしたという例は確かに存在する。
 だがそれはあくまでもレアケース。大概の場合、この手の症状は認識の改善で晴れる一時的な現実逃避の一形態でしかない。そして智乃のものも恐らくそれだろうと雄二は踏んでいた。いや、今もそう思っている。
 だから遊月には少しの間だけ智乃を任せ、症状が晴れるまで待とうと考えた訳だったが……その結果がこれだ。
 香風智乃の現実逃避が生み出した、『保登心愛』という今となってはありえざる存在が、紅林遊月の同調によって明確に形を結び始めている。これは、良くない兆候だ。

「……だったらてめーが面倒を見ておくんだな。俺がうっかり怒鳴り付けたりしないようによ」
「分かっている。お前の療治が荒いのは、此処まで過ごしてよく理解しているからな」

 承太郎は何も、傷付いた少女に八つ当たりのような形で鞭を打ちたい訳ではない。
 訳ではないが、現状を憂えばこそ、激情を露わにして智乃と遊月に接してしまう懸念があった。
 彼がもう十年も人生経験を重ねていたならば、思うところはあれども合わせられたろう。しかし空条承太郎は、こんな成りをしていても高校生だ。まだ子供と呼んで差し支えのない年齢なのだ。
 要は承太郎は、この手のことに関しては不器用な男なのである。
 神父である言峰があの様子なのだし、尚更自分がこの五人を纏め上げねばならないな――そんな風に風見は強く思った。彼ら、彼女らの命運を握っているのは自分だと言っても、全くの誤りではないだろう。

「話を戻す。此処は確かに快適な場所だが、俺達にはやらねばならないことがまだ山積みだ。探さねばならない人間も居る。承太郎と言峰の体力も、もう大分充足しているだろう。
 ……それに何より、先の放送が気になる。
 ――言峰、チノ、遊月、リゼもだ。全員聞いてくれ。そろそろ、此処を出ようと思う」

 ラビットハウスに辿り着くまでの間に起こった戦いで、雄二以上の戦闘要員である二人は少なくない疲弊を負った。
 こうして長い休憩を取っていたのは、元々彼らの体力を回復させるためだったのだ。
 そしてその目的は既に果たされた。軽微な疲労は残っているかもしれないが、後は歩いているだけでも十分クールダウンできる程度のものだろう。
 そう来ればいよいよ、動かねばならない時が来たと言わざるを得ない。ラビットハウスという安全地帯を捨て、再び心休まることのない殺し合いの舞台へと上らねばならない。
 暖かくて落ち着く兎の巣から巣立たなければならない。

「それは……全員で、ってことでいいんだよな?」

 理世がそう問いかけてから、一瞬だけ智乃達の方へとその視線を向けたのを、雄二は見逃さなかった。

「そうなる。戦力を分散して何人かは残り、何人かを外に出すことも考えたが、少なくとも針目縫という危険人物にはこの場所は割れているんだ。奴が戻ってこないとも限らないからな」
「……なるほどな」

 ラビットハウスに色濃く残された破壊の跡を見て、その方針に異を唱えられる人間はいなかった。
 承太郎、言峰、雄二の三人がかりでさえしてやられた針目縫。彼女や、そうでなくとも殺し合いに乗った人間が一人やって来るだけでも、非戦闘員だけ残したのでは十分全滅に繋がる。
 犠牲など、一人も出さないに越したことはないのだ。その点で一番理に適っているのは、やはり全員で行動することだと雄二は考える。

「目下の目標はリゼとチノの友人、宇治松千夜の保護。一条蛍についても然りだ。
 それと並行して、対主催派だと分かっている参加者にも積極的に接触、あるいは再会していきたいところだな――チノ、リゼ。一応聞いておくが、此処に端末やパソコンといった道具は?」

 千夜、という名前が出た時に理世と智乃はやはり反応した。

「ん……多分、無いと思う。少なくとも私は見たことがないな」
「となると、まずは手近なゲームセンター辺りにその手の物がないかを調べてみるべきだな。それで駄目なようなら、こちらも放送局へと向かってみよう。
 もしタイミング悪く三好夏凛に会えなくても、その時は放送で連絡する手がある」

 智乃は心配そうにしていたが、理世の顔には安堵の色が浮いている。彼女がずっと、今となっては唯一安否の知れない友人である千夜に会いたいと望んでいたのは伝わっていた。
 いつ一人でもいいから探しに行くなどと言い出さないか、内心冷や冷やしていたほどだ。

「言峰も、それでいいか」
「ああ。私は構わない」

 そう言って、歪みを抱えた神父は頷く。
 彼の内心が複雑に怪奇しているだろうことは察せられたが、それでも種子が芽吹くより先に手を打てたのは不幸中の幸いだったと、そう言う他ない。
 言峰ほどの実力者がその願望を実現させるべく蛮行に出たならと考えると、流石に背筋の冷えるものがある。
 彼はこのメンバーの中では、承太郎と並ぶかその上を行く程の重要な戦力なのだ。闇の誘惑を跳ね除け、迷いを晴らし、敬虔な聖職者として力を貸してくれたならこれ以上心強いものもない。
 承太郎は何も口にしていないが、異論を今まで口にしていないということは、賛成と言うことで間違いあるまい。
 第一彼は、此処で分散をしたいなどと言い出す人物ではないとも思えた。だから後は、二人だ。

「……遊月とチノはどうだ?」

 理世が緊張しているのが分かる。彼女はこの場の誰よりも、智乃にとってラビットハウスが大切な場所かを理解していた。生まれ育った家であり、後には継ぐことになるかもしれない喫茶店。
 殺し合いが始まってからもずっと包み込んでくれていた優しい巣から、出る覚悟があるかどうか。
 こればかりは、彼女が自ら答えを口にしてくれないことには分からない。

「……私も、それでいいです」
「そうか。それなら……」

 しかし意外にも、智乃はすぐに頷いた。
 自分の生まれ育った店を離れるのに不安はあるようだったが、彼女も雄二の言っている意図はしっかり理解しているのだろう。
 それに千夜を探し、合流したいというのは彼女も同じだ。
 香風智乃にとって大切な人とは、何も保登心愛だけではない。此処に居る天々座理世もそうであるし、宇治松千夜だって言うまでもなく大切な友人である。
 不安ではあるし怖くもあるが、それは自己保身を優先して、友人を見捨てる理由にはならない。そう分かっているからこそ、智乃も"巣立ち"に同意した。
 遊月の方も、特に異論はないようだ。それなら早速荷物を纏め、この場所を出よう。雄二は皆にそう呼びかけたが、そこで遠慮がちに智乃が手を上げた。

「あの……最後に、一つだけ……やっておきたいことがあるんですけど、いいでしょうか」


    ◇    ◇


 智乃のやっておきたいこととは、別に我が儘と呼べるようなものでもなかった。
 荒れ果て、壊され、滅茶苦茶になった店内を少しでいいので片付けてから行きたい。遠慮がちに、申し訳なさそうに俯きながら言う智乃の表情には明らかな疲れが見て取れた。
 元々このラビットハウスは、智乃のものと言ってもいい店だ。
 彼女が少しでも店を片付け、見栄えよくしてから発ちたいと言うのだから、それに異を唱えるものはいなかった。
 壊れたテーブルや調度品を脇に寄せ、重い物は男衆が担当する。何も本格的に大掃除をやろうと言うわけではないのだから、然程時間を食われる作業ではない。
 承太郎と言峰の体力も十分に癒えていたため、むしろ準備運動のような効果を生んでくれた。
 時間にして十分前後かけて行った片付けは早くも終盤に差し掛かり、後は小物や飛び出た食器を片付ける作業のみになっていた。こちらは力が要らないので、女衆が担当している。

「言峰。此処を出る前に、途中だった魔術についての話を聞かせてもらってもいいか」
「構わない」

 雄二が言峰へ示したのは、智乃の部屋に放置されていた書きかけの魔術に関するメモだ。
 本当はもっと早く済ませてしまうつもりだったのだが、色々なことが重なった結果、結局今の今までズルズルと先延ばしにされてしまっていたのだ。
 言峰にも心境を整理する時間が必要だろうと思い、雄二は今まで話を振らずにいた。
 全て解決されたとはとても思えないが、歩きながら話すのと止まって話すのではやはり頭への入り方が違う。

 語り始める言峰の声へ耳を傾け、魔術という未知についての知識を吸収しながら、ふと雄二は辺りに承太郎の姿がないことに気が付いた。
 ……何処へ向かったのかは、察しがつく。彼なりに、最後の別れを済ませるつもりなのだろう。
 そうと分かれば思考を切り替え、言峰の話を聞くことに全神経を集中させる。風見雄二は混迷化を極めつつある殺し合いの中においても、変わることなく優秀であった。


    ◇


 ラビットハウス、二階。その部屋には安らかな、二度と覚めることのない眠りに就いている騎士の姿があった。
 ジャン=ピエール・ポルナレフ。かつて志を同じくし、エジプトで待つ邪悪を討つべく旅を共にした仲間だ。
 あの愉快な人となりや馬鹿な発言も、勇猛な戦いぶりも、もう二度と目にすることは出来ないだろう。
 体に痛々しく残された深い傷跡が、ポルナレフの命がその体から抜け出てしまっていることを如実に物語っていた。
 承太郎は既に死後硬直が起こって固まっている友の亡骸を見下ろし、無表情でその姿を目に焼き付ける。
 涙を流して死を惜しむことはしない。それを非情と謗る者があったなら、それは空条承太郎という人間のことを何も知らない人物だ。
 彼は表にこそそれを出さないが、その胸に熱いものを抱えている。祖父のジョセフや、因縁の始まりを担ったジョナサンのような気高く燃える精神は今も翳ることなく健在だ。

 ポルナレフは大切な妹を、一人の悪鬼に奪われた過去を持つ。妹を殺した野郎に報いを与えなければ気が済まないと憤っていた彼の思いが天に届いたのか、彼の刃は仇を地獄へと叩き落とした。
 最大の目的を果たした彼には今後、様々な人生が、未来が約束されていた筈なのだ。
 仇を取って終わりでもなければDIOを倒して終わりでもなく、その先にこそジャン=ピエール・ポルナレフという一個人の人生が待っている筈だった。
 しかしポルナレフは、殺された。道化師のようなおどけた顔で笑う殺人鬼の凶器に貫かれ、命を落とした。

 彼だけではない。この十四時間の間で、何十人もの未来と命が奪われた。
 繭という自分勝手な人間の道楽のために、彼らは悲劇と惨劇を演じねばならなかった。
 そして、これからも。そう考えただけで胸糞が悪くなり、承太郎の顔付きは自然と険しくなっていく。

「……ゆっくり休みな」

 最後にそうとだけ言い残せば帽子を深くかぶり直し、承太郎は踵を返した。それ以上語ることはない。いちいち言葉に出さずとも、承太郎は自分のやるべきことをちゃんと理解している。
 DIOを倒す。針目も倒す。そして、繭を完膚なきまでにぶちのめす。
 いつだって悪行には然るべき報いが用意されているものだ。そして奴らのような悪人がそれを受けずに勝ち逃げすることなど、承太郎は許さない。
 決意新たに、星の白金(スタープラチナ)の少年は出発の準備を真の意味で完了させた。


    ◆    ◆    ◇


 荒れ果て、壊され、変わり果てた姿を晒していたラビットハウスの店内はかなり殺風景になってしまった。
 壊れた机や椅子、調度品の類を片っ端から片付けたのだから無理もない。少なくともこれで喫茶店を名乗るのはかなり厳しいものがあるだろう。
 それでも、片付ける前のラビットハウスにあった生々しい無残さはかなり軽減されたように思えた。
 割れた窓ガラスまではどうしようもないが、散らばったガラス片を隅に退けただけでもこれほど印象が変わる。掃除するという行為の効果は、衛生面でなく見た目を通じて住まう者の精神面にも作用するのだ。
 出来ればもっと腰を入れて片付けたいところだったが、流石にそこまでの我が儘を言う訳にはいかない。
 十数分の短い時間で、出来る限りのことをした。……これからしばらくのお別れになる。次に来た時にも、ラビットハウスは変わらない香りで智乃を出迎えてくれるだろうか。

「こんなもんかな、チノ?」
「はい、ありがとうございます、ココアさんにリゼさん。私の我が儘に付き合わせてしまってすみません」
「いや……問題ないさ。私もこの店の従業員だからな。店の掃除は基本だ」

 細かなものの片付けを手伝ってくれた理世と遊月に智乃が小さく頭を下げる。ただでさえ小さな智乃が申し訳なさそうにしていると、余計に小さな子供に見えてくる。
 理世としても、ラビットハウスをあの状態で後にするのは居心地の悪さがあった。
 智乃と心愛のように住み込んでいる訳でこそないが、あの喫茶店があったからこそ皆で集まったり遊んだり出来た。ラビットハウスのない生活など、今となっては考えられないほどだ。
 もし智乃が提案しなかったら、理世がしていたかもしれない。ラビットハウスを片付けよう、と。

 言峰と雄二は目立った仕事を終えるなり何やら話し込んでいたが、それももう終わりへ差し掛かっているようだ。
 一時は姿が見えなくなっていた承太郎も戻ってきて、いよいよ巣立ちの時は秒読み段階にまで迫っている。
 智乃も理世も名残惜しく思う気持ちはあったが、この場所を今は離れなければならないのだと理解していた。
 だから、一旦はさよならだ。次に戻ってこれるのがいつかは分からないが、皆で戻ってこよう。もう誰も欠けることのないようにと、理世は強く、強く祈る。
 もうあの日常から、二人も人が消えてしまった。心愛と紗路が死んで、その喪失感は今も穴のようになって胸に残っている。これ以上、誰も失いたくはない。

「最後に、忘れ物がないか見てきます」
「……あ、待って。私も行くよ」

 歩き出した智乃の後を追って、遊月も二階へと付いて行く。それを見送って、理世は一人溜息をついた。
 遊月は智乃に合わせてくれている。智乃もきっと、いつまでもあのままではないだろう。 
 香風智乃という少女は、ああ見えてしっかり者の強い子だ。やがては心愛の死を正しく理解して現実と向き合い、ちゃんと乗り越えられる――"はずだ"。
 そう分かっているのに、不安が拭えないのは何故だろう。原因が何かは、考えるまでもなかった。
 遊月。内心理世は、彼女が智乃と不和を起こすのではないかと心配さえしていた。だが今の二人はまるで姉妹のように仲良くしており、遊月の態度も嫌々といった様子には見えない。

「なるようになれば、いいんだけどな……」

 理世はただ祈ることしかできない。通い慣れたラビットハウスの木壁を撫でて、今後の幸運を祈るしかできない。


    ◆    ◆


「よし、忘れ物は特にないみたいだね」

 部屋の最終確認を終えて、智乃と遊月の二人も出発準備をすっかり整え終えていた。
 もしも支給品やカードを置き忘れていたら一大事だったが、特にそういったハプニングもなく。下階に戻って雄二たちに出発しても大丈夫な旨を伝えればすぐにでも出発できる状態だ。
 予感で今後の命運を感じ取る、そんな漫画のような力を遊月は持っていない。
 雄二は頼れるし、承太郎と言峰は百人力と言ってもいいほど強い人達だ。彼らが三人揃って敵わない相手など、普通はまずいないに違いない。
 しかし、この会場にはそういう存在が居る。あの針目縫のような化け物じみた参加者が、まだ他にもうろついている可能性だってあるのだ。
 殺し合いをどうにかするには必ず、そいつらへ対処しなければならない時が来る。勝手に潰し合って野垂れ死んでくれでもしない限りは、必ず。

「……戻って、来られるでしょうか。皆で、この場所に」

 状況は一人だけだった頃よりも、確かに幾らか好転した。ただ、やはり根本的な部分は何も変わっちゃいない。
 繭のことも、乗った連中のことも、今のままでどうにかできるかと言われれば怪しいものがある。遊月の不安は未だに晴れないまま、どんよりとした暗雲のように立ち込め続けていた。
 ――ただ。そんな彼女にも一つだけ変わったことがある。不安げに生まれ育った家を、部屋を、店を見つめる少女の弱さから学んだことがある。

「大丈夫だよ。……って言っても、確証なんてないけどさ。それでもきっと、私達は此処に帰ってこれる」

 辛いのは、自分だけではないのだ。
 誰もが不安と恐怖を抱えて、感情を爆発させそうになりながら生きている。もっと早くそのことに気付けたなら、この会場で起こしたトラブルは未然に防げたのではないかと、遊月はそう思う。
 今からでも、決して遅くはない。せめて任されたことだけは全うしようと、心に強く誓った。
 自分は保登心愛を演じる。事情を知った者には茶番と呼ばれて然るべきだろう偽りの関係を続ける。
 そうしている間は、いつもより強い自分になれる気がしたから。

「――いっしょに、帰るんでしょ?」

 あるいは。

 ――――紅林遊月もまた、香風智乃という偽りの妹を、拠り所とし始めているのかもしれなかった。


    ◆    ◆    ◇    ◇    ◇    ◇


 そうして彼らは巣立っていく。
 兎の巣を出て、優しさのない大地に。
 また必ず帰ってこようとそう誓い、歩いて行く。


    ◆    ◆    ◇    ◇    ◇    ◇


【G-7/ラビットハウス/一日目・午後】
【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康、現実逃避、遊月への依存
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(9/10)
   黒カード:果物ナイフ@現実、救急箱(現地調達)、チャンピオンベルト@グラップラー刃牙、グロック17@Fate/Zero
[思考・行動]
基本方針:皆で帰りたい……けど。
   0:千夜さんに会いたい
   1:"ココアさん"と……
[備考]
※参戦時期は12羽終了後からです。
※空条承太郎、一条蛍、衛宮切嗣、折原臨也、風見雄二、紅林遊月、言峰綺礼と情報交換しました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。

※紅林遊月の声が保登心愛に少し似ていると感じました。
※紅林遊月を保登心愛として接しています。



【天々座理世@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康、精神的疲労(中)
[服装]:メイド服・暴徒鎮圧用「アサルト」@グリザイアの果実シリーズ
[装備]:ベレッタM92@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品0枚
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
     0:……しっかりしないと。
     1:外部との連絡手段と腕輪を外す方法も見つけたい
     2:平和島静雄、DIO、針目縫を警戒
     3:チノと遊月が心配
[備考]
※参戦時期は10羽以前。
※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛、空条承太郎、一条蛍、香風智乃、紅林遊月、言峰綺礼と情報交換しました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。


【紅林遊月@selector infected WIXOSS】
[状態]:口元に縫い合わされた跡、決意、強い不安、チノへのシンパシーと軽度の依存心
[服装]:天々座理世の喫茶店の制服(現地調達)
[装備]:令呪(残り3画)@Fate/Zero、超硬化生命繊維の付け爪@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(18/20)、青カード(19/20)
黒カード:ブルーアプリ(ピルルクのカードデッキ)@selector infected WIXOSS
[思考・行動]
基本方針:叶えたい願いはあるけれど、殺し合いはしたくない
   0:ラビットハウスを出、まずはゲームセンターへ向かう
   1:シャロ……。
   2:るう子には会いたいけど、友達をやめたこともあるので分からない……。
   3:衛宮切嗣、針目縫を警戒。
   4:“保登心愛”としてチノと接する。今は、まだ。
[備考]
※参戦時期は「selector infected WIXOSS」の8話、夢幻少女になる以前です
※香風智乃、風見雄二、言峰綺礼と情報交換をしました。
※ピルルクの「ピーピング・アナライズ」は(何らかの魔力供給を受けない限り)チャージするのに3時間かかります。

※チノの『演技』に気付きましたが、誰にも話すつもりはありません。
※チノへの好感情、依存心は徐々に強まりつつあります

【風見雄二@グリザイアの果実シリーズ】
[状態]:右肩に切り傷、全身に小さな切り傷(処置済)
[服装]:美浜学園の制服
[装備]:キャリコM950(残弾半分以下)@Fate/Zero、アゾット剣@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
   黒カード:マグロマンのぬいぐるみ@グリザイアの果実シリーズ、腕輪発見機@現実、歩狩汗@銀魂×2
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
     0:ゲームセンターへ向かう
     1:天々座理世、香風智乃、紅林遊月を護衛。3人の意思に従う。
     2:宇治松千夜、一条蛍の保護。
     3:外部と連絡をとるための通信機器と白のカードの封印効果を無効化した上で腕輪を外す方法を探す
     4:非科学能力(魔術など)保有者が腕輪解除の鍵になる可能性があると判断、同時に警戒
     5:ステルスマーダーを警戒
     6:平和島静雄、衛宮切嗣、DIO、針目縫を警戒
     7:香風と遊月は――
     8:言峰には注意をする
[備考]
※アニメ版グリザイアの果実終了後からの参戦。
※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛、空条承太郎、紅林遊月、言峰綺礼と情報交換しました。
※キャスターの声がヒース・オスロに、繭の声が天々座理世に似ていると感じました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。
※言峰から魔術についてのおおまかな概要を聞きました
[雄二の考察まとめ]
※繭には、殺し合いを隠蔽する技術を提供した、協力者がいる。
※殺し合いを隠蔽する装置が、この島のどこかにある。それを破壊すれば外部と連絡が取れる。


【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康、胸に刀傷(中、処置済)、全身に小さな切り傷
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)、噛み煙草(現地調達品)
[思考・行動]
基本方針:脱出狙い。DIOも倒す。
   1:動く。
   2:平和島静雄と会い、直接話をしたい。
   3:静雄が本当に殺し合いに乗っていたなら、その時はきっちりこの手でブチのめす。
   4:言峰には注意をする。だが、追い出したりするつもりはない
[備考]
※少なくともホル・ホースの名前を知った後から参戦。
※折原臨也、一条蛍、香風智乃、衛宮切嗣、天々座理世、風見雄二、言峰綺礼と情報交換しました(蟇郡苛とはまだ詳しい情報交換をしていません)
※龍(バハムート)を繭のスタンドかもしれないと考えています。
※風見雄二から、歴史上の「ジル・ド・レェ」についての知識を得ました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。



【言峰綺礼@Fate/Zero】
[状態]:健康、全身に小さな切り傷
[服装]:僧衣
[装備]:神威の車輪(片方の牛が死亡)@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(18/20)、青カード(17/20)
黒カード:不明支給品0~1、各種雑貨(ショッピングモールで調達)、不明支給品0~3(ポルナレフの分)、スパウザー@銀魂
    不明支給品1枚(希の分)、不明支給品2枚(ことりの分、確認済み)、雄二のメモ
[思考・行動]
基本方針:早急な脱出を。戦闘は避けるが、仕方が無い場合は排除する。
   1:雄二の方針に従って動く。
   2:DIOの言葉への興味&嫌悪。
   3:希への無意識の関心。
   4:私の、願望……。
   5:自分の処遇は承太郎と雄二に任せる。集団を追い出されるならば、それもやむなしか。
   6:私は……


[全体備考]
※針目縫が落とした持ち物は、風見雄二と紅林遊月が回収しました。
※ポルナレフの遺体は、ラビットハウス二階の部屋に安置されています。
※ポルナレフの支給品及び持ち物は、言峰綺礼が全て回収しました。まだ確認していないものもあります。
※神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)は、二頭のうち片方の牛が死んだことで、若干スピードと火力が下がりました。
※ラビットハウスの内装は軽くではありますが、掃除されて綺麗になりました。
※ラビットハウスに端末、PCといった道具は無いようです。


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投下順で読む


160:夢の跡、帰れない思い出の城 香風智乃 168:妹(前編)
160:夢の跡、帰れない思い出の城 天々座理世 168:妹(前編)
160:夢の跡、帰れない思い出の城 紅林遊月 168:妹(前編)
160:夢の跡、帰れない思い出の城 風見雄二 168:妹(前編)
160:夢の跡、帰れない思い出の城 空条承太郎 168:妹(前編)
160:夢の跡、帰れない思い出の城 言峰綺礼 168:妹(前編)